Side:雪奈


取り敢えず、お礼参りに来た馬鹿共を退けたんだが、アタシはチェーンで頭をかち割られちまったから絶賛保健室で治療中……頭を縫うなんて
事にはならねぇだろうな?



「其れは大丈夫よ。
 大分派手に血を流したみたいだけど、傷そのものは浅いし、ガーゼと包帯をしていればそれほど時間がかからずに直るわ――傷跡が残るか
 も知れないけど、其れも髪の毛で隠れるから大丈夫よ。」

「なら安心したぜ。」

頭を縫うなんて事になったら、其処からは毛が生えて来ないから一部剥げになっちまうからな。
取り敢えず怪我の方は大した事は無かったんだが……此れから待ってるのは先公の事情聴取か――ハッキリ言って憂鬱だぜ。

山ちゃんはアタシの味方だけど、大概の教師はアタシを敵視してっから、其れを考えると最低でも停学は免れねぇかもな。



「いえ、そうはさせません。
 今回に限っては貴女は正しい事をしたのですから、処分されると言うのは不当な扱いです――なので、誠心誠意弁護させて貰いますよ。」

「委員長……期待してるぜ。」

さてと、どうなる事かねぇ……












ヤンキー少女とポンコツ少女とロリッ娘とEpisode10
『ヤンキーと取り調べ』










っつー訳で、保健室での手当てが終わったアタシは生徒指導室――じゃなくて職員室に呼び出されて此れから事情聴取って所だな……あぁ、
山ちゃん以外の先公……特に生活指導の田辺は完全にアタシに敵意向けてるぜ。
まぁ、委員長も弁護してくれるみたいだから大丈夫だろうが……おい、何で居るんだマユ?其れとメユと鮫口のオッサンも!!



「何となく居た方が良いかと思いまして。」

「鮫口さん行かせたのは私だしね?」

「まぁ、事情を聞きたいって事なんで仕方なく。
 其れと姐さん、如何か自分の事は気安く『銀ちゃん』とでも呼んでくだせぇや。」

「何なんだかマッタクよぉ……つーか、アンタ『銀ちゃん』って面じゃねぇだろ?――だが、其れが望みだってんなら、アタシは此れからアンタの
 事を『銀ちゃん』と呼ぶ事にする!」

「光栄ですぜ、雪女の姐さん。」



さてと、其れで何を聞きてぇ訳よアンタ等は?
見ての通り、アタシはお礼参りに来た馬鹿共を説得しようとしたけど、殴られたんで正当防衛として反撃しただけだぜ?……序に言うと、怪我し
たのはアタシだけで他の生徒には被害出してねぇんだから呼び出される意味が分からねぇんすけどねぇ?



「早乙女……そもそも喧嘩が大問題だと言っておるんだ!!
 お前と言う奴は、言っても言っても喧嘩三昧から卒業する気が全くない……しかも今回は校内での喧嘩沙汰と来ている!!それが、此の学
 校にとって、ドレだけの不名誉か理解しているのか!!」

「お言葉ですが田辺先生、学校の名誉とは生徒の安全よりも優先されるモノなのでしょうか?
 もしも雪女さんが彼等の対処をしなかった場合、学園の生徒――特に女子生徒に被害が出ていた可能性は否定できませんし、教頭先生に
 も被害が出ていたでしょう。
 其れに、雪女さんが言っていたように、今回の一件は喧嘩ではなく、殴りかかって来た相手に対しての正当防衛ですよ?
 そもそもにして、貴方をはじめとする教師陣がもっと早く対処する為に動いていたのならば、雪女さんが怪我をする事も無かった筈だと愚考す
 る次第なのですが?
 と言うか、此れ等の事を総合的に判断すれば、雪女さんの行動は寧ろこの学校の名誉を守った事になる訳で、こうして呼び出されてお説教
 されると言うのは不当な扱いと言わざるを得ません。
 大体にしてですねぇ、普段は己の肉体美を自慢し、学生時代は学生プロレスのチャンピオンだったと言っている体育教師の佐山先生は何を
 していたんです?
 貴方ならば、不良程度は簡単に制圧できた筈ではないのですか?……貴方の言う事が本当であったとするのならば。」

「~~~~!!!」



お~、委員長の弁護で先公共が黙っちまったな?山ちゃんは口元に手を当てて笑ってるけどよ。
しっかしまぁ、相変わらず弁が立つねぇ委員長は?正論に次ぐ正論に、時には暴論とも言える理論を交えて先公共の反撃を完全封殺ってのは
大したモンだぜ。
だがな委員長、佐山が学生プロレスのチャンピオンだったってのは多分ふかしだぜ?
アタシは習い事で格闘技もやってたから分かる事なんだが、佐山の筋肉はボディービルで鍛えただけのモノで、クソ力は有るかも知れねぇけ
ど、戦う為の力は備わってねぇよ。



「成程、つまりは見掛け倒しと言う事ですね雪女さん?」

「マユ、その通りだがハッキリ言ってやるな……佐山が可哀想だ。」

ふ~~……あぁ、タバコが美味いな。



「こら雪ちゃん、タバコは身体に悪いよ?」

「分かっちゃいるけどやめらんね~~。ってか、突っ込む所が微妙に間違ってる気がするのはアタシだけか山ちゃんや?」

「えぇい、教師の前で堂々と煙草を吸うんじゃない!!」

「あんだよ田辺、アンタも吸うか?」

「吸わぬわ馬鹿者!!」



そうかい。
銀ちゃん、アンタは如何だ?



「有り難く頂きやす雪女の姐さん。
 ……さてと先生方、アンタ等の言い分は分からないでもないが、アウトローの世界に身を置く俺としちゃあ、其処の委員長の嬢ちゃんも言って
 たが、雪女の姐さんのやった事は、賞賛されこそすれ、否定されるもんじゃねぇでしょう?
 確かに校内での喧嘩沙汰ってのは問題かも知れねぇが、なんで其処で『お礼参りに来た馬鹿共を片付けてくれた』『喧嘩した当人以外の生
 徒に怪我はなかった』と、其れで良しと出来ねぇんですかい?」

「雪女のお姉ちゃんは、絶対に間違った事をしてない……其れなのに、罰を与えるって言う感じなのは納得できないよ。」

「雪女さんの行動は、何も間違っていません――寧ろ生徒の安全を守った彼女に対して停学などの処分を行ったとあっては、其れこそ我が校
 の名に傷が付きますよ?」

「でしょうね。
 まぁ、不良グループのボス格に、行き成りズルパンかましたのには驚きましたが……」



――ヒュゥゥゥゥ……



銀ちゃんとメユと委員長が良い感じに話を持って行ってくれたところで、マユが要らん事を言って空気が死んだ!!――うん、空気が死んだだ
けじゃなくて全員がフリーズしたな此れ。
マユ、余計な事言ってんじゃねぇぞ!!



「おや?言っておいた方が良いと思ったのですが……因みに、リーダー格のナニは如何程だったのでしょうか?」

「お前なぁ……女子がそんなの聞くなっての!!
 まぁ、敢えて答えるとするなら、クッソキタねぇ真正の皮被りで、5cmにも満たねぇ粗チン野郎だったと言っておくぜ……ったく、あんな粗末な
 モンで、うちの生徒をやる心算だったってんだから驚きだぜ。」

「成程。
 つまりゴールドクラッシュ(金的)する価値もないと言う事ですね?」

「否、何匹かはゴールドクラッシュして野郎としての選手生命絶ってやったぜ?――金属バットで潰されたら、流石に再生は出来ねぇだろうから
 な……ってか、その心算でやったからよ。」

「まぁ、其れも正当防衛の範囲内ですから問題は有りませんよ雪女さん。」



っと、そう来たか委員長。
慣れ合う心算はないが、オメェは味方だと頼もしい事この上ねぇな?――不良と委員長ってのは基本的に相容れないモノだから反目する事の
方が多いんだが、其れだけに結束した時は強いってもんなんだろうな。
とは言え、マユが余計な事を言った事が帳消しになる訳じゃないんだけどよ。



「貴様等……纏めて停学になりたいか!!」

「……其処までです。
 纏めて停学を独断で決めるなど、流石に越権行為ですよ田辺君。」



おぉっと、此処で学園長のご登場か……なんかよく分からんけど、アタシは学園長には気に入られてんだよなぁ?……孫に似てるからとか言っ
てたけど、まぁ悪い気分はしねぇな。



「確かに外部からやって来た人達と喧嘩をしたと言うのは問題かも知れませんが、我が校の生徒に被害は出ていませんし、早乙女さんも正当
 防衛を行っただけであり、停学にする理由は何処にもありませんよ?
 そもそもにして、我が校を守った生徒に対して罰則を科すと言うのならば、其れこそ我が校の倫理観を疑われてしまうでしょう?」



ハッ!まさかの学園長からの援護があるとは思わなかったぜ――流石に学園長から言われちまったら、アンタ等は何も言えねぇよな?……下
手に逆らったら、テメェの首が飛ぶかもしれねぇ訳だしよ。
何にせよ、最後の最後で強烈な援護射撃があったおかげで、取り敢えず無罪放免って事になって助かったぜ。



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結局、委員長の証言と、学園長の鶴の一声でアタシは無罪放免となった訳だが……悪かったな委員長、おかげで助かったぜ。



「此れ位の事は当然です雪女さん。――何より、不当な罪でと言うのは余りにも納得できる事ではありませんでしたので。」

「テメェの正義に従ったって事か。」

クックック……良いねぇ委員長?
此れまでは反目しあって来たけど、アンタは最高だぜ!!――アンタと一緒のクラスで良かったって、今はじめて思う事が出来たよ。

其れは其れとして、もうこんな時間か……途中でラーメンでも食べてくとすっか♪委員長も一緒に如何よ?



「ふむ、偶には良いかも知れませんね?では、御一緒させて頂きます。」

「全面的に賛成です雪女さん。」

「ラーメン大好き~~~!」

「今回は自分も一緒に行かせて貰います。」



おっし、そうと決まればラーメン屋に一直線だぜ!!
最悪の場合は退学も覚悟してたんだから、そうならなかった事への祝いって事で、今日はアタシが全額負担させて貰うぜ?――ま、精々楽し
むとしようぜ!!










 To Be Continued… 



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