No Side
「ファントムってさ、エンタメとか言ってる割りに中々えぐい事するよね?
今だって敵とはいえ、捕えた女の子に睡眠薬投与してるしさ。」
「木刀で殴ったお前が言えた事ではないぞ、ネプテューヌ殿。」
「それに、今暴れられたら面倒だろ…こいつらには俺だって怒ってるんだ。」
「おいおい、こんな恐ろしい奴らにオレたちは助けられたのか…世界は広いものだ。」
「モア殿も大概と見受けられるがな。」
「なんだと!やるなら受けて立つぞ!」
エクシーズ次元のハンター達を撃退し、うち1人を生け捕りにする事に成功したネプテューヌ一行。
色々と面倒事が起こりそうなやりとりだが、突っ込むのは野暮というものだろう。
「やめんか、下らない事で言い争っている場合ではないだろう。」
「まだ、敵が潜んでいる可能性も無きに非ずだからな。」
「ちっ。」
「すまぬ。」
「おっと、そうこうしている内に誰か来たようだ…」
月影が余計な事を言った事による言い争いをストップさせる。
ここで、何者かの足音が聞こえてくる。
「ふん、ネプテューヌに他数名か…敵は倒したようだが…」
「なんだ、雲雀か…おどかさないでよってえぇぇぇぇぇぇ!!」
ここで姿を現したのは紫吹だが、ネプテューヌ達はそれより彼が抱えている少女に驚愕する。
「ロム殿!?」
「あのロムが気絶しているとは何があったんだ…?」
「知らん…俺が見た時には既に倒れていた。」
そして権現坂やファントムも然りで、彼らが驚愕するのも無理はない。
気絶していたのは大会の優勝候補にしてルウィー教会のボスのロムだったからだ。
「いずれにしても、気を失っている所を奴らに狙われる前に助けてくれたようだな…すまない。」
「お互い様だ…お前たちが我が友のネプテューヌを密かに保護したらしいな。」
「実際に保護したのは諜報の方だ、礼を言うならそっちに言えよ。
逆に何も連絡できなくて申し訳ないと思ってるが、色々な事情込みで彼女の回復を待っていたんだ。」
「そういうこと、心配かけてごめん。」
一方でファントムらルウィー教会がここにいるネプテューヌを保護していた事も明らかとなった。
兎に角、これで互いに貸し借りはなくなったようである。
「兎に角、敵はあらかた片付けたとはいえ、まだ潜んでいるはずだ。」
「一人のところを狙われるケースもないわけではない。
悔しいが、固まって動くのがベターだ…単独行動では疲弊している所にばったり出会ってはやられるのが関の山だろう。」
「ちっ、情けない話だが止むを得んか。」
一方で敵は紫吹を1度倒した『星光の殲滅者』ことステラ・スタークとブランと交戦中の黒龍院里久が残っている。
そして、バトルロイヤル終了し、通信回線が回復するまで残りわずかだ。
モアや捕えた兵士を奪還されないためにも、ここは固まって動く事にしたようだ。
「後はブランが心配だな…厄介な事になっていなければいいが。」
「暫く連絡も取れていなかったが、無事でいてくれ。」
「あのわたしに似た顔の子か…ちょっと心配かな。」
「ネプテューヌ…お前のカオス・リベリオンも今は奴が持っているはずだ。
合流できたら返してもらえ。」
「マジで!?」
一先ず、各々の思惑がありつつもブランとの合流を目指す事にしたようだ。
ネプテューヌは自身のエースが今はブランの手の中にある事を今知ったようであるが…?
「マジで!?じゃねーよ!
いや、何故かはわからないけど彼女の手に渡っている事前に説明したよな?
そのせいで大変な事になってんだからな?しっかりしてくれよ。」
「ごめんごめん、本当は覚えてるって!
でもさ、あれがなくなってからの方がむしろ気分が楽なんだよね。
って事は…!」
「十中八九、お前が考えている事だと思うぞ…」
「くっ、俺が自分を見失っている内にブランが大変な事になっていようとは…!
この男、権現坂…実にけしからぁぁぁぁぁん!!」
と思いきや本当は知っていたようだ。
どうやら、カオス・リベリオン自体にも何かあるようである。
超次元ゲイム ARC-V 第57話
『バトルロイヤル終了』
ブラン:LP1500
里久:LP1800
クラフトイ・デス・バハムート:ATK2800
クラフトイ・マッド・ドラゴン:ATK2600
クラフトイ・マッド・ラプトル:ATK2200(効果無効)
クラフトイ・マッド・ドッグ:ATK1400 ORU2
Side:ブラン
満身創痍とは思えないほどの底力を見せつけられオレは足場の端へ追い詰められている。
そして、今まさに里久がオレにトドメを刺そうとしていた。
「僕にとってはブランたちとの友情よりも大切なものがある!世界をあるべき姿に正すためにもね!
悪いけど、ここで絆もろとも切り刻まれて果てちゃえ!
クラフトイ・マッド・ラプトルでトドメだ!『マッド・スマッシャー』!!」
世界をあるべき姿にするなんてわけのわからない事をのたまっているが、こんなところでやられるわけには行かない!!
「まだだ!ダメージ計算時に罠発動『回遊流し』!」
「ちっ、伏せカードの正体はそいつか…」
「こんなところで退くわけにはいかないからな。
まずはこの効果でこの戦闘での戦闘ダメージを半分にする!」
――バガキィィィン!!
「ぐわぁぁっ…!!」
ブラン:LP1500→400
――ズズズ…!
危ない…なんとかぎりぎりの所で踏ん張る事ができた。
もう少しでソリッドビジョンのドロドロへ落ちる所だった。
落ちたからなんだって?まぁ、精々気を失うくらいだろうけどさ。
「その後、デッキから水族か魚族のレベ李3以下のモンスター1体を手札に加える。
この効果で手札に加えるのは『ロブスター・シャーク』だ!」
「ここにきて更なるペンデュラムカードを…!」
そして、ここで不足していた方のスケールのペンデュラムカードを手札に加えておく。
「仕留め損ねたけど、まぁいい。
今度はブランの底力を見せてもらうとするかな。
精々がっかりさせないでほしいな…僕はターンエンド。」
「オレのターン、ドロー…くっ!?」
やはりというかここでこのカードが来てしまったか…まるで『我を暴れさせろ』と言わんばかりに。
しかし、まいったな…これは借り物の力じゃないだろうか?
あいつの残留思念かどうかはわからないにしろ、強い怒りに満ちているのは確かだろうけどさ。
「どうしたの、ブラン…もしかして都合の悪いカード引いちゃった?」
「ある意味そうかもしれないわね。」
とはいえ、ここで手を抜いたら目の前の里久に失礼だ。
借り物の力と思われようが、引いてしまったものは仕方ない…全力でオレの想いを込める!
「兎に角、まずは準備に入るわ。
オレはスケール2の『ロブスター・シャーク』とスケール8の『融解の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!」
ロブスター・シャーク:スケール2
融解の魔術師:スケール8
「これでレベル3から7のモンスターが同時に召喚可能!
揺れろ、魂のペンデュラム!天界に架かれ、流星のビヴロスト!ペンデュラム召喚!来て、オレのモンスターたち!
エクストラデッキからレベル5の『甲殻槍士ロブスター・ランス』!レベル6の『甲殻砲士ロブスター・カノン』!
そして、レベル7の『甲殻神騎オッドシェル
『ヌンッ!』
甲殻槍士ロブスター・ランス:ATK2000 forEX
『フッ…!』
甲殻砲士ロブスター・カノン:ATK2200 forEX
『ヌオォォォォォォォォ!!』
甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター:ATK2500 forEX
まずはペンデュラム召喚でエクストラデッキに送られた3体のペンデュラムを呼び出す。
「ペンデュラムって除外だのバウンスだのしないと戻ってきてしまうのが厄介なんだよね。
で、ここからどうするのかな?」
ロブスター・ランスには発動できる効果があるのだけど、今は使わないでおく。
さてと、問題はここからだ。
「ここからが本番だ…オレは魔法カード『電光融合』を…」
――ドクッ!
「ぐあっ…!」
くっ…やっぱりこれを使おうとすると頭の中に何かが入り込んでいく感じがする…!
そしてオレの中に入り込もうとする何かの意志が『目の前にいるエクシーズ使いをぶっ潰せ』と…!
成程…そうやってオレが何かへの怒りや憎しみによって支配される事でオレを暴走させたって訳か…!
暗国寺の時やあのスーツの野郎の時のように…!
だが、オレの精神はあの時程軟じゃねぇ!
そう何度もてめぇの思い通りになると思うなよ!!
「融合…?」
「発動ッ!!…はぁ、はぁ……よし!
この効果でオレは手札・フィールドのモンスターを素材に雷族の融合モンスターの融合召喚を行う!」
どうにか気合でそのオレの中に秘めた何かを抑えこみ、心を平静に保つことができた…!
後は、ネプテューヌ…あなたが遺した力を貸りるわよ!
「雷族だって…まさか!?」
「そのまさかよ…オレはフィールドのロブスター・ランスとロブスター・カノンを融合!
荒海の騎士よ!重厚な砲撃手よ!電光と一つとなりて、立ちはだかる敵に抗う牙とならん!
融合召喚!括目せよ、混沌を断ち切る紫電の一閃!レベル7『
『グオォォォォォォォォッ!!』
GHカオス・リベリオン・F・シデン:ATK2500
「それは…あいつのエースモンスター!?
あはははは…まさか、ブランがそいつを使ってくるなんて予想外にも程があるじゃん。」
「文句ならこのドラゴンを落としていったネプテューヌに言ってよね。」
「文句なんてないよ…ただ、忌々しいあの融合モンスターをこの手で叩き潰せる機会が来たと思うと嬉しくてね!」
里久は狂気じみた表情でこのモンスターと対面できた事に歓喜しているようね。
それでも、オレはネプテューヌが遺したこのドラゴン(雷族だけど)を活かすのみよ。
「電光融合には表側表示の魔法・罠カードを破壊できる追加効果があるけど使わないでおくわ。」
「ま、クラフトイ工作キットには墓地へ行った場合に『クラフトイ』をサーチできる効果があるからね。」
それでクレインとかを手札に加えられると厄介極まりないものね。
「わけのわからないような無茶苦茶な理想から目を覚まして!
そして、あの時のような心からの笑顔を思い出させてあげる。
カオス・リベリオンのモンスター効果を発動!
1ターンに1度、相手モンスター全ての攻撃力を半分にする!『プラズマ・エクスブレイド』!!」
「もう止まれないし、それを成す事でしか僕は笑顔になれない!
相手がモンスター効果が発動した時、デス・バハムートの更なるモンスター効果を発動!
相手ターンに1度、自分の『クラフトイ』モンスター1体を破壊し、その発動を無効にする!
この効果でマッド・ドッグを破壊し、カオス・リベリオンの効果の発動は無効にさせてもらうよ!『ダークペーパー・ヴェール』!!」
「カオス・リベリオンの効果が…!」
カオス・リベリオンその物の効果は通らずか…!
どうやら、彼らの『世界をあるべき姿に正す』野望を成そうとする意志は確かなようね。
どういう事かまではさっぱりだけど。
「さて、どうするの?
このまま君を倒して、僕は命ずるがままに世界をあるべき姿に戻すんだ!」
「目的に忠実なのはいいけど、そのために多くに人を悲しませている上に自分も傷つけてばかりじゃない。
やっている事は破壊活動だし、そんな事では自分さえも救えない!そこに本当の笑顔はないはずよ!」
「…だったら、僕を笑顔にしてみなよ!
確かに見ての通り僕はボロボロだし、そろそろ決着を付けようか。
破壊されたマッド・ドッグの効果で僕は墓地の『クラフトイ・プードル』を手札に戻す!」
だけど、そのために何も知らないままこの世界や融合次元を滅茶苦茶にされようものなら看破できるわけがない。
それにボロボロになっているあなたの姿を見て放っておけるものか。
だったら、彼らが抱いているその幻想を真正面から打ち砕く!
「まだ何かあるというのなら…やってみなよ!」
「いいわ、やってやろうじゃない。」
そのためにも、ここはいつの間にか入っていたあいつを呼び出す!
オレの中にいるのかどうかわからないけど、元々の持ち主のネプテューヌを信じる。
デュエルを通じて笑顔にするために。
「デュエルを通じてあなたの笑顔を取り戻して見せるわ!
オレは『融解の魔術師』のペンデュラム効果を発動!
自分フィールドに融合モンスターが存在する場合、1ターンに1度だけフィールドのモンスターを素材に融合召喚を行う事ができる!」
「何っ、ペンデュラム効果を使用しての更なる融合召喚を!?」
「この効果でオレのフィールドのオッドシェル
二色の殻持つ者よ!反逆の電光と一つとなりて、黒き侵略者たちを殲滅せよ!」
――ビリビリバリシャァァ!!
「エース格の2体を融合させるだって…!?」
「融合召喚!いでよ、レベル8!怒りの電光纏いし『覇王雷竜オッドシェル・リベリオン・ロブスター』!!」
『オォォォォォォォォォォォォォォ!!』
覇王雷竜オッドシェル・リベリオン・ロブスター:ATK3000
正気の状態では初めて召喚したけど、逆にこっちが押しつぶされそうな威圧感を感じる…!
だけど、いくら凄まじい力でもこれ以上振り回されるわけには行かない。
この身を丈に合わない強大な力を気合で制御してやろうじゃない!
「ぐっ…ここでオッドシェル・リベリオン・ロブスターのモンスター効果を発動!
このカードが融合モンスターを素材に融合召喚に成功した時、相手フィールドのランク7以下のエクシーズモンスターを全て破壊し除外する!
ランク8のデス・バハムートは無理だけど、それ以外はこれで退場願うわ!『レボルト・ディスチャージ』!!」
――バリバリバガァァァァ!!
「やってくれるね!だけど、デス・バハムートは健在。
他のクラフトイエクシーズは消し飛ばされちゃったけど、モンスターとの戦闘時には攻撃力3200となるのを忘れてないよね?」
「それはどうかしら?あなたのモンスターをよく見て。」
「へ…?んなっ!?」
クラフトイ・デス・バハムート:ATK2800(効果無効)
このオッドシェル・リベリオンはネプテューヌのエクシーズ次元への強い対抗心がオレのオッドシェルに宿ったモンスターだ。
それだけに、エクシーズモンスターに対しては非常に強いのよ。
「オッドシェル・リベリオンがモンスターゾーンに存在する限り、フィールドのランク4以上のエクシーズモンスターの効果は無効化される。
そして、最初の効果の続きでオッドシェル・リベリオンはこのターン2回攻撃が可能となる!」
「そういう事か…それに、よくみたらそれペンデュラムモンスターでもあるんだね!」
実はこのモンスター…融合とペンデュラムが兼ね備わった変なモンスターでもある。
レベル8だからペンデュラム召喚できる機会は滅多にないけど、ペンデュラムゾーンへ行く効果も備わっていたりする。
「あはは…面白い、実に面白いよブラン!
ペンデュラムの融合モンスターなんて呼び出しちゃうなんて!
常に新たな発見があるものだから、ブランのデュエルはいつもわくわくする!
今のようにエンタメデュエルじゃなくてもね!!」
「そう言ってくれてありがとう…すごく嬉しい。
そう、デュエルは戦いの道具じゃなくてわくわくしたりで楽しむものなんだ!
だから、こんな傷つけあうにはこれで終わりにしよう…今のように笑顔のままでね。」
「いずれにしても、血沸き肉躍る今が決着のつけどころだね!」
もっとも、里久もここで決着を付けようとしているみたい。
笑顔を思い出させられた以上はオレも同意よ。
ここで勃発する最強(?)の切り札決戦!(半ギレ)
「勝負だ!バトル!オッドシェル・リベリオン・ロブスターでクラフトイ・デス・バハムートに攻撃!『雷光のクリティカル・シュラーク』!!」
「迎え撃て、バハムート!『バハムディア・デスラッシュ』!!」
攻撃力の差はわずか200…勝負の行方はあの天井の突き出た所にあるアクションカードと言っても過言じゃないはず。
生憎、オレの手札の最後の1枚は壁だからね。
「であぁぁぁぁぁぁ!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
お互いに狙いのアクションカードは同じ!
ジャンプ力は互角…いつの間にやら里久の本気に張り合えるようになっていたのに自分でも驚いているけど。
このデュエル、意志が強い方が制する!負けられないんだ!!
――パスッ…タッ!
「……」
「……」
そして、アクションカードをつかみ取ったのは…オレだ。
里久が取れなかったのは自分の心に迷いが生じたのか、あるいは肉体のダメージが大きかったのか。
もっとも、アクションカードを取ったからと言っても必ずしも勝利を手にできるとは限らない。
アクショントラップが紛れ込んでいる可能性もありえるが、手にしたアクションカードの正体は…!
――バキィィィィィィィ!!
『グオォォォ…』
「ぐはっ…!」
里久:LP1800→1600
ここで手にしたアクションカードはアクションマジック『奇跡』だ。
アクションマジックな以上、純粋に攻撃力で勝るオッドシェル・リベリオンがデス・バハムートを撃破!
「成程、何も発動しなかったという事は少なくともアクショントラップじゃなかったようだね。
そして、僕のデス・バハムートを撃破したわけだ。
それから、そのオッドシェル・リベリオンには2回攻撃ができるんだったよね?」
「そうよ、このターン限りだけれどね。」
「そっか、またしても僕の負けか…しかも全力の僕にね。
悔しいけどブラン相手なら『ま、いいか』とさえ思える。
ま、そんなわけでブランのありったけを僕にぶつけに来なよ!」
潔いのはとても好感が持てるわね。
だけど、1つ忘れているわ…このモンスターはオレ一人の力ではなくネプテューヌの想いも込められているんだ。
そして、1つ確認しておく。
「手負いの身だろうと加減はしないわ!いいわね?」
「当然だよ、そうこなくちゃ!」
「それなら…これで決めるよ。
オッドシェル・リベリオン・ロブスターでダイレクトアタック!『連撃のクリティカル・シュラーク』!!」
『ウオォォォォォォォォォ!!』
――バリバリバリバリィ!!
「ふっ…」
『ブー!』
「「なっ!?」」
――パラパラパラパラ…
そう思っていた内にアクションフィールドが崩壊していった。
そして、真夜中の舞網市に戻っていき、デュエルが強制終了させられた。
これは一体どういう事…?
『只今、夜9時…バトルロイヤル終了時刻です!』
「うわぁ、ここで強制終了って…空気呼んでよ。」
「そういえばバトルロイヤルの終了が差し迫っていた事をすっかり忘れてたわ…」
強制終了したその原因はバトルロイヤル終了時刻になった事だった。
それによる舞網市に張り巡らせたアクションフィールドを解除された事の影響でデュエルが中断されたわけね。
でも、正直空気呼んで欲しかったところよ。
なにもこの真剣勝負まで中断する事ないじゃない。
折角いい感じで決められられそうだったのに、台無しもいい所よ。
「ブラン、里久!」
「ゴンちゃん!?」
「権現坂…!?それに……生きていたのね、ネプテューヌ!」
「んもう、勝手に殺さないでほしいな!」
どうやらこのデュエルを近くから見ていたと思われるデュエリストたちがぞろぞろと。
ネプテューヌ、勝手に殺した扱いにしちゃってごめん。
この場に見えるのは権現坂、ネプテューヌ、ファントム、紫吹、デニス、ニンジャ2人に柚子に似た容姿の金髪の女。
それと、気を失っているようだけどロム、そして犬使いの仮面の不審者が担がれていた。
どうやら、この不審者含む仮面の軍勢は退けられたみたいね。
それにしてもあのロムが気を失うほどだなんて、とんでもない事が起こっていそうね。
「電光融合を発動させた辺りで様子がおかしくなったのを見て『あの馬鹿…』と思ったけど…」
「自力で内に眠る衝動を抑えこむ姿を見て、心配が杞憂で安心したぞブラン!」
「正直、意識をもってかれそうだったけど…何とか自力で衝動を抑え込めたわ。」
――ピコン、ピコン
「なぁ…」
でも、ネプテューヌがここにいる以上はオレの中にはいるはずがない。
だったら…まさか、カオス・リベリオン自身の意志がオレを?
「カオス・リベリオン…何処行ったんだろうと思ってたけど、彼の言う通りブランがもっていたんだね。」
「会えたら直接返そうと思って持っていたのに勝手に使ってしまったわ、ごめんなさい。」
「いいって、いいって!悪い奴じゃなくてブランが持っていてくれてよかった。
あ、返すのは別に今じゃなくていいけどね。」
それにしても、ネプテューヌ…前会った時と雰囲気違くない?
本質的な所は一緒だろうけど、この前は少し刺々しかったりしたし。
頭のネジが外れていないか心配ね。
それとも、彼女もまたカオス・リベリオンの影響を受けてああなっていたのかしら?
その他、音信不通気味だった権現坂が現れてはアクションカードを使った事といい気になる事は沢山ある。
いやいやいや…それより気になる事がある。
「ねぇ…柚子は何処なの?」
「ごめん、捜したけど見つからなかったよ。」
「え…?」
そんな…見つからなかった?柚子が?
それじゃ…まさか?
「な、なんだって…?しまった!?
っ、弟子の危機に何をやっているんだ僕は…!」
――ピシュンッ!
「里久、待って!?…そんな……」
「逃げ帰ったか、エクシーズ次元に…!」
「そうかもしれんが、あの表情…何かあるだろう。」
そして、柚子がいなくなったと知ってか里久が姿を消した…?
いや、困惑していた表情からして柚子の身が心配になったのか?
いずれにしても、確かなのはここに柚子がいない…柚子がいない!?
な、何なのよこれ…こんなのあんまりだよ……。
「柚子がいない柚子がいない柚子がいない柚子がいない柚子がいない柚子がいない柚子がいない」
「拙い、彼女は柚子に好意をもっていたんだった!(ピー音)的な意味で!
この場にいない事でショックで取り乱してるぞ!?」
「ファントム殿、今何を口走った!?貴殿こそ落ち着け!」
「はっ!?俺が取り乱してどうする!?
兎に角、まだカード化されたとは限らない!希望を捨てるな、な!」
確かに希望はあるかもしれない…だけど、この場にはいない。
もし別の次元に渡っていたとしたら、今のオレたちにはどうしようも…!
――タッ、タッ!
「やれやれ…ようやくモア様を見つけたと思っていたら、こんな大勢に囲まれていましたか。」
「ねね…?」
「「「「「!?」」」」」
「貴様は…」
「『
そう思っていた矢先にこの場にいる全員に緊張が走る。
この場に沢渡とデュエルしていたはずのねねこと『ステラ・スターク』が姿を現したのだ。
どういう経緯か、行方が分からなくなった後、エクシーズ召喚を引っさげ完全に敵に回ってしまったみたい。
そして、彼女に大して紫吹とネプテューヌからは強い憎しみの感情が伝わってくる…!
「本当に復活してたなんて勘弁してよ…また立ちふさがるというなら、今度こそやっつけてやる!
ネプギアの仇!チェストォォォォォォォ!!」
「おい、待て!」
「速攻魔法『星海の相殺波』!!」
――バッキャァァァァ!!
「あうっ!?っ…!」
「「「ネプテューヌ!?」殿!?」!?」
「無茶しやがって…!」
ネプテューヌが木刀片手に突っ込んで、ねねの速攻魔法で返り討ちにされた!?
デュエルを介さずカードの力を実体化して使うなんて…オレの知っているねねとやっぱり違う。
それにしても、色々起こりすぎてて何が何だかわけがわからない。
だけど、この場に現れたって事は…まさか!?
「さ、沢渡はどうしたの…!?」
「沢渡さんですが…申し訳ありませんが百聞は一見に如かずです。」
――チラッ…
「既に手にかけられてしまったか…」
「俺たちを逃がすために…!」
「嘘、でしょ……?」
今、オレたちに明かされる衝撃の真実。
彼女がオレたちに見せてきた1枚のカード…そこには沢渡が描かれていた。
つまり、沢渡は彼女の手にかかりカード化された…という事らしい。
あはははは…なんだよ、これ?
「な…?なんでなのよ、ねね…!
なんだかんだ沢渡の取り巻きとしてがんばってきたあなたがどうしてこんな事を!」
「少し前会った時も言いましたが、わたしはステラです。
それが敗者の末路だからです…我々にとってデュエルは戦いであってお遊戯ではないのです。
素直に立ち去るように勧告したのにも関わらず、わたしを命を懸けてデュエルで止めようとした沢渡さんがいけません。
正直心苦しかった…それでも、わたしにはここで培った絆より大切な使命があるのです。
ブラン、親友だったあなたも我々の前に立ちはだかるというのなら容赦はしません!」
「っ…何もそこまで!」
「理解に苦しむのも無理はないでしょう…ですが、これも迷いを断ち切るため。
綺麗事で済ませられる程…戦いは甘くはないのですよ。
迷いや少しばかりの心の隙が実戦では命取りになるのですから。」
「だから、迷いの種となる沢渡をカードに封印したの?」
「そういうことになります。」
邪魔をすれば容赦をしないというばかりにオレに対しても敵意をむけるねねことステラ。
その裏では辛そうな表情をしているという事は実際には躊躇はしていたのかもしれない。
でも、それを押し通してやったという事はシビアかつ強い使命感…そして敵意を持っている事は確か。
下手をすればここにいる全員を倒そうとする可能性があるわけか…!
「だが、オレを捕えに来たとしても…ところでこのプレスレットがさっきから点滅してて鬱陶しいんだが?」
「俺たちはそう簡単にやられはしないぞ…!」
「それでも、やるというのなら今ここでやってもいいんだけどね!」
弾き飛ばされたネプテューヌが復活した。
そして、いくら幹部格と言ってもファントムやネプテューヌたちを同時に相手にするほど…。
「ここは大人しく退かせていただきましょう。
実際のところ沢渡さんに追い詰められましたので…もう一息惜しかったですが、彼が勝ってもおかしくなかったです。」
愚かではなくて当然ね。
それと負けてカードに封印されたとはいえ、沢渡は彼女を追い詰めたみたいだった。
あいつはオレとのデュエルの時も華麗なコンボとプレイングを駆使してオレを追い詰めたもの。
そして暗国寺の手下からアユちゃんを救出しようとした時は抱かれてもいいとも思った。
紙一重の差で負けたとはいえ、彼女を追い詰めたというのも納得だ。
「ふーん、稲妻の如き鋭さも鋼の如き精神も感じられなかったあいつにね…で、逃げるんだ?」
「ふっ、あの沢渡程度の奴に苦戦しているようでは『
「融合の残党如きの分際で沢渡さんを侮辱するな!!」
「「!?」」
でも、その沢渡は融合組の2人には散々な言われようだった。
流石にねねは珍しく涙ぐんだ表情で強い怒りを見せた…とはいえ、これに関してはオレも同じ意見だ。
「ネプテューヌ、紫吹…今の沢渡を小馬鹿にしたような無神経にも程があるだろ!
特に紫吹、あんたはその沢渡が駆けつけてくれなきゃカードに封印されてたかもしれないんだぞ?」
「ブラン、あんな奴の肩を持つの?」
「ぐっ…!」
「失礼…ですが、沢渡さんは身の危険を承知でわたしに挑み最後まで追い詰めました。
そして、覚悟を決めた様子で末路を受け入れた様子で賞賛に値するものでした…!
今は恩を仇で返す事となってしまったとはいえ、彼は記憶を失い途方にくれていたわたしを引っ張ってくれました。」
やっぱり、彼女は沢渡に大して恩義や敬意を忘れてはいない。
涙ぐんでいる事からも彼女にとっても非情に辛い決断を下したのは間違いないはず。
一方で、あの2人は沢渡の存在を軽く見過ぎなんだ。
彼女が2人を軽蔑するのも無理はないのかもしれない。
「それに紫吹雲雀…ブランの言う通りあなたは彼がいなければこの場にいる事さえ叶わなかったですよ?
わたしを馬鹿にするのは結構です…でも、沢渡さんをわたしへの口撃に使う権利はあなたたちにはない!」
「いや、こいつに関してはオレの方が功労者だろ?で、これいつになったら…」
「煩い…そうかもしれませんが、わたしから狙われている身である事をお忘れなく。」
「ちっ。」
しかし、柚子に似た金髪少女はかなり口が悪いんじゃないだろうか?
顔つきは似ているけれど、柚子であるはずがない。
「今回見逃す理由としては、まず1つ…沢渡さんに敬意を表しての事。
隠れているつもりでしょうがそこにいますよね?赤馬零児。」
「勘違いするな、タイミングを見計らっていただけだ。
そして、君たちのデュエルをしかと見せてもらった。
もっとも、正規の参加者ではない者も多数紛れ込んでしまったようだがな。」
「「「「「「!?」」」」」」
「赤馬…零児……!」
そして、このタイミングで現れたのはLDS社長にして鬼畜眼鏡こと赤馬零児だった。
「恐らくはモアを奪還しようと動いた我々を撃退しようとこのバトルロイヤルの場を利用したのですよね?」
「察しがいいな、光焔ねね…いや、今はステラ・スタークか。」
「んなっ…!?」
「やはりか…」
「ちっ。」
なっ…このバトルロイヤルは最初から侵略者らの侵入を想定していたというのかよ…!?
最初からオレたちに相手させるつもりで…その上オレたちに、何も知らせないまま!!
「ロムからそうなるだろう事は聞いていたが、本当に俺たちに迎撃させるとは性格が悪い…!」
「本来ならば、ユースチームで片付けるつもりだったが…結果はお察しの通りほぼ全滅。
もっともこのような結果になる事もある程度は想定していたがな。」
「もはや隠しても仕方がない。
奴らハートランドやアヴニールの連中を相手にし、俺たち残された者で立ち向かえるかどうかを試されていた。」
一方で紫吹は事情を全て知っており、ファントムたちもある程度は予想できたって訳か…!
「このバトルロイヤルは異世界勢力と戦うための『ランサーズ』とかいう精鋭部隊の選抜試験を兼ねていたわけだ。」
「試験…だと?」
なんだよそれ…?
当日になってバトルロイヤル形式になった事に不審に感じてたけど、そんな事のためだったってのかよ?
「最初からエクシーズ次元の奴らや変な化物が出るとわかってバトルロイヤルにしたっていうのかよ?
答えろ、赤馬零児!」
「醜悪な化物までは想定外だが、ハートランドやアヴニールの奴らが来ることは事前に分かっていた。
それを逆手に取り、3回戦をトーナメントから街中でのバトルロイヤルに変更し…」
「少し待っていただけますか?化物って一体…?」
「ああ、実は途中で牛のような巨大な化物が出てきたんだ…。
何故か融合召喚を使ってたけど、今はそこで気を失っているロムちゃんが軽く撃退したんだけどね。」
化物が出現した事を思い出したけど、ロムが撃退してくれたようね。
でも、前に着ぐるみとして出てきた時はエクシーズ召喚を使っていたのに今度は融合召喚?
そして、敵となったはずのステラが真剣な面持ちで聞いているのはどういう事?
妙に意味深な感じがするわ。
「そうですか…この手で始末できなかったようですが、被害は特になかったようですね。
では、最後に赤馬社長にはこれを渡しておきましょう。」
――ぱすっ!
「これは…やはり沢渡をこのバトルロイヤルに乱入させたのは失敗だったようだな。」
「そうでもありません…彼は幹部格のわたしを倒す直前まで追い詰めました。
あなたにはいずれ彼らをカードから解放する方法を見出して頂ければと。」
このやり取りからこのクソメガネが沢渡をこのバトルロイヤルに乱入させたって事がわかった。
だけど、結果として沢渡はカードに封印させられてしまったわけだ。
「では、今回は任務失敗という事で帰還させていただきますが…最後に1つ皆様に忠告を。
本当に戦うべき敵は各々が気が付いていない所に潜んでいるという事を…では。」
「待て!」
「どういう事だ!まるで意味が分からんぞ?」
「逃がさないよ!」
――ピシュンッ!!
「ちっ、逃げられたか。」
「次会った時は承知しないからね!」
そして、意味深な忠告を言い残して消え去ってしまった。
本当の敵とは一体?あの化物と何か関係が?
「話を戻そう…君達の力で撃退しようと考えたのだ。」
「どうして、たかがジュニアユースのオレ達を?」
「ユースチームも投入したが1人を残して全滅、残った一人も怯えて逃げ帰る醜態を晒してな。」
ユースですらほぼ全滅だと…?
じゃあ、トップチームはどうなんだ?
「トップチームを投入したところで大して戦況はよくはならなかっただろう。
だが、君たちはいわばペンデュラム世代…新しい戦術に適応できている分、より見込みが高いと考えた。
秘密兵器として投入した沢渡も格上のハンターを相手に大健闘はした。
そして、君達はエクシーズの者達の撃退に成功した。
まさに彼らに対抗するデュエル戦士『ランサーズ』の名にふさわしい力を示す事が出来たわけだ。」
「ふざけんな!」
「おい、ブラン…?」
そんな事のためにここに帰っていない人たちは…行方知らずとなったんだ…!
「なにがランサーズよ…多くの犠牲を出しておいて!
オレ達は何も知らないままどんな危険な目に遭うかわからない戦場に放り出されて…!
そんな事のために山越シェフ達や他のここにいない皆もカードに封印されて…!
大好きな柚子も…ううっ……!」
「ブラン…」
そして、柚子が…柚子が……うわぁぁぁぁぁ!!
続く