ISEXVSクラブ戦の決勝戦。
一夏改めツルギ率いる『蒼天の災兎』とプレイヤー名『ナノハ・テスタロッサ』が率いる『黒神』によるバトルは初手から真っ向勝負――ではなく、黒神側は偵察を行う事から始めていた。
このゲームのクラブにはクラブレベルが存在し、クラブレベルによってクラブメンバーの最大値が異なるのだが、ツルギの蒼天の災兎はクラブレベル10でクラブメンバーの最大値は37なのだが、クラブメンバーの数は其れよりも大分少ない20人なのだ。
それに対して黒神はクラブレベル8でクラブメンバーの最大値は32なのだが、こちらはクラブメンバーが30人であり、蒼天の災兎を10人上回っており、数の上では有利と言える。
それでも総合戦力は蒼天の災兎が350億なのに対し、黒神の総合戦闘力は320憶と少しばかり劣るので先ずは蒼天の災兎の布陣やら何やらを把握する為に偵察隊を送ったのだが……
「み~つけた。」
「偵察隊を出したのが仇になりましたね?」
「さてと、少しおねーさん達と遊んでいかない?」
黒神の偵察隊の前に突如現れたのは蒼天の災兎のクラブ長であるツルギと副クラブ長であるヤイバとカタナだった。
実は蒼天の災兎は黒神が偵察隊を出してくる事を予測し、更に決勝戦のバトルフィールドから黒神の偵察隊が蒼天の災兎の本部へ向かうルートを割り出し、クラブ長のツルギと副クラブ長のヤイバとカタナがルート上に潜んで待ち伏せていたのだ。
「「!!」」
それを見た黒神の偵察班は『敵に見つかった』と仲間に連絡を入れて即時撤退しようトスが、其れを逃すツルギとヤイバとカタナではない。
「おせぇんだよ!!」
「逃げられると思っていますか?」
「あらあら、もう少し遊んでいきなさいな♪」
偵察部隊の半分となる三人を速攻でツルギが登龍剣で一刀両断し、ヤイバが蹴り砕き、カタナがランスで貫いて戦闘不能にすると、三人はイグニッションブーストで残る偵察隊に急接近し、ヤイバとカタナは相手に膝蹴りを食らわした後にキン肉ドライバーの態勢をとり、ツルギは相手に膝蹴りを食らわした後にキン肉バスターの態勢をとる。
「「「マッスルドッキング・アルティメット!!!」」」」
そして完成したのは究極のスリープラトンだった。
マッスルドッキングが既に完成されたツープラトンなのだが、此のアルティメットにはその発展形である『マッスルドッキング・ケミストリー』の要素も加味されて、ヤイバとツルギによる通常のマッスルドッキングの上にカタナのキン肉ドライバーが追加され、其の破壊力は通常のマッスルドッキングの五倍となり、黒神の偵察隊は此れにて全滅したのだった。
夏と銀河と無限の成層圏 Episode16
『GW5日目Ⅱ~Volle Kraft voraus im Vereinsspiel~』
偵察隊は全滅した黒神だが、偵察隊は黒神内でも戦闘力が下から七人なので主力はまだまだ健在であった。
「クラ長、偵察隊全滅しちゃったぜ?」
「守りを固めるか?」
「いや、偵察隊がロストした場所に打って出る。
拠点防衛では分が悪い……だからと言って奴等を全滅させるのも難しいからな?奴等の拠点を落とす……このくらいの戦力差ならばとも思ったが、矢張り簡単に勝てる相手ではなかったか。」
クラブ戦の勝利条件は主に三つ存在しており、一つ目は相手のクラブメンバーを全部撃破する、二つ目は相手クラブの拠点を破壊する、三つ目がタイムアップによる判定勝ちだ。
その内黒神のクラブ長は蒼天の災兎の拠点を落とす事による勝利を選択していた――タイムアップによる判定は、クラブメンバーの数が少ない方にアドバンテージポイントが入るようになっているので黒神にとっては逆に不利になるのだ。
故に偵察隊がロストした場所に打って出て、其処から拠点に攻め入ろうとしたのだが……
「よぉ、やっと来たのか?待ってたぜぇ?」
偵察隊がロストした場所にはツルギをはじめとした蒼天の災兎のメンバーが勢揃いしていた――ツルギは黒神が偵察隊を出してきた時点で狙いは『拠点陥落』だと気付き、やって来るであろう黒神のメンバーを迎え撃つためにこうしてクラブメンバーを此の場所に集めていたのだ。
「お初お目にかかるな、黒神のクラブ長『ナノハ・テスタロッサ』殿……白い魔王と金色の閃光の合わせ技とは、中々センスあるなアンタ?」
「お褒めに預かり恐悦至極だ、蒼天の災兎クラブ長『ツルギ』殿。……我等の狙いを読んでいたのか?」
「このゲームのクラブ戦は拠点撃破やタイムオーバーの判定を使えば下位クラブが下克上する事も難しい事じゃないからな……そんでクラブメンバーはそっちの方が多いからタイムアップの判定は無いと考えると、残るは拠点撃破かこっちのクラブメンバーの全滅だが、現実的なのは拠点撃破だからな。
だが此処から先には進ませない。」
「だろうな……」
「しかし逆に言えばここを突破する事が出来ればお前達の勝ちだ……偵察隊は全滅したとは言え数はそっちの方が多いんだ、何人か突破して拠点を攻撃する事もやって出来ない事じゃあないからな。」
「成程、分かり易い!!」
そして其のままオープンコンバット!
ツルギの言うように、数は黒神の方が多いので双方全戦力入り乱れての乱戦となれば黒神のメンバーが何人かは此の乱戦場を突破して蒼天の災兎の拠点を攻撃する事が可能だろう。
「マッタク兄さんも人が悪い……確かに言ってる事は間違いではないが、それはあくまでも蒼天に私が居なければの話だろう!」
だが、黒神のメンバーはこの乱戦場を誰一人として突破する事が出来ていなかった――その原因はMだ。
Mの専用機である『黒騎士・絶』はリアルでのオリジナルの黒騎士をベースにしており、オリジナル同様にBT兵装を搭載し、そのBT兵装による多角的攻撃を行い黒神のメンバーを乱戦場に釘付けにしていたのである。
更にMはセシリアとは異なりBT兵装を操作しながら自らも動く事が可能なので、大剣を使った近接戦闘も同時に行っているので其れが更に乱戦場の突破を困難にしていた。
「あらよっと!そこぉ!!」
「く……ちょこまかと!!」
また意外な事に活躍を見せているのが弾が操作するバレットだ。
バレットの機体はラファールリヴァイブをカスタマイズしたモノであり、高機動のウィングスラスターを追加し、武装はビームライフルと実体シールド、近接戦闘用のビームブレイドとナックルガード付きのコンバットナイフが二本ずつと特に特筆すべき性能はないのだが、此のカスタマイズは汎用性がぶち抜けている『高機動中距離型』であり、専用分野では特化型に適わないながらもあらゆる状況でトップレベルの性能を発揮する事が出来るのだ。
そしてバレットは高機動中距離型の特性を生かし、特定の相手とのタイマンをする事はせずに、戦場を高速で移動しながら時にはビームライフルで敵機を撃ち、時には近接武装で斬り込み、そして離脱のヒット&アウェイを繰り返して黒神のメンバーが此の戦場を抜けて蒼天の拠点に向かうのを阻止していたのである。
このままでは蒼天が黒神を押し切る事が出来るかもしれないが、黒神も伊達にナンバー2クラブではない。
「こうなったら……ワンオフアビリティを開放しろ!」
「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」
黒神は逆転を狙って全員がワンオフアビリティを発動して来た。
汎用機である打鉄やラファールを使っている場合、普通はワンオフアビリティが覚醒する事はないのだが、ISEXVSではゲーム内限定で汎用機もワンオフアビリティがプレイヤーレベルと機体レベルの合計が300を超え、戦闘力が10億を超えた場合にのみ発現するようになっていたのだ。
更に覚醒するワンオフアビリティは完全にランダムであり、当たりハズレがあるのだが、そうであっても基本的にワンオフアビリティは強力なモノが多いので戦局を逆転する一手とはなるだろう。
そして黒神のクラブ長が使ったワンオフアビリティは『自身を含めたクラブメンバーの分身を生み出す』と言うモノであり、更に其の分身は本体の動きをトレースするので分身には攻撃能力がなくとも幻惑効果は抜群だろう。
実際に蒼天のメンバーも何人かが此の分身に惑わされて落とされていた。
だが――
「機体が消えた!?あ、有り得ない!!」」
黒神のメンバーの一人が蒼天の副クラブ長であるカタナの背後を取り近接ブレードを振り下ろしたのだが、其の瞬間にカタナが消えたのだ。
「この私にそんな稚拙な分身が通じると思っているのかしら?……分身とは、こうやるのよ!!」
斬りかかられたカタナは、カタナの専用機である『ミステリアス・レイディ』がナノマシンで作り上げた分身であり、本物のカタナは全く別の場所に居た。
続いてカタナはナノマシンで分身の分身の分身まで作り上げるとそれを一気に黒神の部隊に全機特攻!!
「スターダストミラージュかよ!!」
「しかも、あれは只の分身ではなく触れたら爆発する爆弾ですからねぇ……何故こんな危険なモノが規制されずに野放しにされているのか謎です。」
「専用機のワンオフに規制入れるとシミュレーターの意味がなくなっからなぁ……」
圧倒的な物量に加えて、其の分身は触れたら爆発する特攻爆弾であり、これを使ったら最後、クラブ戦は終了確定であり正に最後の切り札であると言えるのだが、逆に言えばその切り札を切るに値する相手だったと言えるのだろう黒神は。
とは言え黒神もランキング二位のクラブであるのは伊達ではなく、分身を攻撃する事で誘爆を行って数を減らす等の対処をしているのだが、分身に対処するとどうしても予想外の事態には対処できなくなってしまうのも事実だ。
「この一手、受けてみろ!」
「なに!?分身に隠れてだとぉ!!」
黒神のメンバーの一人に向かっていた分身が突如消えたかと思うと、分身の後からコキアが現れ近接ブレードで斬りつけて来た――完全に虚を突かれた事で対応出来ず、コキアの渾身の袈裟斬りを真面に喰らってシールドエネルギーがエンプティに。
更にヤイバが着弾ギリギリの分身にクラスター・ボウでエネルギーの矢を放って誘爆を起こして広域爆発に巻き込ませたり、分身の突撃を何とか避けた先にMやモミジが先回りして撃破し、黒神の残存機体は残り五機となってしまった。
無論蒼天の災兎も無傷ではなく、何人か撃破されて残りは十五人となっていた……とは言え戦力差は三倍なので圧倒的に有利なのだが、此処でクラブ戦限定の逆転システムが発動した。
クラブ戦の本戦に於いて、一方のクラブの残存機体が一桁台になり、なおかつ相手クラブとの残存機体数が倍以上あり、相手クラブの残存機体が二桁でクラブ長が健在だった場合にのみ発動する一発逆転のシステム『敵クラブ長撃破』である。
これは文字通り、劣勢のクラブが相手クラブのクラブ長を倒せばその時点で勝利すると言う一発逆転のシステムであり、このシステムがあればこそ時にトンデモナイジャイアントキリングが発生する事もあり、ISEXVSは『クラブ戦は強いクラブが絶対に勝つ』という不文律は不確定であるとは言え通じないモノとなり、ゲームの衰退を防いでいた。
「俺の見通しが甘かったか……まだお前達に挑むのは時期尚早だったらしい……だが、最後の最後でまだ運は尽きていなかったらしいな……我等の最後の足掻き、受けてくれるか?」
「良いぜ、来いよ……全力で応えてやるからよぉ!
サシで何て言わねぇ……残る戦力全部で掛かって来な――全機ぶっ倒してやるからよ!!」
此の状況でツルギは、何と他のメンバーを後ろに下がらせ、黒神の残りのメンバーを一人で相手する選択をして来た。
ツルギが落とされたら其の時点でクラブ戦の敗北が決定してしまうので普通ならば異を唱えるところなのだが、副クラブ長であるヤイバが何も言わずに下がると他のメンバーもそれに従って下がった……カタナと同じく副クラブ長のヤイバだが、クラブ長であるツルギからの信頼度はぶち抜けているので、そのヤイバが何も言わずに下がったのはそう言う事なのだろうと察したのだ。
そしてツルギのセリフはともすれば傲慢なモノに聞こえるだろうが、ツルギには其れを出来るだけの実力があり、濃密な訓練によって鍛え上げられた己の力に絶対の自信を持っているからこそのモノであるので、言われた黒神のメンバーも不思議と不快感は感じていなかった。
そんな中、Mは手にしたライフルを空に向けると……一発発射!
それが合図となり、ツルギと黒神の残存勢力はオープンコンバット!
一対五となれば普通は圧倒的に不利な状況だが、ツルギはその状況をモノともせずに見事に対処して同士討ちや誤爆を誘発して着実に敵機のシールドエネルギーを減らしていき――
「おぉらぁぁあぁ!!!」
「ぶべら!?」
体勢を崩した相手に初期型のシャイニングウィザードを叩き込んでシールドエネルギーをエンプティにし、その勢いのまま次の相手に高速タックルを食らわせると其処からジャイアントスウィングでぶん回してから黒神の他のメンバーに投げつけると同時にイグニッションブーストで近付いて重い横蹴りを叩き込んで二機同時にKO!
「こんな……!!」
「よそ見してる暇があるのか?」
「!!」
「喰らえ……真!昇!龍拳ーーーー!!」
更に副クラブ長である相手に一瞬で肉薄すると、渾身の右ボディアッパーから左のショートアッパーに繋げ、其処から一気にジャンピングアッパーを食らわせる『永遠の挑戦者』の最強必殺技でKO!
「さて、如何する?」
「無論、最後まで足掻くのみ!!」
そして黒神のクラブ長であるナノハとの一騎打ち。
互いに近接戦闘型であったらしく近距離での激しい打ち合いとなるのだが、此処は経験の差が出て徐々にナノハの被弾が多くなっている……天羽組のアニキ達に鍛えられたツルギこと一夏の剣は試合と言うよりも死合いの剣であり、スポーツの世界の剣とは一線を画すのだから当然と言えるだろう。
「ぶっちゃけここまでとは思ってなかった……久しぶりに楽しいクラブ戦だった。礼を言うぜナノハ。」
「此方こそ、今回貴方と戦えたことを光栄に思う……今回は私達の負けだが、必ず今よりももっと強くなってまた挑ませて貰う……だからその時まで負けてくれるなよ?」
「あぁ、約束する……此れで終わりだ!」
圧倒的な力の差を前に勝てないと判断した黒神のクラブ長のナノハは、しかし逃げる事はせずにツルギの前で両腕を広げ『一刀のもとに斬り捨てろ』との意思を示し、ツルギも其れを受け入れ、渾身の居合いが一閃!
そして此の一撃で黒髪の戦力はゼロとなり、今回のクラブ戦は蒼天の災兎が制覇したのだった。
クラブ戦が終わった後はクラブで祝勝会だ。
仮想現実の電脳ダイブだからこそ本来ならば電脳世界の祝勝会では味わう事が出来ない料理や酒の味を堪能する事が出来るのも『ブレインダイブ』がVRゲームのシェアを独占している要因とも言えるだろう。
そして此の祝勝会はカラオケ大会やビンゴゲームなどが行われて大いに盛り上がったのだった。
――――――
同じ頃――ドイツ軍にて。
「黒兎隊隊長ラウラ・ボーデヴィッヒ、君には此れよりIS学園へと向かって貰う――其の目的は……」
「織斑一夏の専用機並びに彼のデータの採取……ですね?」
「その通りだ……その通りなのだが、軍人としての私は命令を忠実に熟せと言いたい……だがしかし、黒兎隊の総司令にしてお前達の『父親』としてはそうは言えん……だからなラウラ……好きにして?」
「ぶっちゃけましたね父上……ですが、そう言う事ならば好きにさせてもらいます――何よりも兄上と姉上に会える機会を自らふいにする意味がありませんから……まっていろ一夏、そして円夏!」
其処では長い銀髪に眼帯が特徴的な少女にIS学園行きが告げられ、少女も其れを受け入れていた――一夏を兄上、円夏を姉上と呼ぶ当たり、千冬がドイツ軍で教官をしていた際に知り合ったのだろうが、その際に何かあってラウラと呼ばれた少女は一夏と円夏を慕っているようだった。
なんにしても如何やらゴールデンウィーク明けのIS学園にはなかなか面白そうな人物がやって来る事は間違いないだろう。
To Be Continued 
|