Side:零児


「今度はユーヤ・B・榊…?」


ふむ…黒龍院里久とネプテューヌが相対する中でユーヤ・B・榊まで現れるとは。
榊とネプテューヌ…本当に瓜二つの顔とはな。


「本当に瓜二つの顔…沢渡が見間違えるのも無理はない。
 それはそれとして、黒龍院里久はアヴニールの情報を持っている貴重な存在です。
 どうやら、ネプテューヌは彼を消す気のようでこのまま続けさせるのは拙いかと…」

「ふむ…」

トドメを刺せる場面でシデンの効果を使わないだと…?
 ちっ、奴の悪い癖が出てきたか…!」


成程、そのネプテューヌは彼を倒すのを少し躊躇しているようだな。
できればあまり傷つけずにサレンダーに持ち込ませたいと。
もっとも彼女にとっては慈悲のつもりだろうが、里久から見れば舐めた真似をしたとしか受け取れないだろう。
余計に彼の怒りに火をつける事になってしまったようだがな。


『昔悪い事をしたとしても友達が傷ついて黙ってられるほど、オレは大人じゃないんだ!
 これ以上やるというならオレを倒してからにしやがれ!』



成程、一応榊と同じく里久も遊勝塾所属だったか。
そして言動からどうも彼女は彼と友人関係にあるようだ。
もっとも今日のあの試合で彼の本性を見てもなお、このような事を言いのけるとは驚きだが。
だが、彼女とて彼に多少の不信感は抱いているはず…どうなるか見届けさせてもらう。










超次元ゲイム ARC-V 第33話
『対話』










ネプテューヌ:LP2800
GHカオス・リベリオン・F・シデン:ATK3000

里久:LP2000



Side:ブラン


里久と柚子が言ってたネプテューヌのデュエルに割り込む!
今日の試合の里久の狂気じみた表情や言動といい、オレたちに話せない様な業のある事をしてきたらしい。
それでも、オレと里久はまだ友達のはず。
例え、決別する事になったとしても…殴り合ってからだ。
我儘だろうけど、だからこそこのデュエル…乱入してでも止めてやる!
話はそれからだ!


――Battle Royal mode Joining!


ブラン:LP4000


「オレのターン、ドロー!
 オレはスケール4の『甲殻鎧竜オッドアイズ・オマール・ドラゴン』『甲殻神騎オッドシェル・P・(ペンデュラム)ロブスター』でペンデュラムスケールをセッティング!」
甲殻鎧竜オッドアイズ・オマール・ドラゴン:Pスケール4
甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター:Pスケール4



「オッドアイズのペンデュラム効果でもう片方のペンデュラムゾーンのオッドシェルを破壊し、エクストラデッキへ送る。
 そして、デッキから『魔術師』のペンデュラムモンスター1体、スケール8の『霊媒の魔術師』をセッティング!」
霊媒の魔術師:Pスケール8


「これでレベル5から8のモンスターが同時に召喚可能!
 ペンデュラム召喚!来て、煌く二色の鎧纏いし者よ!レベル7『甲殻神騎オッドシェル・P・(ペンデュラム)ロブスター』!!」

『ウォォォォォォォ!!』
甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター:ATK2500 forEX



――ドクッ!


「っ…!?」

「がっぁあぁぁぁ!!」


オッドシェルを出した瞬間、体が熱く、苦しい…!
頭に何か入ってくるような気持ち悪い感覚が…!



『ウォォォォォォ!!』

『グォォォォォォォ!!』



オレのオッドシェルがあの紫の竜と共鳴してるというのいうの…!?
兎に角、気をしっかりしろ…あの時の様に意識を失って堪るか!


「く、うっ…オレは手札から『コロソマ・ソルジャー』を召喚!」
コロソマ・ソルジャー:ATK1300


「っ…コロソマ・ソルジャーが召喚した時、手札の水族か魚族1体を墓地へ送り1枚ドロー!
 さらに、水属性モンスターのコストで墓地へ送られた『ブレード・シュリンプ』の効果でオッドシェルの攻撃力を500アップ!」
甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター:ATK2500→3000


兎に角、これでカオス・リベリオンの攻撃力と並んだわけだ!


「バトル!オッドシェルでカオス・リベリオンに攻撃!」


――ガシィィッ!!


攻撃力は互角だから、攻撃が拮抗しあっている。
このままならお互いに相討ちだけど、オッドシェルはペンデュラムモンスターだから次のターンで復活できる。


「攻撃宣言時にオッドシェルを対象にし、永続罠『融合縛鎖』発動!
 その攻撃を無効にし、墓地から『融合』1枚を手札に加えるわ。
 そして、このカードがある限り…あなたのオッドシェルは攻撃できない。」

「何っ!あんなカードをセットしていたなら、僕のマッド・ベアーの攻撃も防げたはず。」


攻撃は防がれたけど、これを見た里久がまたイライラしだした。
あれは完全に頭に血が昇っているわね。
あの攻撃を受けたのは、どう考えてもディアトリマ・ライダーの効果を発動するためだと思うけど。


「それはいいとして…攻撃を誘って融合召喚したくせに、お前はさっきシデンの連続攻撃効果を発動させなかった…!
 舐めやがって…僕をどこまでコケにすれば気が済むんだよ!絶対許せない!」


というのはわかっていたようだけど、カオス・リベリオンのもう1つあるという効果を使わずターンを終えた事が気に食わないみたい。
彼女の本心としては傷つけずにサレンダーさせたいという優しさだろうけど、相手の里久にとっては舐めていると映る。
はっきりいってオレが里久の立場でも『ふざけんな!』と言いたくなるけど。

それは兎も角、攻撃が阻止されたんじゃ仕方ないが…!


「何もできないなら、帰れよ!」

「里久、その言い草は無いだろ!オレはお前を心配して…」

「アイツは僕が狩る獲物なんだ!ブランは邪魔すんな!」

「は?」


は?獲物だと…今日の試合の事といい、なんだよそれ?
オレは激情に駆られて里久に問い詰めるべく、胸ぐらを掴む…オレもそろそろ我慢の限界だ!


「何の真似だよ?」

獲物とか狩るとかどういうことだよ?答えろよ!
 お前は紫吹とのデュエルでもハンティングゲームの獲物だって言ってたよな…?


「…それがブランに何の関係があるの?


何だと?つまり肯定って事かよ…!


「関係あるもクソもあるか!
 それに柚子からお前が彼女に『こっちの世界の人じゃないよね』って言ったって聞いたぞ…!
 それってつまり、二人ともここではない異世界の出身でお前の仲間が彼女の故郷を侵略してるって事じゃねぇか!

「なっ、柚子がそんな事を…?

「君のような勘のいいガキは嫌いだよ…なんちって!」

「「話の腰が折れるからお前は黙ってろ!!」」

「って、なんでこういう時に限って息が…」

「いいから黙って…話が明後日の方向へ行くから。」

「あ、はい…」


ああ、ネプテューヌが余計な事を言ったせいでもうわけがわからない!
聞いた限りだと明らかに被害者的な立場なのに、無性に腹立つなぁ!
というか、こういうキャラだとは思わなかったよ。
真面目系かと思いきや地はとんだシリアスブレイカーだな!

兎に角、二人は異世界の事について何ら否定しなかった。
つまり、あるという事で間違いない…にわかには信じられない事だけど。
2人はその異世界の人である事もな。
そして、里久の仲間がネプテューヌの故郷を襲った事も間違いないようだ。


「話を戻すぞ、それでお前の仲間たちは月子を…紫吹の妹を攫ったらしいな!
 それに飽きたらず、彼女の故郷の人たちもお前たちに消されたって本当かよ…答えろ里久!」

「…!」

「それがどうしたの?本当として、ブランはどう思ってるのさ?」


ああ…そうかよ!


「それは言葉で説明するより…歯を食いしばれ!

「は?」


――バキィィ!


「っ…なにすんだよ!

こういうことだ…!友達だからといってこんな事を認めるわけないだろ!」


里久達がこんな最低な馬鹿な事をしていたと思うと殴らずにはいられない。
同時に彼のような年齢幾ばくも無い彼をこのようにした奴に反吐が出る。


「だから、こんな馬鹿なことやめてさっさと帰るぞ!みんなが心配して待ってるんだ!」

「あのさぁ…」

「冗談じゃない、僕は融合の負け犬如き相手に尻尾巻いて逃げたりしない!」

「里久!マジでお前いい加減にしろよ!


この期に及んでまたそんな事を!
だけど、里久はオレの言い分を無視して話を続ける。


「ブランは既に察したと思うけど、ソイツは負け犬の残党。
 僕の仲間が制圧した融合次元から逃げてきたやつらなんだ!」

「あなたの中だけではね…この世界に来たのはエクシーズ次元に対抗する術を探すため。
 故郷で今も戦ってる仲間のためにも…なんとしても事を上手く行かせる!」


融合次元にエクシーズ次元って…思った以上に安直だった!?
つまり、それぞれその召喚法ばかりがある世界って事かしら?
だとすると、オレのいるこの世界って一体?
アドバンス次元?それとも儀式次元?あるいはペンデュラム次元!?
なんというか、色々ありすぎて頭が痛い。


「そんなことさせるか!僕の仲間が勇敢に戦い融合次元に勝ったんだ。
 ここで僕が負けたらその栄光に泥を塗るし、自分自身を許せなくなる。」


里久たちにも彼らなりの誇りがあるのはわかる。
俺達にとって最低な行動でも、それが正しいって価値観だと誇りになってしまうと思うと…!


「アヴニールの戦士の中で特別任務にも抜擢されたエリートの僕が…いや、勝手なことしたし既に面汚しか。
 兎に角、融合の負け犬なんかにやられるなんてあっちゃいけないんだよ!」


途中、自らを自嘲するような事を言いながらも必死なのは伝わった。
だからといって、やってる事は到底許せるものじゃない…!


「だから、本物のエクシーズ召喚をもって…っ!?


――Duel Close


なんて思ってたら里久のデュエルディスクが赤く光りだした!?
いったい、何が起こっているの?


やめろっ、僕はまだ帰るわけにはいかないんだ!

「里久…?」

待ってくれ、あの融合使いをやっつけるまでは…アヴニールに戻るわけにはいかないんだ!


――ビシュゥゥゥゥゥン!


「え…?」


あの赤い光に里久がつつまれたと思ったら姿が消えた…?


「里久が消えた?一体、何が起こっているの?」

「逃げた…っていうより多分、何かのトラップが作動してエクシーズ次元に戻されたんじゃないかな?」

「何を訳の分からない事を…って思うけど、こう変な事ばかり続くと案外受け入れられるものね。


ペンデュラムカードが突然発現したり、紫吹に吹き飛ばされたり、変な通り魔に襲われたりとおかしな事ばかり起こると感覚が麻痺するわ。
大方、里久は何かしくじったあるいは正体を明かしたと判断されたがために戻されたと。
待って…彼はその次元にあるらしいアヴニールでの任務で勝手な事をしたような事言ってたわ。


「ん?待って、その次元に戻されたという事は勝手な事をしたらしい里久ってただじゃ済まないんじゃ…?

「知らないよ、あっちの事情なんて…!
 でも、その可能性もあるかもね…どうも任務には失敗したみたいな口ぶりといい。」

「どうしてこんな事に…!」


いずれにしても、違う次元に戻されたのでは現状手出しができない。
オレの知らない所で惨い事が行われているかもと思うと、悔しさを噛みしめずにはいられない。








――――――








Side:雲雀


ネプテューヌと同じ顔のふざけた女が出てきたと思ってたら、いがみ合い始めたりとわけがわからん。
いずれにしろ、これで黒龍院の奴の本性があのガキに理解できただろう。

大よそ、奴は遊勝塾という所でこの次元のデュエリストのレベルなどを測っていたはずだ。
恐らくは俺たちの世界と同じようにこの世界も侵略するための前段階として!
そいつがこの次元から消えた…それはつまり!


「この次元から逃げやがったか!」

「いや、その前に狼狽えていた事から強制送還されたと見るべきだ。
 恐らく、正体が明かされた時に自動発動する様にディスクにプログラムされていたのだろう。


自らをアヴニール所属と明かしたのはこれが初めてのようだからな。
だが、こうなった今悠長に構えている場合じゃないはずだ!
敵の本拠地に戻った以上、いつこの次元に侵略が来てもおかしくはないのだからな…!
ちっ、こんな事になるくらいならネプテューヌもさっさと奴を始末すべきだっただろう!








――――――








Side:ブラン


「彼がいなくなってしまった事でもうこのデュエルをやる意味なくなっちゃったなぁ。
 わたしのターン、フィールドの永続罠『融合縛鎖』を墓地へ送り魔法カード『マジック・プランター』を発動し、2枚ドロー。
 そして、ターンエンド。」

「それが無くなったら、オッドシェルで攻撃できるようになるけどいいのかしら?」

「やりたければ、思う存分やっていいよ。」


どうやら、相手の方に戦意が無くなってしまったのが見て取れる。
一応、自分の場を開けてあえてターンを渡す戦術はあるにはあるのだけど。
もっとも、オレは争いを止めるために乱入したようなものだからなぁ。


「確認したいけど、それはもう戦意がないと捉えていいのかしら?」

「うん。」

「なら、中止で決まりね…話し合いましょう?ネプテューヌ。」

「そだね…でさ、君の名前はブランでいいんだっけ?」

「そうよ。」


正しくはユーヤ・B・榊だけど、訂正はしなくていいわね。
里久との会話で知ったと思う事にしよう。
それと若干馴れ馴れしくなったような気がするのは気のせいかしら?
そういうわけで、お互いにやる気がない事を確認してデュエルは中止。
それに伴って、ソリッドビジョンも消えた。
とりあえず、ふざける事無く話し合いにも応じてくれるみたい。


「まず最初にあなたと紫吹は融合次元、里久がエクシーズ次元出身でいいのよね?」

「うん、理解が早くて助かるよ。
 とはいっても、実際はエクシーズ次元の奴らがそう呼んでただけだけどね。
 わたしたちのいる世界では融合召喚を使うデュエリストばかりだからね。
 …といっても、侵略される前はみんなデュエルなんて殆どやってなかったから酷い有様なんだけどさ。」

「成程…」


便宜的というわけね。
そして、そういう事情なら容易に侵略されたのも頷ける。


「という事はシンクロ次元なんてのも…」

「うん、間違いなくあるはずだよ。
 どうして召喚法で世界が分かれているのかは謎だけどね。」


そうなると、恐らくあのバイクの通り魔は…シンクロ次元出身というわけか。
そう考えるとシンクロ次元にはできればもう関わりたくない。


「それなら、今オレたちがいるこの次元は何かしら?アドバンス?それとも儀式?」

「全ての召喚法の基礎となる世界『スタンダード』だって…彼らはそう呼んでるみたい。」

「スタンダード…基礎、か。」


他の召喚法に寛容的なのも全ての召喚法の基礎となる世界というなら納得ね。
この話はこの辺にして、と。


「話は変わるのだけど、あなたは里久をエクシーズを滅ぼすための亀裂にすると言ったわよね?
 だけど、里久はシデンのもう1つの効果を使われたら負けてたって言ったし、実際躊躇していたように見えた。
 あなたは本心では戦いたくないし、誰も傷つけたくない…そんな気がするのよ。」

「これだから…」

「言わせねぇよ。」

「ちぇっ…」


やっぱり図星か。
彼女から見たら里久たちは憎い敵なのは間違いないけど、それでも躊躇する優しさがあるみたい。


「それでも、エクシーズ次元の…特にアヴニールの連中は侵略者よ。」

「そもそもアヴニールって何よ?」

「説明してなかったね…エクシーズ次元にあるデュエル兵器製造所兼デュエル戦士『ハンター』を養成する企業みたい。
 エクシーズ次元にはハートランドって場所があるそうだけど、その主力がアヴニールらしい。」

「いかにも物騒な…しかも年齢幾ばくも無い子供も働かせる辺りブラックね。」


ハートランドというのは恐らく中核をなす都市、いわゆるボスもそこにいそうね。
その中のアヴニールとかいう大企業を使って侵略する気満々ってところか。
オレたちの次元でいうレオ・コーポレーションに当たる組織のようね。
そんな一企業が中心都市のハートランドの中心部と癒着していると考えると…想像しただけで恐ろしいわね。
特にそんなところに里久のような子が働かされて侵略に加担させられていると思うと怒りを隠せない。


「そんな組織がわたしたちのいる融合次元で暴虐の限りを尽くし、雲雀の妹の月子を連れ去ったのよ。」

「月子…柚子に似ているらしい子ね。」

「柚子…それがあの子の名前なのね。」


お、おう…柚子の名前聞いていなかったのかよ。


「それとわたしたちの次元ではデュエルは浸透していなかったのはさっき知ったよね?」

「うん、それはさっき聞いたわ。」

「だから、エクシーズの奴らが襲い掛かって来た時、最初は成す術がなかったんだ。
 生き抜くために、こっちも必死でデュエルを覚えていって多少は食い止められるようになったけどね…」


そう怒り交じりの声で言う彼女にとって、決してデュエルにいい印象はないように思える。
同時に環境や置かれた状況によってデュエルへの見方は大きく変わるものだと思い知らされる。


「あなたにとってのデュエルはいわば生き残るための手段…そんな感じなのね。
 オレにとってのデュエルは世界的な競技を兼ねているけど、基本はみんなで楽しむべきものだと思ってるのよ。」

「そうなんだ…デュエルをそんな風に考えた事一度もなかったなぁ。
 エクシーズの奴らが来るまでは既に廃れていたマニアックなものに過ぎなかったし。
 ま、デュエルSSの主人公が言う発言じゃないけど。

「メタい発言はやめなさい…」


そもそもお前が主人公だったのか!?
冗談はさておき、そのネプテューヌの故郷ではマニアックなものをいわゆる侵略の兵器として使われているのを見たらオレたちのようには見れないわよね。


「それでね、奴らは人々を次々とカードに封印していった…女子供関係なしにね。」

「っ…!」


エクシーズ次元の人たちが行っている所業に動揺を隠せない。
カードに封印って事は解除する方法が分からなきゃ実質的に死も同然…!
彼女が怒り交じりの震えた声で呟いている事から解除の方法は恐らく不明。
ふざけんな…こんな事が現実で起きているのかよ…!


デュエルを使って侵略…!

「信じたくないと思うけど、こんな事が起きているのが現実なんだよ。
 実際にわたしの目の前で何人もの人達がカードに封印されたのを見てるんだ。
 その中には、わたしの妹も…!」

そんな…!


肉親までも犠牲に…!
そんなの、エクシーズ次元の人たちに対して強い怒りを抱えて当然だ…!
目に見えない所では様々な事が起こっている事がわかった。
それに、この世界にも侵略の魔の手が伸びる可能性も十分あり得る。
信じたくはないけど、これが現実で起こりつつある。
それが直面した時に侵略の魔の手に立ち向かえるの?オレたちは…!









――――――








Side:零児


ネプテューヌがユーヤ・B・榊に話している情報の中に人々をカードに封印という事が出てきたわけだ。
ユーヤ・B・榊はそれを聞いて動揺を隠せないようだが、残念ながら事実だ。
そこにいる雲雀が我がLDSの講師やトップチームの面々を次々カード化していったのだからな。


「くっ…!」

「立腹するのはわかるが、君も我々の仲間をカードに封印していった事を忘れるな。」

「…貴様に会うためとはいえ、本当に済まなかった。」

「謝って済む問題でなく、誠意もあまり感じられないが?償いは行動で示せ。」

「…」


だんまりか。
もっとも、むやみに責めた所で状況は変わらん。
いずれは彼らと協力してカードに封印された人々を解放する手段なども見つけなければならんのでな。
強力な駒としてこき使うまでの事。

エクシーズ次元が融合次元を蹂躙し、無差別に人々をカードを封印する事に立腹しているのは私も同じ。


『それで、融合・エクシーズ・シンクロ・スタンダードと少なくとも4つの次元がある。
 そして、エクシーズ次元が融合次元を侵略しているわけか…!
 いったいどうして、誰がこんなわけのわからない事を…!』

『ごめん、そこまでご存じではないんだ。』



ユーヤ・B・榊の疑問も尤もだ。
ネプテューヌもこれは知らないようだが、私はその答えを知っている。


「恐らくそれは、赤馬零王の野望…」


奴はこの4つの次元を1つに統一するような野望を語っていたはずだ。


『確かに、あなたたちにとってデュエルは争いの道具って認識なのかもしれない。
 現実問題、エクシーズ次元の人たちはそれを侵略の兵器にしているようだから。』

『…信じたくないかもしれないけどね。』

『でも、これだけは言わせて。
 オレの信じるデュエルはお互いに楽しく腕を競い合い、相手との駆け引きで周りの人も楽しませる。
 そんな、人を幸せにするエンターテイメントなんだ!』


「デュエルで人を幸せにだと…生ぬるい考えだ、理解に苦しむ。
 やはり、こいつは話にならん。」


紫吹が榊の主張をを一蹴するのも無理はない。
話を聞く限り、彼らにとってデュエルは戦争の火種でしかないのだからな。

だが、榊は前に私とデュエルした時と比べ、格段に成長していることがわかる。
大会での沢渡とのデュエルでで追い詰められてもなお、楽しむ姿勢などな。
そして、このようにはっきりと自分の信念を主張できるようになったのもそうだ。
厳しい状況にも、折れる事無く立ち向かっていく強かさが彼女にはある。
彼女を侮っているのだろうが、足元を掬われてもおかしくはないぞ?


『少なくとも、オレの父さん…実の父かはわからないけどデュエルでみんなを1つにできていたのを見た。
 父さんのアクションデュエルにはみんなを夢中にし笑顔にさせる力が間違いなくあった!
 そして相手にその気があったとはいえ、昨日の最後の試合はオレにもそれができるんだという事を実感できた!』

『そんな事が…!』


ああ、私も尊敬する榊遊勝のデュエルは間違いなく人々を笑顔にする力があった。
だが、ユーヤ・B・榊が彼を実の父親ではないかもしれないと疑っているだと…?
まさか、彼女は榊遊勝の実の娘ではない…?

それは兎も角、彼女の主張にネプテューヌが揺らいでいる事は確かなようだ。


『デュエルでみんなを笑顔に、か…随分無茶苦茶な事を言うんだね。
 でも、嫌いじゃないよ…いつか、そんな未来が実現するといいな。』

『願望で終わらせるのは駄目よ、それを目指さないと。
 お互いに憎しみあうのではなく、認め合える感じのね。』



デュエルに対し、一種の憎しみさえ抱いているはずのネプテューヌに共感させるとはな。
私が見込んだだけの事はある。


「ふん…いつまでそんな戯言を言ってられるか。」


もっとも、紫吹からの共感は得られなかったようだがな。
厳しいだろうが、いずれは彼にも共感を得られるようになってほしいものだな。


――ピカァァッァァ!!


――ザァァァァァァ!!



―NO SIGNAL―


「どうした、何があった!?」

「回線が切断されました!」

「周囲一帯の全ての監視カメラの応答がありません!」

「なんだと!?」


このタイミングで監視カメラが全てやられただと?
一瞬、強い光を発した事から何者かがやってきた可能性が高そうだが…!


「公園内に他のカメラはないのか?」

「申し訳ありません、位置が遠くてターゲットを捕捉できません!」

「エクシーズ次元に戻った黒龍院里久が援軍を引き連れたのかもしれん。
 いい加減、俺に行かせろ!」


それよりもこの血気盛んな紫吹をいかに制止するかだな。
彼に勝手に動かれては騒ぎが大きくなるのは明らか。
それに、どこの次元からやってきたのをまずは確認しなければ…そのためにもここは。


「紫吹、勝手な行動は控えろと言ったはずだ。
 まずは中央公園付近のエネルギー検知レベルを上げろ。
 他の次元のデュエリストが侵入していれば必ず反応があるはずだ。」

「ふざけるな、そんな悠長な事をしている場合か!」

私の街をどう守るかは私が決める。


情報なしに頭に血が昇りがちな紫吹を行かせるのはリスクが高い。
まずは冷静に状況を把握する必要がある。








――――――








Side:ブラン


オレの主張にネプテューヌが少しだけ共感してくれたみたいで嬉しい。
そんな中で突然強い光が…いったい何が起きているの?


「あらあら…いつの間にか電柱を倒してしまったのね。」


って、ここにバイクに乗った人が電柱にぶつかって出てきたけど…って、こいつは!?
すごく見覚えがある、一番会いたくなかった奴がここに…?


「お前は、あの時の通り魔!

「通り魔とは酷い呼ばれようですわね。
 あの時は状況が状況だけにそう呼ばれても仕方ありませんが。」

「って、顔見知りなんだ…?」

「正直関わりたくなかったけどな…!」


そう…何故こんなところに現れたのかはわからないけど、こいつはあの時の白バイクの通り魔だ…!

そして、彼女がヘルメットを取ったのだけど…。


「はいはい、お約束の展開乙。」

こいつもオレと同じ顔かよ…!
 つまりオレを含めて同じ顔の奴が3人…?」


体格や髪型とかは違うけど、ヘルメットを取った顔はネプテューヌのようにオレとほぼ同じ顔だった。
前に襲われたとき、口元に既視感があったのはそういう事だったのか…!


「お久しぶりですわね、ネプテューヌ。」

「今日は本当に面倒なのに絡まれるなぁ。
 そういって、わたしに乱暴する気でしょ…エクシーズの手先さん?」

「エクシーズの手先?」

「失礼ですわ、野蛮なエクシーズの方々と一緒にしないでもらいたいものね。
 それとわたくしの名はベールですわ。
 あの時は邪魔が入りましたが、今度こそあなたを倒させていただきますわ…覚悟!

「仕方ない…付き合ってあげますか!」


どうやら、この通り魔の名前はベール…フランス語で緑を意味する名前ね。
エクシーズの手先…と言われているという事はこの二人は融合次元で対面しているみたい。
2人には因縁があるみたいだけど、ベールは多分シンクロ次元のはずよね?
ネプテューヌの敵はエクシーズ次元のはずなのに一体どういうこと?


「待って…」

「あなたは後でお相手して差し上げますわ。
 そこのネプテューヌを始末してから!」

「え…!」


始末って、物騒な…!
それにオレも狙われている…どうして?
ただでさえわけがわからないのに、そう考えている間にも…!


≪DuelMode On ! AutoPirot Stand-by!≫


――バシュゥゥゥ!!


「「デュエル!!」」


ネプテューヌ:LP4000
ベール:LP4000



ベールは再びヘルメットを被り、バイクで走りながらデュエルを開始した…!
前から思うけど、バイクに乗ったままデュエルって絶対おかしい。
こんなの誰が考えたんだろう?


「先攻はいただきますわ!手札から『風槍獣ウミガラス』を召喚!」
槍獣ウミガラス:ATK1800


そして彼女はモンスターを召喚したのだけど、ネプテューヌの周りをグルグルとバイクで走っているのが気になってしまう。
2人はあくまで真面目にやっているだけに、逆にシュールで腹筋が…!
ううん、そんな事考えちゃ駄目…ちゃんと見ておかなきゃ。


「そして風属性のウミガラスを手札に戻し、手札から『風槍獣ハニー』を特殊召喚!」
風槍獣ハニー:DEF200


「ウミガラスが手札に戻った事で、手札のウミガラスとキツツキの効果を発動!
 ウミガラスの効果でデッキから『風槍獣イルカ』を手札に加え、チューナーモンスター『風槍獣キツツキ』を自らの効果で特殊召喚!」
風槍獣キツツキ:ATK1300


ここでチューナーとチューナー以外のモンスターが揃った。
早速、仕掛けてくるようね。


「わたくしはレベル2のハニーにレベル3のキツツキをチューニング!
 闇夜に眼光を煌かせる猛禽よ、疾風の槍となり空を切り裂け!シンクロ召喚!いでよ、レベル5『疾風槍アクィランサー』!!」

『キィィィィィィッ!!』
疾風槍アクィランサー:ATK2000



オレがデュエルしてきたのとは違うシンクロを出してきたわね…レベルが違うから当然だけど。
最初のターンで出したって事は…牽制向きかしら?


「わたくしはカードを1枚伏せてターンを終了しますわ。」

「わたしのターン、ドロー!」


そして、ネプテューヌはバイクに乗ったベールを前にどう出るのかしら?
だけどお願い、負けないで…!








――――――







Side:零児


「召喚反応検知!」

「エクシーズか?」

「違います、これは…」

非常に強力なシンクロの反応です!

「なんだと…?」

「シンクロ召喚…?」


召喚反応を検知してどの次元のデュエリストがやってきたのかを確認したところ、どうやらシンクロ使いらしい。
前にユーヤ・B・榊がバイクに乗った通り魔に襲われた時も強力なシンクロ召喚の反応を検知したはずだ。
そうなると、姿を現したのもおそらくそいつだろう。
エクシーズ使いであったなら紫吹を行かせてもいいのだが、シンクロ次元出身となると…もう少し様子を伺う必要があるな。
シンクロ次元が敵なのかあるいは味方なのかわからない現状は猶更だ。
いずれにしろ、紫吹が下手に行ってシンクロ使いを刺激するのは得策ではない。
もっとも…現地にいる二人が刺激している可能性もなくはないが、紫吹に比べればまだ問題はない。
誰がデュエルしているかは…今後の反応でわかることだろう。








――――――








Side:ネプテューヌ


公園内でブランというこの次元のわたしと同じ顔の少女と話し込んでいたところに、バイクに乗った同じ顔をした女が突然現れて襲い掛かって来た件について。
ま、彼女とは故郷で遭遇していてベールって名前も知ってたんだけどさ。
で、何故かはわからないんだけどわたしってば出合い頭に目の敵にされてるんだよね。
それに、あのブランって子も彼女から狙われているみたいだって事はわかった。
とりあえずブランを守るためにも、まずはベールを退けないと…!
どうも、隙あればバイクでひき逃げする気満々だから油断ならないけどね。

ベールはいきなりシンクロ召喚してきたし、こっちも最初から全力で飛ばすとしますか!


「わたしは手札から魔法カード『融合』を発動!」

「ですが、あなたが魔法・罠カードを発動した事でアクィランサーの効果発動!
 ご存じだとは思いますが、あなたに700ダメージを与えますわ!」

「くっ…!」
ネプテューヌ:LP8000→3300


魔法・罠を使うたびに700ダメージって割と洒落にならない数値よね。
早めに処理するに越した事はない。
ちなみに発動するのは1ターンに1度だというのも知っていたり。


「効果そのものを無効にするわけではないわよね。
 わたしが融合するのは手札の『GH(ゲイムハート)チック・バード』と『GH(ゲイムハート)スーパー・プラマー』!
 雛鳥と赤き超人…二人の英雄の心を重ね、荒廃した地を踏みしめよ!融合召喚!駆け抜けよ、レベル5GH(ゲイムハート)ディアトリマ・ライダー』!!」

『デアッ!!』
GHディアトリマ・ライダー:ATK2000



「スーパー・プラマーを素材としたディアトリマ・ライダーは攻撃力が500アップ!」
GHディアトリマ・ライダー:ATK2000→2500


「これでアクィランサーの攻撃力を上回ったわ!」

「そしてディアトリマ・ライダーが融合召喚した時、フィールドの魔法・罠カード1枚を破壊できる!
 破壊するのは勿論、セットされたカードよ!」

「ならこのタイミングで使うだけですわ!罠カード『疾風気流』を発動!
 これにより、墓地から『風槍』モンスター1体『風槍獣キツツキ』を手札に戻しますわ。」


ブラフに近いフリーチェーンの罠を伏せていたか。
それでも、セットカードを空にさせる事はできたわけで安心して攻撃できる。


「バトル!ディアトリマ・ライダーでアクィランサーを攻撃!」

「アクィランサーを攻撃したわね?なら再び思い知りなさい!
 この瞬間、アクィランサーのもう1つの効果を…」


確か、アクィランサーの効果は自身が戦闘を行う攻撃宣言時にフィールドの表側カード1枚を手札に戻すという厄介極まりない代物だった。
前に一度デュエルをしていた時に見ていたからね。


「勿論、忘れてなんていないわ。
 でも残念!チック・バードを融合素材にしたモンスターが攻撃する場合、相手はダメステ終了時まで一切のモンスター効果を発動できなくなる!」

なんですって!?

「切り裂け『ランアウェイ・ブレイバー』!!」


――ズバァアッ!!


「っ…!」
ベール:LP4000→3500


「よし、あの通り魔に先制ダメージを与えたわ!」

「わたしはカードを2枚伏せてターンエンド!」


――ギギィィッ!!


「先ほどはしてやられましたわね。
 ですけど、まだまだ本番はこれからですわ!」


シンクロモンスターこそは処理できたけど、ベールの言う通りこれからなんだよね。
今は停止しているのだけど、相手はバイクに乗っている。
それにブランがいる事も考慮して立ち回らなければならない。
これは、一瞬たりとも気が抜けないわけだね…!














 続く 






登場カード補足






疾風槍アクィランサー
シンクロ・効果モンスター
星5/風属性/鳥獣族/攻2000/守1800
チューナー+チューナー以外の風属性モンスター1体以上
「疾風槍アクィランサー」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが戦闘を行う攻撃宣言時、フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを持ち主の手札に戻す。
(2):相手が魔法・罠カードを発動した場合に発動する。
相手に700ダメージを与える。



風槍獣ハニー
効果モンスター
星2/風属性/昆虫族/攻 800/守 200
「風槍獣ハニー」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが手札にある場合、自分フィールドの風属性モンスター1体を手札に戻して発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキからレベル4以下の「風槍」モンスター1体を特殊召喚する。



融合縛鎖
永続罠
相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。
(1):このカードの発動時の効果処理として、
対象の攻撃モンスターの攻撃を無効にし、自分の墓地の「融合」1枚を選んで手札に加える。
(2):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、
対象のモンスターは攻撃できない。



疾風気流
通常罠
(1):自分の墓地のレベル4以下の「風槍」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを手札に加える。
この効果で加えたモンスターがチューナーの場合、手札に加えたモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ相手フィールドのモンスター1体を選んで持ち主の手札に戻す事ができる。