Side:ルナ


さてと、覚悟は良いか野良感染者?
此処から先、お前達に残された運命は、私に殴り倒されるかサイファーに斬り倒されるの二者一択。他の選択肢などありはしないが――如何する?

お前達が大人しく投降すると言うなら、此方とて手荒な真似はしないが――徹底抗戦をすると言うのならば覚悟を決めろよ?
生憎と、私もサイファーも『手加減』何て言う上等な物は出来ない性質でな?敵対する者に対しては、最低でも半殺し位にはなって貰っているんだ。
限りなく不死に近い、エクリプスドライバーが相手であっても、其れは変わらんぞ?


「ずいぶん大きく出たものだな?
 だけど、お前達の主力兵器は魔導に頼ったデバイス……だったら、魔導殺しのエクリプスの敵じゃないぞ?お前達の方こそ、跡形もなく消えろ。」

「テメェ等が何者であろうと、俺達は俺達の目的を果たすだけだってな?てか、果たさねーとならねーんだわ。
 邪魔立てするって言うなら容赦はしないぜぇ?――骨の欠片も残さずに粉砕してやっから覚悟しとけよぉ?」


如何やらエクリプスの力を得て、己が最強の存在となったと勘違いしているようだな?
悪いが、お前達の要求を呑む事は出来ん――それ以前に畜生以下に堕ちた貴様等の狂った欲求など呑む気になれんよ。


「何だと?……ムカつく事言ってくれるなテメェ?」

「吼えるな雑魚が。
 人ならば、理性を持ってして己と相手の力量差を知る。犬畜生であっても本能で其れを察する。
 だが、相手との力量差を見極める事すら出来なくなった貴様等は、畜生以下で充分だ。寧ろ比較するにも犬畜生に無礼極まりないと知れ。」

「カッチーン!さっすがにマジでムカついたぜ?バッチリシッカリ手加減抜きでブッ殺してやるよ!!」


やってみろ、出来るモノならばな!!
行くぞサイファー、先ずはコイツ等を死なない程度にぶちのめす!其の後で、コイツ等の、引いては背後組織の彼是を尋問すれば其れで良い。

「お前達のその蛮勇を見事と言えなくもないが、その上で敢えて言おう。」

「貴様等じゃ相手にならん……」


故に――少しばかり痛い目を見て貰おうか!!













魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force18
『Violence Fighting to Eclipse』











No Side


バトル開始と同時に、ルナは女の方に、サイファーは男の方に向かって、あっという間に分断状況を作り出してくれていた。
一見すると分断の意味が取れないであろうが、此処の能力が相手よりも上の場合、先ずは分断してしまった方が色々と面倒がないのもまた事実。

分断してしまえば、一対一の状況となり、敵方を倒せば味方の援護にも迎えると言う正に実に見事なシステムであるのだ。



「ちぃ……言うだけあってやるじゃねぇの?つーかよ、俺等に何の用な訳だテメェ等?
 確かに俺等はエクリプスドライバーだけど、この活動自体は上からの命令でやってるんだ――俺等を狩るって言うのはお門違いじゃねぇ?」

「その『上』と言うのが分からんから、先ずは末端の貴様等を締め上げて、知ってる事を全部吐いてもらおうと思ってな。
 だが其れとは別に、今この時は、私達出会ってしまった事を心の底から後悔するんだな………消えされ、ディバインバスター!!!


先ずはサイファーだが、此れはもう非の打ち所のない位に相手を圧倒していた。
まぁ、敵もさるモノと言うか、直撃はギリギリで回避していたようだが、野良感染者風情がサイファーの剣を見切れるはずもない。
圧倒的な実力差を持ってして追い詰めた先で、特大の直射砲炸裂!!如何に魔導殺しと言えど、此れを喰らったら只では済まないだろう。

少なくともサイファーがやられてしまうなどと言う事は絶対に有り得ない――恐らくは万に一つもない事であるかも知れないだろう。




一方のルナは……


「如何した野良感染者?攻撃スピードがあまりにも遅すぎる……其れこそ蚊が止まりそうなくらいにのろ過ぎだ。
 ほらほら如何した?お前如きの攻撃等、足だけで充分対処できるぞ?」

「く……こいつ。」


マッタク持って余裕綽々そのものであった。
戦いが始まってからと言うモノ、ルナは腕を組んだままで、相手の攻撃を紙一重で躱したり、更には強烈な蹴りでのカウンターをブチかましている。
何よりも驚くべきことは、戦闘が始まってからルナは一度も腕を使っていないと言う事――つまりは誇張抜きに足だけで対処していたのだ。

言っておくと、此の野良感染者とて単純な戦闘力で言うならば、管理局の魔導師にも後れを取らない位には高い。
繰り出されている攻撃だって、普通なら見切る事すら出来ない程のスピード故、相手が管理局の魔導師であったならば、退ける事も出来ただろう。


だがしかし、如何せん相手が悪すぎる。
ルナは魔導師としても騎士としても、超一流すら超越した『絶対強者』『極一流』とも言うべき無敵にして最強の存在なのだ。

そんなルナに、高々野良感染者程度の相手が一撃入れるなど夢のまた夢だろう。


「ボディがお留守だぞ?」

「な?がはぁぁ!?」

今もまた、鋭い横蹴りを叩き込み、其処から蹴り足を下ろさずに正中線に添っての五連続蹴りを炸裂させ、更に後ろ回し蹴りで吹き飛ばす。
其れだけでは終わらずに、立ち上がろうとしたところに肉薄して追撃のシャイニングウィザードを叩き込み再度ダウンを奪う。
そして、ダウンした野良感染者を足で掬い上げるようにして、其のまま投げ飛ばす(と言うのが妥当かは分からないが)。


「さて、まだやるか?
 やると言うならば相手にはなるが、これ以上やると言うなら『生きていて話が出来る』だけの状態になる事を覚悟して貰う事になるが?」

圧倒的な実力差を見せた上での最後通告――普通なら此処で大人しくなるだろう。
どうあっても敵わない相手に対して抵抗を試みるのは愚の骨頂であるのだから。ました、自分の身の安全が掛かっているとなれば尚更だ。


だがしかし、相手はエクリプスドライバーであり、そう言った『危機感』は極めて薄くなってしまっている。
いや、ルナやなのはやサイファーの様にエクリプスと完全に馴染んだ存在や、リリィが居るトーマならば『人』の思考を保つ事は出来てる。

しかし、エクリプスと馴染み切っておらず心を通わせたリアクターもない野良感染者は動物的な『闘争本能』のみが強烈に強くなって居るのだ。


「……本物の感染者は化け物か……来なさい、出番よ。」

「………」

故に目の前の相手は滅せよと言う事にしか思考が回らない。
野良感染者は、ボロボロの服を身に纏った少女を呼び寄せる――そう、髪や目の色に違いは見られるモノのリリィにそっくりな少女を。


「リリィ?いや、違うな――その子は、若しかしなくてもリアクターか?」

「その通り……さぁ、リアクトするわよ……私にその力を貸しなさい。」

「…………」


その少女はリアクター。
だが、如何贔屓見目に見ても此の野良感染者と心を通わせている様には見えない。……差し詰め『逆らえないから仕方なく従っている』のだろう。

しかし、リアクトした効果はあった。
野良感染者の身体は、まるで全身装甲で覆われた細身の騎士の様になり、その戦闘力が増したのが嫌でも分かってしまう。


「さて、此処からは――ずっと私のターンだ。」

「!?」

その効果は絶大!
なんと一瞬でルナの背後を取り、その背に強烈な一撃を叩き込む。

其れを皮切りに、攻守逆転とばかりに鉄塊と化した拳と足でルナを攻めたてて行く――先程とは打って変わって、形勢は逆転してしまった。








――――――








――シュゥゥゥゥゥゥゥ



「ふむ……適当に威力は抑えた心算だったんだが、思いのほか吹っ飛んだな?
 死んでいる事はないと思うが、せめて話を出来る状態で居てくれると助かるんだが……」

一方で、サイファーの放ったディバインバスターは、文字通り『射線上を更地』にしていた。なのはも称賛モノの見事な破壊力であったようだ。
とは言え、完全に殺してしまっては話を聞く事は出来ないので、相手が生存しているか否かを確かめるためにサイファーは更地に足を踏み入れ……


――ガシィ!!


「!?」

其処で何かに顎のあたりを掴まれて宙吊りにされた、其れも物凄い力で。

「何とかギリギリ生き残ったぜ……滅茶苦茶痛かったけどな!」

其れを行ったのはディバインバスターを喰らわせた野良感染者――如何やら吹き飛ばずに何とか生き残っていたらしい。
息を潜めて、反撃の機会を覗っていたのだろう、意外と頭は悪くないようだ。


更にこの男、先程までとは違い、全身の筋肉が肥大化したのか身体が二周りほど大きくなって居る上に、身体の色も鋼鉄の様になって居る。
恐らくは、此れがこの男のエクリプスの病化症状なのだろう。

「けどまぁ……コイツで終わりだ――Go to HELL!!!」


――バキィィィィィィィィ!!!


その狂気と化した拳が、サイファーのボディに炸裂した。








――――――









また、ルナの方も……


「形勢逆転、私の勝ちだ。」

「………」

リアクトした女はルナを掴み上げ、勝利を確信していた。
ルナの頭を掴んだ手にあと少しだけ力を加えれば、その頭は完全に粉砕する事が出来る――

「これで……死ね。」


――ガキィィィィ!!


鈍い音が響く。


「!?」

だが、ルナの頭は砕けて居なかった。
否、砕けるどころか野良感染者の腕の方に亀裂が――鈍い音は、ルナの頭が砕けたのではなく野良感染者の腕が破損した音だったのである。


「クズが……」

更に、頭を掴まれているルナの髪は銀髪から薄い茶髪に変わっている。
つまりは頭を握り潰される瞬間に『祝福の月光』状態に変身し、己の能力底上げを持ってして相手のパワーを上回る防御力を手に入れたのだ。

「貴様も、融合騎を道具と扱う輩か……覚悟は出来ているんだろうな、クズにも劣る三下が。」

流石に無傷とは行かなかったのか、頭からは血が流れ出しているが、其れが逆にルナの迫力を後押しし、野良感染者も何も言えなくなっていた。


触れてしまったのだ彼女は、決して触れてはならない月の祝福の逆鱗に。








――――――








「ゲホ……意外に効いたな。
 散々ぱら切り刻まれたせいで、痛覚が極端に麻痺してる私に『痛かった』と思わせるとは、いやはや中々見事な一撃だったと褒めてやる。」

「嘘だろおい……」

凶器のボディブローを喰らったサイファーもまた無事であった。
あまりの威力に殴られた部分は服に大きな穴が開いてしまったが、サイファー自身は精々『少し痛かった』程度で済んだようだ。

「だがまぁ、今の一撃で理解した。
 筋肉の肥大化による攻撃力と防御力の著しい強化……其れがお前のエクリプスドライバーとしての特性だろう?
 多少は厄介なモノだが、ルナやなのはの強さには遠く及ばんな――貴様程度を倒すなら、幾らでも策は思いつくのでな。」


――バキィィィィン!!


ライオンハートをガンブレード状態に変形させ、反撃準備完了。
十八番とも言える偽悪的な笑みを浮かべたサイファーに、もう敵はないだろう。








――――――








サイファーが反撃を開始したのと同刻、ルナも野良感染者と所謂『手四つ』の状態になって力比べの様な事になっていたが、其れは表面上だ。
ルナが掴んだ相手の腕は、其れだけで亀裂が入り、ともすれば砕けてしまいかねない状況なのだ。

「融合騎と言う物は、確かに極論を言えば道具でしかないのかもしれない。
 だが、自分の意思で仕える者を選ぶ事は出来る――聞こえるか、この半端者の中に居る少女よ……君に言っているんだ!!」


――メキィ!!


ルナは相手の中に居るリアクトプラグの少女に対して呼びかけていた。
嘗ての経験から、只良いように利用される融合騎を放ってはおけなかったのだろう――相手の腕に更なる罅を刻み込むくらいに。


「お前……」

「貴様は少し黙っていろ。」


――ブチィィィィィィ!!


そんな状況で反撃しようとした野良感染者の腕を一切の慈悲無く引き千切る!
片腕だけとは言え、痛覚が生きている状態で腕を力任せに引き千切られたら、幾らエクリプスドライバーと言えども堪ったモノではない。


「ギヤァァァァァァァァ!!!!く、この!!」

だが、その痛みよりも怒りが勝ったのだろう。即座に反撃を試みるが――


「喧しい……もう、遊びは終わりだ!」

ルナは既にトドメの一撃を発動していた。


「泣け!叫べ!!そして……逝けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!


――バガァァァァァァァァァン!!


目にも留まらぬ切り裂くような八連撃の後で相手を爆発させるルナの乱舞系奥義『禁千弐百拾壱式・八稚女』が炸裂し、野良感染者は爆散!
如何に限りなく不死に近いとは言え、跡形もなく粉々に吹き飛ばされては如何しようもない。

「ふぅ……月を見るたび思い出せ。」

決め台詞も鮮やかに、ルナは見事に完全勝利!格の違いを見せつけた戦いであったと言えるだろう。






そしてサイファーもまた……

「フン。」

「うそ!?」


――バキィィ!!


ライオンハートで、野良感染者のディバイダーを粉砕!!寧ろ玉砕!!!圧倒的に大喝采していた。
そもそもにして、サイファーは現時点で最古のエクリプス感染者――新参者に後れを取る筈がないのだ。


「さて、此れで終わりだ……私達に挑んだ事を精々後悔するんだな――此れが私の全力全壊!喰らえ、スターライトブレイカァァァァ!!


――バガアァァァァァァァァァァァァァァァン


トドメに放たれたのは、なのは直伝の集束砲。
如何にエクリプスドライバーとは言え、此れを喰らったら只では済まないだろう。――詰まる所、サイファーの勝利もまた確定したのだ。








――――――








Side:ルナ


「参りましたぁ!!」



……こう言っては何だが、サイファーのブレイカーを喰らって良く生きていたなお前。
もう一人の方は、私の八稚女を喰らって跡形もなく吹き飛んだと言うのに……まぁ、サイファーが消し飛ばない様に手加減をしたのだろうけどな。

だがまぁ、貴様は貴重な証言者だ――説明して貰おうか、貴様等の目的と背後関係についてな。


「だな。――それと、あの小娘についてもだ。」

「ありゃ相方のリアクターだ、俺も『シュトロゼック6th』って事以外は知らねーよ。」


そっちは期待してないが……いくつか聞かせて貰うぞ?
先ず、お前達がこの村にばら撒いたのはエクリプスウィルスで間違いないのだな?


「その通りだな。」


予想はしていたが矢張りか……サイファー、生存者は?


「残念ながらゼロだ――生命反応は全く持って感じられん。」

「そうか……では、2つ目の質問だ、何故こんな事をする?」

「『選別』ってな、優秀な感染者を探し出してんだよ。
 俺等のスポンサーが用意してる変てこなディバイダーとか……後はゼロ因子保有者、通称『ゼロ・ドライバー』を探してるらしーぜ?」


ゼロ・ドライバーと言うと現状ではトーマか。
して、そのスポンサーとは何者だ?私達が一番知りたいのは其処なんだが……


「詳しい事は俺も知らねー。大体俺は単なる下請けで……」


――ジャキ!


「まさか、そんな事が通じるとでも思っているのか?」

「たった今思い出しましたぁ!!
 俺等に指示出してたのは――


――パァァァァァッァアン!!



「!!…狙撃か?」

「いや、撃ち抜かれたと言うよりは、内部から破裂した感じだ。
 此れは……恐らくは特定条件で破裂する超小型爆弾が脳に埋め込まれていたんだ……情報を隠蔽する手段としてな。」

「……何とも胸糞の悪くなる話だが、だからと言って得られた情報はないに等しい――如何する?」


少なくともこの遺体も、エクリプスの研究には役立つだろうから持って帰るとしよう。
其れから、6thなるリアクトプラグの少女もな。


「………!」

「そう怯えるな、私達は君に危害を加える者ではないよ。
 私達は君を保護しようと考えているんだが、もし可能ならば名前を教えてくれないか?名前があった方が色々と面倒が無いのでね。」

「……ロサ。ロサ・シュトロゼック……」


ロサ――薔薇か、良い名前だな。
アイツに良いように使われて、さぞ辛かったろうがもう大丈夫だ。君の事は私達が、特務六課が保護して護る――だから安心すると良い。


「……うん。」


良い子だ。
しかし、野良感染者風情がリアクトプラグを連れているとは……此れは若しかしなくても、私達の予想を上回る一件であるのかもしれないな。



そして、此の一件の鍵を握るのは間違いなくトーマだろう。


あの子の力は未だ不明だが、状況次第で白にも黒にもなる可能性を持ったグレーな力だからな……















 To Be Continued…