Side:ファントム


密林地帯で安静にさせていたブランお嬢ちゃんがようやく目覚めたようだ。


ここは、密林地帯…?それにあなたたちは誰?」

「覚えていないか…」

「まぁ、俺達は…」

「初対面だから知らなくても仕方ないね。」


網代と山越の二人は兎も角、君を乱入してまで止めた俺の事も覚えていないようだね。
ここからも、少なくとも古代遺跡地帯で正気を無くしていた事は覚えていないだろう事がわかる。
それにあの変身も慣れていないだろうし、当然か。


「俺は虫取り教室の網代幹也や。」

「僕は霧隠れ料理教室からの山越敦也、腹ごしらえをする時は僕にお任せを。」

「その時は頼むわ…オレは遊勝塾のユーヤ・B・榊よ。
 それで、あなたはルウィー教会出身のファントムだったわよね?」

「まぁ一応、そう名乗らせてもらっている。」


そして、自己紹介はしておく…どうやら、普通に対話できているようで何よりだ。
しかしながら、女口調で一人称「オレ」はおかしくないか?
暴走して口調が荒くなっていた時の一人称が「わたし」だからより一層違和感があるんだよな。


「っと、そうだ……オレ、古代遺跡にいたはずだけど、ある時から記憶が途絶えてて…」

「その時、何が起きたんや…?」

「正規の参加者じゃないハンターとかいう連中が古代遺跡に現れ、破壊活動をしていた。
 しかも、彼らはナイト・オブ・デュエルズの二人を…デュエルで倒してカード化してたところまでは覚えているわ。」

「デュエルで人をカード化!?」

「どういう…事や?」



あのボロ雑巾にされた眼鏡の関係者だろうな…成程、人をカード化するような奴と遭遇したわけか。
それにブランは覚醒したてかつカオス・リベリオンの現在の所持者ゆえ精神面で不安定だ…暴走するのも無理はない。



「成程、それが切欠でタガが外れて正気を無くしたわけか…」

「ごめんなさい、正直よく覚えていないわ。
 でも、どうしてあなたがそんな事わかるのかしら?」

「少々事情があってね、そうそう二人きりで大事な話がある。
 敦也、幹也…悪いけど、彼女と二人きりで込み入った話をしたいから席を外してくれないか?」

「「お、おう…」」


ここからは少し込み入った彼女の取ってはキツイお話となる。
彼女には辛い思いをさせる事になるけど、いずれ知ってもらわないと困る話だ。
起きたばかりで辛いとは思うけど、ここは心を鬼にして彼女に現実を突きつける。
そして、彼女が思い描いた幻想をここで否定する…俺の正体を明かしてな。










超次元ゲイム ARC-V 第48話
『明かされる正体』










Side:ブラン


「ここなら周りに誰もいないな…よし。」


ファントムに連れられて周りに誰もいない所へ向かった。
オレに大事な話って、一体何なのかしら?


「ブラン…今からお前にする話は突拍子の無いものに思うかもしれない。
 だけど、全て本当の事だ…覚悟して聞いてもらいたい。」

「…!?」


そこまで言うという事はとんでもない話なんだろうか…そう思うと思わず体が強張ってしまう。


「まずは先ほどの質問に答えよう。
 どうして正気を無くしていた事を知っていたのかと。
 知っているも何も、暴走したお前を止めたのが俺だからだ…お前は覚えていないみたいだがな。」

「暴走した、オレを…?」


暴走したって…まさか、暗国寺戦のように?


「言っておくが、暗国寺戦の時のような生ぬるいものじゃない。
 その時は中途半端な覚醒だったが、あの時のお前は女神に覚醒し、目の前の相手に殺意をもってねじ伏せようとしていた。」

「ちょっと待って!オレが女神とか覚醒とかまるで意味が…!?


それさえも生ぬるい事ってそんな馬鹿な事が…いや、待てよ。
確か、あの夜公園でベールというオレと酷似した顔のシンクロ使いが女神とか言っていたような…?
それに、あいつとネプテューヌはどこかの変身ヒロインのような神々しい姿に変身していた。
そしてさっきオレも無意識に変身し、人を平気でカード化するような連中相手とはいえ力づくで叩き潰そうとした…?
なんだよこれ…自分でも訳が分からない内にそんな事をしてしまったというのか…!?
ナイト2人とのデュエルから、様々な事が起きてエンタメなんて考えなかった報いなのか…?


「何か思い当たる節があるようだな。」

「嘘だろ…それじゃ、オレは…!?」

「ブラン…お前の正体は薄々気付いているだろうがこの次元の女神だ。」

「オレが…女神!?


そして、今明かされる衝撃の真実…オレの正体はスタンダードの女神だった!?
伏線はあるにはあったけど、起きて早々こんな事言われても困る。
だけど、父さんや母さんがオレの本当の親なのかわからなくなったのも事実。
それに…ペンデュラムの発現を切欠に、最近はおかしな事ばかり起こっている。
だから、そういう展開があっても不思議じゃない事はわかる。

もっとも、理解はできても受け入れられるかどうかは別の話だ…!


「ふざけるな!仮に女神ならそれ相応の生活を送るはずじゃないのか!?
 なら、どうしてオレは舞網市で今まで平凡に育っていたんだ!?
 こっちは女神の『め』さえも知らなかったのに!」


女神というからにはそれこそルウィー教会のようなところで育つのが普通じゃないのか?
なのに、オレは物心ついていた時から舞網市に住んでいたんだ。
だけど、次の彼の言葉で…!


「それは、お前の持つ女神としての力があまりに不安定だったからだろう。
 女神であるということは、すなわち必然的に戦いの運命におかれてしまう…それ程に強大な存在なんだ。
 だが、不安定であるという事は悪意ある者に容易くやられるかもしれず、あるいは逆に全ての次元を滅ぼす脅威となるかもしれない。
 女神として育て送り出しても碌な事にならない可能性が高いと知って、お前をそんな運命を背負わされた女神の身分に置くと思うか?

「確かに普通に考えるとありえない…!?」


確かに親心を考えると女神としての不安定さを知った上で残酷な運命に送り出したりは普通したくない。
だけど、不安定というのが気になった…記憶が飛ぶのもその影響なの?


「そうだ、だからこそお前を普通の人間としてどこかで育てる事にした…重い宿命を背負わせないためにな。
 そして、お前を舞網市で生まれた人間として仕立て上げたんだ…一人の赤子から籍を一部変えた上で奪い取ってな。

「籍を奪って仕立て上げた…なんだよ、それ?」


つまり、どういうことだってばよ?意味が分からない。
わざわざ戸籍を赤子から奪ったという話からして荒唐無稽だ。
そもそも、どうしてお前がそんな内部の事情を知っているんだよ…?


「普通は意味わからないだろうね…だけど、その赤子とは誰の事だと思う?」

「誰って…まさか?」

「そのまさかだ…本来は名乗るわけにはいかないけど、俺の元々の名は榊遊矢
 そして、お前に全てを奪われ『ファントム』となった。」

「榊…遊矢だと…!?


それを疑問に思うと、よりとんでもない事を聞かされた。
彼の元々の名前は榊遊矢…?
本当なら、オレの名前であるユーヤ・B・榊からミドルネームのBを取って変形した名という事になる。
いや、正確には彼の名から変形してBを付けたという方が正しいみたい。
そして、その彼から結果的に全てを奪って今のオレがあるみたいだ。


「そう、お前は本当はユーヤ・B・榊ではない!
 事実上、俺から全てを奪ってその名となったに過ぎない!
 そして、全てを奪われた俺は『ファントム』となり、ロムたちと共に過酷な鍛錬の日々を送った。
 ロムは女神の代わりとして、俺はそれを支えるために強くなる必要があったからだ。
 お前を女神として覚醒させる事なく、この世界を守り抜くためにな。
 だが、皮肉にもお前は女神として覚醒してしまった…未熟かつ不安定なままな。
 だから俺自身を取り戻すため、お前に女神としての自覚を持ってもらうため…『ユーヤ・B・榊』としての偽りのお前を否定する!

今までのオレが偽り…そんな…!


そして、今までの彼曰く偽りのオレを否定しに来たらしい。
今までの日々やエンタメとかそういう夢も偽りだとすると…オレの今までの事は全て嘘偽りでできていたというの…?








――――――








Side:雲雀


黒龍院里久を叩き潰したところで目の前に現れたのは…!
2年前に俺が倒したはずの星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)ことステラ・スターク!
彼女に酷似した光焔ねねが姿を消えたと思っていたら、こんなところで姿を見せるとはな。
黒龍院には逃げられたが、貴様は奴以上に優先して始末すべき輩だ。


「俺達は貴様等が奪い去った妹の月子を取り戻すため、今まで必死に戦ってきた…!」

「いいえ、彼女には協力していただいているだけです。
 それにわたしもまたお世話になっておりますし、月子はあなたがいなくても元気でやっていますよ。」

「俺達の故郷を無茶苦茶にした貴様らの言葉など信用できるか!
 隊長格の貴様をここで倒し、必ず月子を奪い返す!
 そして、友のネプテューヌの妹達の仇もここで討つ!


そんな薄っぺらな言葉で俺を戸惑わせようとしても無駄だ!
それに、ネプテューヌの妹のネプギアをカードに封印した張本人を許さん。
今度こそ貴様に引導を渡してくれる!


「あの時は止むを得ない事情があったのですが、あなたがそれを知る必要はありません。
 本当ならあなたに付き合っている時間すらも惜しいのですが、シスコンを拗らせた融合の残党にこれ以上付きまとわれても面倒です。
 デュエルで決着を付けましょう、今度は負けません…行きます!」


「「デュエル!!」」


雲雀:LP4000
ステラ:LP4000


「先攻はいただきます…わたしは手札から『星海杖パラクダ』を捨て、魔法カード『星なる光石』を発動します。
 デッキから1枚ドローし、その後、デッキから同名カード1枚を手札に加えます。」

「星海…先ほどの相殺波といい、やはり俺の知っている貴様で間違いないようだな。」

「決して光焔ねねではなく、星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)としてのわたしですからその辺はご安心を。」


この口ぶりからしてもやはり『光焔ねね』=星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)で間違いなさそうだな。
忠告しておいたのにも関わらず放置しておくからこんな厄介な事になる…あの赤馬零児(クソメガネ)め。


「わたしは『星海杖ボニート』を召喚します。」
星海杖ボニート:ATK1100


「手札から魔法カード1枚『星の痕跡』を捨て、ボニートのモンスター効果を発動。
 この効果でデッキからボニート以外のレベル4以下の『星海』モンスター1体を守備表示で特殊召喚します。
 この効果により呼び出すのは『星海杖サーモン』!」
星海杖サーモン:DEF1100


奴の操る『星海』シリーズ…見るだけでも忌々しい。
そしてレベル4モンスター2体を並べたという事は、奴を召喚するに違いない。
だが魔力を持ったとはいえ魚介類など、俺のスカイ・レイダーズで駆逐してやる。


「ふん、早速レベル4のモンスターが2体か…俺達の多くを地獄へ葬った、いつもの奴のお出ましか?

「それはどうでしょう?あの時のわたしとは思わないでください。
 わたしはレベル4のボニートとサーモンでオーバーレイ!
 災禍の星に導かれし杖よ、紅に染まりし光で希望を焼き払え!エクシーズ召喚!現れろ、ランク4『災星海杖コンガーバレル』!!」

『シャァァァァァァァッ!!』
災星海杖コンガーバレル:ATK2300 ORU2



「何っ、モレイカノンじゃない…だと!?」


俺達融合使いの天敵にして、実質魔法カードを2枚まで強制的に無効にする効果のある『災星海杖モレイカノン』ではないのか!?
いずれにしてもマヌケ面の魚には変わりないが、そいつを差し置いてまで出したこいつは一体何なんだ?


「あの時は初見かつ、わたしにも相当油断と慢心がありました。
 ですが、あなたの手がある程度割れている以上はそうはいきません。
 サーモンを素材としてこのエクシーズ召喚に成功した時、デッキから『星海』魔法カード1枚を手札に加える事ができます。
 この効果でわたしが手札に加えるのは『星海の導き』です。」


エクシーズ召喚をしつつ、特定の魔法カードを手にするのも造作じゃないのも同じ。
だが、得体のしれないエクシーズといい…こいつ、今までと何か違う。


「わたしはカードを2枚伏せ、エンドフェイズに墓地から『星の痕跡』の効果を発動します。
 墓地の『星海』モンスター…パラクダを除外し、デッキから同名カードを手札に加えます。
 さらにパラクダが墓地から除外された事で、その効果によりデッキからレベル4以下の『星海』1体…『星海杖タチオ』を手札に加えターン終了です。」


伏せカードの内1枚は先ほど手札に加えていた『星海の導き』だろう。
自らのターンには使用できないが、手札の魔法を1枚捨てる事でデッキからあの『星海杖』が2体出てくる厄介な速攻魔法。
だが、何が来ようと融合召喚で叩き潰す!


「俺のターン、ドロー!俺は手札からS・R(スカイ・レイダーズ)−ワール・スパロウ』の効果を発動!
 このカードを含む、手札のモンスターを素材に『S・R(スカイ・レイダーズ)』の融合召喚を行う!」

「そう来ると思っていました…残念ですが、ただで融合召喚させるつもりは毛頭ございません!
 あなたが特殊召喚を含むカード効果を発動したこの瞬間、コンガーバレルの効果を発動!」

「っ…!」


ちっ、モンスター効果での融合を読まれていたか…!
だが、無効にされようと…!


「オーバーレイ・ユニットを2つ使い、手札の魔法カード1枚『星の痕跡』を墓地へ送る事で相手のエクストラデッキを確認し、カードを2枚まで選んで裏側表示で除外します!」
災星海杖コンガーバレル:ATK2300 ORU2→0


「馬鹿な…エクストラデッキから直接カードを除外するだと!?

「しかも裏側表示です…つまり、あなたの切り札との絆をここで焼き切るわけです。」


俺のエクストラを確認されるだけでなく、フィールドに出る事無く俺の融合モンスターが裏側表示で除外されるだと…!


「では、確認させていただきます。成程、そうですね…決めました。
 コンガーバレルよ、『S・R(スカイ・レイダーズ)−アベンジング・ラーク』と『S・R(スカイ・レイダーズ)−サプライ・ラーク』の2体を焼き払え!『シューティング・レーザー』ファイア!!


――ビィィィィ…ボォォォォォォ!!


「ぐあっ…!?」


ぐ、俺のエクストラへと奴の口からレーザーが放たれ、アベンジング・ラークとサプライ・ラークの2体が…!
裏側表示で除外されてはリベリオン・フュージョンで融合する事も不可能…!
まさか、これ程の屈辱を受ける事になるとは…!


「これであなたの生命線となる融合モンスター2体を裏側除外という形で消し去りました。」

「だが!貴様にその2体が葬られようとも、融合召喚そのものが封じられたわけではない!
 俺は手札からワール・スパロウとブロッケン・スパロウの2体をモンスター効果により融合!
 混ざり合え、彩雲と旋風!天より来たれ、反逆の翼!融合召喚!いでよ、強襲の風!レベル6S・R(スカイ・レイダーズ)−アサルト・ラーク』!!」

『キィィィィィッ!!』
S・R−アサルト・ラーク:ATK2000



俺にはまだこいつがいる。
特殊召喚されたモンスターとの戦闘時に攻撃力が800アップするため、コンガーバレル程度は処理できる。
俺のエクストラデッキにはこいつがあと2枚残っているため、除外しても大して俺に痛手を負わせられないと判断したのだろう。


「そうして、この融合モンスターが出てくるわけですね。」

「さらに、ここで俺は魔法カード『レイダーズ・ボンバード』を発動!
 俺のフィールドに『S・R(スカイ・レイダーズ)』の融合モンスターが存在する時にも発動でき、貴様の魔法・罠カードを全て破壊する!」

「まだ心は折れていないようですが、その瞬間に2枚の速攻魔法を発動します。
 まずは手札から魔法カード『星なる光石』を墓地へ送り、『星海の導き』を発動。
 それにチェーンし『星海の屈折光』をアサルト・ラークを対象に発動します。」


ちっ、やはり発動してくるか…もう片方もフリーチェーンか。


「まずは屈折光の効果でこのターン、アサルト・ラークの攻撃力を600ダウンさせます。」

「くっ…!」
S・R−アサルト・ラーク:ATK2000→1400


アサルト・ラークは戦闘中、自身以外のカード効果を受けない効果がある。
だが、その前に適用された速攻魔法などでの使い切りの攻守変動までは阻止できるわけではない所を突かれたか。


「そして導きの効果でデッキからカード名の異なる『星海杖』2体を攻撃と効果を無効にした上で特殊召喚します。
 この星海の導きにより『星海杖サーモン』『星海杖パラクダ』をデッキから特殊召喚!」
星海杖サーモン:DEF1100(効果無効&攻撃不可)
星海杖パラクダ:DEF800(効果無効&攻撃不可)



そうなると、今出てきた内の1体しか処理できない。
しかも、手札の1枚を腐らされたわけか。
だが、どんな逆境に落とされようと抗うのみ!








――――――








Side:柚子


「は?衣装を交換するだと?」

「こうすれば少しは追っ手の目をごまかせるんじゃないかなってね。
 あたしたちの顔ってどういうわけかとても酷似しているから、囮にはちょうどいいと思ったの。」

「貴様が身代わりにか…期待できるのか?


まぁ、舐められても仕方ないかもしれない。
でも、引き付けるだけならあたしにもできるはず。
とはいっても、ブランたちを悲しませないためにも無理をするつもりはないけど。


「がんばってみる。」

「そうか…よし。」

ストップ!


いやいやいやいや、普通いきなりそこで着替える!?
ちょっと、彼女の教育…どうなってるのよ!


「何故止める!?」

「いやいやいや、止めるわよ…あなたにも普通、恥じらいってものがあるでしょ。」


そういうわけでその辺の岩場に隠れて服を着替える。
月影は興味なしとばかりにそっぽを向いて目を瞑ってくれているから助かるわ…いろいろ複雑だけど。
でも、あたしの今の服…どういうわけかロムが来ていたものなのよね。
それで、元の服はさっきよりは乾いてるけど汚くなってるし…何もかもあの変態のせいよ!
と思っていたら…!


「おい、そっちをよこせ。」

「え、でも…それ汚い」

「それでも、そのコートよりはましだ!


うわぁ、酷い言われようね…ロムの服。
それでも…身代わりのためにあたしはモアの服を拝借と。


――着替え中よ、少し待ってね。


「ちっ、少し気持ち悪いな…まぁいい。」

「だから言ったのに…」


というわけで着替え終わったわ。
ついでの髪型も入れ替えてと…これで少しはごまかせるはずよ。


「それで、どこへ行けば会える?密林にはそれらしき奴はいなかったが?」

「先ほどの火山にはいなかったから…古代遺跡へ行けば会えると思うわ。」

「わかった…身代わりを引き受けてもらった以上、追っ手には気を付けろよ。

「ええ。」


その追っ手は恐らく火山地帯の方から来るはずよ。
ここにはあたしと月影がいる…何とか引き付けがんばってみるわ。








――――――








Side:ブラン


「ユーヤ・B・榊としてのオレは偽り…?」

「そうだ…お前が女神に覚醒した以上、そのユーヤ・B・榊としての偽りのお前は終わりだ。

「それって、今ここでユーヤ・B・榊…いや、榊遊矢の名前をここで返上しろって事?オレに何をさせたいの!?」


今までその名前で過ごしてきた事が否定されたような気がして、頭が真っ白だ…理解が追い付かない。
いきなりそんな事をここで言われても…オレにはどうしたらいいのかわからない。


「とりあえず、女神として世界を守れ…と言いたいところだが、今のお前には無理だな。
 まずは自分で何をやるべきなのかはっきり決めるんだ。
 自分の意思をはっきりしないままでは、何もできないぞ?話はそれからだ。」

「それは…」


父さん…もとい、榊遊勝のようなエンターテイナーになりたいと言いたいところだけど、はっきりと答えられなかった。
思えば遊勝塾の教育方針に従ったものに過ぎなかったからだ。
それに、ナイト2人を相手した時といい、エンタメを考えられなくなる事も多々あった。
周りで何か起こると、衝動的に動いてしまう悪癖がある。
思えば、エンタメるとか言っておきながら何か起こると何も楽しめてない事も多いじゃないか。
こんな気持ちで何がエンターテイナーだ…くそ!


「答えられないか…つまりは認めるんだな、今までのお前の全てが偽りであったと。

「っ…!?」


駄目だ、このままじゃ今までのオレの全てが嘘になってしまう!
オレは今まで何のために…いや、待てよ?


「確かに出自なんかは嘘偽りで固められていたかもしれない。
 正直、自分でも自分の正体がわからない事に不安を抱いていたから。

「認めるのか…」

「それでも!柚子たちと過ごしてきた絆や好敵手と戦って得られた経験は嘘じゃない!


柚子たちとの絆…柚子に関しては自分でも正直友情を超えていそうな感じはするけど!
そして、ねねや沢渡たち好敵手とぶつかりあったからこそオレは今ここにいる。
何より、石島戦で発生したペンデュラム…これに関しては少なくとも先駆者であるという自負がある。
最初はよくわかっていなかったけど、実戦を重ねて使いこなして発展させていったじゃないか。


「すこしはマシな顔になってきたが、聞いているのはそういう事じゃない。」

「そうね…聞かれている事は何をしたいのか、だから。」


あ、今のは自分が否定された事への反発だから。
そして、オレがやりたい事と言えば…今の自分で成す事ができるかはわからないけど!


「オレは女神とかエンタメとか抜きでただのブランとして、みんなを笑顔にしたい。
 でも、その前にまずは柚子をどこかの化物や不審者達の魔の手から守りたい!
 だって、オレ…柚子に惚れてるって自覚したから!


自分でも相当恥ずかしい事言ってるとは思ってる。
それに柚子はストロングだし、ハリセンとかで叩かれたり怒られたりとかするけど!
でも、くじけそうになったオレを権現坂達と共にいつも守ってくれたり優しく支えてくれた。
そういったところも含めて何と言ったらいいのかわからないけど、全部好きなんだって思った。
だから、今度はオレが柚子を守りたい…なんとしても。


お前は何馬鹿な事言っているんだ?
 
色々ツッコミたい事はあるけど、これは重症だな…やれやれ。」

「むぅ…恥ずかしいのも我慢してぶちまけたのに。」

「それは兎も角として、ブランという名前は偽物じゃない…よく気付けた。

「いや、だって…」


榊遊矢のどこにもブランという名前ないし、そもそもあなたはオレの事ブランって呼んでいたじゃない。
今までミドルネームとか愛称とか思っていたけど、ユーヤとか榊以上にしっくりきたのは本名だったからなのね。
そこは借り物の名前じゃなくて本当によかった!


「まぁ、兎に角…後で教会に来て、女神の力を使いこなしてもらう。
 お前が拒もうと宿命からは逃れられないし、これ以上暴走して世界の敵になられても困る。

「確かにオレとしても、これ以上わけのわからない力に振り回されたりして暴走したくないわ。」


色々と記憶なんかも飛んでしまうし、暴走は勘弁願いたい。
そのためにも自分の内に秘める力は自在に扱えるようにならないと駄目みたいね。
放置していたら、制御がきかないまま取り返しのつかない事になりかねないもの。
それに正体不明の敵を相手にするのに必要になってくるかもしれないわ…対人で力でねじ伏せるのはいけないと思う。
デュエルというのはコミュニケーションであると学んだのだから。

でも、例え爆弾を背負っていても今は…!


「だけど、このバトルロイヤルを荒らす輩がいる事に間違いはないわ。
 柚子を守るためにも、自分がいかに危険な状態だろうと行かなくちゃ…」


――ぐう…


「う…」

「無理するな…暴走してたのもあって腹減って力でないのも当然だ。
 それにそっちはロムや俺の仲間がいるから暫くは大丈夫だろう。
 それにいくら好きだからって、盲目的になりすぎたらまた暴走するのがオチだろう…まずは落ち着け。」

「でも…」


落ち着けと言われても、柚子がその人たちと一緒にいる保証はない。
柚子の事だからすぐにやられる事はないだろうけど、気が気でいられないのよ。


「気がかりなのはわかる…でも、今の状態のお前が行ったところで足を引っ張るだけだ。」

「確かに…」

「もう話終わりましたか?よかったら二人も僕の作った料理いかがです?」


確かに一理あるわね…逆に柚子を困らせたら本末転倒だ。


「だそうだが、まずは腹ごしらえをして頭を冷した方がいい。」


それに、腹が減っては戦はできないともいうからね。
ここはお言葉に甘えて、いただいていこうかしら?


「そうね…お言葉に甘えます。」


そういうわけで茂みから出てきた本業は料理人の山越シェフの料理を頂く事になったわ。
ここで英気を養って、助けに行くから待ってて…柚子!








――――――








No Side


モアが紫吹を探しに行った後の氷山地帯。
そこでルウィー教会所属の兄弟が何者かにやられ倒れ伏せたようだ。
どうやら、怪しげな恰好をした男と両脇にいる仮面の男の計3名かかりにやられてしまったようである。


「では、吐いていただくとしましょう…ユーヤ・B・榊の居場所をね!

「ふん、貴様等のようなむさくるしい奴にあのお方の事を吐くわけが無かろう。」

「例え、この命に代えようとね。」

「ならば、貴様等には地獄へ落ちてもらうとしよう…やれ。

「「はっ…」」

「ここまでのようだね、兄者。」

「そうだな、弟よ…雑にやられた気がするがな。」


――ピカァァァァ…!


そして、仮面の男2人の手にかかり、兄弟そろってカードに封印されてしまった。
とはいえ、彼らに対して情報を漏らさなかった点においてはファインプレーかもしれない。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



それから数分後、雪景色に紛れ込んだ4階建てほどの高さのビルの屋上にモアに敗れたはずのデニスの姿があった。


「モアと護衛していた月影とかいう忍者風情が去って行ったか。
 これで、あの場には柊柚子が残されたわけだね…しかも、やってきた怪しげな連中に狙われて可哀想に。」


どうやら彼は密かに柚子とモアの密談を聞いていたようだ。
そして、何やら柚子が残されているのを見て怪しげな表情を見せる。
ただし、彼女を取り囲もうと怪しげな人影が蠢いているのも気付いているようだが。


「ま、ロムって子がこの場にいなくて助かったけどね。
 あの子、デュエルの実力も高いし勘も鋭いようだ…僕の正体を感付いてそうだからね。」


この場にいないロムの事を危険視する辺り、彼もまた怪しげな事を企んでいるようだが。


「さて、後は…」


――ピカァァァァ…


「おっと、ちょうど来たね…」


そして、彼の目の前が光で照らされると、誰かの姿が現れたようだ。
それも、ブランに酷似した顔の黒髪の美少女の姿だった。


「待ちくたびれたよ、ノワール。

「はぁ…なんなのよもう!急に呼び出して…」

「リラックス…まぁ落ち着いてよ、君が探してるという柊柚子って子が見つかったからさ。


どうやら、デニスはそのノワールと知り合いのようである。
エクシーズ次元のノワールと繋がりがあるということは…ロムの疑念は当たっていたようだ。
急に呼び出した事への不満を漏らすノワールに対し、柊柚子を見つけた事の報告をし彼女を落ち着かせる。


「そう…まぁいいわ、その柊柚子って子はどこにいるのよ?

「ほら、あそこ…って早速アレに囲まれてる。」

はあっ!?あれって、Mr.ハートランドよね?なんであいつがここにいるのよ…!」


そして、屋上の囲いから柚子のいる所を2人で見渡すと彼女が3人の人物に囲まれているのが見えた。
2人は仮面を付けたハンターであるのだが、もう1人Mr.ハートランドと呼ばれた大柄な男の姿があった。
白いタキシード姿でシルクハットを被り、奇天烈な眼鏡をつけており賑やかな恰好のナイスミドルというべき怪人物だ。
エクシーズ次元のハートランドの名を冠するものの、ノワールらのげんなりした表情から察するに問題のある人物のようである。


「流石に僕にだってわからないものはあるよ…妙ちくりんな事企んでいるのだろうけど。」

あ〜も〜!あの男、ハートランドの名を冠している割に要注意人物じゃないの!
 このまま見ていたらあの子何をされるのかわからないし、早く助けに行って恩を売らないと…」

「いいけどさ…そもそも、彼女をハートタワーまで拉致するのが君の仕事じゃ…

それは言わないで!…似たような事を2回もしてきた自分が嫌になるから。」


そして当の彼女は囲まれている柚子を助けに行こうとしている辺り、意外と良識的ではあるらしい。
もっとも、当の彼女には柚子をエクシーズ次元へ連れていく目的があるのだが。
とはいえ、思う所があるのかデニスに言われると自己嫌悪してしまうようである。


「でもプロフェッサーに命じられた以上はやるしかないわ、そういうわけだから…」


――ドドドド…ザァァァァァ!!


「ウワァァァァァァァァァァ!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!どいてどいて〜!!」

「え、何…のわぁぁぁあぁぁあ!!?」


――どごぉぉぉぉぉ!!


「ぐえっ!?」


腹をくくって彼女が向かおうとした矢先、高所から滑り落ちたきた男女…ティンクとオルガの2人に衝突!
そして、2人が彼女を下敷きにした形となった。


「う…うぅぅ…」

「クッ、イッチってデニス!?

「あんたが足滑らせるからこうなるのよって、こんなところ何してるのよ!

「…やれやれ、君たちに言われたくないな。


2人はノワールを下敷きにしたまま、立ち上がると怪しげに立つデニスに質問する。
彼らにも言える事だが、ビルの屋上にいる事は怪しい事をしているようなものである。


「それに…」

「いつまで人の上に乗っかってるのよ、もう!!」

「へっ…?」

「おわっ!?」



と、ここで2人はようやく下敷きにされたノワールに気付き慌ててどいていく。
踏みつけられた本人は…流石に怒り心頭の様子である。


あ〜!急に呼び出されるわ、下敷きにされるわ、部外者に密談を見られるわでなんなのよもう!
 後、あなたたちは見てはならない所を見てしまったわ。
 このまま無事に帰れると…思わないで!

「ひっ…!」

「こいつ、なんて殺気だ!?だが…!」


何より、スパイであるデニスとの密談という部外者に見られてはならない所を二人に見られてしまったのだ。
ノワールとデニスにとってみれば、この2人をただで返すわけにはいかない。
穏便に任務を遂行したい2人にとって、周りにこの事を漏らされては非常に面倒な事になるのがわかっているからだ。
一方、殺気の気圧されつつも2人はデュエルディスクを構えて臨戦態勢に入る。

だがしかし…数分後、2人の断末魔が木霊するのであった。












 続く 






登場カード補足






災星海杖コンガーバレル
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/炎属性/魚族/攻2300/守1600
魚族レベル4モンスター×2
「災星海杖コンガーバレル」の効果はデュエル中1度しか使用できない。
(1):相手がモンスターを特殊召喚する効果を含む、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、このカードのX素材を2つ取り除き、手札の魔法カード1枚を墓地へ送って発動できる。
相手のエクストラデッキを確認し、その中からカードを2枚まで選んで裏側表示で除外する。



星海杖パラクダ
効果モンスター
星4/光属性/魚族/攻1200/守 800
「星海杖パラクダ」の(2)の効果はデュエル中1度しか使用できない。
(1):「星海杖パラクダ」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。
(2):自分が通常魔法カードを発動した時に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(3):このカードが墓地から除外された場合に発動できる。
デッキから「星海杖パラクダ」以外のレベル4以下の「星海」モンスター1体を手札に加える。



星海杖ボニート
効果モンスター
星4/光属性/魚族/攻1100/守1600
(1):1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を墓地へ送って発動できる。
デッキから「星海杖ボニート」以外のレベル4以下の「星海」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。



星海杖サーモン
効果モンスター
星4/光属性/魚族/攻1800/守1100
「星海杖サーモン」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):手札から魔法カード1枚を墓地へ送って発動できる。
デッキから「星海杖サーモン」以外のレベル4以下の「星海」モンスター1体を手札に加える。
(2):このカードをX召喚の素材とした魚族モンスターは以下の効果を得る。
●このX召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「星海」魔法カード1枚を手札に加える。



S・R(スカイ・レイダーズ)−アサルト・ラーク
融合・効果モンスター
星6/風属性/鳥獣族/攻2000/守 200
「S・R」モンスター×2
(1):このカードが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うダメージ計算時に発動する。
このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ800アップする。
(2):このカードは攻撃する場合、ダメージステップ終了時までこのカード以外のカードの効果を受けない。
(3):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、除外されている自分の「S・R」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを手札に加える。



星なる光石
通常魔法
「星なる光石」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):手札から「星海杖」モンスター1体を捨てて発動できる。
自分はデッキから1枚ドローする。
その後、デッキから「星なる光石」1枚を手札に加える事ができる。



星の痕跡
通常魔法
「星の痕跡」の(2)の効果は1ターンに2度まで使用できる。
(1):自分フィールドの「星海」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで200アップする。
(2):このカードが墓地に存在する場合、自分エンドフェイズに1度、自分の墓地の「星海」モンスター1体を除外して発動できる。
デッキ・墓地から「星の痕跡」1枚を選んで手札に加える。



星海の導き
速攻魔法
このカードは相手ターンでのみ発動できる。
(1):手札から魔法カード1枚を墓地へ送って発動できる。
デッキからカード名が異なる「星海杖」モンスター2体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、効果は無効化される。



星海の屈折光
速攻魔法
(1):相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
このターン、そのモンスターの攻撃力を600ダウンする。
(2):自分の墓地のこのカードと「星海」カード1枚を除外し、相手フィールドの表側表示の効果モンスター1体を対象として発動できる。
その効果をターン終了時まで無効にする。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できず、自分のターンにのみ発動できる。