No Side


エクリプスウィルスの出自は何処か?
その答えを端的に言うならば、リオン・アークヒールが基礎理論を確立したと言う事になるが、此れは多くの人々が知る由もない事だ。


故に、一般的にはその出自は不明となって居るのが現在の状況であると見て大凡間違いではないだろう。


にも拘らず、エクリプスウィルスの齎す効果そのものは、多くの――其れこそ、エクリプスに係わる者全てが其れを正しく理解して居ると言って良い。

エクリプスに感染した者は、ごく短期間の間にエクリプスによって身体を作り変えられて超人的能力を得る。(トーマは其れでも異常な早さだったが。)

だが、その代償と言うが如く、感染者は人としての知覚能力を奪われ、代わりに凶悪なまでの破壊と殺戮の衝動を与えられる。
エクリプスの何がそうさせるのかは、かのスカリエッティであってもいまだ解明するには至って居ない。

しかしながら、エクリプスの感染源であり制御端末でもある『リアクター』は、明らかにエクリプスの基礎理論とは別の理論で作りだされている。
果たして、リアクターの製作者が如何にしてこの理論を確立するに至ったかを知る術はない。


だからと言って『誰が作り出したか』が分からないかと言えば、其れは断じて否だ。
如何に厳重なプロテクトを掛けた情報であっても、其れを解除する術を持つ者の前では全くの無力であり、そして意味を成さない。



――つまり、フッケバインの首領であるカレン・フッケバインは、その手のハッキング技能を有していると言う事なのだろう。


「さてと……リアクターの開発者が、御宅等ヴァンデイン・コーポレーションである事は調べが付いているわ。
 序にその責任者が、第八企画室長である貴方だと言う事もね。
 不躾かとは思ったんだけれど、こっちも色々と理由と予定があるから、色々教えてほしくて半ば強引に押し掛けちゃいました♪悪く思わないでね?」

言葉遣いは軽いが、しかしターゲットを見据えるカレンの顔は、笑みを浮かべては居るモノの瞳は一切笑っていない。
ターゲットとなった男性が目隠しをされたのは、ある意味ではラッキーであったかも知れない


なぜなら、今のカレンの顔には、よほど心臓の強い者でない限りはショック死しかねない程の妖絶なる笑みが浮かんでいたのだから……













魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force16
深淵の鼓動〜Bayonet〜』











フッケバインによる、ヴァンデイン・コーポレーションの襲撃は、大凡成功したと言って良いだろう。
元より、エクリプスの研究を行っていたと言え、所詮は研究者と技術者の域を出ない者が、エクリプスドライバーを相手に出来る筈がない。

フッケバインが襲撃してからモノの10分も経たないうちに、現場は血と肉塊と遺体で溢れかえっていた……正に一方的な虐殺である。


『ヴェイ、そっちは片付いたか?』

「あぁ、一匹残らず始末したし退路も確保した。
 だけどまぁ、変装してきた意味は全く無かっただろ?――結局は何時もの通り、力押しでごり押し上等のカチコミだからな。」

『慎重に慎重を重ねたと言う事だろう?――実際、此処のセキュリティレベルは恐ろしいほどに高かったのだしな。』


ヴァンデイン・コーポレーション側の生存者は、最終的には間違いなく0となるだろう。
しかもその99%はヴェイロンとドゥビルの手によって葬られたと言うのだから、フッケバインファミリーの戦闘能力の高さも馬鹿に出来ないレベルだ。

尤も、真に恐るべきは、此れだけの人を虐殺しておきながら、まるで何も感じていないかのような彼等の態度ではあるのだが………


とは言え、矢張り一般人を遥かに圧倒する戦闘力を持った者達が集まった、統率された犯罪集団と言うのは脅威極まりないだろう。
事実、この完全制圧状態になるまでの所要時間は僅かに30分――戦闘員僅か5人と言う事を考えると、驚異的な短時間であるのは間違いない。


「まぁ、刑法と通報システムは此方で完全に殺してあるので、少なくともあと2時間は誰も気付く事はありません。
 ――さて、其方は如何ですかアル?レプリカディバイダーとやらの方は……」


役割分担も見事なモノで、フォルティスは艦内に残ってセキュリティシステムの掌握を行い、アルナージはレプリカディバイダーの破壊を行っていた。


「んあぁ、今始末してるとこ。
 銃剣型のディバイダーに、本型のリアクター……この部屋だけでも200は下らねーと来てる――コイツ等一体どれだけ作ってやがったんだ?」

アルナージの装備でハチの巣にされたレプリカディバイダーとレプリカリアクターの数は、最早数えるのすら面倒になるレベルだ。
しかし、同時に其れはこの研究所がエクリプスウィルスに関して、其れこそ法に触れまくりの違法研究を行っていた事の証に他ならないだろう。



「感染実験までしてたんだね〜〜……サンプルが沢山ある。」

『此れは……以前、私とトーマが見た物と同じです――此れは感染実験で生まれた物だったのですか……』

「うん……実験体のなれの果て――エクリプスに馴染めなかった者の末路だよ。」

「一歩間違えば、我々もこうなっていたかもしれんと言う事だな……」

スコールとステラとスティードが訪れていた部屋にあったのは、特殊な生態ポッドに入れられたエクリプス感染実験体のなれの果ての肉塊。
人を人と思わない、悪魔の如き狂気の非人道的な実験が此処で行われていたのは疑いようもない事実であるらしい。



つまりは外道――故に、カレンの追及には一切の妥協はない。


「先ずは質問其の一。
 リアクターやディバイダーを作ってるのは、まぁ百歩譲って良いとして――アタシ等を騙って出鱈目な仕事をして何を企んでる?」

「そ、そんな――――!」

「悪いけど、言い分けや弁解を聞く心算は毛頭ないわ。此方の質問に対する答え以外を口にする事は許さない。
 そして回答は5秒以内――あぁ、嘘は通用しないからその心算で。
 ――それでも嘘や誤魔化しを口にした場合は、アタシの手にあるレイピアが、致命傷にならない場所に突き刺さるから、心して答えるようにね?」

自分達の名を騙って半端な事をされていると言う怒りもあるだろうが、兎に角今のカレンの迫力は凄まじい物があった。


イタズラにエクリプス感染者を増やしているような外道に情けは不要。




数分後、聞くに堪えない断末魔の悲鳴と共に、カレンの『二者面談』は幕を閉じた――








――――――








Side:ヴェイロン


「鉱山事故って、トーマが言ってた?」


あぁ、あのチビガキを残して鉱山町が全滅したって一件だ。んで、チビガキが心当たりとして探してたってのが『本と銃剣の男女二人組』。
俺と姉貴が揃えば、確かにそんな二人組にゃなるが、生憎と俺も姉貴もそんなちっちゃな鉱山町を破壊した覚えは全く無いからな。


「かの少年も、つくづく私達と縁が深い――管理局に返すべきではなかったかもしれんな?」


かもしれねぇが、あのチビガキはマダマダ未熟だ、放っておいたって大した脅威にゃならねぇよ――今はまだな。
寧ろ面倒なのは、チビガキの言う二人組とその背後組織だ。


そいつ等は間違いなく、エクリプス計画そのものに深く係わってる可能性があるのは間違いねぇ――ったく、ドカス共が図に乗りやがって。
姉貴が何らかの情報を持って来るだろうが……如何考えたって、そいつ等や管理局と事を構える事になるのは間違いねぇだろうよ……


「良いじゃんヴェイ兄!やるならトコトンやってやろうぜ!!
 仮に管理局の奴等が出て来たって、纏めてぶっ潰せば――……ぶっ潰せば……ぶっつ……」

「あん?如何したアル?」

「いやぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!あのパツキンサイドテールとだけは絶対に二度と戦いたくねぇ!!
 やだやだやだ〜〜〜〜!!アイツともう一度闘うくらいなら、アタシは自分の頭ふっとばして自害する道を選ぶ!!アイツだけは絶対に無理!!」


パツキンのサイドテールって……この間相手にした奴か?
確かに出来る奴っぽかったが、其処までビビる相手じゃねぇだろ――所詮は、ちっと強いだけのメスガキに過ぎねぇ……吹き飛ばして終いだ。


「ヴェイ兄は実際に戦ってねーからそんな事が言えんだよ!!
 こっちの攻撃は一切通用しないのに、向こうは一撃が致命傷になる攻撃を平然と放ってくんだぜ!?……アタシじゃなくてもトラウマになるって!」


……ほう?そいつを聞いてますます興味が湧いたぜ。
だったらそのパツキンサイドテールとは、今度は俺がやってやるよ――調子こいたメスガキを叩きのめしてやるってのも悪かねぇからな。


「ヴェイ兄、其れ間違いなく死亡フラグだと思うよ?」


知らねぇなそんなモンは。
大体にして、俺達の邪魔をするクソ共は有無を言わさずに、吹っ飛ばして殲滅する――其れが俺達フッケバインのやり方だろ?

だったら相手が誰であろうと、其れを実践するだけだ――凶鳥の翼に触れる事は、何処の誰にも出来ねえって知らしめてやりゃそれで良いからな!








――――――








Side:ルナ


連中が大人しくしているとは思わなかったが、よもやあの一件から3日と経たない内にエクリプスの研究所を襲撃して来るとはな……
おまけに、あんな映像を態々残していくとは正気の沙汰とは思えんよ。

『この件に関しては自分達を追うな』――簡潔に言えばそう言った内容だったけれど、はやて嬢が其れに応じる事は先ず無いだろう。
映像を見る彼女の目は、普段からは想像も出来ないくらいに鋭くなって居たし、其処には『徹底的に戦う』って言う決意の光が見て取れたからね。


だからと言って直ぐに動く事が出来るかと言われれば其れは否なのだがな。
私達『ホワイトナイツリベリオン』が単体で動くならば兎も角、管理局との協力体制となると中々即時動くと言う訳にも行かないかし。

何よりも、特務六課の面々のデバイスには対EC機構を組み込む必要もあるからね――ジェイルなら、なんなくやってしまうだろうけれどな。


まぁ、何が言いたいかと言うと、取り敢えずは現状は暇であると言う事だな。
トーマのデバイス――スティードが戻って来た事で、トーマは喜んでいるが――何やら表情が浮かないなアイシス?矢張り不本意か?


「いえ……トーマ達と一緒に公僕見習いってのは良いんですけど、何て言うか本来の夢から離れてるなーって思って。
 アタシの夢って、前にも言った通りデザイナーなんですけど、公僕見習いの身じゃ、其れをやるのは難しそうだからさぁ………」

「成程、其れじゃあ浮かない顔にもなるな。」

ふむ……其れなら、私から仕事をお願いしても良いかな?君の本職の方で。


「えぇ?仕事の依頼って……良いんですか?」

「見習いとは言え、四六時中訓練や何やらをしてる訳じゃないだろう?――休憩時間はある訳だしね。
 それらの時間で都合が付いた時で良いから、私達『ホワイトナイツリベリオン』のユニフォームをデザインしてくれないか?
 制服のある管理局と違って、此方は完全に私設武装組織故に決まったユニフォームはないんだ――お願いしても構わないかな?」

「そう言う事でしたら喜んで!!
 ルナさん達にピッタリのユニフォームをデザインしますから楽しみにしていて下さい!!」


あぁ、楽しみにしているよ。
そうだ、ジェイルのユニフォームは白衣と併せる事を前提に考えておいてくれ――正義のマッドサイエンティストに白衣は欠かせない装備だからね。


「了解です!!」


フフフ……前に会った時にも思ったが元気な子だ。
お前みたいな子が仲間に居るなら、トーマはきっと大丈夫だろうね――何があっても、アイシスが頑張って最悪を防いでくれるだろう。




だが其れは兎も角として、フッケバインを含むエクリプスの感染者の彼是は見逃す事は出来ん。



一見好き勝手やって居るように見えるフッケバインの行動も、若しかしたらエクリプスに係わる事件の黒幕の思惑通りと言う可能性も消しきれない。
だとしたら、果たして黒幕とやらは何をしたいのだろうな?――其れに関しては、此れからの捜査に期待するしかないか……




とは言え、ジェイルとクアットロが調べた結果、稼働中のエクリプスドライバーが4組いるらしいからな……何とも面倒な事だ。
取り敢えずは、その稼動中のエクリプスドライバーを狩る事をした方が良いだろう……イタズラに感染者を増やして良い事など一つもないからな!!
尤も其方に向かうには、部隊長殿の許可を取る必要はあるだろうけれどね。




まぁ、其れは其れとして――今は只、お帰りトーマ……よくぞエクリプスウィルスに飲み込まれずに生きてくれたな――ありがとう。


だが、此れから君には色々と面倒な事案が降り注いでくるだろうが、まぁ頑張ってくれ。
苦難を乗り越えた先で得た力こそ、真に本物の力であるって言うからな?精々頑張れよ青少年?――私となのは達も手伝ってやるからな。















 To Be Continued…