Side:アイシス


ほいっと、到着!!
スイマセン、移動に集中してたんで通信その他を聞けなかったんですけど、状況ってどうなってますか?


「此方と合流する事を最優先にしたと言うならば、多少の情報の取りこぼしも大目に見る。
 で、状況だが、襲撃現場にはグレンデル一家の構成員一名と、フッケバインの『スコール』が現れたようだ……まぁ、其れは如何にでもなるが。
 其れよりも、問題は襲撃現場から姿を消したグレンデルの『首領』と、未だ姿を見せないグレンデルの『狙撃手』だ。
 地点データを元に、既に区画封鎖は完了しているし、エリオとキャロが市街と市民への被害防止を最優先に動いているからな。」

「だから、アイシスには狙撃手の位置確認と確保をお願いしたいんだが――出来るか?」


合点承知!!
シグナムさんやアインスさんと比べたら、私はマダマダ全然ひよっこですけど、其れでも高々不良の狙撃手を確保する位なら任せて下さいよ!

相手がドレだけだろうとも、私達に稽古付けてくれたルナさん以上である事は絶対に無いんでしょ?
だったら大丈夫です!!……相手がルナさん以上か、或は同等でない限りは負ける気が絶対にしないから!!……絶対に狙撃手を確保します!


「その気合ならば、任せても大丈夫だな。
 だが、無理だけはするなよ?お前ひとりで無理だと感じたその時は、私でも将でもどちらでも良いから通信を入れてくれ。直ぐに救援に行くから。」

「了解です!」

「任せたぞアイシス!」


任されました!!



さてと、隊長さんと司令補佐に任されたんだからへまは出来ないよね?
まぁ、仕損じる心算なんて毛頭ありませんけど、こんな大事仕掛けて来た『グレンデル一家』には、相応の裁きを下してやりましょうかね〜〜〜!!













魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force23
『襲撃者の名――其れはグレンデル』











No Side


トーマは、目の前で行われている戦いから目が放せなかった……放す事が出来なかった。
目の前で行われているルナとクインの戦いは、トーマが此れまで見た事もないようなハイレベル且つ、凄まじく激しい戦闘であったのだから……

だが、トーマを惹きつけたのは其れだけではない。


「また避けるだけ……お前やる気があるのか?」

「あるさ……だが、あまりにも鈍い攻撃ゆえに、少しばかり遊ぼうと思ってね?
 あと5分以内に、私に決定的な一太刀入れることが出来たらお前の勝ちと言う事にしておいてやる……まぁ、無理だろうけれどね。」


戦闘が始まってこの方、ルナは最初の位置から殆ど動かずに、しかも月影を展開しないでクインの斬撃を捌き切っているのだ。
如何にクインのディバイダーが大型武器に分類されると言えど、殆ど動かずに徒手空拳で斬撃を処理するなど普通の人間には不可能極まりない。

だがしかし、ルナは普通ではない。
白夜の魔導書の管制融合騎であり、更にエクリプスドライバーという超特異存在なのだ、己の主である高町なのは共々。

そんなルナにとって、攻撃の軌道がまる分かりの斬撃を無効化する事などは赤子の手を捻るよりも簡単な事だろう。


――ガキィィィィン!!


「頸椎を斬り裂く心算で狙ったのならば、中々に正確な一撃だが、矢張り攻撃の軌道が読み易過ぎるな……其れでは私には勝てん
 そして、残念だが時間切れだ……此処からはお望み通り攻撃してやるとしようか!」

またしてもクインの一撃を完璧に防いだルナは時間切れを宣告し、反撃開始の合図とばかりに右のミドルキックをクインのボディに炸裂させる。
極端に死に難い身体を有したエクリプスドライバーであっても、カウンター気味に放たれたミドルキックを喰らえば大ダメージを受けるのは必至だ。


――バキィィ!!


其のまま蹴り足を振り抜き、クインを道路の壁面にまで吹き飛ばす!!
蹴りのダメージと道路の壁に叩き付けられたダメージ……この強烈な二重のダメージは相当に効いている事だろうが、ルナの攻撃は此処からだ。


「休んでいる暇など有るのか?」

「……速い!」

壁に叩き付けらたクインに一足飛びで肉薄し、体勢を立て直す暇を与えずに渾身の左ストレートを炸裂!
クインはギリギリで……本当に皮一枚で直撃を避けたが、拳が掠った頬は拳圧で切れ、拳が直撃した背後の壁は粉々に砕かれてしまっていた。

此れが直撃したと思うとゾッとするだろう。
もしもこの拳がヒットして居たら、クインの頭はモザイク指定な状態になって居たのは間違いないのだから。

「…………!」

思わず背筋が冷たくなるクインだが、ルナからすればそんな事は知った事ではない。
ストレートを放った左腕を、今度は其のまま横に薙ぎ払うようにして裏拳を繰り出してクインの体勢を再度崩し、鋭い足刀蹴りで吹き飛ばす。


「終わりだ……高町美由希直伝、左片手一本突き奥義……牙突・零式!!」

其れを追い掛け、追加攻撃と言うにはあまりにも強烈な月影での突きが炸裂し、クインの鎖骨辺りを貫く。


「う………あぁぁぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「思った通り、感染してからまだ日は浅いようだな?不死の肉体は得て居ても、私の様に『極端に痛覚が麻痺した状態』には至って居ないか。
 其れに強がっても、矢張り子供だな?……戦場に於いて、痛みで悲鳴を上げるようでは生き残る事は……出来ん!!」

其れだけでも勝負は決していただろうが、ルナはダメ押しとばかりに袈裟懸けに斬り付け、クインを完全に沈黙させてしまった。



此れに驚いたのはトーマとリリィだ。
クインは決して弱くないし、トンでも武器を扱ってる割には動きも良いと思って居たが、如何せんルナが強過ぎた。


「此れで丁度30回……お前の首を斬り落とすのを見逃してやった回数だ。」

正に圧倒的とはこの事だろう。
時間切れを宣告してからクインを無力化するまで、僅か1分の出来事であったのだから。――しかも、此れで尚ルナはまだ本気を出していない。


「お前達に聞きたい事も有ったが、その装備を見て其れも必要なくなったよ。
 お前達のスポンサーは『ヴァンデイン』だな?……マッタク、はやて嬢の予想通りだった訳だが……他に知ってる事を吐いて貰おうか?」

「誰が吐くか――舐めんな、殺せ。」

圧倒的な実力差を見せつけたルナは、クインに月影の切っ先を向けて知ってる事を吐かせんとするが、クインは其れを拒否。
完全に敗北した上で、更に口を割る事は出来ないと考えたのか、ある意味で潔いと言える態度だが――だからと言ってルナは動じない。


「良い覚悟だ……其れに免じて、せめて苦しまぬように逝かせてやる。」

月影を構え、クインにトドメを刺さんとする………


「待ってルナさん!!」

が、トーマが其処に割って入った。
流石のルナも、行き成りのトーマの割込には対処できず、振り抜こうとしていた月影は動かす前に止めざるを得なかった。


「トーマ、何故止める?」

「何はなくとも、殺すのはダメですよ!」

「何故だ?そいつは私を殺すと言った……其れはつまり、殺せなかった場合は逆に殺される覚悟を決めていたと言う事だ。
 もっと言うなら、私達は民間協力者だが、しかし管理局の法に従う者でもない――危険分子はその場で排除する事も辞さん者達だぞ?」

トーマは、クインが殺されないように割って入ったのだ。
だが、其れは戦場に於いては余りにも『甘い』と言える事だろう――敵にトドメを刺さなかったら、今度は自分に『死』が牙を剥きかねないのだから。

故にルナは『何故だ』と問う。
月影の切っ先をトーマに向け、自分達の立場を改めて浮き彫りにした上で問う。


「だけど、其れでも殺すのはダメだ!
 何でって聞かれても、理由は多分一杯あるんだけど……一言で言うなら『俺が嫌だし、リリィも嫌だから』!!」

《うん!!》


そして帰って来たのは何とも抽象的かつ、理論も何もない感情論。
だが、トーマの表情は真剣そのもので決して伊達や酔狂で言った事でない事だけは分かる。……此れもある意味で『スゥちゃん』の影響なのか…

「……其れで良い。」

そのトーマの答えにルナは薄く微笑むと、月影を下ろしてトーマの頭をくしゃりと撫ぜる。
其れと同時に、ルナが纏っていた殺気と闘気も霧散し、今まで此処に漂っていた戦場の空気も綺麗サッパリ吹き飛んだようだ。


「其れが正解だトーマ。
 戦場に於いて相手の命を奪う覚悟を決めるのは当然の事だが、事と次第によっては『奪わない覚悟』をする事もまた大事なんだ。
 そう、コイツは此処で殺して良い者ではない――お前が黙って見て居るだけだったら、私はコイツを殺す前にお前をブッ飛ばしていたよ。」

何の事はない、ルナはトーマを試していたのだ。
『目の前で奪われようとしている命』に対し、トーマが如何考え、そして如何動くかを見ていた――クインを殺す気は端っから無かったのである。


「ともあれ、そいつが重要参考人である事に変わりはない。
 最後の袈裟斬りで何本か神経も斬っておいたから、少なくともあと1時間は動く事も出来ん……ヘリまでそいつを連れて行ってくれるか?」

「へ?……は、はい!了解です!」


ともあれクインが重要参考人であるのは間違いない。
グレンデル一家の『特攻』クイン・ガーランドは此処でお縄を頂戴する事となった。








――――――








所変わって上空では、『狙撃手』の確保を任されたアイシスが、その狙撃手――グレンデル一家の『マリーヤ・ラネスカヤ』を補足し追跡していた。
お得意の爆薬攻撃を仕掛けながらの追跡は、中々に効果があるらしく、マリーヤは距離を離せないで居た。


「待ちなさ〜〜い!!
 もうこの辺一帯は完全に包囲されてるんだから逃げ場はないよ?大人しくお縄につけ〜〜〜〜!!!」

「お断りだ平坦胸……其れに誰が逃げるって?
 こっちはハナっからテメェなんぞは相手にしてねぇ!!お前もゼロも、とっくにアタシの射程圏内なんだよ、このタコ助が!!!」


いや、実際には『距離を離さなかった』のだ――己の必殺の射程を維持する為に。
彼女の狙いはトーマであり、同時に自分達の目的の邪魔となるモノの排除が目的で……迷わずに腕に纏わりつかせた弾丸を一斉掃射!!

其れはまるでマシンガンの様にトーマとアイシスに襲い掛かる。
周囲のビルやら何やらもお構いなしに撃ち貫き、思うままに撃って撃って撃ちまくってトーマとアイシスの無力化を狙う。

確かに此れだけの物量の弾丸を撃ち込まれたら、普通なら終わっているだろうし、仮にシールドで防いでも完全に無傷とは行かないだろう。

だが、トーマは兎も角として、アイシスもまた普通ではない。


「黒の香No.24マインクック……」

「な!?」


――バガァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!


「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「すっごい弾幕だったけど、なのはさんやルナさんの射撃や砲撃に比べれば全然余裕。
 てか、爆薬使いのアタシにとって、実弾攻撃を捌き切るのは別分難しい事じゃないし、トーマとアイシスだって此れ位は余裕で何とかできるって!」

自身の周囲には無数の爆薬を配置する事で、弾薬が自身に到達する前に誘爆させて防ぎ、マリーヤにはステルスマインを喰らわせたのだ。
此れも普段の訓練があればこそだろうが、とっさにこの判断をしたアイシスは見事であると言えるだろう。


クインを護送していたトーマもまた、リリィがセパレートリアクトで銃撃を防いで全くの無傷であった。


グレンデル一家の『狙撃手』ことマリーヤ・ラネスカヤも此処で御用。
残るは首領と運び屋だけである。








――――――








その首領と運び屋――カート・グレンデルとロロ・アンディーブは、どさくさに乗じてAEC装備の試作機を乗せたトラックを強奪し、現在逃走中である。
無論其れを止めるためのバリケードは設置されていたが、コイツ等にはそんなモノは意味を成さず、あっという間に突破されてしまったのだ。

「良いぞロロ、このままフルスロットルでブッ飛ばせぇ!!」

「アイアイサ〜〜〜!エンジン全開で行くよ〜〜〜〜!!!」

更に『法定速度違反上等』と言わんばかりにエンジンを噴かし、時速150qと言うトンでもない速度でハイウェイを爆走!!
この速度で走り続けられたら追跡は困難で、何れは見失ってしまうだろう……が、六課には此れに対応できる者が居る事をお忘れだろうか?


「ま〜〜〜て〜〜〜〜!!!」

「あん?……どわぁぁぁあ、なんつ〜速度で追撃して来やがったこの水色の姉ちゃんは!?」


其れは高町雷華。
迅雷のスピードを誇る彼女は、時速150qオーバーと言うトンでもトラックに一瞬で追いついて来た――だけでなく、抜き去り進路に立ち塞がる。


「うおりゃぁぁぁあぁぁぁぁ!いちげきひっさ〜〜〜〜〜〜つ!!!


そしてブレイバーフォームに換装したバルニフィカスを横薙ぎに一閃!
斬り捨てないように刀身で打ん殴ったが、其れでもトラックを吹き飛ばしてしまうと言うのは凄まじいと言うより他にはないだろう。


「あ〜〜〜はっはっは〜〜〜〜!これぞ粉砕・玉砕・大喝采!やっぱり僕サイキョー!!!」

「超高速で走行するトラックを一撃ですか……相変わらず呆れたパワーですね雷華?」

「うん!だって僕『力のマテリアル』だし♪」

相変わらずノリノリの雷華だが、吹き飛ばされた首領と運び屋は堪った物ではないだろう。
なんせ超高速で走行して居たところを真正面から殴り付けられ、更に車体が錐揉み回転しながら路面や壁にぶつかりまくってやっと止まったのだ。


「あぼ〜〜〜ん……」

「ちにゃ〜〜〜〜ん……」

「うむ、二人とも見事に気絶しておるようだな。」


そして、冥沙が車内を確認したところ、カートもロロも仲良くし失神しており、同時に二人纏めてお縄となった。
此れでグレンデル一家全てを確保した訳だが――しかし此れで終わりではない。



グレンデルの他にも居るのだ――『凶鳥』フッケバインからやって来た剣士である『スコール』が……








――――――








だがしかし、そのスコールも、サイファーの前では赤子も同然だった。


「AEC装備……中々に恐ろしいな?対鋼波蝕が此処まで効き辛いとはな……」

「この装備の対対鋼波蝕は私やルナの其れにも耐えられるように出来ている……お前如きが破る事は出来ぬと知れ!」


カレドヴルフのAEC装備の試作機を使っていても尚、サイファーはスコールを圧倒していたのだ。
その実力差は言うまでもないだろう――戦いが始まって10分以上が経過してもサイファーの身体には一つの傷もないのだから。


「成程な……だが姉さん、其れほどの力を持ちながら何故世界の支配を目論んだりしないんだ?
 アンタほどの力があれば、即時世界を手中に収める事が出来ると言うのに……」

「下らんな、興味がない。」

確かにサイファーの力を持ってすっれば世界征服も決して夢物語ではないだろうが、そもそもサイファーはそんなモノに興味はない人種なのだ。



「あくまでも今の自分を貫くか……ならば、そろそろ死んで良いんじゃないか?……寧ろ死ねよクソ姉!!」

「誰が貴様に言われて死ぬか愚妹が。
 貴様の方こそ、死して動物達の餌となる覚悟を決めておけよ?私とお前の力の差……今此処でハッキリと見せてやろう!!」


軽口を叩きながらも、サイファーとスコールは目にも留まらぬ剣戟を披露している――故に、決着が付くのは刹那の瞬間だろう……












 To Be Continued…