「……ん、もう朝か。」


温泉旅行三日目、一夏はカーテンの隙間から入る朝日の光と、ガラス越しに聞こえる小鳥の囀りで目を覚ました。
目を覚ました一夏の前には一糸纏わぬ姿で背を向けて眠るヴィシュヌの姿が……昨晩は旅館側が用意した『カップルフルコース』の影響もあって、キスの先の段階を一気に登りつめたのだった。

そんなヴィシュヌを一夏は後ろから抱きしめ……


「おはよーさん、朝だぜ?」


ヴィシュヌの耳元でそう囁いた。
それを聞いたヴィシュヌは一気に意識が覚醒し、そして次の瞬間には両手で顔を覆っていた。


「えっと、如何した?」

「そ、その気恥ずかしくなってしまいまして……それにあんなに乱れて……」

「まぁ、求められるのは悪い気はしなかったし、そんなヴィシュヌも可愛かったけどな。」

「此処でそれを言うのは反則ですよ一夏。」


互いに童貞と処女を最愛の相手に捧げた一夏とヴィシュヌは、昨晩の情事を思い出して少し照れ臭い思いはあったモノの、向き合って笑い合うと、完全に起床してから日課のトレーニング……は流石に昨日の夜のISバトルで体力を使っていたので行わず、汗を流す為に朝から贅沢にも露天風呂を満喫してから朝食タイムに。
温泉旅行最終日の朝食はご飯とつみれのすまし汁、イカ納豆、カズノコ入り松前漬け、特製温泉卵と中々に豪華なモノであった……エクストラメニューとして、恐らくは一夏とヴィシュヌが温泉中に部屋の清掃に入ったスタッフがゴミ箱に捨てられた『使用済みのゴム』を発見して察し、料理長に其れを伝えた結果『お祝い』として『タイの尾頭付き』の刺身も提供されるのだった。









夏と銀河と無限の成層圏 Episode14
『GW4日目~Last day of the hot spring trip~』










朝食を終えた一夏とヴィシュヌは旅館をチェックアウトして街に繰り出していた。
旅行のプランとしては昼食まで温泉街で過ごし、昼食後に新幹線で東京に帰る事にしていたので、昼間では思い切り遊ぶ、遊び切る、いっその事遊び倒す一択なのである。

さて、温泉がある土地には共通してあるものが存在している……そう、活火山だ。
活火山があるからこそ地下水が熱されて温泉となるのであり、逆説的に言えば活火山が存在しない場所に温泉が存在する例は其処まで多いとは言えないのである。
と言う訳で一夏とヴィシュヌが訪れた東北の温泉街の近くにも活火山が存在しており、一夏とヴィシュヌその火山で登山を行っていた。
火山とは言っても其処まで標高は高くなく、標高は1000m以下であり、登山道も整備されて居るので登山初心者でも上り易い山であると言える――尤も一夏とヴィシュヌにとっては楽勝で登頂できる山でもあるのだが。


「一夏、あれは何をしているのですか?」


其の途中でヴィシュヌは不思議なモノを見付けた。
それは男性が籠に卵を入れ、その籠を火山の熱い蒸気が噴き出る場所にかざしていると言うモノだ。


「あぁ、アレは温泉地独特の名物とも言える『黒いタマゴ』だな。
 硫黄泉の温泉地限定になるんだが、硫黄成分を多く含む火山の蒸気で卵を蒸し上げるんだ――でもって、硫黄成分たっぷりの蒸気で蒸された卵は殻に硫黄成分がくっついて、そんでもって殻のカルシウム成分と結合して黒くなるんだ。」

「黒い卵……少し興味をそそられますが、アレを作ってる人は熱くないのですか?」

「火傷しないように厚手の手袋をしちゃいるが、手袋で覆われてない場所は蒸気の熱で腕の毛が焼けてっかもな……取り敢えず買ってみるか?中々食べる機会もないだろうし。」

「そうしましょう♪」


それは硫黄泉の温泉限定とも言える『黒い卵』を作っている所だった。
硫黄泉の温泉街限定の名物と言う事で一夏とヴィシュヌは黒い卵を購入し、其れを食べながら登山を続け、遂に山頂へと到着した。


「おぉ、最高の見晴らしだな!」

「正に絶景ですね。」


山頂からは山下に広がる東北の街並みが一望出来て、更に快晴だった事もあり遥か彼方に日本が世界に誇る名峰『富士山』を望む事が出来ていただけでなく『日本アルプス』と呼ばれる連峰も望む事が出来ていたのだった。

その絶景をバックに、一夏とヴィシュヌは記念撮影を行っていた。(スマホを三脚に固定してタイマーシャッターでね。)
一夏がヴィシュヌの肩を抱き、ヴィシュヌは一夏に身を寄せて互いに笑顔でピースサインをしているのは最高の一枚であったと言えるだろう――一部の人間からは『爆発しろ』と言われるのは間違いないだろうが。








――――――








登山で適度な運動と最高の絶景を楽しんだ一夏とヴィシュヌは昼食に良い時間になっていたので駅近くの回らない寿司屋にやって来ていた。
回らない寿司と聞くと高価で敷居が高いイメージだが、店によってはカウンター席オンリーで立ち食いスタイルにする事でコストを抑えているので高校生でも入れる店はあるのである……一夏は世界的な規模の企業である『ラビットカンパニー』の社長であり金は充分にあるので、昼食でチョイスした寿司屋は立ち食いスタイルではない老舗の名店であるのだが。


「大将、本日のおすすめで頼む。」

「そう来たか……通だね、兄ちゃん!」


其処で一夏は『お決まり』でも『お任せ』でもない『本日のおすすめ』でオーダーした。
『本日のおすすめ』とは詰まる所、その店の入荷状況に左右されるモノであり、もっと言うのであれば此処でドレだけ良いネタを提供出来るかがその寿司屋の力を示すと言っても良いだろう。

そして本日のおすすめはスルメイカに始まり、生タコ、ヤリイカ姿、こはだ、イワシ、アジ、生サバ、キンメダイ、真鯛、カツオ、マグロの赤身、サーモン、マグロの中トロ、トロサーモン、サーモンのハラスの炙り、マグロの大トロ、酒蒸しアナゴであった。


「はじめてお寿司を食べた時は魚を生で食べる事に驚きましたが、その美味しさに魅了されたのを今でも覚えています。
 そしてやはりお寿司は美味しいモノです……特に今日のイワシと生サバ、カツオは絶品でした。」

「お、其れが分かるとはなかなかやるねぇ嬢ちゃん!
 イワシと生サバは今日俺が買い付けたネタの中でも一番のモンだし、カツオは今が初ガツオの時期で脂が少ない代わりに身が締まってて赤身の旨味ってものを堪能できるからな!」

「それに加えて、此の酒蒸しのアナゴも見事だぜ大将。
 酒蒸しにする事でアナゴの匂いを消してるのは勿論だけど、此のツメの味がアナゴの味を引き立ててる……恐らくは継ぎ足し継ぎ足しで代々受け継いで来たんだろうけど、甘すぎずしょっぱすぎず、それでいて濃厚でいながらアナゴ本来の味を壊さない絶妙なモノだ。」

「嬉しい事言ってくれるね兄ちゃん!
 その通り、アナゴのツメは創業当時から代々継ぎ足して今まで継がれて来たこの店の宝と言っても過言じゃねぇモンだ……東日本大震災の時も俺は此のツメが入った樽だけは死守して避難所まで持って行ったからな!」

「ガチで命懸けで守った訳っすね……」


寿司屋の大将と話をしつつ、〆に提供された『ハマグリの潮汁』を食した後に会計を済ませ、一夏とヴィシュヌは今度は駅近くにある所謂『道の駅』にやって来ていた。
目的は言わずもがな土産物の購入だ。


「千冬姉には酒とそれに合うつまみ、クラスメイトには大容量のご当地のお菓子、生徒会には少し高めのお菓子にするか。
 でもって束さんには……熊ソーセージにするか。束さんでも熊を食った事はないだろうし。
 天羽組さんには此れだな。」

「東北黒毛和牛の焼肉セット……の合計10㎏ですか……流石に多すぎませんか?」

「普通ならそう思うだろうけど、小林のアニキがメッチャ食うからな?
 天羽のおやっさん曰く『小林を連れて行けば焼肉の食い放題で損する事はないだろう』って事だったからなぁ……ぶっちゃけ、グリ先輩と小林のアニキがステーキの大食い対決をしたら時間切れ引き分けになる未来しか見えねぇ。」

「成程。」


一夏とヴィシュヌは土産物を選びつつ、生モノである東北黒毛和牛の焼肉セットと生モノはクール便で天羽組宛と織斑家に送り、其れ以外はIS学園の一夏とヴィシュヌの寮室宛に発送した。
土産物の発送が終わった一夏とヴィシュヌは、露天のアクセサリーショップでお揃いのシルバーチェーンのドッグタグを購入し、タグには一夏が『Love V』と刻み、ヴィシュヌは『Love I』と刻み、世界に一つだけのドッグタグを作っていた。
そしてその後、一夏とヴィシュヌは新幹線に乗って東京へと戻って行った――東京駅に到着するまでの間に一夏もヴィシュヌも眠ってしまい、ヴィシュヌが一夏の肩に持たれかかっていたのは恋人同士のお決まりシチュエーションと言えるだろう。








―――――――








新幹線で東京駅に到着した一夏とヴィシュヌは一旦織斑家の家に戻って、旅行先から送った生モノ系土産物を受け取ると、東京の下町街へと繰り出し、浅草の浅草寺でお参りと買い物をした後に、夕食に良い時間になったところでやって来たのは『五反田食堂』だった。
五反田食堂はこの界隈では『知らない奴はもぐり』と言われるレベルで有名であり、次期店長であり後継ぎである長男の『五反田弾』は一夏とヴィシュヌと鈴の親友であるだけでなく、料理の腕前は一夏とタメ張るレベルのぶっ飛び具合なのである。


「よう、邪魔するぜ弾。」

「一夏か!それにギャラクシーさんも!
 テーブル席が一つ空いたから其処に入ってくれ。そんでご注文は?」


久しぶりに来店した親友の姿を確認すると、弾は一夏とヴィシュヌを空いたばかりのテーブル席に案内し注文を取る……五反田食堂の店主は現在でも弾の祖父である『五反田厳』なのだが、弾は父親を飛び越える料理の腕前を持っており、厳から直々に次期店長兼料理長を任命されている五反田食堂の未来を担う人物なのだ。


「俺は……業火野菜炒め定食の飯特盛。
 其れがメインで単品でサバの味噌煮と唐揚げと、揚げ出し豆腐。」

「私は生姜焼き定食のご飯大盛りで。」

「了解!
 ってか、相変わらずスゲェ食うな一夏?お前だったらウチのメニュー全部食い尽くせんじゃねぇか冗談抜きにして。」

「俺の燃費の悪さはハンパねぇからな……もしも俺が五反田食堂の全メニュー制覇したら何か景品でるのか?」

「そいつは爺ちゃんと応相談だな。
 そうだ、唐揚げは俺が考案した新作でも良いか?お前の意見を聞きてぇし。」

「ん、OKだぜ。」


激しい運動後と比べれば少ないとは言え、一夏の食事量は矢張り凄かった。
そして十分ほどでオーダーしたメニューが提供され……


「「いただきます!」」


本日の夕食タイム開始。
五反田食堂の看板メニューである業火野菜炒めは超高火力で短時間で火を通された野菜はシャキシャキの食感を残しつつ確りと火が通っており、合わされた豚バラの脂と甘辛のタレが白飯にバッチリで、サバの味噌煮は一般的な甘みが強いモノではなくショウガをきかせたサッパリとした味わいで、ヴィシュヌが注文した生姜焼きも、豚のロース肉を醤油と酒とおろしショウガとおろしニンニクを合わせたタレに漬け込んだ肉をタレごと強火力で一気に火を通して千切りにしたキャベツの上に盛ってあり、肉で千切りキャベツを巻いて白飯と一緒に食べるのが最高だった。
そしてこれまた一夏が単品で頼んだ唐揚げだが、皿には白い唐揚げと茶色い唐揚げが二つずつとフライドポテトが盛られていた。
一夏は先ずは白い唐揚げから食した。


「色から塩味だとは思ってたけど、今まで食べた塩唐揚げとは違うな?
 一般的な塩とニンニクとショウガと酒じゃなくて……コイツは塩と胡椒と白ワインか?」

「それに気付くとは流石だな一夏!
 塩味の唐揚げってのは結構あるけど、その殆どが塩とニンニクとショウガと酒で下味をつけたモノだから、ちょっと変わった味の塩唐揚げを作ってみたくなった結果こうなったって訳だ。」

「洋風の唐揚げってのは珍しいから、これはイケるぜ弾!」


白い唐揚げは珍しい洋風の塩唐揚げであり、一夏の高評価を貰った弾は満足そうだったが其れで終わりではない。
続いて一夏は茶色の唐揚げを食し……


「コイツは……まさかの味噌味か!
 ニンニクとショウガと味噌、そんでもって隠し味に豆板醤を使ってるな?更に酒は日本酒じゃなくて紹興酒を使ってるだろ?紹興酒を使わなきゃ此の旨味は出ねぇからな?」

「大正解!
 醤油や塩の唐揚げってのは多いけど、味噌味の唐揚げってのは中々無いだろ?だからと思って作ってみたんだ。しかもなんでか同じ大豆の発酵調味料である醤油よりも肉が柔らかくなるんだ。
 白飯の相方として最強の揚げ物だと思わないか?」

「完全同意するぜ!」


それにも感激していた。
まさかの味噌味だったが、弾自身が言っているように、醤油や塩の唐揚げは多くとも味噌の唐揚げと言うモノは存在してはいるモノの其処までメジャーではなく、逆に言えばだからこそ開拓する価値のあるモノだとも言える訳で、弾は見事に新たな唐揚げの道を開拓したのであった。


「そう言えば弾、お前中学時代から『彼女ほしい』って言ってたけど、彼女出来たのか?」

「おぉっとここでそう来たか。
 残念な事に出来てねぇ……と言えば良いオチが付いたんだろうが、ところがギッチョン実は俺にも彼女が出来ました!!」

「弾……エイプリルフールなら一カ月前ほどに終わってるんだが……」

「嘘じゃねぇよ!
 新学期前に俺にも彼女が出来たんだよ!このスマホ画像が目に入らぬかぁ!!」


話題が『弾の彼女』に変わり、一夏の問いに対して弾はスマホの待ち受け画面を見せて来たのだが……


「「虚さん?」」

「って、知り合いか?」


其処に写っていたのはIS学園の生徒会の書記であり、生徒会長である更識楯無の従者である『布仏虚』だった。
一夏とヴィシュヌは、その人物がIS学園の生徒会役員である事を弾に伝え、何時何処で知り合い、何があって交際に至ったのかを聞いたのだが、弾が言うには『新学期前にレゾナンスに買い物に行ったらナンパされて困ってる女の子が居たから助けたら、その子からのお礼を経て交際する事になった』との事だった。


「虚さん、IS学園の生徒会役員だったのか……」

「つっても、虚さんは真面目だけどそれなりにジョークも通じる人みたいだからそんなに緊張する事は無いだろ?……場合によっては、虚さんにお前の料理振る舞ってやれ弾!
 お前の料理なら、世の女性の八割の胃袋を掴む事が出来ると俺は信じてる!!」

「お前に言われると妙な自信がついちまうが、確かに一理あるかもな。」

「だろ?
 そんじゃ追加注文でカツ丼よろしく~~♪」

「任せろ!」


弾のまさかの交際事情に驚きはしたモノの、一夏とヴィシュヌは五反田食堂での一時を楽しんだのだった。








――――――








翌日:天羽組本部


「おやっさん、一夏君から荷物が届きました……彼女さんと東北の温泉街に温泉旅行に行ったみたいで、その土産って事みたいです。一夏君から『今日の午前中に俺からの荷物が届くからよろしく』ってスマホにメールが来てましたし。」

「一夏君からか。
 温泉旅行の土産物と言えば『温泉饅頭』が無難なところだが、一夏君が無難なところを選ぶとは思えんな?」

「はい、冷蔵便で『東北黒毛和牛の焼肉セット』が10㎏届きました。」

「そう来たか……しかも冷蔵では賞味期限も短いだろう。
 小峠、今すぐバーベキューパーティの準備を舎弟達と行え。神代組との戦争中ではあるが、神代組も本物の任侠集団だから宴の最中に襲撃を仕掛けてくる事はあるまい。」

「冠婚葬祭の場には手を出さないのが、任侠者の暗黙の了解ですからね……そんじゃ早速準備に取り掛かります。」


天羽組の本部には一夏から『東北黒毛和牛の焼肉セット』が10㎏分届き、その日の午後天羽組本部の庭では盛大なバーベキューパーティが行われ、組員達は『天城戦争』を戦い抜くための英気を養って行くのであった。








――――――








同刻:フランス、デュノア社


「これで良しと……此れでデュノア社はお終いだね。
 お母さんを見捨てただけじゃなく、僕を良いように利用しようとした事を精々後悔すると良いよ……そしてデュノア社だけじゃなくてこの計画を是としてたフランス其の物もね。
 それじゃ、やる事はやったから僕はオランダに亡命させて貰うよ……バイバイデュノア社、そしてフランス……僕は貴方達の事が大嫌いだったよ。」


其処では金髪の少女が何かを行い、そしてデュノア社とフランスに別れを告げてオランダへと飛び立って行った……そして翌日、各国のメディアが『デュノア社の倒産』と『フランス政府の崩壊』を伝える事になったのであった。









 To Be Continued