Side:ねね
何者かに襲われた沢渡さんは夜遅くになっても目が覚めませんでした。
わたしたちは救急車を呼び、沢渡さんを搬送させてから止む無く帰宅しました。
それから、朝になって目を覚ましたとの報告があり…学校とLDSの講義を受けてから彼が入院する病院へお見舞いしに行きました。
そして今、病室のドアの前にいます。
――コンコン…!
「入ってもいいでしょうか。」
「その声は光焔か、入れよ。」
――ガチャッ!
「失礼します。」
病室に入ると沢渡さんは元気そうでなにより。
ただ…痛々しそうに包帯巻いているけど、絶対大げさですよね?
「遅かったじゃないか。でも来たのこの時間でよかったと思うぜ。
なにせ、俺のパパや赤馬理事長までさっき来たんだからな。」
「え…!?」
えぇぇぇっ!?彼の父親の市長候補はまだいいとして海外に行っていたはずという赤馬理事長まで!?
わたし、あの場にいたらと思うと…うぅ。
「それより、元気そうでなによりです。」
「まぁ、このザマだがな。昨日、榊の奴に襲われたんだ。」
「あの、誰に襲われたのかわかりませんが…あの時、気絶した沢渡さんと合流するまでブランはわたしといっしょにいましたのでそれはおかしいです。」
「は…?」
昨日の話を否定すると、沢渡さんは信じられないといった表情でわたしを見ていた。
「おいおい、冗談だろ…あの顔は絶対、ユーヤ・B・榊だった!あいつらも否定しなかったぞ!!」
「いや、あの3人もブランにはアリバイある事知っているはずなのですが…?」
はぁ…先に来ていた3人はどうして大事なことを沢渡さんに伝えておかなかったのでしょう?
恐らく沢渡さんの言う事に意見できなかったか、あるいは…。
しかも次期市長候補と理事長は絶対ブランを犯人扱いしてますよね、それ。
拙いです…これは非常に拙い。
「…なら、お前が奴と一緒にいた証拠を出してみたらどうだ?」
「証拠と言えそうなものは残念ながらありません。ですが、それに近いものなら…昨日返し損ねましたが沢渡さんのデッキです。中身を見てみてください。」
「何だと?どれどれ…?」
沢渡さんにあのデッキを渡して中身を確認してもらう事にする。
あの2枚のカードを見せたら少しは信用してもらえるでしょうか?
「なっ、この2枚は!?」
「はい、彼女との交渉で手に入れたペンデュラムカード2枚です。
代わりにあの2枚が犠牲になりましたが、これで少しは信じていただけると助かります。」
「げ、あの2枚は結構キツイんだがなぁ…だが、お前にしてはでかした!これを見せられたら信じるしかないな。
だが、あの理事長のことだ…例え犯人があいつじゃないにしろ、奴らを気の毒に思うくらい凄いことしてくるのは覚悟しておいた方がいいと思うぜ。」
あの2枚については諦めてください。だからこそ交渉が成立したのですから。
ってそんなこと言ってる場合じゃないです、そういうことなら急いで遊勝塾へ向かわないと!
「…その顔は今すぐあっちへ行きたそうな顔してるなオイ!
やめとけ、無謀だ。あの人に対しお前如きに何ができる?それどころか何されるかわからんぞ?」
「例え何があっても、行かないで後悔するよりは行って後悔する方がいいです。」
ブランとはまだ友達になったばかりとはいえ、大変な事に巻き込まれたら助けたいのです。
例え立場上では敵同士であっても…です!!
「止めても無駄か。昨日の内にお前と奴がそんな仲になったとはな。悪かった、行きたいなら行けよ。
ま、こんなくだらないことで奴が潰れるのは俺としても面白くないしな。奴を倒すのはこの俺だからな。」
「あ、ごめんなさい。昨日、彼女に勝ちました。」
「え?」
「そういうわけでお邪魔しました…!」
――サササササ…!
病院内では走るのはアレなので歩きで失礼しました。
ブラン、できることはないかもしれませんが今駆けつけます…どうか、何事もありませんように…!
「まてまてまてまて、どういうことだこうえぇぇぇぇぇぇん!!」
「君、病院内で騒ぐと困るよ!で、本当に怪我してるのかいアンタ?」
「あ、いや…その…。」
超次元ゲイム ARC-V 第7話
『LDS襲来!!』
Side:ブラン
オレの前に立ちはだかるライバルというべきねねと友達になった翌日。
今は遊勝塾の講義に参加しているところなんだけど…。
「アドバンス召喚だが…タツヤ、説明できるか?」
「はい。アドバンス召喚も通常召喚の一種でレベル5と6のモンスターは召喚の際には自分フィールドのモンスター1体、7以上は2体をリリースする必要があります。」
「いいぞ、よく勉強して…あれ?」
…デュエリストなら誰でも知っている事よ、塾長。
それより『タイミングを逃す』や『攻撃力変動の効果のルール』といったわかりにくいけど覚えておかないと差が出るルールを講義してほしいところね。
はぁ…ここアクションデュエルのことは兎も角、こういった所が弱いのが非常に拙いのよ。
大体はデュエルそのもので気付いたり、指摘されたりして覚えたものだけどさ。
「つまんねぇ。」
「そんなの誰でも知ってるし。」
当然のようにこんな当たり前の授業ばかりだと、子供たちからこういう愚痴が飛び出すわね。
「流行ってるけど、実際はリリース用モンスターが必要か1ターンに1度の召喚権を使うからあまり当てにしない方がいいわ。
何故か嫌われがちだけど『クロス・ソウル』みたいに代わりに相手のモンスターをリリースできるカードと併用して使うのがお勧めよ。」
「ブラン…今までは目を瞑ってたが、エンタメデュエリストの自覚あるのか?」
「…あるわ。どんなカードだって使いようだから。」
むぅ、そう言われると痛いわね。
みんなから冷めたまなざしで見られるのは辛い。
「バニラアイスとコーンウェハースでオーバーレイ、食べられろコーン付アイス。おいしい♪」
「こら、それは拙い。」
そして隣…退屈だからって何やってんだ、里久の奴。
講義中にアイス食ってるんじゃないの。
「まずくないって、おいしいよ。」
「違う、そうじゃないわ。また柚子からハリセン飛んできても…あれ?」
いつもならすぐハリセンが飛んでくるはずなのに…何も起きないわ。
そういえば昨日から妙に神妙な顔をしてるのよね、柚子。
いったいあの倉庫で何があったのかしら?オレに似たやつがいたみたいだけど。
「ん、それでは次はエクシーズ召喚。これは里久がよく知っているはずだ。」
「はい、きた!コーン付アイスをさらにオーバーレイして二段重ね!あー…」
「させないわ。罠発動『ボッシュート』。食べてないでしゃきっと説明なさい。」
というわけで彼が食おうとしていたアイスは没収。
「ちぇっ。」
「でかしたぞ、ブラン!では改めて…」
昨日、小ばかにしてくれた仕返しよ。にやり。
すると、柚子が突然立ち上がって…。
「お父さん…融合は?」
「は?」
「「「「融合!?」」」」
「ん?」
いきなり融合の事を聞き出したわ。
そういえば柚子とアユちゃんだけは昨日ここで融合召喚をくりだしたねねのデュエルみてないのよね。
で、里久は嫌そうな表情に…妙に融合を目の敵にしてるというか。
「うちで融合召喚を教えた事って…ないわよね?」
「そりゃないよ。やったことないものは教えられないし。」
「付け加えておくと、用意するカードの敷居の高さからエクシーズやシンクロと比べても圧倒的にシェアが低いわ。しかもLDSでも教え始めたのはつい最近の事みたいだしね。」
ただでさえその三大召喚法はLDSがほぼ独占しててこっちは悔しい思いしてるのに、融合はその中でもトップクラスに浸透できていない。
だからこそ昨日、ねねが融合召喚した時は非常に驚いたのだけれどもね。
「何だよ急に融合なんて…昨日、お前がいない間にたまたま来た子が使っていたけどさ。」
「え…その子っていったい?」
「柚子もデュエルした光焔ねねよ。昨日、オレとデュエルしてたんだけど彼女が融合召喚使ってきた時はすごく驚いた。結果は完敗だったけどね。」
ねねにはいろいろな意味で完敗を喫したわ。
だからこそ、次の機会にはリベンジしてみたいと思うわ。
あの…昨日見てた4人に加え、アユちゃんにもジト目で見られているのが辛い。
「そうなんだ…昨日あの子が融合を…。」
そう不安げに言うと、柚子はこっちを見つめて…何か面食らったような顔してるわね。
「…何?」
「…いえ、なんでも…。」
「…?」
恐らくは昨日見たであろうオレに似た誰かが融合使いだったということは予想できる。
でも今は…そっとしておこう。
『闇討ちだとぉぉぉぉぉぉ!?ブランはそんな卑怯な真似などせんわ!!』
「「「「「「「え?」」」」」」」
この部屋に大きく響く声は権現坂!?
何があったんだろう…外に出てみよう!
――――――
「いったい、何の騒ぎだ!?」
外へ出て駆けつけると、そこには権現坂に加え…昨日も会った沢渡の取り巻き3人がいて揉めていた。
「おお、みんな!この男、権現坂…鍛錬のためのランニングの最中、この塾を覗く怪しい三人組を発見し問い詰めたところだ。
そしたら、昨夜ブランが闇討ちしたなどとけしからんことを…!」
「闇討ちぃー?」
「オレが?」
身に覚えがないわ。言いがかりをつけるのはやめてほしいわね。
それが昨日の事ならアリバイがあるから。
「そうだ、忘れたとは言わせねぇ!」
「俺たちもその場にいて、その目でみてるんだ!」
ちょっと待て、沢渡は兎も角…あなたたちが突っかかって来るのはおかしいわ。
昨日、オレがねねと一緒に倉庫の方まで行ったのを遭遇したの見たはずよね?
はぁ…どうしてもオレのせいにしたいらしいわね、まいったわ。
「待ちなさい、確認するけどそのオレらしき人に遭遇したのっていつ頃かしら?」
「ん?確か16時半ごろ…だったか?」
「確かそれくらいだったな。それがどうしたよ?」
「おいばかやめろ、それ言ってどうする!」
はぁ…アホね、この人たち。墓穴掘ってるじゃない。
その時、オレは遊勝塾へいたわ。
「それはおかしい話だ。その時ブランはこの塾でLDSの光焔ねねとデュエルし終わったばかりの頃じゃないか!」
「そうだそうだ!そもそもブランお姉ちゃんはそんな卑怯な真似はしない!」
「「「ぐ…!」」」
いいぞ、塾長にタツヤ。
その調子であいつらを追い返せれば…!
「だ、だが証人が4人…いや、5人いるぜ!」
「5人!?」
「こいつら…!」
残りは一人は沢渡としてもう一人は…まさか。
単純な言い合いじゃ勝てないとみて、弱みを握って押し切る気満々か!
「沢渡さんと俺たち…それにそいつも犯人の顔を見てたんだ。」
「「「だよね〜柊柚子ちゃ〜ん!!」」」
「あっ…!」
「そうなのか、柚子!?お前も見たのか!」
やっぱりこうなった。拙い、動揺してる…!
昨日倉庫にいたのを見つけてからずっとこんな調子だったからな…!
「そうだ、次期市長の息子である沢渡シンゴを襲ったユーヤ・B・榊の顔を!!」
「可哀想に沢渡さん…大怪我して入院中だ。」
入院してるのかよ…いや、昨日チラッと見た時目立った外傷はなかったような気が…!
「沢渡さんにもしもの時があったら、どう責任とるつもりだ!」
「いや、このままゴリ押ししようとしてるけど…早く、柚子からも違うって言ってくれないかしら?」
「み、見てはいたけど…!」
「お、おい…?違うよな…!」
「そ、それは…!」
言葉を濁したままうつむいたままだ。
くっ…昨日見たって奴そんなに似てたのかよ、オレに…!
柚子が見たという偽物め…何を考えてこんなことを?
「確かに俺たちは昨日光焔と一緒にいたお前と通りかかった…だが、沢渡さんがお前だと証言してるんだ。」
開き直ったよ、こいつら!!
この場にねねがいないってことは…沢渡に真実を話せていない可能性が高い。
くそ…端から、オレを冤罪に陥れるつもりってことか!
「それに間違いなく顔はお前そのものだった。それで沢渡さんに何かあったら…わかってるよな?」
警察あたりに捕まるってことかよ…!
例え冤罪でも捕まったら…洒落にならない。
「何がどうなっているのか…ちゃんと説明してくれ…!」
そのわけがわからない気持ちはわかるよ、塾長。
でも、オレたちの前に車の一台が止まり…なっ!?
「その件は私が説明しましょう。」
「あ、あなたは…LDSの!?」
車から出てきたこの妙齢の特徴的な髪型の女性は…LDSの理事長!
「赤馬日美香と申します。」
レオ・コーポレーション現社長である赤馬零児の母親――赤馬日美香!
実力のある他の塾を乗っ取っているとかキナ臭い噂もある人物だ。
最近は海外での活動が忙しいらしい話だったが、帰ってきてたみたいだな。
ここに来たってことは恐らく…狙いはオレの…!
――――――
「全て事実です。我が塾生――沢渡シンゴが襲われ、その犯人が遊勝塾に所属するユーヤ・B・榊であることを彼が証言しているのも。」
そして塾内の来客室にテーブルを挟んで二人――塾長とLDS理事長が座って対面している。
「ふむ、しかしですね…一方で先ほど会ったそのシンゴくんの友人3人はその犯人と遭遇した時刻が昨日の16時半と仰っておりました。
その時間帯ユーヤ・B・榊はここでLDSの塾生――光焔ねねとデュエルをしており、物理的に考えて犯行は不可能です。
大変申し訳ありませんが、うちのユーヤに濡れ衣を着せてこちらを陥れたいようにしか思えません。」
流石塾長、威圧感たっぷりなあの人に対しても大人の対応で反論しているわ。
身に覚えのない事で問答無用で身内が犯人扱いされたら誰だって嫌だもの。
「で…そのデュエル、ブランってば情けないことに負けちゃってさ…ぷぷぷ。」
「どっちの味方なの、あなた…いや、実際負けたけど。」
悔しいけど負けた以上はそう文句は言えない。
里久なりの庇い方と思う事にするわ。
「ブランお姉ちゃんがそんな事するはずないじゃない!」
「「そうだ、そうだ!」」
「…俺は言うまでもないだろうがブランを信じる。柚子は?」
「…本当にあれは、ブランじゃないのね?」
権現坂、言うまでもなくても信じるといってくれてありがとう。
柚子はオレそのものの顔の偽物を見たらしいけど…。
「当たり前でしょ?なんだかんだ沢渡とは純粋に一度やりたかったのに、闇討ちなんて馬鹿な真似するはずないじゃない。
もしオレがあの場に間に合っても、そんなことせずに一緒にいた光焔と共にその場のみんなを諌めただけ。」
むしろ光焔経由でペンデュラムカードを沢渡に渡すところで、こんな事が起きて立腹よ。
まぁ、こんな事言うと空中分解起こりそうだしあの理事長には聞かれたくないからそこは内緒だけど。
「…わかった。あたしもブランを信じる。」
「ありがとう…!」
よし、後は昨日一緒にいたねねが来てくれればいいんだけど…。
――ウィィィィィン…!
っと、入り口の自動ドアが開いた…まさか。
「はぁ、はぁ…!ご、ごめんなさい…すぐに駆けつけられなくて。」
「ねね!ちょうどいい所に来てくれたわね。でも、少し落ち着いて。」
ねね!まさか、本当に来てくれるとは思わなかったわ。
「知り合いか?」
「権現坂は知らなかったわね。彼女はLDS融合コースの光焔ねね。昨日ここでオレとデュエルし互いに認め合い、仲良くなった子よ。」
「そ、そうか。見かけの頼りなさに反して、この場に駆けつけてくれるとはいい友達ができたな。」
ふふ、そう言ってくれるとこちらとしてもうれしいわ。
最初沢渡が悪さした時の印象はよくなかったけど、そこからしがらみを消して仲良くなれてよかった。
そして、赤馬理事長は彼女が来たのを見て不快な表情をあらわにした。
「あなたは…我が塾生のようね。わざわざこんなところに来て何しに来たのかしら?」
「…真実を伝えに来ました。こ、ここにいるブランは沢渡さんを襲ったりしてませんし、そもそもできません。
昨日、わたしは沢渡さんが面倒事を起こそうとしている事を聞き、彼女と一緒に止めようとここから現場へ向かっておりました。
わたしたち二人が駆けつけた時には既に事件が起きた後、沢渡さんが3人に連れられて運ばれているところでした。」
途中で言葉に詰まったり、臆したりして何も言えなくなる事を恐れてたけど…必要なことは証言してくれたわ。
あの理事長を前にしてこれはそうそう言える事じゃないわ。
「成程…という事はあの3人とは昨日本当に遭遇していたわけだな、ブラン。」
「そうよ。それだけにその上で濡れ衣を着せようとしてきたのは腹が立ったわ。」
「まったく、けしからん奴らだ。」
まったくよ。
沢渡の言いなりになってるか、それとも別の誰かに買収されたか。
「あらあら、まさか沢渡の取り巻きに過ぎなかったあなた如きの分際で強く出たものね。
でも、こちらも引き下がるわけにはいかないのですよ。業界一のLDSの塾生がデュエルで負けたなどという噂が広まれば、うちとしても大打撃ですからね。」
いや、業界一と言っても他塾の生徒に負ける事くらいはあるだろ。
いくらなんでも、全くの無敗というのが不自然だと思うがな。
でも何より、塾生であるはずのねねを馬鹿にしたような口ぶりが…不愉快だ。
「で、でもブランは…」
「そんなことは最早関係ない!!」
「ひ、ひっ…!」
…突然、理事長は興奮したように強い口調でそう言い放ちやがった。
結局のところ有無を言わせるつもりはねぇってことか。暴論もいい所だ。
ねねは眼前で言われたから怯えてしまったけど、一方でオレはイライラが募る。
「問題はLDSの看板に泥を塗られた事!この汚名を晴らすには塾生同士戦って勝つしかありません!!」
「デュエルで勝負を…!?」
「そちらが勝てば襲撃事件の事は不問にしましょう。でも、我々が勝てばこの遊勝塾を我がレオ・デュエル・スクールのものにさせてもらいます!」
「何だと…!」
「そんなっ…!」
「ちっ、端から狙いはそういう事だったってことかよ…!」
噂通り、最初から狙いはこの遊勝塾の乗っ取りだったってことか…!
だが、濡れ衣を着せられた上でこんなこと許してたまるか!
「赤馬理事長、世界中で塾を買収しているそうですが…そのターゲットにうちも入ったという事ですか。もしや、襲撃事件も全てあなたが仕組んだ事じゃ!?」
「それはありません!ですが、チャンスと捕えたのは確かです。
LDSにエクシーズ、シンクロ、融合に続く第4の柱…ペンデュラムを打ち立てる計画の!」
やっぱ、ペンデュラムが狙いじゃねぇかよ!
でも、その3つの召喚法とは随分性質が違うぞ…あれは。
「今のままでは宝の持ち腐れだと思いませんか、柊塾長?」
「ふむ…。」
まぁ、それを発現させたオレからしても確かにそう思うよ。
ペンデュラム召喚は他の召喚法と比べてもアクが強いからな。
とはいえ流行らせるための種は仕込んだつもり。沢渡だけどな…!
「LDSの技術力をもってすれば、ペンデュラム召喚をカリキュラム化し多くの塾生に学ばせられる。
ユーヤ君に憧れてペンデュラム召喚を使いたい子も大勢いるのですから…。」
確かにな。もっとも、ペンデュラムまで独占状態におかれるのは冗談じゃないが。
すると、理事長はタツヤたち3人を見やる。
「あなたたちだってそうでしょう?」
「でも、ペンデュラム召喚にはブランお姉ちゃんのペンデュラムカードがないと…!」
「それもレオ・コーポレーションの力があれば造作もないこと。
既に零児さんがLDS製のペンデュラムカードの開発に着手しておられますが、我々は1つにならなければならない。」
「既に…ペンデュラムカードの開発を…!」
既に開発段階に入っているわけか。
なら、躍起になってうちのような零細を乗っ取る必要はないと思うが…?
本来、デュエルは争いの道具じゃなくてお互いが楽しむべきものでなくちゃならないが…悪意を持って向かってくるのなら!
「デュエルは争いの道具じゃないけど、オレはこの塾を好き勝手にさせるつもりも毛頭ない。
父さんが作った、人々を楽しませ夢と希望を与えるデュエルを教えるこの塾を金や権力で好き勝手するあなたたちに渡すとでも?ふざけた事ぬかしてんじゃねぇぞ、オラ!!」
もっとも娘のオレ自身はエンタメデュエリストとしてはまだまだひよっこもいいところだがな。
それでも、父さんが設立したこの塾は絶対に守らなくちゃならない。世間の悪意からな。
「よく言った、ブラン。この男、権現坂も全く同意!遊勝塾を守るため、共に戦おうぞ!」
「本来なら敵同士の身分ですが、この件はわたしも力を…」
「でも、君たち…部外者じゃん。融合なんか使ってる奴にいたっては向こう側だし。」
「…ふがぁ!?この男、権現坂を除外するとは、け、けしからん…。」
「ぐず…どうせわたしなんか。」
権現坂…嬉しいこと言ってくれたけど、里久の言う通り彼はここの塾生ではなく部外者。
ねねにいたっては本来、向こう側の立場だからこっち側のデュエリストになるとそっちにとって色々面倒だろう…気持ちは嬉しいんだけど。
「塾生同士で戦うんなら…ブランに柚子と僕でいいんじゃないかな?僕もLDSの生徒と戦ってみたかったし。」
確かに基本的にはそうなんだけど、今の柚子の調子だとどうも不安ではある。
昨日の件であまり集中できなさそうな感じではあるし。
その点は彼女の気持ち次第としか言いようがないが。
「どうやら、塾生たちの気持ちは固まったようですね。」
「わたしの気持ちも固まっています。遊勝塾は…!」
「「「「「「「「渡さない!!!」」」」」」」」
いずれにしてもそっちがその気なら…ぶっ倒すまでだ!!
「…では、始めましょうか。」
――――――
デュエル場にはオレたちと対戦相手と思わしき3人、そして赤馬理事長が対面している。
まず目につくのは、金髪縦ロールで高飛車そうなテンプレお嬢様キャラらしき美少女。
で、やけに大きい胸をやけに強調してるのがイラッとくる…無乳なオレへの当てつけか?
二人目はいわゆるラノベとかギャルゲとかの主人公みたいな地味な感じのもやしっぽい男。
三人目はコロ〇ロとかに出てきそうな逆立った髪の熱血そうで小柄な男。
相手はこいつらか…どんな相手でも全力でやるのみだが。
「3人対3人、先に2勝した方が勝ちという事で…いいわね?」
「それで異論はありません。」
先に2勝先取した方の勝ち…わかりやすくていい。
「それでは、誰から?」
「はーい、僕!」
向こうは道場破り同然なのにこっちからかよ…ふざけやがって。
里久が出たがってるけど、まずは…。
「待った、オレが先に行く。いい加減このフラストレーションを解消させたいからな。」
「ちぇ…いいけどさ。」
「当然よね。後の二人は頼りなさそうだし、先に1勝挙げておきたいでしょうからね。」
頼りなさそう…ねぇ?見かけで判断するなよ、理事長。
柚子は今は本調子じゃないとはいえ実力はオレとほぼ互角。
里久はエクシーズ使いで本気の実力は未知数だからな。
「は?僕の実力、甘く見ないでよおばさん!」
「いいから、大人しくね。」
「むぅ。」
まぁ、それは後のお楽しみという事で。
今出るのはオレだ。
「だけど、そう簡単に勝てるとは思わない事ね。」
そりゃあ、そう簡単に勝てたら苦労はない。
「彼らは全員ユーヤ君たちと同じジュニアユースクラスだけど、我がLDSが誇る各召喚コースのエース。そこの光焔ねねのような融合コースの面汚しとは違って…」
は?あいつが面汚し…だと…?
「――り消せよ。」
「…今なんと?」
「今の発言を取り消せって言ってんだ、ババア!!」
友達を馬鹿にされて黙っていられるほど、こっちは人間が出来ちゃいないんだ。
そう衝動的に手を出してしまうところだったけど、塾長がオレを制した。
「そこまでだ、ブラン…気持ちはわからなくはないが…。」
「…塾長。オレのデュエルで伝えるのはいいんだよな。」
「うむ…やりすぎない程度なら何も問題はない。」
この怒りはデュエルで伝えるまでだ。
本気でブチ切れさせたこと、後悔させてやる。
「あらあら、粗暴なこと。でも威勢がいいだけで勝てるとは思わない事ね。この中からユーヤ君の相手を務めるのは…!」
一瞬、機嫌が損ねたように見えるが、すぐに平常心を取り戻しやがるか。
ここで動いたのは…ギャルゲ主人公(仮)か。
「LDS融合コース所属、辰ヶ谷真文。君のようなちんまい子に俺の相手が務まるとは思えないな。」
「…言ってくれるな、もやし。それに融合コース相手とはちょうどいい。
すぐに化けの皮剥がしてやるから覚悟しやがれ…!」
「い、いや…あ、調子こきました。」
こんなヘタレがあの融合コースのエースとはねぇ。
とはいえ、確かこいつはこんな調子でも公式戦40連勝中らしいから油断は禁物だけど。
デュエル自体は見たことないから何とも言えないが。
「なにあれ?」
「彼は辰ヶ谷真文、一応公式戦56戦50勝で今年の優勝候補だね。あの様子からにわかには信じがたいけど。」
「戦績だけならとんでもないけどなぁ。」
タツヤたちも懐疑的な目で見ているわね。
「エースだろうが優勝候補だろうが、恐れることはない。お前の実力を見せてこい、ブラン!」
「ああ!恐れるどころか、むしろそっちの方が倒しがいがある!」
応よ、塾長!!
あいつは曲がりなりにも融合コースのエース…相手にとって不足はないはずだ。
「ペンデュラム使いだからって怖気づくことなんてありませんわ。でも、もし負けた時は…わかってますわよね。」
「…ふ、俺を誰だと思ってるんだ。大丈夫だ、何も問題ない。」
で、あの縦ロールの尻に敷かれてるのはよくわかった。
そして、オレとそいつ以外は観戦場の方へ移動したわね。
みんなが見守る中、デュエルへ向けて構える。
『今回はこれだ、アクションフィールドオン!フィールド魔法発動『魔術の渓谷』!!さあ、ブラン…行ってこい!』
アクションフィールドが展開される。
今回はまるで魔法の世界ででてきそうな渓谷か。
「ふっ、どうやら俺がもっとも得意とするフィールドが選ばれてしまったようだ。負ける気はしないな。」
「なにぃぃっ!?」
「真文という名前から、察しなよ…。」
あのね、里久…普通、それで察せたらすごいから。
ということは魔法使いとかドラゴンとかそういったありきたりな種族を好んでそうだな、多分。
「例え相手の土俵に立たされてたとしても…オレはお前に勝つ!」
恨みはないけど、父さんが創った遊勝塾を守るためにも…!
そして、オレにために駆けつけてくれたねねのためにも融合コースのエースのお前には負けられない!!
「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」
「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い、フィールド内を駆け巡る!」
「見よ、これぞデュエルの最強進化系!」
「「「アクショォォォォォォン!!!」」」
「「デュエル!!」」
ブラン:LP4000
真文:LP4000
「威勢の良いこと、その元気がいつまで持つのかしら?さあ、真文…格の違いを見せつけておやりなさい。」
「当然さ、理事長先生。先攻はいただく。」
今回はオレの後攻か。まずはその辺のアクションカードを拾いつつ…と言いたいところだけどアクションカードは崖とか滝の方にあることが多いんだよなぁ、ここは。
スタート地点は谷底だからモンスターの力を借りずにとるのは困難なのがキツイ。
「俺は『ティマイオスの末裔』を召喚!」
ティマイオスの末裔:ATK200
まず出てきたのは攻撃力僅か200であどけなさの残る魔法使い。
ここで止まるとは思えない。
「このカードが召喚かリバースした時、デッキから『ティマイオスの眼』を手札に加える。
続いて手札から装備魔法『ワンダー・ワンド』を末裔に装備し攻撃力を500アップする。」
ティマイオスの末裔:ATK200→700
攻撃力を700にしたところで…あの装備魔法は確か…!
「ここでワンダー・ワンドのもう1つの効果を発動!このカードと装備モンスターを墓地へ送り、僕はデッキから2枚ドローする!」
そうだった、あれは攻撃力の低いモンスターをコストに使えば無駄なく手札交換できる手札補強カード。
肝心の融合召喚はまだだが、これであいつの手札は十分…どうでる?
「そして魔法カード『マジシャンズ・サモン』を発動!俺の場にモンスターが存在しない場合、デッキから『ブラック・マジシャン』と名のつくモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。いでよ、俺の嫁!『ブラック・マジシャン・ガール』!!」
『一緒にがんばろ、マスター!』
ブラック・マジシャン・ガール:DEF1700
おい、ちょっと待てや?
今『俺の嫁』とかふざけた事ぬかしやがったよな!!
「あれは!?」
「超レアカードながら可憐な見た目で欲する人が後を絶たない、ブラック・マジシャン・ガールだよ!」
「本物は初めて見たけど、痺れるくらい可愛いぜ…!」
あの子たちは無邪気にそう言ってるけど、色々と突っ込みどころ満載だろうが!
何が悲しくて塾をかけた真面目なデュエルで相手が女性モンスターを『俺の嫁』と抜かしてるオタクなのか。
相手側含む他の観客席の人は彼を冷ややかな目で見てるように見えるし。
「でも、デュエルモンスターズのモンスターを『俺の嫁』宣言はないわ。」
「そして、このカードでより輝く!手札から魔法カード『ティマイオスの眼』を発動!このカードと俺の嫁の『ブラック・マジシャン・ガール』を融合する!
俺の嫁よ、伝説の竜に跨り、新たな姿と力に目覚めよ!融合召喚!いでよ、進化した俺の嫁!レベル7『竜騎士ブラック・マジシャン・ガール』!!」
『はぁぁぁぁああ…!!』
竜騎士ブラック・マジシャン・ガール:ATK2600
何?2体以上のモンスターを融合素材にしなければ融合召喚できないのではないのか!?
それと竜騎士なのにマジシャンとはこれはいったい…!?
それは置いておくとしても、突っ込みたいことばかりだ…!
「口上待て!こんなふざけたの聞いたことないぞ!?この変態!!」
「ふっ…君、もしかして俺の嫁に妬いているのかな?よっと!」
お前は何を言っているんだ?問題をすり替えてんじゃないの。
それは兎も角だ…竜に乗って優位に立ったのはいいけど、墜落して痛い目見ても知らないからな…?
「最初に言っておくが、1ターンに1度だけ手札を捨てる事でフィールドの表側表示のカード1枚を破壊できる効果を持っている。
そして、この効果はお前のターンにも使用できる…この意味が分かるよな?俺はカードを2枚伏せてターンエンド!」
成程、オレのターンにペンデュラムスケールを破壊する事で思うようなペンデュラム召喚をさせない魂胆だってことはわかった。
「これでユーヤ君の得意とするペンデュラム召喚は思うようにできなくなりました。これでこの勝負は我々のもの。」
「お言葉ですが果たしてそう上手く事が進むとお思いですか、赤馬理事長?その程度で止まるほどうちのブランは軟じゃない。」
「あらあら…。」
流石、遊勝塾の塾長…オレの事をよくわかってる。
早速始めようか、オレのエンタメデュエルを!
――パチンッ!
「レディースアーンドジェントルメン!まず皆さまには、魔法使いだか竜騎士だかわからない融合と共にこのキモオタが墜ちる様をご覧いただきましょう!!」
「は?お前、誰を落とすって?そんなこと許すつもりはないけどな!」
口だけなら誰だってそう言えるっての。
これを見てもその思えるかな?
「では、いきます!わたしのターン、ドロー!まずは手札から魔法カード『海神の渦潮』を発動します!」
「なん…だと…?」
「「「ブーッ!?」」」
ペンデュラム召喚が邪魔されるというなら、干渉する前に墜としてしまえばいいだけ!
いきなり3人が吹いたみたいだけど、気にせず続ける。
「このターン、わたしはエクストラデッキからしかモンスターを特殊召喚できなくなりますが、水属性モンスターのアドバンス召喚のリリースの代わりにあなたの場のモンスター1体を犠牲にできるようになりました!」
「やめろォ!!そんなことしちゃいけない!!」
「だーめ。あなたの竜騎士ブラック・マジシャン・ガールをリリース!!」
――ザァァァァァァア!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁ…!!」
「いつもニコニコ、わたしのそばに這い寄る影…ここに見参!レベル5『甲殻水影ドロブスター』をアドバンス召喚!!」
『フッ…!』
甲殻水影ドロブスター:ATK1800
「えーと…どうすんのこれ?」
「ブランお姉ちゃんにしてはかわいらしく言ってるけど、逆にこえーよ…。」
「理不尽なことがあって怒りがこみあげすぎたのか一周してキャラ崩壊起こしてるぞ…!」
キャラ崩壊とは失敬な。
あの融合は一先ず退場させたけど、あいつの場には伏せが2枚か。
――バシャァァァァ…!!
「ぶはっ!?てめぇ…よくも俺の嫁を!!」
あ、普通に川に落ちた。
とはいえ、川から上がってきてすかさずオレを睨み付けるあたり…まだまだこれからか。
茶番はここまでにして、オレも気を引き締めないと。
「皆さん、余興は楽しんでいただけたでしょうか?さて…お楽しみはこれからだ。」
続く
登場カード補足
ティマイオスの末裔
効果モンスター
星2/光属性/魔法使い族/攻 200/守1400
「ティマイオスの末裔」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードが召喚・リバースした時に発動できる。
デッキから「ティマイオスの眼」1枚を手札に加える。
(2):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから「ブラック・マジシャン」モンスター1体を手札に加える。
マジシャンズ・サモン
通常魔法
「マジシャンズ・サモン」は1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はエクストラデッキから融合モンスター以外のモンスターを特殊召喚できない。
(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。
デッキから「ブラック・マジシャン」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。