Side:ルナ


アレは……落下し始めていたトーマに寄り添ったあの子は……確か名をリリィと言ったか?
見た限りでは何の変哲もない少女だったが、あの子がトーマに触れた事でトーマの暴走が治まって元に戻った――つまりはあの子が制御機構か?


「もう、大丈夫だからトーマ……だから、私を信じてくれる?」

「……分かった、俺はリリィの事を信じるよ……俺を助ける為に、危険を冒してまで来てくれたんだからさ。」

「――ありがとう、トーマ………ありがとう――行くよ、エンゲージ!!!」



――カッ!!!



なんだ、この凄まじい閃光は!?め、目を開けていられん!!
だが、だがしかし、この閃光に目を晦まされてもトーマの力が安定していくのが手に取るように分かる………トーマは助かるんだな?



「え?あ、リリィ!?」


光が晴れた先には元に戻ったトーマの姿が。
恐らくリリィは、今はトーマの中に居るのだろう――ベルカの融合騎宜しくな。

となると、トーマの中でエクリプスと銀十字の魔導書の同時制御をしていると言うところか?――マッタク持って頑張る子だよマッタク。
だが、お前の其の頑張りは無駄ではないようだけれどな。


「あれ……?」

「幾ら何でもやり過ぎたな……銀十字の魔導書に突き動かされるままに戦ったツケと思え。
 暫くは筋肉痛に悩まされるかもしれんが、エクリプスをその身に宿しているのならば、モノの3日もあれば完全回復するだろうからな。」

何れにしてもお疲れ様だトーマ……良く頑張ったな。













魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force14
『戦闘終了で、夫々の陣営は?











とは言え、このままと言う訳にも行かないから、先ずは管理局の医療部に運び込むのが妥当だろうな。
聞けば冥沙も決して軽くない傷を負ったようだし、私と美由希もトーマとガンガンやりあって可也削られたか――一度戻って休息をとるは当然か。


「ルナさん!!トーマは、トーマは無事なんですか!?其れとリリィは一体何処に!!」


っと、アイシス、そんなに興奮して一度に色々聞かないでくれ。
流石の私も聖徳太子ではないのでね、一度に複数の事を聞きわけるだけの精密な耳は持ち合わせていないんだ。

まぁ、其れは其れとして見ての通りトーマは無事だ、気を失っているがな。
其れとリリィだが、彼女は現在トーマの中に居るって言うのが一番正しいだろう――彼女がトーマと同調したからこそトーマの暴走は静まったしね。

「ともあれ2人は無事だよ。
 尤も諸々の事情で管理局に運び込まねばならないだろうが、トーマとリリィの存在がエクリプスへの対抗策を教えてくれるかもしれないからな。」

「そうね……身体に馴染み切って居ないエクリプスのサンプルが採取できるって言うところを考えれば、トーマ君は凄く優良物件だわ。」


――シャマルか。
その物言いだと、ジェイルが身体に馴染み切ってないエクリプスを欲したって事か?確かに生のエクリプスの遺伝子は何としても欲しいからな。
其れの解析が進めば、エクリプスに有効な薬や治療法も確立できると言うところか……



「ちょっと待ってください!
 それって、トーマを実験台になにかするって言う事ですか!?――もしそうだって言うなら、貴女達に協力なんて出来ません!!」

「気持ちは分かるが落ち着けアイシス、誰もトーマを実験動物として扱うとは言ってない。」

「でも、トーマはエクリプスの貴重なサンプルなんでしょう?だったら――」

「いや、もし実験台にすると言うのならば、私となのはとサイファーはとっくの昔に実験台になって居るからな?」

「……はい?」


言ってなかったか?私もなのはも、そしてサイファーも3人揃ってエクリプスドライバーだぞ?
序に言うなら、サイファーの奴は最古の感染者だ。


「うそ……マジで?」

「本気と書いてマジだよ黒髪ちゃん。」


分かったか?
既に民間協力者の中に、エクリプスドライバーが3人も居るんだ、今更トーマを実験台になどせんさ。
まぁ、特異なケースだから多少の精密検査はするだろうがそれだけだ。特務六課はトーマ少年を温かく迎えてくれる筈さ――新しい仲間としてね。


「なら良いんですけど……」


まぁ、トーマのデータからエクリプスの根本治療法を探ろうと言うのも嘘ではないのだけれどな――何れにしても先ずは特務六課へ行かねばな。


トーマの方はリリィ共々シャマルに任せておけば大丈夫だろう。



まぁ、取り敢えずは状況終息と見て良いだろうな。
冥沙がフッケバインの首領に刺されたらしいが致命傷ではないようだし、此れだけの戦闘を行って死者がゼロと言うのは奇跡かも知れないね……


とは言え、恐らく今回の事は始まりに過ぎんのだろうな。
フッケバインのメンバーが逃げ果せた以上は、また何時、何処で面倒な事が起きないとも限らないし、何れにしても楽観は出来んか。


だが此れだけは言っておくぞフッケバイン。
貴様等は、私の大切な妹を傷付けてくれたのだ……その対価として、滅びの道を選んだと言う事は分かっているんだろうな?

はやて嬢の思惑もあるだろうから、次にあった時に即殲滅――とは行かないだろうが、殲滅可能となったその時は覚悟しておけよ?



月の祝福と白夜の聖王、そして白の騎士と反逆者達は、己の仲間を傷付けた者を絶対に許しはしないからな。








――――――








Side:カレン


いやいや、何とか無事に逃げ果せたわね〜〜〜。
あの白髪の子を串刺しにしたのは良かったけど、まさかの追加戦力があれほどとは……マッタク持って予想外だったわ。

六課に協力者として登録されてるエクリプスドライバーの子も相当な手練れ――其れこそ、うちらの戦力じゃ敵わないレベルだったものね。

けどまぁ、其れは兎も角として長旅のおかげで得られた物は大きいわよ?
新型の航行システムも手に入れたから、ステラの負担も大幅に減少すると思うしね〜〜♪


「だけど姉貴よ、其処まで面倒な奴等だってんなら、あの白髪のメスガキは潰しといた方が良かったんじゃないのか?
 てか、ぶっ刺した刀を捻ればそれでぶっ殺せただろうに……何だって生かしといたんだ?」

「甘々ねヴェイ、あの子をあの場で殺してたら、間違いなく私達は全滅していたわよ?
 ……トーマとやりあってた薄い茶髪の子が、其れこそ全てを破壊しつくしかねない一撃を放ってたんじゃないかしら?――其れも強力なのをね。」


私の勘だけど、あの薄い茶髪の子は多分私達が束になって掛かっても相手にならないんじゃないかしら?


「まさか!!」

「普通ならそう思うだろうけど、有り得ない話じゃないのよ?
 ……ちょと気になったから調べてみたんだけど、あの子は正直トンでもない存在かもしれないわよ?」

16年前に、第97管理外世界で起こった2つの大きな事件を解決に導いたのが彼女なのよ。
もっと言うなら、1つ目の事件の際には、事件の黒幕を1人でボッコボコにしたらしいし………


更には6年前のミッドチルダ全域を巻き込んだ巨大テロ事件を鎮圧するのに、最も貢献したのも彼女なのよ?
圧倒的な力で、敵方の黒幕を文字通り『撃滅』して殲滅した……正に一騎当千と言うのすら生温いほどの超強力な騎士な訳だからね。

しかも、相当にチートな能力を持っていながら、エクリプスドライバーにまでなってるって言うんだから、誇張抜きでトンでもないチートキャラよ?


「メンドくせぇ……」

「此れも生き残る為の処世術よ?
 早々簡単に殺されないとは言え、うちはまだまだ小さなファミリーな訳だし。」

でっかい事やるには、其れなりの準備も必要なのよ。

だけどまぁ、当面はこっちで適当に動くとして、朗報も有るわ――例の、うち等の紛い物の事だけど、やっと正体を掴んだわ。


「「「「!!」」」」


流石に驚いたかしら?


「そりゃあ驚きますよ?
 だってそれは僕達がずっと追っていた『本と銃剣の2人組』でしょう?レプリカディバイダーを持ったって言う……」


大正解、その通りよフォルティス。
次の仕事の都合もあるから、先ずはそっちから潰しといた方が良いと思ってね。



「つまりは暴れても良いって事か?」

「好きにしなさいヴェイロン。」

取り敢えず、私等の名を語って半端な事をしてくれてる連中に、きっつ〜〜いお灸を据えてやらないとだからね。








――――――








Side:なのは


取り敢えず、トーマの方は六課の本体に任せるとして……大丈夫、冥沙?


「斯様な無様な姿を曝すとは、主の臣下としては些かの情けなさを感じなくもないが、取り敢えずは無事だ。
 我が生身の人間であったならば当分はベッド生活を余儀なくされただろうが、こう言っては何だがプログラム生命体であったのが幸いしたようだ。
 大ダメージを受けはしたが、プログラム生命体ならば、生身の人間では致命傷になりかねない傷であっても、何とか耐える事が出来るからな。」


そっか、命に別条がないなら良かったよ。
だけど、重傷である事は変わりはないから、取り敢えず今は自分の療養に専念して……約束できる?


「如何しようもなくなった事態が発生した場合にはその限りではないが――出来る限り善処しよう。
 まぁ、我の事は良いが、あの小僧と、小僧と融合した小娘はどうなったのだ?幾ら何でも、何時までも融合したままとは行くまいよ?」

「その辺は大丈夫だよ冥沙。
 シャマル先生の下で分離の彼是をしてるだろうし、ルナとアインスさんもその場に行ってるから一切合切問題はないと思うよ。」

尤も、今回の一件がエクリプスを巡る大きな戦いに発展するだろうことは間違いないと思うけど。
けど、そんなトンでもない事が起きた時の為に私達は存在してる訳だし、どんな面倒事が起きても真正面から鎮圧する、只それだけだよね?


「ククク………マッタク持ってそのとおりだ姉上よ。
 面倒な事をやってくれる連中は叩きのめしてやるだけだろう?――白夜に牙を剥いた愚か者に待つのは破滅、其れだけの事だ。
 此度は僅かながら不覚を取ったが、次はそうは行かぬ……我のどてっぱらに風穴を開けてくれた礼を万倍にして返してやらねばなぁ……!!」


その通りだね冥沙。
兎に角フッケバインと、イタズラにエクリプス感染者を作り出してる外道は、早急に何とかしないといけないからね。








――――――








Side:スカリエッティ


此れは此れは……調べれば調べる程、難解かつ調べ甲斐があるね、件のトーマ少年のデータは。
何の変哲もない普通の少年でありながら、即座にエクリプスに身体が馴染んで、挙げ句の果てにはゼロドライバーとは、テンコ盛りも良い所だよ。

何よりも、ゼロドライバーについては、エクリプスの基礎理論を確立したリオン君ですら『理論上は有り得る幻の存在』として居た訳だからね?
故に、エクリプスについてはブラックボックスの部分が多いと言うのが正直な所だ……ルナ君達から情報を得ているにも拘らずだ。



だがリオン君、君は若しかしたら絶対に開けてはならない禁断のパンドラの箱を開けてしまったのかもしれないな?
エクリプスドライバーに対しては、専用の装備や、対魔導殺し用の改造をデバイスに加える事で対抗する事は可能だろうが、其れでは終わらない。

破壊と殺戮の衝動に呑まれた存在では何をしでかすか分からないのでね……



或は、君は其れを見つけてしまったからこそ、2つのリンカーコアを地球に向けて放ったのかな?
なのは君とはやて君ならば、己が見つけてしまった禁断の力を何とかしてくれるのではないかと思って――……流石に考え過ぎだね此れは。


しかしまぁ、私とて科学者の端くれだ、自分の力が及ぶ範囲ならばトコトンやらせて貰おうじゃないか。




だが、其れは其れとして、このエクリプスを巡る一件には如何にも仄暗い『悪意』の存在が見え隠れしてならないね?
この『無限の欲望』ですら計り知れないほどの悪意とは一体何なのだろうか………まぁいい、私は私のすべき事を成すだけさ。


何れにしても、ルナ君達が屈する事は、其れだけは絶対に有り得ない事さ――相手が魔導殺しのエクリプスドライバーであったとしてもね。








――――――








Side:ルナ


六課に保護された直後に、トーマは目を覚ましたが、リリィは相変わらずトーマの中に居る状態だ――先ずは其れを何とかしなくてはな。


「トーマ……リリィ……」

「気持ちは分かるが、そんな不安そうな顔をするな、きっと巧く行くさ。
 何よりも、シャマルが1回では利かないくらいにありとあらゆる方向から調べてくれたのだ、万が一にも失敗は有り得んよ。」

だから、一緒に見届けようじゃないか?
トーマ・アヴェニールと言う少年の真なる覚醒と、リリィ・シュトロゼックと言う少女が帰還すると言う光景をな。















 To Be Continued…