Side:ロム


「うぅ…これは参りましたね。」


ブランお姉ちゃんがようやく戻ってきましたが、ひどく体調を崩してしまっていました。
どうやら、今目の前に置かれている強い瘴気を放っている闇のカード『超融合』の影響を強く受けたようです。
女神の頑丈な身体さえも冒してしまう程に…むしろ女神だからこそ冒されやすかったのかもしれませんが。
恐らく我々でさえ毒となりますが、融合次元の人たちへの影響はどうなのでしょう?
このカードは融合次元の女神から没収したそうですが、今は何も影響がない…そうは思えませんね。
これだけの闇のカードです…何かの危険な症状が出る可能性は十分ありそうです。
やはり迅速に処分しなければなりませんね。
しかし、闇のカード…本当にそう上手く処分できるかどうか…!


「案内は済ませてきたぞ、ロム。
 ブランがまさかLDSの連中を引き抜いてくるとは…!
 って、なんだこの邪悪な気配は!?」

「これが例の闇のカード…ブランお姉ちゃんの体調不良はこれが原因です。
 間違ってもこれを触ろうとか使おうとか考えてはいけませんよ、遊矢。」

「ああ、とてもじゃないが俺の手に負えるようなカードじゃないって事はわかる。
 俺に融合召喚を教えてくれたネプテューヌが持っていたんだって?」

「ええ、それをブランお姉ちゃんが体を張って回収したようです。」


融合次元への遠征が控えている中でよくもこのような無茶をしたものです、ブランお姉ちゃんは。
ただ、そのおかげで被害が抑えられているはずなので強くは言えませんがね。
あ、念のため釘を刺しておきましょう。


「大事な事なのでもう1度言いますが…間違っても使おうなどと思わないでください。」

「それは断じてない…さっきも言ったけど俺の手におえる代物じゃないし。
 俺の目指しているデュエルはそんな薬物のような力に頼ったものじゃないからな。

「ならいいのですが…」


融合召喚を習得しているから言っただけです。
間違っても、闇の力なる禁忌の力に頼ろうなどと考えてはいけませんよまったく。
もっとも、ボクもアブソリュート・クリオネを出した手前、あまり強くは言えませんが。


「それでは、処分してきますのでブランお姉ちゃんや元LDSの者達の様子を見てください。」

「ああ、ロムも本調子じゃないから無理はするなよ。」

「…善処します。」


それでは、ブランお姉ちゃんが起きない内にやれる事はやっておきましょうか。
ただし、これを消滅させるには相当な代償がボクに降りかかってきますがね。
それでも、似たような事には慣れていますし覚悟はできております。
このカードを野放しにするわけにはいきませんから。
後は任せましたよ…!










超次元ゲイム ARC-V 第70話
『いざ、融合次元へ』










Side:ブラン


「う…うぅ…」

「おぉ…気が付いたか、ブラン。」

「権現坂…おはよう。
 帰って来たなりすぐ体調不良で倒れて無駄に心配をかけてごめん。」


…気が付いたら日付が変わっていた。
連続での時差ボケ…ではなく、明らかに闇のカードが原因で体調を崩していた。
これから次元戦争に首を突っ込むというのにこの体たらくは拙い気がする。
もっとも、無茶したからこそ最悪の事態を免れた一面も否定はできないが。
ネプテューヌの暴走を目撃しなければ、今頃とんでもない事になっていたかもしれない。


「権現坂、念のため間違っても『ダーク・フュージョン』『超融合』だのの闇のカードには手を出すなよ?」

「安心しろ、自分からそんな怪しげなカードに手を出すほど落ちぶれておらんわ!
 しかし、お前はその闇のカードの猛毒に冒されたわけだな?無茶しおって。」

「仕方ないだろ、いちばん持ってはならない奴が持ってたんだからさ。
 どうしてかそういうカードに縁がないと思っていたネプテューヌがな…」

「なんと…俺に融合召喚を教えてくれたネプテューヌ殿が!?」

「ああ…今まで表に出していなかっただけで底知れない心の闇を抱えていたみたい。
 そこを誰かに付けこまれたんだろう…まったく腹立つ話だよ。」


そして、彼女がそれを持っていたと今知った権現坂はショックを受けているようだった。
尊敬できる師がそんな得体のしれない危険なカードに手を染めたとなればね。

権現坂に融合召喚を教えていたのはカオス・リベリオンを失っていた時期だった。
カオス・リベリオンのカードはどうも憎しみや怒りと言った感情を増幅させるみたいだ。
そうして生まれた心の隙を付けこまれたんだろう。
汚い、流石魔女汚い…確証はないがな。


「お前が持っているだけで体調を崩すほどのカード。
 それを配布していた奴らが潜んでいるわけか…けしからん話だ。」

「まったくだ…恐らくそいつが融合次元が狙われる切欠を作ったんだと思う。
 紫吹は付けこまれないだろうが、今後も融合次元での生き残りが狙われる可能性が高いはず。
 できるだけ早く融合次元へ向かえるように、体調を直すから待ってて。」

「おう、俺はお前が連れてきた元LDSの連中の様子を見てくる…お前は体力の回復に専念するんだ。」

「ええ、頼んだわ。」


兎に角、今は体調を整えるのが先決だ。
色々と先走りたくはなるけど、まずは逸る気持ちを抑えないとね。



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そして、安静にして1日が経過した。
体調は万全とまではいかないもののだいぶよくなってきた。
後は身体を慣らしておけば、大丈夫。


「ほっ、ほっ…」


――タッタッタ…!


走り込みをすれば外の厳しい寒さも大したことはない。
それどころか心地よささえ感じる始末だ。


「ぜぇぜぇ…」

「まだ練習の初めだというのにすっげぇ辛ぇ…」

「LDSの教育が子供だましにさえ思えますわ…」


そして姿がちらほら見えたのでわたしが連れて行った連中の様子をみてみると…やはり各々苦労しているようだ。
流石にわたしが修行した時ほどの激しさはないにしろ、それでも常人には非常に厳しいみたいだ。
とりあえず発破をかけていきますか。


「げっ、ブラン様…!」

「わたしの姿を見るなり『げっ』てなんだよおい。
 身体の本調子を取り戻しに走り込みがてら様子を見に来たらこの程度でグロッキーとはね。
 所詮LDSのブランドも大した事が無いようね…だから、紫吹や他次元の連中に足元みられるのよ。

「っ…手厳しいですわね。」


事が事だし手厳しい事言われても仕方ないと思うんだ。
実際、今のままだと異世界勢力には歯が立たない事はユースチームが証明済み。
いずれにしても彼らにはこれからも困難が付きまとうだろうからね。
と目の前にいる栗音に言っておいた。


「ですけど、この程度で挫けている場合ではありませんわ。
 ユースチームでさえ手も足も出なかったというのに、今のままでは話になりませんから。
 死力をもって努力しなければ、生き残る事さえ叶わないのはあなたとのデュエルで思い知らされましたから。」

「それはどうも…あなたたちもわたしたちに追いつけるように精一杯頑張ってちょうだい?」

「もちろんですわ…それとあなたにこれを渡しておきますわ。」


――パッ…ぱすっ。


「…これは、どういう風の吹き回しかしら?」


栗音が投げ渡してきたのは1枚のエクシーズモンスターだった。
なんというか北斗といいデニスといい、エクシーズモンスターを他人に投げ渡すのが流行っているのかしら?
いずれにしても戦術の幅が広がるから有難いけど。
これだけエクシーズを渡されると融合次元の人たちに色眼鏡で見られないだろうかとも思ったりする。


「あなたへのこれまでの非礼のお詫びと餞別を兼ねた逸品ですわ。
 是非ともこれを今後の戦いに役だててくださいな。」

「むしろこっちが非礼をし過ぎた感が…」

「何か言ったかしら?」

「いいえ…ありがとう、有難く頂戴するわ。」


そしてそれは高ランクで見た目はアレだけど、中々便利な性能だと思うエクシーズだった。
いくら栗音といえど、これを手に入れるのは相当苦労したと思う。
それを渡してくれるあなたの想い、決して無駄にはしないわ。


「わたしたち3人はこれから他次元での愚かな争いを止めにいくわ。
 あなたたちにこの世界を守る事を任せなきゃならないの。
 難しい事を要求するけど、あなたたちならそれを乗り越えられる…そう信じているわ。」

おーっほっほ!すぐにでもあなたに追いついて見せますわ。
 貧相で幼すぎる体つきのあなたにいつまでも先を越されていては虫唾が走りますもの。」


――ボインッ…!


「うぅ…やれるものならやってみなさい。」


いやらしい豊満な胸を見せつけている嫌味な所は相変わらずであった。
強くは言えないけどやっぱりこの痴女の事は嫌いだ、うん。



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走り込みを終え、例の闇のカード『超融合』がどうなったのかが気になった。
そしてロムの姿を見ていないのも気がかりだ。

今通りかかった、遊矢辺りにその辺どうなったのか聞いておきたい。


「ブラン、体調はもう大丈夫なのか?」

「ああ、身体も慣らしたしもう大丈夫だ
 それより、ちょうどよかった…聞きたい事があるんだ。」

「…なんだ?」


ここで聞きたい事があると言うと、彼の声の調子がぐっと下がった。
聞きたい事は察しているのだろうとは思うが、嫌な予感がする。


「あの闇のカード『超融合』をロムが処分すると言ってからどうなった?
 ずっと、ロムの姿が見えないのが気がかりなんだ…知っていたら教えてほしい。」

「それが…超融合の処分には成功して消滅させられたようだが……」

その際に禁忌の力を使った反動でロム殿が眠りにつかれた…!

「なんだって……ちくしょう、何てことだ…!」


どうやら、超融合の処分には成功したらしい。
だけど、その際に禁忌の力という物々しい力を使わなければならなかったという。
想像以上に闇のカードを甘く見過ぎていた…自身が眠りにつくほどの力を使わなきゃ処分できない代物だったなんて。
ただでさえロムは本調子じゃなかったというのに…何をこんな厄介ごとを押し付けていたんだわたしは。
自分の見通しの甘さ、不甲斐なさに腹を立てたくなった。


「あいつ、本調子じゃなかったというのに…自分が体調不良な事を言い訳に何もしてやれなかった。
 それどころか厄介ごとを押し付けてしまった…!それがこのザマだ。」

「多分遅くても半月までには目が覚めるだろうが、俺ももう少し彼女に気を払うべきだった…くそ!

「ブランも遊矢殿もこの件を悔やむ気持ちはわかる。
 だが、ここで立ち止まるなどけしからん…!
 覚悟を決めて闇のカードを処分したロム殿の想いを無駄にするな。


だけど、闇のカードを消滅させるくらいでないと狙われてしまったら一巻の終わりだ。
それなら最大でも半月間の眠りで済む方法を取る事になっても不思議じゃない。
もし、この教会の誰かがつかってしまったらそれこそエクシーズの者から狙われる原因になりかねないからな。
彼女はやれる事をやったと同時に後に残された者へ試練を与えたのかもしれない。
一時的とはいえ自分がいなくなってもここを守り切れるかどうか…な。
わたしたち以外にも他の信者や元LDS生徒の今後の責任は重くなってくるわけだ。

問題はロムがいなくなった事で明らかにここの守りが薄くなる事だ。


「だけど、どうする?彼女が眠りについたとなるとここの守りは確実に薄くなるぞ?

「俺も次元を渡るつもりだったが仕方ない…ここは俺に任せてもらいたい。」

「権現坂が…?いや、わたしも遊矢も向こうでやらなかきゃならない事は多いか。
 それに、お前ならあいつらを任せられる…他の教会の信者とともにここを任せたわよ。」

「俺からもよろしく頼む…!」

おお、任せておけ!ロム殿が目を覚まし次第、俺も駆けつけるぞ。」

「お願いするわ。」


そこで権現坂がここへ残るという。
2人だけというのは心許ないとはいえ、あまり大挙して行ってもなぁとも思うから仕方ない。
あまり大勢に襲われないように姑息に立ち回った方がよさそうだな。

ノワール曰く、どちらの勢力も中々好意的には受け入れてくれないそうだ。
使命を果たすためなら、立ちはだかる者をカードを封印する事も厭わないエクシーズの連中。
一方、故郷を壊され家族や友をカードに封印されたがために強い心の闇を抱えた融合次元の者達。
どちらも厄介だがむしろ、後者の方が面倒な事になるかもしれない。
そしてその裏で暗躍しているであろう魔女の連中にも注意を払わなければならない。
わたしたちに立ちはだかる壁はあまりにも高いと言える。


「そうなると、暫くはわたしたち2人で立ちまわらなきゃならないわけだな。」

「ま、そうなるな…だけど、壁は高い方が面白いと思うけどな。
 そっちの方がエンタメの布教のし甲斐があるものだしさ。

「大概お前もブレないし、呑気だなぁ…ま、こうなったら意地でも前に進むしかないけど。」


正直これ以上時間を食うのは惜しいし、行く以外の選択肢は考えていないんだけどね。
今のうちに非常用の水分や携帯食料などが入ったバッグを用意しておこう。

で、その途中で眠りについているロムを見たのだけど…まるで息を引き取ったかのように微動だにしないんだけど。
本当に目を覚ますのかと遊矢に聞いてみたら、割とよくある事の様だ。


「あ、そうそう一応このディスクだけでアクションデュエルが可能なパッチとシンクロ次元へ行くためのカードをもらったけどどうする?」

「多分、使う機会はないだろうけど…一応アップデートしておくよ。」

「OK。」


そうそう、ここで赤馬社長から渡されたアップデートプログラムとシンクロ次元へ行くためのカードを渡しておく。
それを使うのは大分後の方になるだろうけどね。



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で、荷物を準備した後でわたしと遊矢の2人で完成したという次元移動装置の前にやってきた。
なんでネプテューヌが使っていた次元移動装置を模したのがこれになるのかと突っ込みたいけど。


「これが次元移動装置か…こんな大規模なものをよく作れたものね。」


しかも、桜小路財閥の力を借りる前にである。


「ヒッヒッヒ…予算ギリギリじゃがな。
 安心せい、試験運用は既に済んでおる。
 その辺で捕えた犯罪者を送っておいたんじゃが、きちんと融合次元とやらに行けたそうじゃ。」

「うん、その犯罪者のせいで面倒事にならなきゃいいけどね。」

「ま、どうせその辺に喧嘩でも売って返り討ちにされてカードに封印ってのがオチだろうがな。」


変な怪しい犯罪者を実験台に使うなよ…向こうに迷惑かかるだろと物申したい。
マッドサイエンティストらしいといえばらしいが。
後、遊矢も結構酷い事言ってる気がする。


「じゃがこれだけは言っておくぞい。
 帰り道は自分で探しな、わしらの今の技術力じゃどうにもならんかった…済まぬ。」

「「一方通行かよ!!それはもっと早く言え!!」」


あかん、一方通行って欠陥品じゃないかこれ…やっぱり予算も技術力も足りなかった!
スタンダードに戻る方法は後で考えろって事か…これはまた厄介な事になったか?
こうなると、最悪の場合は赤馬零児から渡されたシンクロ次元の座標が示されたカードを使って逃げるしかないわけだ。
それ以前にこっちの次元へ戻るためのカードを渡してくれなかった事を問い詰めるべきだった…わたしの馬鹿。

待てよ…もし往復で来た場合、これを何度も使って座標を特定されたらここが侵略を受ける可能性が高い。
そう考えると、むしろ一方通行の方がいいのかもしれない。
とはいっても、スタンダードへ行く手段は向こうは確保していないわけがないのだけど。
実際、バトルロイヤルで大挙して現れたものね。

それでも…一度行ったら、そう簡単には戻れない。
ここからはそれくらいの覚悟で臨まないといけない。


「それとも、別の手段を探すかの?」

「いえ、これで行かせてください…もう2度とここへ戻れないかもしれない。
 それくらいの覚悟で行かなくちゃ、次元戦争へ首を突っ込む資格はないと思ったわ。」

「ブラン…俺も巻き込んでいるだろ。
 ま、旅は道連れとよく言うからね。
 それに他次元にいるはずの父さんに会いたい気持ちもあるし別に構わないよ。」

「遊矢…そうと決まれば早速行きましょ?」

「おう…!」

「やれやれ、これじゃ止めても聞かぬか。」


そんなわけでわたしたちの決意は揺るがず、前へ進むだけ。


「じゃが…必ず、生きて帰ってくるんじゃぞ!

「ええ。」

「善処するよ。」


そして生きて帰ってくる事を約束する。
スタンダードの女神がそう簡単にくたばるわけにはいかないもの。
なにせ、帰りを待つ者が多いわけだから猶更よ。


「あ、そうそう…今のうちに渡しておきたいものがある。」

「ん…?」


――パッ…ぱすっ。


そうして二度と戻れなくなるかもしれないリスクを覚悟して融合次元へ向かう覚悟を決めた矢先に遊矢から沢山のカードが渡された。


「これは…『増殖するG』!?しかもいっぱい。
 欲しかったタイプの効果のカードではあるけど、よりにもよってこのタイミングでGってどうなの?」

「まぁ、今後の戦いには必要になってくるというのもそうだけど…言葉代わりというのもあるかな。
 Gのようにしぶとく立ち回り、そして好機を逃さず掴めって感じで。
 要するにどんな苦境に立たされても諦めずにいこうって事かな?」

「そういう見方もあるんだね…有難く使わせてもらうよ。」


見た目から忌み嫌われがちなGではあるけど、そういう捉え方もできる事もあるわけだね。
手札誘発も入れてあるから、相手ターンで相手が動く度にドローできるこのカードは非常に有難い。


「でも、これ…中々入手の難しいレアカードよね?」

「あはは…それを突っ込むのは野暮ってものだろ?」

「むぅ…ま、いいか。」


入手経路はぼかされたか。
まぁ、それを今追求するのは流石にね。


「それじゃ…そろそろ行ってきます。」

「ああ、融合次元へ向けて出発と行こう!
 向こうでエンタメデュエルとか布教してくるよ。」

「何度も言うが、無事に帰ってくるんじゃぞ。」


――カタカタカタカタ…!


流石に時間が惜しいのでそろそろゲートの上に立つ。
さて、ここからは今までのような生ぬるいデュエルは通用しない。
だけど、必ず生きて帰ってくる。
そして、みんなを笑顔にできたらいいな。


――ピシュンッ!


こうしてわたしと遊矢は先だってこのスタンダード次元から姿を消した。








――――――








No Side


――ビュゥゥ…


場所はうってかわって、荒廃した街の風景。
かつては繁栄の極みを見せていたと思われるが、今は見る影もない。
何者かに破壊され蹂躙されつくしたような無残な光景が広がっていた。

ここは融合次元に存在する『タウン』と呼ばれる場所。
ネプテューヌたちが暮らしていた『プラネテューヌ』とは少し離れている街である。
ここもまた、エクシーズ次元の者達の手によって甚大な被害を受けているようだ。


「はぁ、はぁ…」


――タッタッタ…!


そして、何者かから逃げ惑う少女がこの滅亡の危機に瀕している街を駆けていた。
その幼い顔立ちをした少女はくたびれた俗に言ううさみみフードを被っており、汚れた学生服を身に着けているのが特徴的であった。

一方、まるで某逃〇中のハンターのようなスーツ姿の男…アヴニールの社員の一人が彼女を追いかけまわしていた。
少女が融合次元の、男が侵攻側…エクシーズ次元からの人物だろう。


むみっ!?行き止まり…!

「随分と手こずらされたが、もう逃げ場はないぞ…縫雲ミシェルという危険なガキめ!
 我々も大勢が犠牲になったが、彼らに報いるためにも貴様にはここでカードになっていただこう。」


そしてミシェルと呼ばれた少女は路地裏の行き止まりにまで追い立てられてしまったようだ。
ミシェルとはいっても間違ってもシンクロ次元にいるジャン・ミシェル・ロジェなどではないし、そもそも性別が違う。
アヴニール製のディスク構えて彼女に襲い掛からんとばかりの男に対し…!


「むみぃ…ミミはカードになんかならないもん!
 仕方ない…本当はこんなの嫌だけどそっちがやるつもりなら、ミミだって容赦しないんだから!
 カードにされたみんなの想いを無駄にしないためにも、こんな所で倒れてられないもん!」

「ふん…まぁいい、どの道貴様を倒せば済む事だ。」


彼女も嫌々そうにしながらディスクからソリッドビジョンを出して臨戦態勢に入る。
俗に言う融合の残党とエクシーズ次元からの侵略者とのデュエルが始まるわけだ。


「「デュエル!!」」


ミシェル:LP4000
社員:LP4000



「先攻はいただくぞ!私は『ゼンマイガゼル』を召喚!」
ゼンマイガゼル:ATK1500


まずは社員から動くが、どこか可愛げなモンスターを展開していく。
それを彼女はうんざりそうに見ている事からよく使われているモンスターの様だ。


「また『ゼンマイ』…支給品らしいけどそんなの使ってて楽しいのかな?」

「流石によくご存じの様だが、手札から永続魔法『ゼンマイマニュファクチャ』を発動し、ゼンマイガゼルのモンスター効果を発動!
 このカードが表側で存在する限り1度だけ、手札からレベル4以下の『ゼンマイ』モンスター1体を守備表示で特殊召喚できる!
 この効果により来い『ゼンマイドッグ』!」
ゼンマイドッグ:DEF900


彼女の独り言に、全く意に介していない様子である。
これで早くもレベル3のモンスターを2体揃えていき…!


「ここで1ターンに1度だけ『ゼンマイ』の効果が発動した事で永続魔法『ゼンマイマニュファクチャ』の効果を発動。
 デッキから『ゼンマイ』のレベル4以下のモンスター…『ゼンマイネズミ』を手札に加える。
 そして、私はレベル3の『ゼンマイガゼル』と『ゼンマイドッグ』でオーバーレイ!
 発条仕掛けの破壊兵器よ、戦場に身を潜め敵兵を誘え!エクシーズ召喚!起動せよ、ランク3『発条機雷ゼンマイン』!!」

『ヌゥン…!』
発条機雷ゼンマイン:DEF2100 ORU2



ここで彼が呼び出したのは頭部のついた駒のようなボディに両腕のハサミ付アームがついた兵器のようなエクシーズである。
先ほどの2体のゼンマイとは違い、可愛げのない無機質な頭部をしているのが特徴だ。


「ゼンマイン…そのモンスターの耐性と連動した除去に今まで何度も苦しめられてたけど…!」

「どうやら効果はよくご存じの様だな…まぁいい。
 私はカードを2枚伏せてターンエンド…精々足掻いてみるがいい。」


このゼンマインもミシェルにとっては既に見慣れたモンスターではあるようだ。
かつては苦しめられたようではあるが…?


「でも、もう見飽きたもん!ミミのターン、ドロー!
 ミミは手札から『ファーニマル・エッグ』を召喚するよ!」
ファーニマル・エッグ:ATK0


「威勢の割には攻撃力0…所詮融合次元のモンスターなど!」

「舐めてかかっていると痛い目見るよ!
 自身をリリースしてファーニマル・エッグのモンスター効果を発動!
 この効果でデッキから同名以外の『ファーニマル』1体と『融合』1枚を手札に加えるよ!
 ミミが手札に加える『ファーニマル』は『ファーニマル・ラビット』…うさぎさんだよ!」

「いつものように『融合』を手札に加えてくるか…まぁいい。」


彼女はやや不機嫌そうな表情ながら、着々と融合召喚の準備をこなしていく。


「そろそろ行っちゃうよー!ミミは魔法カード『融合』を発動!」

「だが!永続罠『発条の駆動音』を発動!
 この効果で貴様は魔法カードによる特殊召喚は一切できん!
 ふはははは、残念だったな!融合召喚さえ封じれば融合の残党など…!」

「むみっ!?融合召喚を封じてくるなんて…そんな!
 なんちゃって、こんなの読めていたよ!

「何…?」

「ライフを1000払って、速攻魔法『コズミック・サイクロン』を発動するよ!
 この効果で今発動した発条の駆動音を除外しちゃうよ!むみぃぃぃ!!
ミシェル:LP4000→3000


スーツの社員は永続罠で融合召喚を妨害しようとするも速攻魔法に割り込まれた。
ミシェルは相手が融合召喚をしてくると踏んだ辺り、見かけによらず相手の動きを読んでいる。


「しかも破壊ではなく除外だと、おのれ…!」

「それを破壊しちゃったら余計なモンスターが来ちゃうんだもん。
 で、その永続罠が消えちゃった今…融合の処理は行われるね。
 ミミは手札の『ファーニマル・ラビット』と『バニーラ』の2匹のうさぎさんを融合しちゃうよ!
 むぅぅぅみぃぃぃぃぃぃ!!融合召喚!現れちゃえ、大きなうさぎさん!『エルファーニマル・グラン・ラビット』!!」

『……♪』
エルファーニマル・グラン・ラビット:ATK2100



そして、融合召喚して現れたのは巨大なうさぎのぬいぐるみのような迫力のあるモンスターであった。
しかしながら『むみ』の意味がよくわからないがそこはあまり気にしてはいけないのだろう。


「ここで融合召喚の素材になった『ファーニマル・ラビット』の効果で墓地の『ファーニマル・エッグ』を手札に戻すよ。」

「くっ…だが、図体が大きいならいいってものじゃねぇぞ……!
 しかも、そいつの攻撃力はゼンマインの守備力と同じ…それでどうするというのだ?」

「そうやってすぐ攻撃力で判断するのはいけないんだよ!
 グラン・ラビットは相手フィールドにモンスターがいても直接攻撃できる!」

「んなっ、攻撃力2100のダイレクトアタッカーだと!?」

「バトルだよ!グラン・ラビットでダイレクトアタック!『ムーンサルト・ドロップ』!!」


――ドゴッ!!


「ぐおぉぉっ!!」
社員:LP4000→1900


「融合の残党風情に私が先手を取られるだと…!?」

「それだけじゃないよ!この瞬間、グラン・ラビットのもう1つ効果を発動!
 このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を選んで持ち主のデッキに戻すよ!
 ゼンマインなんて、エクストラに帰っちゃえ!『ムーンサルト・リターン』!!」

「うおっ…!」


しかも、グラン・ラビットにはデッキバウンス効果まで備えていた。
これで厄介な破壊耐性を持つゼンマインを安全に処理できたわけだが…!


「ぐ…ゼンマインをあっさり除去してくるとは…!
 だが、ただでは転ばん!この瞬間、罠カード『リコイルカタパルト』を発動!
 自分フィールドのエクシーズモンスターが効果によってフィールドを離れた場合、デッキからレベル4以下の『ゼンマイ』1体を特殊召喚できる!
 この効果で私がデッキから呼び出すのはレベル4の『ゼンマイマジシャン』!!」
ゼンマイマジシャン:DEF1800


しかし、相手もただでは転ばない。
要塞となるゼンマインが除去される事を彼なりに想定していたようだ。


「むみぃ…結局、後続を呼ばれちゃった。
 でも、まだまだこれから!ミミはカードを2枚伏せてターン終了だよ!」

「ふん…粋がっていられるのも今の内だ、小娘!
 私のターン、ドロー!私は手札から『ゼンマイネズミ』を召喚!」
ゼンマイネズミ:ATK600


「むみ、やっぱり可愛いようで何か違うの…」

「おっと、見た目を貶された所で私には関係ないのだよ。
 私はゼンマイネズミのモンスター効果を発動!
 このカードを守備表示にし、墓地の『ゼンマイ』1体を守備表示で特殊召喚する!」

「素材モンスターを増やそうったってそうはいかないもん!
 ゼンマイネズミを対象に速攻魔法『禁じられた聖杯』を発動!
 このターンそのモンスターの攻撃力を400アップする代わりに、その効果を無効にするよ!」


ゼンマイネズミでモンスターの蘇生を狙っている相手に対し、ミシェルはモンスター効果を無効にする事で展開を阻止しようとしたが…!


「ふはははは!所詮は融合の残党…頭無味ってものだな!
 ゼンマイマジシャンがいる事を忘れてもらっては困るな。」

「へっ…そうだった!?」

「例え、ゼンマイネズミの効果が無効にされようと効果を発動した事に変わりはないのでな。
 ここで『ゼンマイ』モンスターの効果が発動した事で『ゼンマイマジシャン』と永続魔法『ゼンマイマニュファクチャ』の効果を発動!
 まずはゼンマイマジシャンの効果によりデッキからレベル4以下の『ゼンマイ』1体を守備表示で特殊召喚する!
 この効果により呼び出すのはレベル3の『ゼンマイゼンマイ』!」
ゼンマイゼンマイ:DEF1200


そう、ゼンマイマジシャンの効果を忘れてしまっていたようだ。
しかもマジシャンの効果は蘇生ではなくデッキからのリクルート。
ネズミに比べ、より相手にとって都合のいいモンスターを呼び出せる事を意味するのだ。


「そんな、結局展開されちゃった…!」

「そして、マニュファクチャの効果でデッキから『ゼンマイシャーク』を手札に。
 最後に聖杯の効果でゼンマイネズミの効果は無効にされるというわけだ。」
ゼンマイネズミ:ATK600→1000(効果無効)


「結局、これでレベル3のモンスターがまた2体揃っちゃったって事は…!」

「それもいいが、今度狙うのはランク3ではない。
 今度はゼンマイゼンマイのモンスター効果を発動!
 自分フィールドの全てのレベル3以下の『ゼンマイ』モンスターレベルを1つ上げる!
 この効果によりレベル3のネズミとゼンマイゼンマイのレベルは4となる。」
ゼンマイネズミ:Lv3→4
ゼンマイゼンマイ:Lv3→4



「これでレベル4のモンスターが3体に…!」


そう、この効果により男のフィールドにはレベル4のモンスターが3体揃った。


「いくぞ、小娘!私はレベル4となったゼンマイゼンマイとネズミとマジシャンの3体でオーバーレイ!
 鈍く輝く光沢の発条仕掛けの機竜よ、その巨体で敵兵を嬲り戦場を蹂躙せよ!エクシーズ召喚!現れろ、ランク4!発条部隊の司令塔『発条機竜ゼンマイドラン』!!」

『ギャオォォォォォォォ!!』
発条機竜ゼンマイドラン:ATK2800 ORU3



「ゼンマイ…ドラン……っ!」


そして呼び出された発条仕掛けの巨竜をミシェルは忌々しそうに見つめる。
どうやら、特にこのモンスターが彼女らに何かしたようだが…?








――――――








Side:ブラン


――ビシュンッ…!!


「っと…知らない風景だ。」

「ということは次元移動成功って訳だな。」


次元転送装置からワープした先には、わたしたちが見た事のない光景が広がっていた。
かつて繁栄の道を究めたのだろうけど、今は見る影の無い凄惨な光景。
まるで、何者かに破壊しつくされたかのような焼け焦げて今にも崩れそうな建物ばかりの街であった。
いかにも俗に言う世紀末といった光景である。
もっともここは街外れ…で建物は少ない方だけど。


「本当にひどく荒らされているな。」

「ええ…予想していた以上に凄惨だよ、この街は。
 こういったところに長くいると自然と心が荒みそうだ。」

「だな…そして、これが戦場と化した融合次元の現実か。」


となると、ここは融合次元で間違いなさそうだ。
エクシーズ次元の侵略に晒された結果がこの光景か。
こんなところで暮らしていて家族も手にかけられたとなったら、そりゃ怒りに駆られても仕方ないものだ。
こんな光景を見せられたら融合次元側に加担したくなる。

だけど、あくまでもこの次元には真相を掴みにやってきた。
冷静に動かないと見えるものも見えなくなるよね。

それに、わたしたちはスタンダード次元からの来訪者。
どちらの勢力から襲撃されてもおかしくないわけだ。
話し合いでどうにか収めたいけど、どっちも聞く耳持たないだろうなぁ。


「遊矢、融合とエクシーズのどっちも油断しちゃ駄目よ。」

「ああ、わかってる…それに……誰かに見られてるな。」


――ガサガサ…


「へっへっへ…久々にいい獲物がかかったぜ。」

「言った矢先にこれだよ。」

「ああ、囲まれたな…」


そう思っていた矢先、いかにも世紀末な恰好の血走った眼をした連中が廃ビルや瓦礫から姿を見せてきやがった。
そして、わたしたち2人を大勢で囲いこんでいった。
言い方は悪いもののいわゆる『融合の残党』だろうけど、いきなり碌でもなさそうなのが出てきたか。
多分、わたしたちに対して追いはぎしようとしてるだろうなぁ。
はぁ…初っ端から面倒な連中に目を付けられたか。

ま…見た所、図体に反してよってたからないと何もできないような雑魚ばかり。
ディスクもないようだしね。
さて、どうあしらおうか…!











 続く 






登場カード補足






エルファーニマル・グラン・ラビット
融合・効果モンスター
星6/地属性/天使族/攻2100/守1600
「ファーニマル・ラビット」+獣族・地属性の通常モンスター
(1):このカードは直接攻撃できる。
(2):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時に発動できる。
相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を選んで持ち主のデッキに戻す。



ファーニマル・エッグ
効果モンスター
星1/地属性/天使族/攻 0/守 0
「ファーニマル・エッグ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードをリリースして発動できる。
デッキから「ファーニマル・エッグ」以外の「ファーニマル」モンスター1体と「融合」1枚を手札に加える。



ゼンマイガゼル
効果モンスター
星3/地属性/獣族/攻1500/守 600
(1):このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ発動できる。
手札からレベル4以下の「ゼンマイ」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。



ゼンマイゼンマイ
効果モンスター
星3/風属性/植物族/攻 400/守1000
(1):このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ発動できる。
このターン自分フィールドの全てのレベル3以下の「ゼンマイ」モンスターのレベルを1つ上げる。



リコイルカタパルト
通常罠
(1):自分フィールドのXモンスターが効果によってフィールドを離れた場合に発動できる。
デッキからレベル4以下の「ゼンマイ」モンスター1体を特殊召喚する。



発条の駆動音
永続罠
(1):自分フィールドに「ゼンマイ」モンスターが存在する場合、相手は魔法カードの効果でモンスターを特殊召喚できない。
(2):表側表示のこのカードが相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキからレベル4以下の「ゼンマイ」モンスター1体を特殊召喚する。