Side:雪奈


今日は恒例のお泊り会――なんだが、今回は何か人数が増えてるな?



「ゴメン雪女のお姉ちゃん、皆もついて来ちゃった。」

「いや、謝る事はねぇぜメユ。」

メユのダチ公も一緒に来ちまったみてぇだが、賑やかなのは嫌いじゃねぇから大歓迎、寧ろウェルカムって所だぜ?――そもそもにして、お泊
り会ってのは、思いっきり楽しむもんだろ?
だったら、人数が多いに越した事はねぇ――多い程、楽しめるってモンだからな♪
そう言う訳だから、キヌもミサもイッカもイオリンも遠慮しねぇで寛いでくれや。飲みモンも、菓子類も一通り取り揃えてあっからよ。



「其れは良いんだけど雪女さん、この『古代カンブリア紀グミ』って何?」

「其れはマユに聞いてくれ。
 そういうみょうちくりんな物を買うのはマユしか居ねぇ。あとは、明らかに怪しそうな味のスナック菓子とかな。」

「と言う事は、この『和風ポテトチップス イカの塩辛味』って……」

「あ、はい。私が買いました。」



……メユ以外のガキンチョ共にもポンコツ認定された瞬間だなこりゃ。つーか、イカの塩辛味ってどんなポテチだオイ。それ以前に、何で作ろ
うと思ったのか、メーカーを問い質してぇ。主に小一時間ほどな。











ヤンキー少女とポンコツ少女とロリッ娘とEpisode17
『ヤンキーと夏休み、其の漆~怪談話で~』










さてと、最近は日付が変わる頃に帰って来る事が少なくなった親父とお袋だが、其れでも会社の重役だと何かと忙しいらしくて、週に1、2回
は帰りが10時を過ぎる事がある。
まぁ、最近は遅くなる時は連絡入れてくれっから良いけどよ――で、今日は遅くなる日だから、先に飯を済ませて、後は楽しい楽しいお泊り会
って訳だ。

このクソ暑さだったから、晩飯は冷やし中華にして、食ったら風呂に入って、お泊り会に直行なんだが、この人数だと流石にアタシの部屋には
入りきらねぇから、今回は客間に布団敷いて雑魚寝だな。
ゲーム機とかはアタシの部屋から持って来てるし、その他にもボードゲームやカードゲームなんかも色々取り揃えてあるからな。
さて、先ずは何で遊ぶ?



「遊ぶのも良いんだけど、此処は夏だからちょっと怖い話をしてみようよ雪女のお姉ちゃん。」

「へ?怪談話ってか?」

「あ、其れ良いかもメユちゃん!雪女さんなら色々知ってそうな感じがするし♪」

「雪女ですからね?」



いや、雪女は渾名であって、アタシ自身は雪女じゃねぇからな?つーか、雪女だったらこのクソ暑さでとっくにお陀仏になってるっての。
にしても怪談か……アタシは別に構わねぇんだが、夜中トイレに行けなくなっても知らねぇぞ?其れでも良いのか?



「其れは大丈夫です雪女姉さん。メユを含め、私達は実は怖い話がとっても大好きなので。」

「そうなのか?そいつは意外だったぜ。」

なら、部屋の明かりを消して、蝋燭……だと危ないから、非常用の懐中電灯を逆さまにして点けてと――電球の懐中電灯なら兎も角、LEDの
懐中電灯だと雰囲気が今一だが、まぁしゃーねぇだろ。



「此れも21世紀の怪談の形と言う事で如何でしょうか?」

「如何かと思うが、微妙に納得しちまった。偶に、本当に偶にだけどオメーは納得できる事を言ってくれるよなマユ。」

「えっへん。」

「そして珍しく今回は褒めてるからな。」

「では、お褒め頂いた記念と言う事で、先ずは私から怖い話をしても宜しいでしょうか?」



……其れでその流れに行くのがヤッパリ意味不明だなオメーはよ!まぁ、別にお前からでも構わねぇけどよ……つーか、お前怖い話とか知っ
てんのか?
こう言っちゃなんだが、そう言うのとは無縁に見えんだけどよ?



「実は結構知っているんです。怪談と言うよりは都市伝説に近い物ですが。」

「其れは其れで面白そー!マユお姉ちゃん、早く話してーーー!!」

「一発目だから期待してるよ~~♪」

「では、始めましょう。
 此れは、ある大学のテニスサークルに所属する女性が体験した事なのですが……ある日彼女は、サークルの集まりで先輩の家を訪れ、サ
 ークルの仲間達と軽い宴会を楽しんで居ました。
 宴会自体は何も問題なく進み、良い時間になったからと自然な形で解散となったのですが――彼女は帰宅途中に、先輩の家に忘れ物をし
 た事に気付き、取りに戻ったのです。
 ですが、取りに戻ったその時、先輩の家の明かりは既に消えていました。
 『寝てしまったのかな?』と思いつつもドアノブを回すと、何と鍵はかかっていなかったのです。『不用心だな』と考えつつ、しかし明かりを点け
 て先輩を起こすのも悪いと思った彼女は、暗闇の中で手探りで自分の忘れ物を見つけると、そのまま先輩の家を後にしました。
 そして翌日――その先輩は学校を休みました。
 『風邪でも引いたのか?』と思い先輩の家に寄ってみると、何やら家の周りには『KEEP OUT』のテープが張られ、何人もの警察関係者が。
 何事かと思って聞いてみると、此の家の住人――つまりは先輩が何者かに殺害され、金品が奪われたのだと言います。
 当然彼女は信じられませんでした――昨日、楽しく宴会をやった先輩が殺されたなど……ですが、現実は変わらず、日を追うごとに彼女は
 先輩の死を受け入れて行きました。
 ですが、彼女にとって先輩を殺した犯人は絶対に許せる物ではなく、自分に出来る範囲の事ならば警察に協力しようと決意し、事情聴取な
 んかにも積極的に関わって行きました。
 そんな彼女に、一人の刑事が心を動かされ、彼女に捜査の進捗状況などを極秘で教えるようになっていきました。
 そしてある日、その刑事は捜査する中で見つけたあるモノを持って来て、彼女に渡しました――其れはB5サイズの紙きれだったのですが、
 其れを見た彼女は一瞬にして背筋が凍り付きました。
 何故ならば、その紙にはただ一言『電気を点けなくて良かったな』と書かれていたから。
 つまり、彼女が忘れ物を取りに行った時点で先輩は殺害されており、犯人は暗闇の中で息を潜めていたのです……気付かれないように。
 彼女は電気を点けない事で難を逃れましたが……もしも、あの時に電気を点けていたら……」



そう来たかマユ。まぁ、其れは確かに怪談ってか都市伝説の類だな。
確か元ネタは、アメリカのフォークロア『ルームメイトの死』だったか?夜中に帰って来た大学生が、電気もつけずにベッドに直行して、次の朝
目を覚ますと隣のベッドのルームメイトが殺されてて、壁に『It was good not to turn on the light.(電気を点けなくて良かったな。)』って書か
れてたって言う。



「おや、元ネタはアメリカだったのですか?日本発祥だと思ってました。
 其れは其れとして、怖かったですか?」

「確かにおっかねぇ話だが、そりゃ怪談とは言いづれぇだろ?
 メユ達が聞きてぇのは、あくまでもお化けとか幽霊的な話なんじゃねぇかと思うんだけど如何よ?」

「うん、怖い話でもそっちの方が好きーー!!!」

「幽霊、お化けーー!!」



だとよ。
確かにおっかねぇ話だったが、ちょちチョイスを間違っちまったみてぇだなマユ――なら今度は、アタシがガチの怪談ってモンを話してやるよ。
だがな、コイツは結構背筋の寒くなる話だから、ビビッてちびるんじゃねぇぞ?



「そう言われると期待しちゃうかも!!」

「雪女さん、聞かせてよ!!」



はいはい。
コイツは、ある雑誌カメラマンの体験談だ。
そいつは、雑誌の巻頭のカラーページに使う風景写真を任されてる奴だったんだが、ある日夏の緑を写真に収めるべく、山間の湖畔を訪れて
いたんだ。
青空には見事な入道雲が浮かび、『夏の景色』をカメラに収めるには絶好の日和だった。
そいつは早速カメラのシャッターを切りまくったんだが――湖の湖面をメインにした1枚を撮った時に其れは起きた……シャッターを切った瞬間
に、何かが湖に飛び込んだんだ。
何事かと思い、湖の畔まで行ってみると、如何やら若者が湖に飛び込んで自殺したらしいとの事だった――直ぐに救助活動が行われたんだ
が、そいつは死んじまったんだ。
其れから数日後、自殺した奴の母親ッてのが雑誌の編集部に訪れて来たんだ――どうも人伝に、自分の子供の最期を写真に撮った人が居
るってのを聞いたらしい。
その人は、せめて最後の写真を見せて欲しいと頼んで来た……ただ、其れだけならカメラマンも断る理由は無かったんだが、ソイツが撮った
写真は『普通じゃなかった』から、見せるのを悩んだんだけど、母親の熱意に負けて、写真を見せる事にしたんだ――『何が映っていても驚か
ないで下さい』って言ってな。



「そ、それで?」

「その写真を見た母親は、思わず写真を落としちまった……何でかって?
 それはな、テメェの子供が湖に飛び込むその瞬間を映した写真には、湖面から無数の白い手がまるでそいつを迎え入れるかのように伸び
 てたからだ。」

その白い手が何を意味してるのかは知らねぇ……だが、カメラマンは後に其処を調べて知る事になったんだ――其処が、全国的にも有名な
自殺の名所だったって事にな。
もしかしたら、ファインダーが捉えた無数の白い手ってのは、其処で命を絶った奴等の亡霊だったのかもしれねぇ――そして、新たに命を絶っ
たそいつも、今度は生者を黄泉に誘う存在になっちまうのかもな。

「如何だ、怖かったか?」

「こ、こわ~~!!!」

「直接的に幽霊とかお化けが出て来た訳じゃないけど、湖面から伸びる無数の白い手って、不気味過ぎるって!!」



なら、怪談話としては楽しめただろ?
他には『消えるシューマイ』ってのがあるんだが、アレはオチがギャグだから怪談じゃねぇからな。



「でもでも、凄く楽しかったよ!今度は肝試しとかしよう!!」

「ゲッ……肝試しは好きじゃねぇな?」

「おや、意外ですね……怖いもの知らずだと思ってたのですが?」



殴ってぶっ倒せる物に関しては怖いモノは何もねぇが、殴って倒せねぇ相手だと流石にな……殴って倒せねぇ相手じゃ、金属バットも模造刀
も効果がねぇからな?
てか、金属バットにお札張れば幽霊相手でも効果があるか?



「其処で逃げると言う選択をせず、あくまでも戦う事を選択する雪女さん、流石ですね。」

「ケッ、今更何言ってやがる。
 アタシは誰が相手であろうとも逃げるなんて事は絶対にしねぇ――攻撃が効かねぇ奴が相手だってんなら、攻撃が効くようにした上で滅殺
 するだけだぜ。」

「では、その後ろにいるのは如何でしょうか?」

「後?」

って、おわぁ!!真っ白な如何にもな化け物!?
テメェら何モンだ?……ケンカしに来たってんなら相手にはなるぜ?



「くは……ごめんごめん、ユキ。何やら面白そうな事をしていたからついね。」

「うふふ、ただいまユキちゃん♪」



って、正体は親父とお袋かよ!!
まぁ、ガチの幽霊とか化け物じゃなくて良かったけどよ……ったく、色々とアタシの両親もやらかしてくれるもんだぜ。其れを悪くねぇって思って
るアタシも人の事は言えねぇのかもだけどよ。

んで、その後は親父とお袋も交じって、最大級のお泊り会になった訳なんだが――親父とお袋の怪談話は可成りヤバかった……普通に恐怖
を感じたからな。
まぁ、メユ達は喜んでたから、良いと思うけどよ。

しかし、こう言う事になるなら委員長も呼んでおくべきだったかもな――委員長は、何となくだが色々な怪談話知ってそうだからな。


因みに、夜中にトイレに起きた時、廊下に白い何かが居て、邪魔だったからぶっ飛ばしたら消えちまったんだが、アレは一体何だったんだろ
な?……ま、気にしたら負けだな。










 To Be Continued… 



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