No Side
どんよりとした曇り空の下。
ブランがLDSに赴いた傍ら、遊勝塾の前では…!
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」
修造:LP1800→0
「「「塾長!!」」」
塾長が黒いローブで身に包んだ謎の少女にデュエルに挑まれ倒されていた。
「融合召喚とシンクロ召喚の両方をLDSの人たち以上に高いレベルで使いこなすなんて…!」
「この人、一体何者なの?」
「痺れすぎて、まじやべぇよ…」
どうやら、この少女は少なくとも融合召喚とシンクロ召喚を同時に扱えるらしい。
スタンダード次元はもとより、他の次元でも複数の召喚法を扱えるデュエリストはそうそういるものではない。
それに加え、かつてはプロデュエリストであった柊修造を軽く退けた事から相当な手練れの様である。
「くっ…俺の熱血デュエルがここまで通用しないとは……」
「それじゃ、約束通り柊柚子の居場所を吐いてもらうわよ。
柊柚子がここの出身だという事は事前に調べさせてもらったからね。」
「…俺の娘をどうする気だ?」
「わたしたちにちょっと協力してもらうだけ、手荒に扱うつもりはないわ。
でも…早く言わないと、あなたたちみんながどうなっても知らないから。」
「っ…!」
そして、彼女の目的は…行方不明になったはずの柊柚子のようだ。
親心としては得体のしれない彼女に娘の情報を渡したくはないが、脅しをかけられる。
もし、ここでさらに抵抗した場合…子供たちが手にかけられるかもしれない。
それだけは絶対に避けなければならない…塾長としても。
「くそっ…本当に柚子の居場所を知りたいのは俺たちの方だってのに…!」
「は?」
「誰とも知らない奴には教える義理はなかったんだが仕方ない。
何者かに連れ去られたらしい…この次元じゃないどこかに!」
「この期に及んで何よそれ!あなたたち、まさか出鱈目を…」
もっとも、詳しい居場所を塾長は知らないのだ。
子供たちを守ろうにもやむを得ない所だが、この次元には既にいないらしいという情報を伝えるしかなかった。
当然、知りたい情報が得られなかった彼女は食って掛かるが…!
「柚子お姉ちゃん…ううっ。」
「あっ…」
「なぁ、この状況で出鱈目を言えると思うか…?」
「言えない…わよね。」
子供たちの泣き出しそうな表情からして嘘を言えるような状況ではない事を察したのか、納得したようだ。
「それじゃ、本当にあなたたちは…!」
「ああ、それしか聞かされていない。」
「そう…勝手に決めつけてごめんなさい。
まいったわね、当てが外れたわ。」
「おっと、そうだ。
これ以上何か知りたいなら、ここだとあっちの方にあるレオ・コーポレーションに赴くといい。
彼らなら何か掴んでいるのかもしれないからな。」
それを知った彼女は謝るが、修造は手掛かりのヒントとなる場所を教える。
流石に彼女に近い関係のブランの事までは口外はしないが。
「レオ・コーポレーション…そう、成程ね。
知らないなりに、少しでもこんなわたしに情報を提供してくれて感謝するわ。」
「デュエルの際の約束だからな…こんな拙い情報で申し訳ない。」
「いえ、後はこっちでなんとかしてみるわ…手間取らせてごめんなさい。」
「そうか…本当は柚子には良くないんだろうが、熱血だ。」
「ええ。」
お互いに苦い顔をしつつ、彼女は感謝と謝罪しつつこの場を立ち去って行った。
彼女の姿が見えなくなると、ようやくこの場の張りつめた空気が解かれる。
「ぜぇ、ぜぇ…」
「こ、怖かった…」
「あいつ、本当におっかなかったぜ。」
「どうなる事かと思ったよ。」
それと同時に緊張の糸が切れたのか、彼らはグロッキー状態となった。
下手すれば誰かが手にかけられた以上は仕方ないのだが。
「それにしても、あのローブをまとった女の子の顔…どうにもブランそっくりだったな。」
「「「…うん。」」」
そして、ここでようやく彼女の顔がブランに酷似している事を確認した頷き合った。
――ばさっ
「はぁ…どうしてこんな事になっちゃったんだろう?
プロフェッサーにどう説明したらいいの?」
そして、誰もいない物陰へ移動しためフードを取り彼女はため息を付く。
彼らは知る由もないが、彼女はエクシーズ次元の女神『ノワール』である。
バトルロイヤル中に柚子のブレスレットのせいでどこかへ飛ばされた後、なんだかんだでここへやってきたようだ。
本来なら柚子と遭遇した場所で日を改めてエクシーズ次元へ連れて行こうとしたのだが。
その目論見も失敗した今、彼女はどう動くのか。
「いや、レオ・コーポレーションって…もしかしたらあいつなら何か知ってるかも!」
――PiPi
『どうしたんだい、ノワール?』
「ねぇ、デニス…あなた、今何処にいるの?」
そこでノワールはエクシーズのスパイであるデニスと通話をする。
レオ・コーポレーションが経営するLDSに潜入していると事前に聞いていたためだ。
『うん?舞網市のレオ・コーポレーションの付近にいるけど?』
「レオ・コーポレーション…よし、ちょうどよかった。
だったら、柊柚子の居場所について心当たりない?」
『あちゃ、もしかしてとは思ってたけど失敗していたのか…こりゃまいったね。』
「ごめんなさい、実はトラブルがあって…」
そして、その彼がレオ・コーポレーションにいると聞きノワールが柊柚子について心当たりがないか聞き出す。
彼は呆れと困惑が混じったような声で答える。
なおトラブルとは突如として柚子のブレスレットが発動し、別の場所に飛ばされた事である。
『まぁ、そのトラブルが何なのかは兎も角…柊柚子の居場所については聞き耳しておいたよ。
問題はシンクロ次元に飛ばされたらしいって事なんだけどさ。』
「シンクロ次元ねぇ…はぁ。」
そして、シンクロ次元へ飛ばされたらしい事を聞くと思わずため息を付く。
どうも、厄介なことになったようである。
『ため息をつくと幸せが逃げるって言うよ?』
「ため息もつきたくなるわよ…迂闊に手を出したらわたしだって返り討ちにされかねないというのに。
まぁ、そこにいるとなったら否が応にも向かうしかないんだけどね。」
とはいえ、そこにいるのなら向かうしかないわけである。
そして、ここでデニスが彼女に対し…!
『君の方針はそうなるだろうけど、少しいいかな?』
「何よ?」
『僕が指定する人目につかない路地裏へ来てほしい、君に会わせたい人がいる。
柊柚子と幼馴染らしい女の子だ…君に酷似した顔のね。』
「わたしと酷似した顔って…まさかスタンダードの女神!?
とにかく…わかったわよ、行けばいいのね。」
『僕たちの素性を理解してもらおうと思ってね。
それと彼女への忠告を兼ねて…かな。
じゃ、その場所の位置は送っておくから!シーユー!』
――ツーツー
「切れちゃった…この次元の女神をわたしに会わせるなんて何を考えているの?
デュエルしようものなら、多分その子はただじゃすまないはずなのに…!」
どうやら、スタンダードの女神…ブランに会わせる心算のようだ。
彼の思惑を理解できないまま、彼女は送られたマップを頼りに指定された場所へ向かっていった。
超次元ゲイム ARC-V 第67話
『黒の女神との邂逅』
Side:ブラン
紫吹が部屋を後にしてわたしも部屋をでようとしたら、何故かデニスがわたしを壁に追いやった。
話がしたいというのだけど…こちらとしても彼がエクシーズの手先かどうか確かめないとね。
その上で何か聞き出せるかもしれないし。
「待って、話をしようにもここじゃ拙いよね?」
「ん?どういうことだい?」
「わたしが…あなたの素性を知っているとしたら?」
「!?」
だから、ちょっとカマをかけてみる。
実際には確信しているわけじゃないけど、ちょっとフリをね。
おお、喰いついてきたわね…効果は見事覿面の様だ。
本当だとしたら、こんな場所で話すわけにはいかないだろうからね。
「あちゃ、僕とした事が…何の事かな?」
「図星だな…だから、それをここで話すわけには行かないだろ?まずは場所を変えよう?」
「OK、ならうってつけの場所があるよ。」
「…じゃあ、そこへ行こう。」
どうやら、図星の様だ。
思った以上に想定外の事に対処しきれないのは道化師としてどうなのか。
それは兎も角、場所を変える事にする。
彼としては素性を知られたらまずいだろうからね…特に紫吹には。
罠だろうけど、ここは彼に示された場所へ行く事にする。
その上でも確認しておきたい事があるからね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・
・・・
そんなわけでレオ・コーポレーションから離れ、人目へつかない路地裏へ移動した。
なんか移動中に誰かと連絡していたけど、嫌な予感しかしない。
もっとも、紫吹たちの気配は多分ないはず。
だから、ここで改めて話をする事になる。
「ここでいいかな?」
「そうね…それじゃ、どうしてあなたの出自を疑ったのか。
その前に確認なのだけど、ロムは既にバトルロイヤルであなたと接触しているわよね?」
「そうだけど、それがどうかしたのかい?」
「そのロムからあなたに不審な点があると見抜いた事を聞いたんだ。
その指摘であなたのデュエルには不審な点がある事に気付いたらしい。
ペンデュラムを使っているわけでもなしに手札融合を使わずにフィールドから融合している事。
そして、何より素材モンスターのレベルが基本的に4と。」
「面白い着眼点だね?で?」
とぼけているけど、あなたが不審だという事は自分からもらしているのも同然よ?
「そして、融合召喚を使うはずのあなたがエクシーズ関連のカードをデッキに入れている事をロムが突き止めた事もね。
ここから察するに本来エクシーズ召喚を使用していたのを無理やり矯正して融合使いになった…違うかしら?」
ロムに言われて違和感を感じたのは融合召喚のやり方だ。
ペンデュラムを使うじゃない割りに素材をフィールドに出してから融合召喚していた。
しかも素材のモンスターはレベルが同じな事が多いとなれば猶更だ。
それに気づいただけでもロムはやっぱすごい…目の付け所が常人とは違う。
「あはは、僕って実はエクシーズ召喚もできるんだよね。
だから入れちゃったというか…」
「問題はそこじゃないの…それが本当なら堂々と融合召喚とエクシーズ召喚を使い分ければいいはず。
あなたが不自然なのはエクシーズ寄りのデッキにも関わらず、エクシーズ召喚をやらない事よ。」
もっとも、エクシーズ召喚ができない理由があるんだろうとは思う。
確か、召喚エネルギーを感知できる技術がある事を教えられたからね。
それぞれの次元出身によってそれが違う。
スタンダード次元ならペンデュラム召喚や儀式召喚、エクシーズ次元ならエクシーズ召喚のエネルギー検知というようにね。
仮にデニスがエクシーズ次元出身だとすれば…使えば誰かに出身がばれるわけだ。
だからそれじゃ、具合が悪いだろう事は容易に推測できるんだ。
「それにね、バトルロイヤルの際の密林地帯の時の言動に違和感を感じたのよね。
言いがかりかもしれないけど『他次元』って言葉にわざとらしく知らぬ存ぜぬな態度を示した所とかね。
それに…赤馬零児が三大召喚法に加え、ペンデュラムまで使った事に狼狽えていた所もね。
…あまりスタンダードの住民を見くびるなよ?エクシーズの手先め。
聞かされるまでは、本気でエンタメの先輩として尊敬してたというのに!」
「お〜、怖い怖い。
あはは、ここまで言い切られちゃったか…なんだかんだで君たちは侮れないね。」
エンタメデュエリストとして尊敬していた先輩が事情があったとはいえ侵略に手を貸していただろう事にショックを受けたのは本当よ。
それ込みで怒っているのは本当だ。
「で、本当に只の趣味というならここでエクシーズ召喚をやってみせてくれない?
エクシーズモンスターが入っているわたしのデッキ貸すから。」
「やめておくよ…そんな事をすれば彼らを本気で敵に回すだろうからね。」
あのさぁ…多分あの赤馬零児には既に素性を見抜かれていると思うぞ?
言わないでおくけど。
恐らく、それを承知で敢えてランサーズに入れてるんだろうからまったくもって性質が悪い。
「ま、僕の正体はお察しの通りとだけは言っておくよ。
で、それを知ってどうするつもりだい?」
「単刀直入に言えば、エクシーズ次元や融合次元の情報を知りたい。
といっても、そう簡単には教えてくれるとは思えないけどね。」
もっとも、ここで彼の素性を確認したのは情報が欲しいからに過ぎないわけだが。
エクシーズからのスパイだとすると向こうのおいしい情報を持っている可能性もありそうだからね。
とはいえ…別に争い合いをしたいわけじゃなかったりするけど、そう簡単に口を割ってくれるかどうか。
「あ〜はいはい、そういう事か…!
実は君に話があるというのもその事なんだ。」
「!?」
いよいよここで本題が来た…と思っていたら向こうからその話題を振ってくるのか。
「確か君はこれから融合次元へ向かう心算なんだよね?」
「さては聞き耳しやがったな…隠しても仕方ないから、素直にそう白状しておくよ。」
「それで君に忠告しておこうと思って話しかけたんだ。」
何を話すのかと思えば忠告だと?
という事は融合次元の情報を知っているのは確実。
いったい何をわたしに伝えようとしているのか?
「僕も行ったことあるけどはっきりいってあそこはやばいよ。
エクシーズ次元からの尖兵がいて今も住民との争いが続いているからね。」
「まさに次元戦争の真っ只中の地獄絵図ってわけだ…そんな事は百も承知だ。
だったら猶の事真相をこの目で確かめないと。」
次元戦争の真っ只中なのは最初からわかってる。
行けば確実に巻き込まれるし、どちら側も友好的じゃなさそうだしなぁ。
最悪どちらからも付け狙われる可能性が有りえそうだ。
それでも、次元戦争は早く如何にかしたいし、真相を自分の眼で確かめたいから。
「勇みいいね…でも、それじゃ生き残るのは難しい。
なにより『魔女』の勢力が今も巣を張っているだろうからね。
融合次元の住民はそいつらからいわゆる闇のカードを渡され変質した者もいたからね。
…僕も命からがら逃げかえったものさ。」
「それは大変だったようね。
で、『魔女』の勢力…そいつらがいわゆる『真の敵』って奴か?」
だとしたら、ネプテューヌたちの真の敵もそいつらってわけか。
そいつらのせいでエクシーズ次元が侵攻に乗り出さなきゃならなかったとするとだが。
闇のカードの名前は『ダーク・フュージョン』なる物騒な感じのシロモノだった事を聞いている。
もっとも、それだけじゃないだろうけどな。
「そうなるね…だけど、その魔女は迂闊にこっちも手を出せない存在である事がわかった。
手を出そうとした人はいるけど、デュエルすら漕ぎつけないままあえなく返り討ちになったからね。
僕たちも精々彼女が放った者を倒しつつ食い止めるので精一杯ってわけさ。」
成程、強すぎる或いは何かがあって手が出せずに討伐できていないってわけか。
放置するわけには行かないけど、食い止めるので精一杯…厄介そうじゃねぇか。
そして、デュエルすらできないまま返り討ちとか恐ろしいってレベルじゃない。
「バトルロイヤルに出現した例の化物や君を付け狙ったという集団も恐らくは彼女の息のかかった者だろうね。
そして、僕はその魔女の名前を知っている。。
マザコング…じゃなかった、マジェコンヌと呼ばれていたよ。」
「マジェコンヌ…!」
その黒幕の名はどうやら『マジェコンヌ』というらしい。
それだけじゃイマイチピンとこないけど、なんとなく危険そうな感じは受ける。
でだ…案の定、トリックとかいう化物もその息がかかっているのだそうだ。
そして、わたしを襲撃した眼鏡ことガナッシュ達3人もそうなのだという。
だとすると、エクシーズ次元が分裂状態にあるのは間違いなさそうだ。
そして、その脅威がこっちにも来たとなれば猶更他人ごとではいられない。
「僕が見た時は肌の色が悪い典型的な魔女の姿をしていたかな?今は正体を隠しているだろうけどね。」
「貴重な情報をありがとう。
そうなると、今まで無抵抗なものを含めて融合次元の住民をカードに封印したのは…!」
「そう…今のところは融合次元出身の者が闇のカードを使えば手に負えなくなる。
なぜそうなっているのかはわからないけどね…多分、召喚エネルギーを悪用した結果だって思っているけど。
だから一旦、一部を除いた融合次元の住民をカードに封印しつつ、元凶の勢力を弱らせようって事になったんだ。」
「でも、上手くいかなかったのよね?
しかもそれで紫吹たちの恨みを思い切り買ってるし、馬鹿なの死ぬの?」
「…あはっ♪」
はいそこ…笑ってごまかすんじゃないの。
こいつ、ぶん殴っていいかな?いや、そんなことしても仕方ないからしないけど。
しかし、色々機密らしきものまでべちゃくちゃと話してる気がするけど大丈夫かしら?
頭むみぃなの?馬鹿なの?
「それは兎も角として、君が狙われているのはなんでだろうね?
ま、君がスタンダード次元の女神だからだろうけどね。」
「女神の事も知っているのか…」
「そりゃそうさ…なんたってエクシーズの女神と知り合いだからね。
君と彼女は本当にそっくりな顔だ。」
「そこは知ってた。」
女神だからなのか?襲われた理由が。
理由としては女神は強大な力を持っているから?それとも?
それと、エクシーズ次元のもわたしとそっくりな顔らしいって事はわかった。
そいつがガナッシュが信仰しているらしいノワールのようだ。
「で、女神の力を狙っていると…だから、不用意に首突っ込むなって事かしら?」
「まぁね…下手をして力を与えてしまえばそれこそ手が付けられない事になるからね。
女神である君には余計な事は控えて欲しいっていうのが僕たちの要求さ。」
「だからといって、はいそうですかと引き下がれるわけねぇだろ?
これを聞かされて黙ってみていろと言われても、じっとできないっての。
それに柚子をなんとしても助けたいんだ…そのためにもこの戦争の元を断ち切らないと!」
それにそのマジェコンヌという魔女にはまだ会ってすらいないはずなんだ。
そこまで言うなら相応に危険な相手なんだろうけど、だからといって野放しにできない。
彼女の目的が何かわからないにしろ、碌でもない事は間違いないからな。
「…警告しても駄目みたいだね?」
「ああ、ここで引きさがるわけには行かない。」
「まいったな…仕方ないね…」
「あーもう、デニス!どうしてこんなところに…って!」
「ちょっ、わたしと同じ顔!?でも初対面って事は…!」
ここでフードで隠れているけど、わたしと同じ顔の少女がこっちに走ってきて姿を見せた。
わたしと同じ顔だけど、初めてみる相手って事は…!
「あなたはエクシーズ次元の女神のようね…?」
「そういうあなたこそ、スタンダードの女神みたいじゃない。
デニスが会わせたかったのって、この子よね?」
「そうなるね。」
っ…エクシーズ次元の女神で間違いないようだ。
そして、わたしがスタンダードの女神だという事をいち早く見抜きやがった。
だけど、通り魔ことシンクロ次元のベールよりは話が通じやすそうな第一印象だ。
もっとも、まだどう動いてくるのかはわからないわけだけど…油断はできない。
しかし、デニスは彼女とわたしを引き合わせてどうするつもりだ?
女神同士って事は只では済まない気がするが?
「で、わたしをこの子と引き合わせてどうするつもり?まさか…」
「そのまさかだよ、ノワール。
このブランって子にデュエルで身の程を弁えさせてほしいんだよね。
融合次元へ向かうなんて言い出すもんだからさ。」
「は?」
「じょ、冗談でしょ…女神同士をデュエルさせるなんてあなた馬鹿なの?」
案の定、わたしと彼女をデュエルさせる気の様だ。
おい、ちょっと待て…女神だとわかってて言ってるのかてめぇ!
最悪、どっちもただじゃ済まないぞこれ!
「だからこそだよ…魔女は女神以上の力を持つ凶悪な存在だからね。
だのに、女神同士のデュエルで臆してどうするのさ?ブランちゃん。
それにノワールだってスタンダードの女神の実力に興味はないかい?
彼女は君みたいに複数の召喚法を扱えるからね。」
「言ってくれるじゃないか、この野郎…」
「あーもう!そこまで言われたらこの子に手合せくらいはしてあげてもいいわよ…」
ただ、ノワールと呼ばれたエクシーズの女神をデュエルで見極めたい思いがあるって事は確かだ。
それに、複数の召喚法が使えるようだから、単純にデュエリストとしての興味がでてきてしまった。
リスクは小さくないけど…ここで逃げるわけにはいかなそうね。
「ただし、わたしは女神同士のデュエルを見た事ある。
融合次元のネプテューヌとシンクロ次元のベールとのデュエルをね。
それを見ていた時に暴走しそうになったから、やばくなったら力づくでも止めてくれ。
その時はどちらも只じゃ済まないからな。」
「ごめん、僕じゃ止められそうにないんだよね。」
「それくらい自分で何とかしなさいよ、女神なんだから!」
「確かにデュエルしてた2人には暴走の気配はなかったけどな!
まだわたしは女神として自覚したばかりだから扱いには気を付けてほしいって事だよ!」
情けない限りにね。
でも、自分で言うのもなんだけどなんか空気がおかしいぞ。
エクシーズ次元のボス格とデュエルする羽目になったというのに。
…うん、できるだけ暴走しないように自分でも気を付けよう。
気を付けただけで暴走を止められるとは思えないけど…発作みたいなものだし。
「ふーん、でもわたしならその辺問題ないけど。」
「あまり調子に乗ると痛い目を見るかもよ?そうなったら責任とれないわ。」
「別に構わないわよ…で、魔女に挑もうなんて一万光年早い事を思い知らせてあげるわ。」
「だったら、こっちはあなたの本質を見極めさせてもらうわ。
それと、光年は時間じゃなくて距離よ。」
「うっさいわね!別に距離でもいいじゃない!
茶番は置いておいて、さっさと始めましょ?」
兎に角、ここでお互いにソリッドビジョンのディスクを展開する。
相手のディスクはエクシーズ次元のもの特有の剣のようなソリッドビジョン。
そして、静寂した不穏な空気に包まれる中…!
「「デュエル!!」」
ブラン:LP4000
ノワール:LP4000
デュエルが始まる。
「先攻はあなたからでいいから。」
「あ、はい…それじゃ、お言葉に甘えるとするわ。」
とりあえず、先攻は譲ってくれたようだ。
さて、最初のターンは…この手札ならこうしよう。
「まずは手札から『コロソマ・ソルジャー』を召喚!」
コロソマ・ソルジャー:ATK1300
「このカードが召喚した時、手札の水族か魚族1体を墓地へ送って効果を発動。
この効果でデッキから1枚ドローする。
そして手札から墓地へ送られた『ザリガニカブト』の効果により、デッキからカニカブトとザリガンを1体ずつ手札に加える。」
「そのカニカブトにザリガン…そしてザリガニカブトって月子も使っていたわね。
前者の2枚は一見何の変哲もないバニラだというのに、どうしてサポートカードが多いの?」
「それをわたしに聞かれても…筆者が悪いとしか。」
「わたしが悪かったから、メタ発言はやめて…」
メタ発言が嫌なら、その話題振るなよ。
どうやら、ノワールも月子の事を知っているようだ。
「どうやら月子とは知り合いみたいね。
紫吹雲雀って奴の妹で柚子に似てるとされているけど。」
「柚子?そうだった…どうしてシンクロ次元なんかに連れていかれちゃったのよ。
その柊柚子をなんとしても連れて行かなきゃいけないというのに…」
「おい、ちょっと待て…柚子を連れていってどうするつもり?」
おいおい、柚子に喰いついてきたぞこいつ…悲しさと悔しさを滲ませたような顔で。
言葉は悪いが柚子を攫おうとしているらしい…未遂だったようだけど。
「どうするって…少しだけ協力してもらうだけよ。
例の魔女を倒し、世界をあるべき姿に正すためにもね。」
「は?協力だと?」
協力してほしいとの事だけど、柚子に何の力を求めてるというのよ。
だけど、柚子と似たような顔を持つ存在が少なくとも2人はいるわけで。
「そういえば、柚子と似た存在にエクシーズ次元のモアと紫吹の妹の月子…!
そして、月子もその口ぶりからしてエクシーズ次元へ連れて行ったのは間違いなさそうだけど何をする心算?」
「詳しい事はわたしも分からないわよ。
でも、彼女と同じ顔の4人の少女が重要なカギではあるらしい。」
「らしいってお前なぁ…イマイチ何のためにそうするのかわかったもんかよ。」
「ううっ…」
「あ〜、デュエル中だしこれ以上話すのはやめておこうか。」
釈然としないけど、デニスに止められたのでデュエルを続ける。
「とりあえず、魔法カード『シーフード・カーニバル』を発動。
手札から『カニカブト』を墓地へ送り、2枚ドロー!
そして手札から『ザリガン』をリリースし、この方法でのみ特殊召喚可能なモンスターを呼び出す!
穿て、紅き弾丸!現れろ、レベル6『ザリガンマン』!!」
ザリガンマン:DEF2100
とりあえずまずはザリガンマンを展開しておく。
相手ターンでの破壊効果を備え、牽制としては優秀な1体…まずはこれと!
「守備力も攻撃力もそこまで…ではあるけど、効果が中々厄介みたいね。」
「だろ?だけど、これだけじゃない。
ここで魔法カード『浮上』を発動し、墓地から『ザリガニカブト』を蘇らせる!」
ザリガニカブト:DEF900
「レベル3のモンスターが2体…へぇ。」
この反応からして流石にアレをする事は見抜かれているけど…!
「わたしはレベル3のコロソマ・ソルジャーとザリガニカブトでオーバーレイ!
エクシーズ召喚!ランク3『ハードシェル・クラブ』!」
『ヌンッ…!』
ハードシェル・クラブ:DEF2100 ORU2
ここはハードシェル・クラブを展開。
ファントムとのデュエルではビーストアイズに簡単に突破されたけど、様子見には最適だ。
とはいえ、そろそろこいつだけじゃ苦しくなってきたような気がする感もある。
スタンダードだからエクシーズモンスターは貴重だしね。
「はいはいハードシェルハードシェル…」
「デニス、はいはいホープホープみたいに言うのやめて!」
「本当に少なくともエクシーズ召喚はできるのね…!驚いたわ。」
「もっとも使える召喚法はエクシーズだけじゃないけどな…それはそっちも同じだろう?」
「ま、まぁね。」
お互いに使える召喚法は得意な召喚法だけじゃない。
他の次元の召喚法も使えるようになる世界が広がる気がしていいものだと思う。
もちろん自分の次元の召喚法に絶対の自信があるというのもアリだと思うけど、わたしはそうじゃないからね。
「わたしはカードを1枚伏せてターンエンド。
それじゃ、あなたのお手並みを見せてもらうわよ。」
「初手はハードシェルにザリガンマンか。
悪くない布陣だけど…」
「それじゃ、遠慮なく行かせてもらうわよ!わたしのターン、ドロー!
手札から魔法カード『
「フュージョンって事は融合…いきなりか!」
初っ端から本当に使ってきやがった…エクシーズではない他の召喚法を。
「あなたが初っ端からエクシーズだというのなら、こっちは融合で行かせてもらうわ。
わたしが融合するのは手札の『
炭素の翼よ!燃え上がる剣と混じり合い、黒き燃焼を起こせ!融合召喚!現れろ、黒焔の翼!レベル7『
『キィィィィィィ!!』
BB−フリント・ラプター:ATK2200
融合召喚により現れたのは黒い炎を纏った黒っぽい金属光沢を纏った鳥のようなモンスター。
わたしの友人だった頃のねねや紫吹といい、鳥使いって結構多い気がする。
たまたまわたしの知ってるデュエリストが…って事なのだろうけど。
それは兎も角、こいつは厄介な効果を持っている…!
「そして、カーボン・ウィングが墓地へ送られたターンのメインフェイズに除外し効果発動!
デッキからカーボン・ウィング以外の『
しかも、ただ融合召喚を行うだけでなくモンスターのサーチまで…!
相手はまだ通常召喚を行っていない…まだ何か来る!
「で、まだ通常召喚していないわよ。
手札からレベル3のチューナーモンスター『
BB−カーボン・バイト:ATK1000
「チューナー…まさか!」
「はは、そのまさかだよ。」
「ここでカーボン・バイトのモンスター効果を発動!
このカードが召喚に成功した時、墓地のレベル4以下の『
この効果で特殊召喚するのはレベル4の『
BB−パイロ・ソード:ATK1600
これでチューナーとチューナー以外のモンスターが相手の場に揃った…!
デニスが言っちゃってるけど、来る…!
「わたしはレベル4のパイロ・ソードにレベル3のカーボン・バイトをチューニング!
黒焦げし炭素よ!燃え盛る業火に呼応し、竜の姿を形作らん!シンクロ召喚!現れろ、黒焔の竜!レベル7『
『グオォォォォォォォォォ!!』
BB−フリント・ドラゴニス:ATK2400
融合に続き、今度はシンクロ召喚を行ってきたわね。
今度はラプターと同様な雰囲気の飛竜といった印象ね。
「融合に続き、シンクロモンスターまで…!」
「どう?怖気づいた?」
「まさか…知り合いには1ターンで融合、シンクロ、エクシーズを連続でやってのける奴を知ってるからね。
でも、エクシーズの女神が融合・シンクロを繰り出しているのは不思議な感じがするわね。」
「スタンダードながら既にエクシーズ召喚しているあなたには言われたくないわよ、もう。」
まぁ、スタンダードながらエクシーズ召喚などの召喚法に手を出してるわたしに言われたくないわよね。
だけど、エクシーズ次元って殆どがエクシーズ以外の召喚法を見下しているような印象があっただけに融合・シンクロと立て続けに出したのは感動できる。
そう、各召喚法にはそれぞれの良さがある。
今のように一つの召喚法にばかり固執せずに色々手を出しているのは可能性を広げる意味でも素晴らしいと思う。
それは兎も角、問題は地味にレベル7が2体揃っている事…!
よりにもよってレベル7だ。
オッドシェルやカオス・リベリオンなどの各召喚法の名を冠したモンスターも持つレベル7だ。
どう考えてもここから先は嫌な予感が拭えないが…どうなる事か。
続く
登場カード補足
効果モンスター
星4/闇属性/炎族/攻1600/守 200
「BB−パイロ・ソード」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。
手札から「BB」炎族モンスター1体を特殊召喚する。
(2):このカードが墓地に存在し、手札・フィールドから「BB」モンスターが墓地へ送られた場合、墓地のこのカードを除外し、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを破壊する。
効果モンスター
星3/闇属性/岩石族/攻 800/守1300
「BB−カーボン・ウィング」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。
手札から「BB」岩石族モンスター1体を特殊召喚する。
(2):このカードが墓地へ送られたターンのメインフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。
デッキから「BB−カーボン・ウィング」以外の「BB」岩石族モンスター1体を手札に加える。
チューナー・効果モンスター
星3/闇属性/岩石族/攻1000/守 300
このカードをS素材とする場合、炎族モンスターのS召喚にしか使用できない。
(1):このカードが召喚に成功した時、墓地のレベル4以下の「BB」炎族モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを効果を無効にして特殊召喚する。
(2):自分LPが2000以下の場合、相手モンスターの直接攻撃宣言時に墓地のこのカードを除外して発動できる。
その攻撃を無効にし、デッキから「BB」炎族モンスター1枚を手札に加える。
通常魔法
「BB−コンバッション・フュージョン」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分の手札・フィールドから、「BB」融合モンスターによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
(2):このカードが墓地に存在し、「BB」XモンスターのX召喚に成功した場合に発動できる。
墓地のこのカードを手札に加え、自分フィールドの「BB」モンスターの攻撃力は500アップする。