Side:ルナ


 矢張り侵食が最も深刻なのは融合機能か…
 此れが侵食されているが故に、書は完成と同時に主を取り込み――そして食い殺すか…

 修正しても、この闘いに於ける一度の融合が限界だな。
 それ以上は融合率が極端に下がるし『逆融合』などはもっての外だ。

 「中々、全てが丸くとは行かないか…」

 侵食を止めて切り離した場合、一時的に力の略全てを失う事になるな此れは。
 時間が解決するとは言え、回復が1ヶ月後なのか1年後か、或いは10年掛かるのか…其れは流石に分らないな。

 まぁ、だからといってやる事に変わりは無い。
 侵食を食い止めて、治せる部分を治し、外に戻ってナハトの機能を止める、それだけだ。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴ…


 !!この揺れは…!

 「どうやら、相当派手にやっているようだな、なのはは。」

 『I think so.』


 もう少し………もう少しだけ待っていてくれなのは、皆。
 あと少しで、そちらに戻る事ができるから…!










 魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福51
 『貫く意志〜A.C.S〜』










 Side:闇の書の意志


 …あの子も頑張るモノだな…何一つ変えることなど出来ないのに。
 吸収した、私に良く似た彼女も、直に永遠の夢に捕らわれる……終わりは近い。


 「私…私は…」

 「そのまま眠ってください我が主。」

 此処ならば、貴女の望むものが全て有ります。
 安らかな気持ちでお休み下さい…


 「私の…望み…?」

 「温かい家族、健康な身体……貴女が望んで得られなかったものです。」

 貴女の望みは、私が全て叶えます。
 ですからご安心を。

 何も怖がらずに、温かな夢の中へ…


 「温かな……あぁ…有ったら良えなぁ……そんな世界…」


 有りますよ……貴女が望めば、私が用意しますから…


 「うん…」


 ……お休み下さい…私には此れ位しかできません。
 全てが終わってしまうその時まで、主である貴女の心を壊さないようにすることしか…

 もしも…



 『く…えぇぇい!!!』



 もしも本当にお前が私を止められたら、其れこそ奇跡だ小さな魔導師よ。
 だが、そんな奇跡は夢物語だ……起こり得ない。

 そろそろ終焉が近い…




 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!



 !?
 此れは…あの子の力が上がっている?

 まさか…まだ諦めないのか?
 どうして此れだけの絶望的状況の中で……心が折れないんだ…?








 ――――――








 No Side


 エクセリオンモードを発動したなのはと闇の書の意志の戦いは、既に一般的な魔導戦闘とは一線を画すハイレベルバトルとなっている。

 互いに背後を取らんと動き回り、魔力弾が炸裂し、クロスレンジではレイジングハートと拳がぶつかり合う。

 「えぇぇーーい!!」

 「おぉぉぉぉぉ…!!」


 体格差を技術で埋め、クロスレンジでもなのはは何とか対抗している。
 だが、如何に槍術を身につけようとも元来クロスレンジはなのはの土俵ではない。
 あくまでもメインステージは遠距離。

 射撃と砲撃が最も生きるミドルレンジとロングレンジ、そしてアウトレンジだ。


 「はぁぁぁ…スマッシャー!!」

 「な!この距離で砲撃……正気か…!」

 なので距離をとろうとクロスレンジでの競り合いに小型砲撃を撃ち込む。
 近距離であるにも拘らず、其れを防ぐ闇の書の意思だが、其れが逆になのはが距離を開ける為の好機となる。


 「ファイアー!」
 『Break.』


 クイックムーブで距離を開け、十八番の砲撃を放つ。
 エクセリオンの影響下に有る今は、チャージが短くても通常のディバインバスター位の威力の砲撃は放てる。

 其れを利用してのクイックチャージバスターだ。


 相手が並の魔導師なら此れで落せる。
 少なくとも防御姿勢を取らせる事は出来る。

 だが相手は最強とも言える闇の書の意志。
 この一撃も難なくかわし、反対に『お礼』とばかりに下から突き上げるような拳打をなのはにお見舞いする。

 「く…きゃぁぁぁ!!」

 砲撃後の奇襲に完全には対処しきれず喰らってしまうが、それでも自分から後ろに飛びダメージを軽減する。
 そのまま彼方此方にある石の柱(?)に受身の要領でぶつかり、そのまま転がりながら柱の頂に。


 「…ん…」

 ギリギリで何とか柱の上に立つ。
 エクセリオンに変換したバリアジャケットも既にボロボロだ。

 リボンは彼方此方消し飛び、防護服もいたる所が裂け、破けている。

 対する闇の書の意志は無傷のまま。
 どちらに分が有る戦いかは火を見るよりも明らかだ。


 「覚えたばかりの槍術と、一つ覚えの砲撃……通ると思ってか?」

 闇の書の意志もまた、別の石柱に降り立ち問う。
 なのはの攻撃は唯の一つも有効打にはなって居ない。

 エクセリオンを発動して尚、其の実力には圧倒的な差が有るのだ。

 だが、なのはが其れで諦めるかと言われれば其れは間違いなく『否』だ。
 なのはの瞳の闘士はまだ消えていないのだから。


 「通す!!」

 そもそもにして『通るか通らないか』ではない『通す』のだ。
 出来るかどうかではなくて『やるかやらないか』の二択。

 其れならばなのはは『やる』を選ぶ。
 不屈の心に『諦める』という言葉は無い。


 『“A.C.S”Standby.』


 其れはレイジングハートも同様。
 マスターであるなのはが諦めないのならば、レイジングハートもまた諦めない。
 なのはの思いに応えるべくエクセリオンモード最強の一撃を放つ準備をしたのだ。


 「レイジングハートが力をくれてる!泣いてる子を救ってあげてって!!」

 レイジングハートから6枚の桜色の光の羽根が現れ、なのはの足元の魔法陣から魔力が迸る。
 只のモードチェンジではない、此れは意志の力だ。


 『Srike fream.』


 打突機構『ストライクフレーム』を展開し、カートリッジを3発ロードする。
 迸る魔力は更に強くなり、なのはを取り囲むように逆巻き、桜色の魔力の羽根を周囲に舞わせる。

 それはまるで嵐。
 なのはを中心に吹き荒れる、桜色の魔力の嵐だ。
 しかも其の魔力の嵐は上限を知らないかのように、ドンドン力を増して行く。

 「!?」
 ――馬鹿な…カートリッジを利用しているとは言え、まだこれ程の魔力だと?
    一体、あの小さな身体の何処にこれだけの力が…!

 其の力の増幅に、闇の書の意志も僅かに驚く。



 いや、只驚いただけではない。
 無自覚だろうが、少しだけ――本当に僅か数mmだけ後ずさった。


 気圧されたのだ。
 自分よりも遥かに力が劣るはずの、目の前の白き小さな魔導師の発する迫力に。

 「絶対に退かない!負けない!!諦めない!!」



 ――轟!!!



 力を増した魔力は最早嵐でも生温い度に逆巻き、桜色の光の柱を形作っている。

 エクセリオンンバスターA.C.S、ドライブ!!
 『Excellion Buster Drive ignition.』


 「!!」

 魔力が弾け、さながら弾丸の如き勢いでなのはが突撃する。
 其れがあまりにも速い。


 数メートルあった距離は一瞬でゼロになり、此れでは回避は不能。
 事実、其の速さに闇の書の意志ですら反応しきれずにバリアを張るので精一杯だ。

 其の強固なバリアで防ぐもなのはは止まらない。
 勢いを殺さぬままバリアごと闇の書の意志を突き押して行く。

 それこそ、其の進路上にある石柱すら貫きながら。


 「ぐ…ぬぅぅぅ…!!」

 「いっ……けぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 3つ、4つ、5つ……何個もの石柱を貫き通し、遂に取り分け巨大な石柱に激突したところで漸く進行が止まる。
 それでも闇の書の意志の身体が石柱の1/3程にまで埋まっている状態は凄まじい。

 しかもこの状況になって尚、攻防は終わらない。
 なのはは相変わらず凄まじい勢いで押し込み、反対に闇の書の意志はバリアで押し返そうとする。

 「届いてぇぇ!!」
 『Load Cartridge.』


 更に3発のカートリッジをロードし、光の羽根がその大きさを増す。


 其の姿はまるで天使。
 巨大な羽根の突いた槍を持って厄災を打ち払う白き戦乙女。

 だから止まらない。
 自身が最も得意とする砲撃、そして敬愛する姉から習った槍術。
 其の2つを融合させた、集束砲を除けば最強究極の一撃『エクセリオンバスターA.C.S』


 ――ピキ…


 其の究極の一撃が、遂にバリアを僅かに貫通する。

 「なに…!?」

 僅かでも貫通すれば充分。
 後は勢いのまま深くストライクフレームの先端が押し込まれていく。

 そして其の先端に集束する桜色の魔力。


 「まさか…!!」

 「ブレイク…シュゥゥゥゥゥーーーートッ!!」


 ――ドゴォォォォォン!!


 バリアを貫いた先での極大砲撃。
 炸裂した魔力砲は闇の書の意志を飲み込み、石柱を完全粉砕。


 何とも凄まじい威力だが、無論使ったなのはにも代償はある。
 ゼロ距離砲撃の余波は使用者にも反射ダメージを喰らわせる。
 ましてこれ程の砲撃ならば、其の反射ダメージでも相当だろう。

 「く…」
 ――略ゼロ距離、バリアを貫いてのバスター直撃。此れでダメなら…


 『Master.』

 「!!」

 だが、それだけの一撃を受けながらも瓦礫から現れた闇の書の意志はまるで無傷。
 今の一撃ですら大したダメージではないようだ。

 「もっと、頑張らないとだね。」
 『Yes Master.』

 だからと言って諦める事だけは絶対に無いのだが…








 ――――――








 Side:ルナ


 内部にまで響くこの衝撃…若しかして使ったのか『エクセリオン』を?
 …思い出しても背筋が冷たくなる一撃だぞアレは…
 ナハトの力があったとは言え、よくもまぁ無傷でいられたものだな私は…(汗)


 『Master?』

 「いや、何でもない。なのはが相当頑張っているようだ、此方も最終工程を終わらせて戻るとしよう。」

 『All right.』


 融合機能はたった1度の融合を可能とする部分以外は破棄したし、一時的な魔導消失による侵食防衛も出来た。
 あとはマリー特製のこのワクチンプログラムを…


 ――ギュル…


 「!!」

 ナハト!?…いや、本体ではなく其の一部…侵食体!!
 奥底に潜んでいたのか…!!


 ――ギリ…


 「ガハ…!」

 く…絞め殺して取り込む心算か?
 そうは……行くかぁぁ!!


 ――ブチィィ!!


 『―――――!!』


 ――ガブゥ!!



 「ぐ…引き千切っても反撃してくるか…」

 だが負けるか…


 ――ザクッ、グサッ!!


 く…腕と足を貫かれたか…だがこの程度…!


 『Danger Danger!Escape Master!!』

 「ダメだ!此処で離脱したら二度と管制ユニットへの侵食は取り除けない…救うことは出来ないんだ!」

 だから退けるか!
 此処で退いたら何も変わらない、コイツは自らを消滅させることになってしまう!
 其れは…其れだけは止めたいんだ!!


 『…OK…I believe master.Divine Buster Set up,Let's shoot it.』


 ブライトハート…砲撃と一緒に撃ち込むか。
 だが、左腕は侵食体に絡めとられて使えない…右腕一本で行けるか?


 『No problem.I can be shot.』

 「ならば行くか!」

 ワクチンプログラム付きのこの一撃を受けてみろ…

 ディバイン…バスター!!


 ――ドォォォン!!!


 『!!――!!――!!!!!』


 「消えろ!」
 『Buster Rage.』


 砲撃に手ごたえはあった、侵食体も…吹き飛んだか…だが、流石に身体を貫かれるのはキツイ…
 胸や腹を貫かれなかっただけ良かったと思わないとな…


 『Master?』

 「なに、大丈夫さ此れくらい…」

 本より戦いで傷を負うなど当然の事、其の傷の痛みは気を持って耐えれば良いだけだ。
 それに、侵食を止めての代償が左腕と右足を貫かれただけなら寧ろお釣りがくる。



 さて、此れでこっちで出来る事は全部だ。
 あとは彼女が、はやてが目を覚ますほどの一撃をもって帰還すれば良い。
 ブライトハート、月影にトランザムで増幅した魔力を送ってくれ。


 『All right.』


 …よし、来た。
 魔力を受けて発生した魔力刃、此れでこの空間を切り裂いて帰還する。

 「さて、戻ろう――今の私がいるべき世界へ。…一刀両断!」

 今行くぞ、なのは!








 ――――――








 Side:なのは


 ――ゴスッ、バキィィィ…!!


 「きゃぁぁぁ!!!」

 く…やっぱり強い!
 A.C.Sの一撃がまるでダメージになってない…

 それどころかさっきよりも攻めが激しくなってる…!


 「お前が…お前達が居なければ!!」

 「ガハッ…!」

 ぐ…お、重すぎだよこの一撃…流石にきつい…

 「ゴホ…ゴホッ……はぁ、はぁ…」

 「失せろ!!」

 「!!」

 く…避けなきゃ…!


 ――ガッ!!


 「!!」

 あ、足を掴まれた!?
 拙いの、此れじゃあ…!


 「おぉぉぉ!!」


 ――ドガァァン!!


 「………ッ!!!」

 た、叩きつけ…バリアジャケットがなかったら今のでお陀仏なの…
 でも、離してくれない…く…シュート!!


 「無駄だ!」


 ――グオン…ガシィィ!!


 !!チェーンバインド!!
 まさか…


 ――グワン、グワン…!!


 「きゃぁぁぁ!!!」

 振り回されて………え?…石の柱をバインドの支えにして…此れじゃあ磔…!
 く、この状態じゃ白夜の魔導書の展開も出来ない…!


 ――バチ、ゴゴゴゴゴゴゴゴ…


 「え…?」

 な、なにアレ!?
 とても巨大な…槍?
 闇の書さんの魔法!?


 「『黒槍』…ベルカの戦乱期に使われた対艦用の魔導だ…」

 「『対艦』…」

 て言う事は船を相手にした魔法…!
 そんな、そんなのを放たれたら――幾らなんでも防げない…!


 「終わりだ……眠れ!!」


 来た…!
 く…このバインド…堅い!外せない…これじゃあ…!


 ――シュイィィン…!


 え?…銀色のベルカ魔法陣?…若しかして!!


 「終幕にはまだ早い!!」


 ――ザシュゥゥ!!


 「ルナ!!」

 「待たせたな、なのは。」


 ううん、ギリギリの良いタイミングだったの。
 あんなに大きなのを切り裂いちゃうなんて、やっぱりルナは凄いね♪

 「それに其の刀…」

 「取り込まれた際の夢の世界で友からな…」

 「友達…そっか。」

 「あぁ、そうだ。」


 うん、でも戻ってきたって事は作戦の第2段階は終わったんだよね?
 って言うか、其の腕と足の傷大丈夫なの…?


 「此れくらいは耐えられる。作戦の第2段階も上手く行った…直に書の主も目覚める。」

 「はやてちゃんが!」

 「主の声が聞こえたら……やるぞ?」


 ――キンッ


 「うん!」

 刀を鞘に納める姿も様になってるなぁ…カッコイイ。

 でも此れで準備が整ったの。
 あとははやてちゃんが目を覚ましてくれれば…!!








 ――――――








 Side:はやて


 「…?」

 何やこの揺れと衝撃?地震でも起きてるんか?
 あれ、貴女は…なんで泣いてるん?

 アカンよ、そないに泣いてたら折角の美人さんが台無しやで?


 ――ビキィィィィィィ!!


 「!!な、まさか…夢の空間から出たと言うのか!?」


 夢の空間?

 夢の………

 「!!」

 ちゃう…夢やない!!此れは夢やない!!


 「我が主…!」

 「思い出した!全部思い出した!!」

 何でこんな事になってるか、どうしてこんな事になってもうたか!!
 全部…全部思い出した!!















  To Be Continued…