Side:ヴァンデイン


大人しく捕まってはみた物の、こうして拘留されたままと言うのは思いのほか退屈なモノだね?まぁ、今日中に本局に護送されるとの事だけど……
私が捕まった事で、野良感染者が何かしらの行動を起こすと思って居たが、今のところその気配もないようだし――ん?


「ハーディス・ヴァンデインさん、本局へ移動して頂きますので、付いて来て頂けますか?」

「はいはい、分かりました―――って、君達は誰だい?
 少なくとも管理局の人間ではないね?……管理局の人達ならば、私を護送するだけだと言うのに、そんなに濃密な殺気は撒き散らさないだろう?」

「……此れでも抑えてた心算なんだけど、意外と鋭いじゃないのハーディス・ヴァンデインさん?」


おやおや、矢張り管理局の人ではなかったか。
見たところ野良感染者と言う訳でもないようだが、一体私に何の用かな?それ以前に、先ずは名乗るのが礼儀だと思うのだけれどねぇ?


「こりゃ失礼――まぁ、私等は歯牙無い地方ファミリーだから、名前を覚えて貰う必要はないわ。
 で、私等の目的は只一つよ?……ズバリ聞くけど、『原初の種』は何処?アンタは間違いなく其れを知ってるわよね?素直に吐いて欲しんだけど?」

「あぁ、アレねぇ?……正直言って、私も本当の所は何も知らないんだよ?
 原初の種にしても、詳細を解明する前にこうして逮捕されてしまったモノでね?残念ながら、君達に教えてあげられる事は何もないんだよ。」

「それで、誤魔化されると思って?」


いや〜〜、そうは思って居ないけど、出来れば此れで退いてほしかったと言うのが本音なんだよ。
幾らアポなしで現れた無粋者が相手とは言え、下手したら死にかねない大怪我を追わせてしまうのは流石に抵抗が有るのでねぇ?


「驚いた……如何にか出来る心算で居たの?」

「こんな事を言うのは気が引けるんだけど――この私を前にして、少々頭が高いよ君達?」

まぁ良い、そんなに知りたいなら教えてあげようじゃないか、君達の知りたい事を――思う存分、その身体で味わってくれたまえよ?













魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force29
『Zeichen der Ruine』











Side:ルナ


此れは……突入しようとした瞬間に、収容施設を覆いきった此の薔薇の蔦は、フッケバインの誰かの能力だな?……地味に面倒な事をしてくれる!
しかも、無駄に棘が鋭いおかげでダメージ覚悟で飛び込む事も出来ない――




――
と、普通はそう考えるんだろうが、相手が悪かったなフッケバイン!!
如何に鋭い棘を持っていようとも、所詮は薔薇の蔦に過ぎん!――この程度で私達を足止めする事など不可能だぞ?穿て、ディバインバスター!


――ゴガァァァァァァァァァァァン!!


「魔導殺しが使った病化能力を、魔力砲で吹き飛ばすとは、トンでもないチートキャラだなお前は……いや、今更とは思うけれど。
 だが、此れで邪魔はなくなった――全軍突撃で良いんだろう?」


いや、トーマとアイシスとロサが奴等と接触するのは拙いから、3人は此処で待機。
いざと言う時の為に――


「うぃっす〜〜!ウェンディ・ナカジマ、増援要請を受けて現着したッス、ランスター執務官!」

「ご苦労様、ウェンディ。」

ウェンディが到着したか……となると、エリオとキャロは3人の護衛も兼ねて待機。
反対にアイシスは一緒に来てくれ。魔導に頼らない君の戦い方は、魔導殺し相手には有効だからね。


「了解しました!」


何れにしても、フッケバインとヴァンデインが交戦状態になってたら、先ずは其れを止める事が先決だ!奴等の邂逅は何が起きるか分からんからな。
急ぐぞ!



――ウゾウゾウゾ……


ちぃ、吹き飛ばした端からウザったい!
この程度は足止めにもならないと言ってるのが分からないのかお前達は!貫け、ディバインバスター!!


――キィィィン……ドガバァァァァァァァァァァァァァァン!!


「そう言いながらも、妨害がまるで妨害にならないとは、本気で何でもありかお前は?
 言わせて貰うならば、態々私やゼロの少年が来なくとも、お前一人が出張れば大体如何にかなったんじゃないかと思うんだが、その辺如何思う?」

「そうかも知れないが、幾ら私でも、フッケバインの連中と、得体の知れない眉毛を一人で相手にするなんて御免こうむりたい所だ。
 真面に戦えば勝つだろうが、搦め手やら何やらを織り交ぜられたら、流石に対処しきれんよ……なのはだったら纏めて吹き飛ばすだろうけれどね。」

「ルナさんも纏めて吹き飛ばせると思うんですけどね……」


其処は突っ込むなアイシス。私だってやろうと思えば出来なくもないが、ピンポイントで吹き飛ばすのはあまり得意じゃないんだよ。
どうせ吹き飛ばすなら、この辺一帯を広域魔法で纏めて吹き飛ばして更地にした方が何かと早いからな?――まぁ、やらないが。


「この辺一帯を更地って………冗談ですよね?」

「割とマジだが?
 祝福状態でトランザム発動すれば、多分ミッドチルダ全域を一撃で更地にする事も出来るだろうな。あ、なのはも多分同じ事が出来ると思うぞ♪」

「空恐ろしい事を、物凄く良い笑顔で言わないで下さいよ!!」


まぁ、私もなのはもそんな事はしないから安心しろ。
私達がこの圧倒的な破壊の力を向けるのは、救いようの無い愚か者か、この世の害悪にしかならない外道か、争いの火種になるだろう者だけだ。
平和に暮らしてる人々を、ムザムザ争いの渦中に退き込むような事はしない――君の様に巻き込まれた人も、出来るだけ護る心算だから安心しろ。


「む……護られてばっかじゃないんですからね!!
 と、あの扉の向こうが収容所ですよね?……確か収容所の扉って、外からも中からも破れないくらい頑丈に出来てるんじゃなかったんでしたっけ?
 十中八九ドアはロックされてるだろうし、如何するんですか此れ!?」


破れないのはあくまでも『常識で考えた場合の最大の衝撃』に対しての事だろう?
私とサイファーが居るこの状況に置いては、そんな常識はまるで意味を成さない!!ぶち抜くぞ、サイファー!!


「言われるまでも無い……砕けろ!!

華と散れ!




――ズバァァァ!!………ズゥゥゥゥン……



私の居合と、サイファーのクロス斬りのコンビネーションで斬れない物などない。
最高の硬度を誇る収容所の扉が、まるで豆腐のように斬れたが――矢張り居たかフッケバイン。管理局員に化けてまでとは、ご苦労な事だな?


「ホント苦労したわ〜〜〜。変装用の衣装を揃えて、システムにハッキングして感知システム狂わせて、更にドンパチの用意までして其れで此れよ。
 って言うか、苦労したと思ってるならもうしばらく大人しくしてて欲しかったんだけど、相変わらず特務のお嬢ちゃん達は無粋ですこと。」


何とでも言え。その無粋者の乱入が有ったからこそ、貴様等は全滅を免れたと言うのが分からないのか?
突入前から妙な感じがしていたが、もしもあと一分私達の突入が遅かったら、貴様等は纏めてヴァンデインに狩られていたぞ?略間違いなくな。


「いやいや、其れは幾ら何でも過大評価でしょう?
 彼等が手を出して来たので、生徒防衛として身を守りましたが、戦闘能力の高いエクリプスドライバー2人を倒す等、私に出来る筈ないのでは?」


……私に、その薄ら笑いでの誤魔化しが通じると思ってか?

まぁ良い、この場に於いては貴様をどうこうするよりも、勝手に侵入して好き勝手やってる馬鹿共を鎮圧、逮捕するのが先決だから深くは聞かんよ。



でだフッケバイン、大人しく投降するならば手荒な真似はしないが如何する?
見たところ、今回は明らかに戦場に出て来るべきではない者を連れてきているようだが――そいつを護りながら戦いきれるとは思ってないだろう?


「そうなのよね〜〜〜?
 この子――ソニカってば、能力は凄く優秀なんだけど、如何せん戦闘力に関しては『たったの5?ゴミか』ってレベルだから、ドンパチとなると……」

「足手纏いなだけだ、戦闘要員として、ヴィルかスコールを連れて来るべきだったな?」

「やっぱし〜〜〜?あんまり人数多いのもどうかと思ってのチーム編成が仇になったわね此れ。」

「……アンタ等、アタシを馬鹿にしてんのかい?」


馬鹿にしているのではなく真実だ。
貴様が何か特別な力を以って居るのは感じ取る事が出来るが、戦闘に関しては素人そのモノだろう?戦場に付いて来る事がそもそも間違いなんだ。

あぁ、言っておくが『こんな事になるとは思わなかった』などと言う意見は聞かんぞ?
少なくとも敵地に乗り込んでくるんだから、規模の大小は有れ、戦いが起きると言う事は予想して然りなのだからな?

「其れとも、自分達ならば如何にか出来ると思って居たか?――だとしたら大した自信……いや、愚かすぎる過信だよフッケバイン。
 戦闘員がたった2人で、此れだけの戦力を相手に出来るとは思ってないだろ?幾ら貴様等が魔導殺しの力を持っていたとしてもだ。
 何よりも、貴様等よりも遥かに強い力を持ったエクリプスドライバーが2人も居る時点で、既に貴様等は詰んでいるんだ――其れでもやるか?」

「貴女達を倒すのは難しいかもだけど、でもお仕事の邪魔をされたのは良い気分じゃないのよね?
 まぁ、トンズラかますにしても、一発ブチかましとかないと一家の首領としての立場もないし、ちょ〜〜〜〜っとだけ付き合って貰うわよ?」


やれやれ、此れだから破壊衝動を抑え込んだと思い込んで、破壊衝動が感情の一部に組み込まれている奴は性質が悪い。
どんなバカだろうとも、圧倒的に強い相手には本能で戦うべきでないと察して退くが、貴様等フッケバインは其れをも無くした馬鹿集団そのものだな。

破壊衝動が常時感情の中に潜んでいると、恐怖の感覚鈍り『生存の為に逃げる』と言う生物の基本的本能が押さえつけられて好戦的になる。
その結果、逃げるべき場面に於いても敵に牙を剥いて戦いを仕掛けるようになる……まぁ、限りなく不死に近くなる事も原因なのだろうがな。


だが、牙を剥いた以上は命を狩られる覚悟は決めておけよ?


――ズン!!


「え?」


良いタイミングだフェイト、私の月影とお前のバルディッシュに貫かれ、更にチェーンバインドで拘束したコイツは動けない!!


「うん!!……雷光の元に散れ!!」


「「ダブル・サンダーレイジ!!」」


――バリィィィィィィィィ!!!


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
 ………あぐ……そんな、魔道が如何して私達エクリプスドライバーに効果を発揮できるの……全然分断できなかっただなんて……」


生憎と、こっちには推定IQ300と言う大天才兼正義のマッドサイエンティストが居てね?
魔導殺しにも有効な攻撃の出来るデバイスや、対EC装備なんかを日々開発してくれてるおかげで、貴様等とも対等に戦えるようになってきてるんだ。



「ぐ……この、ドカスが――死にたいらしいな?」

「ドカスとは私の事か?ならば、貴様は其のドカス未満のゴミクズだな三下。
 取るに足らないメスガキと侮って居たアイシスの爆薬攻撃で出鼻をくじかれ、今こうして私に圧倒されているのだからな?貴様は所詮ゴミに過ぎん。
 いや、比較するにもゴミや屑に失礼極まりないな、この三流にすらならない糞未満の汚物が。マッタクもって汚らわしい。」


あっちの戦いみたいにな。

うん、弩S全開で言いたい放題だなサイファーよ――マッタク持って、どっちが悪人か分からんぞ?
……私達『ホワイトナイツリベリオン』が、そもそも何方かと言うとダークヒーロー系だから、あながち間違ってはいないと言えるかもしれないけどね?


――時に、大丈夫かフェイト?


「バルディッシュを突きたてる瞬間に反撃されたけど、此れ位は大丈夫。
 お腹を斬られたけど、精々表皮化の筋肉を少し斬られた程度だから、応急処置しておけば、後でシャマルに治して貰えるから。」


其れならば良いが――さて、如何するフッケバインよ?
これ以上続けると言うならば相手になるが、これ以上やるとなったら今度は本気を出す――身体を貫いて電撃を浴びせる程度では済まさんぞ?

大人しく投降するならば拘束してお終いだが、抵抗するならば――全力を持って叩き潰す。
よく考えて答えを出すが良い。



「どちらもお断りよ?……てな訳で、選択肢その三『この場から離脱する』と選ばせて貰うわ。
 其れとルナちゃん、本当に危険なのは私達よりも、其処のインテリよ?私達を追う暇が有ったら、ソイツを如何にかしておくべきだと思うわよ?
 ……あ、今の言い方だと強かったかな?……じゃあ、今のはお願い――フッケバインのカレンちゃんからのお願いって事で聞いといて頂戴〜〜♪」



!?……一瞬で姿が変わった!?
しかも、その影響で力が凄まじいほどに高くなって居る!!――此れはまさか―――!!


「じゃあ、お暇しますんで!!」


――ボン!!!


!!!……逃走用の煙幕とは、古典的な手乍らやってくれたな?
しかもこの煙幕には、索敵を不可能にする効果もあるようだ……よもや、逃走用にこんな切り札を用意していたとは――やってくれる。

とは言え、この煙幕に乗じて逃げられるのは戦闘員のみ……非戦闘員では、足が竦んで動く事も出来ない筈だ。
先ずは、お前を逮捕させて貰おうか、ソニカと呼ばれていた、場違いの少女―――!?なんだ今の感覚は?なにか、何か大きな事が起きたような…


煙幕で何も見えんが、一体煙幕の向こうで何が起きていると言うんだ?








――――――








Side:ソニカ


正直に言うと、この場に付いて来た事を此処まで後悔するとは思わなかった。


だってそうでしょ?
ヴァンデインの考えを読み取るって言う楽な仕事だと思ったら、弩派手なドンパチは起きるし、ヴァンデインに殺されそうになるしで――


だけどそれ以上に、逃げ遅れたアタシを殺そうとしたヴァンデインから、ヴェイが護ってくれた。
でも、だけど―――!!


「君は邪魔だね?目障りだったし――消えて良いよ……


――ドクン!ドクン!!


そんな……こんなの嘘でしょ?
ヴェイを叩き伏せたヴァンデインのレプリカディバイダーの切っ先に刺さってるのは、紛れもなくヴェイの心臓……心臓を抉り出すなんて、そんな――


『取り敢えず、何とか逃げ果せたけど、そっちは如何かしらソニカ?無事に逃げられた?』


無事じゃないよ!!
ヴェイが……ヴェイがヤバイ!!心臓もってかれて息もしてない!!

如何するの?――このままじゃ、ヴェイが……ヴェイが死んじゃうよーーーーーーーーー!!!















 To Be Continued…