Side:遊矢
ブランが表で見回りを始め、住民の子3人が休眠に入って数十分。
目の前のエクシーズ次元の男3人はまだ気絶したまんまだな。
本当に目を覚ますのか次第に不安になってくるな。
加減間違えた可能性は…女神としてまだまだ未熟なあいつの事だしありそうだ。
まぁ、もう少し様子を見て…
――pipipi!
と思っていたらこのタイミングでディスクから警報が…!
ということは、外で何か始まったみたいだ。
ここでディスクの機能を使い、ブランのディスクに仕込まれたカメラ越しに外の様子を見る事にする。
ブランから警報を鳴らしてきたから、見る事については何の問題もない。
それに、これについてはお互いに了承済みだからね。
――シュッ!
ディスクに画面を表示すると…ブランがいかにも悪そうな革ジャンの少年とデュエルしていた。
音声はよく聞こえないけど、相手がランクアップマジックらしきカードでエクシーズを強化したりしてブランが追い込まれているようだった。
この相手、目の前に倒れているスーツの男たちとは格が違うって事はわかった。
「むみ…」
「おいおい…ミシェルと言ったか、起きてて大丈夫か?もう少し休んでろって。」
「ごめん、よく眠れなくて…ところで何を見てるの?」
「外でブランが見回りしてて、警報があったからカメラ越しに様子を見てるんだ。
いざとなったら介入できるようにね。」
と、ここでむみ公もとい縫雲ミシェルが起きたようだ。
「ふーん。でも、ミミ…あいつ嫌いだなぁ。
なんというか一々鼻がつくというか…ここでやられちゃえばいいのに。」
「おいおい、俺の前でそれを言うか?
でもまだまだぶきっちょで未熟な所あったり、一方で容赦ない所あるからなぁ。
だけど、君も彼女が駆けつけてくれなかったらあの3人にやられていた可能性が高いだろ?
バーンダメージに巻き込まれてイラっときてるのはわかるけど、最悪の事態を回避できただけマシだと思わないと。」
「ま、君も彼女を擁護する立場に立っちゃうよね…腹立っちゃうなぁ。
ミミ、あんなところでやられなかったもん、やられなかったもん。」
「あはは、あの状況だとそれはちょっと説得力に欠けるかな。」
「むぅ…」
やっぱり、ブランはミシェルに嫌われてるみたいだなぁ。
彼女はそのリスクを承知の上で壊獣デッキなんて使ったから自業自得だけどね。
でも、あの状況を彼女1人でひっくり返すのはちょっと無理があったと思うけどなぁ。
「え?」
って、そんな話をしている場合じゃなくて…え、彼女が画面を見て固まった?
「あれ、なんか見た事…え、真月君?
でも、なんでエクシーズなんて使ってるの?」
「え?ブランが相手してる奴と知り合いなのか!?」
「うん、でも…あんな顔してるの見た事ない…なんで。」
というのもブランの相手の皮ジャンの男の事を知っているようだ。
だけど、エクシーズを使っていたり悪そうな顔をしている事に困惑しているようだ。
「多分、見間違いじゃないかな?似たような顔の人っていてもおかしくないだろ?」
「そうかな…?」
「本当ならすぐ別人と断定するのはよくないだろうけど、今は余計な事は考えてはいけない気がする。
とにかく、ポジティブに考えよう。」
「むみ…」
ネガティブな方向に考えると心身に余計なストレスを与えかねないからね。
相当貯め込んでいるだろうし、いつ決壊して何をするかわからない。
今、彼女たちに必要なのは落ち着く事のはずだけど…!
ブランの場ががら空きになって、何かの効果で手札が削られた所で…!
俺はそのカメラ越しの光景でとんでもないものを見てしまった。
「何かいる…?」
「え?」
非常に小さいけどそのデュエルをのぞき込んでいる傍観者の姿が一瞬見えたぞ?
仮にヒロトだったらいいが…ちらっと見えた影は多分違う。
ブランには悪いけど、エクシーズの男2人を見張ってる場合じゃなくなったな。
「…ちょっと拙い事になった、妙な奴がこのデュエルを傍観している。
何か嫌な予感がするし、これは放置しておけないな。
そんなわけで悪いけど、俺はちょっと外の様子を見てくる。
君はこの2人の様子を見ててくれないか?
この2人はもうディスクはないし、もし起きても大丈夫だと思うけど?」
「そ、そうだね…」
「もし君1人じゃ心細い、あの2人を起こしてもいい…緊急事態だしな。
それじゃ、ここは頼んだよ!」
「う、うん…」
どうも煮え切らない感じの返答に一抹の不安を覚えたけど、今は気にしてる場合じゃないな。
皮ジャンの男だけならともかく、あの人影まで加勢されたら流石のブランも拙い。
とはいえ、ここから地上へは少し時間がかかるのが厄介だが…!
…一刻も早く、外へ向かわないと!
超次元ゲイム ARC-V 第77話
『招かれざるビジネスマン』
ブラン:LP1400
???:LP3100
悪意の魔獣マリス・ストーム:ATK2600 ORU2(連続攻撃付与)
Side:ブラン
外で見張りをしていたところ、得体のしれない謎の少年を見つけたわけだが…!
どうやら、わたしの事をこの次元にやってきてからずっと監視していたそうだ。
そして、わたしのエースを奪いにデュエルを挑んできたわけだが…!
「この一撃でお前は終わりだ!マリス・ストーム、奴にトドメを刺せ!」
マリス・ストームの2回目の攻撃がそのまま通ればわたしのライフは尽きる。
とはいえ、完全に防ぎきる事は…できないが…!
「ここで終わるわけには行かないわ…このダメージ計算時に罠カード『回遊流し』を発動!
その戦闘で発生するダメージを半分にするわ…ぐあっ…!」
ブラン:LP1400→100
決して、ダメージを軽減できないわけじゃない!
そうではあるのだけど、残りライフは僅か100。
それに、予想以上に身体に堪える。
連戦続きな上に少し前に闇のカードに蝕まれたのが効いてるのだろうか?
それとも、相手の闇の力が強いから堪えているのかどうか。
「ちっ、ここでトドメを刺すにはいかなかったか…しぶとい奴め。
だが…女神のはずのともあろうお前もそろそろ限界が近いようだな?」
「ぜぇぜぇ…回遊流しの一連の効果でデッキから『ライン・ペンシル』を手札に加える!」
「おいおい、しかとかよ…面白くねぇ。
まぁいい…次のターンで仕留めてやればいい話か。
俺はこれでターンエンド…ちっ、マリス・ストームの攻撃力が300になっちまうか。」
悪意の魔獣マリス・ストーム:ATK2600→300
マリス・ストームの攻撃力は強欲なタガメの影響を受けているため攻撃力0になった。
とはいえ、ただ攻撃しても攻撃力を吸収されて返り討ちに遭うのは変わらない。
だけど、ライン・ペンシルをサーチした事でカニメデスまで漕ぎつけられれば…!
「それと、言い忘れたが…マリス・ストームを破壊すれば墓地の悪意の従者の効果でお前のライフはパーンだ!ヒャハハハ!!」
「っ…!」
と思ったが、悪意の従者の効果には続きが…?
確認してみたら、本当に悪魔族エクシーズの破壊がトリガーとなるバーン効果がありやがった…!
しかも、1000とかなり大きい数値。
これじゃ、カニメデスだけじゃとても突破なんて…!
あれを突破できるエビルスは…墓地へ落ちてしまっている。
「何か策があったようだが、その苦に満ちた表情だと当てが外れたな?
大人しくサレンダーしてデッキを差し出せば、見逃してやらん事もないが…」
「サレンダー?冗談言わないで。」
「じゃあ、精々足掻いて見せろや!
その手札とわずか100の残りライフで何かできるとは思えないけどよ!」
いや、だからといって諦めるのには早い。
遊矢もこの次元に行く直前に伝えてたじゃないか…増殖するGで。
どんな苦境に立たされても諦めずに行こう的な感じで。
それにこの世界をこんな奴らに好き勝手されないためにも、柚子を助けるためにも…!
こんなところで立ち止まっていられないからね。
「じゃあ、望み通り足掻いてやるだけだ…わたしのターン、ドロー!」
ドローしたカードは…ちくしょう、ドロー強化できるカードじゃなかったか。
「くっ…!」
「どうやら、望み通りのカードを引けなかったようだな!」
このカードそのものは強力なカードだけど、今これで何ができる?
この状況を突破できるカードなんて墓地には…ん、ちょっと待てよ?
確か、墓地のあのモンスターには別の効果が…これなら、決められそうね。
よく考えれば、突破口は見えてくるもの…こうだからデュエルは楽しくやめられない。
「ふふふふふ…」
「あん?状況が絶望的過ぎて気が狂ったかああ?」
「ところがどっこい…あなたを倒すキーカードを引かせてもらったわ。」
「何…?」
「その前にセッティング済みのスケールでエクストラデッキから『甲殻砲士ロブスター・カノン』をペンデュラム召喚!」
『ハァッ!』
甲殻砲士ロブスター・カノン:ATK2200 forEX
勝利への道筋は開かれたけど、その前にペンデュラム召喚しておく。
もっとも、これはあくまで駄目押しなのだけど。
「おいおい、今更そいつを召喚して何ができるってんだ?」
「まぁ、マリス・ミストの突破をするのはこのモンスターじゃないわ。
ここで魔法カード『スプラッシュ・リボーン』を発動!
この効果により、墓地の『甲殻』モンスター1体を特殊召喚する!
あなたがプレイングミスをしてくれたお蔭で…活路を見出す事ができたわ。」
「あん?俺がプレイミスだと?何を馬鹿な…」
「この効果で甦らせるのはレベル6の『甲殻拳兵サイケスキラ』だ!」
『ギシャァァァ!!』
甲殻拳兵サイケスキラ:ATK2100
そして、今甦らせた派手な色のシャコことサイケスキラこそがこの局面での切り札となるわけだ。
サイケスキラの効果は墓地へ送られたエンド時の除外から墓地への移動だけじゃない。
「何を蘇らせたのかと思えば…しまった、そいつは!?」
「目先に囚われてこいつじゃなくてウェーブ・ガードナーの方を除外したのが運の尽きね。
バトル!サイケスキラでマリス・ストームを攻撃!
サイケスキラが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時までモンスターの効果を発動できない!
これがどういう事を意味するか…わかるわよね?」
「これではマリス・ストームの効果も、悪意の従者の効果も発動できねぇ…おのれぇ!」
攻撃時にダメステ終了時まで相手はカード効果の発動を封じる効果がある!
そう…この状況をどうにかするには、障害となる2枚のカードを両方とも発動させなければいいだけだ。
まずは悪意の従者の効果を発動させる事なくマリス・ストームを処理する!
「喰らえ!『サイケ・インパクト』!!」
――ドゴッ!!
「ぐおっ…!!」
???:LP3100→1300
「これでトドメだ!ロブスター・カノンで攻撃!『バレル・ストライク』!!」
そして、ペンデュラム召喚で呼び出しておいたロブスター・カノンで決めようとしたその瞬間…!
『乱入ペナルティ2000ポイント』
????:LP4000→2000
「え?」
このタイミングで何者かが乱入してきた…!?
――ドゴッ!!
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
???:LP1300→0
――バキッ…ビリビリ!
この攻撃は通って目の前の奴は倒せた…が!
「おやおや、今のでディスクが破壊され随分と無様にやられたものですね…ベクター。
まぁ、女神を相手したのなら仕方ありませんがね。」
「お前は…ガナッシュ!」
「ガナッシュ…てめぇ、ずっとこのデュエルを見ていただろ…!
さっさと加勢すればいいものを…今更のこのこ乱入してくるんじゃねぇ!」
「そうはいかないのだよ…クライアントに応えるためにもね。
何より、この私を絶望の淵に陥れたスタンダードの女神には直々に屈辱を味あわせなければ気が済まないのでね!」
????→ガナッシュ:LP2000
このタイミングで乱入したのは…メガネをかけた重役っぽいスーツ姿の男。
こいつは、バトルロイヤルで対峙したガナッシュだった。
アヴニールの幹部格で、ノワールを信望する一面がありながらわたしを狙ったりと不審な行動を取っている男…のはず。
こいつとのデュエルの際にナイトの2人がカードにされて…それから正気をなくしてしまっていてあまり覚えていない。
遊矢が言うには駆けつけた時には戦意を喪失していたそうだけど…今は心なしかメガネの奥の目が血走っている気がする。
そして、そのクライアントというのは…!
「あの時はわたしがわたしじゃなかったわ。
で、そのクライアントというのは…魔女の事かしら?」
「顧客の情報を漏らすはずがなかろう…それにここで貴様は始末されるのだからな。
ベクター、ディスクを壊してでもこいつを消耗させてくれた事を感謝するよ…クハハハハ。」
「ちっ、好きにしやがれ。」
「くっ…!」
ここで答える気がないという事は…やはりこの2人は魔女側っぽいな。
とはいえ、この状況は非常に拙い。
乱入されたタイミングがあまりに最悪すぎる。
ベクターと呼ばれた皮ジャンの男へのダイレクト宣言と同時に乱入してきやがった。
仕切り直しというわけにはいかず、わたしは攻撃可能なモンスターはもういない。
それに手札もライフも消耗しきっている…もう碌に余力がない中での襲来ってわけだ。
「さて、まだ貴様のターンだが…もう攻撃できるモンスターはいまい。」
「くっ、消耗したところを襲ってくるなんてこの卑怯者…!
デュエリストとしての誇りはないようね…!」
「当然だろう、勘違いしてもらっては困る。
私はデュエリストではなくクライアントの要求に答えるビジネスマンなのだからな。
しかもこれは勝負ではなく戦争だ…そこには名誉も誇りもない。
どんな手段だろうと、与えられたビジネスを遂行するだけさ。」
デュエリストではなく、ビジネスマンとして与えられた仕事をするだけって話かよ。
だからこそ、わたしが弱ったところに乱入する事にも躊躇はないわけね。
戦争に介入する事のこちらの認識が想像以上に甘かったって事か、ちくしょう…!
「仕事だからと言って、何をやってもいいわけじゃないだろ…!
それに、ノワールを信仰しておきながらハートランドを裏切る真似をしてるじゃない?」
「時には非情にならねばならぬのだよ。
スタンダードからやってきたあのハゲに従う義理はない。
あのお方をクライアントに仕事をする方がよほど利益になるのでな。
それに、どの道貴様はここで息絶える運命なのだよ。」
「ククク…それに、あの方に仕えていた方がよっぽど面白い事できそうだからな。」
「どっちもしゃべりすぎじゃないかしら?」
エクシーズのボスであるプロフェッサー…確か赤馬零王は禿げてるのか、それともただの悪口か。
あのお方というのは十中八九マジェコンヌかその影響下にある者だろうけど。
ここで勝機は限りなくないが、まだあきらめるわけにはいかない。
「メイン2…墓地の『ガントレット・カメノテ』を除外し、手札の水属性1体を墓地へ送って効果発動!
デッキから『甲殻』モンスター…『甲殻星帝オマール・アンプルール』を手札に加える。
そして、水属性のコストで手札から墓地へ送られた『ライン・ペンシル』は自己再生できる!」
ライン・ペンシル:DEF900
とりあえず、これで何ができるかと言えば微妙だけど壁を増やしておく。
そして、墓地にはアレが落ちているし手札のオマール・アンプルールでワンチャンを狙う。
「どの道、貴様には壁を増やす事しかできないだろうな。」
「それはどうだろうな…わたしはこれでターンエンド。」
「強がりを…すぐに思い知ることになるだろうがな。
今度は貴様が屈辱を受ける番だ…私のターン、ドロー!
だが、スタンダードの連中には感謝するよ…お蔭で素晴らしい力が手に入ったのだからな。」
「素晴らしい力…何を言って!?」
「見るがいい…私はスケール3の『P3・R6−安定システム』とスケール8の『P8・R6−射出システム』でペンデュラムスケールをセッティングする!」
P3・R6−安定システム:Pスケール3
P8・R6−射出システム:Pスケール8
「なっ…!?」
「馬鹿な、ペンデュラムカードだと?
俺もついさっき見たばかりだというのに、何故てめぇが持っている!ガナッシュ!!」
だけど、彼は信じられないものをいきなり発動してきた。
あいつは結局はエクシーズ出身のはず…にもかかわらずどうしてペンデュラムカードを!?
そういえば、スタンダードで新たな力を手に入れた…何を言ってるんだ
「前にも貴様を抹殺し、オッドシェルのカードを奪えとのクライアントの要求があったわけだからな。
その時は貴様に不覚を取って無様な姿を晒す羽目となったが、ただでは逃げ帰らなかったのだよ。
覚えているか、ペンデュラム・スタチューのカードを…!」
「は?
あれはバトルロイヤルの終了時には白いブランクカードになったはずだが…まさか!」
大して気にも留めなかったけど、あれはバトルロイヤル終了と共に何の効力もないブランクカードとなったはず。
それにあのアクションカードでしか効力を発揮しなかったはず。
まさか…それを解析してこのペンデュラムカードを生み出したってのか!?
「我々アヴニールの技術力を見くびらないでいただこうか、スタンダードの女神。
確かに持ち帰った後は白いカードと化したが、ディスクの使用記録から解析しそれを元にカードを生み出す事など造作もない事なのだよ。
もっとも…こいつは出来たてほやほやの試作品に過ぎんがな。」
「おいおい、マジかよ…」
つまり、アヴニールの連中が試作品とはいえ僅かなデータからペンデュラムカードを作り出したって事かよ。
だけど、現にペンデュラムスケールとして出現した事を考えると目の前で起きているのは紛れもなく現実。
なら、ここでアレをするしかない!
「いずれにしろ、これでレベル4から7のモンスターが同時に特殊召喚できるわけだ。」
「でも、やらせない!墓地の『甲殻』モンスターのエビルスを除外し、手札の『甲殻星帝オマール・アンプルール』の効果を発動!
これにより、手札のこのカードのアドバンス召喚を行う!」
「ほう?私のターンでアドバンス召喚だと?」
「今に見てろ…サイケスキラとロブスター・カノンをリリースし、アドバンス召喚!
星に導かれし甲殻の帝よ、この戦乱を鎮めるために力を奮え!レベル8『甲殻星帝オマール・アンプルール』!!」
『フフフ…!!』
甲殻星帝オマール・アンプルール:ATK2800
運が絡むけど、こいつであのモンスターのエクシーズ召喚を阻止を狙う!
そうしないと、やられちまう…!
「オマール・アンプルールがアドバンス召喚に成功した事でエクストラデッキから水属性3体を墓地へ送り効果発動!
相手のエクストラデッキからランダムに3枚墓地へ送る!『ドミネーション・シュトローム』!!」
「エクストラデッキ破壊とは、小癪な真似をしてくれるではないか。
墓地へ送られたのは…『ギアギガント X』『フォトン・ストリーク・バウンサー』『破壊兵器キラーマシン』の3体か。」
「よし、キラーマシンを墓地へ送れた!」
確かキラーマシンがあいつのエースモンスターだった…とわずかに覚えている。
兎に角、これを直接墓地へ送りできたのは大きい。
「そして、水属性の効果のコストで墓地へ送られた『クルヴ・シューター』と『ハードシェル・クラブ』の効果を順に発動!
まずはハードシェルの効果により、デッキから水属性・魚族・レベル3の『クラスティ・フィッシュ』を手札に!
続いて、クルヴ・シューターの効果で相手の魔法・罠カード1枚を破壊する!
ペンデュラムゾーンのカードは魔法扱い…この効果で破壊するのは『P8・R6−射出システム』だ!『プラズマ・シュート』!!」
――バッシュゥゥ!!
「おいおい、ペンデュラム召喚する前から破壊されてんじゃねぇよ!」
「おっと、ベクター…心配には及ばんよ。
ペンデュラムモンスターがフィールドで破壊される場合、表側表示でエクストラデッキへ送られる。
そして、このモンスターはペンデュラム召喚でフィールドに呼び戻す事が可能…だったな?」
「え、そうよ…」
相手のエクストラデッキを破壊し、ペンデュラムゾーンのカードを1枚処理した。
だけど、ガナッシュの表情は…余裕綽々のように感じられる…!
嫌な予感しかしないが…流石にこれは冷や汗が止まらない。
「なら、当てが外れたな…」
「え?」
「手札から魔法カード『召喚師のスキル』を発動し、デッキからレベル5以上の通常モンスター1体を手札に加える。
そうペンデュラムかつ通常モンスターの『P8・R6−射出システム』は…もう1枚あるのだよ!
よってこいつを手札に加え、セッティング!」
P8・R6−射出システム:Pスケール8
「破壊したカードと同じペンデュラムカードがもう1枚!?」
なんと、同じペンデュラムカードを複数枚持っていた。
この短期間で同名のペンデュラムを用意するなんて…!
アヴニールの技術力の凄まじさが伝わってくる。
「これでもう貴様には私を邪魔する手立てはあるまい。
安定システムのペンデュラム効果により、機械族モンスターをペンデュラム召喚する際に貴様はペンデュラム召喚を無効にはできん!
ペンデュラム召喚!手札からレベル6の『R6−自動防衛システム』!
そして、エクストラデッキから復活しろ!同じくレベル6の『P8・R6−射出システム』!!」
R6−自動防衛システム:DEF2400
P8・R6−射出システム:DEF2200 forEX
そして、2体のモンスターのペンデュラム召喚を決めてきた。
前もレオ・コーポレーション製のペンデュラムカードでペンデュラム召喚した事をおぼろげながら思い出す。
あのクソメガネが…結果論とはいえ、敵に塩を送ってんじゃねぇよ!!
今度会った時は眼鏡を握り潰してやろうか、クソボケが!!
なんて考えている場合じゃない、レベル6が2体揃ったわけだが…?
それ以前に射出システムのペンデュラム効果…あれを発動されてしまったら…!
「そして『P8・R6−射出システム』のペンデュラム効果で射出システムをもう1体増やす事ができる。
だが、そうするまでもあるまい…!」
「っ…!」
という事はこの2体でエクシーズ召喚か…!
いずれにしても嫌な予感が匂って来る。
――ピカァァァァァッ!!
「やはり、変身は造作もないか。」
「ほう?あの時と同じ姿になったか。
もっとも、今更そんな姿になっても無駄だがな。」
「それは…どうだろうな?」
変身してこう言って見るが所詮は強がりだ。
キラーマシンを墓地へ送ったが、ランク6で何が来るかどうか…!
「まぁいい…どの道こいつで貴様を始末してくれる。
私は自動防衛システムと射出システム…レベル6の機械族2体でオーバーレイ!
ふはははは!壊せ、壊せ!周辺全てを壊しつくせ!エクシーズ召喚!来い、ランク6『破壊兵器キラーマシン』!!」
『ゴォォォォォ!!』
破壊兵器キラーマシン:ATK3000 ORU2
「なっ…2体目だと?そいつは前のデュエルの時には3体を素材に…」
「エクストラを荒らしていい気になってるのだろうが、残念だがキラーマシンは3枚あるのだよ。
それにキラーマシンは2体のモンスターでもエクシーズ召喚できる。
いずれにしろ、貴様の足掻きも徒労に終わったわけだ。」
こいつは覚えている…バトルロイヤルで遺跡地帯を滅茶苦茶にしたモンスターだ。
効果は兎も角、ランク6では破格の攻撃力3000。
何よりこの絶望的な状況でこのステータスを出された…!
3積みもしていたんじゃ、オマール・アンプルールの効果で出される前に処理するのは困難だったって話だ。
だけど、まだ諦めたわけじゃない!
「バトル!行け、キラーマシン!オマール・アンプルールを蹴散らすがいい!
ここが貴様の墓場だ!『ジェノサイド・ブレイク』!!」
「まだだ…自分フィールドの『甲殻』モンスターが攻撃対象に選択された事で手札から『クラスティ・フィッシュ』を捨てて効果発動!」
「ほう?随分と諦めが悪いものだ。」
「可能性がある以上、諦めるわけには行かねぇ!
この効果で自分のデッキトップのカードをめくり、そのカードが水族モンスターだった場合はそのカードを手札に加えた上でこのバトルフェイズを終了する!
それ以外のカードだったらそのカードを墓地へ送るだけだけどな…!」
とはいえ、これで発動したのはあくまで博打の防御札にすぎない。
もしデッキトップが違えば…一巻の終わりだ。
「つまりは運任せというわけか…よかろう。」
「ま、そう都合よくあたるわけないだろうけどな…」
だけど、当たらないかどうかなんてやってみなければわからない。
恐れるな…必ず引き当ててやる!
「ドロー!」
実際はドローじゃなくてめくっただけだけど…!?
「なっ…!?」
「めくったカードは……儀式魔法『シェルアーマー・アドベント』のようだな!
儀式召喚を搭載していたようだが、肝心な時に裏目に出たな。」
「おいおい、女神ともあろう奴が天運に見放されるとかまじで傑作ってもんだぜ。」
デッキに様々な要素を詰め込み過ぎた結果…肝心な時に運命に見放されたって事かよ…!
これじゃ…もう打てる手は何もない……!
それに気づいた時にはもうキラーマシンの攻撃は迫っていて…!
――ズドガァァァァァァァ!!
「がはっ…!」
ブラン:LP100→0
その瞬間、わたしの身体が宙を舞った。
轟音と共にわたしの幼い女神の身体に凄まじい衝撃が襲ったようだが、その衝撃を受けきれなかったようだ。
本調子なら、女神化していれば物理的にこれくらいの攻撃を受けきる事など造作もないはずだ。
しかし、連続したデュエルでの疲労やこの前の体調不良…そして見放された運などが積み重なった結果がこのザマだ。
何やってんだよ…こんなんじゃ次元戦争を終わらせるどころか、柚子を救うどころか、その辺の他人を救う事でさえ叶わない。
――ドサァァァ!!ピシュゥゥ…
「があっ…ぐ………っ!」
「ほう?この一撃を受け敗れてなお、まだ意識があるか。
スタンダード出身と言えど女神…そう簡単には屈しないか。」
そして、そのまま落下し地面にたたきつけられて女神化が解けてしまう。
いずれにしても、この瞬間敗者となったという事か…!
全身が痺れ、身体が思うように動かない…!
「あらまびっくり!女神がこんな無様な姿を晒すとはな。
ククク、こいつはいいものが見れたぜ…俺の手で仕留められなかったのは残念だがよ。」
「ベクター、君は少し黙っていてもらおうか。
私に最高のタイミングで乱入させる手筈と整えてくれた事は感謝するが、敗者である事に変わりはないのでね。」
「ちっ…」
――タッ、タッ…!
一方、そこで転がっているベクターからしてみればそんなつもりはなかっただろうけど。
そして、ガナッシュがこっちに近づいてくる。
間違いなく、わたしに手をかける心算なのだろう…本当にここまでなのか……!
いや、Gのように…しぶとく足掻かなくちゃ……どんなに惨めでも無様でも!
「この前の時とはまるで逆…無様だな、スタンダードの女神よ。」
「ざけんな…このまま終わると思うなよ、疲弊したところを乱入して襲うような恥さらしの卑怯者のクソボケが…」
「まだ抵抗の意志が残っているか…ククク。
どんな手段を使おうが、目的を果たせればそれで結構な事だ。
クライアントは貴様のオッドシェル・P・ロブスターを欲しがっていてね…頂いていくぞ。」
「や、めろ…」
ガナッシュがわたしの眼前へ来ると、デッキを奪おうとディスクに手を伸ばす。
冗談じゃねぇ、デュエリストの魂である自分のデッキをこんな奴に触らせるわけには…!
――グシャッ!!
「ぐあっ…!!」
「貴様は敗者の立場をわかっていないようだ…いけない子だな。」
そう払いのけようとした瞬間、激痛に襲われる。
腕を思い切り踏みつけられたのだ。
そして、いつの間にか手にした銃の銃口を向けられ…!
――パンッ!!
「が…はっ………」
――ガクッ
「クライアントから渡された対女神用の麻酔弾の前には流石の女神も無力というわけだ。
そう、これで君とはお別れだ…クハハハハハハ!!」
彼が引き金を引いた瞬間…目の前が真っ暗になった。
――――――
No Side
ブランは勝利目前に乱入したガナッシュの放った麻酔弾によりガクッと気を失ってしまう。
それはすなわち、身動きが取れず抵抗の手段が無くなったという事である。
当然だ、意識がないのだから。
――カシャ
「成程、これがこいつのデッキか…。」
そして、ガナッシュは彼女のディスクに手を伸ばし手際よくデッキを奪い取る。
そのまま、自らのディスクを操作し…!
「貴様にはあの時以来苦しめられたがこれで最後だ。
女神はノワール様だけで十分だ…死ね。」
――ピカァァァァァ!!
そして、無慈悲にもディスクから光が放たれ…!
光が止んだ先には……気を失ったブランが先ほどと同じ状態で倒れていた。
どうやら、何も起こらなかったようだ。
「どういう事だ、こいつがカードになっていないだと?
こんな時にディスクの故障か?」
「いや、待て…前に女神は女神あるいは我々の主にしか始末できないと聞いた事がある。
ちっ、誰も試した事がないからわからなかったが…!
どうも女神はカードに封印なんてできやしないようだな…!」
「なんだと…我々の手では始末できないというのか…!」
なんとブランたち女神はカードに封印されないようだ。
そのお蔭で辛うじて命拾いはしたが…意識はなく、デッキを奪われ絶体絶命である事に変わりはない。
「おのれ…クライアント曰く、始末しろとの事だがこれでは…!」
「おいおい、だからてめぇは頭堅いんだよ。
別に無理に葬るまでもないだろう。
老いぼれのところへ送って実験材料にするなり、こいつはいくらでも利用できるだろ。」
「趣味が悪いが、女神ならではの性質を逆手に取ろうというのか…。
持ち帰って無茶苦茶にするのもそれはそれで一興か。」
一方、ブランの処遇を巡って何やら話が怪しげな雰囲気になっていた。
彼らとしては彼女をここへ放置するわけにはいかないようで、連れ去るつもりの様だ。
ところが…!
――ガタガタ…ズズズ!
マンホールが動くと…!
「ふぅ、やっと出られた…よっと!」
「誰か来てしまったようだな…ん?」
「っ、貴様は…!」
「俺はファントム…いや、今は榊遊矢だけどね。
で、ガナッシュだったかな?バトルロイヤルでブランにボコボコにされてたけどまだ懲りていなかったのか。
それにしても、弱ったところを乱入するなんてデュエリストとして感心しないな…手段を選んでいられなくなったか。」
ここでその穴から榊遊矢がようやく姿を現した。
「き、貴様もこの次元にやってきていたのか…!」
「エンタメを広めるついでの付き添いでね。
さて…ブランとそのデッキを返してもらおうか!」
「ぐっ…!」
彼の出現に狼狽えるガナッシュ。
それもそのはず…あの時、彼が止めに入らなければガナッシュは死んでいただろう。
そのトドメを止めた上で次のターンでライフを0にし強制送還した。
ガナッシュにとってはやりづらいだろう。
そして、拉致されそうになっているブランを取り戻すために遊矢は彼らに対峙する。
続く
登場カード補足
クラスティ・フィッシュ
効果モンスター
星3/水属性/魚族/攻 500/守1400
「クラスティ・フィッシュ」の効果はデュエル中1度しか使用できない。
(1):自分フィールドの水族・魚族のモンスターが攻撃対象に選択された時、このカードを手札から捨てて発動できる。
自分のデッキの一番上のカードをめくり、そのカードが水族モンスターだった場合は手札に加え、このバトルフェイズを終了する。
違った場合はめくったカードを墓地へ送る。
P3・R6−安定システム
ペンデュラム・通常モンスター
星6/闇属性/機械族/攻1800/守2000
Pスケール『3:3』
(1):自分が機械族モンスターをP召喚する場合、そのP召喚は無効化されない。
『モンスター情報』
異次元より持ち帰った物質を用いて作られた装置。
異界を繋ぐ召喚法を行う際、出力を安定させるために用いられるという。
P8・R6−射出システム
ペンデュラム・通常モンスター
星6/闇属性/機械族/攻1000/守2200
Pスケール『8:8』
「P7・R6−射出システム」のP効果は1ターンに1度しか使用できず、この効果を発動するターン、自分は機械族モンスターしか特殊召喚できない。
(1):自分フィールドのP召喚された機械族の通常モンスター1体を対象として発動できる。
その同名モンスター1体をデッキから守備表示で特殊召喚する。
『モンスター情報』
異次元より持ち帰った物質を用いて作られた装置。
異界へ繋ぐ召喚法を行う際、空間に穴を開けるために用いられるという。
スプラッシュ・リボーン
通常魔法
(1):自分の墓地の「甲殻」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。