No Side


人と魔導の出会いは果たして幸福なモノであったのか?――其れに対しての答えは人夫々だろう。

ある者は魔導の力を手にした事で己の価値を高め、またある者は魔導の存在によって己が存在価値を無くした――そう、言っても過言ではない。

だがしかし確実に言える事は、数多の争いを引き起こしたのが魔導の力であるならば、其れを止めたのもまた魔導の力であると言う事実。



ともあれ、世界は一時の平和の中にあり、答えは未だに見つかっていない。
その答えが出る事は、或は永遠にないのかもしれないが――ただ一つだけ言えるのは、ある少年の行動が一時の平和を崩すに至ったと言う事。



――生きているだと!?
 ……まさかとは思うが、アレが完成したと言うのならば、金属でも沸騰する高熱の中で生きていたとて不思議はない……!!
 そう言うモノを、我々は造り出そうとしていた――!!」


『E-C Divider Code-996…Start Up.』

――ディバイド…ゼロ!!


1人の少年と、1人の少女が出会ったその時に、新たな物語は幕を開けたのかもしれない……
エクリプスドライバーを中心にした新たな物語――Forceの幕開けは、きっとこの時に始まっていたのだろう………














魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force1
『始まりの時〜或は破滅へのカウントダウン〜











Side:ルナ


「銀十字とディバイダーか……」

特務六課と協力体制を取る事になってから数日――早速面倒な事になってくれたな。
なんでも『ルヴェラ鉱山遺跡』とか言う場所で、謎の爆発事故が起きたらしいが――その裏には、遺跡を隠れ蓑にした研究施設があった訳だ。

しかも、その研究施設はエクリプスの研究施設だったと言うのだからマッタク笑えないモノだな。


もっとも其れだけならば如何と言う事は無いのだが、問題は『其処に民間人と思われる少年が入り込んだ可能性がある』と言う事だ。


現場の状況を見る限りは、火災の後は研究員が起こした何らかの処置だろうが――この外壁の破損はそうではないだろう。
明らかに『内部から外部に向けて膨大なエネルギーを放出』したとしか思えない……と言うか、それ以外ではこうはならないからな、絶対に。


十中八九、件の民間人の少年がやったのだろうが――如何思うなのは?


「その可能性はゼロじゃない……寧ろかなり高いと思う。
 だけど問題は、もしもそうだとしたら内部壁面が焦げるほどの高熱の中に居て、如何してその子は無事だったのかと言う事だよ……」

「矢張り其処に行きつくか……」

そう、なのはの言うように、施設内部には明らかに『高温に曝された跡』が残っている。
其れこそ金属すら溶解してもおかしくない高温が発生していた事だろうが――だとしたら、件の人物が此処で一発放ったとは考えにくいが……

「もしも何らかの理由で、この施設で研究していたエクリプスの何かの力をその身に取り込んだのならば、或は有り得るか……」

可能性としては『ゼロではない』レベルだが、この研究所の状態を見る限りはその可能性は可成り上がって来る事だろう。
もしもエクリプスの力を得てしまったのならば、出来るだけ早い段階で見つけて保護せねば危険が大きい。

私やなのは、サイファーの様に完全に馴染んでいるならば兎も角、そうでないならばエクリプスの破壊衝動に飲まれてしまうのは明白だからな。
せめて此処に居たらしい少年の名前か容姿が分かれば探しようもあるんだが、此処まで施設が壊れていては監視カメラは絶望的だろう。

はてさて何か手がかりはないモノか――


「なのは、皆!観光協会の方の協力を取り付ける事が出来た。
 其れで早速借りて来たよ、『事件発生の30分前後にこの場所を訪れた人』のリスト――と言っても、該当人物は1人だけだけどね。」

「お疲れ様、フェイト♪」

「お〜〜〜、でかしたぞへいと!」

「だからフェイトだってば!16年も経つんだから好い加減覚えてよ!!」

「ふ……へ…ふぇいほ?」

「……フェイト、もう諦めたら?雷華には『へいと』って言うあだ名で呼んでもらってると思った方が楽だと思うよ?……主に精神的に。」


どうして雷華はフェイトの名を正しく発音できないのだろうな?
16年経っても直らないとは流石に……いや、サイファーの事も『さいはー』と言うし、ジェイルに至っては『ぜいる』…子音が入るとダメなのか?

まぁ、其れは今は如何でも良い事だが……該当人物が1人と言う事は、その人物が件の少年である可能性は高いな。
容姿は兎も角、名前は分かるだろうが――……トーマ・アヴェニール?

どこかで聞いたような……しかも割と最近……何処で――

!!あの時の少年か!!」

「へ?ルナ、知ってるの?」


あぁ、知っている。
お前の誕生日プレゼントを買いに行った時に偶然出会った少年でな、なんでもスバルやノーヴェの知り合いらしいんだ。

あの子の容姿は良く覚えているから、探すのは可能だが、此れはスバル達に連絡を入れておいた方が良いかもしれないよな?


「うむ、あのハチマキと赤毛には連絡しておいてやった方が良いであろうな。」

「その少年がスバル達の弟分であるのは恐らく間違いないでしょう。
 であるならば、彼女達には知らせておくのがベターですし、或は彼女達ならば件の彼の行き先くらいは見当が付くかもしれません。」


だな。
特務六課は、結成されたとは言え、旧機動六課の面子が良い具合にバラケタ部署に居たからまだ全員が集まって居る訳じゃない。
特にナカジマ姉妹は部署が部署だけなのと人数的に、出向の手続きには時間が掛かっているようだ……まぁ、5人も居れば当然だがな。



それにしても、あの時の少年がこんな事件に巻き込まれるとは、本当に世の中は分からないモノだ。
だが、其れだけに早急に確保した方が良いな――もしもエクリプスに感染したのなら、何時その破壊と殺戮の衝動飲まれるか分からないからな。








――――――








Side:トーマ


ふえぇ〜〜〜……と、取り敢えず助かったぁ。
まさか観光の心算で訪れた場所でこんな事になるなんて思わなかったよ――スティード、さっきの俺の姿は絶対にスゥちゃん達に送るなよ!?


『ダメですか?割かし素敵な格好だと思うのですが……」

「茶髪の俺がイキナリ銀髪とかになったら、そっちの方をスゥちゃんとノーヴェ姉は心配するからね!?
 てかノーヴェ姉は、下手したら『色気づいて銀髪か?10年早いぜオラァぁ!!』とか言ってヘッドロックからのジャーマン極めてきそうだし!!」

『そうでしょうか?
 私的には連続ジャーマンの果てにハンマースローでコーナーに叩き付けられて、ローリングエルボーからフェイスクラッシャーに繋いで……』



トドメはムーンサルトプレス!?
何処のプロレスラーの殺人フルコースだよ其れ!?寧ろノーヴェ姉だったら、コーナーに張り付けにして重爆キックの雨霰…そっちのが怖い!?




良し、落ち着け俺!冷静になれ俺。
今の状況で大事なのは、心配かけた代償に喰らう事になるであろうノーヴェ姉からの制裁じゃなくて己の身の振り方だ。

正直、俺1人だったらどうとでもなったんだけど……


「………」


あの私設で出会った女の子――リリィが居るとそうも言えない。
リリィは俺とは念話通信みたいな事が出来るけど、何て言うか世間一般の常識は全く身に付いてない気がする……ある意味で仕方ないけどさ。


だけど其れでも、俺には意思が伝わるって言うのは嬉しい事だ。


大丈夫、君の事は俺が護るよリリィ。


「………」(コクリ)


やっべぇぇぇぇぇぇぇえぇ!!薄い笑顔のリリィの顔とかマジ萌え!!!
スティード、バッチリ録画してるだろうな!?……してないとかほざいた場合には冥府に叩きおとすからな!!


『大丈夫、抜かりはありませんよトーマ。
 この笑顔はたっぷり三十秒も録画して、更に静止画も10枚は取れました……各データはレベルSのプロテクトを掛けていますから!』



良くやったスティード!


って、違うだろおい!!
俺達の目的は道中の食糧調達とその他諸々の調査じゃなくて、適当に楽しみながらの旅だった筈なのに何だってこんな事に……

純粋に観光目的で行ったたらこのありさま…如何しろってのよ本気で!?
其れに最大の問題はリリィの服だ――ぶっちゃけ施設では全裸状態だったから、早急に服を用意してやらないのは分かってるんだが……

そう都合よく服を売ってるような露天なんて――


「さぁ、いらっしゃいいらっしゃい!
 服の仕立てから、装飾品の修理まで何でも引き受ける、イーグレット青空市場出張店!此処で買わないと損するよ〜〜〜♪」


巧い宣伝文句だけど、アカラサマだよなぁ?
確実に何かを売りにしてるんだろうが……確かめるすべはないんだけどさ……

だけどこいつはある意味でタイミングが良い!
ねぇ君、彼女にピッタリの服ってある?或は作る事は出来るかな?


「この子の事だよねぇ?……なくはないけど……」

「少し時間が掛かるか?」

「見立てに少しばっかりね。
 だけど、この子にピッタリのお洋服を選ぶから、安心してこのアイシスさんに任せておきなさい♪」


スッゲー自信だなこの子……ある意味其れが頼もしいと言えるし――何時までも野宿用の布きれを巻きつけとく訳にも行かないしなあ?




で、およそ5分後に、アイシスと名乗った子は戻って来た――えっと、お代は如何程?



「ん〜〜〜?要らないよ♪
 アタシとしても此れだけ可愛い子を弄れたのは僥倖だからさ……だから今回だけは無料……次からはちゃんと払ってもらうけどね。」


だよな……とほほ、やっぱりか。
ま、リリィの服が手に入ったって事でOKとしとくか――結構良いデザインの服だったしな。




しかし、まぁリリィは兎も角、あの露店の女の子ともう1度出会って、トンでもない事に巻き込まれるとは想像すらしてなかった。
そして俺がエクリプスの未来を示す存在だったなんて……そんな事は思っていなかったから、余計に堪えたか………

此れから先、俺達はどうなるんだろうなぁ……








――――――








Side:???


あの施設での取りこぼしは痛いが、『逆に其れで分かった物も有るから不問としておいた方が良い』と言うのは僥倖だ。
確かに『ゼロ因子』の持ち主が発掘できたのは、偶然とはいえ有り難い事だ――其れ専用のリアクトが稼働したのも大きいか――


何れにしても今は静観が上策だろうねぇ……果たしてこの先にどんな戦いが待っているのやら……まぁ、私にはあまり関係ないがね。



ま、精々己の力を最大限に引きだしてくれたまえよ?
そしてリアクターの能力も目覚めさせてくれるなら有り難い事この得ない……全ては此処からが始まりだからね?



管理局とゼロの少年とフッケバインと――そして白夜の聖王と月の祝福……如何やら僕の予想を超えた事になりそうだよ。



精々頑張っておくれよ?
エクリプスの有用性を示し、かつ僕が全てを総べるには君達の力はなくてはならないモノだからね?





6年経って、漸く第1幕の始まりだ……如何にも楽しい事になりそうだね――











 To Be Continued…