Side:なのは


「追撃の許可は出ずか……徹底的に追い詰めてやりたかったんだがな。」


其れは仕方ないよ。
組織運営の観点から言えば、余計な深追いはしないに限るし、斬り落とされたスコールの腕は貴重なエクリプスのサンプルになった訳だからね?

グレンデル一家も全員確保したし、此処で深追いをしても此方の『利』になる事はないから、少し我慢しようかサイファー?


「頭では分かっているのだが、あの愚妹を相手にすると如何してもな。
 まぁ、グラディエーターもバッテリーが限界だった事を考えると良いタイミングで、アイツは逃げたのかもしれん――バッテリーの稼働時間延長が課題だな此れは。

「其れはジェイルさんなら何とかしてくれると思うから大丈夫だよ。」

ジェイルさんも、此れはあくまで『試作品』って言ってたから、幾らでも改良の余地はあると思うし、改良する心算全開だからねあの人は。
けど、サイファーのお蔭で良いデータを得る事は出来ただろうから、此れから先に一般局員でも使えるAEC装備が出来上がる事は間違いないよ?


何れにしても、グレンデル一家を確保出来たのは大きいって私は思ってる。

彼等は黒幕に忠誠を誓ってる訳じゃないみたいだから、場合によっては重要な情報を得られるかもしれない……そう思ってないとね。


だけど、私も、ルナも、サイファーも黒幕の正体には大体の見当が付いてる。


私達の予想が正しければ、エクリプスに関する一切の剣の黒幕は――ハーディス・ヴァンデインである事は先ず間違いないみたいだからね……!













魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force25
『A truth of an event…?』











Side:ルナ


一応現場に居たと言う事で、トーマ達と共に護送用のヘリに乗り込んで、グレンデルの連中を監視して居る訳だが……


「くそぉ……外れねぇ……ドンだけ強烈に縛ってやがんだコンチクショウが!!」


手負いであるにも拘らず元気な事だ。その元気を別方向に向ければ大成するかも知れないが――生憎と、其れを見過ごせる私じゃないんだ。
無駄な抵抗はしない方が良いぞ?

この光学モニターに映ってる人が誰なのか?……知らない人は皆無だよなぁ?


「こ、これは!!嘗てゆりかごを落とした、管理局の最大戦力――八神はやて特務佐官!?」
 若しかしなくても、テメー等の隊長ってコイツか!?」

「其れと一緒に居るのって、管理局が誇る最高クラスの居合い剣士『高町美由希』?……此処までの戦力は予想して居なかった。」


因みに私もまた、ゆりかご撃墜に一役買った者でね。
マッタク、全身に血のシャワーを浴びるなんて事は二度と御免だよ―――

其れとだ、もっとダメ押し的に言っておくのならば、今現場に出てるのはタイマン勝負ならば全員がはやて嬢に勝てる騎士と魔導師だ。
その内、私と互角レベルに戦える物が数人ほどいるしね?脱出や抵抗など考えない方が良いぞ?やるだけ無駄だからな。


「嘘だろオイ……マジで豚箱行きかよ!?…笑えねぇ……」

「つーかさ、逃げられると思ってたの?
 アタシにも勝てなかったのに、ルナさん達に勝てるわけないでしょ?……ルナさんは――多分、最低でもアタシの1000倍は強いと思うから。」

「嘘だろオイ!?」


1000倍ね……祝福状態でトランザムを発動すれば、10万倍は下らないかもしれないがな。

それで、何時まで寝たふりをしてる心算かな首領君は?


「……んだよ、ばらすなよ銀髪の姉ちゃんよぉ?
 せ〜〜〜〜〜っかく、マリーヤが絶望ってる時にタイミングよく起きて、カッコいいセリフ決めようと思ってたのによ〜?空気読めよ〜〜〜!!」

「断る……と言うか、私達にフルボッコにされた挙げ句に、今は護送中だと言うのに元気な事だ。」

この感じだと、黒幕連中への忠誠は低そうだし、事と次第によっては案外簡単に黒幕の事を聞きだせるかもしれないな。
尤も、彼等の頭の中にあるであろう自壊ユニットを、如何にかして機能停止させる事が必須にはなるんだが。



それにしても、この子達は一体何時何処で感染したんだ?
資材やその他の提供は、フェイトが睨んでいるように『ヴァンデイン』が行ったと見て良いだろうが、彼等の感染も果たしてそうなのだろうか?

ヴァンデインが感染実験を行った疑いがあるのは、以前にサイファーと訪れたような未開地区での無差別選別だ。

が、一般人がエクリプスに適合できる確率は極めて低い――其れこそ、街一つを実験場にして、生存者が一人も居ないと言う位に。

私となのはとサイファーの様に、適合して更に身体に完全に馴染んでその力を完全に制御するとなれば更に確率は低くなるからね?
私となのはとサイファーは、正に天文学的な確率で現れた存在って言えるだろう。

其れを踏まえると、高々ギャングやマフィアの一団全員が丸々適合者だと言うのは、0ではないがあまりにも確率が低すぎる……って、如何した?


「いや……何て言うか、ルナさんの思考能力と言うか、考えの深さに感服してると言いますか……」

「やっぱりルナさんは『出来る女性』の見本みたいだなと、改めて思って居たり……」

「ルナさん、カッコいい……」


「其処まで推測してるたぁ、恐ろしいなアンタは……」

「こう見えて、既に1000年以上生きている年寄りだ、物の見方も深くなるさ。
 其れに、君達から証言を取る事が出来れば、件のヴァンデイン氏への強制捜査令状も取れるだろうからね――真相もきっと分かるだろうさ。」

「……俺等が口割らねぇって事は考えてないのかよ?」


其れが不思議と、その考えだけはないんだよ。
自壊ユニットの存在を考えれば、君達が軽々しく口を割る事は絶対に無いんだが、何と言うかそうでもない気がしてね?年寄りの勘と言う奴かな。

まぁ、此れから始まる個別尋問で、色々聞かせて貰うさ。








――――――








Side:ドゥーエ


んで、取り調べ開始。
ルナはコイツ等を下ろすと同時に『まだ向こうは終わってない――寧ろ此れからが本番だ』って戻っちゃって、私がトーマ君と一緒に取調室にね。

にしても態度悪いわねコイツ……取り調べ中にチョコレート食べるとかどんな神経してるのかしら?ある意味で大物と言えるかもしれないけど。


「まぁ、ヘリでの会話から大体察してるとは思うが、俺等の頭の中には『自壊ユニット』って小型爆弾が埋め込まれてんだわ?
 分かり易く言えば『契約の首輪』って所だな。
 『黒幕に関する事実関係の自白』をしようとすると、『ボン!』で脳味噌ぶちまけて即死って寸法だ。話さないんじゃなくて、話せねぇって事だ。
 でだ、其れを踏まえて取引と行かねーかゼロの坊や?
 なに、難しい事じゃねぇ。俺が黒幕の事ゲロってやっから、代わりにうちのファミリーを解放しろって話さ……難しい事じゃねぇだろ?」


話せない理由を言ったうえで取引か……アホだけど頭は悪くない――本当に必要な時には必要な判断が出来るみたいねこの子は。
だけど、其れはつまり自分の命を対価にするって事?……まぁ、アンタ一人で済むなら安い対価かも知れないけど――


「ダメだ!命を引き替えになんて!!」

「タコ、此れでも一家の首領張ってんだぜ?
 次の首領はマリーヤがやれば良い……少し荒っぽくてガサツなところもあるが、アレはアレで仲間思いだから俺が居なくても巧くやるさ。」

「そう言う事じゃない!確かに、俺達だって黒幕の情報は出来るだけ早く欲しいよ?
 だけど、其れが人の命と引き換えにしてでの事だったら逆に要らない。俺達は、君達の事も助けなきゃいけないんだ!!」

「……ま、尋問中に犯人が死んだとなっちゃ、書類上面倒だろうからな。」

「其れも違う、俺は人が目の前で死ぬのは許せないってだけ。そして、自分が何も出来ないのが嫌ってだけ……言っちゃえば、俺の我儘だよ。
 だけど、ルナさんがクインに止めを刺そうとした時に改めて気づいたんだ……『俺は人が死ぬのを見過ごせない』ってね。
 まぁ、お姉が救助隊の人だから、知らず知らずのうちに影響受けてるのかもしれないけどさ。」


――ヤッパリ甘いわトーマ君て。
普通ならカートを斬り捨てて情報を選ぶところだけど、自分の信条的に其れが出来ないなんて甘々も良い所――だけどその甘さは悪くないわ。

誰かを助けたいなら、自分の目の前では誰も死なせないって言う決意と覚悟は必要不可欠だからね……もちろん相応の実力も必要だけど。
そう言う意味では、後は相応の実力を付ければトーマ君は一気に大成するでしょうね。


――クシャリ


「え、あ……ドゥーエさん?」

「良い啖呵だったよトーマ君。六課の隊長さんが聞いたらきっと喜ぶわ。
 さてと、カート・グレンデル君、彼方達ファミリーの犯罪歴は見逃せるものじゃないけど、死刑が妥当って言うモノでもない。
 其れに、ドクターが彼方達の事を調べたから言うんだけど、白状したところで彼方達は死なない……違うかしらね?」

「…………」


取引はこうしない?
黒幕に関する証言をしてくれたら、グレンデル一家を特務六課、若しくはホワイトナイツリベリオンで保護。EC進行防止治療も施すって事で如何?


「あ、其れ今俺達が受けてるやつ!
 シャマル先生と、ドクタースカリエッティはマジ優秀!!」


「悪くねえが、断ったら?」

「断って欲しくはないわね?
 10年以上付き合ってる人の影響で、私は見た目よりも頑固なのよ……貴方がどんなに頑張っても、絶対に折れる気はないからその心算でね。」

「……OK、俺の負けだ――如何にもアンタ等と話してると調子が狂うぜ。
 まぁ、良いか。元々こっちにゃ痛む懐もありゃしねぇからな?――良いか、俺等をエクリプスに仕立て上げたのは――


ちょ、行き成り話すな!先ずは医療班を――


――バン!!!



「うごわぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁっぁぁぁぁあっぁあ!!!
 痛てぇ!!覚悟はしてたが、予想以上にいってぇぇぇぇえぇぇぇえ!!!」

「ちょ、カート大丈夫!?」

「死なねぇけど、ぶっちゃけ、ちょいとだいじょばねぇ!!!」


だから医療班呼んでからって言ったのに……やっぱり根本的にアホねこの子は――雷華と違って、可愛さの欠片も感じられないんだけどさ。


「だがまぁ、此処なら大丈夫って言う、俺の予想は当たってたな。
 ユニットは、本来頭蓋骨の内側に埋め込まれてんだが、そいつをちょっとした手品で首筋に移動させといたんだ、全員分な。
 厄介な事に、コイツは俺等の生体反応を見てっから取り出すのは勿論、頭から離し過ぎても爆発する――この辺がギリギリの安全圏なんだよ。」


外すに外せない首輪か……えげつないわね黒幕ってのも。
仕方ないとは言え、散々ぱら人を殺して来た私から見ても、完全に人の道を外れた行為よ此れは――コイツは地獄すら生温いかもだわね。


「まぁ、此れで俺等はヴァンデインからしたら裏切りモンだ。
 今の爆発で、俺等が全員死んだと思ってくれれば儲けモンなんだが、まぁ、そいつは天運に任せるしかねぇ。」


そう思ってくれれば彼方達も安全だからね。
だけどカート、改めてはっきり聞かせてくれるかしら?彼方達を感染者に変えて、今回の事を依頼した人物の事を。


「OK、確り録音しとけよ?
 ヴァンデイン・コーポレーション第八企画室のハーディス・ヴァンデイン専務が俺等の依頼主で――俺達をEC患者に仕立て上げた張本人だ。」


フェイトの読みは当たってたって事か。
だけど此れで証言が取れた、現場で待機中のルナ達も動く事が出来る――大怪我してまで証言してくれた事に感謝するわよカート?


「こっちは死ななかっただけで儲けモンだからな。
 だけどな、ヴァンデインの奴は如何にも普通じゃねぇ感じがビンビンだ……奴と事を構えるなら、さっきの銀髪姉ちゃんは絶対に居た方が良い。
 アンタ等の強さは疑いようがねぇが、ヴァンデインの其れは次元が違う――アイツに勝てる奴が居るなら、其れはあの銀髪姉ちゃんだけだ。」


ルナじゃないと勝てないって、嘘でしょ!?
でも、嘘を言って居るようにも見えないし……ハーディス・ヴァンデイン………アンタ、一体何者なのよ………!!








――――――








Side:ルナ


「お疲れルナ、あの子達は無事に護送出来た?」


多少騒がしかったが何とか無事にな。今頃は、個別尋問である程度の事が分かってるんじゃないか?
首領の所にはドゥーエに行って貰ったから、多分大丈夫だと思うしね。


「あぁ、あぁ……分かった、伝えておく。
 ……其れは知らん、そいつ等が生きるか死ぬかはそいつ等の生命力次第だ、私達の関与するところじゃない。」


通信かサイファー?何かあったか?


「ドゥーエからでな、あのお子様たちが口を割ったらしい――自壊ユニットは死なない位置に移動させてたとか言っていたが。
 ともあれ、此れで連中とヴァンデインの関係は明らかになった。奴等のリアクターも嘗てヴァンデイン社で押収した物と一致したらしいからな?」


其れは何とも上々の結果だな?
となると、私がこっちに戻って来たのは正解だな?――此れから始まるのは、件のヴァンデイン氏の逮捕劇だろうからね。




エクリプスは未知なる部分が多いが、完全に適合できれば最強の力を得る事が出来る。
だが、適合できるのは100人に1人居るか居ないかと言う極めて低確率な事だ――にも拘らずエクリプスの実験を行っていたヴァンデインか……






外道め。







今は逮捕で済ますが、貴様の悪道が証明されたその時は、月の祝福が貴様に断罪の刃をくれてやる――精々、お祈りでもしてるんだな!













 To Be Continued…