Side:ブラン


「予想を大きく上回るものを見せてこそプロ…ねぇ?」


ジュニアユース選手権出場のための5連戦の3戦目、光焔ねねとの激闘を勝利で終える事ができた。
その後日にオレはその辺で物思いにふけっていた。

というのも実はニコにとっては今までのオレの戦術がまだ想定の範囲内だという事を言われたからだ。
でも、流石に俺の新たな仲間であるオマール・ドラゴンの変な出し方には驚いたと思うのだけどなぁ。
まぁ、オレを奮い立たせるためのハッタリと言う可能性もあるけどね。

とはいえ、結局のところオレはまだペンデュラムのその先をつかめていない。
もっとも、前の試合で披露したオマール・ドラゴンもその答えの一環と言えばそうかもしれない。
だけど、もう一声何か足りない気がするのよね。
限りなく答えに近づいた様な気はするのだけれども、どうなんだろう。

でも、考え過ぎていても仕方ないかな。
だけど、できれば早いうちにペンデュラムのその先の答えを見出したいところだ。
それを見つけて5戦目を勝ち抜いてからがようやくオレの夢へのスタートラインなのだから。

1戦目のロリコンデブとのデュエルでは『周りの人を笑顔にさせる喜び』を。
2戦目のクイズ野郎とのデュエルでは『デュエルはコミュニケーションツール』である事を。
3戦目のねねとのデュエルでは『ライバルを倒す強い意志と姿勢』を学んだはず。
となると、次の4戦目でそろそろ『周りの度肝を抜く強烈なインパクト』が欲しい所かもしれない。
…3戦目でもある意味で度肝を抜くような事はやったかもしれないけど、あれは観客のいないデュエルでたまたまだ。
そのタイミングで『ペンデュラムのその先』を見出したいところね。

だけど、この時のオレはあまりにも不用心だった。
なにせ、この後にとんでもない事が起こるとは思いもしていなかったのだから。









超次元ゲイム ARC-V 第18話
『強襲!疾風の槍』










Side:烈悟


「本当にまた犯人を探すというのか?栗音様は…」

「この前のように、酷い目に遭っても知らないぜ?」


ったくよ…栗音の奴、この前に犯人らしき奴を見つけたらしいのはいいんだがなぁ。
その時は本当に酷い格好をして戻ってきてたまげたぜ…俺たち青少年の目にはとても毒だったと言わざるを得ない。
しかもその時にユーヤ・B・榊に借りを作ったとか…栗音の性格を考えると非情に屈辱だっただろう事は容易に想像できる。
悔しい思いをしたのはわかるけど、また探しに行くとかなんとか。
面倒事に巻き込まれる俺たちの身にもなってくれよ…ま、なんだかんだ放っておけないけどさ。


「この前は…ほんの少しばかり油断していただけですわ!
 このわたくしにあのような醜態を曝け出させた事…たっぷりと後悔させてあげたいの!
 何より、あの鉄仮面の女に西川先生の事を聞き出さないとなりませんから!」

「もっとも、そいつが犯人とは限らないと思うけどな…」

「何より行方不明者がいる以上、普通なら醜態を晒された程度じゃすまないと思うがなぁ…」


行方不明者が続出してる中、栗音だけは特別にあの程度で済まされた…と考えるのも筋が通らねぇものだ。
もっとも、そいつが融合を使っていた事だけは判明したようで犯人と無関係とも言えないが。


おだまり!今から車を手配させますので必ず来ること!いいわね?」

「「あっ、はい。」」


そう言って、栗音は先に外へ出てしまった。
実際、ここLDSで行方不明者が次々と出てきてしまっている以上…早めにケリつけないと拙いことになるのは確かだ。
それもあって、これ以上は何も言うまい。
さっさと犯人を見つけ出して、俺たちのデュエルでぶっ飛ばさねぇとな。


「そういや、俺に勝った光焔ねねがユーヤ・B・榊に敗れた情報…お前は知ってるか?」

「ああ、知ってるさ…光焔の奴が実はとんでもなく強かったのも驚きだが、榊の奴はもっとすごい事をして彼女を倒したとか。
 本当に、最近急に頭角を見せる奴が多くて面白くなってきたところだ。
 だが、エリートの俺たちでもうかうかしてたらそいつらにどんどん追い抜かれるぞ?冗談抜きで。

「だな、特に俺がもっとも厳しい立場にあるのは思い知らされた。
 そうして、負け犬根性が染み付いてしまったのをどうにかしないとな。
 冗談抜きで『俺の嫁』とか言ったりと調子に乗ってる場合じゃないんだよなぁ、本当に。


自覚していたのか、それ…?
そう、真文の奴…光焔に実にあっさりとやられたのは記憶に新しい。
俺もそうだが、特に一番頑張らないといけないのは真文となるわけだ。
何より俺たちはLDSの各召喚コースの看板を背負っている…このまま黙っているわけにはいくか!


――カッ、カッ…!


「ん…?」


ここで聞き覚えのある足音が聞こえる…!
まるで鉄下駄で歩いているような…!あっ、お前は!!


「なっ!?」

「ぬうっ…!!」


フルモンスターで俺と互角以上に渡り合った権現坂じゃねぇか!
突拍子もなくここに来るとは只事じゃない。
だけど、こいつの中学生離れした身長と体格の威圧感…半端ないだろ。


「なっ…いきなりここに来て何のつもりだ?」


――ズッ、ズン!!


って、いきなり俺たちに土下座しただと…!?
いったい何を?


「この男、権現坂!貴殿を漢と見込み、頼み事をしに参った!

「なっ、なんだって!!?」


頼み事だぁ!?いったい俺にさせる気なんだ!?
こいつは中々面白…じゃなくて、とんでもない事になって来たぜ!








――――――








Side:ブラン


「う〜ん、どうしたものかな。」


気分転換に街をぶらついてみたはいいものの、思わず考え込んでしまう。
オマール・ドラゴンを上回るインパクト…といっても中々思いつかないものだ。
そして、このまま街をぶらついただけで今日が終わってしまうんじゃないかという焦りにも似た何かを感じていたところ…。


――ギュイィィィィ!!



ふえっ…?


何か、バイクのようなものがオレを追いかけてくる気がする…どうも嫌な予感がする。
でも、流石に歩道までは乗り越えてこないだろうとこの時は楽観視していた。
だが…!


「はあぁぁっ!」

「うわぁぁあっ!?」


嘘だろ…オレを轢き殺しかねない勢いで体当たりしてきやがったんだが。
何とかよけれたけど、危なかった…!
そして、その白を基調に黄緑のラインが走った一見槍を思わせるフォルムのバイクは一端停車した。
バイザー付きのヘルメットを被っていて目元はわからないけど、何か見覚えがある口元が特徴的?
そんな感じの大きい胸や体格から恐らく女がそのバイクに乗っていた。


「危ないわね、いったい何のつもり…?」

「あらあら…ごめんなさい。
 申し訳ありませんが…ここであなたを討たせてもらいますわ。

はあっ!?いきなり出てきたくせにそんな事聞けるか!」

「でしたら、ここは実力行使で行くしかないですわね…覚悟!


なんだこいつ?いきなり出てきて物騒な事を一方的に言いやがる。
おいおい…初対面の相手にいきなり襲い掛かられるなんて冗談だろ…?
こんなどこの馬の骨とも知らない通り魔に関わったら、間違いなく碌な事にならないはずだ。
だったら…答えは一つ。


「いやあぁぁぁぁ!!誰か、誰か助けてください!!」

「なっ…逃がすものですか!


――ギュイィィィン!!



みっともないけど、周りに聞こえるように大声をあげて逃げるのみ!
そもそもバイクで追いかけてくるような奴にデュエルという手段が通用するかわかったものじゃない。
追跡から逃げまわりつつ、誰かが助けてくれるのを期待するしかない。
それに、バイクにデュエルディスクのようなものが見えたけど……まさかな。

そうして必死こいて逃げ回る事2〜3分…オープンカーのようなものが止まっている。
その車には運転手らしき老人が一人に…オレたちの塾に来襲してきたLDSの三人組かよ!
栗音にはオレに借りがあったはず…ここは脅しが使えるな。


「その車オレも乗せて!!!」

「あっ、お前は榊!

「何ですの、急に…って、どうしてわたくしがあなたを乗せなければなりませんの!

「どこの誰とも知らない白バイクの女に追い回されてるからとだけ言っておく!
 乗せてくれないと…あなたの醜態を学校中にばら撒いてもいいのよ?


上半身が曝け出した栗音のあられもない画像を…嘘だよ、実際は撮ったわけじゃないから。
だけど、意外とちょろそうだからここでハッタリはかましておこう。
それに、あの時上着を貸した借りはここで返してもらわないとね…死活問題だし。


「ひっ…し、仕方ないですわね!早く乗りなさい!!


ちょろいな…にやり。


「よかったな、榊!」

「ありがとう!」

その画像、欲しかったなんて…すみません冗談です。」


そして何かおかしな事言ってる融合コースの負け犬は放っておいて、車に乗るとすぐに発進した。
もっとも、白バイクは相も変わらず追いかけてくる。


「あのバイクの奴か…しつこく追ってきてるな。」

「ああ、本気で轢かれそうになったんだ。」

「だけど、このままずっと追いかけられ続けるわけにはいかないだろ?」


確かにそれもそうだ…このままじゃジリ貧。
くそっ…こうなったら。


「逃げても無駄ですわよ!観念して私とデュエルしなさい!
 ちなみにわたくしはバイクに乗ったままデュエルできますわ。

「何だと…このままやるしかないか。」


バイクに乗ったままデュエルだって!?
とんでもない事を聞かされたけど、そうなると車から降りるわけにいかない。
車に乗ったままのデュエルであいつを撃退するしかないみたいだ。


「結局やるのか。」

「だが、光焔ねねを倒したというその実力…改めて見せてもらうぜ。」

「無様なデュエルは許しませんわよ!」

「ああ、そのつもり…!」


変な形にはなったけど、この3人組に今のオレの実力を見せるいい機会だ。
それにもしかしたら、ペンデュラムのその先のヒントが見つかるかもしれない…!
逆にこれはチャンスと思うかも。


「覚悟はできたようですわね?」

「ああ、オレのエンタメデュエル…括目しやがれ!

「そんな生ぬるい事、いつまで言ってられるのかしらね?」


まずは、今のオレのできる事をこいつにぶつけるだけだ!


「「デュエル!!」」


ブラン:LP4000
???:LP4000



先攻は…オレか。


「まずはあなたの実力を見せてもらいますわ。」

「言われなくても!まずは手札から『コロソマ・ソルジャー』を召喚!」
コロソマ・ソルジャー:ATK1300


「こいつが召喚に成功した時、手札から水族か魚族のモンスター1体を墓地へ送り…1枚ドロー!
 さらに『エビカブト』が水属性のコストで墓地へ送られた事でデッキから水族で攻撃力800以下の通常モンスター『カニカブト』を特殊召喚!」
カニカブト:DEF900


「チューナーでもないモンスターを並べてきましたか…」

「同じレベルのモンスターが2体…成程、噂は本当そうですわね。」


栗音の反応を見る限り、アレは既に噂として流れているようね。
だったら、これから先は言うまでもないわよね?


「オレはレベル3のコロソマ・ソルジャーとカニカブトでオーバーレイ!
 強かな心を強固な鎧に秘め、ここに見参!エクシーズ召喚!ランク3『ハードシェル・クラブ』!!」

『カチカチッ…!!』
ハードシェル・クラブ:DEF2100 ORU2



「マジでエクシーズ召喚を会得していたのか!」

「お前がエクシーズを会得したのは本当だったんだな…面白くなってきたぜ。」


そう言ってくれると、エクシーズモンスターを手に入れた甲斐があるものよ。
次への布石が主な役割になるのだけど、動きの幅が広がるのはありがたい。
このカードを渡してくれた北斗には感謝してもしきれない。


「いきなりのエクシーズ召喚…にしては弱そうですわね?」

「それはどうだろうね?お楽しみはこれからだっての。
 オレはカードを1枚伏せてターンエンド。」


オレ自身はエクシーズ使いと言うよりはペンデュラム使いだからね。
だけど、何も知らない相手にそれを伝える必要はないけどさ。
最初はハードシェル・クラブで様子見とさせてもらう。
まずはこれで得体のしれない相手の出方を伺わないと。








――――――








Side:里久


あれから、いつもの埠頭で柚子のエクシーズ召喚の特訓に付き合ってたんだけど…


「もう大丈夫!練習は十分やって来たから、あとは実戦で磨き上げるのみよ!」


とりあえず、柚子が自信を持ってくれたみたいでよかった!
この僕が教えてるんだから、できてくれなきゃ困るんだけどね。


「おっ、自信がでてきたね!
 それじゃ、折角だし今の柚子と勝負してみようかな?」

「うん!それじゃ…」

「あっ、柚子さんに里久くん…こんにちは。」

「こんなところで会うなんで奇遇じゃない…こんにちは、ねねさん。」


っと、ここで誰かが来たね。
来たのは光焔ねねか…確かブランがこの前リベンジ果たしたんだったかな?
そうだ…融合使いなのは気に食わないけど、試しにこいつを当ててみるかな?


「そうそう…いきなりだけど、今の柚子とやってみない?」

「え?」

「えっと、一応一回負けて悔しい気持ちはあるけど…?」


あ〜、確かに会って早々いきなりこんな事言われても困るよね。
でも…柚子は前に一回負けたみたいだし、特訓の成果を試すにはいい相手だと思うんだよね。


「実は柚子がある事の特訓しててね…いきなりで悪いけど、その成果を試すのに相手になってくれないかな?
 君も前に柚子と戦って勝ったっていうしね。」

「もう…」

「ああ、そういうことでしたか…つまり、特訓の成果を試したいと。
 そうですね…わたしでよければ付き合いますよ?」

「本当!?それじゃ、遠慮なく行かせてもらうわ!」


よし、二つ返事で了承してくれたみたいだ…卑屈な感じなのが気に入らないけどね。
さて、ねねに関しても注意してみておかないと。
実はこの前電話で話したあいつが言った事…どうも気になるんだよね。
もし仮に光焔ねねの正体がアレだったしても…今のままじゃわからないだろうけどね。

もちろん、今の柚子がどこまでいけるか…きっちり見ておかないとね。


「手加減なんてしたら承知しないわよ。」

「勿論です…では、参りましょう…!」

「…貴様もLDSか?」


おや、ここにきてまた誰か来たみたいだね。
今度の奴は…鳥の冠羽のような髪型が特徴的なサングラスをかけた男。
雰囲気的にも、どうも友好的というわけにはいかなそうだね。
二人の邪魔されるのも嫌だし、ここは僕がいこうかな?


「そうですが…いきなりなんですか、あなたは?失礼ですよ?

「なんなの?今から彼女と勝負するところなのにいきなり割って入ってこないで!

「そういうことだし、二人の邪魔をしないであげてよ?
 代わりに僕が君に付き合ってあげるからさ?


――ドンッ!


きゃあっ!

「なっ、柚子…!?


ちょっ、こいつ…いきなり柚子を突き飛ばしたな!
僕の弟子にふざけた真似してくれちゃってさ…!
こいつはちょっとばかり、痛い目見ないとわからないみたいだね?
僕、激おこぷんぷん丸だよ?


「待てよ、こいつは……!
 だとしたら、なんとしてでも貴様は俺が倒す…!

「ひっ…どうしてわたしを敵視してるのかわかりませんが…!」

「こいつ、僕の話聞いてないし…」


さては、こいつ…コミュ障って奴かな?
しかも、何故かわからないけどねねをやけに親の仇のように憎しみが感じられるような表情でみてるね。
まさか…ね?


「まさか、あなたが連続襲撃事件の犯人……!?

「俺とデュエルしろ!!来ないならこっちから行かせてもらうぞ!」


成程…言動からしてこいつ、いかにもLDSを襲ってそうだしね。
それにねねが怯んじゃってるし、無理やりでも僕が介入しておこうかな?
と、思っていたら…?


「やめなさい、雲雀!これ以上こんな馬鹿な事しないで!」

「「あっ…!?」」

「あの時の…!」


今度は倉庫の屋根から鉄仮面の女まで出てきて雲雀と呼ばれたあの男を抑えた。
これは…まったくもって面白いことになって来たかな?


「止めるな、ネプテューヌ

「ふざけないで、こんなところまで戦場につもりなの?
 考え直して、彼らまで敵にすべきじゃないはずよ!

「だとしても、月子を取り戻すためにはこうするしかないんだ!


へぇ…あの鉄仮面の女、ネプテューヌっていうんだ。
案の定、ブランとは別人だったわけだね。
この二人、仲間同士みたいだけど…なにやら揉めてるね。
そういえばLDS関係の人ばかりを襲ってたってことは狙いはアイツ…かな?
どうやら、月子って子を取り戻すのが目的みたいだけどね…?


「それに、こいつをよく見てみろ…!
 どうみても憎きエクシーズの奴らの一人…星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)だろ!!
 奴を匿っている以上、LDSはやはり敵!

それは早合点というものよ!あなたにいきなり襲われて困惑しているようにしか見えないのだけど?
 わたしがブランって子に間違われたように、単に他人の空似だということもあり得るわ!
 一方的な思い込みが大惨事を招く事だってあるのよ…!


こいつ…今、光焔ねねを見てあの星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)の名を口にしただって?
だとしたら……あいつが言ってたのって…!いや、まさかな。
とりあえず、彼女を敵視してるってことは…同時に僕の敵で確定だね、こいつらは。


「今しがた、襲撃犯らしき人を倉庫のある埠頭の方で見つけました!
 桜小路さんたち、大至急こっちに向かってください!わたしがやられる前に早く!!


一方で光焔はというと、切羽詰まったような感じでLDSの人たちに通報したみたいだね。
どうも、僕が知っているシュテルじゃなさそうだね。
例え本人だとしても、何かがすっぽ抜けてるね…例えばさ、記憶とかね。


「待って!彼が犯人かどうかはまだ…!」

なっ…!月子…?

「えっ…!」


ここで起きあがった柚子がこの場を何とか収めようとしてるみたいだね。
でも、ここで柚子を見た雲雀という男が驚愕の表情を見せた…?
それに今…柚子を見て月子って言ったけど……肝心の柚子はにじり寄る彼に引き気味だ。
どうみても、いたいけな女子中学生ににじり寄る不審者の事案にしか見えない絵面なんだけど?


「何で月子がここに?無事ならそうと早く教えてくれよ…!」

「へ…あたしは柚子だけど?

「月子!」


――ゴスッ!


がはっ…!つき、こ……

あの子は月子じゃないわ。あなた、疲れてるのよ…しばらく眠ってなさい。
 はぁ…こうでもしないとあなたは止まってくれないのが難儀なものね。」


今、あの鉄仮面の女…ネプテューヌがどこからか木刀を取り出して雲雀って男を気絶させたみたいだ。
見た目に反して腕っぷしも割といいみたいだね。
そして、気を失った彼を抱えてここを撤収しようとするみたいだね。
けど、このままみずみず逃がすのは…もったいないかな?








――――――








Side:ブラン


「その程度でわたくしに勝てると思ってまして?わたくしのターン!ですわね。
 さて、まずはあなたの場にのみモンスターが存在するため、魔法カード『疾風の架け橋』を発動!
 これにより、デッキからレベル4以下の『風槍獣』モンスター1体を特殊召喚しますわ!出番ですわ『風槍獣ウミガラス』!」
風槍獣ウミガラス:ATK1800


まずはくちばしが槍のようになっているウミガラスを出してきたみたい。
もっとも、これだけじゃハードシェル・クラブには届かないけど…?


「続いて、手札から『風槍獣イルカ』を召喚!」
風槍獣イルカ:ATK700


今度は海豚か…こいつも吻が槍状になっているけど。


「ここでイルカの効果を発動し、ウミガラスを手札に戻しますわ。」

「自分のモンスターを手札に戻した…?」

「これは、何か仕掛けてきそうですわね…?」


自分のモンスターを手札に戻す。
一見何をやっているのかと思うけど、この手の奴は厄介なのが帝石だ。


「ええ、ウミガラスが手札に戻った事でウミガラス自身と手札のキツツキの効果を発動!
 ウミガラスの効果でデッキから『風槍』1体…2体目のイルカを手札に加えますわ。
 そしてチューナーモンスター『風槍獣キツツキ』の効果で自らを特殊召喚!」
風槍獣キツツキ:ATK1300


「チューナー…こいつ、シンクロ使いなのか?

「だろうね…!」

「行かせていただきますわ!わたくしはレベル3のイルカに同じくレベル3のキツツキをチューニング!」


――ビュゥゥゥゥゥ!!


「くっ…!」

「こいつは…!」

「なんですの…この凄まじい風は…!」


やはりシンクロ召喚が来るみたいだけど…ここで強い風!?
アクションデュエルでもないのに、これは…!


「鋭利な翼をはためかせ、疾風の槍となり敵を貫け!シンクロ召喚!おいでなさい、レベル6『疾風槍リンクランサー』!!」

『ガギャァァァァ!!』
疾風槍リンクランサー:ATK2300



出てきたのは鋭く長い槍状の吻が特徴的な大きいプテラノドンのようなモンスターだ。
アクションデュエルでもないのにこの重苦しい感じ…こいつはやばい!


「バトル!リンクランサーでハードシェル・クラブに攻撃!貫け『シレットスピア』!!」

「だけど、ハードシェル・クラブが破壊される場合…代わりに素材1つを取り除ける!
 とりあえず、これで守れるはず…!」

「ですが、そうは参りませんわ。
 リンクランサーは貫通能力を持っています、まずはダメージを受けなさい!」


だけど、ここで発生するダメージは僅か200。
この程度なら…!?


――ザスッ!!


「ぐ…ぐわぁぁぁぁぁあ!!
ブラン:LP4000→3800

ハードシェル・クラブ:ORU2→1



――ドックッ…!


が…はっ……!!?
 がっ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!!

「お、おい…榊、しっかりしろ!」

「しかも、こんな時に電話…誰ですの?えっ、埠頭に襲撃犯が?


何だ……こ、この痛み苦しみは…!?
確かに何かで突き刺されたような激しい痛みを感じる。
だけど、それ以上に内側から何かが表に出てきようとしているような辛さを感じる…!
頭が痛い…頭が割れる……うわぁぁぁぁぁぁ!!
本当に……オレの中でいったい何が起きようとしてるんだ?

ちくしょう、こんな時に意識……が………。






そうだ……目の前の奴を何としてもぶちのめす!!








――――――








Side:烈悟


お、おい…榊の奴、あのバイクの奴のシンクロによる貫通攻撃を受けた時から様子がおかしいぞ…?
わずか200ダメージとは思えない悲鳴を上げた後、何も反応しない…?
それに何か嫌な気配がするんだが…これ、大丈夫なのか?


みんな聞きなさい、埠頭に犯人が出現しましたわ!急いでそちらへ向かいますわ!

「待てよ、それより榊の様子が変だ!

「栗音様、妙に何か嫌な予感がするんだが。」

「…上手く相手の女を海へ落とすように仕向けますからそれまで我慢なさい!」


随分無茶苦茶な事言うな、栗音は!
こうしてる間にも榊の奴が発してる嫌な気配がどんどん大きくなってやがるんだが。


「この嫌な感じ、今の攻撃が裏目に出た…?
 こうなっては、早めに始末しないと拙いようですわね。
 リンクランサーが戦闘ダメージを与えた時、表側表示のカード1枚を手札に戻す事が出来ますわ!
 対象はハードシェル・クラブ…消えなさい!」


――ビュゥゥゥ!!


「……よくも、やってくれたな。」

「「「!!?」」」

「これは、想像以上に…!」


――ドクッ…!


「ひっ…なんですの、彼女から発せられるこのおぞましい威圧感は…?
 あの鉄仮面の女から発せられたものより凄まじいものですわ!


今の殺意を孕んだ冷酷な感じの声…まさか、榊のなのか!?
同じ車に乗っているけど、ここまでの威圧感……初めて経験したぜ…!
こいつの本性はエンタメとかそんな事云々じゃない…もっとやばい何かじゃねぇか!
それに髪の色が水色に変わり瞳の色も赤に変色してるようだし、明らかに普通じゃねぇだろこれ。


「カードを1枚伏せてターンエンドしますわ。」

「今度はこっちの番だ、徹底的にぶちのめす…!わたしのターン、ドロー!!」


明らかに言動に、相手を潰そうとする殺意のようなものが込められてやがる。
迂闊に何か言えば、俺たちにまで飛び火しかねないが…一体どうなってしまうんだ?


「手札から魔法カード『浮上』を発動だ!
 これで墓地からレベル3のチューナーモンスター『エビカブト』を蘇らせる!」
エビカブト:DEF1000


エビカブト…!前から使ってたのは知ってるけど、こいつ…チューナーだったのか!?


「エビカブトが召喚・特殊召喚に成功した時、墓地から『カニカブト』1体を叩き起こす。」
カニカブト:DEF900


これで一応シンクロもエクシーズのどちらもできる。
だが、榊がシンクロを使うなんて聞いたこともないぞ?


「埠頭までもう少しですわ…!」

「早くあの白バイクを落として、榊を止めねぇと…!」

「そして…わたしはカニカブトをリリースし『甲殻水影ドロブスター』をアドバンス召喚!」
甲殻水影ドロブスター:ATK1800


「ドロブスターが召喚した時、デッキから『甲殻』のペンデュラム1体をエクストラに加え、デッキから1枚ドローできる。
 わたしはエクストラに『甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター』を加え、1枚ドローする!」


これでエクシーズという選択肢は蘇生やレベル変更をしない限り、なくなったわけだが…!
ここに来て、榊のエクストラデッキが光り始めている!?
何が起こっているんだ?


「おい、榊の奴のエクストラが光り始めたぞ…!」

「っ、ここで仕掛けてくるみたいですね…!」

「言われなくても、遠慮なく行かせてもらうぞ…!
 わたしはレベル5のドロブスターにレベル3のエビカブトを…」


――ピカァァァァッ!!


「「なっ…!?」」

「きゃっ!?」

「「うわっ…!?」」



何だっ!?埠頭のすぐ近くまで来たところで突然別の眩しい光が!?
そして、光が止んだと思ったら…!


「マジかよ、あの白バイクが消えた…!?

「いったい、何が起こってるんだ…?」

「あ!そうですわ、あの鉄仮面の女が消えた時もこんな眩しい光に包まれてたのよ!


つまり…さっきまで付けてきた白バイクの通り魔と栗音の言う鉄仮面の女には何か関係があるのか!?
榊の奴といい…こいつは相当穏やかな話じゃねぇぞ…!


「はっ!?いつの間にあの白バイクの通り魔が消えた…?
 それにオレは…今何をしようとしたのかしら……?

「お、おい…正気に戻ったのか?

!?…よく覚えてないのだけど、何だか心配をかけたみたいね。」


いつの間にか榊の髪の色と眼が元に戻った…?
とりあえず、榊の奴が正気に戻ったようでほっとしたぜ。
だが、殺意をまき散らしていた時の記憶をあまり覚えてはいなさそうだ。
一体、アレは本当に何だったんだ?

もっとも、ここで俺たちは榊の奴にこんなやばい一面がある事を知った。
何がどうなってるのかさっぱり理解できないが、用心に越した事はなさそうだ。
いざという時に榊の暴走を止めるためにも、権現坂へアレの伝授を早く済ませておかねぇとな。








――――――








Side:柚子


あたしを月子と呼ぶ雲雀と呼ばれた不審な男。
そしてその男を木刀で気絶させて担いだ鉄仮面の女。
その素顔はブランと瓜二つなのだけど、どうもネプテューヌと呼ばれているみたいね。
ということは…やっぱりブランじゃないみたい。

そうだ、突き飛ばされてデッキのカードが散らばっちゃったんだけど…拾わなきゃ。


――ぱすっ…


って、あれ…その彼女が1枚のカードを拾ったわ。
ここはお礼を言っておかないと。


「あ、拾ってくれてありがとうございます…」

「…あなたにこのカードは似合わないわ。」

「えっ…?」


彼女は拾ってくれた『エクシーズ・リボーン』をあたしに見せてこう言った。
里久から譲ってもらって入れたカードだけど…似合わないってどういうことなの?


は?僕からのプレゼントを君なんかにとやかく言われたくないよ。」


…まるで一触即発みたいな嫌な雰囲気。
ここは止めなくちゃ。


やめて、里久!それにネプテューヌだっけ…あなたも!

「……」


――ピカァァァッ!!


「きゃあっ!?」

「ねぷっ…!?」



えっ、このタイミングでブレスレットが…?
ま、まさか…また!?


「ああっ!?」

「消えた…?」


光が収まると、あの二人がいなくなってしまっていた。
あたしたち三人は呆然と立ち尽くす他なかった。
そして、同時に遠くから車のエンジンが聞こえてきたわ。


――キキィィィッ!!


「…桜小路さんたちが来たみたいですね…えっ!?

ブランも乗ってるじゃない!?


ここで高級そうなオープンカーがやってきて停止したわ。
それに乗っているのは遊勝塾への刺客だった三人…そして何故かブランまで乗っていたわ。
だけど、気になるのは妙に険しいみんなの表情…何か恐ろしい事があったのかもしれない。


「こ、光焔は無事のようですわね!それで、襲撃犯はどこですの?

「そ、それが…柚子さんのブレスレットが眩しく光ったと思ったら、いつの間に消えてしまいました…!」

「なん…だと……?」

そっちもか…!


そっちも…?


「ねぇ、ブラン…何があったのか教えて?」

「あ、あぁ…柚子か……オレにも何がなんだかわからないんだ。
 実はバイクに乗った通り魔の女に襲われたから、この車に乗せてもらって逃げてたところだった。
 だ、だけど…この埠頭に来た途端、その通り魔が消えちゃったみたい。

「み、みたい…どういうことなの?」

「実はこいつ、その白バイクの女とデュエルをしていたところだったんだ。
 どう説明したらいいのかわからねぇけど、その最中正気を失って暴走したんだ。
 それで記憶が曖昧になってて、よく覚えてない。」


白バイクの通り魔に襲われてた…?
それに正気を失って暴走してたって…穏やかな事じゃないわよ。


「だが、これだけは言える…今後、榊には気を付けて接してやるべきだ。」

「気を付けた方がいいって…何よそれ……?

「俺たちは榊の中に眠っている恐ろしい何かを見たんだ。
 強い相手を熱望してる俺でさえ、情けない事にとてつもない恐怖を感じる程のな。」


本当に何よそれ…?
あの権現坂を相手に互角以上に渡り合った烈悟でさえ怯えるほどのなんて…?
でも、本当だとしたら…あたし、もっとしっかりしなきゃ!
いざという時にブランを止められるように…!

そうだ、あたしを見て月子とか月子じゃないとか…そんな話は今は置いておこう。


「わかったわ、あたしがしっかりしていざという時に止められるようにしないとね!」

「正直、自分でも何が何だか全然わからないけど…あ、ありがと。
 オレがオレじゃなくなって暴れたら、その時は…止めてくれる?」

「ええ、もちろん!


ブランとしても、何が起こってるのかわからないみたいで心中穏やかじゃなさそうだしね。
あたしも何がどうなってるのはまるで意味がわからないけど。
ただ、あたしを悩ませたあの鉄仮面の女の正体がブランじゃない事がわかったのはよかった。
彼女の近くにいる時にブランが来たらどこかへ行ってしまうみたいだから無関係ではなさそうだけど。


「それはそうと…あれ、あたしのカードは?」

「やはり柚子のだったのね…先に拾っておいたわよ、はい。」

「うん、早めに気付いてくれてありがとう…!」

「何かすごい話になってたみたいだけど、僕もよくわからないや。」


里久もこの話は何がどうなってるのかわからないみたいね。
とりあえず、ブランがデッキとデュエルディスクを拾ってくれた事だし…。


「ま、面倒な事になりそうだし…ここは帰ろうか?」

「そうね、戻りましょ?」

「変な事になる前にそうした方がいいでしょうね。
 わたしが事の顛末を伝えに行くので先に帰ってください。」

「…LDSの車が来ましたわよ!」


そういえば、ねねも散々な目に遭ったのよね。
あの不審者二人からやけに目の敵にされたみたいだけど…なんなのかな?
とりあえず、後処理はねねたちがやってくれるみたいだし…ここは帰りましょう。


「あ、ちょっと待った…榊に一つ言っておく。」

「ん…何かしら?」

「ジュニアユース選手権への出場目指してがんばれよ…ま、厳しいだろうけどな。

「むぅ…厳しいのは端から承知の上よ。」


そして、烈悟はブランにそう伝えるとそそくさとねねたちが向かった方へ行ってしまった。
何か意味深な感じだったけど…何なのかな?








――――――








Side:ブラン


はぁ…今日は本当に散々な目に遭ったわね。
通り魔ストーカーに追いかけられて死に物狂いで逃げたりとかね。
なんとか栗音たちの車に乗せてもらってデュエルはできたけど、途中で激しい痛み苦しみで意識をなくしたりとね。
その間、よく覚えていないのだけど一種のトランス状態になって暴走してたみたい。
無意識でよく覚えていないとはいえ、相当心配をかけてしまったわ。

オレの中に何か恐ろしいものが潜んでいる…か。
確か石島戦の時もオレは一種のトランス状態になってからペンデュラム召喚を発現させたはず。
あの時と何か関係があるのかしら…それにしては一緒にいたあの3人が半端なく険しい表情だったのが気になるわね。

そして柚子の方も何か色々あったみたいね。
まだオレは遭遇できてないのだけど、オレにそっくりという融合使いの女がオレじゃない事がようやくわかったそうでなによりね。

そして…!


いつの間にかエクストラデッキに入っていた3枚のブランクカード…か。」


そう、あれから意識を取り戻した後にエクストラデッキを確認したところ見慣れない空白のカードがあった。
枠の色から察するに3枚ともシンクロモンスターみたいなのだけど、それ以外は全く正体不明のカード。
どうも、あの槍のようなシンクロモンスターの攻撃を受けた影響で生まれた可能性が高そうだ。
あの時の痛みと苦しみは…普通じゃなかったのだから。
ただ…。


「もしかしたら、これがオレの求めていたペンデュラムのその先のヒント…かもしれないわね。」


皮肉にも、あの白バイクの通り魔とデュエルした事が『ペンデュラムのその先』の答えを導くためのヒントになってしまったかもしれない。
いずれにしろ、明日の第4戦…只では済まなそうね。















 続く 






登場カード補足



疾風槍リンクランサー
シンクロ・効果モンスター
星6/風属性/恐竜族/攻2300/守 800
チューナー+チューナー以外の風属性モンスター1体以上
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの風属性モンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
(2):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合、フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを持ち主の手札に戻す。



風槍獣キツツキ
チューナー・効果モンスター
星3/風属性/鳥獣族/攻1300/守 300
「風槍獣キツツキ」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドの風属性モンスターが手札に戻った場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。



風槍獣イルカ
効果モンスター
星3/風属性/海竜族/攻 700/守1600
「風槍獣イルカ」の効果は(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分メインフェイズに発動できる。
自分の手札・墓地からレベル4以下の「風槍」モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚し、このカードを持ち主の手札に戻す。
(2):1ターンに1度、自分フィールドの風属性モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを持ち主の手札に戻す。



風槍獣ウミガラス
効果モンスター
星4/風属性/鳥獣族/攻1800/守 600
「風槍獣ウミガラス」の効果は(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドのこのカードが手札に戻った場合に発動できる。
デッキから「風槍ウミガラス」以外の「風槍」モンスター1体を手札に加える。
(2):1ターンに1度、自分フィールドの風属性モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを持ち主の手札に戻す。



疾風の架け橋
通常魔法
(1):相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。
デッキからレベル4以下の「風槍獣」モンスター1体を特殊召喚する。
この効果の発動後、ターン終了時まで自分は「風槍」モンスターしか特殊召喚できない。