Side:ソニカ


如何すれば良いのカレン?このままじゃヴェイが死んじゃう!
だけど、私の力じゃアイツから抉り出されたヴェイの心臓を取り返す事は出来ない……ねぇ、如何すれば良いの!?私は如何すれば良いの!?


え〜〜っと、心臓を抉り出されて息もしてないんだよねぇ?なら何とかなるから、其のままこっちに連れて来て頂戴。
 普通の人間だったらとっくに死んでる状態だけど、エクリプスドライバーにとっては、心臓を抉り出された位の事は大した事じゃないのよ?OK?



へ、そうなの?
ってか、其れってマジで人外じゃん……アンタ達みたいな『一次感染者』との付き合い考えた方が良いかしらね?

まぁ、取り敢えず、ヴェイの事はこのまま持ち帰れば良い訳ね?


そうなるわ……だけど、くれぐれも気を付けてね?


まぁ、何とかしますって!今回の報酬も未だもらってないし、何よりもヴェイにお礼をしなきゃならないからね。勿論お金以外でね!!

にしても、今回の此れは完全にしくじった感じなのは否めないよ?――ハーディス・ヴァンデイン、アイツの持つ力は正直想像が付かないからね……













魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force30
『Dominant&Rose』











Side:ルナ


フッケバインの連中は、如何やらこの煙幕に乗じて逃げたようだな……まぁ、最良の策と言えるだろうがね。
尤も、問題は奴等よりもヴァンデインだろう?――フッケバインを相手にして、其れでも尚、その程度の『衣服損壊』で事が済んでいるのだからね。


普通ならば、衣服損壊などでは済まず、初撃でお陀仏と言うところだろうが、其れを相手にしてなお優位に立っていたヴァンデインは只者ではない。
コイツは一体何者なのか……取り敢えずは、護送の準備をしなくてはならないな。

だが、其れをする前に其れを渡して貰えるかヴァンデイン?
と言うか、よりにもよって心臓とは……


「ん?あぁ、此れは彼等の中の誰かが落としたのでは?。
 マッタク持って、凄い落とし物をしてくれたものだよフッケバインも。まさか心臓が丸々一個あるとは思わなかったからねぇ?」


白々しい……大方貴様が抉り出したんだろうが。
だがまぁ、此れもまたエクリプスに関する重要な手掛かりになるかも知れないから、取り敢えずは此方で押収させて貰うが構わないな?


「仰せのままに。時に、無粋な彼等の乱入もあったからだが、見ての通り服がボロボロでね?
 幾ら何でもあまりにもみすぼらしいので、一度自宅に戻って服を取って来たいのだが、特別外出許可は申請可能だったかな?」

「可能ですが、貴方に関しては不可能です。
 貴方は既に管理局にSS級の犯罪者として登録されているので、特別外出許可を申請する事は出来ません。
 替えの衣服は此方で用意しますので、容疑が晴れて自由の身になるその時までは、其れで我慢して頂けますね?……異論は聞きませんが。」

「ならば仕方ない、管理局支給の安物で我慢するとしよう。」

「助かります。」


コイツは、全く持って一々癇に障る物言いをする奴だな?対応してたのが冥沙だったら、間違いなくプッツン行ってるだろうね。


それにしても、本気で得体が知れんなコイツは?
普通ならば、此れだけど派手にドンパチやった現場に居たならば、多少なりとも精神がぶれるモノだが、コイツは至って冷静だと来たモノだからな?

コイツが、エクリプス感染者に対して何らかの力を持っている事は間違いないだろうね。
恐らくは、その力を持ってしてフッケバインを相手にしても優位に立っていたのだろうと言う事は想像に難くない……矢張り、要注意人物だコイツは。

まぁ良い、何れにしても現場検証はしなくてなるまい?コイツの言ってる事を丸々信じる訳にも行かないし、こう言う時は証言よりも証拠だからな。


「私の言う事が嘘であると?」

「貴様の言っている事が100%真実である保証もないのでね?証拠を探して真実を導き出すのは普通だと思うが?」

「信頼されてないね私は……地味にショックだよ?」

「信頼されてると思ってた事に驚きだよ私は――兎に角、お前は当初の予定通り本局の方に護送する、異論はないな?有っても聞かないけど。」

「本局ならば、此処よりは快適に過ごせそうだから異論はないよ。」


ふん……マッタク、狸と狐の化かし合いは性に合わんよ。
まぁ、コイツの事は後々如何にかするとして、誰のモノかは分からないが、エクリプスドライバーの心臓は貴重なサンプルだから丁寧に運ばないと。


心臓の運搬は、トーマとリリィに任せて、護衛にウェンディとロサと――頼んでも良いかなアイシス?
一戦交えた後で申し訳ないと思うが、此の薄ら笑いの優男の護送で手が離せなくなりそうなのでね?


「全然OKですって!てか、今の戦闘でもあんまし消耗しなかったですしね。
 其れに、友達の護衛なら断る理由は何処にもないし、何よりも事件の貴重なサンプルを運ぶ訳だから、其れの護衛なら喜んで引き受けますよ!」

「ならば頼む。」

――だが、輸送中にこの心臓を狙って、フッケバインが再度襲撃して来る事も考えられる。
君の爆薬攻撃はエクリプスドライバーに対しても有効だから、此処と次第によっては多少派手にやっても構わないからな?私が許可しよう。


「その時は思いっきりやりますよ!
 トーマにリリィ、其れにロサにちょっかい出してくるズべ公に手加減する気なんて小指の爪の先程もありませんから!!」


はは、頼もしいな。では、お願いするよ。



「頼もしい子だねぇ?六課には中々優秀な若者が居るようだ。
 ――そして、何とも興味が尽きない『特異なエクリプスドライバー』も居るようだ……我が社としては、是非ともサンプルが欲しい所だね。」


誰がやるか。
と言うか、無駄口を叩く暇が有ったらさっさと護送車に移れ、こっちも暇じゃないんだ――主に何処かの馬鹿のお蔭でな。


さてと……あの重大な証拠品から、何か分かる事が有ると良いんだがな……








――――――








No Side


場所は変わってフッケバインの本拠地。

ソニカが連れて来たヴェイロンは、即座に心臓の再生手術が行われ、フォルティスとステラで今し方その手術が終わった所だ。
あとは麻酔が切れれば普通に動く事が出来る――筈だった。

「!!!」

「ヴェイロン!?」


――バシュゥゥゥゥ!!!


手術が終わったと同時に身を起こしたヴェイロンだが、その胸部が裂け夥しい血が噴出する。
普通ならば、エクリプスドライバーが自ら再生した臓器を使っての手術を行った場合に、此処まであからさまに拒否反応が出ると言う事は先ず無い。

だが、其れが起きたと言うのは明らかな異常事態であり、フォルティスもすぐさま『人工心肺』への切り替えを考えたが―――


「いらねぇよクソッタレ……テメェの始末は、テメェで付ける。」


ヴェイロンは其れを拒否し、簡単な応急処置を自分で施して治療室を抜け出る。
恐らくは、奪われた物を取り返す心算なのだろうが、如何せん手負いの状態では分が悪い。と言うか、今の状態で動くのは自殺行為でしかない。


「ちょっと待てよヴェイ兄!そんな身体で何処に行く心算だよ!!」

「あのクソ優男の所だ……足手纏いさえいなけりゃ遅れは取らねえ。」

「そりゃそうかも知れないけどさ!!」

「折角助けたのに、死なれちゃ寝覚めが悪いってば。」


廊下で出くわしたアルナージとソニカも止めるが、性格的にヴェイロンは止まらないだろう。
良くも悪くも、ヴェイロンはフッケバインの中でもエクリプスの齎す『破壊と殺戮の衝動』を最も受け入れていると言っても過言ではなないのだから。

故に、自ら動くのは当然の事なのだ。



とは言え、其れで済ませられるかと言えば其れは否。


「ヴェイロンの体内のエクリプスウィルスが変質しています。
 見た事のない抗原反応に自食作用――まるで魔女の大釜みたいな騒ぎが、彼の中で起こっている」

「六課の攻撃を受けたけど、アタシはもう影響が消えてるから其れが原因じゃないのは間違いわね?
 ――と言う事はつまり、やっぱりあの男からの感染かしらね?」

「となると――エクリプス『支配種』……原初の種からの感染者のみが保有するウィルスの支配能力――


到底見過ごす事が出来ない事が、ヴェイロンの体内では起こっていたのだ。

肉体を……其れも心臓を支配されたとなれば、ヴェイロンの命は心臓を抉り出した人物、ハーディス・ヴァンデインに握られていると言っても良い。


であるとすれば、ヴェイロンを其処に向かわせるのは得策ではない。


「止まりなさいヴェイ。」


其れを感じ取ったのか、カレンはヴェイロンを止めようとする。


「アンタは支配者の攻撃を受けてる――そんな状態で動くのは自殺行為よ?
 支配者がどんな風にウィルスを変質させるのかデータも無い――だからアタシの『眠り姫』でアンタを凍結処理するわ。
 治療法を見つけたら戻してあげる――ソニカも居るんだから、きっとすぐに見つかるわ。――良い子だから、大人しくして居なさい。」

「この程度じゃ死にゃあしねぇ!奴をぶっ倒して、種ごと持って帰る!!」

「……首領の命令が聞けないのかしら?」


だが、ヴェイロンは、あくまでも自分で何とかする気バリバリであり、カレンの言葉にも従う心算は無いらしい。
このままでは、一触即発だが――


「だ…め……」


以前にヴェイロンとアルナージで叩きのめしたエクリプスドライバーから手に入れたリアクトプラグ――個体名『ロザリア』が割って入った。
そう、まるでヴェイロンを護るかのようにして。


「邪魔だクソチビ……どけ!」


其れに対して悪態をつくヴェイロンだが、ロザリアは首を横に振って聞かない。
そして其れだけではなく――ヴェイロンの体内の拒否反応が低下した――シュトロゼックの特色であるウィルスの活動制御機能が働いたのだ。

それは即ち、ロザリアがヴェイロンとリアクトすれば、一切の問題はなくなると言う事であり、アルナージなんかも推奨するが……


「断る。」

ヴェイロンは其れを拒否。

「こんな出来損ないをリアクターにしたら、俺の928が腐る――元の糞溜めで寝てろ、クソチビ。」


あまりなモノ言いだが、其れでもロザリアの胸には、ヴェイロンに保護された時の事が去来していた。



――黙って泣いた所で誰も救いに来やしねえ。
   顔を上げて前を見ろ。むかっ腹の立つ事には、声に出して喧嘩を売れ――糞溜めのクソのままで居るのが嫌なら、其れしかねぇんだ。


だからだろうか?


「行っちゃ――ダメ。」


この場を去ろうとするヴェイロンの前に立ち、両腕を広げて先に進ませんとする。
あまりにも単純な行為だが、ロザリアのまさかの行動に、ヴェイロンは完全に虚を突かれて、一瞬完全に無防備に……


「失礼。」


その気を逃さずに、フォルティスがヴェイロンの延髄に手刀を落とし、行動を止め、更にカレンが『茨姫』を使ってヴェイロンを完全拘束完了。

ロザリアがお手柄だったのは言うまでも無いだろう。




とは言え、如何するかはマッタク持って分からないと来てるのもまた事実だ。

支配者対策と言っても見当はつかないし、八方塞がりなのは変わりない。


「一次感染者の心臓は、六課にとっても貴重なサンプル――みすみす生ゴミに出すとは思えませんが……」

「六課側で保管して解析してるわよね?
 幾ら何でも拘置所に置きっぱなしにするとは思えないから……」

「ソニカ!物探しなら得意の占いで!」

「それだ!!よっしゃ、今直ぐ探し出してあげるわ!
 断腸の思いで料金は8割引き!いや〜〜〜〜、アタシってば結構太っ腹!!!」

「……其れでも取るは取るんだな?
 心の底から太っ腹だってんなら、此れくらいは無料で受けろっての……」


だが、やりようは幾らでもあるようだ。

奪われた心臓を取り戻す事が出来れば、ヴェイロンも全快する事だろう。


「……ほどけ、其れなら俺が行く。」

「ダメよ!感染防止処理もしきゃだし、アンタの心臓奪還にはアルに行って貰うわ。
 納得できないだろうけど、此れはもう決定事項!!――何よりも、アンタもアタシの大事なファミリーだから、無茶してほしくはない…分かるでしょ?」

「……ちぃ……そう言われたら何も言えねぇ。」

「まぁ、アタシに任せとけよヴェイ兄!
 襲って盗む仕事なら、アタシの十八番だからな?六課が相手でも、ヴェイ兄の心臓、奪還してきてやるからさ!」


拘置所襲撃に端を発する今回の一件は、如何やらまだ終わりそうには無いらしい…………















 To Be Continued…