Side:柚子


「まったくもう!みんなお菓子が食べたいなら自分たちで買いに行けってのよ。」


特に里久くん…アンタは自分で行かなすぎ。
ブランに注意してもらえればよかったんだけど、そのブランもどこで油売ってるのか知らないけどいなかったのよ。
はぁ…どうしてあたしたちが彼の召使いにならなきゃいけないのよ。


「文句いいながらもこんなに沢山買って、柚子お姉ちゃんって優しいよね。」


そ、そうね。でも、アユちゃんだってあたしの買い物に付き合ってくれてるじゃない。
それに、みんなでお菓子食べるのは嫌いじゃないから。

あれ…?堤防の方にいるのは沢渡の取り巻きのうち二人?
何か話しているみたい。


「柚子お姉ちゃん?」

「しぃーっ、大きい声出さないで…あいつらに気づかれちゃう。」

「うん。」


アユちゃんに大きな声を出さないように制止しつつ、あいつらの様子を観察しておこうと思う。


「沢渡さん、気合入りすぎじゃね?」

「どんな手を使っても、榊の奴をぶちのめすってな。」


「「!?」」


榊ってブランのことじゃない…!
どんな手を使ってでもって…今度いったい何するつもり!?


「あの人、相当卑劣な事やりそうだぜ?」

「そりゃ、相手の弱点を徹底的に攻めるってよ。」

「…っ!」


卑劣な手、それに弱点を攻めるって…みんなにまた酷い目合わせるつもり!?
そんな事、絶対に許さない!


「おっと、急ごうぜ。」

「沢渡さん、腹減るとますます我儘になるからな。」


「沢渡…!」


あいつらは走って行ったけど…あの距離なら追いつけないことはないわ。
沢渡の奴、今度という今度は許さないんだから!


――スタッタッタッタ…!


「柚子お姉ちゃん、待ってよ…!」












超次元ゲイム ARC-V 第6話
『叛逆の紫電』











あいつらに気づかれないように尾行していたら、埠頭にある古びた倉庫の方に入っていったのが見えたわ。
あれが沢渡たちが使っているアジトね。


「柚子お姉ちゃん、これブランお姉ちゃんに知らせたほうが…。」

「…。」


この前人質にされた時…あいつの取り巻きのねねって子に挑むことで子供たちは逃がせた。
でも、あたしはやられちゃって落ちたところを必死になってブランが助けてくれた。
今度はそうならないようにあたしがブランを守る番…よし。


「アユちゃんは先に塾に戻ってて。」

「で、でも…。」

「お願い…!」

「わ、わかった。」


――サッサッサ…!


…行ったわね。
少し怖いけど、意を決して入るわ。


――ガラララ…!









――――――








No Side


「あの子は、まさか!…ううん、そんなはずないよね。」


夕焼けに染まりし埠頭にある古びた倉庫…そこの屋根に一人、何者かが佇んでいた。
黒を基調として紫のアクセントのあるパーカーワンピに身を包み、顔を鉄を思わせる質感の能面のような仮面で隠した不審者然とした少女だ。

彼女の目線の先には今まさに倉庫に入ろうとしている柊柚子の姿があった。
どうやら彼女のことが気になるようである


「でもさ…例え似ているだけでも、あの子に何かあったらと思うとほっとけないよね。それに…。」


すると彼女は何処で手に入れたのやら手に持つLDSのバッジを見る。
実はここの倉庫に他のLDSの生徒の――沢渡の取り巻きの二人が入るのも見ていたのだ。


「ここで彼らとアレの繋がりがわかるかも。」


――ガラガラ…!


そう考えている間に倉庫の扉が閉まる。
そこで彼女の決意は固まったようだ。


「よっと、扉が閉まったという事は何か起こってるという事だよね!それなら…カンガルーのように!」


――タッ…!



「とりあえず、入って確かめなきゃ!ひあうぃご〜!」


彼女は屋根から地面に降りると、すぐさま倉庫の方へ向かっていった。
常人なら怪我は必至の高さであるが、何ともない辺りは只者ではない様子。
そして、無理やりこじ開けてでも入る気満々のようである。








――――――








Side:柚子


「あ〜ん…うっ!?」


やっぱり、他の取り巻きとともにいたわね…沢渡!
パイっぽいものを食べていてむせたみたいだけど、そんなことはお構いなしだから!


「この卑怯者!どんな手を使ってもブランを倒すなんて…絶対にさせない!!」

「げほっ、げほっ…柊柚子、何故ここに…!」

「それを言う必要はないわ!それにパイのかすが口についてるわよ!」

「沢渡さん、これを。」


すると、取り巻きの一人がハンカチを渡した。
手馴れている様子だったから、よくあることみたいねこれは…気を付けなさいよまったく。
って、そんなこと言いに来たんじゃないわよ!


「っふふ、どうやら自ら我々の…」

「あたしとデュエルしなさい!!」


問答無用よ!余計なこと言わないでデュエルしなさい!


「飛んで火にいる夏の虫…」

「あんたなんかボコボコにしてやるんだから!!」

「俺にも最後まで言わせろぉぉぉぉ!!」


いちいち嫌味たっぷりな上に煩いし、そんな事聞きたくもない。


「アンタのいう事なんて聞く必要ないわ!!この卑怯者、負け犬、二流デュエリスト!

「二流だとぉ…?」


急に声が低くなったということは煽りが効いているみたいね。
この調子でデュエルまでもちこまないと。


「二流どころか、三流…百流よ!!」

「柿本…扉閉めろ。」

「はい、はい。」


――ガラガラ…!


…閉じ込められちゃったか。
こいつらを倒さない限りは出られないという事みたいね。
いいわ、やってやろうじゃない!ブランやみんなのためにも!


「言ってくれるじゃねぇか。お前も光焔に負けた負け犬のくせによ。」

「うっ、それを言われたらぐぅの音もでないわ。」


惜しいところまでは行けたと思ったけど、負けて落とされたのは事実だから。
でも、デュエルした感じだとこいつより明らかに強かった。
…ふと思ったけど、彼女の姿が見えないわ。


「そういえば…そのねねって子がいないわね。」

「ああん?あいつなら…今頃、お前の所の塾に行ってるぜ?
 俺も詳しくはわからないが…なんでも、あのペンデュラムカードを手に入れるために出向いているようでねぇ。くくく。」

「え…!?」


そんなっ、嘘でしょ…?
あの子は最後にこいつを諌めたはずなのに、まだブランのペンデュラムカードを狙っていたというの…?
それじゃ、あたしがいない間にブランやみんなに何かあったら…!


「おやおや、動揺しているところ悪いけど…俺たちを倒すまでは帰すわけにはいかないからな。」

「いいわ。そのねねって子、デュエルした感じどうみてもアンタたちよりよっぽど強かったしね。
 アンタなんかさっさと倒してやろうじゃない、この卑劣な百流デュエリスト!!」


そうね、今は考えるのはやめよう。
まずはこいつらをやっつけなきゃ!!


「くぅーっ…!身の程知らずなその態度、後悔させて…ん?」

「開けゴマ!」


「え?」


――ガラガラ…!


…そう思ってたんだけど、唐突に扉が開いたわ!?


「じゃじゃ〜ん!主人公のわたし、参上〜!!ねっぷねぷにしてやんよー!」


そこから出てきたのは、鉄の能面らしき仮面で顔を隠した不審者としか言いようがない風貌の…多分女の子ね。
どうも仮面で顔を隠した見た目に反して、テンション高いみたい。
それに色々と言ってることの意味が分からない。


「「…はぁ?なんだ?こいつ。」」


あまりに唐突に出てきたものだから、沢渡と台詞が重なっちゃったじゃない!
どうしてくれるのよ!!まったくもう!
それにブランより「気持ち大きいかな?」くらいの子がどうしてこんなところに来てるのよ。


「ふざけないで!あなたみたいな子がこんな危ないとこ来ちゃだめでしょ!?」

「え、お取込み中だった?ごめんね〜♪でもわたしも混ぜてくれると嬉しいかな、な〜んてね!……あなたは下がって。」


話聞いてないわね、この子!
と思ってたら、テンションが高かったのが声色とともに急に真面目になったわ。


「何よ、あなた!下がってってどういう…!」


でも、この雰囲気の変わりようには驚いたとはいえ「下がって」と言われてもこれは譲れないわ。

そうはいっても、あの子は既に沢渡の方に目を向けているわね。
どうしてこんなことに…。


「いきなり現れて、なんだい?いわばプリンセスを守る騎士(ナイト)気取りってわけか?」

「…。」


するとさっきまでのテンションの高さが嘘のように沢渡の問いかけには応じず、黙々とデュエルディスクを構えたわ。
でも、あのデュエルディスク…何か違うわね、特注品なのかな?


「変わったデュエルディスクのようだが…あくまでこちらの問いかけには応じないってかよ。」


沢渡も同じ事思っていたみたいね。
でも、それとデュエルに割り込むことは話が別よ!


「あなた…いきなり、割り込まないで!!これはあたしのデュエルなんだから!…へ?」


ここでデュエルディスクを構えようとするも、この子は手を伸ばしてあたしを制止した…?


「ごめんなさい。でも…もう、あなたを傷つけたくないから。」

「…あ。」


もしかしてこの子…あたしのこと知ってるの?
でも顔を隠しているのもあるけど、この子に見覚えはないし…わけがわからないよ。


「奴みたいにちんまいくせにかっこいいこと言うね〜。でも、そこまでにしておけ。恥かくだけだよ?」

「…御託はいいわ、早く構えなさい。こちらにはあなたたちに聞きたいことがあるのよ。」

「わかったよ…まぁ、新しいデッキの肩慣らしにはちょうどいい。身の程を教えてやるよ!!」


沢渡も乗ったようで、デュエルディスクを構えてもう止められそうにない。
沢渡の新しいデッキは知っておきたいけど…もう、どうなっても知らないわよ!


「「デュエル」」


???:LP4000
沢渡:LP4000



「先攻はもらうわ。」

「いいだろう。」

「わたしは手札からカードを3枚セット。」


え、この子…いきなりカードを伏せた?


「ターンエンド。」


しかも、それだけ!?
モンスターを召喚すらせずにターンエンドしたわ。
もしかして事故っているのかしら?いったいどうする気なの?


「「「「はぁ〜!?」」」」


しかも沢渡たちも唖然としてる始末。


「ぷっははははは!おいおい、なんかカッコつけて登場したくせにそれだけかい?」

「沢渡さん、羽根箒っすよ!」

「事故ってるのかな〜?気の毒だが、お前…ついてないねぇ!」


うわぁ、思い切り煽られてるじゃない。これで本当に大丈夫なのかしら?


「聞こえなかったのかしら?次はあなたの番よ。」

「あん?すかしてやがるな。まぁいい。見せてやる、俺のパーフェクトなデュエルを…!俺のターン、ドロー!
 悪いがお前の伏せカード、一網打尽にする算段はついているのさ。手札から『インヴェルズの尖兵』を召喚!
 このカードが召喚したターン、俺は『インヴェルズ』をもう1体召喚できる。」
インヴェルズの尖兵:ATK1700


これが沢渡の新しいデッキ…何よ、あの黒光りした虫の怪人みたいなモンスター。
うぅ…生理的に無理よ、これ。
本音を言うと、ブランのモンスターも相当色物だと思っていたりするけど。


「さらに永続魔法『侵略の増殖感染』を発動し、尖兵を対象に効果を発動だ!
 この効果でその同名モンスター1体をデッキから守備表示で特殊召喚する。発動後、俺は『インヴェルズ』しか出せなくなるがな。」
インヴェルズの尖兵:DEF0


しかも増殖までしてくるなんて…!
『インヴェルズ』の召喚権を増やしつつ、モンスターが2体…くるわ!


「ここで俺はインヴェルズの尖兵2体をリリースしてアドバンス召喚!!いでよ、そして全てを喰らいつくせ『インヴェルズ・ガザス』!!」

『ウウゥゥォォォォオオ!!!』
インヴェルズ・ガザス:ATK2800



「よっしゃー!いきなり攻撃力2800の最上級モンスター召喚だぜ!」

「しかも、あのモンスターの効果は…!」

「ああ、これはあのガキ終わったな。」


カブトムシのような怪人がでてきたけど、取り巻き達の反応を見るにやばい効果を持っているみたい。


「インヴェルズ・ガザスの効果発動!このカードがインヴェルズ2体をリリースしてアドバンス召喚に成功した時、フィールドのこのカード以外のモンスターか魔法・罠カードのどちらかを全て破壊できる!」

「そんなっ!」


それじゃ…伏せたばかりの3枚のカードが全て破壊されちゃう!
これを食らったらどう立て直すというの?


「増殖感染を失うのは多少痛いが、当然ここは魔法・罠カード破壊を選択させてもらうぜ!『インヴェイド・デストラクション』!!」


――バァァァァァァン!!


「ああっ!」


あの子のセットカード3枚が破壊されちゃった!
破壊されたのは『GHボルテクス・ゲート』『決闘融合−バトル・フュージョン』『パラドクス・フュージョン』の3枚…。
うち2枚にフュージョンって名がついているってことは、あの子…!


――ひゅぅぅぅ…!


「え?どうしてアクションフィールドでもないのに風を感じるの?」


嘘でしょ…衝撃が実体化しているというの?


「これでお前が伏せたカードは全滅…おまけに壁になるモンスターもいない。カッコつけて出てきた割には情けないものだ。」


でも、確かにこのままじゃ沢渡の言う通り成すすべないわ。
それに伏せカードが多かったことから、ブランみたいに手札誘発を持っている可能性は高くないはず。


「ね、ねぇ…しっかりしなさいよ!こんなんだったら出しゃばらないで初めからあたしに…!」

「…。」


すると、あの子がこちらに顔を向けてきた。
表情は読み取れないけど…少なくとも焦っているそぶりはないみたい。


「あっ…。」


追い詰められてもなんとかなりそうというこの安心感…これはまるで…!
ううん、ここまで頼もしくは見えなかったはず。


「さて、鉄仮面のナイトちゃん…大変、癇に障るので早めにご退場願いたい。
 バトルだ!俺はインヴェルズ・ガザスでダイレクトアタック!!」


ここでガザスがあの子に襲い掛かって来たわ。
でも、彼女は特に焦る様子もなく…。


「この瞬間、墓地から罠カードGH(ゲイムハート)ボルテクス・ゲート』を除外し効果発動するわ。」

「「「はぁーっ!?墓地発動だとぉぉぉぉぉ!!」」」

「墓地から発動する奴だったのか…味な真似を!」


墓地から罠カードの効果を発動させたわ!
魔法・罠が全て破壊される事も、全て彼女の想定内だったってこと!?


「破壊されて、墓地へ送られる事も想定してカードを伏せていたというの…!」

「相手の直接攻撃宣言時にこのカードを墓地から除外して発動でき、その攻撃を無効にする。」


――シュゥゥゥゥン…!


すると彼女を守るように渦が前方に出てきてガザスの攻撃を吸収してしまう。
そして、その渦が1枚のカードに変化してデッキに入ったように見えた…!


「だが、慌てて攻撃を防いだに過ぎない…!」

「その後、デッキから『融合』1枚を手札に加える。」

「融合…だと?」


変化したカードの正体は…融合ですって!?
フュージョンと付いてたあの2枚のカードといい…それじゃ、あの子の狙いは…!


「ここで融合…?」

「まさか、あいつ…!」

「だったらどうした?後で蹴散らしてやればいいだけのことさ。」


沢渡…その油断、間違いなく命取りになるわよ。
あたしの予想が間違ってなければ…それはあたしだって初めて見る召喚法なんだから。


「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ。次の俺のターンまで生かしておいてやる。」

「そうだ!ネオ沢渡、最高ー!」

「などと供述しており…あなたに次のターンはないわ。」

「何…?」


そして彼女はこう言っている以上、沢渡を倒す手は既に整っていると考えた方がよさそうね。


「わたしのターン、ドロー。少しは歯ごたえのあるものばかり思っていたけど、あまりにも詰めが甘い。
 あなたのデュエルからは稲妻の如き鋭さも鋼の如き強い想いも感じられないわ…所詮はこの程度という事みたいね。」

「何だと…?」

「何言ってんだあいつww」

「はははは、痛い痛いww」

「冗談は恰好だけにしておけww」


取り巻きたちにとって彼女は単なる痛い人だと思っているようね。
でも、今なら思うわ。むしろ彼らの方が哀れだと。


「準備はできたわ。条件に合ったモンスターと融合が揃った時、わたしのデッキは真価を発揮する…!
 手札から魔法カード『融合』を発動!わたしが融合するのは、手札の『GH(ゲイムハート)スーパー・プラマー』と『GH(ゲイムハート)マッハ・ヘッジホッグ』!!」

「既に素材を揃えていただと…!」

「これは…!」


やっぱり、融合召喚が来るみたい!


「赤き超人と青き旋風…二人の英雄の心を重ね、絶望に叛逆する力と姿を示せ!融合召喚!括目せよ、混沌を断ち切る紫電の一閃!レベル7GH(ゲイムハート)カオス・リベリオン・F・(フュージョン)シデン』!!」

『グオォォォォォォォオオォォ…!!!』
GHカオス・リベリオン・F・シデン:ATK2500



――バチィィッ…!!


「きゃっ…これが、融合召喚…!


融合召喚により現れたのは紫色の電光を纏った、竜のような姿のモンスター。
顎のような部分から刀のように突き出た鋭い牙が何かを成し遂げようとする強い意志を感じさせるわ。
出てきたばかりなのに、何なのこの威圧感…!?
それにフュージョンってことは、同じく召喚法の名前を持ったブランのオッドシェル・P・(ペンデュラム)ロブスターと何か関係があるの?


「す、すげぇ…!」

「あいつ、本当に融合使いだったのかよ…!」

「マジかよ…融合召喚と言ったらLDSでもトップクラスのエリートが選択するコースだぜ…!?」


融合を手札に加えていたのは知っていたはずなのに、彼らは実際にその目で見るまでは信じられなかったみたい。
あたしだって、こんなところで融合召喚を見れるなんて思わなかったもの。


――パチパチパチパチ…!


「本当に融合召喚してくるとは驚いたよ。しかし、そのモンスターで俺のガザスに挑んでも返り討ちだよ?
 カオス・リベリオン・F・シデンの攻撃力は2500、一方のガザスの攻撃力は2800だからな!」


沢渡の言う通り、このままバトルを挑んでも返り討ちにされるだけ。
でも、ただ攻撃力だけでモンスターを判断するのは…あまりに軽率よ…!


「折角の融合召喚も…所詮はこけおどしってわけだな。」

「それはどうかしら?わたしの融合モンスターの真の力は…己の魂たる融合素材で力を引き出し、相手を滅することにあるわ…!

「融合の講義は結構だ、興味ないんでね。」


でも、融合素材で力を引き出すって…どういうことなの?
石島や里久くんが使ってたエクシーズのようなオーバーレイ・ユニットなんてないのに。


「なら、思い知ることね。スーパー・プラマーを融合素材にした融合モンスターは攻撃力と守備力を500アップする!」
GHカオス・リベリオン・F・シデン:ATK2500→3000 DEF2000→2500


「げぇっ!?シデンの攻撃力が…!」

「ガザスを上回りやがった!」

ううっそぉぉぉぉぉぉぉん!?


そういうことだったのね…融合に使用すると効果を発揮するモンスターを使ってガザスの攻撃力を上回った!
それにしても沢渡の顔…すごい形相になってるわ。


「続いて、カオス・リベリオン・F・シデンの効果発動!1ターンに1度、ターン終了時まで相手フィールドの全ての表側表示モンスターの攻撃力を半分にする!『プラズマ・エクスブレイド』!!」


――ババババリィィィィィン!!


『ウグォォォォォオオ…!』
インヴェルズ・ガザス:ATK2800→1400



シデンの効果は全ての相手モンスターの攻撃力を半減させる凄まじいものだった。
攻撃力5000以下なら、単体で処理できるみたいね…!


「あばばばばばば」

「バトル!カオス・リベリオン・F・シデンでインヴェルズ・ガザスに攻撃!紫電帯びしその刃で立ちはだかる敵を焼き斬れ!『電光のクリティカル・ディスオベイ』!!」


――バリバリザシャァァァァァ!!!


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁああ…!!」
沢渡:LP4000→2400


「「「どわぁぁぁあぁあ!!」」」


え、ライフはまだ半分も削っていないのに何よこの衝撃…!?
この攻撃で沢渡は壁まで吹き飛ばされ…取り巻きやあたしにまでその余波が!


「きゃぁぁぁぁぁ…!!え…?」


でもすかさず彼女が無言であたしに駆け寄り、覆いかぶさってかばってくれた。
あたしを護ったの…?


「…あいだっ!?


――バキッ…!


余波でこっちにきた何かが彼女にぶつかったみたい。
彼女はこの状況にそぐわない間が抜けた悲鳴を上げ、何かが割れる音がしたけど大丈夫なの?


――チュドォォォォォン!!


その衝撃は建物にまで及び、爆発まで起きたわ!?
辺り一面は粉じんだらけになり、小規模ながら火の手が上がっているところもあるわ。


「なんだよ、あれ…アクションフィールドでもないのに?」

「あのガキのモンスターが俺たちまで吹き飛ばしたのか!?」

「やべぇよ、やべぇよ…!」


「く…何がどうなって…!」


――タッ、タッ…!


この攻撃で吹き飛ばされても何とか立ち上がる沢渡に彼女が近づいていったわ。


「一度しか聞かないわ、真剣に答えなさい。」


そして彼女が沢渡に見せたのは…LDSの校章!?
いったいどこでそんなものを拾ったのかしら…?


「このバッジはあなたたちLDSのものよね?」

「…それがどうした?」

『ハートランド』『アヴニール』に心当たりはないかしら?」


ハートランドとアヴニールって、そんなもの聞いたことないわ…彼女はいったい何を言っているの?


「は?ハートランドにアなんとか、って…?いったい何のことだ…?」


それについては聞かれた沢渡も知らないみたい。
あの表情からして何か知ってるわけでもなさそう。


「とぼけないで…!!」

「本当だ!そのバッジはLDSに入学した奴なら誰でも持っている!その2つが何なのかさっぱりだ!」

「そう…これ以上は時間の無駄ね、邪魔したわ。」


返答が期待外れで落胆したのか、彼女はこっちの方へ引き返して行ったわ。
でも待って、まだデュエルは終わってないわよ!!


「…馬鹿め、詰めが甘いのはお前の方だ!罠発動『侵略の怨嗟感染』
 このカードは俺の場の上級『インヴェルズ』モンスターが破壊された場合、相手の表側表示モンスター1体のコントロールを『インヴェルズ』扱いにして奪うのさ。」

「なんですって!?」

「「「流石、沢渡さん!!」」」


拙いわ、彼女の手札は残り1枚あるとはいえ…このままじゃエースモンスターが奪われちゃう!
それにしても沢渡の奴、自分のモンスターがやられちゃうことも想定してたのね…百流と言ったのは取り消さなきゃ駄目みたい。


「これでお前のエースモンスターは俺のもの!ふはははは、先を読んで計算し罠を張った俺が次のターンで決めてやるぜ!」

「そうかしら?この程度、児戯にも等しいわ。

「はぃぃ?」


そう思っていたら、彼女にはその戦略は通用しなかったみたい。
だって、発動してもう適用されてるはずなのに…シデンがなんともなっていないもの。


「言い忘れてごめんなさい、マッハ・ヘッジホッグを融合素材にした融合モンスターはあなたの罠の効果を一切受け付けない。」

「んなっ…!?」


しかもそれはシデンの効果ではなく、もう片方の融合素材の効果だった…。


「そしてシデンのもう1つの効果…!このカードが戦闘でレベルあるいはランクが5以上のモンスターを破壊した場合、もう1度続けて攻撃できる。」

「ひぃっ!?まて、まて、まてまてまてまて!


そしてこれがシデンのもう1つの効果…!
だから彼女は沢渡に次のターンはないと言ったのね…!


「今度こそ、これでトドメ!『連撃のクリティカル・ディスオベイ』!!」

「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


――ドスッ!!


沢渡:LP2400→0


「ぁっ…ひっ、ひぃっ…!?」


沢渡はこの攻撃で制服にシデンの顎の刃が突き刺さり、壁に磔にされてガクガク震えてしまった。
それにソリッドビジョンが消えても、沢渡の服に穴が開いたままですって?
つまり…少しでも下手に動いてたら、串刺しになってたということよねこれ!?
アクションフィールドでも、こんなことないわよ普通…!


「…やりすぎたわね。本当なら、もう少し穏便に済ますべきだったわ。」


何か小声で言いながら、彼女は罅割れた仮面を取り外してその辺に投げ捨てたわ。
って、そうじゃない…嘘でしょ、この顔は…!


「「は…!?」」

「ふぅ…。」

「ブラン!?」


な、何でブランがここにいるの!?
今日は塾で姿を見かけなかったといっても、どうして!?


「ユーヤ・B・榊、どうしてお前が…ここ…に…!」


――ガクッ…!


ここで沢渡はそう言い残して失神しちゃった…!
そして、あの3人の取り巻きがすぐさま駆け寄っていった…!


「沢渡さん…!」

「やべぇ、こいつマジやべぇ!」

「ここは沢渡さん連れて早く逃げるんだよぉぉぉぉぉ!!


――サササササッ…!


失神した沢渡を取り巻き3人で支えて慌ててこの倉庫から逃げ出してっちゃった。
そして、あたしたち二人だけがここに取り残されたわ。








――――――








Side:ブラン


「もう、空がこんなに暗く…!?」

「はぁ、はぁ…くそっ、早くしないと柚子が!」


アユちゃんが言ってくれた埠頭にある倉庫の場所、思った以上に遠い!
出て行ったときはまだ夕暮れ時だったのに、もう空が暗くなりつつある!
それにあいつ、こっちに何も連絡よこさないから何があったのかさっぱりだ…。
何事も起きてなければいいけど…!
おっと見えた、埠頭の倉庫って…廃墟のようなあれか…!
何か爆発したような痕跡がある分、心配だ…!


「「「えっほ、えっほ…!」」」

「あいつらは…!」

「沢渡さんたち!?」


すると、沢渡とその取り巻き3人がその倉庫から出てきたのが見えた。
でも、沢渡の奴…意識失ってて取り巻き達に担がれているみたい。
本当にいったい何があったの?

そして彼らがこっちを見た刹那…オレの顔を見て警戒心を露わにしやがった!


「なっ、お前はブラン!さっき沢渡さんをあの倉庫で襲った…!」

「まさか、俺たちに先回りして逃げ道塞いできたのか!?」

「いったい、俺たちをどうしようってんだ!?やべぇよ…!」


は?どうしてそんなことになってるんだ?
オレが沢渡を襲った挙句、ここで逃げ道塞いできた?
ないない、オレにそんな趣味はねぇからな!
むしろ、何があったか聞きたいのはこっちの方だ!


「はぁっ!?お前ら何を言ってるんだ?うちの塾の子からの頼みで今からそこへ行くところだったんだよ。
 それよりな…煙上がってるけど、あそこで何があったのか教えやがれ!!」

「は…?とぼけんな、お前!沢渡さんをあんな目にあわせておいてしらばっくれてるんじゃねぇぞ!


こいつら、切羽詰まったような顔で身に覚えのないことを怒鳴りながら言ってきやがる…!
ちっ…どうにも話がかみ合わず、このままじゃ埒が明かない。


「あの、皆さん…落ち着いて!ブランはそんなことしないですし、そもそも今まで一緒にいたので物理的に無理です。」

「光焔…!?なんでお前がこいつと一緒に…!」


と、そこで助け舟を出してくれたのは一緒について来てくれたねねだ。
この中でオレの身の潔白を証明できるのは彼女しかいないから助かる。


「遊勝塾へ行ってる間に沢渡さんがまた面倒事をもってきたとかなんとかを教えてくれた子がいて、それで彼女と一緒にここまで来ました。話は後です、まずは沢渡さんを安静にできる場所まで運ばないと…!」

「…わかったよ。ちなみにあの女はまだ倉庫の方にいると思うぜ、早く行った方がいいんじゃねぇのか?」


柚子をあの女呼ばわりしたのは気に食わないけど、やっぱりあの倉庫にいるのか。
そうだ、今はこいつらの相手をしてる暇はない。早く行かないと!


「わたしは沢渡さんに後で話を聞かないといけないのでこれで失礼します。皆さんがまた迷惑をかけてごめんなさい。」

「わかった、こちらこそ今日は大変世話になったわ。またよろしくね、ねね。」

「それでは、また。」


――タッタッタッ!


お互いに手を振って別れの挨拶をし、急いで倉庫の方へ向かう。
柚子…お願い、無事でいて!

















「お前、いつからあいつとあんな仲よくなったんだ…?」

「今日からですが…?あ、あなたたちにとやかく言われる筋合いはありません…。」

「お、おう…?」








――――――








Side:柚子


融合召喚を使って、沢渡をあっという間に蹴散らしたあの子の隠された素顔はブランそのものだった。
いつものブランはあんな恰好してないけど…そもそも何がどうなってるのかさっぱりよ!
今のうちに問い詰めないと…!


「ねぇ…ブラン?どうしてそんな恰好してるの?」

「え?あの…」


――キュィィィィィン…!


「えっ、何これ…?」


話を聞こうとした矢先、いつも身に着けているブレスレットが突然激しく光りだした…!
ううっ、眩しい…!


「きゃぁあっ!?」


そして光が止んだと思ったら…ブランらしきあの子の姿がない!?
そんなっ、聞きたいことはいっぱいあったのに…!


「ちょっと、何!?どこいったの…?ブラン!」

「柚子!!!」

「えっ!?」


この声は…ええっ!?
扉のある方へ振り返ると、いつもの恰好のブランが息を切らしてそこにいたわ。


「ブラン?」

「ぜぇ、ぜぇ…よかった、無事みたいね…!心配かけさせんな…ばか。


そのブランはあたしのことを心配していたみたいで、ちょっと涙目になっていた。


「ブラン…あなた、ブランよね?」

「…オレ以外に誰がブランだと言うの?はぁ…途中見かけた沢渡たちも、さっき似た人見かけたらしいけど。」


彼女がブラン本人かどうか聞いてみると、まるで呆れたかのようにそう言い放ったわ。
それに逃げた沢渡たちにも出くわしたみたい。


「それじゃ…あの子はブランじゃ、なかったの?」

「誰だかわからないけど違うわ。それより、塾のみんなも心配してたから早く帰りましょ?」

「そ、そうね…。」


この言い草からして、あたしがいない間に塾へ来てたみたい。
でも、仮にブランじゃないというのならあの子はいったい誰だったの?
あたしには何が何だか…もうわけがわからない…!
そして、今日の出来事による心の靄があたしの中に残ったままだった…!















 続く 






登場カード補足



GHカオス・リベリオン・F・シデン
融合・効果モンスター
星7/光属性/雷族/攻2500/守2000
レベル5モンスター+レベル6モンスター
このカードは元々の持ち主が自分の上記カードを融合素材にした融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。
(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
相手フィールドの全ての表側表示モンスターの攻撃力をターン終了時まで半分にする。
(2):このカードが戦闘でレベル5以上またはランク5以上のモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動できる。
このカードはもう1度だけ続けて攻撃できる。



GHスーパー・プラマー
効果モンスター
星6/地属性/戦士族/攻2300/守1300
(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。
デッキから「GH」カード1枚を手札に加える。
(2):このカードを融合素材とした融合モンスターは、攻撃力・守備力が500アップする。



GHマッハ・ヘッジホッグ
効果モンスター
星5/風属性/獣族/攻2000/守1200
(1):相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
(2):このカードを融合素材とした融合モンスターは、相手の罠カードの効果を受けない。



インヴェルズの尖兵
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守 0
(1):このカードが召喚に成功したターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに「インヴェルズ」モンスター1体を召喚できる。



侵略の増殖感染
永続魔法
「侵略の増殖感染」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドのレベル4以下の「インヴェルズ」モンスター1体を対象としてこの効果を発動できる。
その同名モンスター1体をデッキから守備表示で特殊召喚する。
この効果の発動後、ターン終了時まで自分は「インヴェルズ」モンスター以外のモンスターを召喚・特殊召喚できない。



GHボルテクス・ゲート
通常罠
「GHボルテクス・ゲート」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):自分フィールドに「GH」モンスター以外のモンスターが存在しない場合、相手バトルフェイズ開始時に発動できる。
レベル5以下の「GH」融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。
(2):相手モンスターの直接攻撃宣言時に墓地のこのカードを除外して発動できる。
その攻撃を無効にし、デッキから「融合」1枚を手札に加える。



侵略の怨嗟感染
通常罠
「侵略の怨嗟感染」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分フィールドのレベル5以上の「インヴェルズ」モンスター1体が戦闘・効果で破壊された場合、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターのコントロールを得る。
この効果でコントロールを得たモンスターはモンスターゾーンに存在する限り「インヴェルズ」モンスターとしても扱う。