Side:ブラン


辛うじて助かってデッキの一部を除いて無事だったわけだが…まだ体が痺れて動けない。
何より、神騎の方のオッドシェルが奪われたのがきついな。
儀式の方に自分の女神の力の大部分を移したから抜け殻に近いけど、やっぱり辛いものがある。
だけど、恐らく相手が狙っているのは女神の力を持つカード。
いずれ再びやってくるだろうから、その時に奪い返してやる。
ガナッシュの野郎…俺の大切なカードを奪ったからには、このままじゃ済まさんぞ。
まぁ、今襲われると自分ではどうしようもないわけだけど。

兎に角、乱入ペナルティを調整して実質乱入できないようにしてやるべきか。
限界はあるとはいえ、乱入ばかりじゃ決闘が成り立たないし。


…閑話休題。
目先の問題は話を聞くつもりだったエクシーズの2人…そして、ミシェルのあんぽんたんが行方をくらませた事だ。


「あいつ…ここで行方を眩ませたのって嫌な予感しかしないんだけど?」

「ああ、同感だ…緊急事態だったとはいえ、あの子をここに置いていったのは失策だった。」

「そして、わたしが昏睡から目を覚ます切欠となった闇の気配…なんてこった。」


あいつから何か嫌な予感を感じていただけに…警戒が足りなかった。
そして、あっちの方から感じる吐き気を催す嫌な気配。


「闇の気配…というと闇のカードですか?
 確かにあそこから嫌な感じを受けました…壁が抉れていましたし。」

「抉れか…そのようだと既に遊矢から粗方聞いていたみたいね。
 あれは恐らく闇のカードによるものよ。
 推測だけど、予想される行動を言っていいかしら?」

「え?まさか…!」

「恐らく、闇のカードを持っていてその力でエクシーズの2人を苦しめてからカードに封印したのち行方を眩ませたと思う。
 他の誰かが侵入したんじゃ、寝ていたはずのあなたたち2人が無事であるとは思えないもの。
 ミシェルでないとすれば、あなたたち2人を疑うしかないけど…違うわよね?」

「違います。」

「そもそもそんなカードに手を出したくないです!」


そうなると誰かが闇のカードに手を出したというのがあるだろう。
そして、彼女たちは闇のカードに手を出していないと言うが…!


「一応、デッキを確認させてもらってもいいか?」

「そうだな、嫌だろうけど念のためににもやらせてほしい。」

「そうですね…それで証明できるなら。」

「お願いします。」


念のため、デッキの中を確認させてもらう事にした。
わたしが遥香のを…遊矢がコンパのデッキの中身を確認する事にした。


「遥香のデッキ、かなりいいカードが入っているわね…正直こっちが欲しくなるくらい。」

「あげませんよ?わたしのデッキですから…真面目にお願いします。」

「冗談よ…それもそうね。」


もっとも、彼女のデッキは海竜族主体だからあまり相性はよくはないけどね。
だけど、かなり真剣に構築されたデッキである事は確かだ。
それは兎も角、一通り見た所それらしきカードはないようでなによりだ。


「一通り見た感じはないわね。
 流石にこれ以上は服を脱いでもらうわけだけど…」

「はあ?あなたは変態のようですね…あまり調子に乗るとカードにするぞ、あん?」

「ふぇぇ…冗談です、これ以上はいいです。」

「賢明です。」


流石に声低くしてそんな物騒な事言われると怖い。
さっき、カードに封印されかけたばかりだというのに…!
とはいえ、彼女はデュエルしててもそんな気配はなかったから…問題ないわね。


「そうそう、ブランは一応女の子だけど女の人が好きなクソレズなんだよね。」

「ちょっ…遊矢…!」

「へぇ…わたしもあまり人の事は言えませんが、不潔です。」

「ふぇぇ…ん?」


遊矢、からかわないでよ…!変な目でみられたじゃない!
ってかクソレズってなんだ、クソレズって…そんなふうに思われてたのか、ひどい。
ん?人の事は言えない…?ひょっとしてデュエルしたときに呟いた『みき』って人との関係か?
でもこれ以上詮索するのは命の危険があるのでやめておこう。


「こっちも大丈夫だった。」

「よかったです…」


そしてコンパのデッキも大丈夫なようでなにより。
となると…やはりミシェルの行方を早く見つけないと大変な事になりそうね。
でも、今は身体が動かないわけで…暫くじっとしているしかなさそうね。










超次元ゲイム ARC-V 第79話
『ハートタワーでの曲者』










Side:ステラ


プロフェッサーから月子とのアポの許可を頂きましたので、今から久しぶりに会いに行くところです。
彼女がどのように変わったのかは色々と不安ではありますね。
ですが…約2年間も会えませんでしたから、今から楽しみです。
どうしてか、あまり気分はすぐれない状態ですがね。
とりあえず、月子と再会できればどうでもよくなります。

ハートタワーの最上階に彼女が過ごしている部屋があります。
そして入り口には…。


「久しぶりね、ステラ。
 話には聞いてたけど…本当に戻ってきてたのね、アンタ。
 てっきりとっくに野たれ死んでいたのかと思っていたわよ。」

「お久しぶりです、カノンさん。
 相変わらず辛辣な物言いで手厳しいです。
 危うくその通りになるところでしたが、なんとかここに戻ってこられました。」


月子の付き人のメイドでわたしより2歳年上のカノンさんが立っておりました。
我々にとって最重要人物の1人である月子のメイドをやっている以上はリアルファイトもデュエルの腕も高水準な方です。
月子の身に降りかかる災いは彼女が振り払う…と言った感じにね。
わたしとは昔馴染みではあるのですが、彼女にいじめられて…というと言葉は悪いですがここまで這い上がって来たものです。
しかし、何度殺されそうになった事か…いずれ彼女の寝首を掻いてやろうかと考えていたりする自分が嫌いです。

閑話休題。


「それで…要件は何よ?」

「既に耳にされているはずとは思いますが、月子と会わせていただきたく参りました。」

「あ、それは事前に聞いているわ…でも『今は』駄目よ。」

「え?」


それで要件を聞かれて、月子に会うためだと正直に答えたら駄目だという?
え?許可はもらっているはずなのですが…?


「どういう…」

「はぁ…アンタ、その様子だと気付いていないようね。
 で、ステラの後ろに隠れてるようだけど無駄よ…出てきなさい!

「えっ!?」


――サッ!


「カカカ…まさか気付かれるとはね!」


ここでどうしてかと聞こうとしたら…一瞬怖気がしましたので振り向いたらそこには妙な人影の姿が。
情けない事に何者かにつけられていた事に気付かなかったようです…!

そして、わたしたちの前に姿を見せたのは蚊のような風貌の小柄な怪人物でした。
さしずめ『蚊忍者』といったところでしょうが、明らかに場違いのくせ者ですね。
しかし、どうして彼の存在に気付けなかったのでしょうか?
そういえばさっきから体調があまり…そして蚊…まさか!


「まさか、毒…!?

「そこに気付くとは流石『星光の殲滅者』だねぇ。
 ボクの蚊学忍法・夢蚊幻蚊による毒でボクの気配に気づく事ができなかったわけ。」


やられましたね、いつの間にかわたしの身体に毒を撃ちこんでいたようです。
ちょっと眩暈を感じていたのはそういう事でしたか…!


「それで、何のつもりですか…!」

「貴様の存在は我々にとっては邪魔でね…!
 そこのメイド共々ここで消えてもらおう!」

「はぁ…誰かの差し金みたいね。
 私も見くびられたものね…身の程をわきまえなさい。
 ここで消えるのはアンタの方…」

「いいえ、この程度の羽虫風情の雑魚相手にこれ以上カノンさんの手を煩わせるわけには行きません。
 元々彼の侵入を招いたのはわたしの落ち度です。
 お願いします、責任を取らせてください。」


いつどこで毒を注入されたかはこの際置いておきましょう。
わたしの油断が招いた以上、自分でけじめを付けるべきかと。
ここで彼を倒しつつ、背後にいる黒幕の情報を得たいところです。


「別にいいわよ、でも本当に大丈夫でしょうね?

「大丈夫です、この程度の毒は痛くもかゆくもありませんから。」

「誰が雑魚だってか?小さいからと僕を舐めてもらっちゃ困るね。
 貴様のデッキなど僕のデッキの前には無力だという事を思い知らせてやろうってか!」

「果たしてあなたの思い通りにいくでしょうか?ふふふ。」


残念ながらあなたの思惑通りに行く事はないでしょう。
わたしのもう1つの側面を知らないはずですから。
いずれにしてもこの手の子悪党を懲らしめるためにも使用するデッキは…!


「「デュエル!!」」


ステラ:LP4000
蚊忍者:LP4000



「僕の先攻!まずは魔法カード『おろかな埋葬』を発動し、モンスター1体を墓地へ送る!
 この効果で僕は『騒音虫』を墓地へ!
 続いて、手札から『軍蚊ハウリング・アーラ』を召喚ってか!」
軍蚊ハウリング・アーラ:ATK100


「召喚・特殊召喚したハウリング・アーラの効果を発動ってか!
 手札・墓地から昆虫族・レベル2の『騒音虫』を特殊召喚ってか!」
騒音虫:ATK500


墓地肥やしとモンスター効果で早速レベル2のモンスターを揃えてきましたか。
そうなると、次は…!


「僕はレベル2のハウリング・アーラと騒音虫をオーバーレイ!
 あっ、真夏の夜に忍び寄る小さき影!ランク2の『蚊学忍者ブラッドサッカー・モスキート』をエクシーズ召喚ってか!」

『プゥーン…!』
蚊学忍者ブラッドサッカー・モスキート:ATK500 ORU2



「っ…なんなのよこの生理的に嫌な音…!」

「それに、エクシーズ召喚したはずのモンスターの姿が見えませんね…!」


そのエクシーズ召喚と同時に蚊の羽音と思わしき騒音が酷くなってきました。
あまりにも不快な音でイライラしてきますね。
そして、相手がエクシーズ召喚したはずのモンスターが見えませんね。
ディスク上ではカードとして表示されているので存在しているはずなのですが。


「ちゃんといるさ、僕のモンスターは…!」

「成程…あまりにも小さいが故に見えにくいわけですか。
 実際の蚊ほどのスケールでしかないわけですか。」

「そう!攻撃表示のブラッドサッカー・モスキートは貴様のモンスター効果の対象にできず攻撃対象にもできない!」

対象にできないですか…!

「鬱陶しい事をしてくるじゃない。」


魔法・罠の効果の対象にはできるようですが、小さい上に動き回っているが故に攻撃対象にもモンスターの効果対象にもできないようですね。


「そして、ブラッドサッカー・モスキートのモンスター効果を発動!
 1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使い、相手に500ダメージを与え、僕のライフを500回復する!
 さあ、あの小娘の血を吸い取れってか!」
蚊学忍者ブラッドサッカー・モスキート:ATK500 ORU2→1


――プスッ!


「っ…!」
ステラ:LP4000→3500

蚊忍者:LP4000→4500



オーバーレイ・ユニットを使った効果は…まるで吸血…!
微量ながら確実に敗北の道へと蝕む効果…地味ですが厄介ではありますね。


「そしてカードを3枚伏せて僕はターンを終了…ってかぁ?」

「では、参ります…わたしのターン、ドロー!」

「このスタンバイフェイズに3枚の永続罠『蚊学忍法・超音蚊』『蚊学忍法・鳳仙蚊』『蚊学忍法・防蚊麻戸』を発動ってか!」


そしてここで3枚も永続罠を発動させてきましたか。
このタイミングで発動してきたという事は相手の狙いは…封殺でしょうか?
まずはこの3枚の永続罠の効果を知らない事には始まりませんが…!


「まず超音蚊により自分フィールドに昆虫族エクシーズがいる限り、貴様のフィールドのレベル4以上のモンスターの効果は無効になる!
 続いて鳳仙蚊の効果でお互いのスタンバイフェイズに自分フィールドの昆虫族エクシーズ1体を対象に効果発動ってか!
 自分のデッキトップの上のカード1枚をそのモンスターの下に重ねてオーバーレイ・ユニットにし、1枚ドロー!」
蚊学忍者ブラッドサッカー・モスキート:ATK0 ORU1→2


ふむ…リリース封じにデッキトップのカードをエクシーズ素材にしてきましたか。
膠着状態にさせてブラッドサッカーの効果で削り切る算段のようです。


「そして!防蚊麻戸の効果で昆虫族エクシーズが存在する限り、このカード以外の自分フィールドのカードは相手の魔法の効果を受けないってか!」

「魔法の効果を受けない…ですか。」


成程、この効果は明らかにわたしの『星海』デッキの性質に対してのメタではあります。
魔法カード主体で相手に干渉するものも少なくはないですからね。
やりたい放題やってくれますね。


「ついでに、騒音虫をオーバーレイ・ユニットとした昆虫族エクシーズがいる限り、お互いにランク4以下のエクシーズモンスターも特殊召喚できない!」

「はあっ!?ランク4以下のエクシーズモンスターを特殊召喚できないって何よそれ!」

「露骨にメタを貼ってきましたね…わたしを殺すために。」


わたしの星海は基本的に罠はあまり使わずランク4のエクシーズと魔法カードを主体にしております。
これらをロックしたとなると…対処するのは容易ではありません。
それこそシンクロ召喚を使わない限りは厳しいですね。
ランク5以上は基本的にランク4からのランクアップかあるモンスターのレベル調整で出しますから。

もっとも、わたしが正直に星海デッキで相手をしていたらの話ですが。


「これじゃ手も足も出ないじゃない…!この嫌らしい戦法はあいつを彷彿と…!
 でも、私なら…!」

「カカカ!乱入しようってならやめておいた方がいいってか!
 生憎、乱入した瞬間…4000ダメージでポーン!ってなるからな!」

「そんな…!」


そして、乱入ペナルティを弄っているわけですか…あくまで彼は単体というわけですか。
初期ライフは4000ですので乱入ペナルティ4000となると実質乱入はできない…そんな設定が彼のディスクにはされているわけですね。
まぁ、本当だとしても逆に好都合ですがね…余計な横槍が入らないという事ですから。


『星光の殲滅者』!ここが貴様の…」

「あははは…かつてのわたしならそれで十分だったでしょう。
 しかし、わたしも随分とみくびられたものですね。」

「カ?」

「その程度のメタでいい気にならないでほしいものですよ、三下。
 カノンさん、手出しは無用です…下がっててください。」

「ね、ねぇ…本当に大丈夫なの?エクシーズ召喚を封じられちゃってるのに…!」


確かにエクシーズ次元の者にとってはエクシーズ召喚を封じられたという事は致命的です。
もっとも、エクシーズにかまけて他を疎かにしていた者は…ですが。


「ええ、問題ありません…2年間ただのうのうと無為に過ごしていたわけではありません。
 わたしは手札から魔法カード『炎王の爆誕』を発動!」

「…炎王ですって?」

「何事カ!?星海じゃないだと!?


生憎、今回のわたしのデッキは『星海』ではなく『炎王』です。
スタンダードで『光焔ねね』として過ごしていた時に愛用していたデッキを今使っています。
これはエクシーズこそは使いませんが、そのポテンシャルは決して星海に劣りません。


「どうしましたか?驚くのはまだ早いですよ?
 この効果により手札・フィールドから融合モンスターによって決められた素材となるモンスターを破壊し、炎属性の融合モンスター1体を融合召喚するのですから。」

「何!?貴様が融合だとぉぉぉぉぉ!!」

「マジで?」

「この効果により、手札の『炎王神獣 ガルドニクス』と『炎王獣 ヨウコ』を融合!
 不死の神鳥よ!妖しき獣よ!焔渦巻き一つとなりて爆誕せよ!融合召喚!羽ばたけ、爆炎の魔鳥!『炎王魔獣 ガルバーン』!!」

『ガァァァァァァァァァ!!』
炎王魔獣 ガルバーン:ATK2400(効果無効)



「融合嫌いだったアンタが…融合召喚するなんて…!頭でも打ったの?

「随分酷い事言われている気がしますが、その認識で結構です。
 このデッキを愛用していた当時はどうも記憶を無くしていましたからね。
 記憶を取り戻した時に葛藤はありましたが、受け入れる事にしました。
 親しかった者に手をかけてしまっただけに、スタンダードにいた時のことを忘れるわけにはいきませんから。」


よりにもよって沢渡さんにね…断ち切ろうとした結果がアレです。
でも、結局はその未練を捨てきる事はできなかった。
そんな女々しい自分語りはもうやめておきましょう。


「だが、折角出したその融合モンスターのレベルは7…効果は無効にされているってか!!」

「ガルバーンには融合召喚成功時に表側表示の魔法・罠を全て焼き払ってその数×100のダメージを与える効果があります。
 もっとも、効果が無効にされている以上は発動しても無駄ですね。
 ですが、自分で発動した超音蚊の効果の範囲はあなたも仰ったようにわたしのフィールドのみです。

「カ?だから何か?」

「『炎王』の真価は…破壊され墓地へ送られた場合に機能します!
 つまり、墓地で発動するわけです。
 で、この融合召喚の素材となり破壊された事でヨウコの効果を発動します。」

「ちっ、見抜かれたか。」


超音蚊は厄介極まりないですが、所詮はフィールドのモンスターにのみ作用する永続罠。
案外抜け道は結構あるものです。
ガルドニクスの効果はまだ後ですがね。


「ヨウコの効果により、このターンあなたは手札・墓地からモンスターの効果を発動できなくなります!」

「手札・墓地のモンスター効果を…!
 だが、ブラッドサッカー・モスキートの効果は健在…!
 そんな大きなモンスターに僕の蚊は止められないってか!」

「確かにこの効果ではその羽虫風情のエクシーズモンスターに触れる事はできませんね。」

「それなら、どうするというのよ…!」

「まぁまぁ、そう焦らずに。
 お楽しみはここからですから。


ブランの決め台詞を拝借してしまいましたが、モスキートの攻略はここからです。


「続いて、フィールドのガルバーンと墓地のガルドニクスを対象に魔法カード『炎王炎環』を発動します!
 この効果で対象となったフィールドの炎属性1体を破壊し、対象となった墓地の炎属性1体を特殊召喚します!」?

「ここで入れ替えだと!?」

「しかも破壊を経由しているという事は…成程ね。」


そう、主な目的は蘇生というよりもガルバーンの破壊…です。


「これによりガルバーンが燃焼し、燃え盛る炎より姿を見せよ!レベル8の『炎王神獣 ガルドニクス』!!」

『キィィィィィィィ!!』
炎王神獣 ガルドニクス:ATK2700(効果無効)



そして、ここでエースのガルドニクスを復活させます。
放置しても復活は出来ましたが、相手の超音蚊のせいで全体破壊効果は使えませんのでね。
何より、このガルドニクスに華を持たせたいものですから。


「ここでフィールドから『炎王』が破壊された事により墓地のヨウコの効果を発動!
 そして、それに対し破壊され墓地へ送られたガルバーンのモンスター効果も発動です!」

「墓地から一気に2体も効果発動ってか!?」


ちなみにこの発動順も重要となってきます。
逆にしてしまうと、それこそ本末転倒な事になってしまいますので。


「逆順処理によりガルバーンの効果から行きます。
 ガルバーンが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、フィールドの攻撃力2000以下のモンスターを全て破壊します!」

「全体破壊…全体ってかァ!!」

小さくて姿が捉えられないというのなら、全体を焼き払えば済む事です!
 一面を焼き払え!『バーニング・エアレイド』!!」


――ボアァァァァァ!!


「これでモスキートは焼き払われたわね。」

「馬鹿な、僕のブラッドサッカー・モスキートが…こんないとも簡単にやられたってか!?」

「対処さえできれば羽虫など怖くありません。
 仮に手札誘発及び墓地発動の効果があったとしても適用されているヨウコの効果により発動は叶いません。
 そして、ヨウコの効果処理により『炎王獣 ヨウコ』を自己再生します!」

『コォォォォォン!!』
炎王獣 ヨウコ:ATK2000



そして、ヨウコほど簡単に自己再生ができる『炎王』モンスターはいなかったりします。
駄目押しの一手として非常に優秀な子です。
これで相手を仕留める準備は出来ました。


「メタを読み違えたのが運の尽きね。」

「では、すぐに終わらせましょうか。
 覚悟はいいですね?」

「ひいっ…!」

「まずはヨウコで攻撃です…『ファイアフォックス』!!」


――ボォォォォォ!!


「ぐべぇぇぇ!!」
蚊忍者:LP4500→2500


「これで終わりです!ガルドニクスで攻撃!
 神聖なる炎の焼かれて消え去れ!『セイント・フレイム』!!」


――ボァァァァァァァァァァア!!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
蚊忍者:LP2500→0


「後攻1ターンキル…私が知ってるデッキじゃないけど、やっぱりアンタやるわね。」

「いえ、たまたまデッキを入れ替えていたのが功をなしただけです。
 そのままであれば残念ながら苦戦は必至でしたでしょうから。」


もっとも、仮に星海のデッキでデュエルしていたとしてもこの相手には負けたくはなかったですが。
いずれにしても、倒した以上はこの手の相手は情報を聞き出したいところです。
エクシーズ召喚を使っている以上は反乱分子に近い立場でしょうから。


「どうやら我々の次元から離反した反乱分子だと推測されますが、何が目的でこんな事を?」

「ぐ…ここまで容易く返り討ちにされるとは。
 そうだ、実は…なんて僕如きが話すとでも思っていたってのかァ?」

「往生際が悪いです…無駄な抵抗はせずに素直に白状したらどうです?」

「カカカ、そうはいかないのでね…かくなる上は…!

「ステラ、危ない!」


――ドッ……ザスッ!


「っ…カノンさん、何を…」

「かはっ…くっ!

「え?」


カノンさんがわたしを突き飛ばしたと同時に何かが刺さったような音がして…!
すると彼女の表情に苦悶が浮かび、口の端から血が…!
カノンさんはわたしを庇って…!?


「邪魔を…」

ステラや月子たちに手出しされるくらいなら私が…!
 それでアンタはここで消えなさい…!」

「ぐ…!」


そして、苦悶の表情を浮かべながら彼女はディスクを操作し…!


「ベグダァザマァァァァァァ!!」


――ピカァァァァ!!パラッ…!


蚊忍者をカードに封印しちゃいました…彼には聞きたい事があったのに。


「カノンさん、彼には沢山聞き出したい事があったのに…どうして!」

「うっ…だって、そんな事言ってる余裕なんてなかったわよ。
 アンタ、下手したら殺されてたかもしれないところだからね。
 代わりに私がこんな事になっちゃったけど…!
 早く通信で医療班を…ぐっ……」


――がくっ。


どうしてそんな事をと問い詰めようとしたところでカノンさんが苦しそうな表情のまま倒れてしまいました。
もしかしなくても毒を撃ち込まれた…わたしの頭の中はまだお花畑だった…?
こんな時にも慌てちゃいけない、急いで連絡を…!


『こちら医療班…どした?』

「緊急事態です、ハートタワー最上階にてメイドのカノンさんが倒れました!
 至急手配願えますか!このままでは…」

『わかった、すぐ駆けつける!応急処置をして救護室まで運んでいただけないだろうか!
 一応、護衛は臨時に派遣しておく!』


「わかりました、ありがとうございます!」


――プープー…


連絡を終え、応急的な処置をしてから救護室までエレベーターを使って運びました。
できるだけ体には障らないようにはしてますが…どうか無事でいてください。
月子と会う所ではなくなってしまいました。

そういえば、彼が断末魔で叫んだ名前は…!
忘れていましたが、確か彼は2年前はMr.ハートランドの部下だったような気がします。
そして、元々あまり素行の良くない人物だった記憶があります。
我々を裏切っていても不思議じゃないですね。
そして、融合次元に行ってから…少し確認してみましょうか。


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・・・



No Side


舞台はスタンダード次元のレオ・コーポレーション内の医務室。


「うぅ、エクシーズの手先め…あれ?

「気が付いたか、ネプテューヌ。」

「紫吹か…あはは、わたしどうして倒れてるのかな?
 その辺歩いてただけのはずなんだけどさ。」


ブランの手で気絶させられたネプテューヌがここで目を覚ましたようだ。
もっとも彼女本人はどうもその事が覚えていない様子だが。


「恐らく、疲労が溜まって疲れていたんだろう…倒れるのも無理はない。」

「え〜?なんかお腹の方殴られた痕跡あるんだけど?

「…仮に誰かにやられたとして俺は何も知らんし見てもいない。」


もっとも本当は知っているものの、倒れた事情が事情なだけに紫吹としては適当にごまかす様子だ。
彼女が覚えていなければそのままの方がいいと考えている。
闇のカードに飲まれそうになったなどとは面として言えないものだ。
もし思い出して暴れだしたりでもしたらと考えると特にだ。


「それより俺たちはエクシーズ次元の奴らとの全面対決に備えてシンクロ次元へ向かう事になったらしい事は聞いているな?」

「同盟関係を結ぶとかだったよね?
 正直、あのベールのいる次元と手を結ぶなんて嫌だなぁ。
 でも、そんな事を言ってる場合じゃない…のは確かだよね。」

「ああ、エクシーズの連中との戦力差は歴然なのは否定できんからな。
 本音を言えば乗り越えたいが、今乗り込んだところで返り討ちにされるのが関の山なのが忌々しい。
 同盟を組む対象のシンクロ次元はどんなところかは知らんが、油断はできんだろうがな。」

「敵か味方かはわからないけど、上手い事味方に付ければ鬼に金棒だよね!
 もっとも、本当に味方につけられるかどうかわからないけどね。」


来たる時に備えて味方は増やしておきたいというのはお互い考えていたようだ。
エクシーズ次元で特に厄介だったのは鍛えられた人員の多さだ…物量でかかられたらどうしようもない。
大勢を相手に挑むなどデュエルの世界では自殺行為もいいところだ。
紫吹の場合は対多人数戦に有効なアベンジング・ラークなどがあるとはいえ。

もっとも、エクシーズ次元は守りがだいぶ薄くなっている事を彼らは知らない。


「その辺は接触して判断するしかないだろう…あのメガネもそのつもりの様だ。
 だが、奴らに認めてもらうためには厳しい戦いを強いられる事は確かであろう。
 俺たちもより一層強くなる必要がある。
 バトルロイヤルの時に『星光の殲滅者』に仕留められそうになったからな…!」

「あいつ…わたしたちは兎も角、ここの人を積極的に襲う気はなさそうだったね。
 なんでわたしたちだけ襲われたんだろうね?本当にさ。」

「…知らん。」


もっとも、紫吹の方は原因の1つである闇のカードの存在を知っているだけに言いづらそうではあった。
他ならぬネプテューヌ自身が闇のカードに手を染めようとしたのを見ていたからだが。


「いずれにしろ、ここのカードそのものは俺たちの次元とは比べ物にならんほど充実しているはずだ。
 折角ここに滞在しているんだ、デッキを強化しておくぞ。」

「そだね…相手モンスターを融合素材にできるカードなんてないかなぁ?」

「…お前の融合モンスターじゃ、仮にそんなカードがあっても宝の持ち腐れだ。
 それより、少しでも有効なカードを探す許可をもらうぞ。」

「わかったよ。」


相手モンスターを融合素材にできる闇のカード『超融合』を少し覚えているかのような発言をするネプテューヌ。
闇のカードを無意識に追い求めているかのような彼女に紫吹は少し不安を覚える。
それの払拭と戦力強化を求め、2人は社長室へ向かう事にしたようだ。








――――――








Side:ステラ


「彼女の一命は取り留められたよ。」

「…ありがとうございます。」

「だけど、強烈な毒が撃ち込まれていた。
 目を覚ますまでには時間がかかるだろう。」


あれからカノンさんは一命を取り留めたようですが、目を覚ますまでには時間がかかるようです。
月子たちの防衛には別のメイドが派遣されるようですが、現在の守りの薄さではいつまでもつか。

それと、一応わたしも検査してもらいましたが…幻覚作用のある神経毒が残っておりました。
あのままだと…下手したら月子を危険にさらす事になりかねませんでした。
そんなことになったら、なんと恐ろしい。
わたしとした事が…らしくない不覚を…!
以前に増して無様な姿を晒す事が多くなったような感じがします。
この落とし前…どうしてくれましょうか。
何より、カノンさんを命の危険に巻き込んだこんな情けない自分が許せません。
このまま月子と再会…というわけには参りません。
今のまま会ったら、彼女を危険にさらす事になりかねない。
それはわたしもプロフェッサーも本意ではありませんから。


「申し訳ありません、後はお任せします。」

「はて、どこへ行く?」

「こんな恐ろしい事をしてくれた不届き者をお話しの後に始末してきます。」

待つんだ!君はこれから…」

ここで奴を始末しないと被害が広がる一方です!
 止めようとしても振り切って行きますよ…では。」


そして、わたしは有無を言わさず医務室を後にします。

蚊忍者をけしかけたと思われるベクター。
彼の事を聞いてみた所…どうやら1年以上前から連絡が着かないそうです。
志半ばで力尽きたと言われているようですが、実態は恐らく我々を裏切ったんだと。
そうでなければ、蚊忍者が断末魔として彼の名を叫ぶ事はないはずです。

彼は融合次元で動いていた事は知っております。
これは融合次元に出向いて彼を問いたださなければなりません。
そして、わたしの予想通りであれば…始末しましょう。
また、その背後にいる黒幕の力を削いでみせる。


「もしわたしの考えていた通りであれば…必ず潰してやる。」


その時は覚悟していただきましょうか、ベクター。
あなたが何を企んでいようと、わたしはその野望を打ち砕く。
当面の目標は決まりました。

まずはプロフェッサーの所へ赴き、融合次元へ渡る許可を頂くとしましょうか。
もっとも、有無を言わすつもりはありませんがね。








――――――








No Side


融合次元においてブランたちが現在いる『タウン』から少し離れた所にあるかつての大都市『プラネテューヌ』。
今は象徴であるハートタワーが折られ、辺り一面無残な廃墟となっていた。
地面には多数のカードが散らばっていた。
通常のデュエルで使用可能なカードもあるが…大半はカードに封印された人間の山である。
融合次元の一般住民だけでなく、スーツ姿の男たちなどの姿もあった。
この場は人気がなく、おぞましい雰囲気のゴーストタウンと化している。

その郊外にはおどろおどろしい雰囲気の洋館が一軒。
その中には壺の中身をかき混ぜているローブ姿の女の姿と…。
そして、もう1人…傷だらけになって帰還したベクターの姿があった。


「真月…いえ、ベクターだったわね。
 アンタ程の者がここまでやられて帰ってくるなんて…何があったんだい?」

「おいおい、それを聞いちゃうのかよ…影山。
 ま、他所からやってきた女神相手に遊んでたらこのザマよ。」

「女神相手に遊んでいたなんていいご身分ね…いい薬になったんじゃない?」

「うるせえよ、まだ本気を出しちゃいねぇ。


その惨めな姿に影山と呼ばれたその女は苦言を呈する。
が、彼はまだ懲りていない様子であった。
それもそのはず…本人の言う通り、彼はまだ本気のデッキでデュエルしていないのだから。


「でも、あなたが遊びで使ってるデッキを使っていたとしてもあなたに膝を付かせるなんてやるじゃない…その子。」

「それでもある程度は追い詰める事はできたし、姑息に乱入してきた野郎にはボコボコにされてたぜ。
 もっとも、さらなる邪魔が入って取り逃がしちまった形にはなっちまったけどな。
 ディスクが壊されて戦いようがなかったがな。
 それも今回限りで今度は逃がすつもりはないけどよぉ。」


そして、ブランとのデュエルで壊されたディスクは修復したようだ。
さらに、デッキも本気で使っているものではなかったようだ。


「ま、程々にしときなさい…あたしたちがやるべき事はあくまで闇のカードをここの住民に使わせて発生する闇の瘴気をこの釜に集める事なんだから。」

「わかってるよ…だが、邪魔者は排除しておきたいだろ?
 少なくとも、闇のカードは余所者には扱えないんだからよ…俺を除いてだかな。

「それもそうね。」


そして、どうやら彼らは闇のカードを融合次元の住民に使わせる事で何かしようというらしい。
その闇のカードはどうも限られた人にしか使えないようだ。
ベクターとしてはそれを邪魔する連中を排除しようという事の様だ。


「そうそう、アンタが自分の故郷に送りつけたっていう蚊忍者からの連絡が途絶えたわよ。」

「ちっ、しくじったか…ま、これはこれで構わないけどな。」

「余裕かましてていいの?2年前にここを荒らしまわった『星光の殲滅者』辺りに目を付けられるのも時間の問題よ?」


それは兎も角、ここでステラたちを襲撃した蚊忍者の話題がでてくる。
どうやら彼らがけしかけた刺客のようであった。
もっとも、ベクター曰く彼がやられたのは想定内のようであるようだ。
とはいえ事実、蚊忍者が狙った相手であるステラが怒りに駆られ融合次元に向かおうとしているのだが…!


「だからこそだ…飛んで火に入る夏の虫ってな。
 奴は我々の計画の障害となる目障りな女だ…のこのこやってきたところで始末をつける。
 スタンダードの女神と共にこいつを試すのにはちょうどいい。」

「はぁ…好きになさい。
 でも、そいつらはあたしにとっても恰好の獲物ね。」

「怨みっこなしって奴だな…いいぜ。」


それもベクターの目論見の内の様だ。
彼はこれから彼女も標的とするようであった。

一方、影山は諦めたような表情でそれを許可するも…自分も獲物を狙う狩人のような凶悪な顔つきとなる。
結局のところ、彼女もまた同じ穴の貉であるらしい。
どちらが先に仕留めるか競争するようだ。


「いずれにしろ、ここが貴様らの墓場となるのだ。
 覚悟するがいい…スタンダードの女神『ブラン』に『ステラ・スターク』よ!
 さあ、本当のよからぬ事を始めようじゃないか!ヒャハハハハ!!


そして、彼が手にしたカードは『超融合』。
洋館内に凶悪な顔つきのベクターの高笑いが木霊するのであった。











 続く 






登場カード補足






炎王魔獣 ガルバーン
融合・効果モンスター
星7/炎属性/鳥獣族/攻2400/守1400
「炎王」鳥獣族モンスター+「炎王」獣族モンスター
(1):このカードが融合召喚に成功した時に発動できる。
フィールドの表側表示の魔法・罠カードを全て破壊し、破壊したカードの数×100ダメージを相手に与える。
(2):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
フィールドの攻撃力2000以下のモンスターを全て破壊する。



蚊学忍者ブラッドサッカー・モスキート
エクシーズ・効果モンスター
ランク2/風属性/昆虫族/攻 500/守 0
レベル2モンスター×2体以上
(1):攻撃表示のこのカードは相手のモンスター効果の対象にならず、攻撃対象にもできない。
(2):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
相手に500ダメージを与え、自分LPを500回復する。
(3):このカードが効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから「蚊学忍法」カード1体を手札に加える。



軍蚊(アーミー・モスキート)ハウリング・アーラ
効果モンスター
星2/風属性/昆虫族/攻 100/守 100
「軍蚊ハウリング・アーラ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
手札・墓地から昆虫族・レベル2のモンスター1体を特殊召喚する。



騒音虫(ノイズ・インセクト)
効果モンスター
星2/風属性/昆虫族/攻 500/守 0
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いにランク4以上のXモンスターの効果を発動できない。
(2):フィールドのこのカードを素材としてX召喚した昆虫族モンスターは以下の効果を得る。
●このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いにランク4以上のXモンスターを特殊召喚できない。



蚊学忍法・超音蚊
永続罠
(1):自分フィールドに昆虫族のXモンスターが存在する限り、相手フィールドのレベル4以上のモンスターの効果は無効になる。



蚊学忍法・鳳仙蚊
永続罠
「蚊学忍法・鳳仙蚊」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手スタンバイフェイズに1度、自分フィールドの昆虫族のXモンスター1体を対象としてこの効果を発動できる。
自分のデッキの一番上のカード1枚をそのモンスターの下に重ねてX素材とし、自分はデッキから1枚ドローする。



蚊学忍法・防蚊麻戸
永続罠
(1):自分フィールドに昆虫族のXモンスターが存在する限り、このカード以外の自分フィールドのカードは相手の魔法の効果を受けない。