No Side
ブランが紫吹とのデュエルを終え、デニスに外に連れられた傍ら。
ネプテューヌはブラン達が行った方向とは逆方向に向かって歩いていた。
あの場に自分が立てない事にもどかしさを感じつつ、行く当てもない。
そして表情には憂いを帯びていた。
「はぁ…この次元の女神のブランとはなんか距離感を感じるなぁ。
しかも、わずか一週間ほどしか経っていないのに雰囲気が随分変わっちゃってさ。
それでいて、エンタメとまではいかなくてもデュエルを楽しもうとする姿勢は健在と。」
どうやら、ブランとの距離感の遠さに悩んでいるようだった。
女神である事を自覚した事で雰囲気が変わりつつも、デュエルに対する姿勢は健在。
娯楽・競技としての側面以上に、戦いの道具としてデュエルと接していたネプテューヌには理解に苦しむものだ。
そして何より、エクシーズ次元の住民への憎しみは強い。
その一方で今のままでは直接乗り込んでも返り討ちにされる事を自覚しており、力不足を感じていた。
また、方針の面で食い違いが生じている。
赤馬零児率いるランサーズはプロフェッサー率いるエクシーズ次元の打倒を目標としている。
真意はさておき融合次元を侵略したエクシーズ次元の住民に憎しみを抱いている彼女たちはランサーズ側につくだろう。
一方でブランたちは真相を自分の目で確かめた上で、次元戦争を止めさせる方針である。
これはつまり、場合によってはエクシーズ次元の者達とも対話を試みるということである。
向こうにも事情がある事を察した上でわかりあえるならそうしたいという事である。
…原因となった黒幕を倒した上でだが。
だが、これは相手を許す事ということでもある。
大勢の身内をカードに封印した相手を許すなど、ネプテューヌからしてみれば難しい所だ。
ブランに対してはあまり表には出していなかったが、内心では納得がいっていない。
彼女も心の闇を抱え込んでいるのだ。
「やっぱり、あいつらは許せない…この手でつぶしたいって思う。
カオス・リベリオンもそうでしょう?」
その想いはカオス・リベリオンが手元に戻ってから、より強く感じるようになったようである。
しかし、彼女の後ろにはローブをまとった正体不明の人物が近づいていた。
不気味な笑い声をあげながら…!
「フフフ…融合次元の女神か。」
「っ…チェスト!」
――ブンッ!!
後方から女神と呼ばれたネプテューヌは思わず感じた気配に向かって木刀を振り下ろす。
しかし、その一撃は空を切る。
「馬鹿め、振り子のように心が乱れた貴様の攻撃など喰らうはずがないだろう?」
「…あなた、何者?」
「私が何者でも貴様には関係あるまいが、司祭『コンベルサシオン』とだけ名乗っておくか。
だが、私には貴様の考えている事などお見通しだ。
さては、エクシーズ次元の者共に恨みがあるのだろう?」
「それで、あなたは何が言いたいの?用がないならさっさとここからいなくなってちょうだい?」
そしてその魔女…自称司祭『コンベルサシオン』はネプテューヌの心が乱れている事を指摘する。
その彼女は強がりを見せてはいるが、動揺を隠せない様子であった。
「ふん、どのみち用を済ませたら言われずとも退散する心算さ。
だが、力不足を悩んでいるんじゃないか?」
「力不足…?」
「できるなら早くエクシーズ次元に突入し、憎い敵を殲滅したい。
貴様の妹を奪った…な。
だが、今のままでは返り討ちが関の山…だから心の底では絶対的な力を渇望しているのだろう?」
「っ…!?」
どうやら彼女はネプテューヌの事をよくご存じのようである。
その指摘が図星だったためか、激しく動揺しているようであった。
実際はエクシーズ次元に対する事だけでなく、シンクロ次元のベールに敗れた事も関係しているのだが。
「ならこの私が力を与えようではないか…」
「ふざけないで…誰があなたのような得体のしれない人の力など…!」
「だが、このままでは貴様たち融合次元の者はエクシーズ次元の奴らに狩られるだけの負け犬のままだぞ?
エクシーズ次元の者共を一網打尽にできるチャンスが欲しくないか?」
「くっ…!」
得体のしれない司祭からの施しを突っぱねようとするも、悪徳商人ながらの心の隙間を突いた誘いにネプテューヌの心は揺れる。
もう少し心が平静であればこんな誘いには乗らなかったのだろうが、生憎…!
「あいつらを倒す力が…欲しい……!」
「その言葉を待っていたぞ。
ならば力を与えようではないか…!」
――パッ…パシッ!
「このカードは…!」
「そいつが奴らを一網打尽にできる強い力が秘められたカード。
もっとも、使いこなせなければただの宝の持ち腐れではあるがな。
では私はこれで退散する事にしよう。
精々そいつを使いこなせるように頑張る事だ…アッーハッハッハ!!」
「待って!」
――ピシュンッ!!
「消えちゃった…」
そして、その女はネプテューヌに1枚のカードを渡し、言いたい事を言い残すとこの場から瞬時に消えてしまった。
呆然するネプテューヌであったが、その手には彼女から投げ渡されたカードが握られていた。
そのカードの名は…!
「『超融合』……か。」
超融合…つまり、融合召喚を行う一種のカードのようであった。
その効果を見たネプテューヌの表情は…不気味な笑みを浮かべていた。
そのカードをデッキに入れつつ歩いていた方向とは別方向…ブランたちがデュエルしている方へ向き直る。
そして、カオス・リベリオンを手に取ると…!
「カオス・リベリオンが言っている…あっちの方に何かがあるってね。」
そのまま呼び寄せられるように狂気を孕んだ目のままその方向へ歩き出していってしまった。
――ピロロロロ…
…ディスクからの呼び出し音にも応じる様子はない。
超次元ゲイム ARC-V 第68話
『闇に墜ちし女神』
ブラン:LP4000
ザリガンマン:DEF2100
ハードシェル・クラブ:DEF2100 ORU2
ノワール:LP4000
BB−フリント・ラプター:ATK2200
BB−フリント・ドラグニス:ATK2400
Side:ブラン
ひょんなことからエクシーズ次元の女神を称したノワールとデュエルする事となった。
その彼女が融合とシンクロを後攻1ターン目で立て続けに出してきた。
しかも、その2体のレベルは両方とも7…ここからエクシーズにもつなげられるわけだ。
流石にそのタイミングは今じゃないとは思うけど…!
「その2つの召喚法って…他の次元へ行った時に習得したのかしら?
わたしの場合は違うけど。」
「シンクロ召喚についてはそうなるのかな…あまりいい思い出はないのよね。
融合召喚は…あなたも名前は知ってるその月子に教えてもらったのよ。」
「マジかよ…」
融合を見下しているという風潮がある中で教わったのか。
ってか、紫吹の妹…もしそうなら本当に向こうに協力的ってなるのか?
兄の方の紫吹やネプテューヌがそれを知ったら、多分卒倒するんじゃないかしら?
聞いたわたしも流石にこれにはびっくりしたけど。
一方でシンクロ次元にはあまりいい思い出はないか…そっちに何かあるなこれは。
「少なくとも月子ってそっちに協力的なんだな…」
「それについてはむしろわたしの方が驚いているくらいよ…。
それは兎も角、デュエルを進めるわよ。
バトル!まずはフリント・ラプターでザリガンマンを攻撃!」
まずは破壊耐性の無いザリガンマンを狙ってきたか…!
そうなると、手札を考えるとここで使っておく。
「この瞬間、手札の水属性1体を捨て、ザリガンマンの効果を発動!
1ターンに1度、手札の水属性1体を捨てる事で相手の特殊召喚されたモンスター1体を対象にして破壊し、600ダメージを与える!
この対象は当然フリント・ラプター!喰らえ『スカーレット・バレット』!!」
「させないわよ!手札を1枚捨て、フリント・ラプターのモンスター効果を発動!
融合召喚したこのカードが表側表示で存在する限り1度だけ、手札を1枚捨てる事で相手の魔法・罠・モンスター効果を無効にし破壊できる!
焼け付く嵐でその効果ごとザリガンマンを焼き飛ばしなさい!『ブレイジング・スパイラル』!!」
――ボォォォォォォォ!!
「効果が無効にされた上に破壊された…!」
もっとも、フリント・ラプターの効果は万能カウンターとはいえ表側でいる限り適用できるのは1度だけ。
逆に言えば、使わせずに放置しておけば厄介だからここで使わせられたのは大きいはず。
それに、ただ単に破壊されたわけじゃない。
が、効果処理待ちの効果があるのはわたしだけとは限らないようで…!
「これだけじゃないわよ!
手札から墓地へ送ったのは『BB』モンスター。
この瞬間、墓地の『BB−パイロ・ソード』を除外し、ハードシェル・クラブを対象に効果発動!
その対象のモンスターを破壊よ!」
「っ…だけど、それにチェーンする形でこっちは水属性のコストで墓地へ送られた『甲殻剣豪スピニー・ブレード』!
そして今しがたフィールドから墓地へ送られた『ザリガンマン』のもう1つの効果の順で発動!
ザリガンマンの効果で墓地の攻撃力1500以下の水属性2体…ザリガニカブトとザリガンを手札に戻す。
そして、スピニー・ブレードの効果で1枚ドロー!」
「へぇ、倒されても逆に一気に手札を増やしてくるのね。」
とはいってもこれらはコンボ前提で単体では機能しないカードばかりだけどな。
こればかりはしゃあない。
「でも、パイロ・ソードの効果でハードシェル・クラブを破壊よ!」
「ハードシェル・クラブが破壊される場合、代わりに素材を1つ取り除く事で破壊をまぬがれる!」
ハードシェル・クラブ:DEF2100 ORU2→1
「あなたねぇ…なんでオーバーレイ・ユニットの事を素材って言うの?」
「いや、だってねぇ…カードテキストにもX素材って書いてあるし。」
あれ…素材って言ったらなんだか彼女の声色が変わった?
しまった、どうも癇に障ったみたいだ。
「ふーん、まぁいいわ…エクシーズ次元じゃその呼び方は許されないとだけ言っておくわ。
ここがスタンダード次元でよかったわね…別に無理に変えなくていいけど、一応ね。」
「お、おう…」
許されないのか…テキストにあるX素材が正式名称のはずなのに解せぬ。
「その話はさておき、オーバーレイ・ユニットが取り除かれた事でフリント・ドラゴニスのモンスター効果を発動!
この効果でフィールドのカード1枚を破壊できるわけだけど、ここは再びハードシェルを破壊させてもらうわ。」
「同様に素材を1つ取り除いてハードシェルの破壊を防ぐ。」
ハードシェル・クラブ:DEF2100 ORU1→0
かなり投げやりになって気がするけど、次からは防ぎきれない。
さらに、フリント・ラプターの攻撃中なわけで…!
「これでもうその効果が適応できないわね。
巻き戻しにより、フリント・ラプターの攻撃はハードシェルを対象とするわ!『バーニング・クロー』!!」
――ズバァッ!!
「ごめん、ハードシェル…!」
「よそ見しちゃダメよ!フリント・ドラゴニスでダイレクトアタック!『ボルカニック・ダイブ』!!」
――ボォォォォォ…ドゴォォォォ!!
「ぐあっ!!」
ブラン:LP4000→1600
うっ…流石にエクシーズによる攻撃ではないとはいえとはいえ、女神な事だけはあって衝撃が半端ない。
あの通り魔の時のような変調は今のところ起きていないけど、あれはシンクロ使いのシンクロに殴られたからだ。
これがエクシーズのダイレクトアタックだったら理性を抑えきれなかったかもしれない。
そう考えるととてつもなく恐ろしい。
だが、こういった緊張感のあるデュエルは個人的には嫌いじゃない。
個人的にはだけどな。
「やってくれるぜ…」
「どう?効いたでしょ?でもこの程度で下がるつもりはないでしょ?」
「ははっ、そりゃ当然な…」
もっとも、この程度は想定内だ。
むしろ、フリント・ラプターの効果を使い切らせたのは大きい。
が、それをただで放置するはずはないと思うが…?
「まぁ、これでこのターンのバトルは終了しておくわね。
わたしはカードを2枚伏せてターンエンド。」
「ん?」
「何かおかしい?あなたのターンよ?」
「いや…なんでもない。」
ふむ?ここでエクシーズせずにターンエンドか。
思わず声を漏らして不審がられるもここは誤魔化しておく。
む?これはいかにも何かありそうだな。
「さて、今までのはお手並み拝見…ここからが本番だ!ドロー!」
さて、ここで流れを変えないと一気に敗走なわけだが…よし、ワンチャンいける。
「まずは魔法カード『強欲なウツボ』を発動!
手札に水属性…『ザリガン』と『エビカブト』の2体をデッキに戻し3枚ドロー!」
「手札交換に使うのね…で、いいカードは引けた?」
うわぁ、ここでこいつを引いちゃうか。
女神の立場上これは拙い気がするんだが…引いてしまったものは仕方ない。
えーい、仕方ない!
「も、もちのロンだ!スケール4の『甲殻神騎オッドシェル
甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター:Pスケール4
甲殻鎧竜オッドアイズ・オマール・ドラゴン:Pスケール4
「ペンデュラム…モンスターと魔法を兼ねたカードなのね。
聞いてはいたけど、あなたって奇妙なカードを使うのね。」
「確かに奇妙といわれりゃそうかもしれないけど。
兎に角、これがペンデュラム召喚に使うカードだ。」
「もっとも、その2枚じゃペンデュラム召喚はできないよね?」
確かにペンデュラム召喚できるのは2枚のペンデュラムカードのスケールの値の間のレベルのモンスターのみ。
スケールの値が1しか違ってなかったり同じだったらペンデュラム召喚はできない。
それでも、ペンデュラム効果は使えるから大して問題ないけどな。
「まぁそうなるな…だけど、ペンデュラム効果という永続魔法みたいな効果は使えるけどな。
そんなわけでオマール・ドラゴンのペンデュラム効果を発動!
もう片方のPゾーンの『ロブスター』カード1枚を破壊し、デッキから『魔術師』のモンスター1体をそのペンデュラムゾーンにセッティングする!
この効果によりオッドシェルを破壊し、デッキからスケール8の『霊媒の魔術師』をペンデュラムゾーンにセッティング!」
霊媒の魔術師:Pスケール8
「えっ…破壊されたもう1枚のカードが墓地へ行かず、エクストラデッキに?」
「ペンデュラムモンスターはフィールドから墓地へ送られる場合、墓地へ行かずエクストラデッキに表側表示に送られる性質がある。」
「これが何を意味するのかは…後でわかるよ。」
デニス、説明になってないけど補足ありがと。
まぁ、最初は何を言っているのか不明よね。
「そしてこれでレベル5から7のモンスターが同時に召喚可能!」
「へぇ、2枚のスケールの間のレベルのモンスターを好きなだけ特殊召喚できるわけね。」
「よくご存じね…だけど、1つ見落としているよ?」
「え?」
ペンデュラムの一番重要な点をね。
「揺れろ、魂のペンデュラム!天界に架かれ、流星のビヴロスト!ペンデュラム召喚!
エクストラデッキから出でよ!2色の殻持つ力強き我がエース!『甲殻神騎オッドシェル
『ウオォォォォォォォォォォ!!』
甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター:ATK2500 forEX
「1体だけだけどこれがあなたのエースモンスター…相手にとって不足はないわ。
って…え、エクストラデッキからも特殊召喚できるの!?」
「そう、これがペンデュラム召喚の恐ろしい所さ。」
「あ、エクストラから出せるのはペンデュラムモンスターだけだけどな。
ちなみに手札からはペンデュラム以外のモンスターも出せるし、呼び出せるのはその気になれば1体だけじゃない。」
「それってつまり…バウンスとか除外とかしない限り、除去してもペンデュラム召喚でまた復活できちゃうって事じゃない!
想像以上に相手にするのしんどい召喚法じゃないのもう!」
「ああ、それが最大の強みだ…これがスタンダードならではの新たな召喚法さ。」
お、いい感じに驚いてる。
もっとも、デッキバウンスとか除外とかすればいいし、ペンデュラムゾーンのカードを割れば済む話だけどな。
ペンデュラムの性質上、手札を一気に使いかねないしいわゆるゾンビを活かしきれないと手札枯渇しやすいからなぁ。
そして、ここからさらに一歩踏み込んでみる。
「そして、そこからさらに一歩踏み込んでみるとする。
続いて、チューナーモンスター『ウェーブ・ガードナー』を召喚!」
ウェーブ・ガードナー:ATK600
「チューナーって事は…そっちも!?」
「そういう事、ついでに言うとエクシーズよりこっちの方が得意だって自覚はある。
わたしはレベル7のオッドシェル・P・ロブスターにレベル3のウェーブ・ガードナーをチューニング!
波動の魔術よ、閃光と共に甲殻の鎧に今宿らん!シンクロ召喚!出でよ、レベル10!魔術纏いし『甲殻魔将ルーンシェル
『ヌオォォォォォォォォォッ!!』
甲殻魔将ルーンシェル・P・ロブスター:ATK3000
ここで更にシンクロ召喚によりエースを進化させておく。
いつもの霊媒の魔術師を使ったシンクロ召喚じゃないから、強力な耐性は発揮できないけどこれでも十分強い。
「シンクロ召喚でエースモンスターを更に進化させてきたみたいね。
実はスタンダードと聞いて内心甘く見ていたけど、ペンデュラムといい見誤っていた事は謝るわ。」
「お、おう…それはどうも。
もっとも、このような通常のシンクロ召喚じゃ真価は発揮できない。
それでも、こいつは十分強力だぞ?」
「だけど、それでいい気にならないでよね。
まだわたしはエクシーズ召喚さえしていない事を忘れないでよね?」
「うっ…」
まぁ、逆に言えば相手がエクシーズすら出していないのにこれを出している時点で嫌なフラグを感じてるんだよなぁ。
如何せん自分でも感じているのだけど、飛ばし過ぎというかなんというか。
しかも切り札という割には結構突破されたりしているし。
兎に角、今回はこれで攻めに行く。
「だけど、シンクロ召喚したルーンシェルは1度のバトルフェイズに3回までモンスターに攻撃可能。
よって、このターンでその2体は倒させてもらう心算。
まぁ、そう事は上手くはいかないだろうけどバトル!ルーンシェルでまずはフリント・ドラゴニスに攻撃!」
「でも…あなたがそう来るのなら、そろそろわたしも全力を見せなきゃならないようね。
デュエル前のあなたの注意を無視するようで申し訳ないけど!
この瞬間、罠カード『ワンダー・エクシーズ』を発動!」
「ワンダー・エクシーズ…!?」
「あちゃ…ノワール、ついにアレを見せちゃうんだね。
それだけブランちゃんが手強いって認めたのだろうけど。」
ノワールとデニスのこの発言…つまり、これってまさか!?
「この効果で実質如何なるタイミングでも自分フィールドのモンスターを使ってのエクシーズ召喚を行う事が可能となる!」
「っ…!」
やはり相手ターンにエクシーズ召喚を行うカード!
だから、自分のターンにエクシーズ召喚を行わなかったのか!
それに女神としての本能が叫んでいる…このエクシーズ召喚を通したら拙いと。
予想通りなら、否応なしに自分が自分でいられなくなる危険性が高い。
だけど、あのカード自体を止める手段は…今のわたしにはない。
「はぁ、はぁ…行くわよ、わたしはレベル7のフリント・ラプターとフリント・ドラゴニスの2体でオーバーレイ!」
「ぐ…あ……」
「「!?」」
まだ召喚前だというのに頭が痛い…苦しい……!
くっ、女神である事を自覚したというのに…また抗えないのか…!
――シュオォォォォォ!!
「ぐあ…あ゛…!」
「ちょっ…熱くならないでノワール、ストップ!
なんかブランちゃんが大変な事になってるんだけど!
てかノワールも大変な事になってるんだけど!!僕が悪かったからもうデュエルを止めちゃって!」
「今そんな事言われても…共鳴し合っちゃってもう…!!
漆黒の闇より生まれし焔よ、我が信じる正義のために刃向う敵を焼き尽くさん!エクシーズ召喚!!」
気が付いたらわたしもノワールも女神の姿に変わってしまってた……!
どうもルーンシェルと彼女が今召喚しようとしているエクシーズモンスターが呼び合ってるようで…!
このまま召喚されたら恐らく両方ともただじゃ済まないかも。
……こうなったら一か八かこの伏せカードを!
「やめろ!それはマジでやばい!!
…『甲殻』モンスターのルーンシェルをリリースし、カウンター罠『クラスティ・リジェクション』を発動!」
「っ…ここでカウンター罠!?」
「お、このカードは…!」
えーい、ままよ!
って、まじかよ…エラーを吐かずにリリースされたという事は発動できた?
「はぁ、はぁ…この効果により、その召喚・特殊召喚を無効にし破壊する!!」
「でもワンダー・エクシーズはカード効果によるエクシーズ召喚のはずだからチェーンに…」
――パリィィィィン!!
「っ…!」
「ぐあっ…!」
反動で後方へ倒れ込んでしまったけど、何とか最悪の事態は阻止できたみたいだ。
どうやら、このエクシーズ召喚をこの効果でカウンターできたようだぜ…なんで無効にできたのかわからないけど!
「ワンダー・エクシーズによるエクシーズ召喚が無効にされた!?一体何が起こって…」
「ノワール…これは一流でも勘違いしやすいけど、ワンダー・エクシーズによってエクシーズ召喚が行われるのは効果処理終了後。
だからチェーンに乗らない特殊召喚扱いになってしまうから、あのカウンター罠で止められたみたいだ…!
やっぱりすごいよ…ブランちゃんは。」
「そうだったんだ…でも、止めた本人が一番動揺してるみたいだけど?」
「え?」
デニスがその理由を解説してくれた。
本当に自分でもびっくりだよ…この手のカードは前例がなかっただけにな。
とりあえず、このような形でのエクシーズ召喚やシンクロ召喚はチェーンに乗らないと覚えておこう。
本当にいい勉強になったものだ。
これでエクシーズ召喚の素材ごと彼女のエースエクシーズを召喚前に処理できたのは嬉しい誤算だ。
エクシーズの名を持つモンスターを呼び出されたら本気でどうなっていた事か。
それはさておき、この罠のもう1つの効果処理だ。
「本気でどうなる事かと思ったよ…で、デュエルに戻るわ。
そして、クラスティ・リジェクションにはもう1つ効果がある。
その後、リリースしたモンスターよりレベルが2つ低い『甲殻』モンスター1体を攻撃力800下げてデッキから特殊召喚する!
リリースしたモンスターのレベルは10…よってレベル8の『甲殻星帝オマール・アンプルール』を特殊召喚!」
『フンッ!』
甲殻星帝オマール・アンプルール:ATK2800→2000
「下級クラスまで攻撃力が下がっているとはいえ、最上級のモンスターを…!」
「驚くのはまだ早いわ!リリースされたルーンシェルの効果も発動!
シンクロ召喚されたルーンシェルが墓地へ送られた場合、エクストラデッキの表側表示の『ロブスター』ペンデュラム1体を特殊召喚できる!
これにより、さっきシンクロ素材となり、エクストラデッキへ送られた『甲殻神騎オッドシェル
『ウオォォォォォォォォ!!』
甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター:ATK2500
「カウンターしてモンスターが減るどころか増えた…やるじゃない。」
今回の場合はたまたまだけどな。
その偶然のチャンスをいかに掴むにするかが重要ではあるが。
とりあえず、お互いにある程度手の内を図れただろうしそろそろ決めに行きたい。
「バトル!オッドシェルでダイレクトアタック!『螺旋のシュトロム・シュラーク』!!」
――ドゴォォォォォォ!!
「っ…きゃぁぁぁぁぁあ!!」
ノワール:LP4000→1500
普通に喰らった!?おい、オッドシェルの攻撃受けたら拙くないか?
召喚法の名を持つモンスターの攻撃だけど、大丈夫か?
「がはっ……」
「の、ノワール?」
「おい、大丈夫か?」
「っ…デュエル中は相手の心配より自分を心配なさい…!
戦闘・効果ダメージを受けたこの瞬間!罠カード『
墓地の融合・シンクロ・エクシーズモンスターを1体ずつ除外し、あなたに2000ダメージを与えるわよ!」
攻撃を受けたと思ったら、罠で大ダメージを狙いに来やがった…!
エクシーズ召喚が無効にされる事を見越して伏せていたのね…やってくれるじゃない。
でも、これはこのデュエルの幕引きに利用できる!
「くっ…なら、このデュエルはここまでにしよう。
水属性が存在し、わたしにダメージを与えるカードが発動した時、カウンター罠『リアクション・スプラッシュ』を発動!
その効果の1つを適応し、わたしが受けるそのダメージを倍にして相手も受ける!」
「なっ…ダメージをわたしにも!?」
「ってことは…!」
そう…とりあえず、このデュエルはこれで終わりだ…!
「え、ちょ…こんな終わり方ってありなの!?」
「むしろ、このデュエルは引き分けで丸く収めた方がお互いの…」
――ドゴォォォォォォォォォォ!!
「ぎゃぁぁぁあぁぁ!!」
ブラン:LP1600→0
「のわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ノワール:LP1500→0
言えなかったよクソボケが!
とりあえず、引き分けという形で終わらせる。
もっとも…本当ならこのカウンター罠のもう1つの効果で勝ててた可能性がある。
だけど、これはあくまでもお互いを知るためのデュエル。
適当な所でお茶を濁したかったし、これでいいはずだ。
一先ず、お互いに無事に終われてホッと一息。
「あなたねぇ、この土壇場で引き分けにしてくるなんて…」
「いや、今回は顔見せみたいなもんだしこれでいいだろ。」
「あはは、ブランちゃんらしいや。」
それにしてはお互いに手の内を晒し過ぎた感があるっちゃあるけど。
…いや、儀式召喚なんかは披露してないから大したことはないけど。
「で、融合次元に行っても問題ないわよね?」
「あなた、本気であそこへ行く気だったのね。
けど、あなたの実力はよくわかったわ…行きたいなら勝手に行きなさいよ。
ただし、融合次元の人もエクシーズ次元の人もあなたのような第3者は決して歓迎しないとだけは言っておくわ。」
「…ま、せいぜい魔女にばったり会って折角ものにした女神の力を抜き取られないように頑張りなよ。」
「肝に銘じておくわ。」
辛辣な言葉を浴びせられたけど、この分だとある程度はわたしの事を一応は認めてくれたのかしら?
そうであると有難いわね。
「で、ノワール…こちらとしては良くも悪くも実直で真剣にデュエルに向き合っている印象を受けたわ。
危険であるのにもかかわらず、あの状況でエースを出そうとしていた所も含めてね。
カウンター罠で止められなかったらどうなっていた事か。」
「うっ、ごめんなさい。」
「まぁ、これに関しては勢いのままにオッドシェルを出したわたしも悪いのだけどね。」
ノワールのデュエルからは他次元の召喚法を取り入れつつも真剣な様子が伺えた。
あのワンダー・エクシーズもあの場面で使う事こそが効果的だったから使ったのだろうし。
それで、融合召喚は紫吹雲雀の妹の月子から教えてもらったらしい事を聞いた。
彼女との関係は比較的良好なのだろう事が想像できる。
それもあって、なんとなく柚子を悪いようにはしないだろうってわかる。
だから、彼女は敵ではあるけど一先ず信用に値できると思った。
「それで、何が言いたいのよ?」
「あなたたちがシンクロ次元にいる柚子をエクシーズ次元に連れ去ろうとしても止めはしないわ…今のところはね。
シンクロ次元のベールという得体のしれない女よりはあなたがたに連れ去られた方がまだ安心だから。」
「はぁ…買いかぶり過ぎよ。
ま、そっちの方が都合はいいんだけどね。」
「ええ、だから今回は引き分けに免じて見逃してあげるわ。」
「それはこっちの台詞よ!つ…次は容赦しないからね!」
ツンデレ乙…と言ったら殴られるだろうしやめておこう。
エクシーズの女神の戦術やある程度の人となりがどうなのかというのもわかったし、上々だな。
「僕も一先ず退散しておくけど、ここで話した事…ミンナニハナイショダヨ?」
「む…善処しておくわ。」
「あ、餞別というか賄賂としてこれを渡しておくよ。」
――パッ…パシッ!
「これは…エクシーズモンスター?
後、賄賂ってなんだ賄賂って…」
「ま、これで口封じできればいいと思ってね。
もっとも、これは僕たちにとって取るに足らないエクシーズさ…だけど、君にとっては貴重だろう?
これを使って融合次元での立ち回りに役立ててくれたら幸いだよ。」
「デニス…あなたもなんだかんだお人よしよね。
ここで会った事は記憶の片隅にしまっておいてよね。」
「まぁ、喋るつもりはないよ…一応、これはありがたく頂戴するわ。
後で返せと言っても返すつもりはないわ。」
賄賂代わりにデニスはエクシーズモンスターを渡してきやがった。
なんか聞いた事ある台詞と共に…北斗の奴、元気かなぁ?
今まで持っている奴とスペック的には同じ位のランク3エクシーズ。
微妙にこっちの方が強いけど。
それとこっちは種族が違うのが痛いものの、効果は中々便利そうだ。
エクストラデッキのスロットはまだ余裕があるから何も問題はない。
もらえるものはありがたく受け取っておく。
もっとも、正体について端っから大っぴらにするつもりはない。
ノワールやデニスには働いてもらわないと都合が悪いしね。
「さてと、僕はこれでおいとまさせてもらおうかな。」
「わかった、気を付けて。」
「時間取らせてごめんなさい、引き続きモアのお守り頼んだわよ。」
「もちろんさ、シーユー!」
――ビュンッ!!
すると、デニスは跳躍して屋根伝いに移動していった。
しかも、彼のエース(仮)のエアリアル・マジシャンを呼び出して派手にね。
ある程度派手にやった方が逆にこそこそしているよりは目立たないって訳か。
まぁ、あれならせいぜいエンタメの練習しているんだなくらいに思えるからね。
それに、やっぱり彼ってエンタメでこそ輝くんだなと思わざるを得ないわね。
そんなわけでこの場にはわたしとノワールの2人だけが残された。
まぁ、特にどうもするつもりはないのだけど。
「わたしはこれからシンクロ次元に向かうとするわ。
エクシーズ次元でまた会いましょ?それまでやられないでよね。」
「それはこっちの台詞だ…もっとも場合によってはそっち側につくかもしれないとだけは言っておく。
もっとも、そこにあまり期待されてもそれはそれで困るけどな。」
「ま、精々期待しないで待つとするわ、それじゃ…!」
「お互い、お気をつけ…」
――ドクッ!
なんだ!?ここに何かの気配が近づいてくる?
見知った誰かのような…まるで違うような異様な感じの。
誰だか知らないが…!
「カニメデス!」
『ヌゥゥゥンッ!!』
甲殻拳士カニメデス:ATK2500
――ガキィィィィ!!
『グルルルル…!!』
GHカオス・リベリオン・F・シデン:ATK2500
カニメデスを迎撃させるも…!
んなっ、カオス・リベリオンだと!?
って事は、ここを襲撃してきた奴は…!
「何をしやがる、ネプテューヌ!!」
「邪魔をしないでくれる?スタンダードの女神…!
そこにいる憎きエクシーズの女神を始末するためにもね!!」
「あれはまさか融合次元の女神…なの!?」
女神の姿になったネプテューヌだった…だけど明らかに様子がおかしい。
さっき会った時と違い、明らかに表情に狂気を孕んでいるようで…本当に何があったんだよ…?
続く
登場カード補足
融合・効果モンスター
星7/闇属性/炎族/攻2200/守1600
炎族・闇属性モンスター+岩石族・闇属性モンスター
(1):融合召喚したこのカードが表側表示で存在する限り1度だけ、相手がモンスターの効果・魔法・罠カードを発動した時、手札を1枚捨てて発動できる。
その発動を無効にし破壊する。
(2):フィールドのこのカードを素材としてX召喚したモンスターは以下の効果を得る。
●このX召喚に成功した場合に発動できる。
相手に800ダメージを与え、自分はデッキから1枚ドローする。
シンクロ・効果モンスター
星7/闇属性/炎族/攻2400/守1700
チューナー+チューナー以外の炎族モンスター1体以上
(1):1ターンに1度、フィールドのX素材が取り除かれた場合、フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
(2):フィールドのこのカードを素材としてX召喚したモンスターは以下の効果を得る。
●このX召喚に成功した場合に発動できる。
相手に800ダメージを与え、デッキからモンスター1体を墓地へ送る。
クラスティ・リジェクション
カウンター罠
(1):相手がモンスターを召喚・特殊召喚する際に、自分フィールドの「甲殻」モンスター1体をリリースして発動できる。
その召喚・特殊召喚を無効にし、そのモンスターを破壊する。
その後、リリースしたモンスターよりレベルが2つ低い「甲殻」モンスター1体をデッキから特殊召喚できる。
この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は800ダウンし、エンドフェイズに破壊される。
リアクション・スプラッシュ
カウンター罠
(1):自分フィールドに水属性モンスターが存在し、自分にダメージを与える効果を発動した時、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●その効果で発生する自分への効果ダメージは0になり、自分はデッキから1枚ドローする。
●その効果ダメージを倍にし、その効果で発生する自分への効果ダメージは相手も受ける。
通常罠
「BB−バーニングマイト」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分が戦闘・効果ダメージを受けた時、自分の墓地の融合・S・Xモンスターをそれぞれ1体ずつ除外して発動できる。
相手に2000ダメージを与える。
(2):墓地のこのカードを除外し、除外されている自分の「BB」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを手札に加える。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。