Side:サイファー


ふぅ、漸く管理局に到着か……ほら、さっさと降りろインテリ眉毛、そして然るべき沙汰のあるまで大人しくして居ろ。くれぐれも面倒事を起こすなよ?


「此れは心外――この間の事は完全な不可抗力でしょう?私だって、まさかフッケバインに襲われるとは思ってもみませんでしたからね。
 其れに、私は善良な一般市民ですよ?このような不当な拘束と言う物には、些か憤りを感じてしまうのですけれどね?」

「ほざけインテリ眉毛。貴様が善良な一般市民などと、冗談も休み休み言うんだな。
 最古のエクリプスドライバーたる私が、貴様の異常性を分からないとでも思って居るのか?だとしたらお笑い草だなハーディス・ヴァンデインよ?」

「公務員が、市民に対してその様な態度を取るのは如何かと思いますよ?
 小賢しい犯罪者ならば、其処だけを摘み上げて反撃して来る事が無いとは言えないので、その様な態度は慎むべきではないでしょうかね?」


フン、生憎だが私は六課所属の者ではない――精々六課の民間協力者に過ぎんのだ。
故に、貴様に対してどんな対応をしようとも、六課に火の粉が降りかかる事もない……私と貴様の立場は、ある意味で同じなのだからな。


「成程そう来ましたか……良いでしょう、暫くは大人しくしている事にします。」


裏を返せば、時が来たら暴れ出すと言う事だろうが、取り敢えずコイツを無事護送できたのは僥倖と言う所だな?
こう言っては何だが、私が搭乗して居なかったら、護衛のメンバー全員が、ヴァンデインの殺気に当てられて意識が飛んで、偉い事になってた筈だ。

其れだけに、アイツの殺気は簡単に出せるモノじゃない――調べてみる必要があるかも知れんな此れは。












魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force34
『嵐の前に静けさはない』











Side:アルナージ


しめしめ……まんまと潜入してやったぜ!
服を手に入れるのに苦労したが、コイツさえ手に入れちまえばこっちのモンだ!アタシの潜伏能力は伊達じゃない!監視カメラだって狂わせられる。
あとは、ヴェイ兄の心臓を持ちかえれば其れでミッションコンプリート――任務完了だからな。

怪しまれないように、目的地に着くまでは派手な事はする心算もねぇがな。


にしても、幾らアタシの潜入能力が高いからって、こうも簡単に部外者に侵入許すって、管理局のセキュリティは些か問題ありなんじゃねぇか此れ?
まぁ、おかげでこっちとしては楽だけど、ソニカの奴が運勢急降下とか抜かしてたのが、如何にも不吉なんだよなぁ……アイツの占いって当たるし。


だからと言って止める訳にも行かねぇ訳だが……幸いにもヴェイ兄の心臓はエクリプスドライバーの一部だから、同じエクリプスドライバーであるアタ
シなら場所を特定する事は出来る――コイツは最短ルートで行って、最短ルートでズラかるのが上策だな。

食糧の方は、帰り道がてらどっか襲って盗みゃいいしな。


――ただ、願わくばあの白衣のパツキンとは会いたくねぇ……会ったら間違いなく瞬殺される。絶対される!……運気急降下は、まさかな………








――――――








Side:ルナ


「え〜っと、襲撃掛けて来た野良感染者を、アイシスと一緒に撃退して捕縛した言うのは良く分かったんやけど、なしてこの人達は、全身擦り傷だらけ
 になっとるん?此れは戦闘で負った傷とはちゃうやろ?」

「其れはだな、ジェイル特製のワイヤーチェーンで雁字搦めにして上で、此処まで引き摺って来たからだ。
 吊り下げたまま空を飛んで来ても良かったんだが、面倒だったのでコイツ等の1人が乗って来たバイクにワイヤーを括り付けて引き摺って来たと言う
 訳さ。因みにアイシスはタンデムでな?」

「ルナさんてバイクのライディングテクニックも凄いんですよ八神隊長!
 銀髪を靡かせて、風を切って走る様には惚れ惚れしちゃいました!此れはもう、ルナさん用のライダージャケットを作るしかありませんよね!!」

「クール系女性ライダーって何それカッコ良すぎる!ウチのアインスも同じ事が出来ると思うけどな。
 よっしゃ、其れやったらアインス用に闇色のライダースーツを、ルナさん用に白のライダースーツを作って―――って、ちゃうわアホ!!
 いや、ライダースーツ作成は本気やけど、何ぼ野良感染者や言うたって、あんなにボロボロで連れてきたらアウトやろ!!しかもバイクで引き摺って
 来たって、そないなモン市民に通報されたらアウトやで!?下手したら六課が潰されんでホンマに!!」


大丈夫だ、私は正規隊員ではないから問題ない。『民間協力者が勝手にやった事』とすれば、六課へのパッシングは最小限になるだろう?
大体にして、アイツ等は曲がりなりにもエクリプスドライバーだ、あの程度の怪我などあっと言う間に回復してしまうだろうさ。


「其れはまぁ、そうかも知れへんけど……まぁ、深く考えたら負けやね。」

「そう言う事だ――其れで、そっちは何か進展があったかな?」

「小さくとも大きなモンが手に入ったで?
 美由希さんがカート達の拠点だった場所に居った野良感染者から、『野良感染者の発生にはヴァンデインが関わってる』って証言を得たんや。
 物的証拠はないからアレやけど、複数の野良感染者の証言ともなれば信憑性は増す。5人が5人同じ証言をしたら其れは略確実やからね。
 尤も、此れでヴァンデインを追い詰められるとは思わんけど、六課側にとって有利な証言が得られた言うのは大きな事や、事と次第によっては、この
 証言を持ってして、ヴァンデインコーポレーションその物を摘発出来るやろうからね。」


なんとまぁ、確かに美由希は『小さくとも大きなモノ』を持って来てくれたようだな?
野良感染者の発生にヴァンデインが関わっていたと言う事実は、此度の事件に大きな影響を与えるだろうからね?……この情報は、存外大きいぞ。


其れに、状況証拠と証言だけとは言え、此れだけの証拠があるならばヴァンデインも早々簡単に釈放はされない筈だからな。
奴の事は、此れから調べるとしても、確かにこの情報は価値があるモノだ。流石は美由希だ――ん?


「ほへ?ドナイしたんやルナさん?」


……此れは、この感じは近くにエクリプスドライバーが居るな?
悪いがはやて嬢、席を外させて貰うぞ。如何やら、招かれざるネズミが局内に侵入したようなのでな――取り敢えず排除して来るが、構わないな?


「無問題や、コソコソ嗅ぎまわるネズミに加減も何も必要ないで!!!」


了解だ……手加減抜きで叩きのめす!!
っと、そうだアイシス、さっきのライダースーツだが、私のは白ではなくてシルバーで頼む。そっちの方が私らしいのでね。


「ご注文ありがとうございます!アイシス・イーグレットが承りました♪」


良いノリだね?そう言うのは嫌いじゃないよ。
だが、無謀にも管理局に乗り込んできた馬鹿に、相応の裁きを下してやらなくてはね……飛んで火にいる夏の虫と言う言葉を骨身に刻み込め!!!








――――――








Side:サイファー


それで、奴の能力について何か分かる事はあるかジェイル?


「ん〜〜〜……リオン君の残してくれた情報から推察するしかないんだが、ハーディス・ヴァンデイン氏が原初の種の保有者であるのは間違いない。
 原初の種を得た者は、エクリプスドライバーに対して絶対的な支配力を手に入れる事が出来るらしい……あくまで一次感染者以降に限定だけどね。
 少なくとも、彼の力は零次感染者とも言うべきサイファー君とルナ君となのは君には通じないさ。ゼロの少年にもね。」


其処まで分かれば十分だ――あのインテリ眉毛、矢張り只の模倣感染者ではなかったか……薄笑いで其れを誤魔化して……心底反吐が出るな。
公僕の民間協力者でなかったら、この事実を知った瞬間にあの眉毛の首を落としていただろうな――フン、命拾いだったなインテリ眉毛。


貴様は近い内に独房にブチ込まれるからな……精々粋がっているが良いさ!!――貴様の首は、必ず貰い受けるぞ、ヴァンデイン!!!
そして後悔するんだな――何故エクリプスに手を出してしまったのかと言う事をな!!!


――ドクン!!


それにしても、この感覚は、如何やら招かれざるネズミが舞い込んだらしい。

巧く侵入した心算だろうが、生憎と私の中のエクリプスは、貴様の事を補足しているから丸分かりだ。
……凶鳥等とほざいている連中も、そろそろ目障り極まりなくなって来たから……手始めに、侵入者を『狩る』とするかな。








――――――







Side:アルナージ


ふぅぅ……如何にか誰にも見つからずに目的の場所に辿り着いたわけだが、ミッションコンプリートを目前にして、如何にも嫌な予感が拭えないぜ。
只の気のせいで有ってくれれば良いんだけど、そうは問屋が卸さねぇんだろうな。


なら、誰かに見つかる前にヴェイ兄の心臓を……


「残念だがタイムオーバーだ。」

「まさか、本当に出て来るとはね……」

「所詮は雑魚……フッケバインなどと、大層な名を名乗った所でこの程度か――呆れて物も言えん未熟さだな、フッケバインの大食い娘が。」



うえぇぇぇっぇえ!?雑魚とエンカウントしなくてラッキーって思ってたら、最深部にはラスボスクラスが勢揃いって、なんじゃそりゃぁぁぁぁっぁ!?
若しかしなくても、ソニカの言ってた運気が急降下ってこの事かよ!?ぶっちゃけ急降下どころの騒ぎじゃねぇ!!


金髪オッドアイと、薄い茶髪のロン毛と、ガングロ眼帯の揃い踏みって、明らかにゲームエンドだろ此れ!?
だけど、此処で捕まったらヴェイ兄の心臓は取り戻せないだろうからな――テメェ等が相手だろうと、アタシの全能力で対処させて貰うからな!!!

異論は認めねえ、聞く気もねぇ………精々、ぶっ飛びやがれーーーーーーーーー!!!


アタシは何が何でもヴェイ兄の心臓を持って帰らなきゃならないんだ、こんな所でやられてたまるかよぉ!!!
フッケバインのアルナージ、出来るだけの足掻きはさせてもらうぜ?……アタシはアタシの目的が有って来てるんだ……邪魔はさせねーよ!絶対!


「その意気は褒めてやるが、其れは所詮蛮勇に過ぎんと知るが良い……貴様に其れを分かる脳味噌が有ればの話だけれどな。」


舐めんじゃねえ……テメェをぶち殺してヴェイ兄の心臓は返して貰う…アレはヴェイ兄にとって大切な物だからね――絶対持って帰るからな!!!
四の五の言わずに、ヴェイ兄の心臓を返しやがれーーーー!!!!








――――――








Side:なのは


大体予想はしていたけれど、此処まで速くフッケバインが乗り込んでくるとは思わなかったなぁ……しかも相手はこの子だからねぇ?
まぁ、死なない程度に全力全壊をかませば大丈夫だとは思うんだけどね、この子はエクリプスドライバーだからね――手加減は出来そうにないかな?


取り敢えずは、相手の戦力をよく考えずに乗り込んできた貴女の愚かさをその身を持って知れって所だね此れは。
















そして……その身を持って知ると良いよ、貴女の行いが如何に無意味で愚かであったのかと言う事をね――













 To Be Continued…