Side:トーマ


しかしまぁ、本局に運ぶ証拠物が『エクリプスドライバーの心臓』って言うのは、幾ら何でもちょっとハードだよなぁ?
普通ならとっくに活動停止して只の肉塊になり果ててる筈なのに、この心臓はまだ動いてるし……俺の心臓もこんな感じになってるんだろうけどさ。

でも、此れが重要なサンプルなのは間違いないから、キッチリと運ばないとだな。
リリィが一緒に居るし、サポートにはアイシスとロサ、其れとウェンディ姉が居るから不安も無い……フッケバインが来ても多分何とかなるだろうしね。


「…………」

「だから大丈夫だよリリィ、不安になる事ないって!」

「そうじゃないのトーマ……この心臓は普通じゃない……こんな状態から再生しようとしてる!
 再生して『新たなエクリプスドライバー』になろうとしてる……私の……シュトロゼックの力で再生を抑制してるけど、このままじゃ―――!!」


んな、再生ってマジかよ!?……何処までしぶといんだよエクリプスドライバーってのは……!!
俺の『ディバイト・ゼロ・エクリプス』で消し去っても良いけど、重要なサンプルに其れをやる事は出来ないからな……全速力で管理局まで突っ走る!

局に戻ればシャマル先生やスカリエッティ博士が居るから、心臓の再生は多分止める事が出来る筈だからな。


法定速度なんてこの際無視だ!!一刻も早く、コイツを持ち帰らないとだからね――













魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force31
『Geschaft und Zusammenarbeit』











――海上収容施設



Side:なのは


さてと……脱獄未遂を犯してくれたやんちゃ坊主君達……少しは頭が冷えたかな?
どんなやんちゃも無茶も、やるなとは言わないけど、自分の立場って言うモノは考えた方が良いんじゃない?…下手すれば、海の藻屑になってた。


「だから何だ?……もう二度と脱獄するなってか?
 ……そう言う事なら安心しな……失敗した事を、律儀に繰り返す程、俺は馬鹿じゃねぇ……今回みたいな事は取り敢えずやらねぇよ。」


そう?其れなら良いんだけど、実を言うと私としてはもっと脱獄をしてほしい所なんだよ。……姉さんも同意見でしょ?


「そうね……出来ればもっと脱獄してほしいかな?……此処に戻って来る事が前提になるけどね。」

「「「「????」」」」


ふふ……思った通り混乱してるね?まぁ、自分達の脱獄を阻止した私と姉さんが何を言ったところで説得力はないのかもしれないけど―――



「フフフ、では分かり易く説明しよう!
 高町姉妹は、貴様等に司法取引を持ち掛けているのだ……受ければ恩赦として拘束期間の短縮を約束しよう!」


良いタイミングだねチンク。
そう、チンクの言う通り、私達は貴方達に司法取引を持ち掛けてる――其れこそ法律ギリギリの一線でね。

分かり易く言うなら、君達は此処からもう一度脱走して外の世界に戻る。

「その上で――君達が幾つか持ってるホームの付近で、ギャング達をエクリプスに感染させてる犯人の足取りを追う。
 そして、新たな感染者を増やすのを止める。そう言う事をお願いしたいなってね。」

「成程……其れなら怪しまれずに調査が出来るし、俺達も此処から出られるって訳か――悪くねぇ取引だが、其れを受ける事は出来ねぇ。」


……理由を聞いても良い?


「簡単な理由だ。俺達はギャングだぜ?
 アンタ等からすりゃ腑に落ちない理由だろうが、ワルにはワルの絆ってもんがあってな、仲間を裏切る真似は出来ねぇんだよ。」


確かに仲間を裏切るのは良くないね?
だけど、地元のギャングの大半は『仲間』であると同時に、君達の野望を成就する為の『敵』であるのも間違いない――違うかな?


「違わねーけど……つーか、誰だアタシ等の野望を吐いたのは!!」

「アタシじゃねーし!」

「ロロさんでもないよ!!?」

「……自分の思う通りにしてぇ、頭下げずに済むくらい偉くなりてぇってなぁ俺等悪ガキ達の当たり前の野望さ。」


君達の生まれ育った環境は大体想像が付くよ……親もなく家もない、明日も有るかどうか分からないスラム街――当たらずとも遠からずでしょう?
管理局の姿勢管理が届かない場所は、此れまでも沢山見て来たからね……局も対策はしてるみたいだけど、正直手が足りないのは否めない。


「何十年も前から取り組んでるみたいだけど効果は……最近は少しは上がって来たみたいだけどね。」

「局の体勢を大幅に変えて、役員やら何やらを刷新した効果は其れなりかな?……其れでも全然足りないけどね……」

「申し訳ないとは思って居るよ……」



君達の野望は分からないじゃないけど、ギャングスターでのし上がる事は応援してあげられない。
だけど、『生まれた町を救いたい』って言う事なら、叶える為の手伝い位はする事が出来る。
救える命や心が有るなら、救えるだけ救いたい――その為に、君達の力を貸して欲しい。……ダメかな?


「……その手を下げてくれ。俺達はギャングだ、司法の犬になっちまったら誇りが消える。
 誇りは、俺達が地面に立つための唯一の拠り所なんだ――アンタ等の手先にゃなれねぇよ。」

「手先じゃないくて『協力』――って言う理屈じゃ納得して貰えないかしら?」


多分無理だよ姉さん……其れで納得したら苦労しないだろうし。


「俺等が脱走した時、殺されても文句言えない状況で、アンタ等は無傷で捕まえてくれた、それについちゃ感謝はしてる。
 けどな、誇りってのは理屈じゃねぇんだ――俺達はアンタ等に協力は出来ねぇ。」


……そっか。
それじゃあ、聞き方を変えようか?『時空管理局・特務六課』じゃなくて、私『高町なのは』個人に協力するって言う形なら如何かな?


「あん?アンタだって管理局だろ?」

「違うよ。今は管理局と協力体制に有るけど、私が所属してるのは私設武装組織『ホワイトナイツリベリオン』――言うなればテロリスト集団だよ。」

「「「「はぁ!?」」」」


まぁ、行為そのものはテロとしか言いようのない事だけど、あくまでもターゲットは違法研究施設とか、麻薬の密売組織だけどね。
でも、相手が誰であろうとも、司法の場を介さずに武力制圧してるのは間違いない――管理局との利害一致がなかったらとっくに指名手配モノだよ。

君達と違って生まれながらではないけど、私もどちらかと言えばアウトローの部類に入る――同族のお願いなら聞いてくれるかな?


「アンタがかの有名な『ホワイトナイツリベリオン』のリーダーである、高町なのはだったとはな……驚いたぜ。
 まぁ、理屈は通ってるが、アンタが管理局と協力体制である以上は、やっぱり俺等は手を貸す事は出来ねぇ。間接的に司法の犬になるからな。
 ただ――コイツだけは特別だ。クインだけはグレンデル一味の初期メンバーじゃねぇしスラムの出身でもない……只の拾い者だ。
 うちの斬り込み隊長って事で名前も通ってるからな……裏切りはさせられないが、捜査くらいなら役に立つだろうよ。」

「ちょ……ヘッド何言って……!!」


――其れで良いの?


「あぁ。つーか、この辺がギリギリの落としどころだろお互いに?」

「良くない!!」


かも知れないけど、その子は納得してないみたい――少し時間が必要かな?


「だな……取り敢えず10分くれ、何とか説得すっから。」

「――なら、話がまとまったら呼んでくれるかな?
 一家全体の決断も含めて……色々考えてくれたらうれしいよ?――特務六課の『エース』は、意外と君達みたいなのを放っておけないからね。」


其れ自分で言う姉さん?……確かに、その通りでは有るけどね……流石は、ヴィヴィオを引き取って育ててるだけの事はあるかな……


「尻尾を振る気はねぇが――感謝だけはしとくぜ。」


うん、今は其れで良いよ。



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「『私はテロリスト』……随分と思いきった事を言ったねなのは?」

「そうかな?ある意味では事実だし、彼等から譲歩案を引き出す事が出来たと思えば大した事じゃないよ姉さん。」

「やれやれ……時は人を変えるって言うけど、あの天真爛漫の見本みたいななのはが、こんなにクールな女性になるとは予想もしてなかったわよ。
 まぁ、14年前のあの日からの事を考えれば、納得だけれどね。」


色々あったからね私も、そしてルナも。
だけど、最近思うんだ、14年前の事がなくても、私とルナと星奈達は遅かれ早かれこうなっていたんじゃないかなって。

多分、あのまま何もなく管理局に就職する道を選んでも、其処できっと私達は『管理局の闇』と対面する事になったと思うからね?
そうなったら、間違いなく私達は管理局から離反して今のホワイトナイツリベリオンと同じような私設武装組織を起ち上げてたと思うよ……多分ね。


「なのはの正義感なら納得の結果だけどね。
 それでなのは……『此れから如何する心算』?」

「取り敢えずは機を見ようと思ってる。
 グレンデル一家の捜査協力が得られればもっと多くの事が分かるだろうし、ヴァンデイン氏が本局に来る事で分かる事も多いだろうからね。」

彼が、今回のエクリプスドライバーを巡る彼是の黒幕である事は略間違いないだろうけど、今はもう少しだけ手を出さないで置く心算だからね。
フッケバインの方は……まぁ、本拠地は特定できないけど、ちょっかい出して来たら叩けばいいだけだし、いざと言う時はブレイカーで全力全壊だよ。


「妹の思考がデンジャラスになってる事に、お姉ちゃんは若干ショック!……容赦する気はないのね、なのは?」

「白夜の聖王は、仲間には厚情だけど、敵に対しては何処までも冷酷になれるんだよ姉さん?
 まして、相手はエクリプスの力をイタズラに奮う外道……情け容赦は必要ない――敵対の意思があるなら狩る……其れだけだよ。」

「その意見には概ね同意するわ。敵に情け容赦は必要ないからね。
 ……やる時は、派手にやった方がインパクトあるかも知れないわよ?――好きでしょ、派手なのは?」


好きだよ?……勿論、派手にやる心算だからね。








――――――








Side:ルナ


……悪いがサイファー、この眉毛の護送を任せても良いか?……私は、トーマ達の方に行く。

「別に構わないが、如何した?」

「いや……如何にも嫌な予感がしてな……何がとは言えんが、不穏な気配をビリビリと感じるんだ……下手をしたらトーマ達に危機が及びかねん。」

「……ならば行け、不安要素は出来るだけ取り除いておいた方が良いからな。」


感謝する。
しかし、なんなんだこの言い様もない『嫌な予感』は……途轍もなく大きな事が起きようとしてると言うのか――?だとしたら原因は一体何だ?

その一画が其の眉毛であるのは間違いないだろう……だが、この気配は奴じゃない。


やれやれ……如何にも面倒事には巻き込まれる体質であるらしい――ならば、其れに対処できるようになっておかなくてはな……!!















 To Be Continued…