Side:ステラ


プロフェッサーから休養を宣告されてしまいましたが、困りましたね。
確かに迷いがあるわたしに任務遂行は厳しいかもしれません。
ですが、このままのんびりとしているわけにはいかないのですけれどもね。

反乱勢力の大勢が既に他次元に流出したせいか、ハートランドも寂しくなり愕然としています。
モアの脱走からの混乱に乗じてしてやられましたね。
最近、融合次元に出張している者も行ったっきり帰らぬ人となった方々が大勢いるようですし。

融合の残党が強くなってしまったのか、真の敵の影響が強くなってしまったのかはわかりませんが。


「はぁ…まさか、いつ僕たちが狩られる側になってもおかしくない事態になっちゃうとはね。」

「情けない話ですけれどもね、里久。
 頼れるカイトも重傷を負ってしまいましたし、わたしも迷いが生まれてしまいました。
 その結果がこの惨状です。
 これからどうなってしまうのか、この先不安です。」

「迷いか…実は僕もなんだよね。
 多分、ブラン達の事なんだろうけどさ。
 友達だった身としてはもう彼女とは戦いたくないのが本音なんだよね。」

「あなたも同じだったのですね。
 わたしも彼女と争う事になるかもしれないと思うと…とても辛いです。
 それに沢渡さんに追い詰められる始末で情けなく思います。」

「それは仕方ないでしょ…あいつ、ブランとの試合を見た感じデュエルの実力は普通に強かったんだし。
 それに君も復帰するまでに結構なブランクがあったんだしさ、徐々に取り戻さないと。」

「ですね…拙い事ですが。」


そんなわけで同じく休養を言い渡された黒龍院里久と釣りをしながら話をしています。
彼はスタンダードでスパイ活動をしている傍ら、遊勝塾に入塾しておりました。
現地の人にエクシーズ召喚を教えてしまったらしい事は大失態だとは思いますが。

とはいえ、迷いを抱えているのがわたしだけじゃないと思うと少しは気が楽になります。
やっぱり、かつての友人と争うのは精神衛生上よくありませんから。

とはいえ、ハートランドはいつ襲われて乗っ取られてもおかしくないといえる状態。
わたし自身、腕が鈍っているようです。
今来られたら、果たしてプロフェッサーや月子たちを守り切れるか…不安で仕方ありません。


「…ふん、こんな所で油売っていていいのか?」

「紫吹…と一瞬思いましたが、黒咲先輩ですか。」

「ちっ、あのような融合使いと間違えられては困る。」

「はぁ…あいつに似ていけ好かないけど何の用?」


そんな時に目の前に姿を現したのは、紫吹雲雀に似た雰囲気の黒づくめの美青年と言った風貌の男『黒咲隼』だった。
実力こそは高いですが、孤高を好んでいるのか一匹狼な言動が目立つのが玉に瑕です…少なくとも根っからの悪人ではないようですがね。
そんな彼からわたしたちに話しかけてくるとは珍しい。
余程わたしたちの現状は他の人たちから見ても心配のようです。
実に情けない限りです。


「特に用はない…たまたま通りかかっただけだ。
 だが…何があったかは兎も角、貴様らの腑抜けぷりには失望したぞ。
 今の貴様らには何かを成し遂げる鉄の意志も鋼の強さも感じられない…微塵もな。」

「何…!」

「気持ちはわかりますが、落ち着いてください…里久。
 悔しいですが、今のこの姿を見たら誰だってそう思うに決まっています。」


情けない話ですが、迷いに苦しみ、任務に集中できず休養を言い渡された以上はぐうの音もでません。
ではこの休養をどのように生かすべきか。


「貴様自身が理解できているのなら話は早い。
 改めて問おう、俺たちは何のために心を痛めてまで他次元の侵攻に手を染めてきた?」


この中で迷いを断ち切る…そのために自分を見つめなおすのです。
何のために今まで一見こんなばかげた事に手を染めてきたのかを。
我々は敵対する人たちを次々とカードに封印した以上は背負っていかなきゃなりません。
それを無駄にしないためにも、成し遂げないといけないのです。

まぁ、それは建前です。
実際のところ侵攻に走ったのは、融合次元の連中を野放しにすると拙い事になるからですが。
裏でこそこそしている魔女の連中のせいで。
1人2人なら、守る事はできますが…大勢の住民を抱える余裕はないのです。
だから痛心を振り切り、大勢の住民をカードに封印してきました。


「…簡単です、我々が成すべき事は4つの次元に引き裂かれた世界をあるべき姿に正す事。」

「そうだ、それを成すべき時に貴様らが腑抜けてどうする?
 俺たちは選ばれた戦士だ。
 いくら辛くても、相手から恨みを買おうともやり遂げなければならん。
 奴らに好き勝手させないためにもな!」

「そうだったね、僕たちの良心が痛んでもやりとげなきゃならない。
 このままじゃいい気になっている魔女の連中や僕たちを裏切った連中にやられる一方だ。
 それに、僕…良い事思いついちゃった。」


我々の目的はプロフェッサーから真実を聞かされた時から常に一貫しております。
にも拘らず、ここで迷いが生じたがために腑抜けるわけにはいきません。
そうこうしている内に魔女の連中にこれ以上好き勝手させてしまっては一巻の終わりですから。
我々の目を覚まさせてくれて感謝します。

それで、里久が良い事を思いついたらしいのだけど…?


「逆に考えればいいんだよ、ブラン達と敵対するのが嫌ならどうするか?
 いっその事、僕たちの仲間に引き込むべきだと思うんだよね。」

「仲間に引き込む…確かにブランが仲間になれば心強いと思います。
 ですが、彼女は彼女の立場があります…そう簡単には…」

「ま、その辺はあまり期待はしないけど。
 でも、もしかしたら心変わりしているかもね…流石に冗談だけど。」


だけど、彼女は既に我々の事を敵と認識しているはずです。
そう簡単にはいかないとは思いますね。
もっとも、もし彼女があの時我々が一見して同士討ちした理由に気付いていたら…?
里久の言う通り、仲間にできる余地はあるかもしれません。


「ブランだと?何者だ、そいつは?」

「わたしが記憶を無くしてスタンダードに住んでいた時にできた…かつて大切だった友人です。」

「スタンダードでスパイ活動していた時に彼女のデュエルに魅せられて僕も友達になったんだよね。」

「くだらん…貴様らが他の次元の奴と馴れ合っていたとはな…」


とはいえ手厳しいですね、黒咲先輩は。
確かに下手な馴れ合いは己を破滅に招きかねないかもしれませんからね。


「まぁいい…いずれにしろ、貴様らがどうしようが俺には関係ない事だ。
 俺は俺のやり方で闘うだけだ…だが、邪魔だけはやめてもらおうか。
 俺は他の次元の連中に闘いを挑んでいくつもりだ…貴様らは勝手にしろ。
 が、貴様らはまだまだガキだ…精々無茶はするなよ。」


そう言って彼はここを離れていってしまいましたか。
なんだかんだわたしたちの事を心配してくれていたようですね。
いい刺激になったかもしれません。


「なんだよ…言いたい放題言った挙句すぐいなくなっちゃうなんてさ。
 あいつだって17歳だってのに…まだ成人じゃないくせに。」

「とはいえ、彼の言葉は我々にとっても発破にはなったと思います。
 それでは、里久…あなたはこれからどうします?」

「そうだね…後でシンクロ次元に行けるようにお願いしてみるつもりだよ。
 あそこって結構キナ臭いらしいし、なんとなく僕の弟子の柚子があそこにいる可能性が高いと睨んでいるからね。」

「もしいたら、その時は説得に当たってください。
 ですが、シンクロ次元では下手な動きをすれば返り討ちにされてしまいます。
 特に例のあそこは危険です。」

「わかってる…そもそも行けるかどうかわかんないけど。」


わたしも一度行った事はありますが、すぐに退却する事になってしまいました。
シンクロ召喚を習得できた事は不幸中の幸いではありましたが。


「で、シュテルはどうするのさ?」

「わたしは…月子に一度相談してから融合次元に赴くつもりです。
 ここは少しでも魔女の戦力を削いでおきたいところですから。」

「わかった…もしブランに会ったらその時はよろしく。」

「そちらもね。」


黒咲先輩が発破をかけてくれたお蔭で迷いを断ち切れそうです。
その前に、月子に一度会って話や手合せをしておきたいところです。
彼女は大切な客人であると同時に、融合次元最強クラスを誇っていましたから。
わたしは融合次元の連中をまだ軽蔑していますが、彼女だけは別です。










超次元ゲイム ARC-V 第75話
『死霊の怨念を打ち破れ』










遊矢:LP4000
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン:ATK3300
EMカバーリーヒッポ:ATK2800
EMパレードラゴン:ATK2800
EMサーベルタイガー:ATK2500
EMドローパー:ATK1800

ヒロト:LP2600
死霊騎士ワイトロード:ATK1600
ワイト:DEF200(×3)



Side:遊矢


ここまでで盤面もライフも俺の方が有利。
とはいえ、相手はワイトを3体蘇生させた上に融合モンスターまで自己再生している。
これらは単体ではあまり仕事をしないとはいえ、何か狙っているはずだ。


「行くぞ…俺のターン、ドロー!
 まずは手札を補充させてもらおう。
 効果モンスター以外の『ワイト』1体を墓地へ送り、魔法カード『馬の骨の対価』を発動!
 この効果によりデッキから2枚ドローする!」
死霊騎士ワイトロード:ATK1600→1800


「簡単に蘇生できる事を活かしての手札強化カードか。」


問題はここからどうするか…だけどね。


「ここからは死力をもってお前を倒しに行く!
 俺は手札から魔法カード『融合』を発動!」

「今度は正真正銘の融合か…!」

「効果はとっくにご存じだろう?俺がはフィールドのワイトロードと2体のワイトを融合する!
 誇り高き死霊騎士と2体の死の眷属が混じり合い、復讐を求める死霊を率いて甦れ!融合召喚!出でよ、レベル8『死霊将軍ワイトジェネラル』!!」

『グッフッフ…!!』
死霊将軍ワイトジェネラル:ATK2400



「ここでレベル8の融合モンスターのお出ましか…!」


融合モンスターを含む3体を素材にしてはそこまで高くない攻撃力ではある。
だから、効果は中々強烈だろうね。


「このワイトジェネラルもまた、墓地のワイト1体につき攻撃力を200アップする効果がある。
 現在墓地に眠る『ワイト』は6体…よって現在の攻撃力は3600となる!」
死霊将軍ワイトジェネラル:ATK2400→3600


「攻撃力3600…中々重いな。」


第一の効果はワイトロードの攻撃力アップをそのまま継承したもののようだ。
元々の攻撃力が高い分、より脅威を増している。
しかもワイトデッキだからまだ隠し玉はあるはずだ。


「また、ワイトジェネラルはモンスターゾーンに存在する限り、自らは相手の効果では破壊されない。
 その上、アンデット族・レベル1のモンスターは相手の効果を受け付けなくなる効果がある。
 ここから俺が何をするのか…わかるか。」

「ああ、だいたい察しはついたよ。」


レベル1のアンデット族が効果に対して無敵になる効果を説明した以上、間違いなくあいつが出てくるだろう。
察しがついたからといって捌ききれるかどうかは別の話だが。


「なら話は早い…まずは墓地の『ワイトプリンス』の効果を発動!
 墓地からこのカードと『ワイト』2体を除外する事でデッキから『ワイトキング』を特殊召喚できる!」
ワイトキング:ATK?
死霊騎士ワイトジェネラル:ATK3600→3000



「来たな、ワイトキング…!」


とうとう出てきたか…ワイトデッキの切り札と言えるモンスターが。
墓地のワイト関連を多数除外してしまっているとはいえ、少ないのは今だけだ。


「ワイトキングの攻撃力は墓地の『ワイト』及び『ワイトキング』の数×1000となる!
 俺の墓地には3体…よって今の攻撃力はワイトジェネラルと同じ3000となる!」

『オォォ…!』
ワイトキング:ATK3000



まずは攻撃力3000。
とはいえ、この時点でも大台の攻撃力であり、しかも相手の効果を受けない怪物と化している。
この攻勢を捌ききることだってそう簡単な事ではない。
もっとも、これで終わってくれるならあまりにも楽観的だ。


「さらに手札の『ワイトバトラー』を捨て、魔法カード『ワン・フォー・ワン』を発動!
 デッキから2体目の『ワイトキング』を特殊召喚する!
 ワイトバトラーもまた墓地でワイトとして扱われるモンスター。
 これで墓地の『ワイト』は合計4体となったわけだ。」

ワイトキング:ATK?→4000
ワイトキング:ATK3000→4000
死霊騎士ワイトジェネラル:ATK3000→3200



「ここでワイトジェネラルの3つ目の効果を発動!
 除外されているアンデット族モンスター…『ワイト』と『ワイトプリンス』を1体ずつデッキに戻し、デッキからアンデット族・レベル1のモンスター1体を手札に加える。
 この効果で手札に加えるのは当然3体目の『ワイトキング』…そして、そのまま通常召喚する!」
ワイトキング:ATK?→4000


「あはは…このターンだけでもうワイトキングが3体揃い踏みか。
 さてと…どうしたものかな、これは。」

「まだだ!俺は手札の『ワイトメア』を捨てモンスター効果を発動!
 これにより除外されている『ワイト』1体を墓地に戻す。
 さらに、ワイトメアもまた墓地で『ワイト』として扱われるモンスター。
 よって墓地には『ワイト』が合計6体となった!」
ワイトキング:ATK4000→6000(×3)
死霊騎士ワイトジェネラル:ATK3200→3600



「マジっすか。」


ワイトジェネラルをどうにかしないと効果で干渉できない超攻撃力のワイトキングの軍勢に呆然となる。
攻撃力6000が3体を相手取るのは流石に相当きつい。
これはかなり厳しい状況に立たされたな。


「この死霊の軍勢を前に手も足も出まい…悪いがここで決めさせてもらう。
 バトル!1体目のワイトキングでお前のドローパーを攻撃!
 ここまでよくやったが、これで終わりだ…『デッド・スクリーム』!!」


流石にこれを受けたら超過ダメージ4200で一発アウトだ。
だから、この攻撃を受けるわけには行かない。


「だからといって最後まで諦めるつもりはないよ!
 この瞬間、エクストラデッキから『EMベイベース』を墓地へ送り効果発動!」

「エクストラデッキから効果発動だと?
 だが、ワイトキングはレベル1のアンデット族モンスター。
 ワイトジェネラルがいる限り、お前の効果は受け付けんぞ!」


エクストラからの発動は今は眠りについているはずのロムが得意としている。
だけど、俺もそれができるカードを持っていたんだよね。


「おっと、ワイトキングに効果が及ぶカードだなんて誰が言ったんだい?
 この効果により攻撃対象となったドローパーを守備表示に変更する!」
EMドローパー:ATK1800→DEF600


「ちっ…だが、その気持ち悪いモンスターは破壊させてもらうぞ!」


――ザシュッ!!


「すまない、ドローパー…だけど、この時もモンスター効果が発動する!
 このカードが戦闘で破壊された事により、1枚ドロー!」
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン:ATK3300→3100
EMカバーリーヒッポ:ATK2800→2600
EMパレードラゴン:ATK2800→2600
EMサーベルタイガー:ATK2500→2300



このドローは…!
よし…まだ希望はありそうだ。


「まだ攻撃は始まったばかりだ!
 今度は2体目のワイトキングでカバーリーヒッポを攻撃!」

「なら手札から『EMバリアバルーンバク』を捨て、効果発動!
 この戦闘による俺への戦闘ダメージを0にする!」

「だが、そのカバには消えてもらうぞ!」


――バシュゥッ!!


『ヒポォ!!』


すまない、ヒッポ!だけど、カバーリー・ヒッポの思いは後に引き継がれる!
 戦闘または相手の効果で破壊されたカバーリー・ヒッポのモンスター効果発動!
 俺はデッキトップから3枚を確認し、その中から『EM』モンスターがいればそいつを手札に加えられる!」
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン:ATK3100→2900
EMパレードラゴン:ATK2600→2400
EMサーベルタイガー:ATK2300→2100


「ふん、運に自分の命運を任せるとは…よかろう。」

「デッキトップの3枚に…あった。
 俺は『EMオッドアイズ・ユニコーン』を相手に見せ、手札に加える!」

「ペンデュラム…」


もっとも、ペンデュラム召喚ができるかどうかは次のターン次第だけどな。


「そして、残りのカードは好きな順番でデッキトップに戻させてもらうよ。」

「少しとはいえ、デッキトップを操作したか。」

「逆転には種も仕掛けも…ってやるわけには行かないからね。」


逆転のキーとなりえるカードを事前に手配しておく事もこの戦いを生き抜くうえでは重要だ。
このターンをしのいだとして、その後何もできませんじゃ話にならないからな。


「まぁいい…ならば3体目のワイトキングでサーベルタイガーを攻撃!」

「なら、ここで世紀の脱出ショーを披露しましょう!
 この瞬間、墓地から罠カード『エスケープトリック』を除外し効果発動!
 俺のモンスターが攻撃対象にされた時に墓地からこのカードを除外して発動できる。
 この効果で攻撃対象となったモンスターの戦闘で受ける俺への戦闘ダメージを半分にし、戦闘で破壊される場合、代わりに手札に戻す!」

「そんなカード、いつの間に…あの時か!」

「そう、マジカルシルクハットで仕込ませてもらった罠だよ。
 エンタメと実用性の両方があって、使っていても楽しいんだよね。」


何かあった時のためにあの時に墓地へ送っておいて正解だったな。


「ぐっ…例によってお前自身に干渉する効果ゆえに防げんか。
 だが、半分とはいえダメージは受けてもらうぞ!」


――ザクッ!


「ぐあっ…!」
遊矢:LP4000→2050
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン:ATK2900→2700
EMパレードラゴン:ATK2400→2200



とはいえ、流石にこれ以上のダメージのシャットアウトは無理だ。
流石に攻撃力6000の攻撃はダメージ半分になっていても効く。


「サーベルタイガーは破壊されるけど救出され、手札に戻すよ。」

「トドメを刺すには足りないか…!
 ならワイトジェネラルでパレードラゴンを攻撃!『スクリーム・シェーバー』!!」


――ザシュッ!!


「がはっ…!」
遊矢:LP2050→650


ここまでで埋まっていた俺のモンスターゾーンのモンスターはオッドアイズが残ったのみ。
残りライフは500を割ってはいないとはいえ、次のあいつのターンで俺は終わりだろう。
だったら、何としても次のターンで決めるしかないわけだが…!


「っ…これは流石に堪えるな。
 だけど、これでお前の攻撃は終わりだったよな?」

「くっ、このワイトキングの軍勢を相手に凌ぐとはやるな。
 が、バトルこそは終了だが、念押しはさせてもらおう。
 自分のアンデット族・レベル1のモンスターが戦闘を行ったターンのメインフェイズ2に墓地のワイトバトラーを除外し効果発動!
 相手の特殊召喚されたモンスター1体を破壊し、相手に500ダメージを与える!」

「何っ…ぐあっ!
遊矢:LP650→150


まさかモンスター除去のカードをいつの間に仕込んでいたとは…!
これで残りライフは150…もう後がなくなった。


「だけど、オッドアイズはペンデュラムモンスター。
 墓地へ送られる場合、代わりにエクストラデッキへ送られるよ。」

「だが、これで今のお前の場のモンスターはがら空き。
 さらに、俺のフィールドのワイトキングはワイトジェネラルがいる限り、お前の効果を受けない。
 しかも、そのワイトジェネラルもお前の効果では破壊されん。
 ここで倒れし者たちの怒り、悲しみを背負って俺は戦っている以上は簡単にやられるわけには行かん!

「じゃあ、そのお前や倒れたものの怒りを体現したようなこの布陣を崩せたら…少しは心を解きほぐしてくれるかな?」

「この布陣を崩せるというのならやってみるがいい…俺はこれでターンエンド!」


だけど、攻撃をしのぎ切れたことに変わりはない。
それで、今ので手札は4枚に回復した…質はさておき。
後は次ドローするアレ次第か。

憎しみの心を解きほぐすためには…これくらいの逆境は超えられないとね。


「なら、やってみせようかな…お楽しみはこれからだ!ドロー!
 まずは手札を入れ替えていくよ!魔法カード『EMキャスト・チェンジ』を発動!
 手札の『EM』を任意の数…ここは『EMサーベルタイガー』1体を見せ、それをデッキに戻しシャッフルする。
 そして、戻した数+1枚のカードをドローする!
 よって、俺は2枚ドローさせてもらうよ…ドロー!」


ドローしたカードは…よし、これで必要なカードは揃った。
さあ、ショータイムの幕開けだ!


「それじゃ、そろそろペンデュラム召喚を披露させてもらおうかな?」

「ペンデュラム召喚だと?」

「ペンデュラムモンスターを使った召喚法だけど、百聞は一見に如かず!
 俺はスケール4の『EMトランポリンクス』とスケール8の『EMオッドアイズ・ユニコーン』でペンデュラムスケールをセッティング!」
EMトランポリンクス:Pスケール4
EMオッドアイズ・ユニコーン:Pスケール8



「モンスターが召喚されずに出現しただと?
 ペンデュラムスケールなどという意味不明な用語といい、何が起きている?」

「そうだな、簡単に説明しておこう。。
 まず、ペンデュラムモンスターはモンスターと永続魔法に近い魔法…2つの性質を持つモンスターだ。」

「つまり、モンスターとしてだけでなく魔法としても扱えるとんでもないカードというわけか。
 魔法としての効果も何かあるわけだな。」

「まぁ、ペンデュラム効果としてね。
 といっても、モンスター効果と同じく魔法としてのペンデュラム効果ないものもあるけどさ。
 で、このスケールの値というのはペンデュラム召喚に必要な数値なんだ。
 ペンデュラムゾーンというモンスターゾーンの横にある2枚のペンデュラムスケールが重要だ。
 1ターンに1度だけ、その2枚のスケール値の間のレベルを持つ手札のモンスター及びエクストラデッキの表側表示のペンデュラムモンスターを同時に好きなだけ特殊召喚する。
 これがペンデュラム召喚ってわけだ。」

「つまり、モンスターを複数体同時に…しかも、エクストラデッキへ送られたモンスターも復活できるというのか!」

「そういう事になるね。」


それがペンデュラム召喚の強み…スケール値が召喚するレベルにさえ適合すれば下級や上級も関係ない。
ただし、同時に召喚する…という点が弱みになりえる事もありえなくはない。
例えば、ペンデュラム召喚そのものが無効にされたりすると流石にきつかったりするんだよね。


「そして、2枚のスケールの値4と8…つまり、レベル5から7のモンスターが同時に召喚可能となるわけさ。
 それじゃ、本番と行こうか!」


――パチッ!


「揺れろ、運命の振り子!迫り来る時を刻み、未来と過去を行き交え!ペンデュラム召喚!出でよ、俺のモンスターたち!
 手札からはレベル6の『EMカレイド・スコーピオン』を!
 そしてエクストラデッキから舞い戻れ!レベル7『オッドアイズ・ファントム・ドラゴン』!!」
EMカレイド・スコーピオン:DEF2300(ATK100→500)

『ガァァァァァァァァ!!』
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン:ATK2500→2900 forEX


「本当に同時召喚だったとは…しかも、上級モンスターを2体。
 確かに、エラーを吐かない事から召喚は有効…ならば、そんな召喚法がある事を認めざるを得ないわけだな。」

「それはどうも…とはいえ、スタンダードでも最近出てきたばかりの召喚法だけどね。」

「やはりな…儀式召喚やペンデュラム召喚だの聞きなれない召喚法を使っていた所からもな。
 その割には融合召喚を使えるのは驚いたが、俺たちの次元の者から教わったとすると使えても不思議ではないか。」


飲み込みが早くて助かるよ。
その教えてもらった人はスタンダードで大変な事になっているみたいだけどね。
やはり儀式召喚は他の次元ではマイナーどころか、殆ど見る機会がないのか。


「そして、両端のペンデュラムゾーンに置かれたペンデュラムは魔法としてのペンデュラム効果が使用できる。
 この時俺はトランポリンクスのペンデュラム効果を発動!
 自分がペンデュラム召喚した時、自分または相手のペンデュラムゾーンのカード1枚を手札に戻す事ができる。
 この効果で戻すのは『EMトランポリンクス』自身…そしてそのまま召喚!」
EMトランポリンクス:ATK800→1400
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン:ATK2900→3100



「こいつをそのまま召喚だと…まさか!」


種族が増えたから攻撃力が更に上がるけど関係ない。
そして、ワイトの軍勢を倒すためにも更なる融合モンスターを今こそ呼び出す!


「悪いけど、持っている融合モンスターは1体だけとは限らないんだよね。
 俺は手札から魔法カード『置換融合』を発動し、フィールドのオッドアイズ・ファントム・ドラゴンとトランポリンクスを融合!
 夢幻の竜の眼に宿れ、暗闇をも生き抜く野性の力!融合召喚!現れ出でよ、野獣の眼輝けし『獰猛竜ビーストアイズ・ドラゴン』!!」

『ガァァァァァァァァ!!』
獰猛竜ビーストアイズ・ドラゴン:ATK3000→3400



そんなわけでここではビーストアイズの出番だ。
ブランとの試験を兼ねたデュエルではちょっとダメージを与えたくらいですぐにデッキバウンスされてしまったからな。
ここが汚名返上の機会といくか。
このまま攻撃したらワイトキングに勝てないけど、隣に置いたあいつがいる。


「ここで、ビーストアイズを対象にカレイド・スコーピオンのモンスター効果を発動!
 このターン、相手の特殊召喚されたモンスター全てに1回ずつ攻撃できる!」

「ここで全体攻撃を付与しただと?」

「通常召喚された1体には攻撃できないけどな。」


そう、ブランとのデュエルでは使わせてくれなかったこいつを使う。
これでワイトキングのうち2体とワイトジェネラルに攻撃可能となった。


「だが、それでも俺のワイトキングやワイトジェネラルの方が攻撃力が上だぞ?」

「このままならな!墓地の『置換融合』の効果を発動し、融合モンスターのカバーリーヒッポをエクストラデッキに戻しつつ1ドローしておく。
 バトル!ビーストアイズでまずはワイトジェネラルに攻撃!」

「攻撃しただと?いったい何を…!」

「この瞬間、ビーストアイズの効果を適用する!
 ビーストアイズがモンスターに攻撃を行う場合、ダメージステップの間だけ攻撃対象となったモンスターの攻撃は無効になる!」

「何!?攻撃対象となったモンスターの効果を無効にするという事は…!」

「そう、永続効果で上がっていたワイトジェネラルの攻撃力は元の数値に戻る!


まずは耐性を付与するワイトジェネラルをどうにかしない事にはワイトキングを倒すのは困難だ。
そして、ワイトジェネラルには効果破壊耐性はあるが効果無効には耐性はない。
まずはそこを突かせてもらう!


「ワイトジェネラルを倒してワイトキングの耐性を剥がす事が狙いのようだがそうはいかん!
 この瞬間、罠カード『怨念の瘴気』を発動!
 これにより、このターン俺のアンデット族モンスターは戦闘・効果では破壊されず、それ以外の種族のモンスターの攻撃力を500ダウンする!
 返り討ちにはできないまでも、破壊は阻止させてもらうぞ!」


前のターンでは発動したところでタコ殴りは避けられなかったわけで発動しなかった罠か。
これは止められない…置換融合でアレをドローしていなければの話だけどね。
オッドアイズ・ユニコーンがいる事で先ほどドローしたこいつが発動できる!


「いいや、それはどうかな?オッドアイズ・ユニコーンに注目あれ!」

「ペンデュラムゾーンのカードだと!?何をする気だ?」

「自分フィールドに『オッドアイズ』カードが存在する事により、手札から速攻魔法『オッドアイ・ビーム』を発動!
 相手フィールドの表側表示の罠カード1枚を対象とし、その効果をターンの終了時まで無効にする!
 例え、永続罠じゃなくて通常罠であってもだ!」


この効果で罠の効果をシャットアウトし、ビーストアイズの攻撃で破壊する!
流石にスペルスピードの関係でカウンター罠は無理だけどな。
そして、オッドアイズ・ユニコーンの目に光が集まっていく。
本来ならオッドアイズ・ファントム・ドラゴンあたりの役目だが、今はこいつしかいないしな。
そんなわけで行くぞ!

「喰らえ!『目からビーム』!!」


――ビィィィィィィ!!


「なんだそれは!?そんなのでこの罠が無効にされたというのか…!
 つまり、この戦闘でワイトジェネラルは…!」

「そういう事…後は型破りな野性の力で死霊の瘴気を打ち破れ!『野性のストライク・ビースト』!!」
死霊将軍ワイトジェネラル:ATK3600→2400(効果無効)


――ドッゴォォォォォォォ!!



ぐはっ…!!
ヒロト:LP2600→1600


ワイトジェネラルを撃破!
これでワイトキングの完全効果耐性も消滅!
さて、ここから彼に話を聞くためにも…!


「これで決める!特殊召喚されたモンスターへの全体攻撃を付与したビーストアイズでワイトキングを攻撃!『連撃のストライク・ビースト』!!」
ワイトキング:ATK6000→0(効果無効)


――ドッゴォォォォォォォォォォォ!!


「どわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヒロト:LP1600→0


融合次元へ赴いて最初の一戦は勝利!だけど、結構追い詰められたな。
流石に侵略から生き延びた相手だけあって、もし負けてもおかしくなかった。
その分…内心ハラハラしたけど、中々いいデュエルだった。


「くっ…そう、こんなところでやられちまうとはな。
 ごめんよ、ミホちゃん…これじゃ、顔向けできねぇ。」

「あ、このパターンは…俺はここで争いに来たわけじゃないとだけは言っておくよ。」


ああ、そりゃ怒りに震えても仕方ないか。
そのミホちゃんって彼が想っていた子がカードに封印されたんだろうからな。
そりゃ、心を閉ざして自暴自棄になっても仕方ないか。
で、周りが敵にしか見えなくなったって事かな。


「出合い頭にデュエルを仕掛けてすまなかった。
 ミホちゃんが目の前でカードにされて…どうしようもなくなっちまって…!」

「済んでしまった事は仕方ないよ。
 で、その絶望感で周りが敵にしか見えなくなったってところかな…気の毒に。
 だけど、だからって憎しみで敵をカードに封印したりしていいわけじゃない。」

「だが、その件に関しては納得できない…いや、したくないというべきか。
 突然襲撃し、俺たちの大切なものを傷つけ滅茶苦茶にした奴らを許すなんてできやしないんだよ。
 その怒りが俺をデュエルに駆り立て、かつての俺なら絶対に使わなかったこのデッキを取らせたのだからな!」


やっぱり、そう簡単に憎しみを無くすなんてことはできやしないな。
怨み憎しみといった負の感情が『ワイトデッキ』を使っていた理由らしいからね。


「なんでここが襲われなきゃいけなかった…どうして俺の周りの人たちは犠牲にならなきゃいけなかったんだ…!
 そう思ってしまうとどうしても…!」

「あ、俺が知りたいのはここがどうして襲われたかなんだ。
 『ダーク・フュージョン』『超融合』…こんな名前のカードに心当たりはないか?」

「は?何を言って…いや、ダーク・フュージョン?聞いた事ある気がするな。」

「本当か!どうも、襲われた原因はそれがかかわってくる可能性が高いらしい。
 何か襲撃前後で違和感を感じなかったか?」

「いや、生憎襲撃前はデュエルとは無縁だったからな。
 だが、言われてみればところどころで異様な雰囲気があったような気がするな…殺伐としたり気味の悪い雰囲気のような。
 その原因がそのカードだとしたら、そのカードとそいつを配布した奴を見逃すわけにはいかない…か。」

「ありがとう、情報感謝するよ。」


だとすると、やはりエクシーズの連中はそれが他次元に蔓延する事を阻止しようとして強硬手段に出たんだろうか?
いずれにしても、やはり闇のカード絡み…か。
詳しい事はよくはわからないけど、襲撃前後でやばい事が起きようとしていたのは間違いないな。


「全面的には味方というわけにはいかないけど、俺の目的はエンタメデュエルの布教とこの次元戦争を止めに来た事だ。
 こんな事になった原因を潰して、みんなが笑顔で楽しくエンタメる事ができるようにね。」

「大きく出たな…笑顔にっていうのは俺が憎むエクシーズの奴らも含めてなんだろ?」

「できればこんな事をした罪も償わせた上でだけどね。」

「すまないが、俺は今のところとてもじゃないが奴らを許せそうにない。
 だが、もし奪われた人たちが元に戻るというのなら…考えてやらなくもない。」


布教しようにも彼のこの状態じゃ暫く時間が必要だろうね。
エンタメデュエルを布教するのはそれからだ。


「突然言われても無理だよな…ま、気持ちの整理を付ける時間を持つといいと思う。
 いつかカードにされた人たちも元に戻せるといいな…」

「ならいいんだがな。」


俺たちも知り合ったばかりの人たちが被害に遭ったり、有能だけど巨乳好きの変態兄弟が行方知らずになったりしていたりと被害が出ている。


「とりあえず、俺は待たせてる女の子がいるからあっちへ戻るけど…お前はどうする?」

「連れがいるのか…爆発しろ。」

「誤解させるような言い方をして悪かったけど、そういう関係じゃないからな。」


間違ってもあいつとはそういう関係じゃねぇし、あいつクソレズだからやだよ。
俺、間違った事思ってないよな?


「悪いが、俺は一人にさせてくれ。
 裏で悪さをしている連中の存在がいる可能性といい、色々頭がこんがらがってな。」

「そうか…だけど、今度はむやみに何処の馬の骨と知らない人を手にかけようとするのは勘弁してくれ。
 それは俺や連れが迷惑するからな。」

「わかった、できるだけ善処しよう…達者でな。」

「ああ、こうはいったがやられるなよ。
 いつか、心からデュエルを楽しめる日は来るといいな。」

「まったくだ、さっさと行け。」


そんなわけでお互いに健闘を祈りつつ、ヒロトとはここで別れる事となった。
彼も考える時間は必要だろうしな。
それより、ブランの奴…俺が離れている間にまた何かやらかしてないだろうか?
いや、彼女を信用しないでどうする。
さっきはああなる事を承知の上だからやらかして仕方ないけど、そうじゃないしな。

さてと…いずれにしても、さっきの所へ戻るとしようか。










 続く 






登場カード補足






死霊将軍ワイトジェネラル
融合・効果モンスター
星8/闇属性/アンデット族/攻2400/守 800
アンデット族融合モンスター+レベル1のアンデット族モンスター×2
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードは相手の効果では破壊されず、自分フィールドのアンデット族・レベル1のモンスターは相手の効果を受けない。
(2):このカードの攻撃力は自分の墓地の「ワイト」の数×200アップする。
(3):1ターンに1度、除外されている自分のアンデット族モンスター2体をデッキに戻して発動できる。
デッキからアンデット族・レベル1のモンスター1体を手札に加える。



ワイトバトラー
効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 0/守 0
「ワイトバトラー」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
(2):自分のアンデット族・レベル1のモンスターが戦闘を行ったターンのメインフェイズ2に墓地のこのカードを除外し、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを破壊し、相手に500ダメージを与える。



オッドアイ・ビーム
速攻魔法
(1):自分フィールドに「オッドアイズ」カードが存在する場合、相手フィールドの表側表示の罠カード1枚を対象として発動できる。
このターン、そのカードの効果を無効にする。



エスケープトリック
通常罠
(1):自分フィールドの『EM』カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを手札に戻し、手札からレベル4以下の『EM』モンスター1体を特殊召喚する。
(2):自分フィールドの『EM』モンスターが攻撃対象に選択された時、
墓地のこのカードを除外し、攻撃対象にされたその『EM』モンスター1体を対象として発動できる。
このターン、そのモンスターの戦闘による自分への戦闘ダメージは半分になり、戦闘で破壊されたそのモンスターは墓地へは行かず持ち主の手札に戻る。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。



怨念の瘴気
罠カード
(1):このターン、フィールドのアンデット族モンスターは戦闘・効果では破壊されず、アンデット族以外のモンスターの攻撃力は500ダウンする。