Side:トーマ
取り敢えずリリィの服は手に入れたし、今日の宿も確保できたから、此れからの事は明日にでも――
――コンコン
と思ってたんだけど、如何やらそうは行かないかも。……何方様?
「失礼します、地域警邏の者ですが、盗難事件について少しお話しを……」
盗難事件で俺に?……いや、あの妙な銃剣型の何かとリリィを連れ出した事を、あの施設の誰かが通報したとしたら充分に考えられる事だな?
白を切るのは簡単だけど、だからと言って其れで引き下がる相手じゃないだろうな、それに――
「話は良いけど、服屋さんが俺達に何の用なの?……え〜と、アイシスだっけ?」
「お客さんに大事なお知らせ!
君ら盗難容疑で手配が掛かってるみたいだけど、何か心当たりが?」
「まぁ、反論し辛いってくらいにはね……」
彼女みたいな『イケイケ』全開の子だと余計にね……如何して此処が分かったの――って聞くのは野暮か。
大方、昼間に俺達の写真でも撮ってて、虱潰しに聞き込みしてこの宿を突き止めたって所だろうな……スゥちゃんもびっくりの行動力だぜ……
魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force2
『エクリプスイントロダクション』
まぁ、其れは其れとして、確かに反論し辛いような事はしたかもしれないけど、だけど俺は間違った事はしてないって胸を張って言えるよ。
もしもあの時、リリィを見捨ててたら俺は一生後悔してたと思うから。
「お?中々にカッコ良い事言うね〜〜?
だけど、こんなとこでもたもたしてたら、地域警邏に捕まっちゃうよ〜〜?早目に脱出した方が良くない?」
「確かにそうかも…だけど、服屋さんにしては随分アフターフォローが行き届きすぎてないかな?」
「まぁ、イカした服屋さんて事で♪
序に今なら裏路地ルートの脱出ガイドが格安なんだけど、購入した服のオプションて事で如何かな?」
『……如何しますかトーマ?』
スティード……如何するってお前、現状を考えたら選択肢なんて有って無いようなもんだろ?
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でもって、結局は服屋さん――アイシスの案内で、如何にか街を出る事に成功した……あと1分遅かったら強制連行されてたかも知れないぜ…
んでさ、この辺でもう大丈夫だよアイシス?
「何言ってんの、目的地まで送ってくよ?
其れに君達といると色々面白そうだし、普通じゃ体験出来ないような事も体験出来そうだから――ぶっちゃけついてくことにした!!」
……なぁ、俺何かしたか?今日は厄日なのか!?
のんびりマッタリした旅の筈が何だってこんな事に……チクショウ、神様と会う事が有ったら出会い頭に顔面にスゥちゃん直伝の一発を!!!
『ですがまぁ、退屈だけはしませんね。』
「其れじゃあ3人揃って仲良く出発ーーーー!!!!!」
とほほ……なんだってこんな事になっちゃったのか………俺って厄介事を手繰り寄せるって言う要らない才能でも備わってるのかなぁ…(涙)
如何考えても、此れから先の旅路が平穏無事って事は考えられねぇよなぁ……チクショウ、本気で胃薬が欲しくなって来たぜ………!!
――――――
Side:ルナ
調べれば調べるだけ妙だなこの事件現場は。
此処でエクリプスの何かを研究していた事は間違いないし、この大惨事を引き起こしたのが、件の少年――トーマであるのも略確定だろう。
だからこそ気になる――此れだけの被害を出しながら、現時点では死者がゼロであると言う事が。
流石に瀕死状態の者は居たが、この場で保護した者の中に死者居ない……適切な処置をしてやれば、それで助かる筈だ。
そしてもう1つ……この施設のセキュリティレベルは相当に高いが――彼は一体どうやって施設内部の、其れも最深部まで辿り着いたんだ?
施設の大規模破壊そのものは、彼がエクリプスに感染してその力を解放したと考えれば、まぁない事じゃない。
だが『誰にも気付かれずに大型施設の最深部に侵入した』となれば話は別だ。
高温で焼かれたような跡がある事から、施設の人間が此処に入り込んだトーマを処分しようとしたのは先ず間違いない筈だ。
だとしたら『如何して此処に入り込むまで警報らしきものが全く作動しなかった』のかが謎だ。
無論トーマが、ドゥーエ張りの変装能力を持っていると言うのならば話は別だが、以前に会ったあの少年が其れだけの力があるとは思えん。
「一足先に現場に赴いている奴が居ると聞いていたが、テスタロッサの他にお前達が居るとはな。」
「おぉ!久しぶりブシドー!げんきだったか〜〜〜!!」
「あぁ、この通りだ――お前達も息災のようだな。」
あぁ、此方も変わらず元気だ――久しぶりだな将。
「ミウラ達が活躍したインターミドルの会場で会ったのが最後だから――彼是2年半ぶりと言ったところか?元気そうで安心したぞ。
あまり変わりはないようだが……なのはの奴は随分と雰囲気が変わったモノだな?」
将もそう思うか?
本人が意識した訳では無いのだろうが、最近は昔の天真爛漫さはすっかり形を潜めて、落ち着いた大人の女性になりつつあるよ。
まぁ、其れは其れとして――フェイトだけでなく、将までもが現場に出張って来ると言う事は、局はこの件を相当に重く見ているのだな?
「正確には我等が主がだな。
エクリプスドライバーで構成された武装犯罪集団『フッケバイン』――そいつ等がこの件に係わって居ないとも言いきれんのでな。」
成程な。
だが何れにしても、先ずはトーマの確保が最優先だろう?
「とは言っても、私の記憶でも彼の容姿はうろ覚えで自身がないが――何か良い手はあるか?」
「あるぞ、私達ならではの方法がな。」
サイファー?
私達ならではと言うのは、エクリプスドライバーだからこその方法があると、そう言う事か?
「その通りだルナ。
私達エクリプスドライバーは、他のエクリプスドライバーの存在を可也ハッキリと感知できるだろう?
そのトーマとか言う少年が、エクリプスに感染し、エクリプスドライバーとなったのは略間違いないとなれば、其れで探し出せるはずだ。」
「「そうだったんだ。」」
「いや、まさかと思うが感染してから10年以上経ってるのにその能力に気付かなかったとか言わないよな、なのはもルナも……」
「「全然気が付かなかった。」」
「……其処までハッキリと言いきられると最早何も言う気が起きんな……まぁ、兎に角そう言う能力を有して居る訳だ。
無論感染したばかりの者はその能力が著しく低いが、感染者の中では間違いなく最古参の私はその能力も可成り鋭いが――」
「成程ね……なら、トーマの捜索は任せて良いかなサイファー?」
「察してくれて嬉しいぞなのは。」
まぁ、確かに最古参の感染者であるサイファーならば、他の誰よりもエクリプスの力そのものは使いこなしているだろうからな。
OK、トーマの捜索はお前に任せる――構わないか将?
「あぁ、そいつの実力は分かっているからな。
だが、確保は当然としてもしも件の少年がEC専用兵器『ディバイダー』を所持していた場合は、其れも確保してくれ…出来れば壊さずにな。」
「善処しよう。だが、エクリプスドライバー同士が出会ったとなれば、平穏無事に済むとは行くまい。
防ぎようのない戦闘状態になった事で発生した多少の損傷くらいは大目に見てくれるだろう、公僕?」
「其れ位ならばな……と言うか、いい加減私を公僕と呼ぶなサイファー。私にはシグナムと言う名がある。」
「ククク……分かっているが如何してもな。最初にそう呼んでしまったが故に、今更戻すのも面倒でな……いっそこのままでも良いだろう?」
「愛称と言うならばせめて別なモノにしてくれ。」
「なら剣騎士か?いや、ピンクポニテと言うのも捨てがたい気がするし……女侍も捨てがたい。
いや、姫武将もありのような………いっその事巨乳騎士とかの方がしっくりくるか?――と言う訳で巨乳騎士で如何だろうか?」
「全力で、細胞レベルで、遺伝子レベルで、構成プログラムレベルで全力を持って拒否するぞその愛称は!!」
「むぅ、名は体を表したような愛称だと思うのだが残念だ……」
ヤレヤレ、何とも仲の良い事だ。
サイファーも将も少しばかり性格的に似通っている部分があるし、互いに剣士であるが故に通じ合う物があるんだろうな。
まぁ、トーマの捜索はサイファーに任せれば問題ないだろうが――何を難しい顔をしているんだなのは?
「態々其れを聞く?ルナだって感じてるでしょ?」
「……矢張りお前も感じて居たか……」
あぁ、感じて居るよ……この『妙な風』は――そう、まるで大きな戦の前夜のような、嫌な気配を孕んだ重苦しい空気はな……
願わくば無事にトーマを保護して平穏に終わらせたいが、そうは行かないのだろうな?
いや、もしも平穏無事に何も起こらずに終わると言うのならば、はやて嬢とて新部隊の設立などしないか……
恐らく此処での一件は序章に過ぎん……開幕のベルが鳴るのは、それほど遠くはないだろうな……
――――――
Side:トーマ
てな訳で、1人旅の筈が3人旅に変わった翌日の正午、俺達は目的地の一つであるこの地方の聖王教会に到着。
此処でシスターに事情を話して、管理局に繋いでもらえばスゥちゃんかノーヴェ姉に話を通す事は出来る筈だ……予定通り着いてよかったぜ。
「おぉ〜〜〜、聖王教会の建物は何処もあんまり変わらないね?」
「♪」
「そうだな………」
って…あれ?何だこの匂いは?
いや、此れは――間違いないし、誤魔化しようもない……此れは血と火薬の臭い!!其れも聖王教会の方からだって!?
「スティード、2人を頼む!!」
『分かりました!』
「ちょ、トーマ!?」
「………!!」
俺は中の様子を見て来る!!2人は出来るだけ此処から離れて!!
「トーマ!!!」
くそ……嫌な予感がする!!
そうだ、まるで7年前、俺の故郷がぶっ壊された時みたいな嫌な予感が――俺の思い過ごしなら其れで良い…寧ろ思い過ごしで有ってくれ!!
「……此れは……!!」
教会内部荒らされたような跡に、壁や天井の血痕……おまけに――
「シスター……」
変わり果てたシスターの姿……なんで……誰がこんな事を!!
「遅いぜ?」
「!!」
「ったくテメェがあんまりにも遅いせいで、こんな胸糞の悪い場所で要らねぇ殺しをする羽目になった。」
誰だコイツは?……全身黒づくめの銀髪で目つきの悪い男……
「良いか坊主、用件は1つだけだ。
テメェが盗み出したディバイダーとリアクターを纏めてこっちに寄越せ…アレはガキの玩具には過ぎた品だ――死にたくなきゃさっさと寄越せ。」
……え?
ちょっと待て、今一瞬見えたコイツの腕――其処に見えた藍色の羽って……7年前に俺の故郷をぶっ壊した奴と同じ――!!
「アンタが言ってる物を渡すかどうかは俺の意思だが……その前に答えろ、此処をこんなにしてシスターを殺したのはアンタか?」
「あん?」
「そして、7年前に俺の故郷――ヴァイゼン鉱山を壊したのもアンタなのか!?」
「テメェ……『質問してんのはこっち』だ――死ねやクソカスが!!」
!!
拙い、あの攻撃は俺じゃ防ぎきれない―――!!
――バガァァァン!!
……え?衝撃がない?一体如何して――!!
「自分の質問に答えなかったからと言って即殺害か?……単細胞には困ったモノだな?」
「あん?……何モンだテメェ?……何処から現れやがったクソアマが…!!」
「正々堂々と正面から真っ直ぐにだ。と言うか貴様はエクリプスドライバーのくせに、他のエクリプスドライバーを感知出来んのか?三下が。
其れと何者かだと?……相手に名を訪ねる時は先ずは自分から名乗れ位は教わらなかったか低脳?」
「テメェ……」
俺の前に立ってるのは、褐色肌に金髪で特徴的な眼帯をした少し――いや、可成り怖そうなお姉さん!?
「だがまぁ、お前のような低脳のアホンダラの大馬鹿者には言っても分からんだろうから特別に名乗ってやる。
私はサイファー……白夜の反逆者『ホワイトナイツリベリオン』の構成員の1人にして――最古参のエクリプスドライバーだ。」
「!!」
え〜と、なんだか良く分からないけど、このお姉さんは何だか凄い人で少なくとも俺の敵じゃない――って事だよな多分。
だけどさ、最大限ぶっちゃけて言っても良いか?……如何足掻いてもこの人には勝てる気がしない!!
此れはアレだな、下手な事言わないで状況を見極めつつ必要な情報を記録して、然る後に脱出って言うのがベターだよな?そうに決まってる!
と、そう思ってたのに、俺の中ではこの時既に別の感情が渦巻いていたんだよな……
To Be Continued… 
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