Side:ルナ
ヴァンデイン逮捕から数日経つが、今日も今日とてどの局のニュースも、ヴァンデイン逮捕の彼是で持ちきりか。
まぁ、大手企業の重役が逮捕されたと言うのはマスコミ共にとっては格好の餌だろうからね?こぞって喰いつくのも無理はないと言うところだろうね。
尤も、各局共に、其処に独自の憶測を織り交ぜてのある事ない事を津々浦々と報道するのは流石と言うか何と言うかだな。
それが思わぬ追加効果となって、経営陣トップの謝罪もむなしく、ヴァンデイン社の企業生命は文字通り『風前の灯火』状態になっているのだが……
まぁ、其れは良いさ、言うなれば『身から出た錆』だからね。
悪逆非道が裁かれるのは良い事だが、野良感染者やフッケバインの案件は片付いていないし、ヴァンデインの事も取り調べが済んでない状態だ。
少なくとも、拘留中にヴァンデインが我々に牙を剥く事は無いと思うが、フッケバインや野良感染者が、どんな凶行に打って出るかは想像出来ん。
「其れは言えてるね……こと、野良感染者は其れこそ何をしでかすか分からないよ。
私やルナ、サイファーみたいに、完全にエクリプスを制御してるなら兎も角、不完全な制御も出来てないん野良感染者は危険極まりないかもね。
勿論、エクリプスの力を盛大に勘違いしてるフッケバインファミリーもまた、最大級の危険分子なのは確かだけど。」
「来たら来たで、その都度斬り捨てるのが一番簡単だが、ヴァンデインをなんとかしなくては所詮はいたちごっこの無限ループになってしまうだろう。
あの胡散臭い優男が、此方に有利になる行動でもしてくれればありがたいんだが――其れを望むのは難しいだろうな。」
あぁ、アイツは大胆でありながら慎重だからね……やり辛い事この上ないよ。
だが、奴が拘留されている以上、拘留場所にフッケバインや野良感染者が現れる可能性は極めて高いからね……先ずはそいつ等を叩くとしようか!
ソロソロ地に降りて貰うぞ……フッケバイン。
魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force28
『Malice and desire begin to move』
で、ホワイトナイツ・リベリオンの会議(?)は終わったので、本局の方に顔を出したんだが――ふむ、何とも美味しそうな匂いがするな?
匂いの元は厨房から……誰か料理でもしているのかな?
「わ〜〜、美味しそう!チキンと野菜のサンドイッチ、ティアさんの大好物だよね其れ?」
「いやいや、キャロちゃんだって見事なお弁当だと思うよ?そのおにぎり、凄く美味しそうだし。」
「疲れた時にはやっぱり和食!
フェイトさんは、子供の頃は日本で暮らしてたらしいから♪」
なんだ、厨房を使ってたのはトーマとキャロか。
そう言えば、今日は六課の大多数がヴァンデインの護送の為に、拘留場所に出向く事になって居たね……その為のお弁当作りと言う事かな?
「あ、おはようございますルナさん!」
「そうなんです、手軽に食べられるお弁当作りです。」
「朝から精が出るね……ふむ、トーマが作ったのがサンドイッチ弁当で、キャロが作ったのがおにぎり弁当か。
和と洋の携帯食をメインにした弁当乍ら、おにぎりもサンドイッチも、単品で総合的な栄養を摂取できる優れた料理だから、チョイスも悪くないな。
しかも、どちらも食べやすい大きさに作られているし、移動しながらの事も考えられている――ふむ、どちらの弁当も満点に近い点数だね。」
「ホントですか?……あ、何なら味見してみて下さい!」
良いのか?……では、お言葉に甘えて――ふむ、良い味だね。
チキン単体の味は濃い感じだが、生野菜やパンと併せるなら寧ろ此れ位の方が良いだろう。桃子には遠く及ばないが、見事な味だぞトーマ。
それにしても、この弁当数は凄まじいな?
私とサイファーもまた、ヴァンデインの方に出張るからその分も含まれているだろうし……一体何時から起きて調理をしていたんだ?
「「5時半からです!!」」
「本気でお疲れ様でした!」
そんな早起きとは思わなかったよ……有り難く頂かせて貰うよ、2人の心のこもった弁当をね。
しかしまた凄い量だな此れは?既に現場に向かってるフェイトとティアナへの差し入れと、私達の分にしても多過ぎないかな?
「一応、六課全員分を作ったし、雷華さんは軽く4人前くらいは食べると思いまして……」
「まさか……8人前は食べるぞ。」
「「うそ!?」」
マジだ。あの子は子供の頃からよく食べる子でね?大人になって、更に食べる量が増えたらしい……本人に言わせると全て消費するとの事だがね。
でもまぁ、この量でも充分だろう、場合によっては星奈と冥沙が雷華に分けるだろうし、この量だとゆうりは食べきれないだろうからな。
「わ〜〜〜!ゴメンゴメン、遅刻した〜〜〜!!」
「「「「おはようございます。」」」」
「うん、おはよう!」
「おはようスウちゃん…でも完璧に遅刻!
もうお弁当作り終わっちゃったよ?残念ながら、スゥちゃんの出番なし。」
「え〜〜〜!?アタシてばなんかタイミング悪くない!?」
まぁ、そう言う事も有るさスバル。
だから逆に考えるんだ、自分が来た時にはもう、頼れる弟分が全ての準備を完了し、後は出発するだけの状態にしてくれていたとな。
「あ、そう言う考えもあるか。
じゃあそう言う事にして、リリィとアイシス、其れとロサもそろそろ出かけようか?」
「アレ?トーマだけじゃなくて、アタシ達もですか?」
「そう。ハーディス・ヴァンデイン容疑者を、ミッドチルダ地上本部へ護送。
執務官2人と、先行してるエリオ、私とキャロ、ホワイトナイツリベリオンからルナさんとサイファーさんが同行しますが……
トーマを含めた訓練生4人組も、護衛として帯同します。宜しくね?」
「「「はい!」」」
「で、出発なわけだけど、ルナさん、サイファーさんは?」
あぁ、アイツなら『大人数で移動するのに丁度良い車を借りて来る』とか言って、車両貸出しの申請に行ったが……そろそろ戻ってくるんじゃないか?
何を借りて来る心算かは知らないけれどね。
「待たせたなひよっこ共、車を借りて来たぞ。」
「サイファー、いや良いタイミングだ、今から出発しようと思って居たところさ。
それで、一体どんな車を借りて来たんだ?」
「人数が多いから、武装小隊を現場に連れてくのに使う、特殊装甲車を借りて来た。アレなら頑丈だしな。」
……色々と突っ込みどころは有るが、確かにこの大人数で移動するには適していると言えなくはないチョイスだな?車体の頑丈さも一級クラスだし。
だが誰が運転するんだ?私は大型の免許は持っていないぞ?
「あ、大丈夫ですアタシが運転しますから。
自慢じゃないですけど、こう見えてアタシは大型特殊以外の運転免許全部取得してたりしますから!」
「普通に凄いな其れは!!」
「エッヘン!」
なら運転は大丈夫か。では行くとしよう!
「「「「「「出発〜〜!」」」」」」
さてと……ヴァンデインを拘留してる場所に、フッケバインの連中は現れると思うかサイファー?
「先ず間違いなく現れるだろうよ。
あのインテリは、エクリプス発見者のリオン・アークヒール以上にエクリプスの事を知っている……其れを奴等がみすみす見逃すとは到底思えん。」
「矢張りそうだよなぁ……奴等と一戦交えるのは確実か。
真面にぶつかり合えば絶対に勝つだろうが、カレン・フッケバインは裏技も得意のようだからな……其れを駆使されると些か面倒かも知れん。」
尤も、それ以上に面倒且つ危険なのが、護送対象であると言うのが笑えない事実なんだがね。
カート曰く、私でなければ勝つ事が出来ないと言うヴァンデイン……エクリプスの力を得ているのは間違いないだろうが、奴は一体何なんだろうな…
――――――
Side:なのは
うん、海上は穏やかで異変は今のところない感じね……姉さん、グレンデルファミリーを収容してる施設の方は如何?
「異常なしよ、今のところはね――あの子達もエクリプスドライバーだから、その力を使って脱獄とかはしそうだから、油断は出来ない感じだけど。
……にしても、6年の間に本当に変わったわよねなのはは?昔は天真爛漫を絵に描いた様な子だったけど、今は白夜の聖王の威厳を感じるわ。」
6年あれば人は変わるモノだよ?
キスティの一件以来、色んな戦場に出て、其れこそ数えきれない命を奪って来たからね……性格だって変わるよ。聖王化も影響してるだろうけどね。
聖王化は強力だけど、使う度に私の性格がドライになって行くのが分かったよ。
或は、若しかしたらオリヴィエは、眼前に立ちはだかるであろうクラウスを倒すために、己の心を殺していたのかも……その影響を受けたのかな?
「かも知れないけど、性格がクールでドライになっただけで、喜怒哀楽の感情を失った訳じゃないでしょ?
きっとオリヴィエも、喜怒哀楽を殺したんじゃなくて、クラウスが躊躇しない様に『心を殺した姿』を演じたんじゃないかな?」
「そうかな………そうかも知れないね。
ふふ、アリサが今の私を見たら、滅茶苦茶突っ込みを入れてきそうだね?場合によっては、小一時間ほど何があったのか問い詰められるかも。」
「あ〜〜〜……確かにそう成りそうだわ。」
まぁ、エクリプスの一件が落ち着いたら、一度海鳴に戻る心算だから、その時はそうなるかも知れないけど―――
――ドガァァァァァァァァァァァァァァァン!!
「「!!?」」
収容施設で爆発!?
其れに、海上を疾走する小型ボートに乗ってるのは……グレンデル一家!!――はやて、一体何があったの!?
『ったくやってくれたわ……言わずもがな、グレンデル一味が脱走しくさったわ!
話の分かる子やったし、良い子で居てくれたらよかったんやけど……流石に収容施設で大人しくしてる様な子やなかったって所やろうね。
まぁ、不幸中の幸いっちゅーか、施設内の職員や他の収容者に負傷者ないって事やけど……だからって、彼等を見逃す訳には行かへんやろ?』
「と言うと?」
『今回の一件は、あの子達への貸し一つと言う事にするっちゅー事や。
取り敢えず、そう言う訳で……現場上空の高町美由希一尉と、高町なのは特別協力員に攻撃を許可します。』
「「了解!!」」
レイジングハート、バスターカノンモードスタンバイ!
ロングレンジバスター、炸裂徹甲魔力弾装填完了……ファイア!
『I fire the explosion magic bullet at a target.(炸裂徹甲魔力弾、撃ちます。)』
「ふぅぅぅ……御神流極意、一刀流居合い――無影閃!!」
――ドガバゴォォォォッォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッォォォォォォォォォオォン!!
「「「「べぎゃらっぱぁぁぁぁあ!?」」」」
我乍ら、この徹甲魔力弾は良く出来たと思うな。
姉さんの、間合いを無視した居合いの一撃も見事だったし――取り敢えずボート撃破、施設のヘリと協力して4人の回収に当たるね?
『はい、宜しく〜〜〜〜♪』
ノリが軽いなぁはやては?まぁ、其れが良い所だと言えるかもだけどね。
其れは其れとして、脱獄を計った4人とも聞こえてる?元気なのは良い事だけど、ヤンチャは程々にしてね?色々と面倒な事になるから。
「ワハハハハ、まさかエース様と、白夜の聖王様が居るとは思わなかったぜ〜〜〜」
「ついてねぇ……アタシ等徹底低的についてねぇ……」
とは言え、撃墜されたにもかかわらず、割と余裕だねグレンデル一家の子達は。
此れは若しかしたら、やり方次第では完全に此方の味方にする事も可能かも知れないね?……そっちの方を本格的に検討しても良いかもだね。
「取り敢えず、回収される前に言う事はあるかな?」
「回収される前に、アンタ等の乳揉ませてくれ。」
「「死ね。」」
『Then down to hell you go.(地獄に落ちなさい。)』
――メキィィィィ!!……シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……
「ぶがあぁぁぁぁ!?」
……他に言いたい事はあるかな?
「「「何もありません!!!」」」
ならば良し……大人しく、ヘリに乗り込んでね……ふふふ……カートには、セクハラの罪も追加した方が良さそうだね…
「馬鹿は死んでも何とやらとは言うけど、まさか此処であんな事言うとは思わなかったわ……馬鹿でアホの極地を甘く見たらいけないわね。」
マッタク持ってその通りだよ姉さん……だけど、此れであの子達は二度と脱獄なんて真似は出来なくなったし、しようとも思わない筈。
それに、普段は馬鹿でアホでも、カートだって首領を名乗っている以上、大事な取り引きの場では道化ではなくなるだろうし――交渉次第だね。
そう言えば、そろそろルナ達がヴァンデインの所に到着する頃だけど、大丈夫かな?
ルナとサイファーが出向いてるから、フッケバインが強襲してきても如何にか出来ると思うんだけど…何だろう、何かが起きる気がする…何かが…。
――――――
Side:ルナ
さてと、現着した訳だが、今のところは何も起きていないようだな?まぁ、起きたらこんなにゆったりとはしていられないんだがね。
しかし、辺鄙な場所とはこの事だな?
幾ら取材攻勢を避けるために、そして万が一の脱獄や襲撃が起きた際に被害を最小限にする為とは言え、こんな場所に作らなくてもいいだろうに。
尤も、フッケバインの連中だったら普通に襲撃して来そうではあるが――ヴァンデインは、大人しくしているのだろうか?
「今のところは大人しく……ともすれば普通に生活して居ますよ。」
「ティアナか……大人しいのは良いが、其れが逆に不気味とも言えるか…」
奴の腹の内は如何にも読む事が出来んのは確かだからな……何が目的でエクリプスに手を出したのかすら、想像も出来んよ。
だが、奴の描く未来が平和なモノでないのは明らかだからね?事が大きくなる前に潰してしまった方が良いのかもしれないな、彼とフッケバインは。
――キュピィィィン!
「「!?」」
「ルナさん、サイファー、如何したの!?」
此れは……本当に一瞬だが、エクリプスドライバーの力を感じた!!其れも野良感染者のモノではない――此れはフッケバインのメンバーだ!!
既にここに来ていたのか……ギリギリまで気配を消してか――此れは完全にしてやられたな……!
全員武器を持て!!フッケバインがこの場に現れた!!
狙いは、恐らくハーディス・ヴァンデイン容疑者だ……早急に対処するぞ!!
「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」
先ずは、私とサイファーが先行する!……行けるな、サイファー?
「当然だ……面倒事を引き起こす凶鳥は、此処で空から地上に引き摺りおろして叩きのめしてやるさ。」
至言だな……ヴァンデインの事よりも、先ずは目障りな凶鳥から始末するのは道理だと言えるからね?
フッケバイン、その翼をそろそろ叩き折らせてもらうぞ――!!
To Be Continued… 
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