Side:アイシス


「……OK、治療完了!肉体の損傷及び、失われた体力は略100%回復したわ。」


ありがとうございます、え〜と……緑の服の看護婦さん?


「シャマルよ。」

「ありがとうございますシャマルさん!」

此れでトーマを助けに行ける!――ほぼ全快した訳だから、直ぐにでも行って良いんでしょ眼帯のお姉さん?


「あぁ、問題ない。
 あの少年も、暴れながらも助けてくれと思っているようだからな?――ならば友達であるお前が行かねばならんだろう?
 フッケバインの連中も黙ってはいまいが、余計な横槍が入ってきても、私がその横槍を払ってやるから、お前は彼を助ける事だけに集中しろ。」

「了解です!!」

「其れと、私の名はサイファーだ、呼ぶならばそう呼べ黒髪。」


む……なら私の名前もアイシスですから、そう呼んでください!


「ククク…了解だ。
 では行こうかアイシス、お前の友達を助けに!!逆毛の少年とハチマキも、回復し次第出てこい――恐らくは総力戦になるだろうからな。」

「「はい!!」」


は〜〜〜……サイファーさんもカッコいい女の人だよね〜〜。少し憧れちゃうかな?
――じゃなくて、兎にも角にもトーマを助けなきゃ!!今直ぐ行くから、待っててねトーマ!!
















魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force10
最強と暴走――ECの激突』











Side ルナ


さてと、如何攻めたモノだろうな?
ジェイルが強化してくれたデバイスならば、エクリプスドライバーに対しても有効打を与える事が出来るが、多少のダメージは無意味だろうな。

完全にエクリプスの持つ破壊と殺戮の衝動に呑まれてる以上、そこそこのダメージでは止まらんだろう。
だからと言って致命傷を与えて止める訳にも行かないか……矢張り、武器と銀十字があしらわれた魔導書を破壊するのが最もベターな方法か。


「あが……うが……敵は……敵は殺す……殺さなきゃならねぇんだぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!」


――ガキィィィン!!!


「!!」

何と言うスピードだ……此れはフェイトのソニックにも匹敵するぞ!
だが、如何に速くとも、そんな殺気ダダ漏れの攻撃では何処から攻撃が来るか等は丸分かりだ、その程度の攻撃は私には通用しないと知れ!


――ガキィ!!


「ぐぅぅぅ……」

「略ノーモーションからの鞘打ちをガードするか……見事なモノだがまだ甘い!
 この鞘打ちは言うなれば見せ技!――本命はこっちだ!!!」


――ズバァァ!!


「がぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっぁあぁ!?」


敢えて鞘打ちをガードさせ、其処から身体を一回転させて改めて居合いを放つ二段抜刀術は流石に予想できなかったか?
とは言え、今の居合いは完全に入った筈なのに、其れをものともしないと言うのには驚きだがな――此れは、予想以上に馴染んでいるかもな。

だが、だとしても私のやる事は変わらない。
お前を止め、そしてお前を救う――私が今すべきは、其の一点に尽きるからな。








――――――








No Side


ルナとトーマの戦闘が本格化し始めた頃、六課とフッケバインでもそれぞれ動きがあった。

サイファーとアイシスがビッグバイパーから出撃したのとほぼ同時に、フッケバインからも、アルナージとドゥビルに続く形でスコールが出撃。
ヴェイロン以外、全ての戦闘要員が出撃する状態になっていた。

もしも相手が六課のみだったら、こんな全軍出撃の様な事はしなかったかもしれないが、先刻受けたルナとなのはの闘気に圧された故だろう。


「如何やら小煩い蚊蜻蛉が来たようだな?」

「へ?」

「黒髪、お前は其のままお友達の救出に向かえ。
 ぶんぶん煩い、蚊蜻蛉は私が此処で足止めしておいてやる――早く行け!」

「は、はい!!」


スコールの接近を感知したサイファーは、アイシスに先を急ぐように言うと、自分は進路を変えてスコールの進路を塞ぐように、立ち塞がる。
いや、実際にサイファーはスコールを此処から先には1ミリたりとも進ませる気などなかった。


「其処をどいて貰おうか姉さん?」

「断る。それ以前にお前に姉と呼ばれると吐き気がするから二度とそう呼ぶな。
 其れに悪いが此処から先は通行止めで迂回路もない、お引き取り願おうか?」

「無理な話だな?通行止めだと言うなら、無理を押し通して突っ切るだけだ。
 ――其れにしても思った以上に甘いな姉さん。あの子娘を1人で行かせて、自分が足止め役になるとは――」

軽口もそこそこに、サイファーとスコールは対峙する。
だが、其処から発せられる殺気と闘気は、大凡相対する姉妹から発せられるモノではない……互いに相手を殺す気なのが分かるレベルなのだ。


「勘違いするなよスコール、私は足止めを買って出た訳じゃない。
 あの子はトーマを助けたい一心で動いてるのでな、其れを邪魔する無粋な輩を斬り捨てようと思っただけの事。
 何よりも、未だ年端のいかない少女に、貴様を斬殺する光景は幾ら何でも刺激が強過ぎる――此処からのライブはR指定なのでな。」

言いながら、自身の相棒であるライオンハートをガンブレード型に変形し、凶悪とも言える笑みを浮かべながらスコールに向ける。
そしてその目は、妹を見る目ではない――討つべき仇を睨みつけるアベンジャーの怒れる瞳だった。

「斬り捨てる前に聞くが、私は兎も角として、何故父さんと母さんまで殺した?
 姉妹とは思えないくらいに、其れこそ文字通り死ぬほど仲が悪かった私ならば兎も角、父さんと母さんが貴様に殺される理由が分からん。」

「理由か……別分何もない。
 敢えて言うならば、私が作った毒と爆薬の力を試したかったと言うところだ――結果は上々だったがな。」

「クズが……死んで、あの世の両親に詫びてこい!」

「嫌だね。
 だが、私も聞きたいな……何故生きてたんだ?計算上では、あの爆薬の破壊力ならば姉さんもまた芥子粒になっていた筈なんだが……」

「其れについては運が良かったとしか言いようがない。
 お前が爆薬を仕掛けたのが1カ所だったら或はお陀仏だったかもしれないが、お前が複数個所に爆薬を仕掛けてくれたおかげで助かったよ。
 偶然にも、私が倒れていた場所は爆風同士がぶつかり合って威力を相殺してしまうダメージ0の場所だったようだからな。
 尤も、爆発のダメージを負わなかっただけで、熱による火傷はしたし、すっかり弱っていたせいで、クソ共の実験体として連れてかれた訳だが。
 まぁ、何れにせよお前は此処で終わりだ――世界初のエクリプスドライバーの力をその身に刻み込んで涅槃に渡れスコール!!」

最早、スコールの言う事に、サイファーは怒りも呆れも通り越してしまったようだ。
あまりにも身勝手で子供じみた動機に、怒る気も失せたと言うのが正直な所かも知れないが、だがしかし両親の仇は討たねばならない。

吠えると同時に、間合いを詰めて目にも留まらぬ袈裟斬りと逆袈裟斬りのコンボによる変則十文字斬りで強襲!

辛くもスコールは其れを防ぎ、逆に二刀流で反撃を仕掛けるが、サイファーはその反撃よりも速く肘打ちをスコールに叩き込む。
二刀流を相手にしているのに、サイファーがガンブレードでの一刀流を選択したのは、即時体術が使える事を考慮しての事だったのだろう。

「がは!?」

「フン……その様子では、私と違って痛みに慣れて居る訳ではないようだな?
 ならば試してやろう、痛みに慣れていない不死身というのは、どの程度の痛みまで発狂せずに耐える事が出来るのかをな。」

「ぐぬ……舐めるなぁ!!!」

姉妹であり、そしてともにエクリプスドライバーであっても、その実力差は如何やら相当にあるようだ。
少なくともサイファーが居る限り、スコールがトーマの下に行きつく事だけは絶対に無いだろう……其れだけの力の差は否定が出来なかった…








――――――








一方アイシスは、特に妨害もなくルナの下に到着していた。
此れは偏にアイシスの空中移動の巧さがあるだろう。魔力飛行のみならず、風向きをも計算して飛んでいたのだアイシスは。

その結果として、先に出撃していた筈のアルナージやドゥビルよりも早く現場に到着できたのだ。


「君は……あの時の服屋さんか!?――あの時は世話になったな、君が見繕ってくれた指輪は大層気に入って貰えたよ。」

「其れは毎度どうも〜〜〜って、今はそんな場合じゃないですよね?」


そして、かつて客と商人として出会っていたルナとアイシスは、此処が戦場である事を忘れてしまうような挨拶を交わしていた。
尤もアイシスはそんな場合ではないとは思ったが、つい釣られてしまったらしい。

まぁ、だがルナとてふざけていた訳では無い、あくまでもアイシスを緊張させないようにと思った、一種での心遣いだったのだから。


「あぁ、そんな場合じゃないのは分かっているさ。
 総合能力ならば私の方が圧倒的に上だが、暴走したトーマは略本能のままに行動してるからやり辛い事この上ないのが正直な所だな――
 君もトーマを助ける為に来たんだろうが……どれだけ出来る?」

だが、この場で欲しいのは猫の手ではなくて強者だ。
なのでルナは、歯に布を着せずにアイシスに聞いたのだ――『お前はどれだけ戦えるのか』と。


「私自身の戦闘能力はそんなに高くないけど、身体の頑丈には非常に不本意だけど自信あり!
 魔法戦もからっきしだけど、相棒の『パフィ』を使った戦闘なら、少なくともトーマの動きを数秒間完全に止める事は出来ると思う。」

そんなルナに対し、アイシスもまた一切の偽りなく自分の事を伝えて行く。
戦闘力は低いが耐久力は高く、魔法戦はからっきしダメだが相棒を使った戦い方なら今のトーマの動きを止められる――考えるまでもなかった。


「其れならば上出来だアイシス。
 お前の最も得意とする攻撃でトーマの動きを止めてくれ――その間に、私がトーマの武器と、あの魔導書を破壊する!」

「了解です!
 所でルナさん、実は新作のプラチナのアクセサリーと、ルナさんに似合いそうなシックなお洋服作ったんですけど後で試着してみませんか?」

「この戦いが終わって、私も君も無事だったら喜んで!!」


アイシスもトーマ救出に参加!
力の暴走に苦しむトーマを助けたいルナと、単純に友達を助けたいアイシス――2つの助けたい思いが、トーマの闇を払わんと動き出した。








――――――








だが、其れは同時に、フッケバインのメンバーにとっては面白くないだろう。
本来ならば自分達が仲間として引き込む筈だったトーマを、言うなれば横槍を入れられて掠め取られるようなモノなのだから。

少なくともフッケバインの側からすればそうなのだ。


「あのロン毛とぺったん胸、思った以上に粘りやがるな……」

「やろうと思えば、長髪の女性だけでもかの少年と渡り合えたかもしれないが、其処にあの娘が加わった事で戦力が大幅に増したか。」


アルナージは、忌々しげに戦闘を見つめ、反対にドゥビルは冷静に状況を判断している。
だからこそドゥビルは思いついたのだろう――この状況を打破する策を。


「私の力を使って、長髪の女性の意識を刈り取る――後は好きにしろ。」

「マジで!?いや〜〜〜、流石はビル兄!よっく分かってるじゃん!!」


其れを聞いたアルナージは一転してご機嫌状態に。
多くは語らないが、ドゥビルの考えてる事が的中すれば、全てのしがらみを取り去って、自分達の望む力を手に入れる事が出来るかもしれない。


そんなアルナージを一瞥すると、ドゥビルは己の能力で空間を超え、そしてルナの背後に出現!



反応など出来る筈がない。



ドゥビルの能力は単距離空間転移――詰まるところが有効射程の短いワープみたいなものだろう。
その能力者が、其れを使っていきなり背後から現れたとなっては対抗策も間に合わない……手刀は確実にルナの首を狙っていたが―――


「させるか、うおりゃぁぁぁっぁぁあああぁぁーーーー!!」

雷神の襲撃者こと、高町雷華が高速で割って入り、ドゥビルの一撃を粉砕する。



此れにはドゥビルも驚きだ。
音速をも超える自身のスピードに付いて来るだけではなく、自分の攻撃を愚直なまでに正面から受ける等、到底考えられない事だった。



――見えなかっただと?コイツも瞬間移動能力者――ではないな、コイツは単純に速いのだろうな…!!!



ドゥビル自身も考える事があるようだが、今は目の前の敵を排除するのが上策だろう。


「其処を通らせては貰えないか?……俺は無益な争いはしたくない。」

「うんそれ無理!――悪いけど絶対に通さない!
 何よりも、ルナを殺そうとした奴を『はい、そうですか』って見逃してやるほど、僕は心が広くないんだ。だから、お前の事は此処で止める!!
 そもそもルナを闇討ちしようとした時点で、お前の死は絶対だぞ?僕はなのはとルナを傷付ける奴を絶対に許さないからな!!」

「其れは残念だ……ならば、その幻想に抱かれて死ぬが良い!!」

「幻想だと!幻想じゃないぞ、僕はナノハとルナを護る!其れが僕の役目なんだ!!
 シソーもシンネンもない奴等に僕達は負けないからな!!ともあれお前は此処で斬り捨てる!さぁ、覚悟しろーーーーーーーー!!」



――轟!!



言うが早いか、雷華はスプライトフォームに換装し、バルニフィカスをブレイバーフォームに変形させてドゥビルに向ける。


「あくまで戦うか……残念だ、無駄に命を散らす事もなかろうに――」

其れに応えるようにドゥビルもリアクトして、己の能力を完全開放する。


「ならば、そのつまらん思いを抱いて溺死するが良い。」

「残念!生憎と僕は泳ぐのは得意だから溺死なんか絶対にしないもんね〜〜!
 お前こそ、本気を出した強くて凄くてカッコいい僕に勝てると思うなよ〜〜!今の僕はぜったいムテキでサイキョーだからな!!!
 エクリプスドライバーだかふっけばいんだか知らないけど、かくごしろ〜〜〜!お前なんかイットーリョーダンにしてやる〜〜〜〜〜!!!」


瞬間、雷華が斬りかかり、ドゥビルのディバイダーと火花を散らす――戦いはより白熱して加熱してきたようであった。


だがしかし――


「ビル兄!……ち、ならアタシがやってやる!!」

突然の横槍に、アルナージは苛立ったように、トーマ達にディバイダーの銃口を向けるが――


「其れはやらせないよ。」

「!?」

発射寸前の銃口に、徹甲魔力弾がぶつけられ、流石のアルナージも怯む――そして即座に其れをやった者を探すが、探す必要はなかった。



「破壊の力を悪戯に奮う貴女達を看過する事は出来ない――覚悟は出来てるよね?」


何故なら、アルナージの目の前にはハニーブロンドに、翠と紅のオッドアイとなった『白夜の聖王』であるなのはが威風堂々と佇んでいた――













 To Be Continued…