Side:ステラ
「ステラよ…スタンダードに侵入した不穏な反乱勢力を捕捉できなかったどころか、モアも取り逃がしたようだな。」
「大変申し訳ありません、プロフェッサー。
融合の残党や現地の住民に阻まれ、反乱勢力討伐の任務を果たす事ができませんでした。
一応、モア様にはスパイ任務に当たっているデニスに監視にあたらせておりますが。」
「成程…反乱勢力の件に関しては擁護できんが、重要なピースであるモアに監視をつけられたのは悪くはない。」
スタンダード次元に突入しての任務は失敗に終わり、プロフェッサーに責任を問われております。
モア様をレオ・コーポレーションにかくまわれたどころか、彼女の脱走を示唆した謎の怪人物、そして内部の反乱勢力は取り逃がしてしまいました。
その中でカードに封印できたのは…ほんの下っ端だけです。
しかも、沢渡さんを含め現地の住民を無暗に犠牲にしてしまいました。
一方でこちらの損害はMr.ハートランドとの一騎打ちに当たったカイトが重傷を負い、フォトン・フォースのリーダー格の一人であるドッグが捕らわれの身。
前者についてはこちらに帰還してから報告を受けたのですが、愕然としてしまいました。
不幸中の幸いといえばモア様をスパイのデニスが監視している事が分かった事くらいです。
そして、わたしはその反乱勢力に遭遇する事すらできず。
沢渡さんとの交戦後、探していたのですが足取りすらない有様でした。
邪魔立てした融合の残党や沢渡さん相手に熱くなり、当初の目的を見失った結果がこのザマ。
捕らえられたドッグを救出するのにも、あの人数を相手には叶いませんでした。
なんとも大失態です。
「ふむ…時にステラよ、記憶を失っていたそうだがその時にスタンダードの空気に感化され過ぎたように見受けられるが?」
「…実に情けない話ではありますが、面目ありません。」
沢渡さんに無暗に付き合ってしまったのもスタンダードに身を置きすぎたのが原因です。
あの状況では無視が最適だったはずですが、デュエルに付き合ってしまいました。
名残惜しかった彼との絆を無理やり断ち切ろうとしたばかりに…ね。
他の任務に赴いた方々も足止めを喰らったようですが、特にわたしが顕著です。
想像以上にスタンダードの空気に感化されてしまっていました。
いずれにしても、このままでは我らの悲願を成すのは難しいでしょう。
それどころか、反乱勢力に拠点であるハートタワーが乗っ取られる事態が起こりえるかもしれません。
このままではいけませんね。
「ふむ…しかし、君には次の任務を与えよう。」
もっとも、汚名返上の機会はすぐに回ってきたみたいです。
一体、何を行うというのでしょうか?
「ただし、今の君には足りないものがあると見受けられる。
今は休養し、自分の有り方や我々の目的を見つめなおして頂きたい。
任務を与えるのはそれからだ。」
「しかし、我々にはあまり猶予は…」
「いいね?」
「…はい。」
やはり、このままのわたしは…使い物にならないようです。
突然休養を与えられてしまいましたが、こんな事態の時に困ったものですね。
…何はともあれ行動しない事には仕方ない、久しぶりに月子にアポを取ってみるとしましょうか。
超次元ゲイム ARC-V 第64話
『次元を渡る前に』
Side:ブラン
ファントムやロムから認められ、ようやく女神として働けるようになったみたいだ。
自らの内に秘める力も制御できている。
ちなみにリアルファイトでも負ける気がしない…己惚れはいけないけど、其れに恥じないほど凄まじい力が確認できている。
もっとも、本来は長年かけてやる事らしく、急ごしらえでやったに過ぎないから不安もないわけではないがな。
それに自分の行動による責任も当然だけど重くなっている。
本当なら柚子を助けたいだけだったはずなんだけどな…今までのままじゃ駄目というわけで。
それは兎も角…!
「問題は次元を渡る手段だな。
今更赤馬零児に泣きつくなんてみっともない事にならないといいけど。」
問題は次元を渡る手段だ。
これからわたしたちはエクシーズ次元が融合次元へ襲撃した事による次元戦争に首を突っ込むことになる。
もっとも、伝えられてきた経緯が全てにおいて正しいとは限らないのだけど。
どちらの言い分も一理あるといえばある。
もちろん、襲撃した方が悪いとは思うけど。
それは兎も角、その手段が見つからなければ置いてけぼりのまま…スタートラインにすら立てない。
襲撃したらそれを迎え撃つか、あるいは最悪の場合は何もできないまま滅びの時を迎えるかだ。
「それについてはなんとかなりそうですのでご安心を。
ただし、エクシーズ次元へ直接突入できるなんてことは期待しないでください。
エクシーズ次元の捕虜を1人働かせておりますが、彼女の持つ転送装置つきのデュエルディスクは融合の女神が叩き割ってしまいましたのでね。」
「お、おう…」
む…なんとかなるとはいっても直接エクシーズ次元へは行けないか。
柚子が一番いそうなのはそこだというのに。
…これは壊滅寸前であるはずの融合次元経由で行くしかないという事なのかしら?
さて、ネプテューヌが叩き割ったというディスクの持ち主の仮面の女の子が1人ここへ運び込まれていたわね。
エクシーズ次元からの刺客で今は捕虜の身と。
待てよ…デュエルディスクがないんじゃ、接触しても大丈夫か。
「ちょっと、その子に会ってきてもいいかな?」
「構いませんが、あなたの考えるようにはいかないと思った方がいいです。」
わかってるわよ…簡単に口を割ってくれるとは思えないけど、もしかしたら話を聞けるかもしれないと思ってね。
何を成すにも必要になってくるのは情報だ、まずはそれを集めないと。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
で、早速その子と会ってみた。
ディスクを失った事で行き場を失い帰る場所がなかったからか、ここで雑用ながら仕事をしていたようだ。
「ひっ…スタンダードの女神様!?」
「おはよう、怯えないでくれるかしら…少し話が聞きたいの。」
会った途端、怯えられてしまった。
犬っぽくこんなに可愛らしい幼そうな女の子が、フォトン・フォースのリーダー格だったというのだから驚きだ。
遭遇した時は仮面を着け時代がかった口調で凄味があったのだけど…だからこそ、にわかには信じられないわね。
…何も後ろ盾がないとここまで人見知りだったとは。
「あ、あなた方になんて…何も話す事なんてありません。」
「色々なしがらみがあるわよね…そりゃ。」
わかってたけど、立場上からしてそう簡単に口を割ってくれるわけがない。
彼女は現状は敵対するフォトン・フォースなのだから。
どんな理由であれ、何か話そうものならエクシーズ次元を裏切ったと心に重荷を担ぎかねない。
なんだかんだで自分の生まれ育った次元に思い入れがあるだろうからね。
それに同胞と無理やり引き離され、言葉は悪いけどここへ誘拐された以上は猶更ね。
仕出かしたことがやってきたことだから仕方ないとはいえね。
正直わたしも山越シェフらをカードにした件で怒りを感じている。
でも、このままじゃお互いに今後のためによくない。
「ただ、わたしもあなた方に対して怒りがないといえば嘘になる。
知り合いをカードに封印したりとね。
あなた自身は手を下していなくても、部下にそうさせた時点でそれ以上に性質が悪い。
正直に言えば、許せないという気持ちは今でも強い。」
何より許せないのは後ろめたさより、カードに封印した人々をコケにして愉悦を感じていた所にある。
そして、カードに封印する際は自らは手を下さず、部下にそうさせた事もね。
今思い出しても忌々しい…裏切った里久が目の前にいた事もあって自分が暴走するのも仕方なかった。
その後で権現坂がアクションカードを使ったという衝撃な絵面を見せられたとはいえ、正気に戻れたのは奇跡に近いと思う。
結局のところ、憎しみの連鎖は悲劇と憎しみしか生まない。
憎しみあったままじゃ、戦争やしがらみはいつまで経ったって終わらないからね。
それじゃいけない。
ソースはわたしだ。
特に暗国寺の件で痛いほど思い知らされた。
次元戦争の根本をどうにかして終わらせないと、柚子を助けてもいたちごっこだろうよ。
「でも、だからといって侵攻から憎しみの連鎖になってしまえばいつまでもいたちごっこ。
どこかで折り合いは付け、理解しあわないと悲劇と憎しみしか生まれなくなる。
ま、なんだ…そっちの次元の内情と融合次元が何故襲われなくてはならなかったのか知りたい。
今のところはエクシーズ側の印象は悪いけど、それは情報が足りないせいかもと思った。
現状、憎しみと悲しみしか生まない次元戦争を止めるためにも…少しでも情報が欲しいんだ。
理解してくれる人は少しでもいる方が気が楽でしょ?」
ま、結局のところ情報が欲しいだけなんだけどね。
どう動こうにも手掛かりや情報がなければ何もわからないし動きようがない。
それなしに他次元へ渡ったところで時間の浪費と犬死が見えている。
こんなんで口を割ってくれるとは思えないけど…!
「そこまで言うのならわかりました…話せる範囲で話してみます。」
「本当!?順にお願いするわ。」
と言ったそばから話してくれる事になるとは思わなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「成程…!」
「詳しくは話せなくて、ごめんなさい。」
聞けた話はモアが耳にしたという噂そのものだった。
詳しいことまではわからなかったけど、エクシーズの連中の目的は4つの次元をあるべき姿に正す事という。
ただ、彼女自体はその真意までは理解していないようだ。
重要なのがやはり融合次元には世界を滅ぼすかもしれないほどの危険人物がいるという情報だ。
そいつが何かした事で融合の住民の何名かを危険な存在に変貌させており、エクシーズの同胞がその魔の手にかかったのが原因で融合次元を侵略・排除に乗り出す必要があったらしい。
侵入したこと自体がいただけないけど、穏やかじゃない話だ。
残念ながら、その敵の排除はできていないようだ。
聞いた話だからまだ確定ではないけど。
そして、ここ最近は次々と向こうでも造反が起きているというとの事。
成程、仲間割れしていたのはそういう事だったのか。
しかも、あのガナッシュらが出撃の許可なく勝手にこの世界に侵入した事も明らかとなった。
わたし自身を狙ってきた事といい、奴はその敵とつながっている可能性がある。
確か、クライアント云々とも漏らしていたしな。
わたしも暴走した身でよく記憶していたものだけどね。
恐らく、その敵を放置すればこっちも取り返しのつかない事になる。
エクシーズの連中が融合次元の侵略に乗り出した理由も深刻なものかもしれない。
それにしても、これはどう考えても他人ごとじゃ済まされない。
融合次元に赴いて確かめる必要が出てきた上、ロム曰くエクシーズ次元のトップに君臨しているという赤馬零王に問いただしたいところだ。
ちなみに赤馬零王はあの赤馬零児の父親らしいのだけど、レオ・コーポレーションの創立者がどうしてエクシーズのトップにいるのかねぇ。
まぁ最悪の場合は…その連中に加担する必要もあるかもしれない事は覚悟しなければならないかもしれない。
立場からしても行動次第で責任が重く圧し掛かってくるな。
この女神という立場からしても圧し掛かってくる義務は重い。
ノブレス・オブリージュとはよく言うけどさ。
いずれにしても、時間にあまり猶予はなさそうだ。
「いいえ、貴重な話をありがとう。
悔しいけど、そういう事から侵略せざるを得なかったみたいね。
まだ未知な所も多いけど、色々と確かめる価値はありそうだ。」
「そう言っていただけて、ほっとしました。
それにしても、わたしたちの故郷はどうなってしまうのでしょうね。」
「現状ではかなり危ないと見た方がいいかも。
その拠点が占領されるのも時間の問題かもしれないと思うと…猶予はなさそうだ。」
だからこそ、現状直接エクシーズ次元へ乗り込めないのは苦々しい。
恐らくは融合次元へは乗り込めるだろうから、それ経由で行くしかなさそうね。
エクシーズの連中の基地もありそうだしね。
色々と調べながら、激戦を戦い抜いていくしかないか。
「それと忠吉はどうなりましたか?」
「あ、連れの犬ね…舞網市の保健所に保護されたみたい。
誰かに交渉させるから待っていなさい。」
「あ、はい。」
…手違いで殺処分されていなければいいのだけどね。
もしされていたら、彼女に笑顔が戻る事はないんじゃないかな?と心配してみたり。
まぁ…エクシーズ次元製の封印装置つきディスクはもうないし、何かしようという事はないだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「聞けたのはこんなところよ。」
「だいたいあいつが話したものと相違はなさそうだな。」
「向こうも一枚岩ではないという事ですね…ふむふむ。
お察しの通り、行ける次元は融合次元ですが…これは好都合かもしれません。」
聞いた話が本当なら確かめてみる必要がある。
もし未だに融合次元にいれば…の話ではあるけど。
まぁ、仮に本人がいなくても繋がっている奴はいそうなものだが。
こればかりは行ってみない事には何もわからない。
「それでも、今すぐ行けるわけではありません。
ネプテューヌの使っていた次元移動装置を模したものを使うわけですが、もう少し調整が必要です。」
「事態は一刻を争うんだがな…仕方ないか。」
流石にすぐには行けないか。
一朝一夕で如何にかなるものじゃないからなぁ。
「そういえば、赤馬零児率いるランサーズの方はどうなったんだ?」
「そうですね…まだこの世界を旅立ってはいないようです。」
と、ここで遊矢がランサーズについて話題を振ってきた。
彼らと協力するつもりはないのだけど、どうするつもりよ?
「なら、一度彼らに会っておいたらどうだろうか?
融合次元のネプテューヌたちとも一度きっちり話をしたいだろう?」
「おいおい、今更どの面下げて…」
「今はなりふり構っている場合じゃないだろう。
お前の使命を果たすためにもここは堪えてくれ。」
「ちっ、仕方ない。」
どうやら、舞網市に戻って一度彼らと情報交換するつもりらしい。
億劫ではあるけど、確かネプテューヌたちもいるのよね。
融合次元についての話を纏めてみる必要があるとすると、確かにその方がよさそうだ。
プライドは行く前から既にズタズタもいいところだけど。
「それと融合次元へは俺も行く事にする。」
「遊矢が…?う〜ん、実は一人で行くつもりだったのだけど?」
「お前一人行かせるわけには行かんぞ、ブラン…ここは俺も参る。」
「権現坂も…ありがとう!」
命がけになるし正直一人で行く心算だったのだけど、遊矢と権現坂が同行するようだ。
ある程度は無茶できるとはいえ、なんだかんだ支えになってくれる仲間がいるのは心強い。
それに、戦力と万一暴走した時のストッパーなどはいてくれるに越した事はないからね。
何より、2人とも戦力として申し分ない。
権現坂は不動のデュエルを応用した自分のデュエルを見出した事で実力が高まっている。
しかも、それでいてまだ発展途上だからデュエルするたびに強くなる状態らしい。
遊矢はいわずもがな…暴走したわたしを止める事ができる上、壁として立ちはだかったからな。
「俺はエンタメデュエルの素晴らしさとルウィー教会を他の次元の住民に布教したいからね。」
「宣教目的かよ!」
あ、こいつ多分ルーニーだ。
場を笑わせるためなら手段を選ばなそう。
「半分冗談だ、本当は俺の実の父親は恐らく他の次元にいるだろうから捜したいんだ。」
「半分は本当なんだ…で、榊遊勝か。」
「ああ。」
それは半分冗談らしいけど、榊遊勝か。
自分の父と思い込まされていた榊遊勝は別の次元にいる可能性が高そうだからね。
実の息子である遊矢としては再会したいというのが子心というものだ。
わたし?真意は兎も角、彼を一度ぶん殴っておきたい。
勝手にいなくなられたせいで今までどれだけ大変な目に遭ったか…!
ストロング石島とのタイトルマッチで結果的に試合放棄したせいである事ない事言い寄られたものだよ。
それは兎も角…!
「それじゃ、ロムはどうするのかしら?」
「ボクはここへ残ります。
戦地で戦い抜けるほどの体力は残っていませんし、何よりボクがいなくなってしまうとここの守りが非常に薄くなってしまいますから。」
一方、この中でも最強クラスのはずのロムはここへ残るようだ。
…どうもバトルロイヤル中に禁じ手を使ったのもあるようだ。
その時の後遺症が未だに残っているようで、他次元で戦い抜く体力がないらしいとの本人談だ。
わたしとのデュエルを拒否したのもそれが関係しているようである。
本当のところ、こういう事だから赤馬零児の誘いを断ったわけね。
しかし、確かに彼女がいないとここの守りが薄くなるのは確か。
後、ここから舞網市まで遠いのよね。
瞬間移動とかできたらいいんだけど、そこまで万能じゃない。
「ま、時間も惜しいだろうしブランが向かっていてくれ。
女神の力を使えばそこまで時間かからないだろ。」
「俺たちはカメラ越しから連絡を取る事にしよう。」
「おいおい、いくら女神の力が凄いったって随分と無茶言うな…」
「これも修行の一環だと思ってやってみろ。
正直、移動だけでも馬鹿にならないし少しでも節約したいんだ。」
「案外金に困ってたのかよ…仕方ない。」
そういうわけで一端舞網市へ戻る事にした…わたしだけが。
しかも自力で行けってよ…女神の力でさ。
う〜ん、こんな事に使うのもどうかと思うけど…死活問題じゃ仕方ない。
それと、資金面ならあいつの協力を仰いでみるか…柚子に借りができているだろうし。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「ぜぇ…ぜぇ……」
つ、着いた…舞網市に。
女神化して飛行しながら行ったわけなんだけどいろいろ大変だったぜ。
ちなみに、ここからでもルウィー教会との連絡は取れたりする。
かがくのちからってすげー!
とりあえず、レオ・コーポレーションで面会するためのアポを取るか。
そのためにもまずは…!
――ポチポチ…!
『おーっほっほ!このわたくしに何の御用かしら?』
「栗音でいいわね…こちらはルウィー教会の女神ブラン。
あなたに協力してほしい事があって電話しているわ。」
『あらあら…聞き覚えがある声なのですが、女神を名乗る方は存じ上げませんわね。』
「元々は遊勝塾のユーヤ・B・榊だよ!
わけあって今はその名じゃなくなって、ルウィー教会の女神になってしまったけどな!」
『そうでしたの…その女神がわたくしに何用で?』
LDS所属の桜小路栗音に接触していく。
彼女の家は世界有数の財閥である桜小路財閥なのよね。
わたし自身とはあまりつながりはない…といっても同性間の俗に言うラッキースケベで叩かれた事などあるにはあるけど。
それは兎も角、まずはこうする。
「単刀直入に言うわ…あなたがた桜小路財閥に我々ルウィー教会のスポンサーになっていただきたい。」
『なんですって?あなたがたのような胡散臭い団体のスポンサーに?冗談も大概にしなさいな。』
まぁ、予想通りの反応だ。
誰が好き好んで怪しげな女神信仰団体のスポンサーになるかという話よね。
いくら最強クラスのロムなどの戦力があるといってもそんな事を受けるかと言えば話は別で。
「そりゃ、はいそうですか…というわけにはいかないだろうね…だけど。」
『何ですの?』
「率直に言わせてもらうと、今のあなた方では他次元の脅威に打ち勝つ程の力はないはずだ。」
『…は?あなたにそんな事を言われる筋合いは…』
ちょっと悪役っぽい感じになっちゃったけど、声の調子が変わってるあたり釣れてきたかな。
この手のプライド高そうなお嬢様は案外チョロイというのが相場よね。
「ないと?果たしてこれを聞いてもそれを言えるのかな?
お前や光津真澄を大会で破った柊柚子が…他次元の奴らに攫われた。」
『なんですって?あの柊柚子が?』
「つまり、何が言いたいかは…わかるわよね?」
ごめんなさい柚子、あなたをだしに使っちゃった。
柚子でさえいとも簡単に攫えてしまうような奴らだ。
他次元の勢力に比べれば、栗音含むLDSの連中の大半は羽虫同然と言わざるを得ないのよ。
ユースチームでさえ、1人除いて全滅という有様だったわけで。
しかも、ペンデュラムを会得した沢渡でさえもステラの魔の手によって…!
「っ、言いたい放題言ってくれますわね…!
なら、あなたはどうなのかしら!」
「ふふ…なら、その目で確かめてみるか?」
『勿論ですわ!1時間後にLDSのセンターコートにいらしてよ!』
「そうこなくちゃね。」
――プツン。
あ、通話が切れた。
この程度の挑発に引っかかるなんて、やっぱりチョロいとしか言いようがないわね。
さて、流石に栗音と勝負する前からレオ・コーポレーション本社に言っても門前払いされる可能性があるだろうし、どうしたものか。
流石に柚子を連れて帰るまでは遊勝塾へは戻りたくないしな。
それを考えると、遊勝塾の関係者はまずこないだろうセンターコートなら都合がいい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
そんなこんなで、55分が経過。
現在は待ち合わせ場所のLDSのセンターコートの前にいる。
スポンサーとして桜小路財閥を紹介できそうだと教会側に報告しておいたけど、後は時間が来るまで暇だったわね。
さてと…修行の成果をみせてあげようかしらね。
そう思っている内に栗音がやってきた。
「あらあら、逃げずによく来たもの…っ!?」
「開口一番にそれとは失礼極まりないわ…お久しぶりね、栗音。」
流石に痴女呼ばわりはあまりに失礼極まりないし言わないでおく。
「あ、あなた…本当にあのユーヤ・B・榊!?
見た目や恰好は兎も角、纏っている雰囲気が全く…」
「今は違うけど、かつてはそう呼ばれていたわね。
改めて自己紹介するわ、わたしはルウィー教会の女神『ブラン』。」
纏っている空気がかつての『オレ』とは違う…それを見抜けただけでも大したものだ。
かつてとはいっても一週間ほど前だけどさ。
「女神ですか…ですが、そのようなものハッタリだってことを思い知らせて差し上げますわ!」
「ハッタリかどうかは…身の程をもって思い知らせてあげる。
時間が惜しいわ、早く始めましょ?」
「え…ええ、そうですわね。」
ちなみに人々を笑顔にするようなデュエルをする余裕はないけどな。
時間も惜しいし、ちょっと汚れ役気味になるしかない。
――ざわ、ざわ…!
「ここで栗音様のデュエルだと…!」
「しかも相手はバトルロイヤルに参加していたユーヤ・B・榊…!
伝家の宝刀のペンデュラムに加え、3つの召喚法も自在に操る!」
「そんなの関係ねぇ!栗音様、そんな奴打ちのめしてやれ!」
今はその名を名乗るわけにいかないけどな!榊遊矢はわたしじゃないっての。
ついでにいうと、今は融合の代わりに儀式召喚が使えるから3つの召喚法を使えるのもあながち間違いじゃない。
そして、センターコートのデュエル場に立つ。
大勢のLDSの生徒が注目している中で…!
「「デュエル!!」」
ブラン:LP4000
栗音:LP4000
早速デュエルが開始される。
ちなみに今回は通常のデュエルだ。
「先攻はわたくしがいただきますわ!
まずは手札から『ガガガシスター』を召喚しますわ!」
ガガガシスター:ATK200
「ガガガシスターが召喚した時、ガガガの魔法・罠カード1枚…ここは『ガガガ学園の避難経路』を手札に加えますわ。」
避難経路…効果を見るに念のために手札に加えた印象があるわね。
「続いて、わたくしのフィールドに『ガガガ』が存在するためレベル2の『ガガガキッド』を特殊召喚します!」
ガガガキッド:DEF1200
さらにガガガキッドを展開してきたわけか。
ここでレベル2のモンスターが揃ったわけだけど、ガガガシスターのもう1つの効果は…!
「さらに、ガガガシスターのもう1つの効果で自らとキッドのレベルを2体の合計分のレベルと同じにしますわ。」
ガガガシスター:Lv2→4
ガガガキッド:Lv2→4
これでレベル4のモンスターが2体…来るぞ、ユーマ!
…ところで、ユーマって誰だ?
「わたくしはレベル4となったガガガキッドとガガガシスターでオーバーレイ!
麗しき純白の翼翻す希望の国の使者よ、我が下へ降臨なさい!エクシーズ召喚!ランク4『希望皇ホープ・ハート』!!」
『ホォォォォォプッ!!』
希望皇ホープ・ハート:ATK2500 ORU2
いつも通り、はいはいホープホープ。
だいたい初手でホープを出すのよね、この子は。
当時は衝撃的だったけど、今となっては恐るるに足りない。
「案の定、馬鹿の一つ覚えのホープを出してきたわね。」
もっとも、わたしもあまり人の事は言えないけど。
先攻でハードシェル・クラブのエクシーズ召喚はよくやるからね。
「馬鹿の一つ覚えとは言ってくれますわね…!ならこれはどうかしら?
手札から『
これにより、ホープ・ハートの攻撃力は合計2500アップしますわ!」
希望皇ホープ・ハート:ATK2500→5000
「攻撃力5000か…」
「風神雲龍剣の効果でホープは相手の効果の対象にできず、戦闘破壊の身代わりにもできます。
そして雷神猛虎剣は『ZW』を破壊から守り、自身を身代わりにホープの効果破壊を防ぐ事ができますの。」
「成程、対象を取らない破壊以外の除去じゃないと突破は困難と。」
これだけでも正攻法での突破は困難を極めるわね。
しかも、ホープ・ハート自身も戦闘に関する効果を持っていると来た。
でも、これって…?
「だけど、アリアエレジーほど固くはないわよね?攻撃力こそは高いけど。」
「目の付け所は悪くありません…ですが、戦闘面はより強いですわ!
そして、このカードでより強固な布陣に致しますわ!
永続魔法『希望の聖域』を発動します!」
ここで永続魔法を発動してきたわけだけど…!
強固な布陣という事は嫌な予感がするわね。
「希望の聖域が存在する限り、わたくしの場の『希望皇ホープ』のエクシーズは相手の対象を取らないカードを受け付けなくなるわ!
しかも、貫通効果も得る上に効果の発動も無効にされなくてよ!」
「…」
なんだこのインチキカード。
これじゃ、この永続魔法を処理しない限りは対象を取らない除去も通用しないと。
しかも、ホープ・ハートを戦闘で処理する事も容易ではないわけだ。
効果を無効にできなくなった以上はね。
何より、貫通効果が付与されたせいで守備で守る事も許されない。
「これで栗音様のホープ・ハートはほぼ無敵も同然!」
「いくらバトルロイヤルへ進めたといっても、これでは手も足も出まい!」
「きゃー、栗音様!わたしを抱いて!」
なんか一人変なのが混じってるんだけど?
…でもわたしも人の事言えないや、てへぺろ。
確かに真正面から挑もうものなら骨が折れるわね。
最低でも永続魔法を処理した上で対象を取らない破壊以外の除去を食らわせる。
もっとも、それができるデュエリストは限られているが。
資産的な意味でも対象を取らない破壊以外の除去は貴重だもの。
「おーっほっほ!流石にこの磐石な布陣の前に声も出ないようですわね!
女神も纏っている雰囲気もハッタリだと認めればサレンダーも許しますわよ!」
「さあ、どうかしらね?御託はいいから続けなさい。」
「きぃぃぃっ!その余裕綽々の態度もいつまで持つかしらね!
どの道、あなたでは突破できないでしょうけれども!
わたくしはカードを1枚伏せて、ターンエンドしますわ!」
まぁ、昔ならだいぶ狼狽えていたのだろうけど…今ではそうでもない。
完璧な布陣のように見えるけど、果たしてそう思惑通りに行くとお思いかしらね?
その気になれば正面から突破するのもエンタメ的に面白いはず。
だけど、生憎こんな所で時間を食うわけには行かないのよ。
「その程度でいい気にならないで。
確かにかつてのわたしなら無理だったかもしれない。
だけど、それは昔の話…格の違いを思い知らせてあげる…!!」
「っ…!」
今から少しばかり残酷な事をする。
これは時間が惜しいのに加え、この次元を守れるくらいに強くなってほしい思いがあるんだ。
遊勝塾の教えとは反するだろうけど、ここは目を瞑ってほしい。
「さてと、お楽しみはこれからだ…ふふふ。
わたしのターン、ドロー!」
「あいつ、こんな恐ろしい雰囲気の奴だったか?」
「それにこの余裕、いったい何をする気だ…?」
――ざわ、ざわ…
これまでと違うわたしの雰囲気に警戒を露わにしたか、異様にざわついているわね。
それじゃ、期待に応えると致しましょう。
「確かにほぼ無敵の耐性を誇るモンスターを先攻1ターン目から展開できたのは見事よ。
だけど、その分…手札がなくなり、その伏せカードの正体もわかっている。
何が言いたいのかは賢明なあなたなら理解していただけると思います。」
「あら、何が言いたいのかしら?」
「お言葉ですがそのモンスターの牙城が崩されればそれで終わりという事よ、栗音お嬢様。」
耐性を過信しすぎて、万一破られた時のリカバリーが効かない。
それではこれからの戦乱の日々を生き抜くのに不十分と言いたいの。
それに、バーンで削り切られてしまえばそれで終わり。
「っ…それでも、突破されなければ関係…!」
「慌てないで、まずはスケール4の『ロブスター・クワガタ』をセッティング!」
ロブスター・クワガタ:Pスケール4
その前に準備を済ませたいのだけれどもね。
「ロブスター・クワガタの効果でデッキから『カニカブト』を手札に加える。
次に魔法カード『シーフード・カーニバル』を発動し、今加えたカニカブトを捨てて2枚ドロー。
ここでスケール4『甲殻奏者ロブスター・ハープ』をセッティング。」
甲殻奏者ロブスター・ハープ:Pスケール4
「あら、同じスケールではペンデュラム召喚は…いいえ、そのカードは!」
「そう、ロブスター・ハープのペンデュラム効果を発動!
このカードを破壊し、手札から水属性・レベル3のモンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚するのはチューナーモンスターの『エビカブト』!」
エビカブト:DEF1000
「エビカブトが特殊召喚された事で墓地から『カニカブト』を特殊召喚!」
カニカブト:DEF900
「これでレベル3のモンスターが2体…!」
「いや、片方はチューナー…」
「どっちで来るんだ?」
様子見込みならエクシーズもアリだ。
だけど、これは相手の無力さを思い知らせるためのデュエル…そんな生ぬるくはない。
「わたしはレベル3のカニカブトにレベル3のエビカブトをチューニング!
シンクロ召喚!いでよ、レベル6!命を操る水の槍術師『ガリデス・ギルマン』!!」
『ヌンッ!!』
ガリデス・ギルマン:DEF1800
「出てきたのは沢渡との試合で出してきたシンクロだよな?」
「あれ?その沢渡を最近見かけないけど、何処行ったのかしら?」
「まったくだ…沢渡さん、俺たちを置いて何処へ?」
…カードに封印されたんだ、彼らの知る光焔ねねそのもののステラの手によって。
真実は闇の中に葬られてしまっているようで悲しい。
…デュエルを続けよう。
「ガリデス・ギルマンがシンクロ召喚に成功した事でデッキから水族・魚族のモンスター1体を墓地へ送り効果を発動。
墓地へ送ったモンスターのレベル×100だけこのターン攻撃力をアップする。
墓地へ送ったのはレベル2の『ガントレット・カメノテ』だから200アップ。」
ガリデス・ギルマン:DEF1800(ATK1600→1800)
「本命は墓地肥やしというわけですわね。」
その通り、このガントレット・カメノテがキーカードとなる。
が、その前に…まだ通常召喚権を使っていない。
「ええ、そして通常召喚をまだ行っていない。
手札から『タイムテール・ロブスター』を召喚!」
タイムテール・ロブスター:ATK1600
「手札の水属性1体を捨て、タイムテールのモンスター効果を発動。
デッキから水族のペンデュラム1体をエクストラデッキに加える。
この効果で加えるのは『甲殻鎧竜オッドアイズ・オマール・ドラゴン』だ。」
ここで特殊なペンデュラムモンスターであるオマール・ドラゴンを準備しておく。
「水族と言いましたわよね?ドラゴン族ではなくて?」
「こう見えて水族なんだ、悪く思うな。
そして、水属性の効果で手札から墓地へ送られた『ライン・ペンシル』は自己再生できる。」
ライン・ペンシル:DEF900
ライン・ペンシルもチューナーだ。
だが、今は踏み台にさせてもらう。
「そして、このライン・ペンシルをリリースし、ガリデス・ギルマンのもう1つの効果を発動!
墓地から水属性1体を選んで効果を無効にし、守備表示で特殊召喚できる!
この効果で甦らせるのはレベル2のチューナーモンスター『ガントレット・カメノテ』!!」
ガントレット・カメノテ:DEF1000(効果無効)
「チューナーのレベルを下げてきたって事は狙いはレベル8のシンクロか?」
「何が出ようともアレを突破するのは…」
そういえば、公共の場ではアレを見せた事はなかったわね。
里久との試合の時もそこまでは見れなかった人が大半だろうし。
「わたしはレベル6のガリデス・ギルマンにレベル2のガントレット・カメノテをチューニング!
星々の煌きを拳に宿し、立ちはだかる敵をぶちのめせ!シンクロ召喚!舞い降りろ、レベル8『甲殻拳士カニメデス』!!」
『ヌゥゥ…デアッ!!』
甲殻拳士カニメデス:ATK2500
ここでカニメデスを出しておく。
正直、これで超耐性のホープ・ハートを突破する事は難しい。
もっとも、出した理由はあるけど、それは後々だ。
さて、そろそろショーの仕上げに入るとしよう。
「ここで手札の水属性1体を捨て、墓地の『ガントレット・カメノテ』を除外し効果発動!
この効果でデッキから『甲殻』モンスター1体を手札に加える…ふふふ。」
「そのカードは…?」
――ざわ、ざわ…
今、わたしが手札に加えたカードはこの周りの人たちも知らないものだ。
そして、そのカードを一瞬見た観客からはよりざわつきが走る。
「ふふ…一見突破は困難なように思える強化されたホープ・ハート。
でもね、その完璧そうに見える強固な耐性のモンスターにも致命的な綻びがあるのよ。」
「綻び…どういうことですの?」
「百聞は一見にしかず…抗えぬ脅威というものをとくと括目せよ!
大いなる命を糧とし、深淵より地上に姿を現せ!相手の希望皇ホープ・ハートをリリース!」
『グ、グオォォォォ…!!』
「ホープ・ハート!?何事ですの、これは!?」
「こいつは相手フィールドのモンスター1体をリリースし、相手フィールドに攻撃表示で特殊召喚できるモンスターでね。
どんな耐性のモンスターであろうと、リリースや特殊召喚が封じられない限りは問答無用で喰らい出現する!
大自然の脅威をもって、相手の場に降臨せよ!レベル7『甲殻壊獣エビルス』!!」
『ギャオォォォォォォォォ!!』
甲殻壊獣エビルス:ATK2300
「嘘だろ…無敵に近い耐性が付いたホープ・ハートをあんな方法で…!」
「あんな無茶苦茶なモンスター…初めてみたわ。」
最上級モンスターをプレゼントする事と引き換えに、コストとしてのリリースという形でホープ・ハートには退場してもらったわけだ。
召喚ルール効果のコストという形の除去の前ではリリースされない事を除き、いかなる耐性も無力。
限られた対策を使われない限り、いかなるモンスターも食い荒らす災厄となるわけだ。
こいつ自身にはデメリットも何もないから、便利だからと考えなしに使うと逆に牙をむくだけだけど。
「嘘ですわ…ホープ・ハートがこのような野蛮な怪獣などに…!」
「怪獣ではない、壊獣だ…読みは同じだけどな。
安心しろ、そいつ自体にはデメリットもなにもない。
次のターンが来れば行使することだってできる。」
「くっ、このわたくしが…こんな醜いモンスターなど…!」
「おい、醜いってなんだ!普通にカッコいいだろ!…はっ!?」
おっと、いけない…思わず素が。
そりゃ、己の切り札を勝手にリリースして出てきたもの。
文句の一つ二つ言いたくなってもやむを得ないか。
「げほ、げほ…いずれにしてもたった一体のモンスターが処理されただけでこのザマか。
この程度ではいずれくるであろう他次元の魔の手から逃れる事は到底できない…!
あのキモオタ…もとい真文の奴も他次元からの者の魔の手にかかって散ったみたいだからな。」
「やはりそうでしたのね…!
どうして、こんな事になってしまわれたのでしょう…!」
「そこまでは知らないわ。」
もっとも、あいつをカードに封印しやがった馬鹿はレオ・コーポレーションに保護されてはずの金髪ことモアなんだよなぁ。
流石にそこまで教える義理はないけど、反応をみる限りやられた事はわかってはいたようね。
あの、ランサーズ結成の日から。
そして、この場には勇み走ろうとする無謀な馬鹿も多いだろう。
でも、これである程度は身の程を思い知らせたはずだ。
「だけど、思い知らされたはずよ…いかに今のあなたたちが無力かという事をね。」
「そんな…!」
「さてと、ここで墓地の『カニカブト』を除外し、『ゾエア・シュリンプ』を自己再生する!」
ゾエア・シュリンプ:ATK100
さてと、挫折を味あわせた所で決めにいくぞ。
「そして、エクストラデッキからオマール・ドラゴンのモンスター効果を発動!
自分フィールドの水族モンスター2体をリリースする事でエクストラのこのカードを特殊召喚できる!
タイムテール・ロブスターとゾエア・シュリンプの2体の水族モンスターをリリース!
いでよ、雄々しき甲殻の鎧纏いし二色の眼を持つ竜!レベル7『甲殻鎧竜オッドアイズ・オマール・ドラゴン』!!」
『ガァァァァァァァ!!』
甲殻鎧竜オッドアイズ・オマール・ドラゴン:ATK2600
「あのペンデュラムモンスター…変な方法で出てきやがった…!」
「次から次へとわけがわからないぜ…!」
もちろん、送り付けたエビルスをそのまま放置するわけには行かない。
だからこそ、事前にオマール・ドラゴンを召喚できるようにしたんだ。
もっとも、彼らに見せるのは初めてだけどな。
そして、これで決めにいく。
「それじゃ、バトルだ!
オッドアイズ・オマール・ドラゴンでエビルスに攻撃!
そして、この攻撃宣言時にオマール・ドラゴンのモンスター効果発動!
フィールドのモンスター1体を選択し、手札に戻す!」
「手札に戻すですって!?それじゃ…!」
「そう、エビルスにはわたしの手札に戻ってもらうわ…『ウェイブ・スマッシャー』!!」
――ザッバァァァァ!!
「何ですの…わたくしの場に送りつけられたモンスターがまたあなたの手札に…!」
「ふふ…おかえり、エビルス。」
相手フィールドに特殊召喚されるモンスターは、言わずもがなバウンスと相性がいい。
相手モンスターを除去しつつ、相手フィールドに押し付ける効果を再利用できるからだ。
もっとも、このターンで終わらせるけど。
「ここで巻き戻しが発生する…勿論、攻撃対象をあなた自身に!喰らえ『激流のハンマー・シュラーク』!!」
――ドゴォォォォ!!
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
栗音:LP4000→1400
「そして、カニメデスでダイレクトアタック!」
「まだですわ、そうやられぱなしというわけにはいかなくてよ!
罠カード『ガガガ学園の避難経路』を発動しますわ!!
この直接攻撃を無効にし、デッキから『ガガガ』モンスター1体を手札に加えます!」
「いいえ、これで終わり!デッキから水属性モンスター1体を墓地へ送り、カニメデスのモンスター効果を発動!
バトルフェイズに発動した魔法・罠・モンスターの効果を無効にし破壊する!『テンタクル・スラッシャー』!!」
――ザシャァアッ!!
「そん…なっ……!」
ガガガ学園の避難経路自体は万一の事を考えて伏せていたのでしょうけど、カニメデスの前では無力。
それともう1つ効果があるけど、このターンでは使えないからな。
これで彼女を守るものは何もなくなった!
「渾身の一撃をぶちかませ、カニメデス!『スパイラル・フィスト』!!」
――ドッゴォォォォォォォ!!
「ああぁぁぁぁぁ!!」
栗音:LP1400→0
――ざわ、ざわ…
「おいおい、栗音様が…」
「1ターンキルされた…だと?」
「しかも、あいつ…ペンデュラムカードは使ったけどペンデュラム召喚していないんだぞ…!」
「にもかかわらず、この結果とは…!」
栗音にほとんど何もさせず、ペンデュラム召喚も使わずに1ターンキルを成立させた事でざわついているわね。
さて、勝敗も決した事だし改めて要求する事にしよう。
…だけど完全にこっちが悪役じゃない…悔しい、でも……!
「さてと、無様な敗北を喫したあなたにはわたしの要求に従ってもらう事にするわ。」
「っ、こんな事認めたくありませんが…わかりましたわ。」
「ふふ、いい子ね。
それじゃ、我々ルウィー教会の環境を提供する代わりに資金源…げふん、スポンサーになっていただきましょうか。
それともう1つ…あなた方のコネを利用して……」
――パチパチ…!
「見事だ、ユーヤ・B・榊…いや、ルウィー教会の女神『ブラン』と言ったな?
どうやら向こうでの修行の成果を発揮できたそうだな。
そして、そちらから接触してくれるとは我々が教会へ出向く手間が省けたものだ。」
「赤馬、零児…!」
もう1つの要求をしようとしたところでクソメガネ…もとい、赤馬零児直々にわたしの前に姿を現した。
どうやら、1つ手間が省けたようだぜ。
続く
登場カード補足
甲殻壊獣エビルス
効果モンスター
星7/水属性/水族/攻2300/守2600
(1):このカードは相手フィールドのモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールドに攻撃表示で特殊召喚できる。
(2):相手フィールドに「壊獣」モンスターが存在する場合、このカードは手札から攻撃表示で特殊召喚できる。
(3):「壊獣」モンスターは自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。
(4):1ターンに1度、自分・相手フィールドの壊獣カウンターを2つ取り除き、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを持ち主の手札に戻す。
希望の聖域
永続魔法
(1):自分フィールドの「希望皇ホープ」Xモンスターは対象を取らない相手の効果を受けず、効果の発動を無効にされない。
(2):(1):自分の戦士族Xモンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える。
ガガガ学園の避難経路
通常罠
(1):相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。
その攻撃を無効にし、デッキから「ガガガ」モンスター1体を手札に加える。
(2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「ガガガ」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを手札に戻す。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。