Side:なのは
何て言うか、私が武闘派として成長したって言うなら、はやては裏方としての手腕を成長させたって言う感じだね?
エクリプスドライバーであるトーマと、そのリアクターであるリリィをこうも簡単に特務六課での預かりにするなんて、ドレだけの手を使ったのやら……
まぁ、其れが逆に頼りになると言えばそうなんだけどね。
何れにしてもトーマ達は六課で保護しておかないと色々面倒な事になるだろうし。
でも、其れでもだよ?
「では改めまして、特務六課と協力体制にある私設武装組織『ホワイトナイトリベリオン』の高町星奈です。以後お見知りおきを。」
「んでもって、アタシが時空管理局・特務六課の八神ヴィータ二等空尉だ。」
ヴィータは兎も角として、如何して私と星奈が新人さん達の教導係になってるんだろうね?
いや、私も星奈も教導そのものは嫌いじゃないし、寧ろ才能のある子を教える事は好きなんだけど――何て言うか、微妙に釈然としない感じが……
っていうか、此処は私じゃなくて正局員の姉さんが教導官になるべきじゃないのかなぁ?
「其れは其れ、ミユキはミユキでやる事が有る故に、局員ではない私達を此方に回したと言う事ではないのでしょうか?
何よりも、感染歴が10年以上のエクリプスドライバーであるナノハならば、取り敢えずトーマ達の面倒を見る事は出来ると考えたのですよきっと。」
「確かに、言われてみれば……姉さんも局員としての仕事があるんだろうし……其れを踏まえればこの布陣はある意味で妥当って事だね。」
なら、改めまして――私設武装組織『ホワイトナイツリベリオン』の高町なのはです。
此れより皆さんの教導を、星奈とヴィータと一緒に担当させて貰いますので、宜しくお願いしますね?
「「「はい!!」」」
うん、良い返事。
トーマもリリィもアイシスも、とっても良い眼をしてる――成程、此れは実に鍛えがいがありそうだね?……楽しみになって来たよ。
魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force17
『Cross Encounter‐交わる思い』
で、訓練開始から40分が経過して―――
「は、はぁ…はぁ……」
「ぜぇ……ぜぇ……」
「…………………」
新人さん3人は見事なまでにグロッキーだねぇ?……此れでもまだ準備運動の段階なんだけど、リリィに至ってはグロッキー通り越してKO状態だし。
まぁ、一切経験のない新人さんにはこの準備運動でもキツイかもだけど、リリィは兎も角、トーマとアイシスはもっとスタミナ付ける必要があるね?
「そうですね……リリィは永らく生体ポッドに入れられていたから仕方ないとして、世界を周って居た割にトーマもアイシスもスタミナ面が弱すぎます。
無論、同世代の一般人と比べれば中々のモノですが、その程度では此れから先に起こりうるであろう戦いで生き延びる事は出来ません。」
だよねぇ?……まぁ、六課メンバーと私達のスタミナが異常だって言われたら其れまでなんだけどさ……
「は、はぁ…はぁ……す、スゥちゃんやノーヴェ姉、其れにエリオ君は兎も角として、キャロちゃんまで余裕だなんて……あ、有り得ねぇ……」
「こう見えても現職ですよ?ちゃんと日々鍛えてます!」
スバルとノーヴェ、其れにエリオとキャロは全然平気だからねぇ?……多少息が荒くなってるけど、其れもウォーミングアップの範囲内だし。
やっぱり実戦を経験してるのと、してないのでは思った以上に差が出るみたいだね――まぁ、その辺は此れからの鍛錬で埋めて行くだけだけど。
ん?
「すみません、遅くなりました!」
「ティアナとギンガ、会議の方はもう良いのですか?」
「はい!!」
ティアナとギンガ――こうして見ると、はやては本当に機動六課の頃のメンバーを再集結したんだね?
まぁ、其れだけあの時の部隊の武装隊メンバーの質が高かったって事かな?あの時から6年も経ってる訳だから、実力は相当に上がってる筈だし。
「ティアナとギンガも合流ですか?
ふふ、彼女達も交えて新人の教育とは、嘗ての機動六課を思い出しますねヴィータ?……此れは嘗ての教導官魂に炎が宿ってきました。」
「確かに思い出すなぁ……確か『鉄は熱いうちに打て』ってのがオメーの考えだったっけ?
………今更だけどよぉ、其れってオメェが炎熱系で、アタシのデバイスが鉄槌である事に引っ掛けた洒落じゃねぇよな?」
「……さて、如何でしょうか?」
星奈とヴィータのコンビで、教育の基本理念が『鉄は熱いうちに打て』……如何考えても洒落を織り交ぜた考えだね此れは。
だけど、只の洒落じゃなくて理には適ってるかな?物事は最初が肝心だから、伸びしろがマックスの時に教えられるだけ教えといた方が得だよ。
私の戦闘の基本スタイルだって、魔法と出会ってそんなに日が経たない内に確立された物だからね。
まぁ、マダマダこれから鍛えて行けばいいよ。
そんな訳だから、メインメニュー行くよ?
「「「「「「はい!!」」」」」」
「「「は、はい!!」」」
「リリィ、大丈夫?」
「うん、大丈夫…頑張る……」
「はいは〜〜い!贔屓反対!アタシの事も心配して〜〜〜〜!!」
本当に仲良いなぁ、新人3人組は。
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「アイツ等を六課で保護しなきゃならないのは理解してるし、こんな事もあんまり言いたくはねーんだけどよぉ……
あの見習い3人組……現時点で評価するなら、ありゃあ全ッ然ダメだな。」
否定は出来ないね。
3人とも良い物は持ってるんだけど、流石に経験不足過ぎるのと基礎体力が平均並みって言うのは痛いかなぁ?
まぁ、基礎体力の方は此れからの訓練で付けて行く事が出来るから大丈夫だけど、戦闘能力の方はやっぱり経験がモノを言うからね。
取り急ぎ、最低限自分と友達を護れるくらいにはなって貰わないと。
「それとアタシ等の足手まといにならねーくらいにな。」
そうだね、先ずは自分の身を守る事が最優先だし、其れすら出来ないで友達を護る事なんて絶対に出来ないから。
少しばかり厳しい訓練になるかも知れないけど、彼等のこれからの為にも、なんとか全てを身にして貰わないと困るからね……さて、やりますか。
と、そう言えば星奈、ルナは何処に行ったの?
今朝サイファーと一緒に『少し出かけて来る』って言ったきりで何処に行くかは聞いてないんだけど――
「申し訳ありませんが私も存じません。
――ですが、ナノハならば予想が付いているのではないのですか?……あの2人が何処に向かって何をしようとしているのかは。」
まぁね……恐らくは十中八九、稼働中の野良感染者を狩りに行ったってみて間違いないかな?
2人が平然と居なくなってるって事は、はやてが正式に許可したって事だろうし……巧く行けば野良感染者から何らかの情報を引きだせるかも。
何れにしてもホワイトナイツリベリオン最強のルナと、最古にして最強クラスのエクリプスドライバーのサイファーなら万が一にも仕損じはない筈。
新人さん達の教育はキッチリとしておくから、そっちはそっちで思い切り暴れてきちゃっていいよ――寧ろ全力全壊でね。
――――――
Side:美由希
――只者じゃない。
目の前に居る男――ハーディス・ヴァンデインを一言で言い表わすなら其れに尽きると思うわ……誇張なしでマッタク底が見通せないんだから。
一体何を考えてるのか、何がしたいのか……野心を抱えてるのは分かるけど、其れが分からない――お父さんでも此れは難しいかもしれないわ。
とは言え、今は彼の話を聞くしかないんだけど――
「矢張り、御社のエクリプスの研究成果が狙われたのだと―――――?」
「えぇ、エクリプスに関しては我々も独自のスタンスで研究を続けています。アレは現在の魔導時代を壊しかねない危険な病ですからね。
感染者の行動は、此方に持ち込まれたデータである程度の予測をする事が出来ます。
此処を襲った『フッケバイン』の面々は、何らかの方法で殺人衝動を抑えてはいるものの、破壊欲求を満たさずに生きて行く事は出来ません。」
人を殺さずとも、何かを壊さずにはいられない……まるで麻薬の禁断症状だわ。
「言い得て妙ですが、正にその通りであると言えるでしょう。
麻薬が切れた際の禁断症状の如く、破壊と殺人の衝動は感染者を苦しめる――水に沈められた人が呼吸をしたいと思うのに似た強度の渇望…」
「彼等は殺し、殺さずにはいられない――そう言う事ですね?」
「That's Right その通りです。
極論を言うならば、彼等は人を喰わずにはいられない肉食の獣でもあるのです。
其れで居ながら人の知能を持ち、人間社会での武器では死なず、あらゆる英知と罪悪を駆使しうる人型の凶獣を生み出すウィルス。
我々は、その脅威を取り除く研究を日々行っているのです……同業他社さんとは若干異なるアプローチではありますけれどね。」
だとしても感染サンプルの無断確保や培養、其れにレプリカディバイダーの開発と言うのは、一企業の業務としてはやり過ぎなのは否めませんよ?
事を荒立てたくはありませんが、其れなりの処分は覚悟していただく必要がありますよ?
「部下を差し出しての蜥蜴の尻尾切も通用しないのでその心算で。」
ナイス牽制よチンク。
如何足掻いても逃げられないと言う事を言っておけば、その中での妥協案を模索するしかないからね。
「逆らう心算はありませんが我が社も大事な時期ですので、多少の無茶も必要なのですよ。
とは言え其れでは納得しないでしょうから――そうですね、感染者の行動予測データの提出辺りを条件にお手柔らかに願えませんか?
――そう、例えば次に彼等が現れる場所のデータを担保にね。」
……え?此処って、確かルナとサイファーが、はやてちゃんの許可が下りたら行くって言ってた場所じゃなかったっけ?
其れが次の襲撃地点だなんて……コイツ、間違いなく何か知ってるわ――其れこそエクリプスに関するあらゆる事を含めてすべて!!!
此れは、はやてちゃんに彼の事を『最重要人物』として登録して貰っといた方が良いわね……コイツは、間違いなく事件の中枢に係わってるからね。
――――――
No Side
・第16無人世界 移住調査地区
極めて人口の少ないこの地に、其れは居た。
「しみったれた村だな……ドレだけ好意的に捉えても適合者が居るようには見えんぞ?」
「まぁまぁ、此れもお仕事だし、そもそも俺等は逆らえねーんだからちゃっちゃと済ましちまおうぜ?」
「其れが上策だな。」
1人は長い蒼銀の髪を一つに纏めた大女で、もう1人は栗毛の髪をオールバックにした2m近い大男だ。
彼等の眼下に広がるのは、小さな集落――恐らくは此れから此処を襲うのだろう。
「ったく胸糞が悪い……どうせ生き残る奴など居ないってのに、こんな無駄な『選別』をするのかと思うと腸が煮えくり返りそうだ。
だけどまぁ……この殺人欲求を満たす事が出来る殺しを合法的に行えると言う面では悪くないけれど――取り敢えず散布を始めようか?」
そして其れと同時に、小さな集落で起きるエクリプスの散布による怪現象。
天から謎の光が降り注ぎ、井戸水は噴出すると言う異常事態に人々は逃げ惑うばかりだが、そんな住民を尻目に2人組は何時の間にか街中に。
「こんにちわ人間さん……天敵のお出ましだぞ?」
「エクリプスの洗礼を受けて、果たして何人生き残れるだろうなぁ!?」
当然、突如現れた2人組に住人はパニックを起こして逃げ惑う。
だが、其れすらも如何でも良いのだろう……逃げ惑う住民に冷笑を向けつつ、『選定』と言う名の殺戮行為を開始――
――ドドドドドッドドドドドドオッドオドドオドオドッド!!!
「「のわぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁあ!?」」
しようとしたところで、闇色の短剣と無数の誘導射撃弾が二人を強襲!
みたところ誘導魔力弾であるらしいので、エクリプス感染者と思われる2人は無事だろうが、計千発近い攻撃で無傷とは行かないようだ。
「己の勘と言うのも、存外馬鹿に出来ないモノだな?」
「ふ、一流の直感は何者にも勝ると言うからな?」
その攻撃を行ったのはルナとサイファー。
稼動中の4組のうち、1組でも確保しようと此処を訪れていたのだ――エクリプスの直感様様であると言えるだろう。
「とは言え、相手は如何やら話が通じる相手じゃないのは間違いないらしいが……だったら其れで叩きのめすだけだ。
奴等は自分から口を割る事はしないだろうから――自ら口を割りたくなるように仕向ければ其れで良い……要は叩きのめせば其れで問題なし。」
「ククク………何とも分かり易いが、全力で同意できる。
ならば精々、奴等が泣いて『知ってる事を全部話すから命だけは助けて下さい』って言うくらいにまでボコボコにしてやるとするか。」
「なんだ、言わずとも分かってるじゃないか?」
「もう10年来の付き合いになるからな?」
ルナとサイファーは軽口を叩きあうが、其れでも空気は張りつめている。
この場が、一瞬の後に燃え盛る戦場になると言うのは、如何やら間違いないらしい。
そんな事は露知らず、ルナとサイファーは、この街を襲ったエクリプスドライバー2名を睨みつけていた――そう、絶対零度とも言うべき視線と共に。
そして十数秒後、この村には大凡似つかわしくない爆音が鳴り響き――其れを合図にルナ達の戦いも速攻ゴングと相成ったのだった。
To Be Continued… 
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