Side:ブラン


「失礼します。」

「入れ。」


スポンサーやその他もろもろを巡り、栗音を軽く捻った後で早速赤馬零児が姿を見せた。
そっちから出向いてくれるとは手間が省けたぜ。
というわけで忍者に連れられて応接室に入る。


「君も決意ができたようだな、我々ランサーズに加入する…」

「馬鹿言うなよ…言ったはずだぞ、ランサーズには入らないって。
 こっちの方針が決まったからその報告に来たんだ。」


まずは方針は決まってその報告にだな。
もっとも、それだけに来たわけじゃないけど。
ランサーズに入るのは今なお御免だがな。


「ふむ…それで君達の方針とは?」

「こっちも他の次元へ渡る事にしたんだ…まずは融合次元へ向かおうと思う。

「融合次元?紫吹たちの故郷へ何をしに?」


それはだな…まぁ色々あるにはあるが。


「この次元戦争の真相を掴むために…かな?
 エクシーズの連中が妙な事を言っていたのが気になってな。
 襲撃された融合次元に何かがある…そう確信したんだ。」


それを聞いてかなり嫌な予感がしたものだ。
後、それも本当だけど、現状行けそうな次元がそこしかないんだ。
エクシーズの連中も何人かいるだろうし、エクシーズへはそこから転送装置を拝借すればいいかなってさ。
そう簡単には行かないのだろうけども。


「それにさ、真相を掴むことでもしかしたらエクシーズの連中と交渉できるかもしれないって思ってるんだ。
 こちらとしてはできるだけ穏便にやりたいもんだからな。」


もっとも、この次元戦争を誘発した黒幕が存在しているだろうからそうは問屋は卸さないだろうが。
それに、場合によってはエクシーズの奴らにつく事になる羽目になるのかもしれないしな。


「成程…しかし、君もこの短期間の間に変わったものだな。
 『柊柚子を助ける!』とばかりに勇んでいくと思ったものだが。」

「今でも想いは変わってねぇよ…だけど、先に解決すべきものは解決していかないとね。


感情の赴くままに任せてたら何も成し遂げられやしないからな。
何も解決できていないうちに柚子を助けた所でまた狙われるだろうし。
それに囚われているって事は、それだけの理由があるという事。
モアが連中の手に渡っていない今は真相を確かめておきたいところだ。
叩き潰すっていう方法じゃなく、交渉でどうにかなるのならそれに越した事はない。
さっきのデュエルは身の程をわからせる意味合いが強かったけど、デュエルは本来駆け引きを楽しむべきものだと思っているからな。
それにエクシーズ次元出身の捕虜の女の子からの話を聞くに思ったよりは話が通じると思っているからね。


「それに、どうせ柚子はエクシーズ次元に囚われているだろうからな。
 どの道、融合次元に転送装置持っている奴いるだろうからそれ経由で向かう心算さ。
 で、一応聞いておくけどそっちはどうするつもり?」

「エクシーズ次元へはまだ行かない。」

「…じゃあ、色々言った割にそっちも融合次元からか?


意外だな、早速尖兵としてエクシーズ次元へ潜入するのかと思ったけど。
なんだ、結局そっちもあいつの言った事を気になって…と思いきや。


「それも違う…我々ランサーズが目指すのはシンクロ次元。」

はぁっ!?シンクロ次元だと?何でまた…」


その宣言に耳を疑った…いや、マジで何を言っているんだこの野郎?
おいおい、よりにもよって一番得体のしれない次元へ行くというのかよ。


「シンクロ次元には次元間の争いの波は起きていないはずだ。
 そこでエクシーズ次元に対抗できる仲間を募る。
 我々と絆を結び、共にエクシーズ次元に対抗する同盟関係を築く。」

「同盟ねぇ…」


う〜ん、戦力拡大って意味では一理あるとは思うけどさ…。
色々と納得がいかないんだよなぁ。


「あのなぁ…シンクロ次元の奴に会った事あるけど、正直話が通じるとは思えないぞ?
 そいつにどれだけ酷い目に遭わされた事か。
 それに、ネプテューヌや紫吹は反対しそうなものだが。」


特にネプテューヌが。
あいつ、そのシンクロ次元の奴に狙われてたんだからな。
わたしもあいつもそいつに酷い目遭わされたからなぁ。
ただ、そいつと接触していなければシンクロ召喚を発現していなかったと思うと複雑な気分だけど。


「ネプテューヌの場合はわたしと同じ理由で、紫吹はエクシーズ次元を叩く事を優先しそうなものだけど?」

「だが、私は勝算のある勝負しかしない。
 今の段階でハートランドやアヴニールに戦いを挑んだところで勝算はない。」

「まぁ…正面から挑もうものならそうなるな。
 その上、真の敵に乗っ取られたとなると猶更だ。」


実際…戦力的にはこっちは問題しかないよなぁ。
一人一人を見れば最強クラスもいるにはいるけど、相手にしようとしている連中はいかんせん数が多すぎる。
それに言い方は悪いけど、つい最近まで平和ボケしたわたしたちと常に戦いに備えた連中じゃ意識に差があるものだ。
正面から挑もうものなら無謀もいいところだ。

勝算を作るとすれば、彼の言う通り仲間を他次元から集って戦力を整えるか、隠れて内部に入り込んで外堀から埋める。
後者の方が上手くいった時は笑顔になれそうな感じを受ける。
もっとも、いわゆる真の敵関連からするとこのままだとハートランドがアヴニールに乗っ取られそうな印象もある。
だから、後ろから刺される可能性があるのが怖いな。


「そして、実はバトルロイヤルにもシンクロ次元のデュエリストが現れている。」

「シンクロのデュエリスト…その事は、ロムからも聞いているわね。
 フォトン・フォースの連中を蹴散らしたんだって?」


なんでもフォトン・フォースのデュエリストをユース唯一の生き残りごと蹴散らしたところを目撃したとか。
って…シンクロの名を冠したモンスターを使っているらしいし、例の通り魔だろうが。


「なら話が早い…その時に私は確信した、シンクロ次元は味方になりえると。」

「でもなぁ…敵の敵が味方とは限らないだろう?
 しかも、里久が脱走した日の公園でそいつにわけのわからない事を言われながら襲われたんだ。」

「だからこそシンクロ次元の実態を探り、本当に味方になりえるか見極める必要があるとは思わないか?」


う〜ん、そんな事言われてもな。
一人見ただけで判断するのは早計かもしれないけど、なんとなくシンクロの連中は話が通じるとは思えない。
表舞台に姿を見せない以上は何か組織ぐるみで変な事やってそうだし、例の真の敵がかかわっている可能性が高い気がする。
はっきり言って、そんな得体のしれない次元には関わりたくない。


「正直、あいつらと関わらない方がいいと思う。
 行くならあなた一人でいけば?わたしは御免だけど。」

シンクロ次元に柊柚子がいるとしても…か?

「…は?」


どういう事だ、それ?
柚子はエクシーズの連中に攫われたはずじゃ?


「どういうわけかそのシンクロ次元のデュエリストと共に姿を消したのを目撃している。
 恐らく、彼女はシンクロ次元にいるはず。」

はぁっ!?うわぁ、何だよそれ…」


最悪なパターンじゃねぇかそれ、よりにもよって一番得体のしれない次元へ飛ばされたなんてさ。
その事に思わず頭を抱えたくなるものだ。
どう考えてもわたしに対する人質だろう、それ。


「だったら、猶更このまま行くわけにはいかなくなった。
 かつてのわたしなら感情のままに乗り込んでいただろうけど、あきらかに罠丸出しだ。

「…彼女がいるというのに逃げるというのか?臆病で残念だよ。」

「仕方ないだろ、今もわたしはあいつに狙われている身のはず…慎重にも臆病にもなるもんだ。
 今のわたしの経験値であいつと接触するのは危険だ…話も通じない感じだったしな。
 何より、柚子を盾代わりに使われでもしたら最悪だし相手の思う壺だ。
 せめて、融合次元やエクシーズ次元での実戦を通して腕を磨いてから乗り込みたい。」

「なら、柊柚子の奪還は我々が引き受けようではないか。」

「先越されないように努力するよ。」


悠長かもだけど、いくら女神になったと言っても実戦経験の薄い今のままじゃ相手の思う壺だろう。
それでもいずれは関わざるを得なくなる可能性が高いわけだが、融合やエクシーズの件を先に解決しておきたい。
シンクロ次元はわからない事が多すぎる。
いくらか推測できる融合次元とエクシーズ次元と比べ、情報がないため謎が多すぎる。
それに下手にこっちから助けに行けば、柚子に何をしてくるかわかったものじゃない。
だから、柚子には悪いけど後回しだ。
いつか助けにいくけどな…もっとも、ランサーズに先越される可能性もあるが。


「いずれにしても、わたしたちはまず融合次元へ乗り込む方針だ。
 わたしと権現坂、そして榊遊矢の3人でな。」

榊遊矢?それは君では?」

「あ…ちょっと待った。」


そういえば榊遊矢の名を本人に返上した件は伝えていなかった。


「遊矢…赤馬零児に本名を伝えて大丈夫だったか?」

『ああ、大丈夫だ…ロムが色々やってくれたようだからな。』


だから、一応無線越しに許可を取っておく。
ちなみにスポンサーの件は赤馬零児に遭遇してからここへ連れられる前の間に話しておいた。
思いきりどやされた。


「失礼、大会でファントムと呼ばれていたその者が本物の榊遊矢だ。
 だから彼もランサーズには入らない事になった。
 言い忘れていたけど、ちなみにこの会話はルウィー教会にも聞こえているからよろしく。」

それは先に言え…で、まぁいい……もう君のやりたいようにやるといい。」

「あ、ありがとうございます。」


先に言わないとトラブルの原因にもなるよね…すみませんでした。
しかも、目の前の零児も諦めたような表情である。
後、ここからが本題だ。


「おっと、つかぬ話はここまでにして…ここからが本題だ。」

「何だ?」

「融合次元へ行く以上、ネプテューヌたちに一度相談しておきたい。
 会わせてもらえないだろうか?」

「ふむ…いいだろう。」


とりあえず、会わせてくれることになったようだ。
融合次元へ行くにさしあたって重要だ。










超次元ゲイム ARC-V 第65話
『方針の報告と相談』









「む?貴様は…!

「久しぶりね、スタンダードの女神『ブラン』…正直見違えたわ。」

「気付いたか、地獄から這い上がった甲斐があったものだぜ…!」


とりあえず、零児の使いの忍者の案内通りに進むと2人と再会する。
やはり女神になった事は見抜かれていたようだ。
まぁ、修行は地獄そのものだったが…血まみれだったし。

後、お前はコロコロ性格が変わりすぎなんだよ。
バトルロイヤル終了後のようなふざけた態度の面影が感じられないし。


「それに地獄って、一体何があったの…」

「まぁ、なんだ…色々叩き込まれたからな。」

「そんな事はどうでもいい…何しに現れた?」


おっと、そうだな本題に入ろう。


「こっちの方針が決まったからその報告と相談だ。
 まずは方針から…わたしたちは融合次元へ向かう事にした。」

「何、俺たちの故郷へだと?」

「…何がしたいの?」

「小耳に挟んでいたけど、気になる事をモアの奴から言われていただろ?
 融合次元が襲われたのには理由がある…その真相を探るためにね。」

理由だと?


融合次元へ赴く事とその理由をまずは言っておく。
2人の表情は…強張っているわね。


ふざけるな!奴らは突然俺たちの故郷を侵略し始め、大勢の住民をカードに封印した!
 理由など心当たりがない…俺たちは一刻も早く、奴らを叩き潰し…」

雲雀!話が拗れるから今は黙ってて…!また木刀で気絶させられたいの?

「ちっ…」

「助かるわ、ネプテューヌ。
 で、心当たりがない?果たしてそれは本当かしら?
 お願いだから、落ち着いて考えてみて。
 怒り、憎しみにばかり囚われて何か変な事があったのを忘れていたりしない?
 例えば、身内の行動に違和感を感じたとか…そういうのを知りたい。」


怒り、憎しみに囚われる気持ちは十分わかる。
わたしも柚子がいなくなったりして悲しみと憎しみに囚われていたから。
だけど、そんな気持ちのままじゃいつまでたってもこんなふざけた戦争は終わらないと思う。

融合次元側にだって何か原因があってもおかしくない。
例えば、気付かぬうちに真の敵に何かされてどう違和感を感じたのか気になる。

それに、あのトリックとかいう化物。
今度は融合を使ったそうだし、逃げられたようでねね…もとい、ステラが悔しそうな顔をしていたのが気になるからな。
色々と気になる事が多すぎる。


「違和感…?そういえば、やけに故郷の住民が攻撃的になったりしていたような…?
 それに『ダーク・フュージョン』なんて…あれ、ダーク・フュージョン?」

おーい、ちょっと待て!明らかにそのカードのせいで住民おかしくなってるだろ。
 そんな物騒な名前のカードといい、どう考えてもそれが原因の1つじゃねぇか!」


と思ったら、やはりクロだったっぽい。
ダーク・フュージョンという物々しい名前のカードが何なのかは知らないけど、いかにもって感じだ。
デュエルが流行していないとしても、全く嗜まれていないわけじゃなかったはず。
それの悪影響を警戒して…って線は十分ありえそうなものだ。


こりゃ灯台元暗し…って奴だったか。
 その様子だとあなたたちも詳しい事は何もわかっていなさそうだし、実際に確かめてみるしかなさそうね。」

「あはは…そうね、そんな事を考える余裕さえなかったのも事実。

それに侵略してきた敵の事情など知った事ではない。

「あのなぁ…そんな態度だからいつまでもいたちごっこのまま終わらないんだよ。」


目には目を、歯には歯をとはよく言うけど…やはり向かわせるわけにはいかないか。
いくら強くても相手に対して意固地を貫くだろうし、ややこしい事になるのは間違いない…特に紫吹。
案内役がいないのは辛い所ではある。
それに、ネプテューヌには紫吹のストッパーになってもらわないと。
…本当にストッパーになるのか疑問になって来たけど。
本当のところは紫吹以上にやばいものを抱えてるんじゃないかと思えてくる。


「ふん、貴様が何を考えようと俺たちには関係のない事だ。
 ランサーズと共にエクシーズ次元へ乗り込み、ハートランドやアヴニールの連中を叩き潰すのみだ!

「わたしたちにとってはエクシーズの奴らを倒す事が最優先なのは変わらないから。」

「あのクソメガネが…聞かされていないようだけど、向かう先はシンクロ次元らしいぞ?

「「は?」」


って、こいつらにまだ話していなかったのかよ…あのクソメガネは。
大事な事を何故前もって言っておかないんだ。
わたしがブチ切れたのもそういう事だったというのによ。


「彼曰く、シンクロ次元は仲間になりえるとの事らしいけど…」

「信用できん。」

「雲雀に同意よ。」

「わたしとしても信用できない事で、耳を疑ったよ。」


はっきり言って、個人としてはシンクロ次元は味方にはなりえないと思っている。
まず…あの通り魔を見る限りは、次元が違いすぎて話が通じる気配がないからな。
もっとも…!


「ただ、エクシーズ次元に乗り込んで正面からやり合うのは無理。
 数が多すぎて疲弊し、いずれ倒れるのがオチだ…そう思うだろ?」

「まぁ…明らかに今の戦力じゃ無理そうね。
 あ、そういえば雲雀は…むぐっ!?

ネプテューヌ!それを話すのはやめろ!


…どうやら、ネプテューヌの方は理解してくれたみたいだ。
今の戦力じゃ数の暴力でやられかねない事を。
それに、既に真の敵の勢力に乗っ取られている可能性があるとなると、より性質が悪くなるはずだ。
そして、紫吹の方は…あの表情から察するに誰かにやられたみたい。
そういえば、バトルロイヤルの最後に遭遇した時も手負いの身だったからね。


「だから仲間を募ってから戦うって考えたみたい。」

「成程ね…わたしたちの故郷の融合次元はほぼ壊滅状態。
 エクシーズ次元は倒すべき敵…だから、シンクロ次元で仲間を募る事にしたわけだね。」

「でもね…あなたたちには許し難いことだろうけど、個人的にエクシーズの連中のほうがまだ話が通じると思っているわ。
 向こうの方も結構な事情を抱えている事は確かだろうし。」

「エクシーズが?…死んでも御免よ。」

「はぁ…」


遊び感覚でやっているような馬鹿もいるにはいるけど、内心では申し訳ない気持ちを押し殺しているような印象も里久からは受けたしね。
それでもネプテューヌたちにとって許せない事をやってきたのは間違いない。
怒りの矛先はそっちに向いたままか…仕方ないけどね。
でも、真の敵の件が間違いないとすると…碌に表舞台に出ていないシンクロ次元もキナ臭くなってくる。
向こうの通り魔がわたしやネプテューヌの命を狙ってきた事からしてだ。


「…それは兎も角、エクシーズの連中の言う真の敵とやらの関係者がシンクロ次元にいる可能性もあるでしょうね。
 そう考えると、あなたたちにとっても行く価値はあるんじゃないかしら?」

「言われてみると、そうかもしれないね。」

「おい、そんな悠長な事を…」

「それが本当だとしたら…放っておくわけには行かないよね。
 それに…ベールにはやられた借りを返さないと気が済まないからね。」

「悪いわね、そっちは任せるわ。」

「おい!」


だから、シンクロ次元が怪しい事を教えると紫吹が噛みついてきた。
…まぁ、色々と納得はできないだろうけどね。


「貴様…言いたい放題言ってくれるものだな。
 ブランと言ったな…一々気に喰わん奴め、表へ出ろ!俺とデュエルだ!」

「結局デュエル脳かよ…いいわ。
 こっちとしてもお前の事は気に喰わない。
 それにバトルロイヤルで邪魔しやがった恨みがある、デュエルを受けて立つ!」

「あ、結局こうなっちゃうんだ…デュエルSSならお約束だよね!」


メタ発言もいい加減にしろ。
目的から大分それちゃっているけど、バトルロイヤルの件でこいつの印象は最悪だったからな。
栗音とのデュエルは肩慣らしにもならなかったし、丁度いい。
今までの『オレ』は明らかにこいつより格下だったけど、今はどうかな?



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さて、場所は変わってレオ・コーポレーションの地下デュエル場。
あの後、デュエルの申請をしてここを借りている。
勿論、紫吹とデュエルをするためだ。


「貴様みたいなネプテューヌと同じ顔の奴は最初から気に喰わなかった。
 いい機会だ、ここで叩き潰してやる!」

「気に喰わないのはこっちも同じだよ…さっき言ったように恨みもある。
 だけど、折角の機会だ…エンタメまでとはいかなくても血沸き肉躍るデュエルを楽しもうじゃない。

「楽しむだと?ふざけるな!俺たちのデュエルにそんなものはない!」

「わかっていたけど、悲しいなぁ。」


やっぱりデュエルを取り巻く環境が違うなぁってわかる。
ま、これで変わってくれることを期待しつつ…ここは必死でやらないとね。


「「デュエル!!」」


ブラン:LP4000
紫吹:LP4000



「先攻はもらう!モンスターを裏側守備表示で召喚し、カードを2枚伏せてターンエンド!」


流石に初手は派手に展開せず、様子見といったところか。
初手から融合はしてこないというわけね。


「OK…わたしのターン、ドロー。
 相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、レベル5の『甲殻戦車オマール・チャリオット』は手札から特殊召喚できる!」
甲殻戦車オマール・チャリオット:ATK1600


「このオマール・チャリオットをリリースし、レベル5の『甲殻水影ドロブスター』をアドバンス召喚!」

『ヌッ…!』
甲殻水影ドロブスター:ATK1800



「リリースされたオマール・チャリオットと召喚したドロブスターの順に効果発動!
 甲殻のペンデュラム1体…『甲殻奏者ロブスター・ハープ』を加え、シャッフルし『ストリーム・ドロー』で1ドローする。
 オマール・チャリオットの効果でデッキから『甲殻』か『シュリンプ』1体を墓地へ送る事ができる。
 この効果で墓地へ送るのは儀式モンスターの『甲殻鎧獣アビス・シュラーク』!」

「儀式モンスターだと?」

「あ、今は教会よりのスタイルになっているわけだね。」


ここで墓地へ送るのは新たな儀式モンスターだ。
流石にネプテューヌは一時期教会に身を置いているだけあって勘がいいな。
が、ここはとりあえず…!


「ここはバトルに入り、ドロブスターでセットモンスターに攻撃!」

「この攻撃宣言時に罠カードS・R(スカイ・レイダーズ)−リリーフ』を発動!
 その攻撃を無効にし、その後、デッキからレベル4以下の『S・R(スカイ・レイダーズ)』1体を特殊召喚できる!」

「攻撃反応か…攻撃を無効にした上でリクルートとは厄介な。
 だったら、これはどうかな?ドロブスターをリリースし、速攻魔法『甲殻脱皮』を発動!
 この効果によりリリースした水属性よりレベルが1つ高い「甲殻」モンスター1体を攻撃力を800ダウンして特殊召喚する!」

「ちっ、攻撃の無効すら不発か…!」


攻撃大正がいなくなったりすれば攻撃の無効も不発に終わる。
この手の効果は攻撃の無効ができなければ、その後の展開もできないわけだからな。
また、攻撃を無効にしてからバトルフェイズを終了する速攻のかかし相手にも通用する高等テクニックである。


「そして、この効果の発動のためにリリースしたドロブスターはレベル6の『甲殻導師ロブスター・ソーサリー』に脱皮進化する!」

『ヌンッ…!』
甲殻導師ロブスター・ソーサリー:ATK2000→1200



で、ここで呼び出したのは新たな仲間だ。
そして、こいつにはデッキから特殊召喚されても発動できる効果がある。


「そして、ロブスター・ソーサリーが特殊召喚された場合、デッキから儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。」

「タイミングを逃さないだと?」

「時じゃなくて場合だからな。
 この効果で手札に加えるのは儀式魔法『シェルアーマー・アドベント』だ。」

「ここで儀式魔法を…!?


儀式というのは必要なカードが多い分、サーチもしやすいようにできているのが基本だ。
とりあえず、ここで儀式召喚に必要な札は揃った。
が、その前にここは一応殴ってみるとしよう。


「そして、ロブスター・ソーサリーはバトルフェイズ中に特殊召喚したから追撃可能だ!
 ロブスター・ソーサリーで裏側守備表示のモンスターに攻撃!『ソーサリー・スプラッシュ』!!」


――ザッバァァァ!!


「裏側守備表示のモンスターは守備力200のS・R(スカイ・レイダーズ)−ワインド・スパロウ』…!
 破壊されるが、フィールドから墓地へ送られた事により効果を発動!
 この効果でデッキから『S・R』1枚を墓地へ送る!
 俺が墓地へ送るのはS・R(スカイ・レイダーズ)−ワール・スパロウ』!」


破壊はしたが、墓地肥やしはさせてしまったわけか。
しかし、ワール・スパロウは手札からの効果が強いカード。
恐らく、サルベージ手段を確保しているはず…ならば!


「バトルフェイズをここで終了するわ。
 メイン2に入り、先ほど手札に加えた儀式魔法『シェルアーマー・アドベント』を発動!」

「ここで発動させて来るか…!」

「この効果によりフィールドからレベル6のロブスター・ソーサリーをリリース!
 これにより、墓地にあるレベル6のアビス・シュラークの儀式召喚を執り行う!」

「墓地の儀式モンスターを降臨だと…!」

「いわゆる教会仕込みって奴だね。」

「まぁね…深淵に眠りし冷徹なる獣よ、降臨の儀式により今目覚めよ!儀式召喚!レベル6『甲殻鎧獣アビス・シュラーク』!!」

『グオォォォォォォォォ!!』
甲殻鎧獣アビス・シュラーク:DEF2600



教会仕込の儀式召喚により獣の名とは裏腹にウミサソリとシャコが合わさったようなモンスターを降臨させる!
遊矢との時に使ったリチューアル・ロブスターとは一味違うとだけは言っておく。
その力を発揮できるのはこのターン中はない。

そして従来使っていた儀式召喚に比べ、墓地から展開できるのが教会流だ。
さらにシンクロ、エクシーズ、ペンデュラムと多数の召喚法をモノにできている。
…カオス・リベリオンを返したから融合召喚だけはできないけどな。


「儀式召喚してまで出したモンスターは守備表示…だと?」

「ふふ、こいつで何をするのかは後のお楽しみという事でね。
 わたしはカードを1枚伏せてターンエンド。」


というわけで次は紫吹のターンとなる。


「ここまで何を考えているのかわからんが、貴様を倒しに行く。
 俺のターン、ドロー!
 自分フィールドにモンスターが存在しない時、墓地からS・R(スカイ・レイダーズ)−リリーフ』を除外し効果発動!
 この効果で墓地の『S・R』モンスター1体『S・R(スカイ・レイダーズ)−ワール・スパロウ』を対象に手札に戻す。」

「やはり、サルベージ手段があるからこそ墓地へ送ったようね。」


サルベージの手段を行使する事で、墓地へ送る好意が疑似的なサーチとなるわけか。
そして、ここでワール・スパロウを手札に加えてきたという事は…!


「ここで俺は手札からS・R(スカイ・レイダーズ)−ワール・スパロウ』のモンスター効果を発動!
 このカードを含む融合素材モンスターを手札から墓地へ送り、『S・R(スカイ・レイダーズ)』1体を融合カードなしで融合召喚する!」


で、手札に戻した以上はやはり使ってくるよね。
だけど、そう簡単には思い通りにさせない!


「そうはいかないわ!相手が手札・墓地からモンスターの効果を発動したこの瞬間、アビス・シュラークのモンスター効果を発動!」

「何っ…!」

「このカードを手札に戻し、発動したそのモンスター効果の発動を無効にし除外する!
 腕のハンマーの一撃で深淵へ吹き飛べ、ワール・スパロウ!『トライブング・シュラーク』!!」


――ドゴォォォォ!!


「おのれ、ワール・スパロウが…!」

「だけど、ブランのモンスターゾーンもがら空きになったね。」


ネプテューヌの言う通り、アビス・シュラークが手札に戻った事でわたしのモンスターゾーンにモンスターがいなくなった。
しかも相手は通常召喚権を残している。
さて、ここからどう動くか見せてもらおうかな。


「俺が通常召喚しない内にモンスターゾーンを自ら開けるなど…貴様、舐めた真似を!
 俺は手札からS・R(スカイ・レイダーズ)−ブロウ・スパロウ』を召喚!」
S・R−ブロウ・スパロウ:ATK100


攻撃力100のモンスターか…となると何か効果がありそうね。
さて、ここからどうくるか。


「ブロウ・スパロウのモンスター効果発動!
 このカードが召喚した時、デッキから同名以外の『S・R』1体を守備表示で特殊召喚できる!
 この効果により、デッキから2体目のS・R(スカイ・レイダーズ)−ワインド・スパロウ』を特殊召喚!」
S・R−ワインド・スパロウ:DEF200


ワインド・スパロウの2体目か。
これでフィールドにはモンスターが2体か。


「バトル!ブロウ・スパロウで貴様に攻撃!」


ふむ、ここで攻撃してきたか。
何かあるかもしれないけど、100ダメージくらいは素通ししておくか。


「む…」
ブラン:LP4000→3900


「お、100ダメージとはいえ先手を取ったのは雲雀だね。」


100とはいえ、散りも積もれば山となる。
それは肝に銘じておこうかしら。
100の差が勝敗を分ける事も多々あるものね。

問題はこの後どう出るかだけど…?


「ここで速攻魔法S・R(スカイ・レイダーズ)−レイド・フュージョン』を発動!
 この効果により如何なるタイミングでもフィールドのモンスターを素材に『S・R(スカイ・レイダーズ)』の融合召喚を可能とする!」

「フリーチェーンでの融合召喚か…!」


成程な、前のターンで反撃できるようにフリーチェーンの融合魔法をセットしていたわけか。


「俺が融合するのはフィールドのワインド・スパロウとブロウ・スパロウの2体のスカイ・レイダーズ!
 混ざり合え、荒風と強風!天より来たれ、反逆の翼!融合召喚!いでよ、強襲の風!レベル6S・R(スカイ・レイダーズ)−アサルト・ラーク』!!」

『キィィィィィッ!!』
S・R−アサルト・ラーク:ATK2000



ここで出てきたのはレベル6の融合モンスターか。
こいつは初めてみるモンスターだ。
攻撃力2000だし、何か厄介な効果がありそうなものだが?
そして、ワインド・スパロウが墓地へ行ったという事は効果が発動されるわけだ。


「ワインド・スパロウが墓地へ送られた事でモンスター効果を発動。
 この効果により、デッキから『S・R(スカイ・レイダーズ)−ブロッケン・スパロウ』を墓地へ送る。」


墓地へ送ったのは『S・R(スカイ・レイダーズ)』の魔法・罠カードをサーチできるカードか。
あれを手に入れられたら厄介だな。


「そして、バトルフェイズ中の特殊召喚により追撃が可能!
 アサルト・ラークで貴様にダイレクトアタック!
 アサルト・ラークは攻撃する場合、ダメージステップ終了時まで自身以外の効果を受け付けん!


攻撃時は無敵になるモンスターという事か。
ミラー・フォースなどの類は受け付けないという事か。
だけど…!


「お生憎様…悪いけど、今はそんな効果があっても関係ない。
 ダメージ計算時に罠発動『回遊流し』!この戦闘で発生するダメージを半減する!」

「ちっ…自身への効果ゆえに関係ないというわけか。
 特殊召喚されたモンスターとの戦闘時には攻撃力が800アップするが今は使えん。
 だが、1000のダメージは受けてもらうぞ!」

「くっ…!」
ブラン:LP3900→2900


流石に1000ダメージは避けられないけど。
さっきの攻撃力100のモンスターの攻撃に使わなくてよかった。
それにしても特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う場合は攻撃力が800アップか。
この手のレベル6の融合にしては中々厄介だな。
それは兎も角、回遊流しの効果処理の続きと行くか。


「その後、デッキから水族か魚族のレベル3以下のモンスター1体を手札に加える。
 この効果で手札に加えるのは『ロブスター・クワガタ』だ。」

「ちっ、あのクソメガネとのデュエルの時に使ったカードか。」


使っていたの覚えていたか。
なら、効果も知っているわよね。


「確か月子も使っていたカニカブトやザリガンを…」

「ちっ、こんな奴が月子と同じカードを使っていると聞くとイラッとくるな。」

「こんな奴って…ひどい事言ってくれるじゃない。
 後、わたしも月子とは会ってみたいのに…」


似たようなモンスターのデッキを使っている人なんてあんまりいないからね…特に他次元の場合。
間違いなく彼女は現在ハートランドにいるだろうけど、機会があれば一度デュエルしてみたいと思う。
融合次元出身だからデッキの動きは違うのだろうけど、だからこそワクワクする。
でも、融合次元もエクシーズ次元もピリピリしてそうだから中々実現は難しそうなのが辛い。


「いなくなった柊柚子って子に似てるから?」

「それは違う…わたしと似たようなモンスターを使っているみたいだからな。
 モンスターの趣向が似ているって事に惹かれるし、何より競えあえるいいライバルになりそうな気がするからね。」

「でも、その辺は実際に会ってみないとなんとも言えないと思うけどさ。
 う〜ん、まぁ…気が合うんじゃない?」

「なんというか釈然としないわね。」


釈然とはしないけど、全くの否定ではない事が分かっただけでもなによりと思う事にしておこう。


「おい!今はデュエル中だ…与太話もいい加減にしろ。
 俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」


相当ピリピリとしているわね。
妬いてるの?その割には月子がデュエルしていたらしい事を知らなかったようだけどね。
兎に角、まだあまりデュエルに動きはない内にターンを終了してきたようね。
まだまだ始まったばかりだけど、流れはこっちにあるはず。
それじゃ、ちょっと早いけど…!


「ここから奇蹟のカーニバル…開幕だ!


さあ、ここからもっと修行の成果を見せてやるとするかな。
お楽しみはここからだぜ。











 続く 






登場カード補足






甲殻鎧獣アビス・シュラーク
儀式・効果モンスター
星6/水属性/水族/攻2300/守2600
「シェルアーマー・アドベント」により降臨。
(1):このカードが戦闘で破壊したモンスターは墓地へ送らず持ち主のデッキに戻す。
(2):相手が手札・墓地からモンスターの効果を発動した時、フィールドのこのカードを持ち主の手札に戻して発動できる。
その発動を無効にし除外する。
(3):このカードが水属性モンスターの効果を発動するために墓地へ送られた場合、自分の墓地の「シェルアーマー・アドベント」1枚を対象として発動できる。
そのカードを手札に加える。



甲殻導師ロブスター・ソーサリー
ペンデュラム・効果モンスター
星6/水属性/魔法使い族/攻2000/守1200
Pスケール「3:3」
(1):1ターンに1度、水族モンスターが墓地から特殊召喚された時、相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。
このターン、その効果を無効にする。
『モンスター効果』
「甲殻導師ロブスター・ソーサリー」のモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが手札・デッキからの特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから儀式魔法カード1枚を手札に加える。



S・R(スカイ・レイダーズ)−ワインド・スパロウ
効果モンスター
星4/風属性/鳥獣族/攻1800/守 200
「S・R−ワインド・スパロウ」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが手札・フィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから「S・R」カード1枚を墓地へ送る。
(2):墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの「S・R」融合モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターはこのターンに1度だけ戦闘・効果では破壊されない。
この効果は相手ターンでも発動できる。



甲殻脱皮
速攻魔法
「甲殻脱皮」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分フィールドの水属性モンスター1体をリリースして発動できる。
リリースしたモンスターよりレベルが1つ高い「甲殻」モンスター1体をデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は800ダウンし、エンドフェイズに持ち主の手札に戻る。



S・R(スカイ・レイダーズ)−レイド・フュージョン
速攻魔法
(1):自分フィールドから、「S・R」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
(2):自分フィールドの「S・R」融合モンスターが戦闘で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。



S・R(スカイ・レイダーズ)−リリーフ
通常罠
「S・R−リリーフ」の(2)の効果はデュエル中1度しか使用できない。
(1):相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
その攻撃を無効にし、デッキから「S・R」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化される。
(2):墓地のこのカードを除外し、墓地の「S・R」モンスター1体を対象として発動できる。
そのカードを手札に加える。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。