――LDS・フリーデュエル場――


Side:ねね


「俺はインヴェルズ・ガザスでマスケット・ダーツ・シューターに攻撃!『インヴェイション・クラッシャー』!!」


――ドォォォォォン!!


「どわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
柿本:LP1200→0


現在、沢渡さんが新たに作っているデッキを試しているところを通りかかってしまいました。
ちなみに取り巻きの一人の柿本が使っているデッキは沢渡さんが前に使っていたデッキですね。
…どんな自虐プレイでしょうか?


「沢渡さん、今度のカードマジ強すぎっすよ!」

「チッチッチ、違うな…強いのはモンスターじゃない。本当に強いのは…!」

「「「沢渡さん!!」」」

「オー、イエース!!」


あ、これは長くなりそうです。








―――少々お待ちください―――








あれから色々と自慢げに自分の事をアピールしたり、妙にかっこつけた変なポーズを付けてたりしました。
あのポーズに何の意味があるのか疑問です…触れないに越した事はありませんが。


「いや…新たなカードを手に入れた今、むしろネオ沢渡と呼んでくれ。ネオ…!」

「「「沢渡さあぁぁぁぁん!!」」」


いや、流石に名前の頭にネオを付けるのはないと思います。
そろそろ割り込まなくちゃ。


「何やってるんですか、ネオ沢渡さん。」

ブゥーッ!?い、いつからいたんだい…光焔ねね?」

「汚いです。柿本さんにガザスでトドメを指す場面からいました。
 こっちの入っているコースの講義がさっき終わったから来ただけです。どうせわたしなんか…。


はぁ…吹くのを見るにやっぱりわたしには気付いていませんでしたか。


「だったら、声かけてくれよ。」

「色々やってたみたいなので声かけにくかったのです。」

「悪かったよ。それで、何の用かな?」


おっと、そうでした。
少しばかり彼に事前に伝えたい事がありました。


「実はこれから遊勝塾へ出向いて、榊さんに…。」

「榊?その名前を出すなぁぁぁ!!

「ひぃーっ!!」


ふぇぇぇぇ、榊さんの名前を出しただけで怒鳴らないで下さい。


「俺が奴に負けたのはカードの差、俺がペンデュラムカードを持っていなかったが故の不運…!」

「えぇ〜っ!!」


悔しそうに沢渡さんがそう言っておりますが…これはないです。


「言ってること違うじゃん!」

「てかその時、彼女からペンデュラムカード奪い取って持ってたし!」


取り巻き達が言うようにこれは言い逃れできるわけがありません。


「ユーヤ・B・榊…どんな手を使ってでも倒す!

「あの、それってデュエルの範囲内だけの話ですよね?」


また、おかしな事やらかさないか心配です。
それは兎も角。


「…話を戻しますが、その際に沢渡さんが前に使っていたデッキを貸していただきたいのです。」

「はぁ?なんで俺が前に使ってたデッキが出てくるんだ、そこでよ?」


ここで不審に思うのも当然ですね。
普通、いきなりそんな事言われても納得できませんから…ですが。


「…ペンデュラムカードを手に入れたくはありませんか?」


なんだかんだで沢渡さんはペンデュラムカードを使っている時こそ輝けると思います。
もっともあの時は入手の経緯と小物じみた様々な台詞のせいで台無しでしたが、磨けば大成できそうです。


「そりゃ、手に入れたいさ!だが、一時は手中に収めたのにお前は返すように言っただろ?あの時と言ってることが違うじゃねぇか!」

「「「そうだ、そうだー!」」」



あの…あの時は人として最低な手段で手に入れましたよね?
だから返すように言ったのです。
魔がさしてわたしも加担してしまったので、非難できる筋合いはないですけども。


「はぁ…わかってませんね。暴力じみた方法で手に入れても心が痛みますし、後で必ず痛い目を見ます。
 だから、榊さんと直接交渉してお互いが納得する形で手に入れるしかありません。
 沢渡さんの前のデッキを持っておきたいのは交渉材料に使うから。
 沢渡さんが使うカードを入手する関係上、トレードするには沢渡さん自身のカードであった方がいいからです。」


少なくとも、その中の1種類は彼女なら恐らく欲しがると思います。


「そういうことかよ。人見知りで卑屈なお前じゃ上手くいくとは思えないがな。」


痛いところを突かれますね。
今は沢渡さんたちだから平然とできてますが、そうでないと…orz
でも、この5人の中で恐らく一番敵視されてはいないのはわたしですから。


「ま、わかったよ。柿本、あのデッキを渡してやれ。」

「へいへい。」


え、意外とすんなり渡してくれるみたいですね。

柿本さんから沢渡さんが元々使っていたデッキを渡されました。
中身は…よし、あのカードはあった。


「ありがとうございます。では、いい報告ができるようにがんばります。」


ただ、上手くいくかどうかは…わかりません。
それでも、やれるだけのことはやろうと思います。












超次元ゲイム ARC-V 第5話
『渦巻く光焔』











Side:ブラン


「えへへ…♪」


今、オレが大変ご機嫌なのにはわけがある。
というのも、本日入荷された新しいパックを試しに購入したところ…何とオレのデッキと相性の良さそうな新カードが手に入った。
まだ、デッキに入れてたりはしてないけどね。


そうして歩いていくと、河川敷の所にあるオレが通っている遊勝塾の建物が見えてきた。


――ざわ、ざわ…。


それに、何かざわついた声が聞こえるわね?


「あの子、普段見ない顔で挙動不審だけど何してるのかしら?」

「ママー!あの人、何してるの?」

「しっ、見ちゃいけません。」


聞こえてくる話からすると、これは穏やかじゃないわね。
もしかしたら、誰かが隙を見てアユちゃんたちを連れ去ろうとしているのかもしれない。
そうはいかないわ、急がないと!


――サッ、サッ、サ!


近づいていくにつれて、遊勝塾の近くでウロウロしている人影の姿がだんだん見えてきた。


「あわわ…。」


それはどこかオレに似た雰囲気をもち可愛らしい、どこかで見た事ある少女だった。
…って、どうしてあなたがこんなところにいるの?


「…こんにちは、可愛らしい不審者さん。うちの塾に何か用?」

「ひぃぃぃぃぃ…!?さ、榊さん!?ごめんなさい、ごめんなさい。」


声をかけたところ、その子は悲鳴を上げて竦んでしまった。


「…そこまで怯えられると傷つくわね、光焔ねね。
 それにしても、沢渡の取り巻きのあなたがわざわざここまでくるなんて思わなかったわ。」

「じ、じ、じ、実は…。」

「まずは落ち着きなさい。とりあえずあがっていったら?」


流石にこんなに緊張しているようでは何も話してくれそうにないからね。


「で、でも…わたし、皆さんに合わせる顔が…。」


確かに彼女は申し訳なさそうだったとはいえ、沢渡の悪事に加担してたから嫌な目に合った子供たちからの印象は非常に悪いはず。
オレにとっても最後に沢渡にペンデュラムカードを返すように促さなければ印象は最悪のままだった。
それでも…。


「素直に謝れば許してくれるわ、多分ね。
 それより早く入りましょ?このまま立ち尽くしてもより不審に思われるだけよ。」

「あ、はい…お言葉に甘えさせていただきます。」


みんなも待たせているし、そろそろ入りましょう。








――――――








とりあえず、遊勝塾の入り口ではみんなが待ってくれていたみたい。
でも、柚子とアユちゃんがいないわね。何しているのか気になるところだけど…とりあえず。


「お待たせ、いつもニコニコ…」

「あ、遅いぞー!ブランお姉ちゃん!!」


むぅ、最後まで言わせてほしいわね。
とはいえ、遅れてきたのはごめんなさい。


「お、可愛らしいお客さんじゃないか。ブランめ、このこの。」

「お、お邪魔します。」

「あ、お前はあの時沢渡といっしょにいた…!」

「…いったい何しに来たの?」


あちゃ…何も知らない塾長は兎も角。
まずは挨拶してくれたのはいいんだけど、二人にはやっぱり警戒されちゃうわよね。
まずはこの子たちのわだかまりを解かないと…。


「あ、あの時は本当に…申し訳ありませんでした!!!」


って、ねねがいきなりみんなに向かって深く頭を下げた!?
やっぱりあの時のこと、後悔してたみたいだ。


「あ、あの…いきなり頭下げられたら僕たちも困りますから。」

「そうそう、頭を上げてよ。なんだかんだで柚子お姉ちゃんとのデュエルに応じてくれたお蔭で俺たち助かったんだし、もういいって!!」

「…感謝します。大変お見苦しいところお見せしました。」


とりあえず、彼女の事を一先ずは許してくれるみたいでよかった。


「みんなもこう言ってるし、まずは一服しましょうか。里久、お茶だしてあげて。」

「はいよー。」

「…お言葉に甘えさせていただきます。」


そうして、机に皆の分のお茶が出される。
みんなが椅子へ座ったところで…。


「まずは自己紹介しましょう。オレは遊勝塾のユーヤ・B・榊。
 みんなからはブランと呼ばれているわ。改めてよろしく。」

「俺は原田フトシ。よろしくな。」

「僕は山城タツヤです。」

「僕はブランの友達の黒龍院里久、よろしくね。
 そういえば、君…前にもどっかで見た気がするんだよね。」


そりゃ、この前沢渡が悪事を起こした時に見てるはずだからね。
もしかして、忘れかけてた?もしくはそれ以前の知り合い…?
それは兎も角、塾生組の自己紹介はこんなところね。
今は、柚子とアユちゃんがいないみたいだけどね。


「わ、わたしはLDSの光焔ねねと申します。
 先日は皆さんに迷惑をかけてしまいましたが、よろしくお願いします。」


LDSという言葉を聞いた瞬間、塾長の顔が強張った気がする。


「LDSの生徒か…ごほん。そして俺がここ遊勝塾塾長の柊修造だ。
 俺の教え子たちに迷惑をかけてしまったのは決して許されることじゃないが、それでも仲良くやってくれると幸いだ。」

「あ、はい…こちらこそ、よろしくお願いします。
 そういえばお二方の姿が見受けられないのですが、どうされたのでしょうか?」


そうそう、柚子とアユちゃんは何してるのかしら?
だいたい想像はつくのだけれどもね。


「え〜と、みんなの分のお菓子を買いにいっちゃったみたいです。」


とすると…実はお菓子大好きな里久くん、またお前か。
この子ったら、オレやみんなにばかり買わせるんだから。
なまじデュエルが強い分、タチ悪いのよね。


「はぁ…いい加減、柚子たちに任せきりにしないでほしいわね。」

「うぅ、だって…。」


いや、ここであざとい顔されてもオレは騙されないわ。


「たまには自分で買いに行きなさい。その時にお金は渡すから。」

「はいはい。ブランってばいつも手厳しい。


何か言ったかしら?
それは置いといて…落ち着いたところでそろそろ本題に入りましょう?


「そろそろ良いわよね、ねね。ここにはオレに用があって来たみたいだけど、何かしら?」

「そうでした。えーと、あの…。」


何か言い淀んでいるようね。
よほど話しにくいことなのかしら?それなら…。


「話しにくいことみたいね。それなら、まずはデュエルするのはどう?」

「デュエルですか…え、デュエルだけですよね?」

「デュエルすることで緊張をほぐして少しでも話しやすくできればと思ったのだけど。
 それに柚子を破ったその実力、実は結構楽しみにしてるのよ。」


そこまで警戒しなくても、大丈夫よ。
まずはデュエルしてわだかまりを少しでも無くせたらいいと思ってね。
そうでも、こういう考えに至るのってデュエル脳なのかしら?
だって、仮にもあの柚子を破った相手だもの。わくわくするでしょう?


「成程。そうですね。」


とりあえず、やる気になってくれたみたいだね。
そうなると後は…。


「娘を破ったLDSの生徒と我が塾生とのデュエルがここで…ゴクリ。」

「塾長。そういうことだからアクションデュエルの設備、使わせてもらうわ。」

「お、おう。がんばれ、ブラン!熱血だ!!」


とりあえず、応援してくれるのはありがとう?
アクションデュエル場の使用許可が降りたから早速、向かいましょうか。








――――――








さて…まさかこの塾内でLDSの生徒とデュエルができるとは思わなかったけどね。
オレは沢渡には勝てたけど、相手はあの柚子をも破っている。
今のオレのデュエルがどこまで通用するのか、試しがいがある相手だ。


「準備は大丈夫?いつでも行けるわ。」

「わたしも大丈夫です、よろしくお願いします。」


こちらこそ、よろしく。
塾長、アクションフィールドお願いするわね。


「いよーし、アクションフィールドオン!フィールド魔法『雪華の平原』!!」


今度のアクションフィールドは雪がちらつき、白に染まった平原ね。
寒そうだけど、実際の温度までは変化しないから問題ないわ。
それに雪がちりちり降る光景は好きなのよ。

それは兎も角いくよ、光焔ねね!


「戦いの殿堂に集いし、デュエリスト達が!」

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い…フィールド内を駆け巡る!」

「見よ、これぞデュエルの最強進化系!」

「アクショォォォォォォォォォォン!!!!」


「「デュエル!!」」



ブラン:LP4000
ねね:LP4000




先攻は…オレのようね。


「先攻はいただくわ。モンスターをセット、カードを1枚伏せてターンエンド。」


まずは無難にモンスターと魔法・罠を1枚ずつ伏せて様子見よ。
さて、いったいどんな戦術で来るのかしら?


「まずは順当な手ですね、参ります。わたしのターン、ドロー。手札から永続魔法『炎王の活火山』を発動します。」


――ガタガタガタガタ…!


っ、地震!?
すると、雪の平原から突如として火山らしきものが現れる。
びっくりした…だけど、これもソリッドビジョンの演出ね。


「このカードにより1ターンに1度、手札の炎王と名のつくモンスター1体を破壊してデッキから1枚ドローできます。
 わたしは手札の『炎王獣 バロン』を破壊し、1枚ドロー…!」


1ターンごとの手札交換ができるカードだったか。
しかも『墓地へ送る』とかではなく『破壊する』か…何かありそうだ。
放っておくと厄介かも。


「続いて、わたしは手札から魔法カード『炎王の強襲』を発動します。
 これは相手の場にのみモンスターがいる場合に発動でき、デッキから炎属性の獣族・獣戦士族・鳥獣族のどれか1体を効果を無効にし特殊召喚します。破壊と再生を司る焔の王よ、舞い降りろ!『炎王神獣 ガルドニクス』!!」

『ガァァァァァァァッ!!』
炎王神獣 ガルドニクス:ATK2700



いきなり、攻撃力2800のモンスター!?
流石LDS…より一層、気を引き締めてかからないと。


「へぇ…いきなり、攻撃力2800の強力なモンスターが来たね。」

「初っ端からすげぇモンスターだ!あのお姉ちゃん、痺れるぅー!」

「って、感心してる場合じゃないでしょ二人とも!いきなりブランお姉ちゃん、ピンチだよ!」


いやいや、まだ慌てるような場面じゃないから。
さて、ここからどうするのかしら。


「では、バトルに入ります。ガルドニクスでセットモンスターに攻撃『セイント・フレイム』!!」


――ボォォオオオオ!!


セットモンスターは素早いエビ…破壊されるがただではやられない。


「拙いものを破壊しちゃいましたか。バトルを終了します。」

「その反応だとこいつの効果はお察しのようね。バトルフェイズ終了時に戦闘で破壊された素早いエビの効果発動!
 デッキから『素早いエビ』『カニカブト』を特殊召喚するわ。」

素早いエビ:DEF1300
カニカブト:DEF900



「わざわざ攻撃する事もなかったのですが、挨拶代りということで。次にモンスターを裏側守備表示で召喚。
 エンドフェイズに入り、炎王の強襲で出したガルドニクスが破壊されてターン終了です。」

「ガルドニクスが自壊した!?」

「ブランお姉ちゃん、チャンスだ!」

「うーん、そう上手くいくのかなぁ?」


流石に自壊するデメリットはあったみたいね。
でも、その割には表情が余裕そうな感じを受ける。
それに、わざわざ攻撃する必要がなかったというのは気になるところね。


「オレのターン、ドロー。」

「ここです。スタンバイフェイズに効果で破壊されたガルドニクスとバロンの効果発動!
 バロンの効果でデッキから炎王と名のつくカード1枚…『炎王炎環』を手札に加えます。
 さらに、ガルドニクスは効果では破壊された次のターンのスタンバイフェイズに自己再生します。」

「えぇーっ!ということはさっきの魔法のデメリットを打ち消してるってこと!?」

「ってことは、強みだけを存分に生かせるという奴か!!恐るべし、LDS!」


つまり、強襲で出したアレがまた襲い掛かってくるというわけか。
だが、効果破壊で戻ってくるといってもオレのデッキはバウンスの手段が多いからいくらでもやりようがある。


「そう、ガルドニクスは不死の神獣です。舞い戻れ『炎王神獣 ガルドニクス』!!」

『ガァァァァアアァッ!!』
炎王神獣 ガルドニクス:ATK2700



「さらに、この効果で蘇った時…このカード以外の全てのフィールドのモンスターを破壊します。」

「うえぇぇぇぇぇっ!!やばすぎて痺れるぅー!」

「そんな、無茶苦茶だよ…!」


そういうことか…!
二人が言うように無茶苦茶な効果だけど、これなら攻撃する必要が無かったというのも納得だ。
攻撃反応の餌食になるなどの危険を冒すまでもなく、オレのモンスターを破壊できたのだからね。
ただ、ミラフォなどを警戒した場合は囮として突っ込ませることもできる。
当然ながら、ネタが割れている相手には通用しないとはいえね。


「全てを焼き払え『フェニキシアン・ブレイザー』!!」


――バァァァァァァアァァン!!


自分のモンスター1体も巻き込みつつ、オレのモンスター2体が焼きつくされてしまったか。
だが、オレはエンタメデュエリスト!この伏せならこの効果、利用しない手はない!


「くっ、初っ端からやってくれるな!だが、お楽しみはこれからだ!
 罠発動『激流の宝札』!こいつはオレの場の水属性モンスターが2体以上効果で破壊された場合に発動でき、破壊された数の300倍のダメージをあなたに与える!破壊されたモンスターは2体。よって600のダメージを喰らえ!!」


――バッシャァァァァ!!


「っ!伏せカードの正体はそれでしたか。やりますね…!」
ねね:LP4000→3400


「エンタメデュエリストの端くれだもの。その後、オレはデッキから2枚ドロー!!」


相手の効果を見越してどのように動けるかもエンタメデュエリストの腕の見せ所さ。
もっとも、攻撃してくれなかったら発動できず残念な光景を見せるところだったけど。


「流石、ブラン。魅せるとこ決めてくるね!」

「しかも、ダメージ与えただけじゃなくて2枚ドローもできたからいい感じにリカバリーできた!」

「超しびれるぅー!」

「うぉぉぉっ!熱血してるなー!ブラン!!」


ありがと、みんな。
だけど、ねねも自分のモンスターを1体破壊している。
破壊されるのにも関わらず出したという事は…。


「ですが、わたしも効果で破壊された『炎王獣 ハクタク』の効果により1枚ドローします。」


成程、効果を使ってガンガン回していくわけだ。
だが、オレもさっきのドローで手札がいい感じになったぜ。
そうと決まれば、こっちも一気にいかせてもらうぜ!!


「オレはスケール5の『シュテルアーム・ロブスター』2体でペンデュラムスケールをセッティング!!
 さらに、もう片方にロブスターカードが存在する場合、シュテルアーム・ロブスターはペンデュラムスケールを8にできる!」

シュテルアーム・ロブスター:Pスケール5
シュテルアーム・ロブスター:Pスケール5→8



え、違うカードじゃないとペンデュラム召喚できない?
いいえ、Pスケールが任意で変えられれば別にそんなことはないわ。


「揺れろ、魂のペンデュラム!天界に架かれ、流星のビヴロスト!ペンデュラム召喚!!現れろ、オレのモンスターたち!
 まずはレベル6『甲殻剣聖クルヴ・ヤイバー』!そして、レベル7『甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター』!!」

『フゥゥンッ!!』
甲殻剣聖クルヴ・ヤイバー:ATK2100

『ウォォォォオオオォォォッ!!!』
甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター:ATK2500



「出た!ブランお姉ちゃんの伝家の宝刀、本家本元のペンデュラム召喚!!」


伝家の宝刀で本家本元って…だいぶ大げさね。


「しかも炎王の炎属性と相反する水属性のエース!!これは燃えるシチュエーションだぜ、熱血だー!

「同じカード2枚でもスケールさえ変えられればペンデュラム召喚できるんだ…いいね!」


やっぱり相反する属性を主体とする相手とのデュエルはエンタメとしても熱いシチュエーションだ。
ねねの火炎がオレを焼きつくすのが先か、それともオレの水流がねねを鎮めるのが先かという感じでね。

そして、オレはオッドシェルに跨る。
足場が滑りやすいことを考えると、細身なクルヴ・ヤイバーより安定性のあるこっちの方がいいと思ってるからね。
プレイをしつつ、アクションカードも探していく。


「これがペンデュラム召喚、やはり敵ながら天晴です。現状攻撃力こそはこちらの方が上ですが、これだけではないでしょう?」


彼女もアクションカードを探すようでガルドニクスの足につかまっていた。
流石に攻撃力を超えてくることはわかっているみたいだね。


「そうだ。オレは『甲殻』モンスター専用の装備魔法『甲殻聖爪−キャンサ』をオッドシェルに装備!
 このカードを装備したモンスターは攻撃力を400アップし、戦闘では破壊されなくなる!」
甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター:ATK2500→2900


そして、アクションカードも見つけた…!


――パシッ!


これは…悪いけど、勝負は勝負!


「バトル!オッドシェル・P・ロブスターでガルドニクスに攻撃!
 そしてアクション魔法『吹雪』を発動!ガルドニクスの攻撃力をターンの終わりまで500ダウンさせる!」


――ビュゥゥゥゥゥゥ!!


「っ…これはまずいですね。でも、こちらだって!」
炎王神獣 ガルドニクス:ATK2700→2200


――パスッ!


このままだと効果ダメージ込みで一気に決着を付けれたけど、あちらもこっちの攻勢に怯まずアクションカードを…。
でも、まだ使う気配はないようだ…。


「ぶちかませ『螺旋のシュトロム・シュラーク』!!」


――ドカァァァァッ!!


「ううっ…!ですが、ガルドニクスには戦闘で破壊され墓地へ送られた時の…流石に墓地へ送るわけにはいきませんよね。」
ねね:LP3400→2700


「そうね。ここでオッドシェル・P・ロブスターの効果発動!
 このカードが戦闘で破壊したモンスターは墓地へは行かずデッキに戻り、その後1000ダメージを与える!」


――バッスァァァァァ!!


「ああっ…!!」
ねね:LP2700→1700


「続いてクルヴ・ヤイバーでダイレクトアタック!!何もなければこれでトドメだ!『フロッケ・ブリッツェン』!!」

「流石にそうはさせません。わたしもアクション魔法『吹雪』を発動。これでクルヴ・ヤイバーの攻撃力を500ダウンさせます。」

「くっ…!」
甲殻剣聖クルヴ・ヤイバー:ATK2100→1600


ねねが使ってきたのはオレが使ったのと同じアクション魔法だったか。
このタイミングで使ってきたのはアクションカードを取らせにくくするためか…やってくれる。
流石にこれで終わりというわけにはいかないか…そうこなくちゃ。



――ズシャァァァァ!!


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
ねね:LP1700→100


そして、さっきのアクションカードでライフをギリギリ残されてしまったわけだ。


「あーっ、惜しい!もうちょっとで勝てたのにな…。」

「でも、あのお姉ちゃんの残りライフは100…!このままなら押し切れるよ!」

「いや、油断はできんぞ。追い詰めたと思っていたら次のターンにはやられたということも珍しくない。」


実際、塾長の言う通り追い詰められた相手に逆転負けされるというのは割とよくあること。
伏せられるカードはない以上、逆にこちらが追い詰められたとも言える。


「オレはこれでターンエンド。吹雪の効果が切れ、クルヴ・ヤイバーの攻撃力は元に戻る。
 それとシュテルアーム・ロブスターのスケールも元に戻るわ。」
甲殻剣聖クルヴ・ヤイバー:ATK1600→2100

シュテルアーム・ロブスター:Pスケール8→5


さて、ここからどうでるの…ねね?


「このままじゃやられちゃう…なんとかここで巻き返さなくちゃ。
 わたしのターン、ドロー。さらに、炎王の活火山の効果で手札の『炎王獣 ネコマタ』を破壊し、ドロー!!…あっ。」


あの表情…間違いなく流れを変える1枚がきたはずだ。
それでも、受けて立つ!!


「申し訳ありませんが、これで勝負がつくかもしれません。ですが、その前に効果破壊された『炎王獣 ネコマタ』の効果発動!
 相手モンスター1体の攻撃力を半分にします。対象は…クルヴ・ヤイバーです!!」

「うっ、くるか…!」
甲殻剣聖クルヴ・ヤイバー:ATK2100→1050


やはり、このターンで決められるカードが来たようだ。
だけど、わざわざ攻撃力の低いクルヴ・ヤイバーの攻撃力を下げてきたということは…嫌な予感がする。


「手札から魔法カード『真炎の爆発』を発動!わたしの墓地の守備力200の炎属性モンスターを好きな数蘇生します。」

「ちょ、マジか…!」


あれは…炎属性最強クラスの蘇生カード!
守備力200という限定的なステータスのモンスターしか蘇生できないとはいえ、複数蘇生はあまりに強烈だ。


「舞い戻れ『炎王獣 バロン』『炎王獣 ハクタク』『炎王獣 ネコマタ』!」

炎王獣 バロン:ATK1800
炎王獣 ハクタク:ATK1400
炎王獣 ネコマタ:ATK1200



3体も墓地に眠っていたのか…!いや、守備力200メインでデッキを組んでいたら自然とこうなるか。


「あの子の場に一気にモンスターが3体も!」

「でも、これじゃ倒せるのはクルヴ・ヤイバーだけだよ?」


いや、これはアドバンス召喚のリリースなどにも使える。
それに、もしかしたら…!


「それはどうだろうね?そのうち2体のレベルは同じ…みんななら、後はわかるよね?」

「「「そうか!エクシーズ召喚だ!!」」」


そう…里久の言う通り、そのうち2体のレベルは3!
沢渡の取り巻きとはいえ、入っているコースが同じとは限らないから…!


「え…?と、兎に角…これで準備ができました。
 上手くいくかはわかりませんが参ります!手札から魔法カード『融合』を発動!」

「なっ…融合だと!!?


まじかよオイ…!完全に想定外もいいところじゃないか!
融合召喚って言ったら…LDSでも特にエリートが選択するというコースで他の2つの召喚法と比べても非常にシェアが少ないはず。
今まで見た事もなかったけど、こんなところで遭遇するなんて思わなかった…!


「わたしが融合するのは『炎王獣 バロン』と『炎王獣 ネコマタ』!
 聖なる獅子よ、妖しき刃よ、焔渦巻いて一つに交わり転生せよ!融合召喚!!」


融合となるといったいどんな恐ろしいモンスターが出てくるのか想像もつかない。


「な、なんだよあれ…!」

「これが融合だよ…モンスター2体以上を合体させてより強力なモンスターをエクストラデッキから呼び出す召喚法なんだ!」
 
「でも、特定の融合するためのカードが必要だしエクシーズと比べて遥かに使いにくいけどね。」


目を輝かせている二人に対し里久は…何故かねねに対し軽蔑の目を向けていた。
いや、それより今は目の前で起こっている事に集中しなきゃ。


「羽ばたけ、業火の凶鳥!レベル6『炎王魔獣 イグニクス』!!」

『キィィイイィィッッ!!』
炎王魔獣 イグニクス:ATK2100



融合召喚で出てきたのはガルドニクスよりやや小型ながら遥かに禍々しい雰囲気の炎の鳥…哺乳類2体の融合なのにどうしてこうなった。
攻撃力は2100とそこまででもないけど、いかにもやばそうなモンスターだ。


「や、やった…実際のデュエルで初めてできた。融合召喚…!
 今まで決着がつく前に引けなかったりとか素材から処理されて不発にされたりしましたが、ついに…!LDSの融合召喚コースに入ってからようやくできた…!」

「お、おめでとう…。」


これが初めての融合召喚なのか。
しかも、結構苦労してたみたい…。
いつもは卑屈そうな彼女にしては珍しく、嬉しそうに笑顔を見せていた…すごく可愛い。


「…いけません。デュエルを続けます。
 イグニクスの効果を発動!1ターンに1度だけ手札の炎属性モンスター1体を破壊し、1枚ドローします。」


イグニクスは活火山みたいに手札交換できる効果を持っていたようね。
これもある意味で破壊と創造を体現した効果ともいえる。
クルヴ・ヤイバーの効果で無効にできるけど、正直この手札は捨てたくない。
驚いてたりする暇があったら、アクションカードを見つけておくべきだったわね。


「わたしは手札の『炎王獣 ヨウコ』を破壊し、1枚ドロー。
 バトルです。イグニクスでクルヴ・ヤイバーに攻撃!『オニキス・ブレイザー』!!」


――ボォォォォォォォッ!!


「んあっ…!」
ブラン:LP4000→2950


これはかなり効いたわね。
だけど、この後どうするつもりなのかしら?
何かまだあるのは間違いなさそうね。
そう、イグニクスも炎王の一体…何かで破壊されたら拙い気がするわ。
何か手は…どうにかしてアクションカードを探さなきゃ!


「そしてこれを使います。速攻魔法『炎王炎環』を発動。自分フィールドの炎属性1体を破壊し、墓地の炎属性1体を蘇らせます。」


拙い、やっぱり破壊しにかかったわね。
駄目、まだアクションカードが見つからない。


「これでイグニクスを破壊し、甦れ『炎王獣 バロン』!」


――ボォォォォォォッ!!

炎王獣 バロン:ATK1800



イグニクスが炎に包まれ破壊されると、そこからバロンが姿を再びあらわす。
アクションカードは…見つけた、木の上だ!


「この時、墓地からヨウコの効果…それから破壊されたイグニクスの効果を発動!
 このカードが戦闘か効果で破壊され墓地へ送られた場合…あなたの場のモンスター1体を破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを与えます!
 これでオッドシェル・P・ロブスターには退場していただきます。」


そういうことか、あえてこっちを残してきた理由は…!
とはいえ、破壊効果ならまだなんとかなる…はずだ。
オレは手札にあのモンスターを握っているから…!


「させない!相手がモンスターを破壊する効果を発動した時、手札から『バリア・シュリンプ』の効果を…!?」


―EROOR―


「なっ…!?」


発動できない…だと!?


「申し訳ありません、言い忘れてしまいました。
 先ほどのイグニクスにより破壊されたヨウコの効果でこのターンの間、あなたは手札からモンスターの効果を発動できません。」

「しまった、あの時から!?」


手札誘発が封じられた!?
く…急いで、オッドシェル!早くアクションカードを取らなきゃ!!


「疾れ、凶鳥…全てを焼き消す焔となれ!『ルシフェリオン・イグニス』!!」


――ゴォォォォォッ!!


散り際の炎が迫ってくる中、ようやくアクションカードを…。


――ぱしっ!


とらえた!!…なっ!?
しまった、想像以上に炎が迫って発動が間に合わ…!


「があぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ブラン:LP2950→450


オッドシェルがここでやられた…!
発動が間に合わなかったアクションカードは『スノー・コート』。
これが間に合えば、オッドシェルの破壊は免れた…紙一重の差が勝敗を分けるというのはまさにこの事だろうな。


「さらにわたしの場の炎王モンスターが破壊された場合、墓地より『炎王獣 ヨウコ』が蘇る!!」

『コォォォォォン!!』
炎王獣 ヨウコ:ATK2000



ここにきてさらに駄目押しで展開してきた。


「こちらも墓地へ送られたキャンサのもう1つの効果を発動し、デッキから『甲殻』モンスター…『甲殻砲士ロブスター・カノン』を手札に加えるわ。」


ここで手札増強したのはいいけど、これはちょっと…。
ついでに言うとスノー・コートは自分フィールドのモンスターにしか使用できない。
つまりアクションカードはこれ以上拾えないから…あっ。


「これで終わりのようですね。ヨウコでダイレクトアタック!『ファイア・フォックス』!!」


――ドガァァァァァァッ!!


「うわぁぁぁあ…げふっ!?」
ブラン:LP450→0



「そんな、ブランお姉ちゃんが負けちゃった…!」

「けど、あの姉ちゃん…しびれるくらい強かったぜ!」

「ぐ…悔しいがあの子も凄まじく熱血してたな!この敗北をバネにもっと強くなれ、ブラン。」

「あーあ、何やってんのさブラン。本気の僕だったらすぐに片が付いたのに。」


あいたたた…。
うぅ、悔しい。思い切りやられたなぁ。
でも、まさかの融合で驚かされたし…楽しかった。
とはいえ、やっぱりオレはまだまだだな…もっと、もっと強くならなきゃ。
それと里久、余裕こいて返り討ちにされてもしらないぞ。


「ごめんなさい、大丈夫ですか?」


すると、ねねが駆け寄って手を差し伸べてきた。
オレも素直に応じその手を取った。
こんな可愛い子からの差し伸べを拒絶できるわけがないじゃない。


「ありがとう、でも大丈夫。それにしても流石ね…あの柚子を破っただけのことはあるわ。
 最後の悪あがきが間に合えばまだわからなかったかもしれないけど、今回は完敗ね。」

「いえ、わたしの方こそまだまだです。最初に見せた『激流の宝札』云々は特によくエンタメできていたと思います。
 ひょっとして、最後のアレは破壊耐性をつけるアクションカードだったりしますか?」

「…さて、何の事かしら?」


そうとぼけてみるけど、実際は合ってるのよね。
さっきのことからすぐに見抜かれちゃったか。


「図星ですよね?」


仰る通りで。


「それと…機会があればまたいいデュエルをお願いできますか、榊さん?」

「ブランでいいわ。次は負けないように強くなるわ。改めてよろしく、ねね。」

「わたしもそれに負けないようにもっと頑張ります。こちらこそよろしくね、ブラン。」


――ガシッ!


そうしてオレとねねは握手を交わして友達になった。
あのLDSの生徒と友人関係になれたのはいいことだと自分でも思う。
そういえば何か大事な事を忘れているような…そうだった。


「そうそう、ここにはオレに用があってきたのよね?」

「あ…そうでした。申し訳ありませんが、他の方に聞かれると厄介になるかもしれないので二人きりになれるところありませんか?」

「二人きりで…はっ!やめて、オレに乱暴する気でしょう!?――同人みたいに!」


ねねさえよければオレはそれでも…。


「いえ、それはないです。断じて。」


いや…ね、冗談に決まってるじゃない。
ジト目でこっちを見ないでくれるかしら。
それで、空いている部屋に案内すればいいのね?


「それじゃ案内するわ。」


そうしてまずはお互いにデュエル場から出る。


――カチャ…。


デュエル場から出るとみんなが出迎えてくれたわ。


「惜しかった、ブランお姉ちゃん。」

「もう少しで勝てたのにな。」

「はぁ…ちょっと失望したかな、ブランには。」


ありがとう、二人とも。
でも、オレはまだまだ力不足ということを思い知らされたわ。
一方の里久は…よほどオレがねねに負けちゃったのが不満そうね。


「お疲れ、ブラン。その子とデュエルしてどうだった?」

「完敗よ。自分がまだまだだという事を痛感したわ。
 とはいえ、色々と予想外の戦術が出てきたりといい経験が出来て楽しかったけど。」

「お前でも完敗だったのは悔しいが、俺からは1つ。これからもっと上を目指してより強くなれ、熱血だ。」


ええ、もちろんよ。
これからの事を考えるともっとデッキ構築やプレイングを見直さなきゃね。
もちろん、強さばかりでなくいかにエンタメできるかも考えなきゃいけないけどね。
おっと、話したいのはそうではなく…。


「そうそう、これからねねと二人きりで話したいことがあるから少し待ってて。」

「「「えー?」」」

「待った、その子と二人きりというのは俺は認めんぞ!何かあったらどうすんだ!!


みんなは不服そうね。
心配はしてくれているみたいだけれども。


「それには及ばないわ。それと覗いたらぶっとばす。

「「「「あ、はい。」」」」

「そういうわけだから、こっちへ来て。」

「わかりました。」


今は面談室が開いていたわね。
そこで話しましょうか。








――――――








とりあえず面談室のソファーに座り、お互いに机を挟んで向かい合う。
鍵はかけといたから覗かれる心配はなさそうね。
あまり聞かれたくない話というと…どうしてだろう、だいたい想像がつくわね。


「単刀直入に言います。星読みの魔術師と時読みの魔術師の2枚を頂くための交渉に参りました。」

「まったく、遠慮がないみたいね…沢渡のためかしら?


想像通りねねはオレの持つ2枚のペンデュラムカードが狙いだったわけだ。
もっとも彼女のデッキの性質上自分で使うとは思えないから、沢渡に渡す事は想像できる。
この件に関して沢渡には随分酷い目に合わされた以上、容赦はできない。


「…はい。なんだかんだで沢渡さんにはお世話になってますから。
 そして、ペンデュラムカードを使っていた時の沢渡さんは輝く余地がありました。
 だから一方的に騙し取るという卑劣な手段で手に入れたものではなく、お互いが納得した形で手に入れたものを使ってペンデュラム使いになってほしいのです。」

「今もなお沢渡を慕っているのはわかったわ。それに関して深く追及はしない。
 でも、オレがあの2枚をそう簡単に手放すと思っていたの?」

思っていますよ。


何…?ここで確信して言うとは面白い。
では、何故そう思っているのかを聞かせてもらうことにしようかな。


「どうしてかしら?」

「まず1つ。あなたはあの2枚をデッキに入れてませんでしたね?
 沢渡さんが無理やり奪った時もデッキではないところから出していたのを見ておりました。
 そして、沢渡さんとのデュエルもわたしとのデュエルもそれとは違うペンデュラムカードを使用してました。
 恐らくはあなたが今使っているペンデュラムカードと相性が悪いのが想像できます。」

「…成程。」


大当たりよ、よく観察していたわね。
確かにあの2枚は今は入れていないわ。


「2つ目に、1つ目の理由と被るところもありますが恐らくはあの2枚への執着心がそこまででもないと思いました。
 あくまで『盗品は返せ』ということを強調していた感がありましたので。
 なので、納得した上でのトレードであれば応じてもらえるのではないかと考えました。」

「…。」


なにこの子、怖い。
そこまで気付いているとは…大した奴だ。


「あと…これは予想でしかありませんが、現状ペンデュラム召喚の使い手があなたしかいない以上は多少なりとも肩身が狭いはず。
 内心ではペンデュラム召喚の使い手が増えて欲しいと思っているのではないのでしょうか?」

「はぁ…それ以上は結構よ。いいわ、トレードを考えてもいいよ。」

「あ、ありがとうございます!」


あくまでも考えてもいいというだけだけどね。
勿論、トレードの弾次第では本当に応じるけど。


「それでは、できればこのカードから選んでいただければと思います。」


そうして、ねねからカードの束を渡される。
枚数からしてデッキだったものだろうけれども。
中身は…これ、もしかして…?


「これ、沢渡がオレとのデュエルで使っていたカードかしら?」

「あ、はい。無理を言ったお蔭か託されたものです。
 沢渡さんが使うカードである以上はせめて本人のカードでトレードすべきだと思いましたので。」


あ、やっぱりそうなんだ。
本来なら沢渡本人が直々に来るべきだけど、あの一件以来関係が最悪だからなぁ。
そこで代理人として関係がまだマシだった程度でしかなかったあなたが来たわけね。

それにしても沢渡のカードか…どれも高そうだけど欲しいものあるかなぁ?
この罠カードは…!あの時使われて苦しめられたカード…っ!
正直言うと喉から手が出るほど欲しかったカードなんだよね、これ。
しかも2枚もあるじゃない…悪いけどこの機会を逃す手はないわ。


「決めた。この2枚が欲しいわね。」


そうして、ねねに選んだ2枚を見せる。


「え〜と、やっぱりこれを選びますよね。わかりました、いいですよ。」

「交渉成立ね…ふふふ。」


ふふ…後で文句言っても返さないから。
魔術師のペンデュラム2枚を渡して目的のアレ2枚と交換した。
とりあえず、まずは本物かどうか認証してみよう…よかった、本物だ!


「これは…成程、確かに本物ですね。とりあえずトレードに応じていただきましてありがとうございました。それと、わたしからこれも渡しておきます…。」


すると、もう1枚ねねからカードが手渡された。
このカードは…これもオレのデッキにいいものじゃない。


「え、これもいいの?」

「はい、前のお詫びの気持ちもありますので是非とも受け取ってください。」

「ありがと…!」


魔術師のペンデュラム2枚はなくなっちゃったけど、宝の持ち腐れになるよりは使いたい人に渡されるのが一番よね…よりにもよって沢渡なのがアレだけど。
それを差し引いてもいいカードが手に入ったわ。本当にありがとう、ねね。








――――――








面談室を出て連絡先なんかを交換した後、みんなに挨拶してからオレは入り口付近でねねを見送ることになった。


「本日は本当にお世話になりました。」

「こちらこそ。またいつでもおいで。」

「はい。機会があればまた…あの子は?」


そうねねがここを出ようとしたところで…。


「はぁはぁ…ブランお姉ちゃぁぁぁぁぁぁん!!わぁっ!


この声は…アユちゃん!?
お菓子の入った袋をもったままこっちに向かっていった。
よほど急いでいたのか途中で躓いて倒れこんでしまったので受け止めた。


「おっと危ないわ。大丈夫?」

「ぐすっ…ブ、ブランお姉ぢゃん…。」


泣きじゃくりながらオレの名前を呼んでるのを見ると何かあったみたいね。
一緒にいたはずの柚子もいないみたいだし。


「アユちゃん、何があったの?」

「ぐず…柚子お姉ちゃんが…沢渡に…とにかく大変なの!」

「え…?」

はぁっ!?沢渡だと!?


なんてこった、今その沢渡の取り巻きのねねを見送ろうとしてたところなのに。
柚子、どうして沢渡と…。

肝心のねねは…呆れ返った表情になっているようだ。


「はぁ…何してるのでしょうかね?あの人たちは。また、関係が拗れてしまうじゃないですか。
 どうも沢渡さんたちが迷惑をかけているみたいで本当にごめんなさい…!」


どうも、今の感じから静かに怒りを見せているみたいね…ねねも。


「ひぐっ、どうじで沢渡の取り巻きがここにいるの…?」

「うっ…あの時はごめんなさい、怖い目にあわせてしまって。」

「まぁ、色々あってね。とりあえずオレが様子を見てくるから、みんなで待ってて。
 とりあえず、アユちゃんだけでも無事に帰ってきたことは伝えなくちゃ。」

「わかった…柚子お姉ちゃんたちは移動してなければ埠頭の方の倉庫にいると思う。」

「了解よ。」


そうして、お菓子の袋を持ってみんなのいる方へアユちゃんは向かっていった。

はぁ…とりあえず、あの二人が起こしているだろういざこざを止めに行かないとね。


「わたしも一緒にいきます。沢渡さんを止めたい気持ちはわたしも同じですので。」

「わかった。間に合わないかもしれないけど二人を止めにいかなきゃね。」

「はい!」


そうして、オレとねねは倉庫のある埠頭の方へ向かうことになった。
もしもの事が起こる前にオレたちで止めなくちゃ…!
間に合ってくれよ…!















続く 






登場カード補足



炎王魔獣 イグニクス
融合・効果モンスター
星6/炎属性/鳥獣族/攻2100/守1600
「炎王」モンスター×2
「炎王魔獣 イグニクス」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
自分の手札の炎属性モンスター1体を選んで破壊し、自分はデッキから1枚ドローする。
(2):フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。



炎王獣 ヨウコ
効果モンスター
星6/炎属性/獣族/攻2000/守 800
「炎王獣 ヨウコ」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが墓地に存在し、自分フィールドの「炎王」モンスターが効果で破壊された場合に発動できる。
このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
(2):このカードが効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
このターン相手は手札・墓地からモンスター効果を発動できない。



炎王獣 ハクタク
効果モンスター
星3/炎属性/獣族/攻1400/守 200
「炎王獣 ハクタク」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドの「炎王」モンスターが効果で破壊された場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):このカードが効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
自分はデッキから1枚ドローする。



炎王獣 ネコマタ
効果モンスター
星3/炎属性/獣戦士族/攻1200/守 200
「炎王獣 ネコマタ」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドの「炎王」モンスターが効果で破壊された場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):このカードが効果で破壊され墓地へ送られた場合、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの元々の攻撃力は半分になる。



甲殻聖爪−キャンサ
装備魔法
「甲殻」モンスターにのみ装備可能。
(1):装備モンスターの攻撃力は400アップし、戦闘では破壊されない。
(2):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから「甲殻」モンスター1体を手札に加える。



炎王の活火山
永続魔法
「炎王の活火山」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分メインフェイズにこの効果を発動できる。
手札の「炎王」モンスター1体を選んで破壊し、自分はデッキから1枚ドローする。
(2):フィールドの表側表示のこのカードが墓地へ送られた場合、自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを破壊する。



激流の宝札
通常罠
「激流の宝札」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分フィールドの水属性モンスターを含むモンスター2体以上が効果で破壊された場合に発動できる。
その破壊されたモンスターの数×300ダメージを相手ライフに与え、自分はデッキから2枚ドローする。



吹雪
アクション魔法
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの攻撃力をターン終了時まで500ダウンする。



スノー・コート
アクション魔法
(1):自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
このターン、そのモンスターは効果では破壊されない。