Side:ブラン
このバトルロイヤルは最初からエクシーズの奴らの来襲を想定したものだった。
ユースで迎撃し、駄目だったらオレ達が迎え撃つように…!
そうしなきゃならないってLDS側の事情はわからなくはない。
民間人への被害を最小限に抑えるためにも舞網市を封鎖して戦場にした事だったり。
でも、それで納得できるわけねぇだろうが。
「理屈はわかった…じゃあなんで事前に説明しなかった!
いくらでも説明する機会あっただろうが!!」
「……」
「過ぎた事を責め続けても仕方ないだろ。
それを言うのなら俺たちも悪い…敵が来襲する可能性が高い事を予想できていながら…!」
「それに、機を図る事なく駆けつけていれば…!」
「やめてくれ、ファントム、権現坂…!
情報さえあればいくらでもやりようはあったかもしれないのに…ひぐっ。」
その事を最初から知っていれば柚子を行かせない選択肢ができた。
少なくとも、最初に別れる事無く行動を共にできたはずなんだ…!
「だが、表向きは舞網チャンピオンシップの3回戦だという事を忘れるな。
それを君たちが最初から知ってしまえば大会どころではなくなるからな。
何より騒ぎにしないためにも大会に紛れ込ませる必要があったのだ…悪く思うな。
それに、その事を最初から知っていたところで守る事が出来たと?おこがましい。」
「んだと…?」
確かに守り抜けたかどうかはわからないけど、それで納得できるかよ!
だからといって俺たちを無断で命を落とす危険の高い戦場に放り込む時点であんまりだろ…!
「待ってくれ、柚子が連中にやられたならそれはオレの責任でもある…!」
「は?柚子の偽物がどの口…」
「やめろ、ブラン…それより、自分のせいとはどういうことだ?」
「改めて自己紹介しておく。
オレはエクシーズ次元出身、ハートランドのデュエリストのモアだ。」
「は?エクシーズ次元だと…?」
こいつ、エクシーズの奴らの仲間だったのかよ?
「そいつがなんでこんなところで…」
「そうだよ!ハートランドって敵じゃん!」
「待った、詳しくは知らないけどモアは追われている身らしい。」
「左様。」
でも、追われているだと?
何かやらかしたとでもいうの?
そして、どうして柚子と同じ格好をしているの?
「彼女はハートランドやアヴニールから追われている。
凡そ軟禁生活から解放されるためにこの次元へやって来たようだ。」
「そうだ、フォトン・フォースの連中はオレを追ってやってきた。
そして、柚子はオレと間違われた結果…」
「間違われた?」
「それで、なんで柚子と同じ格好をしてんだよ…?」
「正確には交換したんだ。
オレに対しそこにいる紫吹という奴と会い、融合次元で何があったのか直接聞けと彼女が提案したんだ。
そして、自ら囮を買って出たわけだ…ま、無謀だとはわかってたけどな。」
「んなっ…無謀だとわかってたなら、なんで止めなかったんだ!
元はと言えば、お前がこの次元に来なければ…うわぁぁぁぁぁ!!」
そして、オレはカッとなって彼女の胸ぐらを掴もうと飛びかかる。
こんな事を聞いてオレの怒りは有頂天でマッハだ!
元はと言えばお前のせいで…!
――ガシッ!
「やめるんだ、ブラン!」
「落ち着け…気持ちはわからなくはないが、その事で八つ当たりしちゃ駄目だ…!
あいつも軟禁状態だったんだ、いい迷惑ではあるがやむを得ない事を察してやれ。」
「くっ……わかったよ。」
「モア殿も心に深い傷を負っているブラン殿を刺激する発言は控えてもらいたい。」
「む…」
オレは権現坂とファントムに抑えられ、ほんの少しだけ正気を取り戻す。
でも、事の発端が目の前にいたら取り乱すのも仕方ないだろ…!
それに、今更謝られても…!
「で、わたしたちはどう反応すればいいのさ?
こんなシリアスな空気についていけないよ。」
「今は大人しくしておけ。」
「お、紫吹にしては珍しく大人しいじゃん。
これはこれは…何かの病気かな、このこの!」
「ネプテューヌ、空気を読め。」
「まさか、それを雲雀ちゃんに言われるとはね。
でも、奪われる者の気持ち…わかったよね。」
おい、そこの融合次元組の2人は黙っててくれ。
「いずれにしろ君達は見事、この戦場から生還した…おめでとう。
これから先必要なのは、戦場に放り出されても生き残れる強さ!」
「黙れ…」
「やめろ!これ以上はまじでやばい!」
「敗れ去った者たちの事を気に病むより…強敵とのデュエルに勝ち、撃退したという事実を誇りにするがよい。」
誇り…だと?
撃退どころか危うく殺す寸前だったのに誇りもクソもあるか!
それどころか心に深い傷を負っているんだ!
親友と敵対する羽目になり、人をカード化する瞬間を何度か目撃し、わけのわからないうちに自分を見失って暴走。
とどめに家族同然の付き合いだった柚子を…守るどころかそばにいてやることすらできなかった!!
沢渡や山越シェフ・敦也とナイトの2人だけじゃなくてここにいない参加者の多くは犠牲になったはずだ…柚子も……!
競技としての試合場ではなく本物の戦場になる事さえ伝えてくれれば…うっ!
「誇りだと…?あまりに犠牲が多すぎるのに…柚子を守れなかったのにそんな事誇れるわけねぇだろ!!
柚子を…みんなを返せぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「おい!」
「やめるんだ!」
制止も振り切り、感情のままにオレはあのクソメガネに殴りかかるも…!
――がしっ!
「っ…!」
「暴力で訴えるのは感心できんな。
デュエリストならば、怒りを拳ではなくデュエルで示せ!」
直線的過ぎて社長に読まれる形で片手で拳を掴まれる。
ちっ、こんな野郎の思い通りになるのは嫌だが…!
「やってやる…倒された柚子や皆に代わっててめぇに懺悔させてやる!」
「そうこなくては…君が勝てたなら何でもすると約束してやろう。」
ん?今何でもするって言ったよな?
余裕ぶっている態度が気に食わねぇが…!
「その言葉…忘れるなよ……!」
「だが、その前に…君たちは自らの使命をまだ自覚していない。
私が何故ランサーズの結成を決意したのか…!」
「いや、外部からの脅威からここを守るためだよな?」
「だが、力及ばず犠牲を多く出してしまった…だろ?」
「各々の自覚のなさとはそういう事だ。
我々の故郷を融合次元のような悲劇から救うために!アクションフィールド『未来都市プラネテューヌ』発動!!」
そして、使命だとかどうとか訳の分からない事をべちゃくちゃ言いながらアクションフィールドを展開してきた。
このアクションフィールドはあの時の!
「これは…平和だった頃のわたしたちの故郷!?アイエエエエエ!!ナンデ!?」
「あの糞眼鏡の嫌がらせだ、だが堪えろ。
それとニンジャが目の前にいるぞ?もうやめておけ、ネプテューヌ。」
「似非のニンジャではない、由緒正しき忍者だ。ドーモ。日影=サン。月影です。」
「拙者も同様。ドーモ。月影=サン。日影デス…む。
このやりとりを本物の忍者にやらせるのは勘弁願おう。」
アイエエエエ!!完全にニンジャじゃねぇか!?
…じゃねぇよ!こんな茶番はどうでもいいしさっさとデュエル始めたい。
「実際に行った事はないが、ここが融合次元のプラネテューヌ…在りし日の。」
「紫吹にネプテューヌ、柊柚子の意志に応えモアに語るがいい…融合次元で何が起きたかを。」
「……」
「あー!何も聞こえなーい!」
いつまで続くんだよ、この語り。
それに、融合次元の2人は…エクシーズ次元出身というモアに何が起きたか語りたくないだろそりゃ。
でも、どうして柚子は…?ええい!
「屈辱や悲しみが蘇ってきたか。
ならば私から語ろう…バトルロイヤルに乗じて君たちに襲い掛かって来たエクシーズ次元のハートランドやアヴニールの連中は…」
「やめろ!この戦犯にネプテューヌたちの故郷の話をさせるのは!困惑しているだろ!
それより、散々オレを待たせやがって…やるならさっさとデュエルしろ!」
「ブラン、GJ!」
「なぁ、オレの扱いが酷くないか…?」
「当たり前だ、彼女自身も突っかかったようにそもそもお前が脱走したのがこのバトルロイヤルの発端だろうが!」
「(´・ω・`)もあーん」
流石にデュエルするとか言っておきながら放置されてるのがおかしいと思い、タイミングを見計らって邪魔しに参った。
それと、そこのモアとかいう柚子の偽物は口にチャックしろ。
お前のような戦犯に話しされるとイラッとくる。
「ふむ、それもそうだな。」
「てめぇを叩きつぶして、這いつくばらせてやる!」
「「デュエル!!」」
ブラン:LP4000
零児:LP4000
色々とコメントに困る空気だったけどデュエルが始まった。
見渡す限りではアクションカードはない。
アクションフィールドは展開したものの、アクションデュエルではないな。
だとしても上等だ!
「オレの先攻!オレはスケール2の『バブル・ロブスター』とスケール4の『ロブスター・クワガタ』をペンデュラムゾーンにセッティング!」
バブル・ロブスター:Pスケール2
ロブスター・クワガタ:Pスケール4
「ここでロブスター・クワガタのペンデュラム効果!
このカードがペンデュラムゾーンに存在する限り1度だけ、デッキから『ザリガン』か『カニカブト』1体を手札に加える事ができる。
この効果で手札に加えるのはカニカブトの方!」
「手札に加えたのは…なんだあの弱小バニラ?」
いや、ただの弱小バニラだと侮るなよ?
通常モンスターゆえにサポートは多いからな。
「うっ…思い出した!そう言えば月子も使っていたような…」
「何!?月子が…妹よ、俺に何も教えずにデュエルを!?」
兄なのに妹がデュエルしていた事知らないのかよ!
というか月子って自分に似た子がいるって柚子から聞いた事あるくらいだけど、使用カードが本当なら気が合いそうだ。
って、今はあいつらのペースに乗せられている場合じゃねぇ。
「そして、スケールは2と4だからレベル3のモンスターが同時に召喚できる!
揺れろ、魂のペンデュラム!天界に架かれ、流星のビヴロスト!ペンデュラム召喚!来い、オレのモンスターたち!
ここで呼び出すのは『カニカブト』とチューナーモンスターの『ウェーブ・ガードナー』!」
カニカブト:DEF900
ウェーブ・ガードナー:DEF1700
「お、いきなりのペンデュラム召喚!」
「しかも、片方はチューナーか…どっちでくる?」
「柚子から何か聞いたみたいだけど、ハートランド出身の子が何を聞きたいのかな?ん?」
「…言いにくいな?」
…確かに片方はチューナーだけど、ここで出せるのはギルマンだ。
先攻1ターン目に出してもいい的になるだけ…だったら!
「オレはレベル3のカニカブトとウェーブ・ガードナーでオーバーレイ!
エクシーズ召喚!ランク3『ハードシェル・クラブ』!!」
『フッ…!』
ハードシェル・クラブ:DEF2100
「オレを散々Disってた割にエクシーズ召喚を使うとは…」
召喚法そのものに罪はねぇし、当時はお前達の事なんてに1つ知らないからな。
「ふむ、どうやらペンデュラム召喚のその先は見えていたようだな?」
「逆に聞くが、こんな事だったのか?」
結局、あのメガネが想定していたペンデュラムのその先ってこういう事だったのかよ。
冷静に考えれば、あの時もペンデュラム召喚からランク4エクシーズを出されたらやばいとは思っていたからな。
まさか、それが目の前の眼鏡の考えていたペンデュラムのその先だという発想まではいかなかったけどな!
まずはハードシェル・クラブで様子見させてもらうぜ。
超次元ゲイム ARC-V 第58話
『激昂の一戦』
「ペンデュラムから他の召喚法に繋ぐ発想自体はあの時からあるにはあったんだよなぁ…」
「ほう?それは意外だな?」
それもそうだ、あの時は絶望感に打ちひしがれてたからな。
何より、その当時はエクシーズとかの三大召喚法が何一つできなかったのが大きい。
あの時はオレにエクストラデッキが無かったのに加え、ペンデュラム召喚も同等以上だったからショックが大きかったものだ。
だが、今度はあの時のようにいいようにされるつもりはない。
「が、いずれにしろ試合を見る限りエクシーズに関してはあまり特別なものは感じんな。」
「そりゃそうだろ、あくまで貰いものだからな。
本番は次のターンからだ!オレはこれでターンエンド。」
ちなみに、エクシーズ召喚に関しては見様見真似ですぐ会得できた。
里久がいた事も大きいのだろうが。
やっぱり環境というのはなんだかんだデュエルにも影響すると思う。
「いいだろう…私のターン、ドロー。
私は永続魔法『魔神王の契約書』を発動!」
「早速、融合召喚を行う契約書のお出ましか…!」
「そうだ、悪魔族融合モンスターを融合召喚するこの効果で手札のDDバフォメットとDDラミアを融合!
未来に流される血よ!異形の神に溶け込み、真の王と生まれ変わらん!融合召喚!出でよ、神の威光伝えし王『DDD神託王ダルク』!!」
『ハァァァァッ!!』
DDD神託王ダルク:ATK2800
ここで呼び出された融合モンスターは神託王ダルク。
あの時出されたテムジンと比べると2800もの攻撃力の高さが印象に残る。
そうなると、効果よりも打点を重視してきたのかしら?
「テムジンではなく、以前の時とは違う融合モンスターだな。」
「権現坂、あの赤馬零児のデュエルのデュエルを見た事あるのか?」
「ある、遊勝塾でな…当時のブランはあいつにいいようにされていた。
決着前に邪魔が入った事で難を逃れたが…」
そして紫吹の方をチラッと見る。
認めたくはないけど、彼がLDSにちょっかいを出した事で助かった事になる。
認めたくはないけど!
「続いて、チューナーモンスター『DDナイト・ハウリング』を召喚!」
DDナイト・ハウリング:ATK300
「今度はチューナー…!?」
「そうだ!他の召喚法も自在に操る。」
ここで召喚権を使ってきたわね。
チューナーでナイト・ハウリングという事は…!
「ナイト・ハウリングのモンスター効果を発動。
このカードが召喚した時、墓地の『DD』1体を攻守0にして特殊召喚できる。
この効果で蘇生するのはレベル4の『DDバフォメット』!」
DDバフォメット:DEF1800→0(ATK1400)
当然、シンクロ素材を揃えてくるわけだ…!
「私はレベル4のDDバフォメットにレベル3のDDナイト・ハウリングをチューニング!
闇を切り裂く咆哮よ!疾風の速さを得て、新たなる王の産声となれ!シンクロ召喚!生誕せよ、レベル7『DDD疾風王アレクサンダー』!!」
『ヌオォォォォッ!!』
DDD疾風王アレクサンダー:ATK2500
「シンクロ召喚まで…!?」
「ダレイオスやサイフリート以外にもシンクロモンスターを持っていたのか。」
ダレイオスとかサイフリートなるシンクロモンスターの存在は初耳だ。
というか、あの金髪もあのクソメガネのデュエル見た事あったのか。
それは今はさておき、ダルクではなくテムジンならテムジン→アレクと効果を連鎖させてモンスターを展開していけたはず。
となると、別の効果をトリガーに展開してくるのか?
「そして、ここで墓地の『DDラミア』のモンスター効果を発動。
手札かフィールドの『契約書』カードか『DD』カードを1枚墓地へ送る事で、墓地のこのカードを特殊召喚できる!
私は『魔神王の契約書』を墓地へ送り、レベル1のチューナーモンスター『DDラミア』を自己再生する!」
DDラミア:DEF1900
「またチューナー!?」
「まさか、連続シンクロ召喚が狙いなのか?」
そこまではわからない…ただ、これでアレクサンダーの効果発動条件は満たされたわけだ。
「自身以外の『DD』が召喚・特殊召喚された事で疾風王アレクサンダーの効果発動!
この効果により墓地からレベル4以下の『DD』1体を特殊召喚できる。
再び蘇れ『DDバフォメット』!」
DDバフォメット:ATK1400
「ここで、DDバフォメットのモンスター効果を発動!
1ターンに1度、このカード以外の『DD』1体のレベルを1〜8の好きな数値に変更できる!
これにより、DDラミアのレベルを4に変更する!」
DDラミア:Lv1→4
これでレベル8か11のシンクロ、またはランク4と7のエクシーズを行えるようになったわけだが?
「これでレベル4のモンスターが2体…チューナーがいるからどっちで来る?」
「ついでにレベル7も2体…だな。」
「まさか…!」
「私はレベル4となったDDラミアとバフォメットでオーバーレイ!」
「ああ…」
ここで選択したのはランク4のエクシーズ…という事はアレかな?
ところでデニスは何を意外そうに驚いているんだ?
一応、融合・シンクロ・エクシーズの全てを使用できるのはオレもだからな?見てたよな!
「悪魔の落とし子よ、荒波に乗りてこの世の海の支配者となれ!エクシーズ召喚!君臨せよ、ランク4『DDD海洋王ティーチ』!!」
『グワッハハッ!!』
DDD海洋王ティーチ:ATK2500 ORU2
ここで出してきたのは案の定ティーチ。
素材2体で出るランク4のくせに攻撃力が2500と高く、DD全体に貫通を付与する憎き黒ひげだったはずだ。
そういえばここでデュエルディスクに内蔵されたアレを使えば…あ、もう1つあった。
「わずか1ターンで融合、シンクロに続いてエクシーズまでも…!」
「実際に1ターンで揃うのを見るのは初めてだけど、胸が熱くなるよね。」
「さらに儀式モンスターが加われば4色揃うな…」
「ファントムと言ったな?悪いが、儀式モンスターまでは入っていない。」
どうやら、儀式モンスターまでは投入されていないようね。
それにオレも儀式モンスターは今は入れていない。
残念ながら、今のオレの力量では儀式を取り入れる余裕はない。
「だが、赤馬零児はペンデュラム召喚すらも実装していた。」
「だろうな、俺もロムから聞いている。」
「ああ、オレも見ていたぞ。」
「はは、なんというか末恐ろしいや。」
全くだ…今回はそう簡単に思い通りにさせたくはないがな。
「ところでここに来たのは俺たちを倒そうとして…だと?」
「ここに来たという融合の残党を倒せば、オレを戦場に駆りだそうとしないプロフェッサーにオレの実力を示せる。」
「それ身勝手な話だよね、こっちの人にもいい迷惑だよ。」
一方でネプテューヌたちはモアに問い詰めていた。
まったくだ、ふざけた話だ。
このお転婆な金髪少女が災厄を運んできたようなものだからな。
が、他所見している時間はなかった。
「では、バトルに入ろう…まずは神託王ダルクでハードシェル・クラブを攻撃!
海洋王ティーチにより貫通効果が付与されている!突き刺せ『オラクル・チャージ』!!」
――ザスッ!
「がはっ…!」
ブラン:LP4000→3300
ハードシェル・クラブ:DEF2100 ORU2→1
「ハードシェル・クラブが破壊される場合、代わりに素材を1つ使う事でフィールドに留まれる!」
「ならば、今度はアレクサンダーでハードシェルを攻撃!」
――ビュゥゥザシャッ!!
「ぐあああっ…!」
ブラン:LP3300→2900
ハードシェル・クラブ:DEF2100 ORU1→0
「これで君のハードシェル・クラブのオーバーレイユニットはなくなったわけだ。」
「これ以上は何かないと攻撃に耐えられないか。」
素材が無くなった以上は効果を適用する事はできないからな。
それにオレの伏せカードの無いわけで普通なら何もないと思うだろうがな。
「これで君のハードシェルには舞台から退場してもらおう。
海洋王ティーチで三度攻撃!」
だけど、攻撃を無効にする手段はないとは言っていない!
「この瞬間、ペンデュラムゾーンのバブル・ロブスターのペンデュラム効果を発動!
エクストラデッキから特殊召喚された水族モンスターが攻撃対象となった時、このカードを破壊しもう片方のペンデュラムゾーンの『ロブスター』1体を手札に戻す事でその攻撃を無効にする!
バブル・ロブスターは破壊され、ロブスター・クワガタを手札に戻してティーチの攻撃を無効に!」
「ふむ、ダルクではなくティーチの攻撃を無効にしてきたか。」
「ティーチに関しては戦闘ダメージ入ると『契約書』をサーチされてしまうようだからな。」
「つまり、ライフよりもカードアドバンテージを重視したんだね。」
「ライフポイントってのは削り切られる時は4000でも安心できないのがデュエルでは相場だからな。」
正直変な契約書をサーチされても困る。
特に『地獄門の契約書』とかはね。
だからダルクの攻撃は通し、ティーチの攻撃を無効にしたんだ。
「だが、そうこなくてはな…カードを2枚伏せてターンエンドだ。
それで、君はここからが本番だと考えているのだろう?
さあ、ペンデュラムの更なるその先を見せてもらいたいところだ。」
ちっ、何でもお見通しかよ…これだから天才は。
「で、バトルロイヤルの時もいわゆる高みの見物だったんだろ?
ふざけるなよ、オレたちはてめぇの思いのままに動く人形じゃねぇんだぞ?
ここでカードにされた人たちも心を持っているんだ…柚子も……!」
「ブラン…」
だが、オレたちの心まではてめぇの思い通りになるかよ。
柚子がいなくなってしまった上にねねがステラとして敵に回った現実がどれだけ重く圧し掛かっているか。
「で?続けたまえ。」
「柚子はオレを時には優しく、時には尻を叩きながらオレを支えてくれたんだ。
オレがペンデュラムのその先を見つけようと必死でがんばれたのも、柚子も強くなろうとがんばっていたから。」
アンタに実力面でも精神面でもボコボコにされて、このままじゃ何も守れないと考えたわけだ。
オレはニコに頼む形で独自の強化ルートを辿ったわけだけど、柚子達を守れるようになりたいとも思ったわけなのよ。
その中で柚子も強くなろうとがんばっていたから、大会の決勝か準決勝辺りで相対する機会があればいいと思った。
でも…ここにはもういない…!
「だからオレもがんばらなくっちゃって…思ったのに……!
こうなったら目にモノを見せてやる…!
オレのターン、ドロー!オレはスケール4の『甲殻奏者ロブスター・ハープ』をセッティング!」
甲殻奏者ロブスター・ハープ:Pスケール4
「ペンデュラムゾーンに片方だけ…?」
「いや、あのペンデュラムは片方で疑似的なペンデュラム召喚みたいなのができる。」
「といってもあまり大したものじゃないけどな。
ここでロブスター・ハープのペンデュラム効果を発動!
このカードを破壊し、手札からレベル3の水属性1体『ウォーター・ペインター』を特殊召喚!」
ウォーター・ペインター:DEF1400
というわけで信頼と安心のウォーター・ペインターのお出ましっと。
やっぱり、ハードシェルとこいつのコンボは使いやすいからな。
だけど、その前にアレでデッキ圧縮だ。
「そして、スケール4の『ロブスター・クワガタ』をセッティング。」
ロブスター・クワガタ:Pスケール4
「ロブスター・クワガタのペンデュラム効果で『ザリガン』を手札に加えておく。
ここで水属性のハードシェル・クラブと自身をリリースし、ウォーター・ペインターの効果を発動!
この効果でデッキから2枚ドローする。
さらにリリースされた『ハードシェル・クラブ』のモンスター効果を発動し、デッキから魚族・水属性・レベル3以下の『ライン・ペンシル』を手札に。」
よし…ザリガンを手札に加えて正解だったようだ。
が、その前にアレを披露しておかねぇとな。
目の前のメガネに目にモノを見せてやる。
「そして、手札からレベル3のチューナーモンスター『霊媒の魔術師』を召喚!」
霊媒の魔術師:ATK500
「あれはペンデュラムモンスターのチューナー…?」
「俺との試合でも見せたアレを使うのか!」
そうだ、オレが見出した方のペンデュラムのその先をな!
「霊媒の魔術師をシンクロ召喚の素材とする場合、エクストラデッキの表側表示の水族1体もシンクロ素材にできる。
オレはエクストラデッキからレベル7のロブスター・ハープにレベル3の霊媒の魔術師をチューニング!
交信の魔術よ、閃光と共に甲殻の鎧に今宿らん!シンクロ召喚!出でよ、レベル10!魔術纏いし『甲殻魔将ルーンシェル
『ンヌォォォォォォォォ!!』
甲殻魔将ルーンシェル・P・ロブスター:ATK3000
「来たか、ルーンシェル!」
「ブランって、ベールと比べて変なシンクロ召喚するんだね…」
「ベールって誰だ?」
「え〜と、わたしやブランに似た顔立ちのシンクロ使い?」
やめてくれ、ネプテューヌ。
あの通り魔の事を思い出させるのはオレに効く。
正直、あいつとは二度と関わりたくない。
それは兎も角。
「ルーンシェルは柚子やニコやみんなをわっと驚かせて感動させたいと思ったからこそ呼べたモンスター。
そして、ようやくたどり着いたオレなりのペンデュラムのその先だ!」
「ふっ…それがペンデュラムのその先と思っていたとは見当違いもいいところだ。」
「里久からも突っ込まれたよ…だけど、そんなこと知った事かよ。
エクストラのペンデュラムモンスターを素材にしたルーンシェルはこのターンのみ相手の効果を受けない。」
あくまで、これはペンデュラム召喚を経由しているわけじゃないからな。
だけど、ペンデュラムの性質を違うベクトルで活用したこれもペンデュラムのその先の1つの答えじゃないか?
「話は変わるけど、LDSの栗音とのデュエルで悔しい思いをしたからこそ柚子は里久からエクシーズ召喚を学んだ。
居場所を守りたい気持ちはオレも柚子も同じなんだ。
奇しくも共にエクシーズ召喚の会得からスタートラインを切ったんだ。
そうしている内にシンクロ召喚も会得して、今のような事もできるようになった。」
あの時に危機感、そして悔しい思いをしたのはオレも柚子も同じ。
そして、エクシーズ召喚を会得するところから大会に向けて準備し始めたんだ。
今となってはエクシーズ召喚に関しては柚子に後れを取っている形になってるけど。
「知らなかったとはいえ、エクシーズ次元のデュエリストからエクシーズ召喚を習っていたとはな。」
「柚子はね…見様見真似という意味ではオレも参考にさせてもらった形になる。
で、アンタは知っていたのか?里久がエクシーズ次元の関係者だって!」
「彼の召喚反応はLDSの者達とは桁違いの強さなのでな。」
「最初から泳がしていたって訳か。」
召喚反応というものがわからないのだけど、それで出身を看破されたら堪ったものじゃなさそうだ。
いずれにしろ、里久が関係者だと確信したからこそあの時、そこの紫吹とぶつけたのか…!
でも…今はいないとはいえ、里久との友情は確かだった事があの時確認できた。
一回、マジになって殴っちゃったけど。
「もっとも、エクシーズは今のところ特筆すべき点がない事から彼の影響はないようだな。」
何度も言うがもらいものだからな…LDSの北斗からの。
3つの召喚法の中では唯一特別切り札となる性能のモンスターを持っていない。
ハードシェルもクルヴ・シューターもどちらかといえば縁の下の力持ちだし。
「一方で接点がないはずのシンクロに関してはこちらのデータにないもので異質すぎる。
が、君がシンクロ召喚を始めて行ったとされる日の前日に強すぎるシンクロ召喚の反応があった。
その日、君はシンクロ次元出身の誰かに接触したのではないか?」
「ああ、実はそこにいるネプテューヌのようにオレと似た顔の通り魔に襲われて…はっ!?」
…その通り魔の正体がオレと酷似した顔をもつ巨乳美女ことネプテューヌが言ったベールだったんだよなぁ。
巨乳という時点でオレと全然違うけどな。
そしてその時も無意識に暴走して…その後、いつの間にかルーンシェルを始めとするシンクロモンスターを手に持っていたわけだ。
それからはSAN値がゴリゴリ削られていくような怪現象ばかりだ。
特にオレの身の異変が顕著になったのは2度目の接触後、柚子からそこにいるネプテューヌの落し物のカオス・リベリオンを手渡しされて以降だ。
「成程、君によく似たシンクロ次元の者との接触が新たなシンクロモンスターを発現させたのかもしれないわけか。」
「似てるのは顔だけだけどな…どこまで知っている?」
「さぁな?実際のところ私もシンクロ次元の事は詳しくはわかっていない。」
そうなると、シンクロ次元が一番得体が知れないって事か。
その1人と直接対面したオレとしては下手したら『エクシーズの奴らよりも話が通じないんじゃないか?』とすら思ってる。
できれば関わりたくないと思うほどに。
「直接会ったオレから言わせてもらうと、シンクロの奴は素性がわからなくて怖い…正直エクシーズの奴等よりもな。」
「ふむ…」
「いい加減、デュエルを続けるぞ?」
「その者の件は後で聞きたいところだ。」
話すのも億劫だからな。
さて…久しぶりにこいつの出番だ。
「続いて、オレは手札のザリガンをリリース!
手札にあるザリガンマンは手札・フィールドからザリガン1体をリリースした場合のみ特殊召喚できる!
穿て、紅き弾丸!現れろ、レベル6『ザリガンマン』!!」
『ハァッ!』
ザリガンマン:ATK1800
「ニッチなモンスターを使った場合のみ出せる特殊召喚モンスターとは珍しい。」
「でも、それにしては攻撃力が頼りない気がするけど…?」
「だが…その分、強力な効果を持っていたはずだ。」
エクシーズやシンクロ召喚を使用できるようになってからはあまり出番はなかった。
だけど、こいつはペンデュラムを発現させる前から所持していたオレのエース級の1体だ。
もっとも、今は効果は使わんがな。
「いずれにしろ、てめぇらはオレ達を無断でゴタゴタに巻き込んだ。
その件の落とし前をつけてもらうためにもどうしても勝ちに行く!」
回りが茶々を入れる度に忘れそうになるけど、このデュエルは赤馬零児にオレたちを勝手に巻き込んだ挙句犠牲を出した事を懺悔させるためのものだ。
思い知らせてやる、大事な人(オレの場合は柚子)を喪した者の怒り・悲しみを!
「ルーンシェルは1度のバトルフェイズに3回までモンスターに攻撃できる!
バトルだ!ルーンシェルでダルク、アレクサンダー、ティーチの順に攻撃!『連撃のシャイニー・シュラーク』!!」
――ズドドッ、ドガァァァァッァ!!
「……」
零児:LP4000→3800→3300→2800
ちっ、モンスターが全滅したというのに動じないか。
オッドシェルにトラウトの効果で全体攻撃を付与して殴った時の事を思い出して嫌な予感しかしない。
「そして、ザリガンマンでダイレクトアタック!切り裂け『クリムゾン・エッジ』!!」
――ズバァッ!
「っ…」
零児:LP2800→1000
「これで零児のライフは残り1000か。」
「よし、契約書のリスク1回分で削り取れる数値まで追い詰めたぞ。」
とはいえ、今のあいつの場には契約書はない。
その上、墓地には契約書を餌にして復活できるラミアの存在がある。
勝利は目前…のように見えて実際の所は使われていない2枚の伏せカードの存在もあって骨が折れそうだ。
さて、攻撃は終了したがメイン2は特にやる事がない。
そして、ザリガンマンの真価を見せるのは次以降だ。
「…オレはこれでターンエンド。」
「このエンドフェイズに罠カード『DDDの人事権』を発動しておこう。
墓地からバフォメット、ダルク、ティーチをデッキに戻し、デッキから『DD』2体を手札に加える事ができる。
この効果により『DD魔導賢者ケプラー』と『DD魔導賢者トーマス』の2体を手札に加えさせていただく。」
「っ…魔導賢者!?」」
「トーマス…赤馬零児の中の人……あっ。」
「待て、中の人って何の事だよ…」
魔導賢者だと…前のデュエルではそんな名称ではなかった。
しかも、ケプラーの名称も変わっているという事で前よりペンデュラムの方面も強化していたわけか。
「私が望んでいた進化とは違うとはいえ、ペンデュラムの性質を利用したシンクロによる攻勢は見事だった。
だが、詰めが甘い…ランサーズは対ハートランド・アヴニールのための実戦部隊。
実際の戦闘では詰めの甘さが命取りになる事を覚えておけ。」
「ふざけんなよ、オレはてめぇの駒として働くつもりはない!」
実際の戦闘とか物騒な事がでてきたが、ふざけんなよ。
オレたちはアンタらの操り人形じゃない!
とはいえ、今のオレはあまりにも無力だって事を思い知らされている…詰めが甘いのも承知だ。
しかも、下手をすると恐ろしい事になりかねない爆弾を抱えているんだ。
ファントムたちの下で、女神としての立ち振る舞いを学ばなきゃとも考えているわけで。
が…?
「柊柚子を助けたくはないのか?」
「「何!?」」
「柚子が生きているのか?」
その一言に衝撃が走った…!
まるで、柚子がまだ無事である事を知っているかのように…!
「まさか、フォトン・フォースの連中に捕らわれたというのか?
それをお前は見ていたと?」
「えっ?」
捕らわれたって事は奴らの手中に柚子が…?
一体、何のために…?柚子の顔がここにいるモアとかいう金髪女に酷似しているのに関係が…?
「次は私が本気を見せる番だ。
柊柚子を助けたいのならば、まずは私を乗り越えていけ!」
ちっ、柚子を助けたいなら、本気の攻勢をかいくぐりぶっ倒して行けって事か…!
上等だ、受けて立ってやる!
――――――
Side:デニス
柊柚子が無事であると赤馬零児が言った。
まるで確信したかのように言ったという事はノワールが柚子を連れていく瞬間を知っている?
そうなると、僕の正体も気付かれているのか?
これはちょっと暗雲が立ち込めてきたんじゃないか?
しかも、モアも自らの正体を口走ってしまったからなぁ。
このままじゃ僕が下手に動きを見せればエクシーズ次元の手先だって事がバレバレじゃないか。
仕方ない、ランサーズに付き従うふりしてモアを監視する事にするか。
ステラも去り際に目で僕にそうするように訴えていただろうからね。
それに…途中出てきた化物の件も気になる。
もしかしたら、エクシーズ次元の方も割と拙い事になってきてるかもしれない。
そう考えるとここで監視する事になるのは逆に都合がいいかもね。
続く
登場カード補足
ロブスター・クワガタ
ペンデュラム・効果モンスター
星3/水属性/水族/攻 450/守1100
Pスケール「4:4」
「ロブスター・クワガタ」のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが表側表示で存在する限り1度だけ発動できる。
デッキから「カニカブト」または「ザリガン」1体を手札に加える。
『モンスター効果』
「ロブスター・クワガタ」のモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードをリリースして発動できる。
デッキから水族・攻撃力800以下の通常モンスター1体を特殊召喚する。
バブル・ロブスター
ペンデュラム・効果モンスター
星1/水属性/水族/攻 200/守1200
Pスケール「2:2」
「バブル・ロブスター」のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):もう片方のPゾーンに「ロブスター」カードが存在し、
エクストラデッキから特殊召喚された自分の水族モンスターが攻撃対象に選択された時に発動できる。
このカードを破壊し、もう片方のPゾーンのカードを手札に戻し、その攻撃を無効にする。
『モンスター効果』
「バブル・ロブスター」のモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドのレベル5以上のPモンスター1体を対象とする相手のモンスター効果が発動した時、このカードを手札から捨てて発動できる。
その発動を無効にする。