Side:ヴァンデイン


此れは此れは……身の程知らずにも、フッケバインのメンバーがやって来たみたいだねぇ?目的は、僕が抉り出した彼の心臓って言うところかな?
まぁ、アレを取り戻しに来るであろうことは予想していたし、寧ろそうなって貰わなくては困るところだったからねぇ?……来てくれて、正直よかったよ。

だがしかし、零時感染者3人が相手では、心臓を持ち帰る事はおろか、此処から無事に離脱する事すら難しい――否、不可能と言っても良いだろう。
私としては、フッケバインがどうなろうと知った事ではないんだが、あの心臓は持って帰って貰わないと困るんだよねぇ?種の力を知る為にもね。


仕方ない、誠に不本意ではあるが、僕が力を貸してあげようじゃないかフッケバイン。
僕の力によって、君は最強の力を一時的ではあるが、得る事が出来るんだから、精々感謝してくれたまえよ?


そして躍るが良いよ……滑稽なダンスを、私の掌の上でね。












魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force35
『Violence Eclipse Driver』











Side:ルナ


単身で乗り込んできた事は、褒めてやらない事もないが、此方の戦力を甘く見たのはマイナスポイントだなフッケバイン?
魔導殺しのエクリプスであるとは言え、私達が相手ではそのアドバンテージは意味を成さない事は分かっていたんじゃないのか?……如何なんだ?


「知らねーな……アタシはアタシのやる事をやるだけだ!!
 ヴェイ兄の心臓、返して貰うから覚悟しておけよ!!」


ヴェイ?……あぁ、あの黒い革ジャンを着た男か――この心臓は、アイツの物だったのか。…だが、アルナージ、心臓を取り戻して、お前は何をする?
心臓を取り戻した事で、ヴェイとやらが本来の力を取り戻すと言うのならば構わんが、だからと言って貴様の侵入は見逃せないのは分かるだろう?

正規局員ではないとは言え、お前を見逃したとなれば、私達を民間協力者としている特務の連中にも迷惑が掛かるんだ。



つまりそう言う事だから、悪いがお縄に付いてもらおうかフッケバイン?


「もしも運良く、捕まらずに逃げ帰る事が出来たその時は、スコールに伝えておけ……私が直々に死をくれてやるとな。」

「何の覚悟もなく、エクリプスの力を使いこんでた事を、後悔すると良いよ……貴女は此処から逃がさないからね。」


――バガァァァァァァァァァァン!!!


「のわぁぁぁ!?んの……普通、室内でそんな凶悪な砲撃ぶっ放すかオイ!?下手したら部屋ごと吹っ飛んじまうだろうが!!
 つーか、ヴェイ兄の心臓まで吹っ飛ばす心算かテメェは!!!」

「別に吹っ飛ばしても構わないでしょう?
 エクリプスドライバーの心臓は、細胞の一欠けらでも残って居れば、其処から再生する事だって出来るんだからね。」

「要するに、貴重なサンプルではあるが、別に粉々になった所で問題はないと言う事さ、三下娘。
 其れが如何言う事か分かるか?―――貴様を捕らえるために、私達は一切の手加減をしなくても良いと言う事だ!覚悟を決めろぉ!!!」


――ガキィィィィン!!!


ほう?サイファーの踏み込み斬りを防ぐとは、戦闘能力そのものは低い訳ではなさそうだな?
一対一のタイマン勝負ならば、或は何とか巧い事やれたかも知れないが、生憎と此方は3人だと言う事を忘れるなよ?特に、私となのはとサイファー
の連携と言うのは伊達ではないぞ?なんせ、このチームでの戦いと言うのは、14年の年季が入っているからね?

「複数の敵を相手にする場合、目の前の敵だけに集中していると身を亡ぼすぞ?」

「な!?テメェ!!」


遅い………華と散れ。


――ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!


「そんな…嘘だろ……斬撃が全く見えなかっただと?
 ヴェイ兄や、カレン姉の斬撃だって、見る事は出来たのに……それ以上だって言うのかよ、テメェの斬撃は……あ、あり得ねぇぞ流石に!!!」


この月影は、次元を超えて友より授かった一振りでね、此れを使いこなすために私も相当に剣術の訓練をしたのだよ。
特に、居合に関しては誰にも負けないように、徹底的に修練を重ね、精度を高め、今や私の剣技の最大の必殺技となった一撃だ。
高々一次感染者の剣技を見る事が出来る程度で、この神速の居合を見切れると思うな――エクリプスドライバーでなければお前は死んでいたぞ?


「テンメェ……舐めんじゃねぇ、コイツで死にやがれ……プラズマディスチャージャー!!!



――ドガバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァァァン!!



「はぁ、はぁ……幾ら何でも、此れを喰らったら無事じゃねぇだろ?ヴェイ兄の心臓は返して貰うからな……」


……返すと思うか?


「へ?」

「成程、中々の砲撃だったよ……其れこそ派手さだけなら、なのはのバスターにも引けを取らないだろうさ――だが、威力はマッタク持って低いな?
 流石に少しばかり痛かったが、この程度の砲撃で私達を倒したと思うとは……片腹痛いなフッケバイン!!」

「む、無傷って……そんなのアリかよ!?


いやぁ、流石に無傷ではないぞ?
私は、腰マントがボロボロになったし、なのははバリアジャケットの右の肩口が吹っ飛んだし、サイファーはコートが半壊しているからね……尤も、お前
の最大の攻撃ですら、私達の防護服を破損させる事しか出来なかったと言う訳なのだけれどな。

力の差を理解したか?
此処で大人しく捕まると言うのならば、命までは取らないぞ?……今の状況を踏まえて、お前は如何する心算だアルナージよ?


「ふざけんな!!誰が大人しく捕まるかよ……ヴェイ兄の心臓は、何が何でも持って帰らなくちゃならねぇんだよ!!!」


そうか……出来れば大人しく投降してほしかったんだが、矢張り無理だったか。
ならば、力尽くで大人しくさせるだけの事!!悪く思うなよ?――覇ぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ……消え失せろ!!



――瞬



月の女神の力、思い知れ!



――キン!……ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァァァァ!!!



「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!………そんな、嘘だろ……一度の抜刀で、こんな事が……10回以上も斬るなんて、そんなのアリかよ……」


全ては訓練の賜物だ。
私の本気の居合は、一撃で10回以上の斬撃を発生させる事が出来るようになって居るんだ……この程度は、マダマダ序の口さ。


尤も、其れでもお前には効果抜群だったみたいだけれどね。

「其れだけの大量出血となれば動く事もままならないだろう?……取り敢えず医療班を呼ぶから大人しくして―――



――ドクン!!!



む?……この気配は?……ヴァンデイン逮捕の際に感じた気配だが、其れが今どうして?
奴は独房にブチ込まれているから、自由は効かない筈なんだが……まさか!!


「あ……ぐ……うがぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


アルナージが暴走しただと!?

目からは光が失われ、此れではまるで知性を失った魔獣の目だ……いや、現実に魔獣と化してしまったのかもしれないが……その程度で!!!



「がぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」


だが、コイツは予想に反して凄まじい力だな!?
理性と言うリミッターが外れたせいで、己の肉体能力を120%引き出したと言う訳か……此れはまた、何とも面倒な事になったモノだね。


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


――パシュン!!!


コイツ……心臓を取って!!――だが逃がさんぞ!!喰らえ、ディバインバスターーーーーーーー!!


――キィィィン……ドガバァァァァァァッァァァァッァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!



なのは直伝の一撃必殺の直射砲だ……此れを喰らえば、流石のエクリプスドライバーでも只で済む筈もない。
改めて、御用だアルナージ!!



と思って居たんだが、何処にもいないだと?
まさかとは思うが、私の砲撃をギリギリで回避したとでも言うのか?……出来ない事ではないが、其れには相当な修練が必要な筈…凄まじいな……


「ちぃ……暴走していた分際で、サンプルを確りと持って行ったか……だが、あの暴走は――」


あぁ、自然発生的なモノではないだろうね?
恐らくは外的に――十中八九、ヴァンデインの奴が何かしたんだろうさ……立証は出来ないから、あくまでも予想の範囲ではあるけれどね……


だが、あの暴走が、ヴァンデインが起こしたモノだとしたら、その目的は一体何なんだ?まるで目的が分からんな……


「エクリプスの有用性の証明と、自分の力がどれだけ世界に通じるかを知りたかったのかも知れない。
 零次元感染者である私達には、ヴァンデインの能力は効かないけど、一次感染者のフッケバインには其れなりの効果がある……そう言う事だよ。」


自らの実験の為に此処からの離脱を手伝ったと言う訳か――反吐の出る話だな。
今は未だ、物的証拠しか挙がってない為に面倒な事になって居るが、物証を確保で来たその暁には覚悟をしておけ……纏めて斬り裂いてやる!!








――――――








Side:アルナージ


ぜぇ、ぜぇ……な、何とかヴェイ兄の心臓を持ち出せたんだが……さっきの暴走状態は普通じゃねぇ…まぁ、此処に居るって事は助かったんだよな?
だけど、さっきのアレは、物凄く嫌な予感がした……そうだ、まるでアタシがアタシで無くなっちゃうような、そんな感じだった。

流石にあそこからは、幾分離れちゃいるから大丈夫だとは思うんだけど―――油断は出来ねえ。


だが、そのお蔭でヴェイ兄の心臓を確保する事は出来たからな……取るモンとって、さっさとズラカるが上策だぜ!!


――ヴォン……


『状況は如何かしらアル?ヴェイの心臓は確保出来た?』


ギリギリだけど、何とか確保で来たぜカレン姉……今からそっちに戻るから、ヴェイ兄の心臓を解析する手立てを用意しといてくれよ?


『は〜〜〜い、了解よ♪
 そんじゃまぁ、管理局に見つからずに帰投するってのは可成り無理があるだろうけど、何とか頑張って戻って来てね〜〜〜〜♪』


適当だなオイ!?いや、ウチは大概こんなノリなんだけど、ミッションをどんな形でアレ遂行した事を労えっての!……ったくどいつもこいつも!!


まぁ、良いか。
何が如何であろうとも、コイツを持ち帰る事が出来れば、ヴェイ兄は完全復活を果たすんだから、其れを踏まえればこの程度のダメージは想定内だ。


待ってろよヴェイ兄……もう少しで、心臓を持って行ってやるからな!!


――遅い……もっと急ぎたまえ……


ん?何か聞こえた気がするけど、気のせいか?……誰にも聞こえたみたいじゃないから、アタシにだけ聞こえて来たって言うのかよ?気味悪いぜ…

けどまぁ、ゆっくりしてる暇がないってのは事実だからな――急ぐか。ヴェイ兄も心臓を心待ちにしているだろうからな。








――――――








Side:ルナ


暴走して、まんまと逃げられたか――マッタク、やってくれるな?
だが、あの暴走が外部からの干渉で起きたと言う事は間違いないし、そんな事が出来るのはヴァンデイン以外には存在し得ないんだが、其れでもな。

何とか、奴の所業である証拠があると良いんだが、其れを見つけ出すのは至難の業だろう――マッタク持って難義なモノだな本気で。
まぁ、監視カメラの映像位はあるだろうから、ヴァンデインの独房の映像に何か映って居れば、其れが動かぬ証拠になるかも知れないが、其れを突き
つけても、あの優男はのらりくらりと躱すのだろうな……其れなら其れで、そんな事が出来ないようにしてやるだけだけれどね。


だが、アイツが心臓を持ち帰ったと言う事に関しては、如何にも嫌な予感がするな?



フッケバインが、ヴァンデインの手駒と化すなんて言う事が、現実にならないと良いんだけれどね……此ればかりは、如何にも出来ないか。



せめて、私の杞憂であって欲しいんだが、考えても仕方ないか……今回の件は、此れでひとまずお終いと言う事にしておこう。
何よりも、フッケバインがトーマと接触しなかったのは大きいさ――そう言う意味では、私達の優勢勝ちというところだろうね、6:4判定だけれどね。



だが、此れは冗談抜きで攻めるべき時かもしれないな……これ以上のエクリプスの拡散は、流石に見過ごすことは出来ないからな!!
















 To Be Continued…