Side:ルナ


さっきの一発は間違いなくクリーンヒットした……にも拘らず未だトーマは健在か。
自慢じゃないが、私の本気の一撃は軍用装甲車すら一撃でスクラップに出来る――だが、其れを喰らってマッタクの無傷とは恐ろしい耐久性だな?

或は耐久性のみだけならば、暴走状態の私やアインスに匹敵するやもしれん。




――いや、魔導殺しのエクリプスドライバーであるのならば匹敵どころかそれ以上だろうな?一切の魔導が通じないと言う事なのだから。



だが、だからと言って此処で退くのかと問われれば、其れは絶対に否だ!
トーマは今この瞬間も、自分では御しきれない力に戸惑い、支配され、そして苦しみながら助けを求めている……其れを無視する事など出来るか!


「うぐ……がぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ちぃ……!!」

略理性が残って居ないが故に、その攻撃はお世辞抜きに凄まじい威力だが、理性が無い状態で放たれた攻撃故にそれを見切る事は至極容易い!

「しっかりしろトーマ!お前はこんな破壊の力が欲しかった訳ではないだろう!
 このままその力を使い続ければ、その先に待つのは破滅と言う闇だ……お前が其処に落ちてしまったら、悲しむ者がドレだけ居ると思っている!
 下らない力に支配されるなトーマ!心を強く持つんだ……もうじき、お前の大好きな『スゥちゃん』と『ノーヴェねぇ』が助けに来てくれるのだから!」

「スゥちゃん?……ノーヴェ…ねぇ?」


そうだ……お前が本当の姉の様にしたっていた者達だ。
その者達にも、お前は壊すだけの凶刃を向けると言うのか?……其れは違うだろう?――もう、いい加減に目を覚ますんだ、トーマ・アヴェニール!













魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force13
銀十字〜Silbern Kreuz〜』











「目を覚ます…?俺が振るうのは只の凶刃?
 ち、違う!違う!俺が戦うのは、俺が俺として生きる為だ……それ以外の理由なんてない!……俺は、俺の思うように戦うだけなんだぁ!!!」


言葉は届かないか!!
ちぃ……ディバインバスター!!



――バガァァッァァァァン!!!



略カウンターで突き刺さったディバインバスターだが、恐らく然程効果は期待できない……魔導殺しの中でも稀有な『ゼロ』とやらが相手なのだから。
かと言って物理攻撃で決定打が与えられるかと言われれば、其れもまた難しいだろうな?

トーマ自身に攻撃が効かない訳ではないだろうが、銀十字の魔導書がトーマに常に的確な行動を取らせている故に、決定打を与えるのも難しい。
だが、これ以上戦闘が長引いてはトーマ自身に悪影響が出ないとも限らんからな?

少なくとも、以前に会ったトーマは戦闘に関しては全く素人であった筈だ。多少の魔法を使う事くらいは出来ただろうがね。
其れが今は、一線級の魔導師と互角に渡り合って居る等、如何にエクリプスの暴走が作用しているとはいえ異常としか言いようがないからな?

エクリプスの暴走と、銀十字の魔導書の戦闘指示と管制で、今のトーマは本来の身体能力を超える動きを『させられている』のだろう。


ならばあの動きも納得できるが、そんな事を続けていたら全身の筋肉がボロボロになって一生病院のベッドで過ごす事になりかねない!
まして、トーマはまだ感染して間もないが故に、エクリプス特有の超再生能力だって会得するには至って居ないだろうからな。

「ブライト、Tran-S・A・Mを使うぞ!」

『All right Master.“Tran-S・A・M”Drive ignition.』


――轟!!




「!!?」


ほう?流石に気付いたか?
だが気付いた所でもう遅い!祝福の月光状態で、更にTran-S・A・Mを発動した私の能力は、通常時の9倍にまで跳ね上がっているのだからな!

「今の私は、軍神や阿修羅すら凌駕する存在だと知れ!!」


『敵性脅威測定不能――離脱不能と判断。
 高速飛翔を停止し、白兵戦に備えて下さい。』

「ぐ……うがぁぁぁあぁっぁぁぁぁぁあ!!!!」


小賢しい!暴走に喰われた攻撃が私に通ると思ってか?
私に決定打を与えたいのならば、先ずは雷華のパワーと、星奈の頭脳を併せ持つ事だな?其れが出来て、漸く私と戦うスタートラインだ!!


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「だから見えていると言っているだろう!!」



――ガキィィィィン!!!



「!?」

「如何した……如何に魔導殺しの剣とは言っても、鋼鉄と化した腕を切り落とす事は流石に出来んか?」

まぁ、この一撃を受ける事が出来たのは、ジェイルがブライトに魔改造と言うのも生温いほどの改造を施してくれたからなのだがな。
だが、攻撃を防がれた事に驚いたのは拙かったな?……隙だらけだトーマ!!!

「破ぁぁぁぁぁ……真・昇龍拳!!!!



――ガス!バキッ!バキィィィィィィィィ!!!



鳩尾に一発と顎に二発、的確に入ったな。
普通ならば、人体急所に一発喰らって、更に脳を揺らす顎への攻撃を二連続で喰らえば昏倒は免れないんだが……


「この威力…アンタは敵だ……俺を殺そうとする……敵なんだぁぁぁっぁぁぁぁあぁぁ!!!」

「ちぃ、意識を刈り取るには至らなかったか!!」

しかも何て言う超反応だ!?
Tran−S・A・M状態でも、此れは回避しきれない――


ハイペリオンスマッシャー!!



――ドゴォォォォォォォォン!!



この砲撃は……なのはか!


「大丈夫ルナ?」

「あぁ、何とかな……今の一撃を喰らって居たら正直危なかったもだ……礼を言うぞなのは。」

如何にエクリプスドライバーとは言え、私の真・昇龍拳をまともに受けて無事な奴が居たとは驚きだよ……此れもゼロ・ドライバーであるが故なのか?
だが、今のでも倒せないとなると果たしてどうやって大人しくさせたモノだろうな?

相手がエクリプスドライバーである以上は、恐らくブレイカーですら決定打にはなり得ないだろうが――


「其れなんだけど、トーマ自体を止めるんじゃなくて、武器破壊を狙ってみたらどうかな?
 あくまでも、私の予想なんだけど、今のトーマの強さを支えてるのはあの剣と銀十字の魔導書だと思うんだ?――なら其れを破壊してしまえば…」

「成程な……その手があったか!
 ならば、私がトップでなのはがバック……王道的な前衛と後衛のコンビで行くとしようか!」

「その実力は、並の前衛後衛コンビとは比べ物にならないレベルだけどね。」


ふ、世界広しと言えども、私となのはのコンビと真面に戦えるのは、はやて嬢とアインスのコンビ位なモノだろうよ。
世界最強タッグに加えて美由希とアイシスが居るし、直にナカジマ姉妹だって到着する筈だからな――負ける要素が一切合切見当たらないぞ?



「敵は殺す…敵は殺して俺は生きるんだ……俺は……俺ハァァァァァァっぁあぁぁ!!!!」

『ハイパードライブ承認。』



!?
拙い、なのはが加わった事で銀十字の魔導書の警戒レベルが上がったのか!?
そして其れに呼応するように膨れ上がるトーマの力……しかもこの感じは、まさかさっきのアレを使うのか!?ディバイト・ゼロ・エクリプスを!!


冗談じゃない!あんなものをもう一度使われたら、其れこそ私となのは以外の命は燃え尽きてしまうぞ!!



「させない!黒の香No.9ダスキースラッシュ!!」


――バガァァァァァァァッァァアアン!!!



「!?」

『高レベルの危険可燃物による煙幕――攻撃中断、緊急回避。』


アイシス!
まったく、良いタイミングでやってくれたものだ……状況を的確に見極めて、最も効果的な一撃を放つか……お前には司令官の素質があるかもな。


更に今の一撃で動きが完全に止まった――やるぞ美由希!


「言われなくたって……穿ち貫く!覇ぁぁぁぁぁぁっぁあっぁあ……貫け、九頭龍閃!!

「斬り裂け――スピリットエクスカリバー!!


「うぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



――バキィィィィン!!



私と美由希の最大レベルの攻撃すら防ぐとは、真に恐ろしいなその能力は。




――だが、その能力が裏目に出たな?……私と美由希の攻撃はあくまで見せ技、言うなれば囮だ!本命は別にある!
そして、この本命こそがお前を助けるのには最も相応しい者達だ――打ちかませ、スバル!ノーヴェ!!


「おぉりゃぁぁっぁあぁぁぁあっぁ!!」

「オラァぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!」



「!!!!」


――ガッ!…バキィィィィィ!!!



効果は抜群だな?
先ずはトーマの剣を折る事が出来たからな――獲物が砕けたとなれば、戦闘の継続は困難なのは明白だしね。


『ディバイダー破損、白兵戦続行困難――飽和射撃で殲滅した後に、当該空域を離脱します。』


にも拘らず、まだくたばらないか銀十字の魔導書よ!
だがな……お前は、もう既に詰んでいるんだ!!――そうだろう、ディエチ、ウェンディ!!


「チェックメイトっスよ既に!!」

「目を覚ましてトーマ……!!」


「うおぉぉぉぉぉ!若本神拳最大奥義、太陽系破壊かめはめ波っすーーーー!!」

「此れで正気に戻って!ファイナルキャノン!!!




――ドガバァァァッァァァァッァアァン!!!




うん…実に凄まじい攻撃だな此れは。
此れだけの攻撃を喰らったら、如何に魔導殺しとて無事では済むまい……恐らくはトーマも意識を刈り取られてだろうから今の内に回収をすれば…


『ドライバーの身体機能低下……戦闘継続困難。
 ドライバー保護の為に転移の必要あり――強制転移モードに入ります。』


と思った瞬間に強制転移だと!?
く……此れが発動してしまったら厄介な事この上ないぞ!?……少しばかり荒っぽいが許してくれ――雷華、フェイト!!!




「うおりゃぁぁぁぁあ!雷神滅殺極光斬!!!

貫け雷神!!

『Jet Zamber.』



――斬!!




「!?……!!!??」


魔導書破壊……願わくばこれで正気に戻って欲しいのだが…


「……あ……………」



――ガクン………



流石に、そう都合よくは行かないか!!
それどころか、武器と魔導書の両方を砕かれた事で身体が機能停止するとはドレだけだ!?……本当にトンでもない代物だなエクリプスは!!

如何にエクリプスドライバーとは言え、この高さから海面に叩き付けられては無事ではいられん……く……間に合えぇぇぇぇぇぇ!!!!








――――――








Side:リリィ


リアクター『銀十字の書』は、保有者を守り、そして外敵を排除する『武器管制システム』。
常に外敵を排除する事に全力を注ぐ故に、保有者の力のみでは制御出来ない――完全制御に必要なのは総合制御ユニット。


『緊急――離脱――ドライバー――保護――』


だから逃げないで銀十字!…私が今――


『ダイレクトコネクト起動、エンゲージシステム動作開始。』


助けに行くから!!


――バシュン!!



…ずっと苦しかった、私のせいで死んでいく人たちを見て。
自分のせいで多くの人達が死んでいって、だけど自分では何も出来なくて、ずっと哀しかった――だけど、トーマは私の声に応えてくれた。

アイシスが私とトーマを助けてくれた、


其れなのに、私は結局2人の優しさに甘えて、一杯辛い思いや苦しい思いをさせちゃったし、周りの人達にもたくさん迷惑をかけちゃった……

だから、もう此処で終わりにしなくちゃ!!



確りしてトーマ!私だよ、リリィだよ!
――答えて銀十字!リアクトプラグ、シュトロゼック4thが此処に居る!


『異分子反応――反―応――脅威――防…御――排――除――』


――ズバァァア!!



!!……痛い……だけど此れはきっと、トーマが感じた心の痛み……アタシが甘んじて受けなければならない痛み……うん、凄く痛い。


だけど、この痛みを知ったからこそ分かる。
自分が変わらないままなら、未来も運命も変える事なんて出来ない――だから、もう暴れるのは止めようトーマ?


怖がらなくても大丈夫……私は、此処に居るから……目を覚まして――

「トーマーーーーーーーー!!!」


――バギィィィィン!!



「……え…あ――リリィ?」

「うん……私だよトーマ……」

良かった…正気を取り戻してくれたんだ……もう大丈夫だよトーマ――全部、思い出したから……もう、怖い事は何もないから…ね?














 To Be Continued…