Side:雪奈


すっかり遅くなっちまったんで、メユを家まで送ってったんだが、まさかメユの家がヤクザだとは思わなかった……マジで驚愕のどんでん返しって奴
だぜ此れは。
加えて、メユに言われるがまま応接間に案内されてるからな現在進行形で――まぁ、あんなに可愛い顔で『お父さんとお母さんに紹介します』って
言われたら断る事は出来ねぇけどよ。



「アレを断る事が出来るのは、相当な鬼畜か外道でしょうね。」

「……否定はせんが、少々極論過ぎねぇか其れ?」

「極論とは極めた論と書くのですよ雪女さん。」

「極端な論でもあるだろうが!!」

ったく、オメェは変な所で頭が回るなマユ!?
そんなしょーもない事が即座に浮かぶんなら、その能力をちったー勉強の方に回せってんだ!!……補習を受けないとは言え、赤点ギリギリライン
の低空飛行は拙いだろマジで。



「赤点が無ければ大丈夫でしょう?
 まぁ、雪女さんは常に平均80点ですので、私の成績はヤバいと思うのかも知れませんが――と言うか、平均80とる不良は、全国何処を探しても
 雪女さんだけでしょう。」

「まぁ、否定はしねぇ。」

マッタク持って不本意だが、親にやらされてた習い事のおかげでアタシは無駄にスペックが高いからな――学校のテストくらい余裕だっての。
だが、今はそんな事よりもメユの親父さんとお袋さんとの面会に全神経を注がねぇとな。
ヤクザの大親分と姐さんに気に入られなかったら、アタシの人生此処でエンディングになりかねないからなぁ……生きて帰れるように頑張ろう。









ヤンキー少女とポンコツ少女とロリッ娘とEpisode4
『ヤクザの親分と姐さんと邂逅って…!』










メユに案内されて辿り着いた部屋の中に居たのは、キッチリとスーツを着込んだ端正な顔立ちのオッサンと和服を着た清楚な美人さん……この人
達がメユの両親って事か。



「愛雪、一体何処に行ってたんだ?行き成りいなくなるから心配したぞ?」

「パパもママも、メユとの約束破ったからちょ~っと面白くなくて、前に話した雪女のお姉ちゃんとマユお姉ちゃんと一緒に遊んでたの。」

「其れは、今連れて来たあの人達かしら?」

「うん、そうだよママ!!」



で、なんかこっちに注目されちまった――周囲の幹部の視線も痛いが、この程度で怯むアタシじゃないぜ!!

「どうも、今し方紹介されました、雪女こと早乙女雪奈っす。」

「西行寺真雪です。よろしくお願いします。」

「ふむ……君達がこの前愛雪を助けてくれたと言う子達か。私は磯辺崎源一郎、愛雪の父親だ。
 娘が危ない所を助けてくれた事、礼を言おう――おかげで愛雪は無事だったから、無用な血を流す事が無くて済んだよ。」



いや、無用な血とかサラッと恐ろしい事言うなよオイ……強面じゃねぇが、思考がヤッパリヤクザだな?
テメェの娘が傷付けられて怒らねぇ親はいねぇと思うが、だからって報復として流血沙汰になるなんて事は滅多にあるモンじゃねぇと思うからよ。



「あの方達は、雪女さんにボコられた方が幸せだったと言う事ですね。」

「あぁ、下手したら物理的に指を一本失ってたかもな……」

「『詰める』と言う奴でしょうか?」


「ハッハッハ、其れはあくまでヤクザ映画の中での話で、実際にやる事は滅多にない事だ。
 其れにウチは、他の暴力団とは違って、戦後すぐに法人として登記した組織でね、国が法人格を認め、税金も納めているから他の暴力団の様に
 警察に必要以上にマークされてる訳じゃないんだ。
 言うなれば一般と比べて、可成り武闘派な会社と言った所かな。」

「そうは言っても、銃刀法違反上等な物を持ってる以上は色々アウトよ貴方。
 っと、其れよりも愛雪を助けてくれただけじゃなくて、今日は一緒に遊んでくれてありがとう……この子との約束を破ってしまった事を、悪いとは思
 っていたのよ。
 あ、私は磯辺崎汐、愛雪の母親です。」



法人化したヤクザって……今は暴力団は法人登記できねぇから、法律が変わる前の既得権ってヤツか。
まぁ、其れは其れとして、今日はアタシ等も楽しませて貰ったから其処はお相子って事で如何っすかね?――アタシとしては、歳の離れたダチ公が
出来たって事で嬉しくもありましたし。



「そうですね。
 私も雪女さんも、お互い以外に友人はいませんので、歳が離れてるとは言え新たな友人が出来たと言うのは喜ばしい事ですので。」

「あ、私もお姉ちゃん達とお友達になれたのは嬉しいよ♪」

「お、そいつは嬉しい事言ってくれるじゃねぇかメユ?」

「……わーい。」



……はい、空気が死んだ。
マユ、ジェットコースターの時も思ったけど、お前はもう少し言葉の抑揚と言うか、言葉に感情乗せる事は出来ねぇのかオイ?ハッキリ言って、驚い
てんのか喜んでるのかキレてるのか判別つかねぇんだよオメェは!
表情の変化も乏しいし!!



「な、中々に個性的な子だな真雪君は……」

「さーせん、コイツ何分色々とポンコツな上に、表情の変化とかに乏しいもんで……せめて喜ぶなら笑顔で抑揚付けて言えってんだよマユ。」

「ふむ、では改めまして。
 わーい♪」(ニコ)



――ズギャァァァァァァァァァァァァン!!!



こ、今度は別の意味で空気が死んだ!
やべぇよ、普段無表情な奴の笑顔が此処まで破壊力高いとは思わなかったぜ――無表情でポンコツだからうっかり忘れちまうが、マユは可成りの
美人なんだよな実は。
黒服の幹部連中の何人かは確実に今のでハートブレイクされてんぞオイ。



「お褒めに預かり光栄です。」

「まぁ、今のは一応褒めてるのか?
 で、何時まで笑顔で居るんだオメェは?」

「いえ、慣れない事をしたせいか顔の筋肉が吊ってしまって元に戻らなくなってしまったと言いますか……」



はぁ!?
笑顔作って顔の筋肉が吊るって、オメェはドンだけ表情筋かてぇんだオイ!!実は死んでんじゃねぇのか!?死後硬直満喫中かこら!!



「いえ、生きていますが……あの、何とかなりませんかね?」

「知るか!テメェでほっぺたでも引っ張ってろ!!」

「成程、其れは効果がありそうです。」



だからって実践すんなっての……はぁ、このポンコツぶりがマユの魅力と言えば其れまでなのかも知れねぇけど、コイツ将来的に社会で生きていけ
るのか不安になって来るぜ。



「ハッハッハ!
 いやはや、此れはまた何とも面白い友達を持ったな愛雪?男5人相手にしても完勝する不良少女に、一般的な感覚とはズレた残念系美少女って
 言う友達は中々居ないぞ?」

「そうね、お父さんの言う通りだわ。」



あ……そう言えば、ヤクザの親分と姐さんの眼前だった。
つい、何時ものやり取りをしちまったぜ……お見苦しい所をお見せしました。



「いや、構わんよ……君達の人となりが良く分かったからね。
 娘を助けてくれた人だから、一度会いたいと思っていたが、会ってみて愛雪が君達の事をしきりと私達に話した理由が良く分かった――もし良け
 れば、此れからも愛雪と仲良くして貰っていいかな?」

「アタシ達の人となりが分かったって……流石はヤクザの親分、観察眼は有るって事っすか。
 んで、メユと仲良くしてくれだなんて、そんなの当然っすよ――アタシ等は、もうダチ公なんすから。」

「はい、メユさんは私と雪女さんの友人ですので。……漸く顔が元に戻りました。」



……やっとか。
まぁ、そんな訳なんでアタシ等の方こそ仲良くさせてくれって感じっすよ親分さん。――取り敢えず、アタシが一緒に居る時に限っては、メユは絶対
に傷付けさせないって誓うぜ。



「ふむ、其れは頼もしいな。
 腕っ節も強いらしいし……如何だ、将来はウチの組員にならないか?」

「あ~~……どうしても就職先が無かったら、そん時は頼んます――そしてその時は序にマユも一緒に。
 正直言って、コイツが将来的にどっかの企業に就職できるとは思えねぇんで。」

「ふふ、ならば最終手段として、貴女達2人分の席を確保しておきましょう。
 さて、今日はもう遅いから泊まって行ったらどうかしら?きっと愛雪も喜ぶと思うし。」



はは、あざーす。
でも、今日は泊まらずに帰ります――ってか、泊まるのも良いんですけど、アタシだけなら兎も角、マユが泊まったら夜中にトイレに起きた際に道に
迷って方々に迷惑かける可能性が大なんで今回はパスで。
泊まるにしても、この屋敷の全体を完全に把握してからじゃないとまず無理っす。
下手したら、コイツのドジで屋敷その物が潰れて無くなる可能性があるっすからね。



「むぅ、其れは残念です……」

「そんな顔すんなよメユ。
 機会があれば、今度アタシの家でお泊り会やろうぜ?――マユの奴は良く泊まりに来るから、アタシは全然かまわないからさ。」

「雪女のお姉ちゃんの家でお泊り会……約束だよ?」

「おう、約束だ。」

そして、約束した以上は絶対だ。
雪女さんは約束を破るのが一番嫌いだからな――でもまぁ、そう言う事なんで、今日は此れでお暇させて貰う事にしまっす!!



「そうか……オイ野郎共、客人を正門まで案内しろ!」

「「「「「「合点です、親分!!」」」」」」



んで、黒服の幹部に正門まで案内されて、其処から見送りまでされちまった……ハハ、此れはもう完全に西行寺組との関わりが出来たのは間違い
ねぇな?アタシも、お前も。



「ですね。」

「まぁ、滅多にある事じゃねぇから良いとしておこうぜ。
 そんでマユ、お前今日は如何する?家まで送る?其れともウチに泊る?」

「制服が置きっぱなしなので、雪女さんの所に泊る事にします。」

「やっぱりそう来るよな。」

なら、コンビニで夜食を幾つか買っていくか。
マユがお泊りするときは、夜遅くまでゲームとかやってる事が多いからな――まぁ、夜食だけじゃなく、アタシは普通に缶チューハイも買うけどな。
未成年の飲酒と喫煙はお断りします――バレなきゃいいだろバレなきゃ。



「流石は不良、言う事が違いますね。」

「褒め言葉と受け取っておくぜ。」

そんな訳で、マユとのお泊り会は、何時ものように深夜まで遊び倒して、一緒のベッドで寝て――翌朝、アタシはベッドから蹴り落とされてた。
マユがベッドから転げ落ちない様に壁際にしたのに、まさかアタシが蹴落とされるとは思っても居なかったぜ。

取り敢えず、ムカついたのでマユの頬っぺたを抓って起こしたアタシは絶対悪くねぇ。

そんで起きろマユ、学校行くぞ?



「もうそんな時間ですか……おはようございます、雪女さん。」

「おう、おはよう。」

でも、こんなやり取りも悪くねぇって思ってんだから、アタシは今の此の生活スタイルを気に入ってるのかもな――まぁ、其れなら其れで悪い事じゃ
ねぇとは思うけどな。

さて、今日も良い一日になると良いな――不良的にはアウトかもだけどなこのセリフは。










 To Be Continued… 



キャラクター設定



・磯辺崎源一郎
 愛雪の父親。
 その正体は、関東一派のヤクザ組織を束ねる大ヤクザ組織『磯辺崎組』の組長。
 端正な顔立ちだが、極道特有のオーラを纏っており、そんじょそこ等のチンピラなら一睨みで黙らす事が出来る、覇道の侠客――なのだが、娘と
 妻には頭が上がらない。


・磯辺崎汐
 愛雪の母親にして、『磯辺崎組』の現姐。
 和服の似合う日本美人だが、その美貌の奥にはヤクザ組織の姐の迫力が秘められている。――のだが、基本的には優しいお母さんであり、人
 当たりの良い奥様。