Side:ブラン


「はぁ、はぁ…」


今日は暗国寺ゲンとの因縁の対決の日…なのだけど、オレはある場所へ向かって走っていた。
メールで発覚した事なのだけど、アユちゃんが何者かに誘拐されたのだ。
わざわざアユちゃんが移ってる写真を送ってきた以上、間違いない。
しかも警察とかに誰かに連絡すれば、アユちゃんの身の保証はできないという。
相手の要求はオレ一人で要求された場所へ向かう事…身代金目的の誘拐ではないらしい。
恐らく相手の狙いはオレを会場へ向かわせない事だろうな…!
そうなると、オレがやるべき事は急いでアユちゃんを救出し…会場へ走って到着する事だ。
けど、今だと…よくてぎりぎりだ。
かといって、オレがいかなければアユちゃんの身に何が起こるかわからない。

犯人は恐らく暗国寺の取り巻きあたりだろうな…!
恐らくは試合に失格になったところを中傷してやろうという魂胆だろう…アイツのやりそうな事だ!
どう考えても罠だけど、それ以上にアユちゃんが危ないのは確かなんだ…!

なんて事を考えながら走っていたら、目の前に人影が…!?


「うわぁぁっ!?」

んなっ…!


――ドガッ…!


「あうっ…!」

「痛てて……危ねぇな、一体誰だ…」


いたた…注意散漫で人にぶつかっちゃった…!
急いで目的地までいかなきゃならないのに、タイムロスが…!
ってこの声は…!


「って、沢渡さん!こいつユーヤ・B・榊っすよ!」

「ちょっと待て、何でお前がここに!?

「…なんだ、沢渡か。」

なんだとはなんだ!ったく、ぶつかっておいてよ…」


どうみても沢渡です、本当にありがとうございました。
他に取り巻きが3人いるけど…やっぱりねねの姿はない。
…って、今はそんな事を考えている場合じゃない…!


「ごめん沢渡…でも、こうしてる場合じゃ…」


――ガシッ…



「離して…」

「待てよ、試合会場なら反対向きだろ?


軽く詫びを入れてそのまま目的地まで急ごうとしたら、沢渡に腕を掴まれて制止させられる。


「これから試合があるはずなのに、どこへ行く気だ?」

「どこへ行こうと、沢渡達には関係…」

「ないだろうな。」


今日、オレの試合があるのを知っているようだけど…!
くっ、一刻の猶予もないのに…!


「だが、お前が試合をほっぽり出そうとするなんて普通じゃ有りえねぇ…話を聞かせろ。


沢渡に何かあった事を感づかれるとは…!
まいったな…周りを巻き込むのは嫌だったけど観念して話すしかないみたい。


「実は…オレの所属する遊勝塾にいるアユちゃんが何者かに誘拐された…!
 朝、家を出ようとしたら…脅迫メールが届いて…!」

「誘拐だぁ…?穏やかじゃねぇ話だな、おい。」


いや、お前らもオレとデュエルした時に人質とってただろ…少し前の話だけどさ。


「それで、脅迫文にはオレにある場所まで行けって…!
 アユちゃんの一大事に試合なんてしてる場合じゃ…」

「場所を教えろ…俺達が代わりに行くからお前は試合に向かえ。

「え…?でも、その場所にはオレ一人で行けって…」

「馬鹿か、お前は…そんなもん、オレがたまたま通りかかったって事にすれば大丈夫だろ。」

「それに今からでも、急いでいかねぇと試合に間に合わないよな?


なんと、沢渡たちがアユちゃんを助けに行こうとしてくれるらしい。
本音を言えば試合を控えている身としては非常に助かるけど…。


「でも、どうして沢渡たちが…?」

「勘違いするなよ、俺に公式試合で勝ったお前が不戦敗なんて事態になったら困るからな。
 だから、とりあえず場所を教えろ。」

「ごめんなさい、世話をかけるわ…場所は、ここ。」


場所を教えろと言われたので、オレはメールに添付された場所を沢渡たちに見せる。


「成程、だいたいわかったぜ。」

「…お願い、アユちゃんを助けて!」

「任せろ!だがオレに勝った以上、こんな所で絶対に負けんじゃねぇぞ!」

「うん…!」


沢渡にアユちゃんの救出を託し、オレは全速力で試合会場へ向かう。
拙いわね、全力で走らないと試合に間に合いそうにない…!
沢渡と取り巻き3人…後はあなたたちに任せたわよ。










超次元ゲイム ARC-V 第37話
『暴虐な蛮族』










Side:柚子


「ブラン、お姉ちゃん…まだ来ないのかな?」

「本来ならもう着いてなくてはおかしいのですが…」

「アユちゃんも来ていないみたいだし、心配ね。」


会場へ着いたのはいいのだけど…ブランとアユちゃんの姿が見当たらない。
特にブランはこの後試合が控えているというのに…何やってるのもう!
それに子供たち3人の中でアユちゃんだけがいないのはどういう事…?
両親に連絡したらアユちゃんは既に外出したみたいだけど…?
それにもかかわらず、ここに来ていないという事は…厄介ごとに巻き込まれたのかもしれないわ。

ブランの方も既に外出はしているみたいだけど…それならどうして来ていないの?
何やってるのよ、ブラン…!

ブランの試合は2戦目だけど、もう1戦目の試合が終わりそうなのよ。


「零海聖鳥シグナスでトドメです!『ノーザンクロス』!!」


――シュオォォォォォ!!


「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
刃:LP1500→0


『本日の第1戦の勝者はロム選手です!』

「「「「「「「ょぅι゛ょ……ょぅι゛ょ……!!」」」」」」」

「「「「「「「わぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」

「はぁ…なんですか、この歓声は…」


相手はLDSの刀堂刃って人なんだけど、権現坂を圧倒的な格差で破ったロムにはまるで手も足も出なかった。
LDSの選手相手でさえ、まるで寄せ付けない程の強さなんて…。


「なんてこった……俺達とはまるで格が違う…!

「残念ですが、この程度で気圧されて項垂れているようではまだまだです
 では、ボクはこの辺で失礼します。」

「ちく…しょう…!」


そうして、ロムは冷たい瞳で相手に一瞥してから退場した。


「あの弟とかいう変態といい、ルウィー教会の奴ら…強すぎる!

「ええ、わたしの眼がくすんでいるのかまるで勝てるヴィジョンが見えないわ…!」


あたしが明日試合する真澄って人も驚き慄いているみたい。
って、そんな事考えてる場合か!
この試合が終わっちゃったって事は…次はブランの番じゃない!
なのにまだ当の本人は来ていない…!


『続きまして、遊勝塾のユーヤ・B・榊選手と無所属の暗国寺ゲン選手の試合となります。
 昨日の暗国寺選手の試合は凄惨なものでしたが、榊選手はどのように立ち向かうのか?』



うわぁ…遂に試合間近のアナウンスが来ちゃった。
ブランはまだ来てないのに…!


「どうすんだよ、ブランお姉ちゃんはまだ来てないぜ?」

「このままじゃ不戦敗になっちゃう…!

「どこで何をやってるんだ、ブランの奴…!」

「わたしがご飯の支度をする前に出て行きましたが…?慌てて出て行ってしまいましたし。」


流石に試合直前になっても来る気配がない事にみんなも困惑が隠せない。
このままじゃ本当に不戦敗になっちゃうわ…!

そして、時間が少し経過して試合場へは暗国寺が登場したもののブランは一向に来ない。


『え〜と、未だにユーヤ・B・榊選手が姿を見せませんが、どうしたことでしょう?
 このまま来なければ不本意ながらも暗国寺選手の不戦勝となってしまいますが…?』


「ククク、さては昨日の俺の試合を見て怖気づいて逃げ出したんだろう。
 所詮…奴は、チャンピオンの前に逃げ出した卑怯者の娘に過ぎないって訳だな!」

「ふざけんな、誰が卑怯者だ!

「むしろ、卑怯者はお前だろ!

「昨日の最後の試合見たけど、デュエルってのはそういうゲームじゃねぇから!!


もっとも、観客からのブーイングも気に賭ける様子はない。
そう言うと、暗国寺はこちらを血走った眼をこちらに向けた。
今のブランは絶対こんな事で逃げ出したりなんかしないけど、アユちゃんもいないのが気がかり。
こちらを一瞥した事からも、二人を卑劣な罠にかけた可能性があるかも。
こいつならやりかねなさそうな分、性質が悪いわ。


「でも、昨日の試合は熾烈を極めるものだったからなぁ…」

「あんなの相手じゃ逃げ出さない方がおかしいって…」

「いや、本当に逃げ出したのかも…女の子だし。」

「もっとも、本当に逃げ出したのであれば…失望もいい所ですけどね。」


そして、他の観客は疑心暗鬼に駆られてしまったようで辺りがざわつく。
そんなことない…ブランは逃げ出したりなんて!


「いくら待ったところで奴はここに来ることはあるまい…!
 おい、そこの審判…とっとと俺の不戦勝宣言をしろ!

『え、そんな事言われましても…とはいえ、確かにもう試合時間のようです。
 皆様申し訳ありませんが、ユーヤ・B・榊選手の不在により勝者は…』


「ちょっと待った!!」

「「「「「!?」」」」」


この声は…まさか!


はぁ、はぁ…こんなところで不戦敗に……なってたまるかよ…!」

「「「ブラン!」」」

「おせーよ、ブランお姉ちゃん!」

『おお、おっと!ここでようやくユーヤ・B・榊選手が姿を現しました!
 危うく不戦敗になるところでしたが、ギリギリセーフです!』



ようやく来たわ…ブランが!
だけど、明らかに息切れしているみたいでちょっと心配。


「ほう?怖気づいてこないものだと思っていたが…まぁいい。」

「…怖気づく?馬鹿言わないでほしいものね。
 少し厄介ごとに巻き込まれそうになって遅れただけよ。」


やっぱり何か変な事に巻き込まれていたみたい。
ブランってば、昨日目を覚ましたばかりなのに…!


「逃げずにここを見た事は褒めてやるが、お前の無様な姿を衆目に晒してやるよ!
 俺をコケにした事を後悔しつつ、絶望の沼へ墜ちていくがいい!」

「はぁ、はぁ…やれるものならやってみなさい。
 性根の腐ったアンタをオレのデュエルで完膚なきまでに叩き潰してやる!


そして当然ながら、お互いに一触即発。
ブランの雰囲気もいつもと違い、最初から刺々しい。
叩き潰すというような穏やかじゃない発言と言い、ここまで敵意剥き出しにするブランも久しぶりに見た気がする。


「あんなに敵意をむき出しにして余裕のないブランを久しぶりに見たわ。

「それに、あまりコンディションは良くないように見える。」

「見るからに大慌てで来たのがまるわかりだしなぁ…」

「また、何か隠しているようにも見えます。」


確かにブランの体力は見てるとかなり消耗しているように見えるわ。
本当に大丈夫か不安になって来たわ。
それに、巻き込まれた変な事ってなんなの?


『ともあれ、両者で揃ったところで試合を始めたいと思います!
 今回のアクションフィールドはこれだ!フィールド魔法発動
『絶海の孤島』!』


そして試合場が海に浮かぶ大きな島となった。
島にある森林部は闇討ちされやすい場所よ。
気を付けて、ブラン。


「…戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い!」

「フィールド内を駆け巡る!」

「見よ、これぞデュエルの最強進化系!」

「「「「「「アクショォォォォォン!」」」」」」


「「デュエル!!」」


ブラン:LP4000
暗国寺:LP4000









――――――








Side:ブラン


なんとか、試合には間に合ったとはいえ急いで向かったものだから疲労感が半端ない。
だけど、暗国寺の様子からしてアユちゃんの誘拐に関与している可能性が高い…このタイミングなら猶更だ。
思わせぶりな口ぶりをした時点でバレバレなんだよ。

観客には悪いけど、オレも正直エンタメしている余裕はない。


「まずはお前のターンからのようだな?精々足掻くことだな。」

「いいわ…先攻はオレのようね、まずは手札から『エビカブト』を召喚!」
エビカブト:ATK550


「たった攻撃力550のモンスターを攻撃表示だと?
 ふははは!!血迷ったんじゃねぇのか?

「この子を召喚した時の効果は墓地にカニカブトがいないと使えないわ。
 でも、血迷っていると考えるのは早計よ?
 そして、水属性であるエビカブトをリリースし、手札の『カラツキキャット』を自らの効果で特殊召喚!」

『にゃぁぁぁん』
カラツキキャット:DEF1900



「何が『にゃぁぁぁん』だ!お前ナマズだろww」

「こりゃ傑作だぜ!初っ端から笑いものになっているとかなぁ!」


イラっとくるけど、一々突っ込んでいては身が持たないわ。
カラツキキャットは水属性をリリースし展開できるだけの下級じゃない。


「その後、デッキから1枚ドロー!
 そして、水属性の効果のコストで墓地へ送られたエビカブトの効果!
 デッキから水族で攻撃力800以下の『カニカブト』を特殊召喚!」
カニカブト:DEF900


「オレはレベル3のカラツキキャットとカニカブトでオーバーレイ!
 強かな心を強固な鎧に秘め、ここに見参!エクシーズ召喚!ランク3『ハードシェル・クラブ』!!」

『フッ…!!』
ハードシェル・クラブ:DEF2100 ORU2



まずはレベル3を2体並べ、様子見としてハードシェルを立てておく。
暗国寺の試合を見ていたけど、断片的ではあるから今度は何を仕出かすかわからない。


「カードを1枚伏せ、ターンエンド。」

「おいおい、その程度で守りを固めたつもりか?
 ククク、お前をたっぷりいたぶってやらねぇと…な。
 俺のターン、ドロー!俺は『バーバリアン3号』を召喚!」
バーバリアン3号:ATK1000


暗国寺のモンスターはバーバリアン主体で明らかにストロング石島を意識しているのは確定的に明らか。
だけど、ストロング石島としては迷惑極まりないだろう。


「3号が召喚した時、手札から『バーバリアン』モンスター1体『バーバリアン4号』を特殊召喚できる!」
バーバリアン4号:ATK1200


『え〜、ストロング石島ゆかりのモンスターを使ってくれるのはいいのですが…素直に喜べません。』


3号に続いて4号までも出てくる。
ニコはストロング石島のマネージャーだったから懐かしく思って当然なのだけど、昨日の試合をみたらね…。
レベルは違うため、このままだとエクシーズはできない…けど…!


「さらに、バーバリアンがいるため…手札から『バーバリアン・スレイブ』を特殊召喚できる!」
バーバリアン・スレイブ:ATK550


これでレベル3のモンスターが2体か…!


「俺も行かせてもらうぜ…俺はレベル3の3号とスレイブをオーバーレイ!
 未開の地の蛮族を統率しろ!エクシーズ召喚!ランク3『バーバリアン・エルダー』!!」

『グッフッフ…!』
バーバリアン・エルダー:ATK1550→2150 ORU2



エルダー…つまり老齢の蛮族ってわけね。
既におぞましい何かを感じるけど、これじゃない。


「バーバリアン・エルダーの攻撃力は俺の場のバーバリアン1体につき300アップする。
 そしてバーバリアン・エルダーの効果を発動!
 1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを2つ使い、デッキからレベル5以下の『バーバリアン』1体を特殊召喚できる。
 この効果でもう1体の『バーバリアン4号』を特殊召喚する!」
バーバリアン・エルダー:ATK2150→2450 ORU2→0
バーバリアン4号:ATK1200



4号がもう1体という事は、今度はランク4エクシーズ…!


「ここでレベル4の4号2体でオーバーレイ!
 未開の地に住む兵士よ、この地に踏み込み蹂躙せよ!エクシーズ召喚!ランク4『バーバリアン・ソルジャー』!!」

グォォォォォ!!』
バーバリアン・ソルジャー:ATK2300 ORU2
バーバリアン・エルダー:ATK2450→2150



1ターンに2度もエクシーズ召喚してきたけど、両方とも烈悟とのデュエルで使ったモンスターではないわね。
あれはなんというか…よりおぞましい気配を感じたもの。
とはいっても、2体ともハードシェルの守備力を上回ってきた…!


「バーバリアン・ソルジャーの効果!
 オーバーレイ・ユニットを1つ使い、このターンモンスターに2回の攻撃が可能となる!」
バーバリアン・ソルジャー:ATK2300 ORU2→1


さらに2回攻撃を付与してきた…このままだとハードシェルがやられてしまうわ。


「まずはバーバリアン・ソルジャーでお前のハードシェルを攻撃!
 バーバリアン・ソルジャーの第2の効果で俺の場のバーバリアンは貫通効果を得ている!」


――ドスッ…!


「っ…でも、ハードシェルが破壊される場合、代わりに素材を1つ取り除ける!」
ブラン:LP4000→3800
ハードシェル・クラブ:DEF2100 ORU2→1



「だが、俺のソルジャーはモンスターに2回攻撃が可能なモンスターだ!奴の殻を叩き割れ!」


ハードシェルを守り抜くためにもアクションカードを…!
って、暗国寺の姿が…しまっ!?


「おらっ!」



――ドガッ!


「がはっ…!」


地の利を悪用しオレに物理的に攻撃を…!?
兎に角これで、このターンは奴にアクションカードが取られてしまった…!
そして、ソルジャーの2度目の攻撃が襲い掛かる…!


――ゴンッ!!


「ぐは…!」
ブラン:LP3800→3600
ハードシェル・クラブ:DEF2100 ORU2→1



「あいつ、早見の時のように…!」

「拙いな…今のブランは最初から不調のように見える。
 その中で物理的に攻撃されようものなら、確実に集中力が落ちる…!
 しかもアクションカードの取り合いなら接触はやむを得ないため、グレーゾーンな所だが基本的には反則にならない。」

「そんな…!


いつもなら、この程度躱すのは造作もないんだがな…!
思っていた以上に体力を消耗していたみたい。


「エルダーよ、ハードシェル・クラブを潰せ!」

「これ以上はやらせない!
 デッキからレベル2以下の水族1体を墓地へ送り、罠カード『フリック・ウェーブ』を発動!
 このターンに1度だけ、ハードシェル・クラブを戦闘破壊から守るわ!」

「攻撃を受け流そうとするつもりだろうが、そうはいかねぇ。
 手札からアクションマジック『割り込み』を発動!
 バトルフェイズに発動したお前の罠の発動を無効にするぜ!」


くっ、アクションカードの効果で罠の発動が阻止された…つまり…!


――ドガアアッ!!


「くあっ…!」
ブラン:LP3600→3550


ハードシェル・クラブがやられてしまう。
ダメージそのものは微々たるものだけど、このターンで倒されてしまったわね。
最初の攻撃で発動しておけば残せたかもしれないと考えると…今のオレは調子が悪いと実感するわ。


「おっと、この程度でまだ倒れてもらっては困るぜ?
 お前には俺が受けた以上の屈辱と苦しみを味わってもらう…すなわち、お楽しみはこれからだって奴だ。
 俺はカードを1枚伏せてターンエンド。」

『暗国寺選手、榊選手のエクシーズを1ターンで倒して、挑発しつつターンエンドしました。
 一方の榊選手は…なんだかいつもよりキレが悪い気がしますが、大丈夫でしょうか?』



…そんな事は自分が一番分かっているわ。
調子悪いなら悪いなりにも、がんばるしかない。


「オレのターン、ドロー!まずは手札から魔法カード『死者蘇生』を発動。
 言わずと知れた効果で墓地の『ハードシェル・クラブ』を蘇らせる。」
ハードシェル・クラブ:DEF2100


「おいおい、オーバーレイ・ユニットの無いエクシーズを蘇生させて何ができるというんだ?」


ハードシェル・クラブは素材が無くてももう一仕事できる優秀な子。
沢渡とのデュエルを見ていたらそんな事は言えないはずよ。
それに墓地のカード効果の発動条件を満たすために出したのよ。


「続いて、墓地から『ガントレット・カメノテ』を除外し、手札から水属性モンスター1体を捨てて効果発動!
 デッキから『甲殻』モンスターの『甲殻奏者ロブスター・ハープ』を手札に加える!」

「あの罠の発動時に墓地へ送っていたモンスターか、みみっちいのは相変わらずだな。」

「ラフプレーを多用し、手段を選ばないようなアンタには言われたくねぇよ。
 そして水属性のコストで墓地へ送られた『甲殻剣豪スピニー・ブレード』の効果で1枚ドロー。
 そして、スケール4の『甲殻奏者ロブスター・ハープ』をペンデュラムゾーンにセッティング!」
甲殻奏者ロブスター・ハープ:Pスケール4


卑怯な手を躊躇なく使ってくる暗国寺にはみみっちいなんて言われたくない。
そもそも、こういった小技を駆使して回すのがオレの基本戦術だから。


「ここでロブスター・ハープのペンデュラム効果を発動。
 このカードを破壊し、手札から水属性のレベル3モンスター1体を特殊召喚できる。
 この効果で特殊召喚するのは『ウォーター・ペインター』!」
ウォーター・ペインター:DEF1400


「ウォーター・ペインターの効果をハードシェル・クラブと自身をリリースして発動!
 デッキから2枚ドロー!そして『ハードシェル・クラブ』の効果でデッキから魚族・水属性・レベル3以下の『ロブスター・シャーク』を手札に加える。
 そして、スケール2の『ロブスター・シャーク』とスケール8の『ブライン・ロブスター』でペンデュラムスケールをセッティング!」
ロブスター・シャーク:Pスケール2
ブライン・ロブスター:Pスケール8



「来た!ペンデュラムモンスター!」

「これでレベル3から6のモンスターが同時に召喚可能!
 揺れろ、魂のペンデュラム!天界に架かれ、流星のビヴロスト!ペンデュラム召喚!来て、オレのモンスターたち!
 エクストラデッキからレベル7の『甲殻奏者ロブスター・ハープ』
 手札からレベル4の『シュテルアーム・ロブスター』!そして、レベル6『甲殻砲士ロブスター・カノン』!!」

甲殻奏者ロブスター・ハープ:DEF2600 forEX
シュテルアーム・ロブスター:ATK1100

『フンッ…!』
甲殻砲士ロブスター・カノン:ATK2200


『出ました!榊選手による、本家本元のペンデュラム召喚!
 果たして、ここから見事巻き返しを図れるか!』


「ふん、いくら雑魚を並べたところで…」


ところがどっこい、性能的にはそうではないわ。
とりあえず、ペンデュラム召喚から一気に攻める!


「その雑魚に足元をすくわれても知らないわ。
 ロブスター・カノンが手札からの召喚・ペンデュラム召喚に成功した時、相手の特殊召喚されたモンスター1体を破壊しデッキに戻す!
 対象はバーバリアン・ソルジャー!喰らえ『ハイドロ・ブラスター・カノン』!!」


――バシュゥゥゥン!!


「おっと、そんな効果がある事は知ってるぜ?
 俺は手札から『バーバリアン・ディフェンダー』を墓地へ送り、破壊の身代わりとさせてもらうぜ。」

「っ…だけど、シュテルアームは手札からのペンデュラム召喚に成功した時に攻撃力が1500アップする!」
シュテルアーム・ロブスター:ATK1100→2600


ロブスター・カノンの効果は防がれたけど、シュテルアームは実は戦闘要員としても働けるペンデュラムモンスター。
これだけでもあの2体を倒せるようにはなった。
だけど、そもそもまだ通常召喚もしていない。
ここで一気に畳みかけてやる!


「そしてオレは手札からチューナーモンスター『ウェーブ・ガードナー』を召喚!」
ウェーブ・ガードナー:ATK600


ロブスター・シャークのペンデュラム効果で水族か魚族しかペンデュラム召喚できない。
ウェーブ・ガードナーは魔法使い族だからこのように出すわけだ。
これでルーンシェルを呼び出す準備は整った!


『おや、ここでチューナーモンスターを出してきたという事は…?』

「オレはレベル7のロブスター・ハープにレベル3のウェーブ・ガードナーをチューニング!
 波動の魔術よ、閃光と共に甲殻の鎧に今宿らん!シンクロ召喚!出でよ、レベル10!魔術纏いし『甲殻魔将ルーンシェル・P・(ペンデュラム)ロブスター』!!」

『ウオォォォォォォォッ!!』
甲殻魔将ルーンシェル・P・ロブスター:ATK3000



エクストラのペンデュラムモンスターを使用してのペンデュラムシンクロじゃないから、残念ながら耐性は付与されない。
だけど、モンスターへの連続攻撃効果はある。
仮に除去されてもエクストラデッキの『ロブスター』ペンデュラムを後続で呼び出せる。
とりあえず、あのカードが来なければいけるはず…!


「ここで来やがったか、お前の切り札が。」

「ここで一気に決着を付けてやる!バトル!」

「おっと、ちゃんと調べはついてるぜ?残念だがこの罠の前ではそいつも無力だ!
 永続罠『バーバリアンの風習』を発動!」

「っ…そのカードは、烈悟のシンクロモンスターを封じた…!」


そう、烈悟のシンクロモンスターがこのカードで機能停止に追い込まれていた。
よりにもよって来てほしくないそのカードに来られたわけだ。


「バーバリアンが存在し、このカードがある限り、お前はエクストラから特殊召喚したモンスターの効果を発動できず、攻撃宣言も行えない。
 これでお前のルーンシェルはただの木偶の坊だ!

「っ…!」


この効果で、ルーンシェルを動かす事ができなくなってしまったわ。
仮にペンデュラムシンクロで出したとしても、オレ自身への効果じゃ耐性効果も意味をなさない。
しかも、これを処理しない限りペンデュラム召喚のゾンビみたいな性質も時間稼ぎにしかならない。


「何をやっている…?」

「これじゃ、あの時のシンクロ使いの二の舞だろうが!

しっかりしてくれよ、頼むからさ!

「こんな無様なデュエルを見てきたわけじゃないんだよ!」


ここで罵声まで飛ばされる…まともに聞いていたら頭おかしくなる。
それでも…!


「だけど、さっき出した2体は手札から特殊召喚されたため攻撃できる!
 バトル!シュテルアームでバーバリアン・ソルジャーを攻撃!」

「フフフ…」


――ぱすっ…!


ちっ…アクションカードを…!
と思ってたら目の前に暗国寺が…!


「残念だったな、アクション魔法『回避』を発動!
 この効果でその攻撃を無効にするぜ…おっと!」


――ドガアッ!


「うわああああっ!」

「悪いな、つい勢いをつけて跳びすぎたぜ…」


勢い余ったと見せかけて上空からのタックルを仕掛けてくるなんて…!
拙い、重い一撃をもらった…疲労感と痛みで立つのがやっとだ。


「あいつ、さっきといいどう見てもわざと…!」

それも恐らくは事故とみせかけて…悪質な…!

「かといって、アクションカードの取り合いでの多少の接触はやむを得ないところもある。
 ブランも明らかに本調子じゃないし、このままじゃ拙いわ。」


グレーゾーンではあるけど、アクションデュエルの性質上あからさまな反則行為とされないのが性質が悪い。


「いい年した男が幼いあの子を虐待しているようにしか見えないのは気のせい…?」

「ねぇ、もう止めた方がいいんじゃない?」

「可哀想すぎて、もう見ていられない…」

『正直試合を止めたいのは山々ですが、一介の実況であるワタシにはその権利がございません!』


一方でオレを憐れむような目線と声も観客からあがり、試合を止めるべきとの意見もある。
相手にいいようにやられて無様な姿を晒していたらそうなるか。
が、実況の方で止めようにも、運営の方で何も言わなければどうしようもないことがニコの悲痛な本音からもわかる。
何より、反則が確認されても運営の背後にいるはずのあの鬼畜眼鏡なら試合が終わるまで放置するというのもやりかねない。

それにしても、本当にこんな奴に何いいようにやられてるんだオレは。
柚子たちに誘拐の件で相談もせず一人で抱え込んで…。
今日はなんというか色々と駄目だ、空回りしすぎてる。
だけど、沢渡に背中を蹴られて来たんだ…こんなところで諦めるわけにはいかない!


「くはははは!いい感じに無様だなぁ!観客に憐れむような目で見られてよ!
 こういう馬鹿みたいな姿が見られるのもエンタメデュエルの醍醐味だよなぁ!ああん?


「黙れ…まだ、ロブスター・カノンの攻撃が残っている。
 ロブスター・カノンでエルダーを攻撃!『ハイドロ・ストリーム』!!」


――ビシャァァァア!!


「けっ、こんなものたかが知れてるぜ。」
暗国寺:LP4000→3950


1体は処理できたけど、与えたダメージはたったの50…!
このターンで倒すつもりで手札を使い切ってこのザマだ。
このターンにできる事はもう何もない。


「勝負はフィールドの中だけで決まるわけじゃねぇんだよ。
 お前が今できる事はもう何もねぇよな…さっさとターンエンドしろ!

「くっ…ターン、エンド…!」


これは、冗談抜きで窮地に追い詰められてしまったようね…!
アユちゃんをあいつが無事に救出してくれたかどうかも気がかりだけど…!
いや、余計な事を考えていては勝てるものも勝てなくなる…だけど…!








「いいぞ、その調子でそのガキを始末してもらおう。」








――――――








Side:沢渡


一昨日から光焔が見当たらなくなった。。
そこで柿本、大伴、山部の3人を連れて今日も探し回っていたわけなんだが、まさかその途中で何故か会場と逆方向へ行こうとしてた榊の奴と遭遇するとはな。
今日試合ある事は知ってたし、何事かと聞いてみれば…ったく、本当に面倒事に巻き込まれてやがったぜ。
あいつには今後も勝ってもらわねぇと俺の立場がねぇし、不戦敗なんてされたら堪ったもんじゃない。
だから、仕方なく俺たちがその面倒事を引き継いだわけだ…迷惑をかけた借りも返したいしな。
…涙目で俺にお願いするあいつの姿に少しばかりキュン死しそうになったのは内緒だ。
いけ好かないライバルって感じで見ていたが、あいつ…実際は中々の美少女なんだよな。

で、それは置いといて指定場所の雑記林の前までやってきたわけだが…!


「今からこの場所に乗り込んで、アユって子を救出し誘拐犯をギッタンギッタンにするわけだが…お前らも構わねぇよな!

「水臭いっすよ、沢渡さん!」

「寄り道しちゃってるけど、大丈夫っす!」

「俺達はいつでも沢渡さんについていきます!」


ようし!準備はバッチリだな!
そういうことで、テンションを上げて突っ込んでいくぜ!


「グフフ…」

「ケケケ…」

「鮎川アユを返してほしければ俺たちにつきあって…」


そして、目的場所まで来ると俺たちを待ち伏せていた如何にもガラの悪そうな4人が囲んできたか。
如何にも暗国寺の手下って感じの風貌だな。


「ってこいつユーヤ・B・榊じゃねぇ!?」

「しかも4人いるし!?」

「誰だ、お前ら!」


だが、残念だったな…俺はあいつじゃないんでね。


「フフフ、よく聞け…フィールドを華麗に舞い、圧倒的な戦略をもって相手を打ち倒す!
 俺は人呼んで、超・ネオ・ニュー…」

「「「沢渡さん!!」」」

オー!イエース!!


ふっ、どうだ…バッチリ決まったぜ。


「なんだこいつ?」

「誰だか知らねぇがお前らには用はねぇんだよ、あっちいけ。」

「い、痛い目に遭いたくなければな!」

「馬鹿言うなよ、確かに俺達はただの通りすがりだ。
 だが…見てしまった以上、お前らのやってる事を見過ごすわけにはいかねぇ!
 次期市長の息子としても、誇りあるLDSの生徒としてもな!」


もちろん、ただの通りすがりというのは嘘だ。
だが、たまたま榊に会ったという意味ではそうかもしれないが。
いずれにしろ、誘拐なんてふざけた真似してくれた以上はただじゃおかねぇ。


「それに沢渡さんだけじゃなくて俺達もいるんだぜ?」

「大人しく観念するのが賢いと思うけどな?」

「ぐ、こうなったら…」


おっと、デュエルディスクを展開してきたか…やる気になったみたいだな。
だが、こんなチンピラども相手に俺たちがデュエルで負ける道理はねぇ!


「一人一体やるぞ、お前ら!」

「「「応!!」」」


さっさとこいつらを片づけて、アユって子を救出しあいつに借りを返す!
さあ、お楽しみはこれからだぜ!












 続く 






登場カード補足






ブライン・ロブスター
ペンデュラム・通常モンスター
星1/水属性/水族/攻 100/守 0
Pスケール「8:8」
「ブライン・ロブスター」の(2)のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):もう片方の自分のPゾーンに「ロブスター」カードが存在しない場合、このカードのPスケールは5になる。
(2):自分スタンバイフェイズに発動する。
このカードを破壊し、自分はデッキから1枚ドローする。
『モンスター情報』
弱々しく、奇妙な形をしたロブスターの一種。
ただしその卵は乾燥に耐え、長期にわたって休眠する事ができるらしい。



カラツキキャット
効果モンスター
星3/水属性/魚族/攻 500/守1900
「カラツキキャット」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分メインフェイズに自分フィールドの水属性モンスター1体をリリースして発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
その後、自分はデッキから1枚ドローする。



ガントレット・カメノテ
チューナー・効果モンスター
星2/水属性/水族/攻 800/守1000
「ガントレット・カメノテ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドに水属性モンスターが存在する場合、墓地のこのカードを除外し、手札の水属性モンスター1体を捨てて発動できる。
デッキから「甲殻」モンスター1体を手札に加える。



バーバリアン・ソルジャー
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/地属性/戦士族/攻2300/守1800
戦士族レベル4モンスター×2
(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
このターンこのカードは1度のバトルフェイズに2回までモンスターに攻撃できる。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
自分フィールドの「バーバリアン」モンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える。



バーバリアン・エルダー
エクシーズ・効果モンスター
ランク3/地属性/戦士族/攻1550/守1800
戦士族レベル3モンスター×2
(1):このカードの攻撃力は自分フィールドの「バーバリアン」モンスター1体につき300アップする。
(2):1ターンに1度、このカードのX素材を2つ取り除いて発動できる。
デッキからレベル5以下の「バーバリアン」モンスター1体を特殊召喚する。



バーバリアン3号
効果モンスター
星3/地属性/戦士族/攻1000/守1200
(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。
手札から「バーバリアン」モンスター1体を特殊召喚する。



バーバリアン4号
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻1200/守1000
(1):1ターンに1度、自分フィールドの「バーバリアン」モンスターが攻撃対象に選択されたときに発動できる。
その攻撃を無効にする。



バーバリアン・スレイブ
効果モンスター
星3/地属性/戦士族/攻 550/守 800
(1):自分フィールドに「バーバリアン」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。



バーバリアン・ディフェンダー
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻 550/守1800
(1):自分フィールドの「バーバリアン」モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを手札から墓地へ送る事ができる。



フリック・ウェーブ
通常罠
(1):デッキからレベル2以下の水族モンスター1体を墓地へ送り、自分フィールドの水族モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターはこのターンに1度だけ、戦闘では破壊されない。



バーバリアンの風習
永続罠
自分フィールドに「バーバリアン」モンスターが存在する場合にこのカードを発動できる。
(1):自分フィールドに「バーバリアン」モンスターが存在し、このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、相手はエクストラデッキから特殊召喚したモンスターの効果を発動できず、攻撃宣言も行えない。



割り込み
アクション魔法
(1):バトルフェイズに罠カードが発動した時に発動できる。
その発動を無効にし破壊する。