Side:権現坂
LDSが遊勝塾に三番勝負を仕掛けた時、不動のデュエルは貫き通したものの相手を打ち破るまでに至る事は叶わなかった。
相手側の事情で情けをかけられていなければ、今頃ブランは連れ去られていたかもしれん。
悔しいが、今のままの俺ではブランに顔向けはできん。
山に篭り独り修行に励んでいたのだが…伸び悩む一方だった。
これは、いよいよ不動のデュエルも進化せねばならぬ時が来たと考えていた。
思い立ったら吉日、俺は恥を忍んである事の教えを乞う事を決心したのだ。
「俺は直に見たが、今の榊はお前が知ってるかつての彼女とは別次元。
奴を倒すにはまだ足りないぞ!もっと熱い闘志で俺にぶつかってくるんだ!」
「おう!」
そう、三番勝負で引き分けになった相手…LDSシンクロコースのエース『早見烈悟』殿にな。
ブランはあれから日々研鑽し、常日頃己の戦術を進化させているようだ。
ならば、俺はそれ以上に不動のデュエルを極め…より高みを目指すのみ!
今は敢えて距離を置かせていただいているが、全ては来たる決戦の場に備えての事!
ブランよ、いよいよ全力を超えて死力を尽くして勝負する時が来るようだ!
俺は先に待っているぞ!!
超次元ゲイム ARC-V 第20話
『魔術纏いし甲殻魔将』
ブラン:LP1400
ハードシェル・クラブ:DEF2100
甲殻水影ドロブスター:Pスケール3
シュテルアーム・ロブスター:Pスケール5
ミエル:LP4000
超占術姫オラクルブライト:ATK2600
占術姫キャンドルサラマンダー:ATK1800
占術姫ウィジャモリガン:ATK1300
占術姫ペタルエルフ:ATK800
Side:ブラン
「命にかかわるって…!」
「出鱈目言って動揺させるつもりなんだ!」
「けどよ、今までの占いは少なくとも遠からずだぜ…!」
しかも割と追い詰められている現状…これはまずいわね。
ハードシェル・クラブの素材も尽きて破壊耐性がなくなったことだしね。
このターンを耐えきったとしても、『愚者の悪戯』のせいで生半可な動きができないのよね。
それに相手の子はこれ以上続けたらオレの命に係わると占いの結果を出した。
現にオレはこのデュエルで散々な目に遭っている。
もっとも、ペンデュラムのその先を見いだすためにも…夢への第一歩を踏みしめるためにもこんなところで引くわけにはいかない。
「それを鵜呑みにして、普通『はい投了します』って言う?冗談じゃない。」
「まだやる気のようね…けど、大怪我したくなかったら早くサレンダーなさい!」
「ふざけないで。怪我が怖くてビクビクしてたら、アクションデュエルなんてできないわよ。」
大怪我のリスクがあるって事は最初から承知の上さ。
苦情が来ないのも、みんな厳しい練習をした上で覚悟してやってるからでしょ?
確かにオレは別の意味で身の危険や絶望感を感じて無様に泣き出した事はあるけど、それまでのオレはあの時まで。
「それもそうね…でも、どうなっても知らないわよ。
ミエルのターン、ドロー!スタンバイフェイズにオラクルブライトの2つ目の効果を発動!
この効果で除外された自分のカード1枚…『黒猫の睨み』を墓地に戻すわ。」
「成程…!」
これと手札のスピリットの効果によってリバースコンボによるいわゆるハメ技が成立というわけか。
厄介な布陣を展開してきたわね。
「でも、気付いた所で対処できるかは別問題よ!それにあなたの布陣で防ぎきれるかしら?
ここでオラクルブライトの効果を使ってハードシェル・クラブの表示形式を変更し、バトル!」
ハードシェル・クラブ:DEF2100→ATK1800
しかも、オラクルブライトの効果で無理やりハードシェル・クラブが起こされたか。
このターンでオレを仕留める気満々ね。
「オラクルブライトでハードシェル・クラブに攻撃!
そろそろその蟹には退場していただくわ…『スプリットカード』!!」
――ピシュシュ!!
「ぐわぁぁぁぁぁぁ…!!」
ブラン:LP1400→600
――ピキッ…!
ごめん、ハードシェル・クラブ…!
今まで耐えてくれてありがとう…!
「そして、これで終わらせてあげるわ!キャンドルサラマンダーでダイレクトアタック!」
「ブランお姉ちゃん!」
だけど、まだやられてたまるか!
「待った!500ライフを払って永続罠発動『瀑布の障壁』!このカードが存在する限り、お互いの水属性以外のモンスターは直接攻撃できない!」
ブラン:LP600→100
――ザッバァァッァ!!
「まだ足掻くみたいね…だけど、それでこの運命を覆せると思わない事ね。」
「かもね…でも、運命なんてものに捕らわれていたら足元掬われるのはそっちかもよ?」
だから、不利な状況であろうと立ち向かわなきゃね。
それに神なんているかもわからないものより、自分自身を信じるべきだもの。
「かもねじゃ済まされない事よ。
目を逸らさずに破滅へと向かうあなた自身の運命を見なさい。
今ならまだ間に合うわ…破滅から逃れるためにここでサレンダーなさい!」
「だから何?運命に流されるよりは立ち向かってナンボよ。
だって、オレだってエンタメデュエリストの端くれなのだからね。」
それが過酷な運命でも敢えて楽しむくらいの気概は見せなきゃ。
何より、宗教臭い子の言いなりなんて嫌だから。
「そうだ!それでこそブランお姉ちゃんだ!」
「だから、胡散臭い占いなんかに負けないで!」
ふふ、ありがとね。
「ですが、占いと言う相手の型にはめられているのも事実。
ブラン君にはそれを打ち破ってより驚愕のエンタメを見せてもらわないと…」
一方でニコが意味深な事を呟いているわね。
確かにこのハメ技に対抗できないとどうにもならないわね。
もっとも、今のところは完全に彼の思惑通りなようね。
だったら、猶の事…彼女には負けられなくなってきたわ。
「このままデュエルを続けさせるのは危険だわ。」
「ええ、私の占いでもそう出ている。」
「やはり、運命には逆らえないのです。」
「ふっ、いいザマだ。」
で、怪しげなフードを被った観客たちが煩いけどなんなのこの人たち?しかも一人異様に怪しいのがいるし。
よし…この人たちの嫌な予想を打ち破った上で驚かせないと。
「折角忠告してあげてるのに、これ以上言っても無駄なようね。
その事があなたの未来に何をもたらすのか…アクションカードで占ってあげるわ。」
っと思ってる間に彼女がアクションカードを拾ってしまったわね。
確かここのアクションカードは…?
「…アクションマジック『ドロー・ロック』を発動!」
「げっ!?」
「その嫌そうな反応…ご存じのようね。
この効果の発動後、あなたはアクションカード1枚を墓地へ送るまでドローできない!」
ここでこのえげつないものを引いてきやがったよ!
これで否が応でもアクション魔法を拾わなくてはならなくなったわけだが…!
「これ以上、運命に抗ってはならないとカードが告げているのよ。
悪い事は言わないからサレンダーなさい!」
確かに盤面などで大幅に不利だけど、だからといってサレンダーする理由にはならない。
それにあまりに言いたい放題すぎて、そろそろキレてもいい頃じゃないかな?
あまり言われっぱなしなのは嫌だからね。
「はぁ…口を開けば『サレンダーしろ』とばかり連呼しやがって…!
だったら猶の事サレンダーできるか!!
こうなったら、どんなにオレ自身を危険に晒してでもお前に目にモノを見せてやる!」
「ここまで来てまだ…!もういい!ミエルは『占術姫の占い手』を召喚!」
占術姫の占い手:ATK1300
「召喚した時の効果でキャンドルサラマンダーを裏守備に!
そして、墓地の『黒猫の睨み』を除外してペタルエルフとウィジャモリガンも裏守備にする!」
やはりコンボの準備は忘れないようね。
手札には腐った特殊召喚モンスターのみ。
そして、アクションカードを拾わなければ一切のドローもできない。
また、この永続罠もスタンバイに500ライフ払わなければ維持できない代物。
まさに崖っぷちに追い詰められた状態ね。
「ミエルはカードを1枚伏せてターンエンド!」
彼女はさっきの大凶でオレがアクションカードを取るのを躊躇するだろうと思ってるのだろうが…。
逆に言ってしまえば、今が運の底辺と言えるのかもしれない。
だったら、後は上がるだけだ。
絶対にアクション魔法を見つけ出す!
「ここでスピリットモンスターの『占術姫の占い手』は手札に戻る。
だけど、あなたはドロー・ロックの効果でドローはできないわ。」
「そんな事は百も承知だ!
一度大凶を引いた今、オレの今の運は底辺そのものだろう。
だったらこう考えられないか?後は上がるしかないと!」
「そんなのは屁理屈よ!も、もうやめなさい…危険だって言ってるのがわからないの!」
心配してくれてるみたいだけど馬鹿言うな、筋が立たないのはそっちの占いも同じだろ?
可能性が限りなく低くても0%じゃない限り、諦めない!
――バキバキッ!
「ブランお姉ちゃん!ステージが…!」
「これ以上は本当にやべぇって!」
ごめん…だからってこのまま諦めるわけにはいかない!
ステージが崩れかけてるのは、ハードシェル・クラブがやられた時から知ってた!
今のオレには崩れかけた展望の台にあるアクションカードに目が行っている。
怖いけど、なんというかアレを取らないといけない気がする。
そうと決まればなんとしても取る!
今まで必死に鍛えてきたんだ…この程度取れない道理はない!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
――――――
Side:柚子
「ここで僕は〜クラフトイ・マッド・ベアーでダイレクトアタック〜!」
――ドガァァァ!!
「これで私のライフは0〜!」
オペラ塾生:LP1700→0
やったね、里久!
これで無敗での6連勝達成よ!
それにしても、ミュージカル的なデュエルに妙にノリノリだったね。
「あ〜楽しかった!で、これで無事6連勝達成だね。」
「おめでとう!これでジュニアユース選手権に出られるわね。」
「ま、僕からしたら今までのはウォーミングアップみたいなものだけどね。」
楽しかったみたいだけど、ここまでは予定調和みたい。
そうね、あたしも彼もここからが本番なのだから。
「それより早くしないとブランのデュエル終わっちゃうって!」
「ちょっ、だからって引っ張らないでよ!」
そうしてあたしたちは連戦中のブランのデュエルを初めて観戦しに行く事になったわ。
今までは何とか勝ってきているみたいだけど、大丈夫かしら?
何か、胸騒ぎがするわ。
――――――
Side:ミエル
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
なんなのよもう…折角人が忠告しているというのに!
伏せたリバース・リユースの効果で墓地のリバースモンスター2体を相手フィールドの2体特殊召喚し、ウィジャモリガンとのコンボで終わらせようと思ったのに…!
自分から崩れゆく展望台に突っ込んでまでアクションカードを取りにいくってどういう神経してるのよ…?
これじゃ、オラクルブライトの出した運命通りになっちゃう…!
――ドンガラガッシャァン!!
「きゃぁぁぁぁ!?」
「「「ひぇぇぇぇぇ!?」」」
ひっ、これは…ステージが完全に崩壊しちゃったじゃない…!
恐らく…瓦礫の下に…!
「ぁ…!うっ…!」
「そんな…!」
――ガラァァァァァ!!
「ふぅ…ひやひやしたけど、案外なんとかなるものね。」
「へっ!?」
信じられない事に1枚の瓦礫が動くと、その中からアクションマジックを手にした彼女の姿が!?
嘘でしょ…あの崩壊から生還できた…?
「それで手に入れたのがアクションマジック『奇跡』ってのが作為的なものを感じるわね。
当然これを捨てて、ドローロックの制約を解除させてもらう!」
「よし!」
「ブランお姉ちゃんがアクションマジックを!」
「これは痺れるぅ〜!」
つまり…オラクルブライトの導き出した運命が変わった!?
命の危機を乗り越え、文字通り奇跡をつかみ取ったというの?
今までミエルの占いが外れた事がないのに…この人、いったい何者?
彼女からは得体のしれない恐ろしい何かを感じるわ……!
もしかしたら、運命の人というのはミエルの考えていたような意味じゃない?
――――――
Side:ブラン
「運命を変えたですって!?」
「チッ、しぶといガキだ。」
「閉ざされていた未来への道を彼女は切り開いたようですが…?」
さて、文字通り『奇跡』をつかみ取ったところで…ここから反撃しなくちゃ意味がない。
不利である状況に変わりはないけど、チャンスは十二分にあるはずだ。
「ドローロックも解除したところでここからが反撃だ!オレのターン…!?」
『ウォォォォォォォォ!!』
――ドクンッ!
そう思ってドローをしようと思ったら、今脳裏に変な鳴き声が…?
何かが…オレに呼びかけている…?
まるで『我を呼び出せ…!』というような感じに。
「何だ…今の?」
だけど、何故このタイミングで…?
わけがわからないけど、まずはドローしない事には始まらない…!
「…ドロー!!」
土壇場でオレが引いたカードは…見覚えのない謎のカードだった。
これは、まさか…エクストラデッキに生み出された3枚のカードと関連が…?
恐らく、今の謎の光景が浮かんだタイミングで生み出されたカードではあるのだろうけど…?
生み出された原因は…これも昨日のあの件だろうけど。
そしてこの効果……これだ!オレが渇望していたものは!
その前に…ドロブスターの効果を使っておく。
「スタンバイフェイズに500ライフの維持コストが払えない事で『瀑布の障壁』は墓地へ送られる。
お楽しみはこれからだが…その前にペンデュラムゾーンのドロブスターの効果発動!
もう片方に『ロブスター』カードがある時、このカードを破壊し1枚ドローする!」
「ええっ!?ペンデュラム召喚しないで自分からペンデュラムカードを?」
「ブランお姉ちゃんは一体何を…?」
これは、どちらかと言えば駄目押しね。
出る時にならないと正体がわからない以上は賭けになるけど…やってみるのみ。
「さて、ここからエンタメデュエリストのユーヤ・B・榊が送る奇蹟のカーニバル……開幕だ!!
オレは手札からチューナーモンスター『霊媒の魔術師』を召喚!」
『えいっ…!』
霊媒の魔術師:ATK500
「「「チューナーモンスター!?」」」
「そんなのも使うのね…でもね、それだけじゃシンクロ召喚はできないわ。」
確かに一見そう思えるわね…でも。
「霊媒の魔術師が召喚に成功したターン、このカードをシンクロ素材にする場合、エクストラデッキに表側表示で存在するペンデュラムモンスター1体もシンクロ素材にできる!」
「なんですって!?エクストラデッキのペンデュラムモンスターをシンクロ素材に!?」
「まさか、ペンデュラム召喚をしなかったのって…?」
つまり、そういう事。
オレが注目したのはペンデュラム召喚そのものではなくペンデュラムモンスターがエクストラデッキに行く性質。
赤馬零児…オレも遂に見つけた、ペンデュラムのその先を!
…経緯は事故みたいなものだけど。
「オレはエクストラデッキのレベル7のペンデュラムモンスター『甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター』にレベル3の『霊媒の魔術師』をチューニング!
交信の魔術よ、閃光と共に甲殻の鎧に今宿らん!シンクロ召喚!出でよ、レベル10!魔術纏いし『甲殻魔将ルーンシェル
『ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』
甲殻魔将ルーンシェル・P・ロブスター:ATK3000
――ゴォォォォォォ!!
「きゃぁぁぁっ…何、このモンスターは…!」
「ぐっ!?なんだこれは…!」
これが初めてのシンクロ召喚により生み出されしオレの新たな切り札…!
何か今の召喚時の衝撃…やけに激しくなかったか?
「か、かっこいい…!」
「いつの間にブランお姉ちゃんがこんな凄い戦術を見出していたなんて…!」
「し、痺れすぎてまじやべぇ…!」
でも、子供たちの反応も上々だ。
そしてニコの方を見ると…これは手ごたえありね!
『ななな、な〜んとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
ブラン選手…エクストラデッキのモンスターを利用し、強大なシンクロモンスターを呼び出して来ました!
今まで以上に見るものを驚愕させるサプライズを披露してくださった模様です!』
「これが、オレの見出したペンデュラムのその先…名付けてペンデュラムシンクロだ!!」
「「「「「「わぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」
まさか、こんな薄気味の悪い所で静寂を熱狂に変えられるなんてね…これだからエンタメはやめられない。
それにしても、黒フードの姿の観客が熱狂しているという光景はどうなんだろう?
だけど、まずはこれで流れを変えられた!
「はぁ、はぁ…よかった、まだ終わってないわ。」
「気になるのは、あんな凄そうなモンスターだね…!
少なくとも…エクシーズではないみたいだけど。」
っと、ここで柚子と里久がやってきたみたいね。
少し遅かったわね、一番の盛り上がりはさっきのペンデュラムシンクロだったのに。
「破滅の運命を逃れた上でエクストラのペンデュラムを利用したシンクロなんて恐れ入ったわ。
だけど、ミエルのリバースコンボは未だ健在よ!
オラクルブライトの効果を発動し、キャンドルサラマンダーをリバース!」
占術姫キャンドルサラマンダー:ATK1800
確かにシンクロモンスターを出したところで、普通なら相手のリバースコンボか永続罠で止められるのがオチ。
「そしてキャンドルサラマンダーがリバースした事でミエルの残りの裏守備モンスターを全てリバースする!」
占術姫ペタルエルフ:ATK800
占術姫ウィジャモリガン:ATK1300
普通なら…ね。
「そしてペタルエルフのリバース効果であなたのルーンシェルの表示形式を変更するわ!」
「拙い!確かにまだ目先の問題が解決したわけじゃなかった!」
「やはり、このデュエル…あなたの勝利はないのよ!これで…」
「それはどうかな?」
甲殻魔将ルーンシェル・P・ロブスター:ATK3000
「そんな…表示形式が、変更しない!?」
「残念…ルーン魔術の加護のある今のルーンシェルに一切の相手の効果は通用しない!
ルーンシェル・P・ロブスターの第一の効果!エクストラデッキのペンデュラムを含む素材でシンクロ召喚したターン、相手の効果を受けない!」
「な、なんですって!?それじゃ『愚者の悪戯』も通用しない…!?」
そういうことだ。
正にペンデュラムシンクロを利用する事で真価を発揮できるのがこのルーンシェルだ。
そして相手は焦ってるが故にこのタイミングで効果を使うミスをした。
複数のモンスターを攻撃表示で晒す事になった。
「それでもこれではミエルのライフを削り切るのは…」
「シンクロ召喚されたルーンシェルは1度のバトルフェイズに3回までモンスターに攻撃できる!」
「なんですって!?」
この状況にはああつらえむきの効果だ!
相手モンスターを3体まで蹴散らせられるからな!
もっとも…実は貫通効果を付与するカードを引いたなんて言えないけど。
「バトル!ルーンシェル・P・ロブスターでウィジャモリガン、ペタルエルフ、オラクルブライトの3体を攻撃!
こいつでフィナーレだ!喰らいやがれ、超弩級の宣布の連撃!『連撃のシャイニー・シュラーク』!!」
――ドドドドッガァァァァァァァァァァ!!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ミエル:LP4000→2300→100→0
『ききき決まったぁぁぁぁぁぁ!!これによりブラン選手の大逆転勝利!!
ミエル選手の占いによる破滅を防ぎ、ペンデュラムモンスターの性質を利用した特殊なシンクロ召喚というサプライズをもって見事に未来を掴み取りました!』
「「「「「「「わぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」
喝采、ありがとう!この場に似つかわしくないというのはおいといてだ。
兎に角、これで4勝目…これでジュニアユース出場まで残り一勝まで迫った!
「やったね、ブランお姉ちゃん!」
「エクストラのペンデュラムを素材にしてのシンクロ、あんなの初めて見た!」
「いわゆるペンデュラムシンクロ…超しびれるぅ〜!」
そして、ここまでで目標としていたペンデュラムのその先も見つける事ができた。
ここまででハプニングが重なったが故の偶然ととることもできるけど、結果オーライかな。
何よりエクシーズ以上に会得したかったシンクロ召喚ができるようになったのは大変うれしい限りだ。
「その瞬間は見逃しちゃったけど、シンクロもできるようになったんだね。」
「柚子に里久も来てくれてありがと。
まぁ、なんというか…いろいろあってね。」
自分でも何が何だかわからないほどに目まぐるしく色々な事があった。
どうも、昨日のバイクの通り魔のシンクロによる攻撃が大きく関わってきているみたいなのが謎だけど。
「それにただのシンクロ召喚じゃないよ。
エクストラデッキのペンデュラムを素材にしてのペンデュラムシンクロ。
赤馬零児が言った『ペンデュラムのその先』…その納得のいく答えが遂に見つかったんだ。」
「ペンデュラムのその先…ねぇ?」
なんというか、呆れたような反応なのが気になるわね。
「う〜ん…思ったんだけど、ブランってどこかずれていると思うんだよね。」
「むぅ…何が言いたいのよ?」
「いや、ちょっと考え過ぎたりしてるんじゃないかなと思ってさ。」
へ…考え過ぎ?
「灯台下暗しっていうじゃん?身近にある答えは意外と気付きにくいというね。
それに『ペンデュラムのその先』…僕が考えるにペンデュラム召喚の後に何かする事だと思うんだよね。
ま、ブランが導いたというそれもアリだと思うよ…答えは一つじゃないというのが相場だし。」
「成程、あいつが見つけたのと違う可能性も大有りってことみたいね。」
確かにそうかもね…あくまでこれはオレ自身の答えに過ぎない。
何か根本的な思い違いをしていた可能性も十二分にありえるわけね。
それに、ペンデュラムに対する意識や価値観も人によってまた違ってくるだろうしね。
「でもそれはそれ、これはこれ。
考え方や意識も人それぞれだろうし、オレはあくまでこの考えでいかせてもらうわ。」
「ま、同じ考えだったらそれはそれでつまんないと思うからね。」
確かにそうよね。
逆に同じ答えだったらそれはそれで怖いわね。
「では、今日はこれで帰りましょう?」
「ユーヤ・B・榊…ちょっと待ちなさい!」
そしてこの場を後にしようとした時、今回の相手に呼び止められる。
「何かしら?」
「確かにあなたはミエルにとって運命の人だという事を理解したわ。
占いにより導き出されるものがいつも正しいとは限らないと教えてくれたというね。」
「何を今更。」
何より、占いだと運命だのに翻弄されるわけにいかないの。
「でも破滅の運命を逃れた事といい、自称ペンデュラムシンクロといい…あなた何者?本当に人間?」
「…は?お前は何を言ってるんだ?」
ペンデュラムのその先を自称呼ばわりされたのもムッときたけど、人間である事を否定されたのはもっと頭にくるわね。
「何を言ってるも何もあなた、自分が得体の知れない存在かもしれないのは覚悟しておきなさい。
今になって気付いたけど、ペンデュラム関連で不気味な力のようなものを確かに感じたのよ。」
「オレが…得体のしれない存在?」
しかしながらそんな事出鱈目だと反論したいところだが、易々と否定できない。
オレの持つカードがあの時以来時々ペンデュラムカードに変化したり、昨日の暴走といいね。
冷静に考えると、今日のデュエルもステージの崩壊に巻き込まれたのに大した事なかったりと何かおかしい。
それにオレに似ているというネプなんとかの存在なんかも気になる。
結局のところオレは…何者なの?
「…わからないけど、オレは自分をただのエンタメデュエリストの端くれだと思っているわ。」
「そう…でも、占い関係なしに一応忠告しておくわ。
その得体のしれない力の扱いには気を付けなさい…下手すると碌でもない事が起こるわよ。」
「その忠告、肝に銘じておくわ。」
確かにオレのカードの大半は得体のしれない何かから発生したものといえる。
それを何気なく使っていたのだけど、その扱いには十分気を付けなきゃならないかもしれない。
…そう考えると、沢渡に自然発生したペンデュラムカードをねね経由で渡したのは拙かったかもしれないわね。
「あたしは…これから先、何があったってブランなら大丈夫だって信じてるから。」
「ブランが実はとんでもなくすごい存在だった!なんて言ったら僕は嬉しいけどね。」
「もう、里久ったら…柚子もありがとね。」
例えオレが何者であろうと、オレはオレだ。
仲間たちに支えられてこそ今のオレがあるんだ。
「いい友達たちに恵まれてるわね…大事になさい。
それと、今日のデュエル…貴重な経験が出来てよかったわ。」
「そういってくれればこちらとしても甲斐があったものよ。
あなたのリバースコンボこそ見事だったわ…今回はありがとね。」
そうして、お互いに礼をしてこの場を後にした。
これから先、碌でもない事が待っていようと…オレはきっと乗り越えて見せるから。
――――――
Side:海野塾長
我が海野占い塾の生徒…方中ミエルの占いで示した不吉な運命。
それを打ち破り、自らの運命を切り開いた少女に果たしていかなる運命が待つのか。
――ピ、ピキィィッ!
「これは…!?」
水晶玉であの少女…ユーヤ・B・榊の運命を改めて占ってみた所、水晶玉が割れた…?
彼女には我々が想像もしえない壮絶な運命が待ち構えているみたい。
彼女には得体のしれない何か恐ろしいものがある。
ですがどんなに残酷な運命が彼女を待ち構えていたとしても、乗り越えられる事をお祈りします。
――――――
Side:???
くそっ…何がどうなっている。
このガキ…ユーヤ・B・榊が今、何をした?
いや待て…この顔、どこかで?
確か、相手の方中ミエルが奴の事を『人間じゃない』とか言っていたな。
人間じゃない…か。
それに噂だとこいつがペンデュラムという謎の召喚法を発現させた…?
ククク、アーッハハハ!!
何故だ、何故今まで気付かなかった!
私の推測が正しければ、こいつは本当の4人目の女神…覚醒していないようだがな。
ネプテューヌ、ノワール、ベール…奴ら各召喚次元の女神共とほぼ同じ顔からして間違いない。
今まではルウィー教会にいる幼いガキがスタンダードの女神かと思っていたが、あれはあくまで囮の類といったところか。
今でこそ奴らの中で最弱だが、確実に後で最も脅威になる存在に違いない。
先ほどのシンクロの奴らに匹敵する強力なシンクロ召喚を見せた事からもな。
シンクロの老いぼれから聞いたが、奴らの抱えている女神…ベールが余計な事をしてくれたようだな。
この事からも今後も奴を他の女神と接触され続ければ手に負えなくなる可能性が高い。
女神として覚醒していないでだろう、今の内に始末しておいてもいいが…仲間にエクシーズの鼠が紛れ込んでいるのが気になるな。
それに、下手に動けばルウィー教会の奴らが黙ってはいないだろうからな。
まぁいい、今は泳がせておくとするか。
だが、アヴニールの連中には伝えておくとしよう。
いずれ起こる混乱に乗じて…この手を汚さずに始末させるためにな!
――――――
Side:零児
「社長…昨日ほどのものではないにしろ、またしても強力なシンクロ召喚の反応が確認されました。」
「…場所は?」
「海野占い塾です。その時間にどうやらユーヤ・B・榊が公式戦をしていた模様。」
「何…?」
昨日に引き続き強力なシンクロ召喚の反応だと…?
しかもユーヤ・B・榊が試合をしていた時間で同じ場所…まさか、彼女が?
「中島…念のため、他の召喚反応の報告も頼みたい。」
「はっ…その前には微弱なエクシーズ召喚の反応、勿論ペンデュラム召喚の反応もありました。」
「成程…とすると、やはり彼女が。報告ご苦労。」
シンクロ召喚の反応が妙に強いらしいのが気になるところだが、やはりそうか。
そういえば、昨日シンクロコースの早見が妙な報告をしていたようだ。
『バイクに乗ったシンクロ使いの攻撃を受けた瞬間、彼女の様子がおかしくなった。』と。
正直彼女には謎が多いが、恐らくその攻撃の影響でシンクロの力が発現した可能性が高いだろう。
無論、彼女を襲ったというそのバイクに乗ったシンクロ使いにも気を付けなければならない。
だが、情報が途絶えている現状はそのシンクロ使いの件は後回しだ。
それはそれとして今は…!
「それは兎も角、例の襲撃者の話に戻りますが…志願した3人の行方は?」
「辰ヶ谷真文はTF13地区を移動中。」
「桜小路栗音はZX97地区に入りました。」
「一方で早見烈悟の姿が見当たらず、作戦区域外にでているようですが…?」
「直ぐに呼び戻せ。」
遊勝塾をかけての勝負の時に連れてきた、3人の動向を監視して西川やマルコらをカードに封印した融合使いを追っているところだ。
何よりまずは彼を確保する事こそが最優先事項だ…被害を食い止めるためにもな。
だが、そのうち早見が私用で離れているようだ。
「何が『俺たち3人に任せろ』だ。だから私はスクール生を使う事に反対…」
「監視を怠るな。」
「社長!」
「奴らは現れる…必ず。」
彼の狙いは恐らく私にあるだろうからな。
だとすれば、彼が何か思い違いをしている可能性が高い以上…彼らを囮にしてでも接触を試みるとするか。
続く
登場カード補足
甲殻魔将ルーンシェル・P・ロブスター
シンクロ・効果モンスター
星10/水属性/水族/攻3000/守2000
魔法使い族チューナー+チューナー以外の水族Pモンスター1体
(1):S召喚したこのカードは1度のバトルフェイズ中に3回までモンスターに攻撃できる。
(2):エクストラデッキの表側表示のPモンスターを素材としてこのカードがS召喚に成功したターン、このカードは相手の効果を受けない。
(3):S召喚したこのカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。
自分のエクストラデッキの表側表示の「ロブスター」Pモンスター1体を選んで特殊召喚する。
霊媒の魔術師
ペンデュラム・チューナー・効果モンスター
星3/光属性/魔法使い族/攻 500/守1600
Pスケール「8:8」
(1):もう片方のPゾーンに「オッドシェル」カードまたは「オッドアイズ」カードが存在しない場合、このカードのPスケールは5になる。
(2):自分は水族・魚族のモンスターしかP召喚できない。
この効果は無効化されない。
『モンスター効果』
特殊召喚されたこのカードはS素材にできない。
このカードをS素材とする場合、水属性モンスターのS召喚にしか使用できない。
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動する。
このターン、このカードを素材としてS召喚する場合、自分のエクストラデッキの表側表示の水属性のPモンスター1体もS素材にできる。
(2):このカードはレベル3以下のモンスターの効果の対象にならない。
瀑布の障壁
永続罠
500LPを払ってこのカードを発動できる。
このカードのコントローラーは自分スタンバイフェイズ毎に500LPを払うか、このカードを破壊する。
(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、お互いに水属性以外のモンスターは直接攻撃できない。
ドロー・ロック
アクション魔法
相手はアクション魔法カード1枚を捨てる事でこの効果は適用されなくなる。
(1):発動後、相手はデッキからカードをドローできない。