Side:ロム


ラムちゃんとのデュエルで無茶をしてしまったせいで暫く眠っていたわけなのですが、バトルロイヤルは終了し、どういうわけかブランお姉ちゃんと赤馬零児がデュエルをしておりましたか。
結果こそは引き分けでしたが、ファントム曰く彼はブランお姉ちゃんを試すようなデュエルをしてきた模様です。
それでも、引き分けにしか持ち込めなかった…今のままではいけませんね。


「ファントム、申し訳ありませんがこの状況の至った経緯を耳打ち願いますか?」

「そうだな…ごにょごにょ」


成程、大体わかりました。
バトルロイヤルで生き残ったのはこの場にいる方々のみ。
後は行方知らず…のようですね。
あの兄弟でさえも侵略者の魔の手にかかり、無残に散ってしまったと見た方がよさそうですね。

他次元からの侵略者が来ることはそこにいるモアの出現で察していましたが、如何せん犠牲が大きいと言わざるを得ません。
あの兄弟でさえもやられたというのに、抜き打ち同然で素人同然の参加者に試験と表して撃退させるのはいかがなものでしょう?
大勢の観客には混乱を避けるために説明しないというのはまだ納得が出来ます。
ですが、参加者たちには事前に説明すべきだったはずです。
これは最悪命に関わる事態…ブランお姉ちゃんがブチ切れるのも無理はありません。
本来はバトルロイヤルに偽装してユースチームで侵略者を討つ算段だったのでしょうけれどもそうはいきませんでしたので。

もっとも…逆に言えば我々も事態を予測していながらこのザマで歯がゆい思いをしておりますが。

それはそれとして…ランサーズに入る気は……さらさらありませんがね。


「赤馬零児、お言葉ですがボクはランサーズには入りません。」

「ふむ、それは困るな…君は侵略者の連中を一番多く退けた撃退作戦のいわばMVP。
 むしろ、君にはランサーズの先鋭として部隊の指揮にあたっていただきたいのだが?」

「主にあなたが気に喰わないからです。
 戦争のイロハも知らない素人に何も知らせないまま、戦場に放り込んでおいたそうじゃないですか。
 我々の仲間2人も行方不明となり、その他多くの犠牲を出しましたよね?
 我々も思慮が甘すぎたのは事実…ですが、あなた方の責任も重大ですよ?
 今思えば、参加者の皆さんには事前に説明しておくべきだったはずです。
 それに、ボクはこの世界を守らなくてはなりません…次元を渡るつもりなどありません。」

「いずれにしろ、私に従う義理はないわけか。」

「そういうことです…それと。」


もう1つ言わなくてはならない事がありますね。


「ブランお姉ちゃんを今、ランサーズに入れるわけには行きません。」

「そうだ、お前も見ただろ…このデュエルで出したオッドシェル・リベリオンの脅威を。
 さっきは自制していた様子が伺えていたからよかったがな、暴走していたら最悪この中から死人が出ていたぞ?
 彼女はいわば爆弾を抱えている身…その状態で他の次元に行かせるわけにはいかない。

「そういえばそうだった…カッとなって忘れてたけど。」

「ふむ…どうしたものか。」


ファントム、フォローありがとうございます。
正確には女神の力に振り回されているという事ですが。
ブランお姉ちゃんも跪いて頭を垂れておりますね。


「あのさぁ…なんか、わたしたち置いてけぼりじゃない?」

「あ、ネプテューヌにこのカードを返すわ…勝手に使ってごめんなさい。

「おい。」

「別にいいよ…むしろ、ブランが持っていてくれてよかった……っ!?


そして、唐突に割り込んできた融合次元の女神のネプテューヌにブランお姉ちゃんがカオス・リベリオンを返しましたが…?
そのカードを手にした途端、彼女の様子が…?


「ねぇ…大丈夫かしら、ネプテューヌ?」

「い、いや……なんでもないわ…」

「?」


いや、なんでもなくはないと思うのです。
どこかふざけた雰囲気から急にシリアスで棘を感じる雰囲気になりましたから。
一方のブランお姉ちゃんは…逆に雰囲気が柔らかくなった感じですね。


「そういえば、バトルロイヤルの侵入者の件でひょっとしたら大変な事に気が付いてしまったのだけど…!」

「ふむ…言いたまえ。」

「その侵入者…フォトン・フォース達ってそこの金髪を追ってきたのよね?」

「そうだが、何故金髪と呼ばわりするのだ…」


それだけ印象が悪いという事でしょう。
我々にとってみればあなたがこの騒ぎの元凶のようなものですから。
ですが、これだけ勿体ぶっているという事は…嫌な予感が匂いますね。


「でもそれだと説明つかない事がある。
 オレを襲ってきた連中はどういうわけかオレを狙ってやってきたみたいなんだ。」

「「「「「何!?」」」」」

「馬鹿な、奴らはオレを連れ戻しに来たはずだ!何故貴様を…?」

「知らないよ…だけど、あいつらはアヴニール所属でフォトン・フォースを名乗っていた!
 それに見たんだ…気絶している仮面の少女がフォトン・フォースらしき連中をカードに封印した光景を!


前者はブランお姉ちゃんの女神の力を危険視してきたにしても、後半の同士討ちがなぜ起きたのかわかりませんね。
そうなると、もしかしたら…!


「…エクシーズ次元の方々は一枚岩ではないかもしれませんね。

「それを裏付けるのが同士討ち…か。

「ちなみにそいつらが現れたのは、火山地帯に気持ち悪い化物がチラッと見えたタイミングに近い。
 そして、その化物は金髪やねねの言う真の敵の関係者の可能性がある…?

「しかも、まるで注意を逸らすかのように化物が現れたと。」


真の敵が何のことかはさておき、碌でもなさそうですね。
そうなると、アヴニールの連中はその真の敵と何か繋がりがある可能性があるわけですね。


「嘘だろ…我々の仲間が融合次元を襲撃した理由であるその敵とアヴニールに繋がりがあるというのか!?」

「そうと決まったわけじゃないけど…可能性としてはありえるんじゃないかしら?」


そうなると…最悪エクシーズ次元そのものが既に乗っ取られている可能性も十分あり得るわけですね。
これは…想像以上に拙い事態が起きているのかもしれませんね。
それに、ブランお姉ちゃんそのものが狙われているとなると…のんびりしている暇はなさそうです。










超次元ゲイム ARC-V 第60話
『動き出すメイド』










Side:ブラン


赤馬零児とのデュエルは手を抜かれた上で引き分けにしか持ち込めなかったという無残な結果に。
自らの無力さを改めて再認識。
その上、アヴニールの連中から自分が狙われていた事を思い出しのんびりしているわけにはいかなくなった。
ルウィー教会で女神としての修業を積むことになったみたいだが、地獄が見えているのでこの先億劫なのは言うまでもない事だ。

そして、真夜中の大会会場では…!


『12時間の激戦を勝ち抜いたバトルロイヤルの勝者たちが今…このLDSセンターコートに戻ってまいりました!
 どうぞ、盛大な拍手でお迎えください。』

「「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」


――パチパチパチパチ!


大会の勝者としてランサーズに入る者が会場入りしていた。
ちなみにオレは…身を隠した上でロムや権現坂と共に観客席の隅っこの方でそれを眺めているだけだ。
権現坂は社長の許可を取らずに乱入したため資格がなく、ロムはランサーズ入りを拒否した形だ。
それで本来オレがあの場に立っているはずであるものの、顔が酷似したネプテューヌにすり替えておいたのさ。
実際、紫吹には仲間である彼女がいないと面倒そうだし。
衣装も交換し、その上でオレたち3人は黒いローブを羽織っている有様でどう見ても不審者だ。


「ところで権現坂、ちょっといいかしら?」

「む、色々聞きたい事あるだろうからな…」

「正直あの時お前がアクションカードを使った時、ちょっとだけ失望を覚えた。」

「…そう言われる事も覚悟していた。」


色々歓声だったり困惑ががこちゃごちゃしている最中に権現坂にはこう糾弾しておく。
行方をくらましている時に何があったかはさておき、アクションカードに頼らない不動のデュエルの信念を捨てた以上はね。


「彼女との試合で思う所はあったのだろうけど、それで信念を捨てるのは感心しない。」

「それも然りだ…だが、信念だろうと一種のハンデを負う事に固執しているようでは肝心な時に本当に大事なものを守る事が出来ない。
 ロム殿とのデュエルでそれを嫌になるほど思い知らされた。
 悩んだ末、権現坂道場から勘当処分を受ける事を覚悟して敢えてその信念を捻じ曲げる事に至ったのだ。
 そして、紆余曲折の末教会に付き従う事になり、魔法・罠を織り交ぜた戦術を会得した上でネプテューヌから融合召喚を教わり今に至る。
 そこで、今は自分のデュエルを見直している最中だ。」

「そこまで覚悟していたのね…わかった。」


自分で悩みぬいた末の決断ならオレからは何も言う事はない。
後悔だけはしてほしくはないけどね。

そして、会場にBBA…もとい赤馬日美香理事長が現れ、中継を途中で切断した理由などを説明した。
バトルロイヤルの会場にフォトン・フォースなどの侵略者が現れた事や、参加者の多くがカードに封印された事なんかも含めて。


「デュエルで負けたらカードに封印されるなんてそんな馬鹿な…」

「真文達が行方不明になったのもそれが原因ってわけかよ…!」

「想像以上にとんでもない事になってしまいましたわね…!」


かすかに聞こえたけど、あのキモオタまで犠牲になっていたのか…!
まさか、そこにいる金髪のせいじゃないだろうな?
だとしたら彼女に一回腹パンしたいところだ…やるかどうかは別として。

それは兎も角、オレ達の手で侵略者を撃退した事がBBAの口から語られる。
そして、ソリッドビジョンのモニターには里久を撃退した紫吹の姿が映し出されていた。
里久がボロボロになっていたのは案の定そういう事だったのか。
一応LDS所属の紫吹の活躍を真っ先に映し出しているのがプロパガンダ感があるなぁと。
また、フォトン・フォースの連中を打ち倒したロムやネプテューヌなどの姿なども…ついでの権現坂などの姿もあった。


――ざわ、ざわ…


「り、里久!?」

「後、権現坂の姿もあるじゃん…駆けつけくれてたんだ!」

「あいつはロム様にボコボコにされただろ?それっておかしくないかな?」

「そもそもロム様がこの場にいないのはどういう事なんだよ…?」

「まさか、その後カードに封印されたんじゃ…?」

「ウゾダドンドコドーン!!」


うわぁ…正規の参加者じゃない人が映し出された事からざわつき始めてる。
実際にはオレの隣にいるのに…憶測が憶測を生んでしまって収拾がつかない。


「いずれにしろ、彼らこそ舞網市を守った英雄!
 彼らにランス・ディフェンス・ソルジャーズ…ランサーズの称号を贈り、その栄誉を称えます!」

「なんだかよくわからないけど、すげー!」

「「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」


正直、観客には何のことかさっぱりわかってない気がする。
それに、いまいち危機感を持っていない感じもあった

一方で、塾の仲間や母さんたちは里久が敵になった事で渋い顔をしているのが遠目からもわかった。


「ランサーズ諸君の活躍により一先ず危機は去りましたが、敵はいつまた襲い掛かってくるかわかりません。
 それに備えるためにも、今後は我が身は自分で守るように身構え、より一層のデュエルの鍛錬に励んでいただきたい。
 そのための場所とカリキュラムは我がLDSが提供します。」

「「「「「「「Boooooooooooo!!」」」」」」」

「ふざけんな、結局LDSの宣伝じゃねぇか!」

「俺たちを閉じ込めておいたくせに露骨にマーケティングしてんじゃねぇぞ!」

「でも、危機感は持った方が確かだよね。」

「俺達をここから出さなかったという事は、ガチでやばい事になってるんだろうし。」


この状況下でのダイレクトマーケティングには観客も掌返してブーイングしてきた。
観客を会場から外に出さなかったなどといった事をしていれば当然よ。
でも、危機感を持っていなかったって考えは訂正しておく。
外部の世界からの侵略者に抗う手段を各々もっておくべきではある。


「静まれ…いずれにしても昨日までの安穏として平和はすでに過去のもの。
 我々の世界も既に侵略の牙に脅かされつつあることを意識せよ。
 全世界のLDSは本日をもってランス・ディフェンス・ソルジャーズとして防衛の最前線に立つ。」


――ざわ…ざわ…


そして、メガネこと赤馬社長の演説に各々が緊張に包まれ、ざわつきが起こる。


「何がランス・ディフェンス・ソルジャーズとして防衛の最前線に立つですか。
 あなた方LDSは侵略者との交戦において大した戦果を挙げられていないどころか、ユースチームは全滅寸前だったじゃないですか。
 ボクやファントムやブラン…それから参加者の皆様の協力あっての事なのに……ぷんぷん。」


一方で隣のロムが悪態をつく気持ちもわかる。
彼女にとってはまるで手柄が独り占めされたような気分だもの。
撃退数の多さならオレや彼女が割と多いものね。

一方で、赤馬社長もランサーズと行動を共にし、敵を討つ事を宣言すると歓声が沸き上がった。
でも…一方的に殲滅するだけじゃ、それこそ憎しみの連鎖を生むだけだ。
今のところは敵なのだろうけど、エクシーズの奴らと本当に潰していくべきなのか怪しくなってきた節はある。
ステラやあの金髪の女…モアの話が本当であれば……ね。

それすらも不透明な状態で戦時下の状態に入るのはどうかと思う。

観客は歓喜で震えるものと、動揺するもの…あるいは関心のないものの3通りに分かれた。



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「おい、ブラン…なんだその不審者みたいな恰好は?今まで着てたのと違うじゃないか。」

「それに柚子お姉ちゃんはなんで来ないの?」

「さっきは一緒にいたのに…」

「あの場に立っていたのは柚子じゃないし、実はオレは違う所で様子を見ていたからあの場に立っていない。
 オレの恰好をしていたのは知り合いのネプテューヌで、柚子に似た同じ格好をした奴はモアっていう別人だ…柚子じゃない。」

「なんだって!?」

「別人!?」

「柚子お姉ちゃんが…いない?」

「ブラン様も何故あの場に立っていなかったのかも気になりますが…」


そして、帰り道に塾のみんなと合流したのだけど…色々ありすぎて。
実はあの場に柚子もオレも立っていない事、そしてここに柚子がいない事に皆困惑を隠せない様子だった。


「そう言えばその服…柚子の……ブラン、何でお前が!?」

「どうやら、柚子とそのモアが服を入れ替えたみたいで…服だけは彼女から返してもらったけど…!
 肝心な柚子は…行方が分からなくなった……!」

「嘘だろ…俺の娘が行方不明に!?」


追われていたモアと服を入れ替えて囮を買って出たって話を聞いて…半信半疑だったけど、柚子はよく無茶する悪癖があるんだ。
カードには封印されていないという話ではあったけど、何者かにこの世界ではない次元に連れ去られた可能性が高い。

ちなみに、モアに誰かをカードに封印しなかったかって問い詰めたらあっさり白状したので一発腹パンかましてやった。
むしろ、あれだけの事をしでかして腹パン一発で済むだけ有難いと思った方がいい。


「バトルロイヤルの開始の時に別れてそれっきり…だ。
 一回、火山地帯で変な化物が映し出されただろ?
 そのモニターを偶然見て探そうとしたのだけど、そんな時に限って邪魔が入った…」

「その化物自体はボクが撃退したのですが、それからそのモアが乱入し、それから柚子さんと彼女が忍者2人に連れられてから…音沙汰がなくなりました。
 一方のボクは湧いてきたエクシーズからの侵略者の一部を撃退するので精一杯でした…守り切れずごめんなさい。」


火山地帯の化物自体はどうにかできたけど、その後のエクシーズ次元の奴らの一部を倒すので精一杯だったって事か。
ここで彼女に非があるとすれば、侵略者が湧いてくる可能性がある事を説明してくれなかった事くらいだ。
もっとも、確証の無い事で不安に陥れるのを避けるためにやむを得なかったところはあっただろうけど。


「で、なんでロムがここにいるの?何が優勝候補よ…」

「まず、権現坂を失踪に追い込んでおいて!
 そのくせ、柚子お姉ちゃんを守り切れないで…!」


敵は大勢いたんだ…いくらロムでも一人で捌ききるのは無理があったはず。
LDSが用意したユースチームもほぼ全滅に追い込まれたそうだし。


「やめんか…ここでロム殿を責めても意味がない。
 それにロム殿といえど流石に限界はある…!
 が、そもそも俺はここに戻って来た…元通りというわけには行かんがな。」

「権現坂道場に連絡したら道場主から『昇のことなど知らん!』と言われたんだ、俺たちにとても心配かけたものだ。」


そう、権現坂は権現坂道場を勘当されているとオレもさっき聞いている。
ロムとの敗戦が影響して不動のデュエルの教えを敢えて破った事が原因だ。
といっても、アクションカードを含む魔法・罠を戦術に導入したという事だ。
もし、そうだと塾の仲間が知ったら驚きのあまり卒倒してしまうかもね。


「ボクが糾弾するのは結構ですが、その前に伝えなくてはならない事がありません。
 ブランお姉ちゃんに関する…大事な事です。」

「「「…え?」」」

「……」

「遂にこの日が来てしまったか…!」

「何を知ってるんだろう?」


っと、ここでオレに関する話をきりだしてきたわね。
間違いなく、オレが女神とかいうわけのわからない存在だった事を伝えるのだろう。
きょとんとしている3人に対し…母さんと塾長は何かを覚悟した面持ちだった。
という事は…2人は以前からオレの正体を知っていた?


「2人は既にブランお姉ちゃんの正体が女神である事は知っているかと思われます。
 ですが、このバトルロイヤルでその力を発現してしまったようです。」

「やはりか…」

「ブラン様は覚醒してしまいましたか…」

「え?」

「ブランお姉ちゃんって、そんな大層な人だったの?」

「いまいち実感わかねぇし、痺れらんねぇよ…」

「それって本当なの?」


そりゃ、いきなりそんな事言われてもわけがわからないわよね。
何より、当のオレが一番困惑しているんだから。


「ええ…だけど、どうしてもその力に振り回されてしまうし、意識が飛ぶ。
 例の侵略者のうち1人を…デュエルの最中にその力で危うく殺しかけた。
 ファントム…え〜とロム、彼の本名をここで言ってもいいかしら?」

「そうですね…ファントムには悪いですが隠し立てはしなくていいでしょう。」


オレの正体に関わる事だものね…許可してくれたなら言おう。


「わかった…オレの父と思われた榊遊勝の本当の息子の榊遊矢に止められて事なきを得た。」

「榊遊矢だって!?」

「それじゃ…ブランお姉ちゃんのユーヤ・B・榊は……」

「本当の名前じゃなかったんだ…」


一方、反応を見るに塾長と母さんに加え、権現坂は既に知っていたみたいね。
権現坂にも既に知られていたなんて思わなかったわ。


「そんなわけで、今のオレはただのブランなのよ。
 現状は身の丈に合わない女神の力を持った…ね。」

「そもそもユーヤ・B・榊という名前がおかしいと言えばそれまでだが。」


形式的には榊遊矢の名前を返上するのは少し後になるだろうけど。


「そして侵略者といえど、力に振り回され相手を殺しかけたか…悲しいが深刻だな。」

「このままでは今までのような暮らしは…できそうもありませんね。
 女神の力を狙う輩も出てくるでしょうから。」

「話を聞くにLDSの追っている敵とは別の集団に狙われた結果がこの有様です。」


恐らく、あのスーツ野郎もその集団の類だろうな。
オレにとっての本当の敵となりえるのは…恐らくそいつらだ。
それに、相手が相手とはいえ殺人未遂というエンタメデュエルの遊勝塾の生徒としてあるまじき事を犯してしまった。
そして赤馬社長とのデュエルで今のオレの無力さを改めて実感した…今のままでは駄目だ。

だけど、カオス・リベリオンをネプテューヌに返してから少しばかり気が楽になった気がする。
一体、これは…どういう事なんだ?


「そうなると、必然的に教会送りとなるわけか…」

「はい、ちなみに優秀な部下をこのバトルロイヤルで2人も失っています。
 こうなった以上は彼女には女神としてのあれこれを学んで強くなっていただかねばなりませんから。
 複数の勢力が動き出した以上…あまり時間はかけられず、急ごしらえでやりますのでご了承お願いします。」

「…あっ。」


あかん…もしかしたら、オレ死んだかも。
いずれにしても教会では地獄が待っているのは間違いないと確信した。


「ブラン、辛いだろうが生きて帰って来いよ…熱血だ。」

「お、おう…」


生きて帰ってくるよ…絶対ではないけど。


「それにしても柚子を何としても探し出さねばな…柚子は誰かに連れ去られたんだよな?」

「話を聞く限りではそのようですが…詳しい所は申し訳ありませんが分かりかねます。
 ただ、この世界ではない別次元であることは間違いありません。」

「くっ…場所さえ分かれば駆けつけるんだがな…!
 俺だって、プロデュエリストの端くれだったからな…!」

「そもそも、エクシーズとかの召喚法を習得しないと正直厳しいと思う。
 あなたたちも身の程はわきまえて。」


で、塾長は柚子が異世界に連れ去られた事で辛そうな面持ちで拳を強く握っていた。
オレも辛いけど、父親である塾長はもっと辛いんだ…だからこそ、絶対に連れ戻しにいかなきゃ。


「だから、女神として強くなって…それで次元を超えて助けに行く!
 仮にオレがオレでなくなったとしても、絶対に助け出す!そのために次元を超える。」

「次元跳躍の技術は融合次元のネプテューヌから拝借済みです…まだ解析途中ですが。」


あくまでオレはランサーズとしては戦わない。
教会で女神としてのあれこれをモノにした後…自分なりのやり方で助けに行く。
その道中で…オレを付け狙った真の敵とやらも倒しに行く。
まぁ、話し合いが通用しない場合はだけど。


「道中に敵が立ちはだかるなら…まとめてぶっ飛ばす!」

「待っていただけますか、ブラン様。
 その中に里久は入っているのでしょうか?」

「里久は…どうかな?」

「その様子だとやっぱり、敵になってしまったのかな?」

「だとしたら、やっつけるって事かよ?」

「そんなの…やだ。」


形式的には…そうなってしまうかもしれない。
だけど、オレの知る限りでは一線を越える事はなかった。
しかも、彼自身もどこか思う所があったようで…手ごたえはあった。
あと一押しで連れ戻せたかもしれないと思うと悔しい。


「だけど、手ごたえはあった…だから、希望はある。
 もっともどうしても話が通じない相手もいるかもしれないだろうな。
 だが、できる限りはデュエルでの対話を試みたいと思う。」


里久はまだいい…問題はねねことステラの方だ。
沢渡をカードに封印した以上は既に一線を越えている。
それに、情け容赦が感じられない様な本気の表情をしていた。

もっとも、オレと彼女が親友だったなんて思い上がりだったのかもだけどね。
なにせ、オレも彼女もお互いの事は良く知りもしなかったのだから。
上っ面の関係で親友とはよく言えたもんだ…それどころかちょっと仲が良かっただけのただの知り合いだったんじゃないかと思う。
里久に対しても同じ事言えるけど。
だからこそ、今度はどっちもお互いの全てをぶつけた上で親友になりたいと思う。

とはいえ、彼女もオレを付け狙ってきた奴らが敵であるらしいのだけど…どこまで信じられるか。


「そうですか…ブラン様、あなたの想いはわかりました。
 そうでしたら…申し訳ありませんが、かつてルウィー教会に仕えた身としてあなたに立ちはだかることといたしましょう。」

「え?どういう事なの、母さん?」

「いいえ、わたしはブラン様の母でも何でもありません。
 わたしはルウィー教会に仕えていた者…フィナンシェです。
 女神として覚醒したのでしたら…まずはわたしを乗り越えていただかなくては困ります。
 ここでは目立つので場所を変えましょう…修造様、遊勝塾を借りてもよろしいでしょうか?」

「…そう簡単に事は運びませんね。」

「フィナンシェさん、いいでしょう。」

「っ…!」


ごくりっ…母さん、もといフィナンシェが真剣な表情でオレを試すらしい。
地味にオレの実の母親ではなかったことが明らかとなったわけだが、それはさておき。
フィナンシェの実力はオレも知らないけど、生半可なものではないはず。
それでも、彼女を乗り越えられないようであれば…教会での修練は乗り越えられるものじゃなさそうだ。
どうしてこうなったかはさておき、やるしかない。



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・・・



そして、数分後に一同揃って遊勝塾のデュエル場に到着。
デュエル場にはオレとフィナンシェが…周りには他一同の面々が集っていた。
ここで教会行きをかけたデュエルが行われるのだ。


「まさか、あなたとデュエルする事になるとは思ってもいなかったわ…フィナンシェ。」

「仕方ないですが、もう母さんとは呼んでくれないのですね。
 わたしはいつかこんな日が来るんじゃないかと思っていましたよ。」


そりゃ、自分でも知らなかったオレの正体を最初から知っているわけだしね。
自分が女神という意味の分からない存在である以上は生まれ方も普通じゃないはず。
フィナンシェは育ての親でしかなかったけど、親同然だった。
だけど、今の彼女は…超えるべき壁となって立ちふさがっている。
恐らく、オレが危険な所へ行けるかどうか今試される。


「お互いに準備はできましたね、時間も惜しいですし早速始めましょう。」

「お願いします。」


「「デュエル!!」」


ブラン:LP4000
フィナンシェ:LP4000



「先攻はわたしがいただきます。
 モンスターを裏側守備表示で召喚、カードを2枚伏せてターンエンドです。」


まずは定石の布陣といったところね。
モンスターをセットし、魔法・罠を2枚伏せてのエンド。
フィナンシェの伏せたモンスターの正体がわからない上に得体がしれない。
さて、どうするか。


「オレのターン、ドロー。
 オレは手札から『ブレード・シュリンプ』を召喚。」
ブレード・シュリンプ:ATK1600


兎に角、まずは様子見でいかせてもらおうかしらね。


「バトルフェイズ、ブレード・シュリンプで裏守備モンスターに攻撃!」

「警戒せずに攻撃とはいささか不用心ですね…ここで永続罠『奉仕の対価』を発動しておきます。
 そして、裏守備表示のモンスターは…この方です。」


e・mキャッチガール:DEF1400


エンタメイド…初めて聞くけど、エンタメイジとかエンタメイトの派生?
一体、どんな効果を持っているのかしら?


「キャッチガールは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されませんがいかがなさいますか?」

「戦闘破壊は見込めないか…でも、デッキからレベル3以下の水族1体を墓地送りして効果を使いダメージ計算の間攻撃力を400アップよ。」
ブレード・シュリンプ:ATK1600→2000


戦闘破壊を見込めないのにダメージ計算だけ攻撃力を400上げてどうするとなるけど、むしろコストでデッキから墓地へ送りの方が重要だ。
普段は下級で2000打点を確保できるというのがありがたいけど。


「そして、水属性の効果で墓地へ送られたカニカブトのモンスター効果を発動。
 その効果でデッキから水族・攻撃力800以下の通常モンスター『カニカブト』を特殊召喚!」
カニカブト:DEF900


ここまでは順調…なのだけど、永続罠を発動しておいてまだ何もないというのがいささか気味が悪い。
…その答えはすぐ明らかとなった。


「では、ダメージステップ終了時にキャッチガールのモンスター効果を発動します。
 ブラン様のデッキの上からカードを3枚墓地へ送ります。
 その後、お互いにデッキから1枚ドローします。
 まずはデッキから墓地へ送るという対価を支払った上でキャッチガールでご奉仕させていただきます。」

「奉仕って…」


デッキトップを3枚肥やしてくれた上に、お互い1ドローで実質4枚のデッキが減ったわけか。
めくれたカードはザリガンで落ちたカードはシーフード・カーニバル、回遊流し、甲殻水影ドロブスターとかなり悪い。
奉仕という割にはえげつない事を…!


「墓地へ送られたカードもドローカードも渋いみたいですね
 お言葉ですが、ブラン様の焦りが手に取るように見えております。」

「っ…!」


拙い…今のオレだとババ抜きとか絶対に勝てなさそうだ。
何より、この落ちの悪さは…オレの心が乱れている事の表れだと言うのか…!


「そして、ブラン様が効果によるドローをした事で奉仕の対価の効果を発動します。
 この効果でブラン様には自らのデッキの上から2枚除外していただきます。」

「除外っ…!?」


枚数は少ないものの墓地送りと比べると効果の嫌らしさの違いは歴然だ。
この効果でゾエア・シュリンプとアタック・チャージャーが除外されていった。

これでオレの残りデッキ枚数は28枚。
彼女の戦術は間違いなくいわゆるライブラリアウトによる勝利だ…!
墓地へ送る方のデッキ破壊はオレには本来悪手もいいところ。
だけど、落ちの悪さに加えて除外も混ざるとなるとそうもいかないようね。
じわじわと追い詰められていくのが目に浮かぶ。


「これが人に仕える者としてのデュエルです。
 ライブラリアウトを狙うのは一般的には感心されないでしょう。
 ですが、命の削り合いよりもご奉仕して札を溶かさせる方が性に合っていますから。」


いわゆる職業病的な理由でデッキ破壊を狙うなんて初めて聞いたわ。
一般的にライフを削る方が早い上に相手に屈辱を味あわせる事から使用率は高くないから甘く見ていたかもしれない。
今でこそデュエルに左程影響はないけど、後になってじわじわ圧し掛かってくるはず。
早めになんとかしないと…拙いか。


「でもここは仕方ない、メイン2に入るわ。
 レベル3のブレード・シュリンプとカニカブトでオーバーレイ!
 エクシーズ召喚!いでよ、ランク3『ハードシェル・クラブ』!!」

『フッ…!』
ハードシェル・クラブ:DEF2100



とりあえずここは次の攻勢に備えてハードシェル・クラブを出しておく。
これで何ができるかといわれても微妙な所ではあるが。
デッキ破壊をどうにかする手段は今の時点では…ない。


「…オレはカードを1枚伏せてターンエンド。」

「あらあらブラン様…わたしを相手にそんな悠長な事でよろしいのでしょうか?
 ライブラリアウトによる破滅はじわじわと迫ってきているのです…ふふふ。」


そして、彼女のデッキ破壊戦術はこんなものじゃ済まされないはず…次のターンこそ本当の地獄が待っていそうな予感がするぜ。









 続く 






登場カード補足






e・m(エンタメイド)キャッチガール
効果モンスター
星3/地属性/天使族/攻 600/守1400
(1):このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。
(2):このカードが戦闘を行ったダメージステップ終了時に発動できる。
相手のデッキの上からカードを3枚墓地へ送り、お互いにデッキから1枚ドローする。



奉仕の対価
永続罠
(1):1ターンに1度、相手が効果によってデッキからドローした場合にこの効果を発動できる。
相手のデッキの上からカードを2枚除外する。
(2):このカードが効果で破壊され墓地へ送られた時、
自分の墓地の「エンタメイド」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを手札に加え、お互いにデッキから1枚ドローする。