Side:ブラン


「あ、あの赤馬零児だと…!?」


塾長でさえもその名を聞いただけで恐れ慄く存在が今、目の前にいる奴だ。
苗字の通り、あそこにいる赤馬理事長の息子でもある赤馬零児。
レオ・コーポレーション社長という立場の彼がオレの前に立ちふさがった。
一目見ただけで格が違いすぎるのは容易に想像できる。

いや、端から怖気てどうするの?
何事もやってみなけりゃわからないはず!


「レオ・コーポレーション社長というご身分のあなたが…どうしてわざわざこんな零細へ?」

「簡単な話だ。ユーヤ・B・榊…君の力を私自ら確かめに来たまでのこと。」


それでオレの力を自ら確かめに来た…ね。
はは、光栄じゃねぇか…どんな形にしろ興味を持たれてる証拠だ。
エンタメデュエリストとしては、とても嬉しいこと言ってくれるじゃない。


「いいわ、それなら期待に応えるだけよ。」

「ふっ、そうこなくては。」


だったら、必死で食らいついてやるまでよ。


「ブラン…。」

「あ〜あ、ブランってばやる気になっちゃって…身の程が分からないかな?」

「今回ばかりはいくらブランでも分が悪すぎます…!」

「この男、権現坂…自らの不甲斐なさを痛感する!」


…正直オレだって、これが無謀に近いことはわかってるつもり。
でも、指名された以上は逃げるわけにはいかない!
この勝負…勝って、遊勝塾と父さんのデュエルを守らなきゃ!


「でも、ブランお姉ちゃんにはペンデュラム召喚がある!」

「それを駆使すればきっと負けない!」

「そうよ!」


ありがとう、みんな。
だけど…言うだけなら簡単だ。


「甘く見られたものですね。あなたたち、うちの零児さんがどれだけ強いか。」


確かに、ペンデュラム召喚があるからってそう勝てるような相手じゃないのは確か。
勝つためには、オレの全力を超えて死力を尽くすしかない…!
最近手に入れたばかりのあのカードも駆使しないと…!


「もういいでしょう、ここから先は黙って見ていただきたい。私と彼女のデュエルを…!」


そうね、始まってみないとわからないもの。
とりあえずデュエル場へ向かう事にした。











超次元ゲイム ARC-V 第11話

『DDD大王』










揺れろ、ペンデュラム…!
首飾りのペンデュラムを揺らしながら、デュエル場へと着く。
よし、覚悟はできた。


「では、早速始めようか。フィールドはそちらのご自由に。」


そして、フィールドの決定権はこれまで通りこちらの好きにしていいようだ。
ここは塾長の判断に任せよう。
そのように目で彼に合図を上げる。


『わかった、それならこうしよう。アクションフィールドオン!フィールド魔法『ルウィー城下町』!!
 ブラン!お前のもっとも得意とするこのフィールドでここにいる皆を魅了してくれ!!』



『ルウィー城下町』というそのフィールドは一面広がる銀世界に佇む大きな城とその城下町が存在するというものだ。
これがオレのもっとも得意とするフィールドなわけなんだが、どうしてなんだろう?気が付いたら得意になってたのよ。


「ここが君の得意とするフィールドか。」

「そうよ。先攻・後攻は…ランダムでいいわよね?」

「それで問題はない。」


このように不敵そうで余裕な表情を見せる零児。
格が違うために少々侮られていそうなのが腹立つけど、仕方ないか。


「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

「フィールド内を駆け巡る!」

「見よ、これぞデュエルの最強進化系!」

「アクショォォォォォォォン!!」


「「デュエル!!」」


ブラン:LP4000
零児:LP4000



そうして始まったこのデュエル…。
先攻を指し示したのはどうやらオレの方だ。


「先攻はオレみたいね。」

「そのようだ。君の出方を見せてもらおう。」


とはいえ、先攻だから攻撃とドローが出来ないから無駄に動かない方がいいわね。
それなら…!


「オレのターン。モンスターをセット、カードを1枚伏せてターンエンド。」

「ふむ…それだけでいいのだな?」

「ああ。」


ザリガンマンのような妨害効果持ちを出せる手札なら出していたけどね。
攻撃できない以上、下手な奴を出してもいい的にされるのがオチ。
だから迂闊な手を見せずにエンドしたまでよ。
さて、今度はあなたの出方を見せてもらうわ。


「よかろう。では、私のターン…ドロー!
 私は3枚の永続魔法を発動する。まずは永続魔法『地獄門の契約書』を発動!」

「契約書!?」

「なにかやばそうな雰囲気のカードだぜ。」


契約書…実際に見るのは初めてだけど、噂は聞いたことあるわね。


「…相当なハイリスク、ハイリターンのカードと聞いたことあるわ。」

「その通り、基本的に『契約書』と名のつく永続カードは私のスタンバイフェイズが来る度に私自身に1000ダメージを与えるデメリットがある。
 地獄門の契約書は1ターンに1度、デッキから『DD』モンスター1体を手札に加える。これにより手札に加えるのは『DDリリス』。」


確かにリスクは大きいけど、1ターンに1度の特定モンスターサーチは相当やばい。
自滅の危険があるリスクさえ目を瞑れば、手札アドが開くばかりよ。


「『DD』ってどういう意味だろう?」

Different Dimension(ディファレント・ディメンション)…異次元という意味ですね。」


タツヤの疑問に対し、答えたのはねね。
それにしても異次元か…除外関連の印象が強いのよね。


「続いて『強欲な契約書』を発動。デメリットは先ほどの地獄門と同様だ。
 1ターンに1度、手札の『DD』モンスター――ここは『DDリリス』を相手に公開し、1枚ドローする。」

「先ほどサーチしたカードを公開…無駄がないわね。」


もっとも次のスタンバイでの2000ダメージは厳しいはずだが…?
それに最初に永続魔法を3枚発動させると言った…何を考えている?
そろそろ動き始めるべきみたいね。


「そして、私は『DDオルトロス』を召喚する。」
DDオルトロス:ATK1700


「ここで3枚目の永続魔法『魔神王の契約書』を発動。これも他の契約書と同じデメリットを持つ。
 このカードは1ターンに1度、手札またはフィールドのモンスターを素材に悪魔族融合モンスターを融合召喚できる!」


「永続魔法で融合!?」


召喚した後に永続魔法での融合!?
それに、そのまま放置すればこれで3000ダメージのリスクだが…?


――ポヨォォン…パシッ!


「私が融合するのは手札の『DDリリス』とフィールドの『DDオルトロス』!
 牙むく双頭の魔犬よ!闇夜にいざなう妖婦よ!冥府に渦巻く光の中で、今ひとつとなりて新たな王を生み出さん!融合召喚!生誕せよ、レベル6『DDD烈火王テムジン』!!」

『ウゥゥゥゥゥゥ…!!』
DDD烈火王テムジン:ATK2000



「あいつ、融合使いだったのか?」

「なんだよ、融合なんか使っちゃってさ。
 あ、ごめん…お手洗い行ってる。」

「お、おい…?」


彼が融合使いだったことに失望したのか里久はその場を立ち去ってしまった。
あの子、どんだけ融合に偏見持っているのかしら?
その無責任さに納得できないけど、今はもう放っておこう。


「DDD…Dが1つ増えたわね。デ〇デ大王?」

「あのようなペンギンもどきと一緒にしないでいただきたい。
 フィールドから墓地へ送られたオルトロスの効果でこのターン攻撃力2000以下の『DD』モンスター1体…つまりテムジンは二回攻撃できる。」


知ってるのね…真面目そうな見た目のくせに。
それより2回攻撃付与か、中々強力な効果ね。


「いくらなんでもそのボケはないよ、ブランお姉ちゃん。」

「もう、こんな時に…ブランの馬鹿。」


ちょ、ちょっとボケてみただけでその言い草はないじゃない…?
こうでもしないと息が詰まりそうなのよ…!


「バトル。テムジンでセットモンスターに攻撃!『ファイヤー・ストローク』!!」


――ガキィィッ!


ハード・キャンサー:DEF1600



まずは攻撃してきたけど…セットモンスターはハード・キャンサー。
このリバース効果を使わせてもらうわ。


「セットされた『ハード・キャンサー』のリバース効果をデッキから水族か魚族のモンスターをを墓地へ送って発動。
 自身はこのターンに1度、戦闘では破壊されないわ。」

「成程、一撃目はモンスター効果で防いできたか。」


そして、墓地へ送ったモンスターはねねとデュエルする前に手に入れたもの。
こいつはチューナーだけど、まだシンクロモンスターを持ってないためにその方向での利用はまだ無理。
でも、水属性の効果のコストで墓地へ送られた場合に真価を発揮する!


「水属性モンスターの効果コストで墓地へ送られた『エビカブト』の効果を発動!
 これで、デッキから水族で攻撃力800以下の通常モンスター『カニカブト』を特殊召喚する!」
カニカブト:DEF900


「ふむ、効果のコストを利用して展開してくるか。
 ならば、2回攻撃を可能にしたテムジンでハード・キャンサーにもう1度攻撃する!」

「させない。オレはアクションマジック『回避』を発動!これでテムジンの攻撃を無効にするわ。」

「ほう?いつの間にアクションカードを…私はカードを2枚伏せてターンエンド。」


よし、このターンはモンスターを増やしつつ敵の攻撃を流せたわ。
ここで2枚の罠カードを伏せてきた…このままだと相手はアクションカードを使えないわね。


「ふっ…。」


すると…彼は眼鏡を整えつつ、オレを見定めるかのように見つめる。
うっ、なんというか怖気が走ったわ…。


「何よ、あの態度…偉そうに!」

「四番目に出てきたくせに…余裕か!」

「残念ながら、彼が余裕なのは目に見て明らかです。
 3000ライフのリスクもブランを舐めているのかもしれませんね。」

「そんな…!」

「けしからん…!対戦相手を愚弄するなど、勝負師の…デュエリストの風上にも置けん!」


相手がオレを舐めているかもしれないとねねが予想すると、皆は腹を立てたわね。
舐めているというよりはオレの事を見極めようとしているように見えるわね。


「失礼しました、冗談です。実際のところはわかりません。」

「はぁ…。」


あはは、ねねが皆を怒らせるような冗談を言うなんてね。
もっとも、相手はこの契約書を放置しておくようには思えない。


「でも、ブランお姉ちゃん!あんな奴やっちゃって!」

「痺れるくらいぶちかませ!!」


相手が相手だけに、そう簡単に言わないでほしいわね。
でも、せっかくの声援を無下にはできないわ…やるしかない。
それと同時に次のアクションカードを見つけにいくわ!


「でも、痺れさせるのはオレのエンタメデュエルでね!オレのターン、ドロー!
 まずはハード・キャンサーをリリース!『甲殻水影ドロブスター』をアドバンス召喚!」

『フッ…!』
甲殻水影ドロブスター:ATK1800



「ドロブスターが召喚した時、エクストラデッキに『甲殻』のペンデュラムモンスターを表側表示で加えて1枚ドローする。
 オレが仕込むのは『甲殻神騎オッドシェル・P・ロブスター』!そして『ストリーム・ドロー』!!」

「辰ヶ谷真文とのデュエルでも見せたペンデュラムカードをエクストラデッキに仕込んでのドローか…いいだろう。」


水の渦を纏っての回転ドロー!
この勢いで…アクションカードを!


――ぱしっ!


よし、それにこのドローカード…行かせてもらうわ。


「このカードは『カニカブト』を含む2体の水属性モンスターをリリースした場合のみ特殊召喚できる!
 オレはカニカブトとドロブスターをリリース!雄々しき三本角を纏いし蟹よ、氷河を割り姿を見せよ!レベル8『コーカサスカニカブト』!!」

『グゥゥゥゥゥゥッ…!!』
コーカサスカニカブト:ATK2150



「コーカサスカニカブト…!?」

「あれは、わたしがブランに渡したカード…!ついに出てきましたか。」


これが三本角の殻を纏い、雄々しく巨大になったカニカブトの進化形態――コーカサスカニカブトだ!
ねねから譲り受けたこのカードで活路を開く!








――――――








No Side


一方、1人お手洗いへ向かうと伝えてこの場を去った里久。
実際男子化粧室へは入ったものの、方便なようで目的は違うらしい。
というのも彼の手には携帯端末が握られているからだ。


『ハロー、里久君!まさか君の方から連絡してくるなんて驚いたよ。で、調子はどうだい?』

「まあまあかな?で、報告するよ。融合の残党らしき奴、やっぱりこっちにもいるみたい。」

『へぇ、そうなんだ…でも、もし遭遇してもむやみにちょっかいかけるのはやめた方がいいかもしれないよ?
 融合が弱いという認識を改めないと君、死ぬよ?



里久は何者かと連絡を取り始めた。
その会話には『融合の残党』などと不穏な言葉が流れていた。
その関連で忠告されると、里久は不愉快そうな表情を露わにする。


「何それ?僕が融合の負け犬なんかより弱いって言いたいの…?

『ノンノン!本気の君は強い。でも、調子に乗ってると痛い目見るって忠告だよ。
 それより、君の任務ってLDSの生徒になって
スタンダードの動向を監視する事じゃなかったっけ?』

「あ、ごめん。LDSより遊勝塾の方が面白そうだったからそっちに入っちゃった。」

『あちゃ〜…まったく、君って奴は。こりゃ後で上にどやされても知らないよ?』


里久が任務を無視して好き勝手やっているようで、無線相手の声は頭を抱えたような声色になる。


『ん、待てよ…遊勝塾?こりゃ面白い廻りあわせになってきたね。
 とりあえずこの件は、僕の方でも適当にごまかしておくよ。』


「ごめん。それとどうでもいい話いいかな?
 そういえば、僕が憧れてたんだけど今は行方不明の――っていたよね?
 あの方らしき姿のLDS所属の子見たんだけど、そいつのデュエルを見てみたらとんだ見当違いだった。
 デッキは違うし融合召喚なんて使っちゃってさ。ちょっと期待した分がっかり。」

『ホワイ!!?それ、もしかしたら見当違いじゃないかもよ?』

「は?」


里久は突如として興奮したかのような声色になる無線の主に対してきょとんとする。


『彼女が行方を眩ませたのはおよそ二年前。
 それで行方不明ってことは記憶喪失になったかもしれないでしょ?
 例え、デッキを変えて融合を使っていたとしても可笑しくないさ。
 そもそも彼女の元々使ってたデッキは落ちてたのをうちの方で見つけたみたいだし。』


「そうなのかなぁ?」

『ま、直接見てみないと本当かどうかはわからないけどね。
 今日は面白い話が聞けたよ、それじゃそっちも頑張って!シーユー!』


「ちょっ…!」


――ツーツー


どうやら通話が切られてしまったようだ。
里久にとっては何が何だかよくわからないようである。


「はぁ…いきなり切るなよな。あまり通信時間長くしたくないのはわかるけどさ。
 一応報告できたのはいいけど、よくわかんない事言うし。まぁいいや、そろそろ戻ろ。」


納得いかなそうな表情をしながらも彼は化粧室を後にした。
ブランたちは彼の正体が何者なのかも、そして不審な動きを見せていることも何も知らない。








――――――








Side:ブラン


オレの新たな仲間…コーカサスカニカブトの効果は2つあり、1ターンにどちらか1つしか使えない。
1つはオレのターンに1度、自分のターンに相手の通常罠の発動を無効にできるというもの。
これで契約書を処理する通常罠の発動を無効にできればいいけど、生憎契約書のデメリットの発動タイミングは相手スタンバイフェイズ。
そのタイミングで使ってくる可能性が高い以上、この効果で阻止できないからこの効果の選択肢はナンセンスね。

だったら、もう1つの効果だ!


「コーカサスカニカブトが特殊召喚に成功した時、相手の特殊召喚されたモンスター1体と魔法・罠カード1枚ずつを破壊しデッキに戻す事ができる!
 この効果でオレが破壊し戻すのは烈火王テムジンとオレから見て右の伏せカードだ!奔れ、氷の刃『シュネー・シュナイデン』!!」

「すごい!?1枚ずつとはいえモンスターと魔法・罠を同時に破壊できるのか!」

「これなら…!」


――シュゥゥゥゥ!!


「永続罠発動『冥王の契約書』!」

「4枚目の契約書!?」

「ということは…!」

「永続罠とて契約書である以上、ダメージを受けるデメリットは同じだ。
 そして1ターンに1度、私の場の悪魔族モンスターを対象として効果を発動する!
 このターン、テムジンを対象とするモンスター効果の発動を無効にする!」

「なっ…!?」


くっ、発動そのものを無効にされてしまっては魔法・罠だけを破壊するなんてことさえできない。
もっとも、4枚目の契約書ってことは放置すれば自分自身に4000ダメージ…つまり自爆ってことになる。
仮にそんな事で勝利を手にしたとしても、納得できないが。


「ああっ、防がれちゃった!?」

「でも、攻撃力は上回っています!」


仕方ない、ここはテムジンを倒しに行くのみ。


「バトル!コーカサスカニカブトで烈火王テムジンに攻撃!」


もっともオレが攻撃宣言した途端、零児はテムジンに乗る。
アクションカード狙いか!だったら!


「ここでアクションマジック『アイスコフィン』を発動!
 これでテムジンの元々の攻撃力をターン終了時まで半分にする!」


――シュッ!…カチィィン!



『グォォォォォ…!』
DDD烈火王テムジン:ATK2000→1000



ちっ、遅かったか…発動前に既に屋根の方へ飛んで行きやがった!


「貫け!『フロスティック・スラスト』!!」


――パシッ!


「ふっ…!」
零児:LP4000→8000


なっ、ライフポイントが倍に増えた!?
何を発動させたのかわからないが、恐らく契約書を処理しやがったな…手札も増えてる。


――ザスッ!ボォォォォン!!


「やったぁぁぁぁぁっ!!」

「「「なっ…!」」」


ただ、攻撃は通った…でも、素直に倒せたとは思えないな。
相手もアクションカードを発動できるようになってるのだろうからな。


「えっ…!?」

「嘘だろ…!」

「ふふふ…。」


『ウゥゥゥゥ…!』
烈火王テムジン:ATK1000


煙が晴れると…やはり、テムジンは健在だったか。


零児:LP8000→6850


「「「あ…!」」」

だろうな…!

「私もアクションカードを発動させてもらった。アクションマジック『ディフェンスサポート』をな。
 これでテムジンはこのターンに1度だけ戦闘及びカード効果では破壊されなくなっていたわけだ。」


中々、いいアクションカードを拾って使われてしまったようだな。
今のところ相手の思惑通りって奴だろうな…ちくしょう。


「ふむ、ここまでは互角…いや、相手の思い通りになってしまったか。」

「いえ、違うわ!」

「そうだよ!相手は4枚の契約書を発動し、次のスタンバイフェイズに4000のダメージを受けるんだ!これで…!」


柚子、タツヤ…それは違う!違うんだ。
塾長は相手が何を発動させたか、既に把握しているみたいで苦々しい顔ね。


「それは違います。不可解だとは思えませんか…皆さん?」

「そうだ、奴の魔法・罠ゾーンは既に5枚のはず。
 それなのにアクションカードを発動できた上、奴の手札が増えている。」

「「「「あっ…!」」」」


一方でねねと権現坂はとっくに気付いていたわね。
何故、彼がアクションカードを発動できたのかを…!


「ふっ、ここでターンエンドすれば勝利を得られる…とは、その表情からして思っていないのだろう?」

「当たり前だ、こんな見え見えの茶番もいい加減にしやがれ。既に契約書は処理したんだろ?」

「これは失敬。契約などとっくに破棄していた。既に罠カード契約洗浄(リース・ロンダリング)を発動していた。
 このカードにより私の『契約書』カードを全て破壊し、破壊した数だけドローした上でその数×1000のライフを回復していたのだよ。」


やっぱりそういうことか…手札が増えたのもライフが急に増えたのも!
これで無茶苦茶なアドバンテージを稼がれてしまったか。
勝たなきゃいけないデュエルなのに、勝利が遠のいちゃってる。
それに、これ以上は追撃は無理そうね…!


「とんだブラックじゃねぇか…オレはカードを1枚伏せてターンエンド。テムジンの攻撃力は元へ戻る。」
DDD烈火王テムジン:ATK1000→2000


「ところで、君はエンタメスターを目指しているそうじゃないか…榊遊勝のような。」

「っ…父さんを知っているの?」


彼がオレの父さんを知っている…?


「そりゃそうさ、お前の父は有名人…それも逃げ出した元チャンピオンとして…」

「馬鹿、よせ!」


おい、やめろ。
オレの父さんを馬鹿にした真文、またぶっとばされたいのか…?


「黙れ!!!」

「いっ!?」


!?…オレがキレだす前に、社長が怒号を上げてそいつを黙らせた。


「はぁ…。」

「…負け犬な上にアホとしか言いようがないですわ。」


とりあえず彼が怒鳴られて、栗音と烈悟が頭を抱えている形ね。
本当にこんな奴に苦戦したオレが馬鹿みたいじゃない。


「失敬。当然、君の父上の事は存じ上げている。
 現在アクションデュエルの隆盛を築きあげたパイオニアとして、心から尊敬している。」

「…!?」


マジかよ、父さんの事を尊敬してたのか…!
今でも父さんを心から尊敬してくれている人がここにもいてくれたのはありがたいわね。


「だが…君のデュエルは先ほどの辰ヶ谷真文との対戦などからも、戦術を阻害したりと相手とぶつかり合うものより容赦なく叩き潰すものを好む傾向にある。
 観客を何とか楽しませようとしている事は感じられ、私も少しは楽しませてもらったが率直に言わせてもらう。君は無理しているのではないか?

「なっ!?どういう…ことだ…?」


オレが…無理をしている?
何言ってんだよ、オレはそんな事思ってなんて…!
それに、エンタメだって妨害ありきの駆け引きも必要なはず。


「自分でも気付いていないか、無理して失踪した父親の代わりになろうとしているように見える。
 それに、君はその場の感情に囚われやすくエンタメデュエリストとしての素質に欠けている。

「っ!?てめぇ!!」


だが、なんだ…?
こいつの言っている事がオレに突き刺さる。
オレは今まで父さんの代わりになろうとしていた…?無意識に?


「しっかりしてブラン!そんな話まともに聞いちゃダメよ!」

「そうだ!今は自分の想いをしっかり貫き通すんだ!!」


…そうだ、こんな所で思い悩んでいても何もできやしない。
自分の想いをデュエルで貫き通して足掻くんだ!


「まぁいい。では、君に私の本気の『一端』を見せるとしよう。
 そして、君のデュエルに賭ける想いも改めて見せてもらうよ。」


今までは本気の片鱗さえ見せていなかったってわけか…!
さっきは、融合召喚してきたが…?


「私のターン、ドロー!私はチューナーモンスター『DDナイト・ハウリング』を召喚!」
DDナイト・ハウリング:ATK300


なんだこいつ、まるででかい口…?
そして、こいつはどうもチューナーモンスターらしい。


「「「チューナーモンスター!?」」」

「まさか!?」

「まさしく、ここからが本番。」


ここで、チューナーモンスターときたら間違いなくシンクロ召喚も導入しているってわけだ…!
呆けて見てる場合じゃない!


「このカードの召喚に成功した時、墓地の『DD』1体を攻守を0にして特殊召喚できる。
 私が墓地より甦らせるのは『DDオルトロス』!!」
DDオルトロス:ATK1700→0(DEF800→0)


これでテムジンを残しつつシンクロ素材が揃いやがった…!


「私はレベル4のDDオルトロスにレベル3のDDナイト・ハウリングをチューニング!
 闇を切り裂く咆哮よ、疾風の速さを得て新たな王の産声となれ!シンクロ召喚!生誕せよ、レベル7『DDD疾風王アレクサンダー』!!」

『フォォォッ…!!』
DDD疾風王アレクサンダー:ATK2500



「融合どころかシンクロモンスターも…!」


シンクロモンスターも来やがった…!
それにオルトロスが墓地へ送られたってことは…!


「墓地へ送られたDDオルトロスの効果により、テムジンを2回攻撃可能にする。」


またしてもテムジンに2回攻撃付与…。
そして、あそこにアクションカード…いや、あれは駄目ね。
ソリッドビジョンでできた住人の目線がある…。
別のを探さないと…!


「ブランお姉ちゃんが取れるはずのアクションカードをスルーした!?」

「ここ、ブランのもっとも得意とするフィールドだからよ。
 ブランはここでアクションマジックかアクショントラップかを見極められるの。」

「す、すごい。」


今、褒められても反応できる余裕はない。
早くアクションマジックを見つけないと…!


「まだだ、ここで烈火王テムジンのモンスター効果発動!
 私の場に他の『DD』モンスターが特殊召喚された場合、墓地より『DD』モンスター1体を特殊召喚できる!蘇れ『DDリリス』!!」
DDリリス:DEF2100


これがテムジンの効果…!『DD』モンスターなら何でも特殊召喚できるってわけか。


「さらに、自身以外の『DD』モンスターが召喚及び特殊召喚された場合、疾風王アレクサンダーの効果を発動する!
 これにより墓地のレベル4以下の『DD』モンスター…『DDオルトロス』を再び蘇らせる!」
DDオルトロス:ATK1700


これで同じレベルのモンスターが2体…!
間違いなく、エクシーズも来るだろうな…!
と、ここで里久が戻って来たけど…今の状況を見て驚愕の表情を浮かべているわね。


「えっ、融合だけじゃなくシンクロまで…?それに同じレベルのモンスターが2体ってことは、まさか!」

「そのまさかだ。私はレベル4のDDリリスとDDオルトロスで…オーバーレイ!
 悪魔の落とし子よ、荒波に乗りてこの世の海の支配者となれ!エクシーズ召喚!君臨せよ、ランク4『DDD海洋王ティーチ』!!」

『グワッハッ!!』
DDD海洋王ティーチ:ATK2500 ORU2



これで三大召喚法で呼び出されるモンスターが…全て揃いやがった!
異次元を名乗っておきながら今のところ除外と関係ない…そういうことか!


「す、すごいや…エクシーズモンスターまでも来た!」

「なっ、なんて奴だ…!」

「ふふふ…!」


いや、面食らってる場合じゃない。
あそこのアクションカードは…いける!


――ぱすっ!


「3つの召喚法を自在に操るという噂は…本当だったか。赤馬零児…恐ろしい青年だ。」

「DDDとはすなわちDifferent Dimension Daemon(ディファレント・ディメンション・デーモン)!異次元をも制する王の力、たっぷり味わうがいい。」

「…っ!」


こいつらはエクストラの三大召喚法を全て有するモンスター群、つまりエクストラデッキを異次元ととらえてるわけか…!
三大召喚法を全て駆使できている以上、オレより魅せてるんじゃないか…こりゃ?


「バトルだ。海洋王ティーチでコーカサスカニカブトに攻撃!『マリン・サーベル』!!」

「やらせない!アクションマジック『回避』でその攻撃を無効にする!」


まずはこの一撃を防げた。
でも、次の攻撃までは防げない…!アクションカードを拾える余裕はないからな。


「防いだ!」

「いい反応だ!」

「ならば、疾風王アレクサンダーでコーカサスカニカブトに攻撃!『サイクロン・ブレード』!!」


――ズバァッ!


「ぐわぁぁっ…くっ!」
ブラン:LP4000→3650


「ああっ、ブランの場にモンスターがいなくなっちゃった!」

「それにテムジンの攻撃が2回残ってる…まともに受けたら終わりだ。」


これでオレの場のモンスターはなく、テムジンの2回攻撃も残ってる…けど!


「続け、烈火王テムジンで1回目のダイレクトアタック!」

「まだよ…この瞬間、罠カード『リアクト・リバース』発動!
 相手の直接攻撃宣言時、墓地のリバースモンスター1体を裏側守備表示で呼び戻す!
 これでセットするのは『ハード・キャンサー』!」

「ならば、セットされたハード・キャンサーに攻撃!『ファイヤー・ストローク』!」


ハード・キャンサー:DEF1600


さっきはエビカブトを墓地へ送ったけど、今度は手札を増やしたいところ…!


「ハード・キャンサーのリバース効果をデッキから『甲殻剣豪スピニー・ブレード』を墓地へ送って発動!
 これで、このターンに1度だけ戦闘では破壊されない!
 さらに、スピニー・ブレードがが水属性の効果のコストで墓地へ送られた事で1枚ドロー!」

「今度はドローか。だが、海洋王ティーチの効果により私の場の『DDD』モンスターは貫通効果を得ている。」


――ズッ!!


「ぐっ…!」
ブラン:LP3650→3250


くっ、攻撃力2500で全体に貫通付与効果を持っていたのか…!
大したダメージにならないのが救いだな。
このドローでいいのが来た以上、残りの伏せカードは温存だ。


「そして、テムジンの2回目の攻撃!ハード・キャンサーを葬り去れ!」


――ズバァァァッ!!


「がはっ…助かった、ハード・キャンサー…!」
ブラン:LP3250→2850


「くっそ〜!結局、みんなやられちゃった!」

「ですが、ドローはできました…ブランもこのままでは終わらないはずです。」


そうだ、このまま相手のペースのまま終わらせてたまるか。
負けたら塾は解体され、最悪オレの人生がターンエンドという事態にもなりかねない。


「私はカードを1枚伏せてターンエンド。今度は君が魅せる番だ。」

「言われるまでもない…!」


今のオレは三大召喚法のどれも使えない。
それでも、オレにはペンデュラム召喚がある!
オレの手札には既にアンタの場に出ている3体を全て蹴散らす算段はできてるんだ!


「オレのターン!お楽しみはこれからだ、このターンで三体ともぶっとばす!とくと見やがれ!!

「待ってました〜!」


今に見やがれ、オレにできる全力全壊を!!















 続く 






登場カード補足



コーカサスカニカブト
特殊召喚・効果モンスター
星8/水属性/水族/攻2150/守2500
このカードは通常召喚できない。
「カニカブト」を含む自分フィールドの水属性モンスター2体をリリースした場合のみ特殊召喚できる。
「コーカサスカニカブト」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体とフィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊し持ち主のデッキに戻す。
(2):1ターンに1度、自分のターンに相手が通常罠カードを発動した時に発動できる。
その発動を無効にする。



エビカブト
チューナー・効果モンスター
星3/水属性/水族/攻 550/守1000
「エビカブト」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、自分の墓地の「カニカブト」1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
(2):このカードが水属性モンスターの効果を発動するために墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから水族・攻撃力800以下の通常モンスター1体を特殊召喚する。



DDD海洋王ティーチ
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/水属性/悪魔族/攻2500/守 600
レベル4「DD」モンスター×2
(1):X素材を持ったこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの「DDD」モンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える。
(2):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
デッキから「契約書」カード1枚を手札に加える。



DDオルトロス
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1700/守 800
「DDオルトロス」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分メインフェイズ1にこのカードがフィールドから墓地へ送られた場合、自分フィールドの攻撃力2000以下の「DD」モンスター1体を対象として発動できる。
このターンそのモンスターは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。



強欲な契約書
永続魔法
「強欲な契約書」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):手札の「DD」モンスター1体を相手に見せてこの効果を発動できる。
自分はデッキから1枚ドローする。
この効果の発動後、ターン終了時まで自分は「DD」モンスターしか特殊召喚できない。
(2):自分スタンバイフェイズに発動する。
自分は1000ダメージを受ける。



リアクト・リバース
通常罠
(1):相手モンスターの直接攻撃宣言時、自分の墓地のリバースモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを裏側守備表示で特殊召喚する。



冥王の契約書
永続罠
(1):1ターンに1度、自分フィールドの悪魔族モンスター1体を対象としてこの効果を発動できる。
このターン、そのモンスターを対象として発動したモンスターの効果を無効にする。
(2):自分スタンバイフェイズに発動する。
自分は1000ダメージを受ける。



ディフェンスサポート
アクション魔法
(1):自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
このターンに1度だけ、対象のモンスターは戦闘・効果では破壊されない。



アイスコフィン
アクション魔法
(1):相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの元々の攻撃力はターン終了時まで半分になる。