Side:サイファー


ふむ……野良感染者共の動きが、目に見えて落ちて来た――と言うよりも、如何やら正気を取り戻し始めたようだな?
と言う事はつまり、ルナ達が、アノ薄ら笑いのクソ眉毛を滅した……或は、支配の力を行使できない位にフルボッコにしたと言うのは、先ず間違いないだろう。

まぁ、分かり切って居た結果とは言え、此処まで予想通りだと、ヴァンデインのアホにある種の同情を覚えるな。

力を手にし、絶対的な存在となったと思ったら、実は其れを遥かに凌駕する存在が居たのだからな……マッタク、奴からしたら笑えない事態だったろうよ。



――いや、そもそも白夜の聖王と、月の祝福に盾突いたその時に、アイツの命運は尽きていたのだろうな。



死んでしまったか、其れともしぶとく生きているかは知らんが、お前には希望は無いと知れヴァンデイン。
どんな道を歩もうとも、貴様の魂魄が行き着く先は、1億年続く苦しみを1億回くり返す、地獄の深淵であることは、恐らく間違いないだろうからな。



マッタク、力に飲まれた邪悪な人間ほど苦難の中で死に、死後も苦難を受けるか……実に憐れな事この上ない。
まぁ、貴様にはお似合いの幕引きとエピローグかも知れんがな。












魔法戦記リリカルなのは~月の祝福と白夜の聖王~ Force50
『原初の種の枯れる時』











Side:ルナ


「ぐぅ……馬鹿な……こんな事が、こんな事がある筈が!!!」


やれやれ、アレを喰らってもまだ生きているとは、正直本気で凄まじいまでの生命力だなヴァンデインよ?――普通なら欠片すら残さずに吹き飛んでるぞ。
まぁ、だからと言って今からお前がどうこうという事もないだろうがな?

下半身は吹き飛び、右腕も無く、上半身も胸から上が残っているだけと言う状態では、幾ら何でも戦う事など不可能だろう?


「そう思うかい?
 確かに、凄まじいまでのダメージは受けたが、エクリプスドライバーとして、原初の種の所持者として、この程度のダメージは回復する事が可能なのだよ!」

「……果たして、其れは如何だろうな?」

「なに!?」


――シーン……



「んな!?何故再生しない!!
 私ならば、この状態から完全な姿に再生する事は造作もない事の筈なのに……何故、身体が再生しないんだ!?」


ふ、簡単な答えだよヴァンデイン。
今のスターライトブレイカーには、炎熱と轟雷と腐敗の効果も付与させて貰った――其れだけの事だ。

如何にエクリプスの頂点とも言うべき『原初の種』の所持者であっても、身体の耐久値を遥かに上回る攻撃を喰らい、更に吹き飛ばされた部分が焼け、腐敗
し、更には雷で生きている細胞が麻痺している状態では再生など出来る筈もないだろう?

まぁ、何れ麻痺が解ければ再生してしまうだろうが、私の雷は雷華の雷を白夜の管制騎権限でコピーした物だ。
隙やら何やらは度外視して、破壊力と派手さをトコトン突き詰めた雷華の雷だ、コピーとは言えあと30分は麻痺が治らないと思っておいた方が良いぞ。


「く………この私が、こんな所で。」



――ヴォン



『あら?もう終わってしまいましたのルナお姉さま、なのはお姉さま?
 まぁ、お姉さま方とあの眉毛の戦闘力の差を考えれば、当然かもしれませんわね?所詮はドラゴンvsオオトカゲの戦い――勝負になる筈がないですわ。』


「クアットロ……如何したの?
 もう決着はついた様なモノだけど、まだヴァンデインは生きてるから、トドメを刺さなくちゃいけないんだけど……」

『あら?まだ生きてますの、腐れ眉毛の分際で?
 ……でもまぁ、死の間際に己の愚かさと、思慮の浅さと、この上ない絶望を味わってもらうと言うのも悪くありませんわねぇ?』



お前と言うやつは……私もなのはも、敵には容赦しないタイプだが、お前は敵対者に対してはトコトン『弩S』になるなクアットロよ?
何と言うか、画面越しに見えるお前の顔が、深夜帯でなければ放送する事が出来ないレベルのサディスティック・フェイスになっているぞマッタク………

それで、コイツに絶望やら何やらを味わわせるとは、何か面白いものでも見つけたのか?……エクリプスに関する事で。


『流石はルナお姉さま、その勘の鋭さには感服いたしますわ。
 実は、ドクターがリオン・アークヒールの手記を見つけまして、其処に書かれていたのですわ――彼がエクリプスを封印した、その理由が。』


「本当に!?お父さんの手記が!?」

『えぇ、本当ですわなのはお姉さま。既にデータ化は終わってますから、お姉さま方のデバイスに転送しますわね。
 それと、ルナお姉さまには『ドクターが作り上げた試作品』も、一応一緒に転送しておきますわ。』



よもや、リオン・アークヒールの手記とはね……其れと、ジェイルが作った試作品か?――うん、此の試作品は、今の状況では持って来いの逸品だな。


しかしまぁ、此の手記を読む限り、本気で貴様は阿呆な事をしたモノだなヴァンデイン?
人を限りなく不死に近い存在にし、魔導も既存の兵器も効かない超人へと作り変えるエクリプスを、リオン・アークヒールが封印した理由がやっと分かったよ。


「な……に?」

「『エクリプスは、感染した生物の細胞の分裂限界を無くし、更には魔導及び、外的刺激に対して極めて強固な耐性を持った肉体を与えるが、その代償として
 感染者の理性を抑制し、破壊と殺戮の衝動を高める性質がある。
 その毒性を制御出来れば、エクリプスは人類にとって夢の様な存在となるだろうが、その毒性を人の手で制御する事は恐らく不可能だろう。
 つまり、感染者自らが毒性を制御しなくてはならないのだが、エクリプスに馴染む事が出来て、毒性を完全に抑え込んで超人的な力を手に出来る人間など
 全ての次元世界の人口を合わせても、果たして100人居るかどうかだろう』――成程、確かに其れなら、エクリプスは毒にしかなり得ない訳だね。」

「てか、結構ガチで研究しとったんやな、お父さんも。」


その様だな。

まぁ、フッケバインは独自に開発した薬で、毒性をある程度抑え込んでいたようだが、殺戮と破壊の衝動を完全に抑える事は出来ていなかったからね。
さてと、手記にはまだ続きがあるな?

「『そして何よりも危険なのは、他のウィルスよりもずっと強い毒性を持った、マスターウィルスとも言うべき物だ。
 私は此れを『原初の種』と名付けるが、種の力は正に支配者と言うべき物だ――種の遺伝子を、他のエクリプスの遺伝子と混ぜると、立ちどころに種が他の
 遺伝子を統率してしまったのだから。
 もしも人が此れに感染した場合は、他のエクリプスドライバーを支配する存在となるのは間違いないが、此れの毒性を制御出来る者は、恐らく存在しない。
 種の毒性は非常に強く、感染者の脳を破壊し、感染者を『人の形をしたエクリプスウィルス』にしてしまう程なのだから。
 恐らくは感染者にその自覚は無く、圧倒的な力を手にした事に酔い、人々に厄災を撒き散らす存在になるだろう……故に私はエクリプスを封印する。』か。」

「な、何だと?
 わ、私は……私は支配者になった心算で、既にハーディス・ヴァンデインとしては死に、人型のエクリプスウィルスになり果てていたというのか!?」


そうなのだろうな、此の手記を読む限りではな。
結局の所、お前はリオン・アークヒールが最も危惧した存在になり、此れだけの事をしでかしたと言う訳だ――支配者を気取った、究極の道化としてな。

尤も、此の手記をお前が見つけていたら、こんな事には成らなかったのかも知れないが、目先の力に心を奪われ過ぎたなヴァンデインよ?

或は、原初の種の甘い誘惑に負けたのかも知れないね……ウィルスや細菌と言うモノは、総じて己の宿主を求めているモノだからね。


「馬鹿な、認めん!!認めないぞそんな事は!!
 原初の種の所持者は『神』にも等しい力を……否、神をも超えた存在にだってなれるだけの力を手にするのだ!!其れが、其れがこんな所でぇぇ!!!」


大の男が喚くな。男のヒステリーは手に負えない上に聞くに堪えん。


だが、貴様は支配者になった心算で、実は破滅への階段を上っていただけだったと言う訳だ。
確かに、クアットロの言うように、死の間際にお前の愚かさと、思慮の浅さと、この上ない絶望を教えるには充分過ぎる内容だったな此れは。

「そして、此れでチェックメイトだ……エボニティアーズ!」


――チャキ!


「拳銃?……其れで私にトドメを刺す心算かね?
 生憎と、只の拳銃では脳を撃ち抜かれても、私は死なない!!!」


あぁ、知っているよ。
だから、手記と共に送られたジェイルの試作品を使わせて貰う――取り敢えず、大人しく滅するが良い、ハーディス・ヴァンデイン!!!


――ガァァァン!!!


「うぐ……少しばかり効いたが、この程度では私は死なん!!
 そろそろ麻痺も解けて来たようだからね……このまま再生して、君達を冥獄に送ってくれる!!!」

「残念だが、其れは無理な事だな。」

「なに?」


――グジュゥゥゥ


さぁ、終焉の時だヴァンデイン。


「こ、此れは身体が崩壊している!?
 馬鹿な、如何に焼かれ、腐敗したとは言え、残った健全な細胞から、再生は可能な筈!!其れなのに、どうして身体が崩壊していくのだぁ!?」


如何やら、効果は抜群だったらしいな。
お前に打ち込んだのは、ジェイルが試作品として作り出した『自殺因子活性弾』だ。


『自殺因子』は、動植物を問わずに、全ての命が持っている『種の保存の為に自らを殺す因子』の事だ。
例えば、樹木が病気になった時、病気になった枝を自ら枯らして本体を護ろうとする――その自己崩壊のデータを詰めたのが今の銃弾だ。

此れを打ち込まれた者は、体内の自殺因子が活性化して、自己崩壊を始めるらしい。。
故に、お前の身体は、エクリプスの再生を上回る速度で、自己崩壊を始めると言う訳さ――そして、そうなった以上は助かる術はないからな?此れで終いだ。



「そんな馬鹿な………私は、世界の支配者となる筈なのに、こんな所で死ぬのか!?……進化の頂点に立つこの私が!!!」



進化の頂点か……お前は其処に座す存在ではないよ。
私が思うに、進化と言うのは理不尽な死に対抗する為の命の足掻きなのではないか?病気や怪我で死なずに命を全うする為の手段だった筈だ。

だが、貴様はその本質を忘れ、力と不死の欲望に捕らわれてしまった。
エクリプスドライバーとしては、最強レベルの力を手にしたのかも知れないが、生物としてのお前は、この世に存在するどんな種よりも弱い……弱すぎたな。


そもそもにして、原初の種を手にして何がしたかったんだお前は?
お前の行動は場当たり的で、如何にも掴み切る事が出来なかったんだが――まさか、種の力を手にした事で、実は無計画だったとは言わないよな?



「いや、其の後の事はマッタク持って考えていなかった。」

「……遊びは終わりだ!泣け!叫べ!!そして、逝けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


――ズバ、ザシュ、ザン、スバァ、ブシュゥ、ザクゥ、ザガァ、ズガシャァ……バガァァァァァァァァァアッァァン!!


「げぼあぁ!?」


本気で、原初の種に喰われてたらしいな。――取り敢えず、其のまま死ね。そして、二度と蘇るな!!!


「グハァ!?……此れは、相当なダメージを受けたらしい上に再生も見込めないとは、此処が私の終焉の地か。
 だが、私が滅しても、第2、第3の私が現れえると言う事を忘れない事だ!!――人は欲深い生き物であるが故に、此の力は誰もが欲しがるだろう……もし
 もそうなった時に、君達は如何するね?……指をくわえて見ているかい?」


最後の最後まで口の減らない奴だなお前は?……もしもそうなったその時は、正面からブチ砕く、其れだけの事だ。


「成程ね……では地獄の深淵で見せて貰うとしよう――果たして、君達が、其処までその信念を貫けるのかと言うモノをね!!!」


精々見ているが良いヴァンデイン。
そして知るが良い、私となのはの思いが、ドレだけ強かったのかと言う事をな!!――取り敢えず、閻魔の前での言い訳でも考えておくんだな。

これで終わりだヴァンデイン!!


「全力全壊!!」

「死の闇に沈め、救い難き愚者よ!!」

消え去れ……



「「ディバインバスターァァァァァァァァァァ!!!」」



――キィィィン………ドゴォッォォォォォォォォォォォォォン!!!


「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁ!?……そんな、そんな馬鹿な……私は支配者に、進化の頂点に……うぐ……ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!」


――ドガァァァァァァァァァァァン!!!


進化の頂点など、貴様の誇大妄想に過ぎん。
所詮貴様は、原初の種に喰われた、力の妄信者でしかなったと言う事さ――最早聞こえはしないだろうが、この敗北を、月を見るたび思い出すが良い!!


「エクリプスをイタズラに使った報いだね……精々後悔するといいよ、地獄の奥底でね。」

「てか、二度と甦るなや……命の重さを知らんダボは、見てるだけで不快やからな。」

「精々、遠き地にて深き闇沈むが良い。其れが貴様の運命だ。」


「うが……ぐわぁ………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!」


――シュゥン



最後は、髑髏のオーラを発生させて消滅か……最後の最後まで自己顕示欲の強い奴だったな。

だが、これでエクリプスを巡る全ての事態にケリがついたのは間違いないだろうね――エクリプスの脅威は、今この時をもって完全に取り除かれた訳か。


……マッタク、我ながら良くやった物だと思うよ。――お疲れ様だったななのは?


「此方こそお疲れ様だよルナ……ルナが居なかったら、多分如何にも出来なかったと思うからね?――だから、ありがとう。」

「礼を言われる事ではないが、その礼は有り難く受け取っておくよなのは。」

ともあれ、此れで事態終息だ――皆、良く頑張ってくれた。お疲れ様だったね――心の底からそう思うよ。








――――――








Side:トーマ


此れは、野良感染者たちが理性を取り戻してる?……って事はつまり、ルナさん達がヴァンデインを打っ倒したって事か?――くぅ~~、流石だぜ!!!
俺も希少なゼロドライバーとは言え、実力は、ルナさんやなのはさんと比べたら月と鼈ほどの差があるから、頑張らないとだけどな。

だけど、野良感染者が理性を取り戻して来た今なら、無理に戦う必要もない――マッタク、最高のエンディングだぜルナさん、なのはさん。


でもだ……此れからアンタは何をする心算だヴェイロン?


「別に、如何もしねえよ。
 適当に世界を流れて見る心算だ――まぁ、テメェ等が捕縛やらなにやらを求めて来たその時は相手になってやるがな……お互い、此処でサヨナラだろ?」


かもな……俺だって、無益な殺生はしたくないからな。
だけど、此れだけは約束してくれヴェイロン、『絶対に普通の人は殺さない』って言う事を!!其れが護られなかったなら、俺は――


「ちぃ……わ~ってるよ、テメェに言われるまでもねぇ事だ。クソガキが。
 ドカスは死んじまったらしいし、フッケバインも瓦解した……なら俺が暴れる理由は何処にもねぇからな?…このクソチビと、適当に生きてってやるさ。」

「私も、ヴェイロンと一緒に……」

「ハ!好きにしなチビガキが……だが、トラックの荷台から落ちても文句は言うんじゃねぇぜ?」

「うん♪」



――ギュオォォォォォォオォォン!!!



行っちゃったよ……ったく、何処から車を調達したか知らないけど、仕事が早いって言うか何と言うか。



それにしても、此れでエクリプスを巡る彼是は終幕か――何て言うか、長いようで短く、短いようで長い日々だったな。

だけど、特務六課の新人見習いとして、スゥちゃんやノーヴェ姉、そしてリベリオンズと共に過ごした日々の記憶は、俺にとって生涯の宝になる筈だぜ!!



其れだけは、胸を張って断言できる!!!
きっと、アイシスも、ロサも、そしてリリィだって同じように言う筈だ――そう思えるだけに、俺達は俺達なりに頑張ったって事だからな!!


取り敢えず、お疲れ様だぜ。












 To Be Continued…