No Side


「早速来たな、彼女の得意とするデッキ破壊戦術…!

「そうですね、ボクもあれには何度もやられたものです。」

「ロム殿もかつてはそういうものだったのか。」


ブランとフィナンシェによる教会行をかけたデュエルが始まった傍らで客席の方でロムや塾長たちがそのデュエルを見物していた。
意外にもロムは昔、フィナンシェのデッキ破壊に何度かやられた経験があるようだ。
儀式は必要なカードが多い分サーチを繰り返す傾向がある…そのためデッキ破壊が刺さりやすい。


「マジかよ、デッキ破壊で来るなんてさ…」

「しかも、ブランお姉ちゃんってドローとかサーチ繰り返す事多いよね。」

「うん…もっとも、一概に不利とは言えないけどね。
 墓地利用できるカードが多い事だし。」

「普通はな…だが。」

「え…?」


墓地へ送る方のデッキ破壊は場合によっては相手の墓地肥やし…塩を送る事にもなりかねないのがセオリー。
特にブランのデッキには墓地発動の効果持ちが多い傾向にある…運悪く落ちは悪いが。
だが、塾長の反応からしてそれをカバーする手だてがあるという事だろう。


「それに…彼女の戦術の恐ろしさはここからです。

「だな…初見殺しに近い所はあるが、これを乗り越えられないようではとても教会の試練を突破できるとは言い難い…だろ?」

「そうなりますね…その場合は女神として不相応でしょうね。
 そうなってしまった場合は覚悟していただきましょうか…にこにこ。」

「「「!?」」」


そして、ロムの不穏な笑顔に嫌な予感を感じる子供たち3人であった。


――ガラッ


「お、やってるやってる…ランサーズ入隊の件を断って遅れたけど、まずは第一の試練の始まりって感じだな。」

「ようやく来たか、ファントム…本当はお前の事を遊矢って呼びたいんだがな。」

「久しぶりだね、修造さん。
 それについては仕方ないよ、まだ正式に名前を返してもらってるわけじゃないからな。
 で、フィナンシェさんを相手にどう戦う?ブラン…」

「「「知り合い!?」」」


そして、ここで塾長とも顔なじみだったことが明かされたファントムこと本来の榊遊矢がこの場に現れる。
彼もまた、ブランとフィナンシェのデュエルを見に来たようであった。

フィナンシェの戦術の恐ろしさなどの…お楽しみはここからである。










超次元ゲイム ARC-V 第61話
『冥土のご奉仕』










ブラン:LP4000 デッキ枚数:28
ハードシェル・クラブ:DEF2100 ORU2

フィナンシェ:LP4000
e・mキャッチガール:DEF1400



Side:ブラン


ひょんなことからフィナンシェとデュエルする事となったのだけど、まさかのデッキ破壊戦術で来るとは。
メイドといえば奉仕…相手のデッキから墓地へ送ったり、ドローさせたりと塩を送るような効果を使う。
だけど、最終目的がライブラリアウトによる相手の敗北ともなると…その辺の事は何か対策してきそうだ。

そして何より、表面的には笑顔を見せているけど目が笑っていない。
こんなに怖いフィナンシェを見るのは初めてだ。


「では、参ります…わたしのターン、ドロー。
 まずは手札からe・m(エンタメイド)ワークガール』を召喚。」
e・mワークガール:ATK1000


「そしてワークガールのモンスター効果を発動されます。
 このカードが召喚・特殊召喚した時、デッキから『エンタメイド』を1枚手札に加え、あなたは1枚ドローしていただきます。」

「ここでオレがドローという事は…!」

「お察しの通り、発動中の永続罠『奉仕の対価』によりデッキの上から2枚除外していただきます。」

「地味ながら厭らしい…」


これで残りデッキは25枚…ま、まだ慌てるような時間ではないわ。


「そして…わたしは儀式魔法『エンタメイドの契約』を発動します。
 この効果により、レベル3のワークガールとキャッチガールをリリース。
 これにより、手札・墓地から同レベルの『エンタメイド』の儀式召喚を執り行う事を可能にします。」

「儀式魔法…嫌な予感しかしないわね。」


やはり教会絡みだから儀式モンスターが出てくるみたいだ。
一体、これでどんなモンスターが出てくる?


「伝説の侍従よ…我が命により、この戦場に奉仕し主導権を握れ。
 儀式召喚…降臨せよ、レベル6e・m(エンタメイド)サーヴィス・キーパー』!!」

『ふふ…』
e・mサーヴィス・キーパー:ATK1000



「彼女のエースモンスターが来ましたか。」

「このモンスターを前に、ブランはどう立ち向かう?」


儀式召喚で出したモンスターながら攻撃力1000…?
そう考えると、嫌な予感しかしない。
この手のモンスターは絶対に何かあるのが常識…ソースは柚子のフローラル・ディーヴァなどだ。
一方、客席側を見てみるといつの間にかファントムまで来ていたのか。


「攻撃力1000の儀式モンスター…その分効果は強力と。」

「奉仕の支配者ですから…それでは早速バトルと参りましょう。
 サーヴィス・キーパーでハードシェル・クラブを攻撃!」


ハードシェル・クラブを前に攻撃したという事は絶対何かある。
今は効果を確認している暇はないけど…!


「ここで手札から『クリア・シュリンプ』のモンスター効果を自身を捨て、フィールドのハードシェル・クラブをリリースして発動!
 その攻撃を無効にし、デッキから1枚ドローする!」

「ふふ、防いで正解です…攻撃表示のサーヴィス・キーパーは戦闘・効果では破壊されず、自分への戦闘ダメージも0になるモンスター。
 そして、特殊召喚されたモンスターを攻撃したダメージ計算後に相手のデッキの上から5枚墓地へ送った後でそのモンスターをデッキに戻す効果がありますから。
 しかしながらメイド長のご奉仕を拒んでくるとは中々のいけずですね。」


案の定、嫌な予感的中…しかしながら5枚もデッキトップを破棄してくるとは、防いでよかった。
それといけずってどういうことなの?勘弁してください。


「兎に角、水属性のコストで墓地へ送られたハードシェル・クラブの効果を発動し、魚族・レベル3のジェット・ホッピーを手札に加えておくわ。
 それと、奉仕の対価の効果は1ターンに1度だけ…みたいね。」

「ブラン様の仰る通りです。」


だから、効果でのドローをさせてもらったわけよ。
もっとも、油断していたらすぐにデッキが尽きてしまうから注意しないとね。


「では、わたしはカードを1枚伏せ…エンドフェイズに入りサーヴィス・キーパーのもう1つの効果を発動します。
 この効果であなたはデッキから5枚墓地へ送っていただきます。」

「5枚!?」


毎ターンのエンドに5枚はデッキ破壊としては多い。
しかも、最初に発動しようとした効果と合わせればその枚数はなんと10枚。
流石にデッキ破壊としては重い枚数なだけに、残しておくと非常に拙い。


「わたしはこれでターンエンドです。」

「っ…オレのターン、ドロー!
 手札から魔法カード『サルベージ』を発動し、言わずと知れた効果で墓地から『ブライン・ロブスター』と『タイムテール・ロブスター』を手札に加える。」

「案の定デッキ破壊が裏目に出てしまいましたが、奉仕をする者としてその程度は承知の上です。」


リスクは覚悟済…といったところね。
引いたカードがサルベージだったのは偶然だけれどもね。


「そして、手札から『タイムテール・ロブスター』を召喚!」
タイムテール・ロブスター:ATK1600


「手札から水属性モンスター1枚を捨て、タイムテール・ロブスターの効果を発動!」

「ここです…ライフを1000払い、永続罠『ソウルドレイン』を発動します。」
フィナンシェ:LP4000→3000


「ソウル…ドレイン!?」

「このカードが存在する限り、お互いに除外されているモンスターの効果と墓地のモンスターの効果を発動できません。
 つまり、今墓地へ送ったモンスターの効果を発動できないわけです。」

「そんなっ…!?」


ここでフィナンシェが発動させてきたのは墓地発動効果を封じる永続罠だった。
これじゃ、今墓地へ送ったジェット・トッピーの効果を発動できない…!
それどころか、墓地利用の戦術の大半を封じられたわけだ…これは非常に拙い。
そりゃ、墓地利用を得意とするオレを相手にデッキ破壊を躊躇なく行えるわけだ…!


「さて、墓地で発動する効果を封じさせていただきましたが、いかがなさいますか?」

「くっ、タイムテール・ロブスターの効果でデッキから『甲殻槍士ロブスター・ランス』をエクストラデッキに。
 そして、スケール4の『甲殻神騎オッドシェル・P・(ペンデュラム)ロブスター』とスケール8の『ブライン・ロブスター』でペンデュラムスケールをセッティング!」
甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター:Pスケール4
ブライン・ロブスター:Pスケール8



「ペンデュラムができる手札も揃えていましたか。」


そして、ドローさせてくれたお蔭でペンデュラムがしやすくなったのも助かった。
ここはやるしかなさそうだ。


「これでレベル5から7のモンスターが同時に召喚可能。
 揺れろ、魂のペンデュラム…天界に架かれ、流星のビヴロスト!ペンデュラム召喚!来て、オレのモンスターたち!
 手札からレベル6の『甲殻掃兵ノズル・スィーパー』
 そして、エクストラデッキから、レベル5『甲殻槍士ロブスター・ランス』!!」

『ヌ…!』
甲殻掃兵ノズル・スィーパー:ATK1900

『ハッ…!』
甲殻槍士ロブスター・ランス:ATK2000 forEX



「ここでペンデュラム召喚されたノズル・スィーパーの効果をソウルドレインを対象に!
 ロブスター・ランスの効果をサーヴィス・キーパーを対象に!
 そして水族がエクストラデッキから特殊召喚された事でペンデュラムゾーンのオッドシェルの順に効果を発動!」

「了解しました。」

「まずはオッドシェルのペンデュラム効果で自らを破壊し、デッキからロブスター・シャークを手札に。
 続いて、ロブスター・ランスの効果でサーヴィス・キーパーの表示形式を変更する!」
e・mサーヴィス・キーパー:ATK1000→DEF2800


サーヴィス・キーパーの破壊耐性効果は攻撃表示でないと適用できない…そういう以上はこうするしかない。
…とはいったものの、守備力2800は流石に儀式モンスターだけの事はあるわね。


「最後にノズル・スィーパーの効果で対象のソウルドレインをデッキに戻す!
 海の掃除屋に掃除されなさい!『スィープ・ストリーム』!!」


――シュオォォォォォォ!!


「ソウルドレインを戻されましたか。」


あれ、普通に通るのかよ…!?
これでオレの墓地発動を封じる罠を処理できたわけだ。
もっとも、あの罠を処理できていないわけだから油断は禁物だけど。
なにより、奉仕の対価を処理できていないわけで。


「そして、手札から魔法カード『浮上』を発動し、墓地のレベル3以下の水・魚・海竜のうちのいずれか1体を蘇生する。
 この効果で甦らせるのはチューナーモンスター『ライン・ペンシル』!」
ライン・ペンシル:DEF900


意外とエンド時の5枚の落ちは悪くなかったのよね。
チューナーが落ちてくれた事は有難い。
そして、ここからだ!


「成程、ここでチューナーを蘇生ですか。」

「オレはレベル5のロブスター・ランスにレベル3のライン・ペンシルをチューニング!
 星々の煌きを拳に宿し、立ちはだかる敵をぶちのめせ!シンクロ召喚!舞い降りろ、レベル8『甲殻拳士カニメデス』!!」

『ヌォォォォ…デアッ!!』
甲殻拳士カニメデス:ATK2500



ここでカニメデスを呼び出しておく。
サーヴィス・キーパーの耐性は攻撃表示のみ有効で、バウンスも自ら攻撃した場合のみ。
今のオレの札でサーヴィス・キーパーの守備力を突破できるこいつで!


「バトル!」

「そうはいきません、メインフェイズ終了時に永続罠『ベリアル・ワイヤー』を発動。
 この効果でカニメデスは攻撃表示のままで表示形式を変更できず、効果は無効になります。」

「っ…!」

『グオ…ッ!』
甲殻拳士カニメデス:ATK2500(効果無効&表示形式変更不可)



「カニメデスの効果が封じられちゃった…!」

「今のブランに攻撃力で守備力を上回る手段はあるのか?」


やられた、メインフェイズで発動されてしまってはカニメデスの効果が使用できない…!


「カニメデスの能力は既に把握しております。
 バトルフェイズ中ならば強大な突破力と制圧力を発揮するようですが、メインフェイズ中なら怖くありません。」


流石に権現坂の試合で始めて発現した時からカニメデスを見ていたフィナンシェにはお見通しか。
やられた、このままじゃ突破できない…!
オレの残りデッキは17枚…!


「さて、ここからどうなさいますか…ブラン様。」

「くっ、オレはこれでターンエンド…!」

「攻撃できませんでしたか…わたしのターン、ドローします。
 手札からe・m(エンタメイド)クラムジー・ワーカー』を召喚します。」

『はわわ…』
e・mクラムジー・ワーカー:ATK1800



ここで名前からしてドジそうなメイドを召喚…!
その攻撃力は意外にもタイムテール・ロブスターを上回っていた。


「守備表示にされたサーヴィス・キーパーを攻撃表示に変更し、ご奉仕の時間と参りましょう。
 まずはクラムジー・ワーカーでタイムテール・ロブスターを攻撃します!」

『きゃあっ!?』


――ドスッ!


「転んだ衝撃で倒すのかよ…」
ブラン:LP4000→3800


「そして、クラムジー・ワーカーのモンスター効果を発動。
 このカードが戦闘でモンスターを破壊した場合、お互いにデッキを1枚ドローします。」

「効果によるドローって事は…!」

「そうです、奉仕の対価の効果でデッキトップから2枚を除外していただきます。」

「っ…!」


これで残りデッキは14枚に…!


「そして、サーヴィス・キーパーで効果が無効になっているカニメデスに攻撃です。」

「攻撃を防ぐ手段は、ない…!」


サーヴィス・キーパーの効果を阻止する手段が…オレにはない。
つまり…!


「そして、特殊召喚されたモンスターに攻撃した事でサーヴィス・キーパーのご奉仕効果が発動します。
 これによりあなたのデッキトップから5枚を墓地へ送りつつ、カニメデスには退場していただきましょう。」

「っ、法外な要求をしてくる悪徳なメイドめ…!」


思わず悪態をつくが、これで残りデッキは9枚…ついに1桁を切ってしまう事となった。
その上、サーヴィス・キーパー撃退の要だったカニメデスがエクストラデッキに戻されてしまったわけだ。


「そろそろ残りデッキも危なくなってきた頃合いでしょう。
 ブラン様には申し訳ないのですが、この程度ではあなたを教会に行かせるわけにはいきません。」

「っ…!」


フィナンシェからみれば今のオレの実力では教会行きすら相応しくないようだ。
実力と女神としての意識が足りないからこそ、教会で地獄を見ないとならないんだがな。
今のままじゃ、柚子を助けるどころかスタートラインを踏む事すらできない…のか?


「カードを1枚伏せ、エンドフェイズに入りサーヴィス・キーパーのもう1つの効果を使います。
 これでブラン様のデッキから5枚を墓地へ送らせていただきます。」


これで残りデッキはわずか4枚…!


「まだデッキは微妙に残っていましたか、いいでしょう。
 それと今のブラン様にはここ最近欠けているものがあるかと存じます。
 初見殺しゆえわたしに勝てないまでも、少なくともそれを思いだすに至らないようでは駄目です。
 これでターンを終了します。」

「初見だからわたしには勝てないか…それはどうかしら?
 問題は、次のターンどうなるかだけどね。
 そして、欠けているもの…あっ、そういえば。


言われてみればそうだ。
そういえば、バトルロイヤルといい…近頃はデュエルを純粋に楽しむ余裕がなかったはず。
楽しむ楽しむと相手に押し付けておきながら…本当に楽しむ事を忘れていたのはオレの方だった。


「あはははは…なんてこった、ここ最近のゴタゴタと焦りのあまり大事な事を忘れていたわ。
 相手を楽しませようとしながら自分が楽しむ事を忘れていたのかも…笑顔もね。
 それになんというか、心に余裕がなくなっていた。
 そんなことでは女神として力をつけても、本当にやるべきことは成す事ができない…多分そうよね。」

「あの時、何があったかは存じておりませんがそういう事です。」


やっぱりそういう事ね。
そして、苦境においてもデュエルを楽しめないようでは相手に言葉を交す事なんてできやしない。
何より、借り物の力に溺れる事しかできなかったんだ。
だから例えば今は融合召喚なんて何か生み出さない限りはできやしないけど、それでもやれる範囲でやって楽しむ気概がなくっちゃね。


「成程、なら先ほどまでの態度は失礼だったわね。
 それじゃ、ここからは奇蹟のカーニバル…開幕だ!

「いわゆるレディエンとかお楽しみはこれからだ…じゃないのですか?」

「ほっといて、今はこっちの方が気に入ってるの。
 それとレディエンと略さないでくれるかしら。」


正直『Ladies and gentlemen』とかの掛け声はどうかと思うようになったのよ。
あれは観客に対しての台詞で対戦相手からしたら…失礼にあたるかもしれないと思うようになってさ。
まぁ、沢渡相手なら使うけど…その沢渡も……うう、今はネガティブな事考えちゃ駄目ね。


「彼女の顔つき…成程、ここから面白くなってくるだろうな。」

「問題は本当に決められるかどうかです。」

「大丈夫だ、ようやくあいつらしくなりはじめたようだからな。」


ギャラリーも期待してくれてるみたいだし、ここで行かないとね。


「さて、オレのターン…ドロー!
 このスタンバイフェイズにブライン・ロブスターのペンデュラム効果が強制発動!
 この効果で自らを破壊し、1枚ドローする。」

「効果でドローしましたね…なので奉仕の対価によりデッキトップから2枚を除外していただきます。」

「それにチェーンして罠発動『貪欲な瓶』
 墓地のカードを5枚まで選んでデッキに戻してシャッフルし、1枚ドローする!
 オレがデッキに戻すのは『甲殻鎧竜オッドアイズ・オマール・ドラゴン』『甲殻水影ドロブスター』『サルベージ』『浮上』『シーフード・カーニバル』の5枚!」

「このタイミングでその5枚をデッキに…?
 それと40枚デッキじゃないみたいですね。」


そう、実は42枚デッキだったりする。
40枚だとちょっと具合悪いからだけど、そうじゃなかったら危なかった。
このままだと奉仕の対価の効果で丁度デッキが0枚になってしまうからね。

実はデッキが無くなっている場合は貪欲な瓶が発動できない。
エクストラデッキに戻るカードとの兼ね合いだから仕方ないけど。
だから、このタイミングで使わざるを得ないって訳だ。


「そして1枚ドロー!」


ドローしたカードは…一応は欲しかったカードではある。
後は、除外されるカード次第か。


「さて、2枚除外していただきます。」


除外された2枚のカードは…よし!


「ここからが本当の勝負よ、フィナンシェ!
 まずは水属性のノズル・スィーパーがいる事で墓地の『ガントレット・カメノテ』の効果を発動!」

「いいでしょう。」

「手札の『ザリガン』を捨て、デッキから『甲殻鎧竜オッドアイズ・オマール・ドラゴン』を手札に加える。
 そして魔法カード『サルベージ』を発動し、墓地から『シュテルアーム・ロブスター』と『シュリンプ・ソルジャー』を手札に戻す。
 ここで今手札に戻した『シュリンプ・ソルジャー』を召喚!」
シュリンプ・ソルジャー:ATK600


ガントレット・カメノテの効果をちゃんと使えたという事は、あの伏せカードはソウルドレインじゃなさそうだ。


「シュリンプ・ソルジャーが召喚に成功した時、墓地の水族・攻撃力800以下の通常モンスター1体を特殊召喚できる!
 これで、さっき墓地へ送った『ザリガン』を特殊召喚!」
ザリガン:DEF700


レベル2のモンスターが2体揃った。
これで、久しぶりにあいつを呼び出せる…通用するかは別として。


「今度はレベル2のモンスターが2体ですか…」

「これはここにいる皆がご存じないはずよ!
 オレはレベル2のシュリンプ・ソルジャーとザリガンでオーバーレイ!
 腕をかき鳴らし、その衝撃であらゆる敵を打ち落とせ!エクシーズ召喚!ランク2『クルヴ・シューター』!!」

『キュ…!』
クルヴ・シューター:ATK900 ORU2



「そのエクシーズモンスターは…お初にお目にかかりますね。
 攻撃力が低いという事は、それなりに強力な効果がありそうですね。」


そう、今はエクシーズ次元のステラとなったねねに対してのみ見せたエクシーズだ。
ここにいる他の誰にも見せていないエクシーズモンスターだ。
それに、オレがこれを持っているのを知っているのは彼女に加えて北斗くらいなものだ。
元々の持ち主だから当然と言えば当然だけど。


「なら、クルヴ・シューターの効果をご覧なさい。
 エクシーズ素材を2つ使い、墓地の水族2体…ハードシェル・クラブと甲殻砲士ロブスター・カノンの2体を対象に効果発動!
 その2体をデッキに戻し、その後相手の表側表示モンスター1体をデッキに戻せるわ!」
クルヴ・シューター:ATK900 ORU2→0


「…それをただで通すわけにはいきません。
 この瞬間、永続罠『おさわり禁止』を発動します。
 このカードが存在する限り、自分のエンタメイドは相手のモンスター効果を受けず、攻撃対象にもできなくなります。」

「おっと、流石に防いできたわね…対象の自分のカードはデッキに戻させてもらうわ。
 サーヴィス・キーパーをデッキに戻したいところだけど、おさわり禁止じゃ戻せないわね。」

「ああっ!このままじゃあのメイド達にモンスターでは手が出せないよ…」

「ブランの持つ干渉手段は基本的にモンスター効果。
 さて、ブランよ…お前はこの不利な状況をどう乗り越える?


おさわり禁止という永続罠でクルヴ・シューターだけでなく、これ以外のモンスター効果が通用しなくなった上に攻撃対象にもできなくなった。
しかも永続罠だから処理しない限りは文字通り触れる事ができないってわけね。
いわゆるHENTAI文化だからこそ、こんなカードが出てきてしまったわけか。
もっとも、こうなるかもしれない事は想定済みよ…ニヤリ。


「それじゃ…ここで本命の登場だ!
 オレはクルヴ・シューターとノズル・スィーパーをリリースし、手札のオマール・ドラゴンの効果を発動!
 このカードは手札・エクストラデッキにある場合、自分の水族2体をリリースする事で自らの効果により特殊召喚できる!
 現れろ、雄々しき甲殻の鎧纏いし二色の眼を持つ竜!レベル7『甲殻鎧竜オッドアイズ・オマール・ドラゴン』!!」

『ガァァァァァァァア!!』
甲殻鎧竜オッドアイズ・オマール・ドラゴン:ATK2600


ここでオマール・ドラゴンが久しぶりにモンスターとしての登場だ!
ここ暫くはペンデュラム効果での活躍に絞られていたけど、久しぶりにモンスターとして暴れさせてやるぜ!


「そのモンスターは…ですが、おさわり禁止がある以上」

「それはどうかな?クルヴ・シューターのもう1つ効果をおさわり禁止を対象に発動!
 このカードが水属性のコストにより墓地へ送られた場合、相手の魔法・罠カード1枚を破壊できる効果があるのよ!」

…なっ!?


オマール・ドラゴンの特殊召喚効果はモンスター効果だからな。
これでクルヴ・シューターのもう1つの効果が活きるって寸法だったわけだ。


「これでおさわり禁止を破壊だ!」

「まさかブラン様のもう1枚のエクシーズにそのような効果が…!
 ソウルドレインが戻されたのがここにきて一気に来た印象があります。
 ふふ、これこそわたしが見たかったブラン様です。」


ありがとう。
もっとも、まだまだこんなものじゃないわ。
何より、エクストラデッキにペンデュラムモンスターが大量に眠っているもの。


「それじゃ、スケール2の『ロブスター・シャーク』とスケール5の『シュテルアーム・ロブスター』でペンデュラムスケールをセッティング!
 もう片方に『ロブスター』があるため、シュテルアームのペンデュラム効果で自らのスケールを8にする!」
ロブスター・シャーク:Pスケール2
シュテルアーム・ロブスター:Pスケール5→8



「既に握っていましたからね…それでは、思う存分やってください。」

「言われるまでもなく!これでレベル3から7のモンスターが同時に召喚可能!
 揺れろ、魂のペンデュラム…天界に架かれ、流星のビヴロスト!ペンデュラム召喚!振り子のように舞い戻れ、オレのモンスターたち!
 エクストラデッキからレベル3の『タイムテール・ロブスター』!レベル5の『甲殻槍士ロブスター・ランス』
 そして、真打ち登場!レベル7『甲殻神騎オッドシェル・P・(ペンデュラム)ロブスター』!!」

タイムテール・ロブスター:ATK1600 forEX

『ヌン…!』
甲殻槍士ロブスター・ランス:ATK2000 forEX

『ウオォォォォォォォォォォォ!!』
甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター:ATK2500 forEX



「これだけ揃うとなると…見事に壮観なものですね。」

「エクストラデッキのモンスターが決め手とは限らず、メインデッキのモンスターに華を持たせてきたな。」

「いっけー!ブランお姉ちゃん!」


とりあえず、これだけいれば役者は十分。
子供たちの声援もあるし、これで決めに行くとするか。
あ…ここでロブスター・ランスの効果を発動したところで大して意味はないしやめておこう。


「さてと…それじゃ行くよ、みんな!」

『『『『ヌンッ!!』』』』


「勝負よ、フィナンシェ!
 まずはオッドアイズ・オマール・ドラゴンでクラムジー・ワーカーに攻撃!
 攻撃宣言時にサーヴィス・キーパーを対象にオマール・ドラゴンの効果を発動!」

「いいでしょう…では、折角なので最後の足掻きを見せましょう。
 エンタメイドに対する攻撃宣言時に手札からe・m(エンタメイド)レセプター』を捨て、効果発動。
 その攻撃モンスター1体を破壊し、その後あなたのデッキの上から3枚を墓地へ送っていただきます!」


成程、手札誘発があったようね…でも!


「だけど、ここでロブスター・シャークのペンデュラム効果!
 レベル5以上の水族が破壊される場合、代わりにこのカードを破壊できる!
 よって、レセプターのデッキ破壊効果は不発に終わる!カーニバルの主役を退場させるなんてさせない!」

「わかりました…通します!」

「ならオッドアイズ・オマール・ドラゴンの効果により、対象となったサーヴィス・キーパーを手札に戻す!『ウェイブ・スマッシャー』!!」


――ザッバァァァァァ!!


「ようやく、わたしの奉仕の要を退けたようですね。」

「そして、そのままクラムジー・ワーカーとダメージ計算だ!喰らえ『激流のハンマー・シュラーク』!!」


――ドッガァァァァァァ!!


ああっ…!
フィナンシェ:LP3000→2200


「ふふ…合格です、ブラン様。
 あなたならきっと、教会の修行を乗り越えられるでしょう。」

「ありがとう!」

「それでは、最後は当然あなたの魂のカードで決めてくださるのですよね?」

「ええ、特にお望みとあらばね!
 オッドシェルでトドメだ!『螺旋のシュトロム・シュラーク』!!」


――ドゴォォォォォォォ!!


きゃぁぁぁぁ!!お見事です…」
フィナンシェ:LP2200→0


「ありがとうございました!」

「こちらこそ、ブラン様の力になれたようで光栄です。」


そして、最後に礼をしておく。
忘れていた事を取り戻せた気がするわ。
でも、悲しいけどむしろ本当の地獄はここからなのよね。


「ブランお姉ちゃんの勝ちだ!」

「ライブラリアウトしないかとひやひやしたけど、最後の攻勢はマジ痺れたぜ!」

「ブラン…エンタメ云々は兎も角、お前の熱血は見せてもらったぞ。」

「フィナンシェはブランお姉ちゃんを認めたようですね。
 兎に角、これで教会行きが確定となりましたが…」

「ああ、ここからが本番だな。」


そう、教会での修業が待っている。
厳しいものになるのは間違いないだろうけど、必ず乗り越えて見せる。
柚子を助けつつ、世界を笑顔にするためにも。
まずはオレの中に眠る力を確実にモノにしないとね。


「わたしにできる事はここまでのようですね。
 この先の道は果てしなく険しいと思われますが、どうか乗り越えてください。
 ブラン様に幸あらん事を。」

「ええ、行ってくるわ…母さん。」


最後にオレをここまで育ててくれたフィナンシェに敬意を表してこう呼ぶ。
さてと、次は塾の面々に暫く留守にすると告げないとね。
客室に入ると、塾長が真面目な顔で出迎えた。


「ブラン…本当に行くんだな?」

「柚子が他の次元へ連れ去られた上に、立ちはだかったフィナンシェを負かした以上はもう後には退けない。
 そして、何より…オレの正体が女神という曰くつきのものなら猶更よ。
 わけのわからない力に振り回される事なく、何が何でもものにしたいからね。
 もう暗国寺戦のような惨めな思いをするのは沢山だから…平常心と笑顔を忘れずに。
 その上で、他の次元の勢力に挑み勝負を楽しみつつ柚子を助ける事にするわ。
 そして、行く果てにはこの次元戦争とやらを止めてみせる。」

「楽しみつつか、ふっ…それに覚悟は決めているようだな。
 わかった、行って来い!俺には止められん。
 ただし、絶対に柚子を連れて帰ってくるんだぞ!」

「その前に壁は山ほどあるけどね。」


だから、まずは次々と立ちはだかる壁を乗り越えなければならないからね。
色々とボコボコにされて強くなってくるわ。


「ブランお姉ちゃん、帰ってきてね。」

「柚子お姉ちゃんと一緒にね!」

「もし途中で力尽きたりでもしたら痺れられないからな!」

「安心して、必ず帰ってくるわ。」

「僭越ながらこのワタシ、ニコ・スマイリーも見送らせていただきます。
 このデュエルを実況できなかったことが誠に残念ですが。」

「あなた、いたの!?


なんと、ニコ・スマイリーまで来ていた。
実況していなかったという事はついさっききたばかりという事みたい。

そして、彼らに見送られながら、後日ロムやファントム…彼らの仲間になった権現坂と共に教会の本拠地へ向かう事となった。


「そういえば、ルウィー教会の本部はどこにあるのか聞いておらんかったな。」

「言っておりませんでしたね…グリーンランドの辺りです。

「は?」

「何と!?」


驚きのあまり、思わず『は?』と口走ってしまった。
どうしてそんな寒い所にあるのやら。
修行の旅路は初っ端から前途多難のようね…!
これは相当覚悟しておかないとならなそうだ。









 続く 






登場カード補足






クリア・シュリンプ
効果モンスター
星1/水属性/水族/攻 0/守 0
「クリア・シュリンプ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手モンスターの攻撃宣言時、このカードを手札から捨て、自分の手札・フィールドの水族モンスター1体をリリースして発動できる。
その攻撃を無効にし、自分はデッキから1枚ドローする。



シュリンプ・ソルジャー
効果モンスター
星2/水属性/水族/攻 600/守 500
「シュリンプ・ソルジャー」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、自分の墓地の水族・攻撃力800以下の通常モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。



e・m(エンタメイド)サーヴィス・キーパー
儀式・効果モンスター
星6/地属性/天使族/攻1000/守2800
「エンタメイドの契約」により降臨。
「e・mサーヴィス・キーパー」の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードは攻撃表示で存在する限り、戦闘・効果では破壊されず、
このカードの戦闘で発生する戦闘ダメージは0になる。
(2):このカードが特殊召喚されたモンスターに攻撃したダメージステップ終了時に発動できる。
相手のデッキの上からカードを5枚墓地へ送り、その相手モンスターを持ち主のデッキに戻す。
(3):自分エンドフェイズに発動する。
相手のデッキの上からカードを5枚墓地へ送る。



e・m(エンタメイド)ワークガール
効果モンスター
星3/地属性/天使族/攻1000/守1000
「e・mワークガール」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。
デッキから「エンタメイド」カード1枚を手札に加える。
その後、相手はデッキから1枚ドローする。



e・m(エンタメイド)クラムジー・ワーカー
効果モンスター
星4/地属性/天使族/攻1800/守 100
(1):このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。
お互いにデッキから1枚ドローする。



e・m(エンタメイド)レセプター
効果モンスター
星1/地属性/天使族/攻 100/守1500
「e・mレセプター」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分の「エンタメイド」モンスターが相手モンスターの攻撃対象に選択された時、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。
その攻撃モンスターを破壊し、相手はデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。



エンタメイドの契約
儀式魔法
「エンタメイド」儀式モンスターの降臨に必要。
(1):レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベルと同じになるように、自分の手札・フィールドのモンスターをリリースし、自分の手札・墓地から「エンタメイド」儀式モンスター1体を儀式召喚する。



おさわり禁止
永続罠
(1):このカードが魔法・罠ゾーンに存在する限り、自分フィールドの「エンタメイド」モンスターは相手のモンスター効果を受けず、攻撃対象にもできない。
(2):発動後2ターン目の相手スタンバイフェイズにこのカードは除外される。