No Side


 新たな物語の先駆けとして、先ずは時を6月3日の夜にまで巻き戻そう。

 その日、海鳴市外を走るバスに1人の少女が乗っていた。
 いや、乗客はその車椅子の少女1人のみ。

 少女は膝に鎖が巻きついた不可思議な本を乗せバスにゆられている。
 携帯電話が着信を知らせるが其れをとる気配は無い。
 相手は1人しか居ないし内容も大方理解できるからだ。

 程なくバスは少女の家の近くの停留所に止まり、運転手が少女を降ろす。
 少女はお礼を言うと、車椅子を操作し己が自宅へ…


 その途中、信号待ちで携帯電話を確認すると、先程の着信は思ったとおりの人物――己の主治医たる女性だった。
 内容は明日…自分の誕生日であるその日に一緒に食事でもどうかと言うもの。

 その申し出と心遣いは嬉しかったが少女は其れに応えるつもりはない。
 如何に親身になってくれたとて彼女は『他人』なのだ、其処までしてもらう義理は無い。
 寧ろ、自分の事を此処まで気にかけてくれることに申し訳なさすら感じている。

 溜息を一つ吐き、信号が青になったのを確認して渡ろうとしたところで其れは起きた。


 1台のトラックが少女目掛けて突っ込んできたのだ。
 運転手は居眠り。
 少女は車椅子ゆえ即座に回避行動をとることは不可能。

 少女も反射的に目を瞑る………が、衝撃は何時までたっても襲ってこなかった。
 何事かと目を開けた少女は驚愕した。

 車椅子は転がっているが…なんと眼下には海鳴の町並みが。
 それどころか自分が座っているのは三角形の不思議な魔法陣の上…

 そしてそれ以上に、自分が持っていた本が中空に浮いて脈打っている。


 ――ビキ…


 その脈動は巻かれていた鎖に皹を入れ…


 ――バキン!


 砕く

 「!!」

 驚く少女を尻目に本はページを捲り、そのまま閉じる。

 「Anfang.」

 それだけと告げた不可思議な本は少女の前に舞い降りるのだった…










 魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福35
 『新たな始まりの鐘』










 ――11月下旬


 Side:ルナ


 さてと…士郎の許可は貰ったし、一応結界も張っているから道場が壊れたり誰かに気取られる事もないだろう。
 何時ものフェイトのビデオレターと共に贈られてきた私宛の小包。

 中身は夏休みの時に話があった私用のデバイスだった。
 随分時間がかかったが…其の分性能は期待できるだろうな。

 「待機状態はクロスをあしらったペンダント…銀の鎖といい中々細かい。悪くないな。」

 騎士服を展開し、さて如何なるか…
 デバイス名を決める必要があるが、実はもう決まっている。

 「マスター認証『リインフォース・ルナ』。術式、古代ベルカ主体の近代ミッド混合型。
  デバイス個体名称を登録。デバイス名称『ブライトハート』。」

 「Yes Master.」


 何とインテリジェントか。
 そう言えばデバイスの種類までは指定していなかったか…まぁ、此方の方が愛着も湧くか。
 では行くぞ、ブライトハート――セットアップ!


 「OK.Stand by ready.Set up.」


 光を放ち、即座に展開か。
 成程、私が自分で騎士服や戦闘装備を展開できる事を考慮してバリアジャケット機能は削除しその分をデバイスの性能そのものに回したのか。

 「…見事だな。」

 四肢に展開された籠手と具足。
 腕の方は肘まで、足の方は膝までをカバーする武具…まるで昔から使っていたかの様な感覚だ。
 其れに態々動かなくとも分る、此れは完全に私の格闘能力を高める為にあることが。

 「文句の付け様が無い。気に入った。」

 「Thank you.」


 ふふ、頼もしい相棒が出来たな。
 これから宜しく頼むぞブライトハート。


 「All right.My Master.」


 さて、そろそろなのは達が帰ってくるな。
 店の方も夕方の営業が始まるし、戻るか。



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 「「授業参観?」」

 「うん、来週の土曜日。」


 果てさて、なのはが学校から持ってきたプリントを見て桃子と士郎が少し悩んでいるな?
 と言うか、いつもなのはしか学校からのお知らせを持ってこないが…


 「我等は全員同じクラスだからのう…態々同じものを持たせる必要も無かろう。」

 「成程、確かにそうだ。」

 内容が同じならば1枚で事足りるか。
 で、何を悩んでいるんだ桃子、其れに士郎も。
 授業参観くらい行ってくればいい、その間の店番くらいは出来るぞ?


 「そうなんだけど…その日は雑誌の取材が入ってるのよ。」

 「海鳴の特集を組むらしくて、翠屋の事を載せたいらしくてね。矢張り店主がいないというのは…」


 あぁ…流石に其れはそうだな。
 だが、なのは達の授業参観も…


 「じゃあ、お母さんとお父さんの代わりにリインが行けば良いんじゃない?」

 「…は?」

 いや、何を言ってるんだ美由希?
 私が?桃子と士郎の代わりになのは達の授業参観に?…冗談だろう?


 「成程その手があったな…」

 「リインなら安心して任せられるわ♪」


 …ちょっと待て万年新婚夫婦、本気か?
 いや、決して行くのが嫌な訳じゃないが…私で良いのか?


 「ルナなら嬉しいかな♪」

 「なのは?…良いのか?」

 「うん♪」


 そうか。
 なら断る理由は無い、桃子達の代わりに行かせてもらおう。


 「うん、ありがとうルナ♪」

 「お〜〜、クロハネが来たら皆喜ぶぞ〜〜!」

 「『翠屋の戦乙女』は中々に有名ですからね…」


 …そうなのか?
 別に構わないがな。


 「まぁ、我等のクラスにはアリサとすずかも居る。別分緊張もあるまい?」

 「そうだな。取り合えずお前達の恥にならないようにするさ。」

 さて、そうなると当日は何を着ていくか…美由希に見立ててもらうか。


 「良いよ。任せて♪」

 「スマナイな。」



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 「それじゃあ行ってくる。」

 「はい、行ってらっしゃい。気をつけてね。」


 授業参観当日。
 矢張り服の見立ては美由希に任せるのが一番だな。
 黒のタートルネックフリースの上着と白のジーンズ、待機状態のブライトハートを首から下げてればシンプルながら良い感じだ。

 将来はファッションデザイナーとか向いているかもしれないな。


 さて、行くか。
 雑誌の取材も来たみたいだし、今からなら充分間に合う。


 しかし、冬も本番が近いせいか空気が冷たいな。
 日が射しているからそうでもないが、曇っていたりしたら相当に寒いだろうな。


 街路樹の葉も殆ど散ってしまっている。
 うん、今度落ち葉を集めに来よう。
 焚き火での焼き芋は最高に美味しかったな。


 さて、そろそろ付く頃だが……ん?



 ――ヒィィィィィン…



 「!!」

 此れは…封鎖結界!?
 しかもこの術式は古代ベルカ……まさか…!!


 「Master.」


 あぁ、分っている…!
 く…もう此処での活動を始めるのか…!


 「It comes.」

 「うおらぁぁぁぁ!!!」


 !!
 行き成りか…!疾い…だが…!

 「絶て、パンツァーシルト!
 「Panzerschild.」


 ――ガキィィィィン!!


 「な!?ベルカ式の防御障壁だと!?」


 ヴィータか…!
 この様子だと管制融合騎の事は覚えては居ない様だな。

 覚えていたら覚えていたで面倒な事になりそうだが…さて如何するか?


 「くっそ…堅ぇ…!…のヤロウ!!」

 「ふっ…!」

 相変わらず物凄いパワーだな。
 パンツァーシルトを使っても手が多少痺れるか…

 「行き成りな挨拶だな…不躾すぎないか?」

 『私』を覚えていない以上おそらく話し合いでの解決は望めないだろうな。
 海鳴での行動を開始したと言う事は『呪い』が『彼女』を喰らい始めた事に他ならない。
 主の命を救うと決めた騎士達には、恐らく私の言う事など只の戯言に過ぎないだろうな…


 「古代ベルカの魔法…テメェ何モンだ!!」

 「ふぅ…不躾にも程があるな。先ずは自分から名乗るべきじゃないのかベルカの騎士よ?」

 「るっせぇ!」


 うん、矢張り言葉は届きそうに無いな。
 盲目的に闇の書の完成を目指す…か。
 残念だがそうはさせないぞ?

 其れが結果としてあの子に辛い思いをさせる事になる。
 最終的な完成は止められなくとも、私はこの世界の『私』を救う!
 その為にも闇の書に強大な魔力を蒐集させる事だけは…絶対にさせない。

 「ブライトハート…行き成りの実戦だが行けるか?」

 「Don't worry.Clear to go.」


 頼もしい事だ…ならば行くぞブライトハート、セットアップ!


 「Standby, ready.Set up.」


 騎士服を展開して…起動完了。
 うん、矢張り悪くない。行くぞ…!


 「All right.」


 「デバイス…!ち、やっぱし魔導師か!!」

 「違うな。私は魔導師ではなく騎士。お前と同じ古代ベルカの騎士さ…『紅の鉄騎』ヴィータ。」

 「なっ!…テメェどうしてアタシの名前を…!」


 さぁ、如何してだろうな?
 取り合えず何も言わずに通してくれないか?時間が押してるんだが…


 「知るかんなモン!」

 「まぁそうだろうな。」

 期待はしていなかったしな。
 本より話が通じない時点で戦闘は避けられないか。

 だが、私にも予定と言うものが有るのでな…此処は通らせてもらうぞ?


 「そうは行くかよ!!大人しく…ぶっとべぇ!!」

 「悪いがお断りだ…!」
 「Panzerschild.」


 ――ガイィィィン!!



 その一撃の重さ、大した物だが私の防御は崩せはしないぞ?


 「くそ…やっぱ堅ぇ…!けどな…!!」

 「伏兵が居る…か?」

 「!?」


 お前1人とは考え辛いからな。
 そうなると…


 「覇ぁ!!」

 「甘い!」
 「Protection.」


 矢張り将か…!
 相変わらず鋭い攻めだ…。


 「気付いていたのか…!」

 「その純粋なまでの闘気は隠しきれるものじゃないだろう…!」


 私としては当たりがつけやすかったがな。
 将とヴィータ…となると…


 「牙獣走破!」


 当然お前も来るかザフィーラ。
 だが、其れも織り込み済みだ――ブライトハート!


 「Buster Rage.」


 防ぎきれないなら吹き飛ばすまでだ。
 …大分思考がなのはの影響を受けているな。


 ――バガァァァン!!


 「「「!!!」」」

 「まったく、1人に3人がかりと言うのは些か酷すぎないか?」

 「其れを全く苦にしないお前が言っても説得力は無いがな。」


 間合いを離し対峙。
 やれやれ、騎士達の勢ぞろいか。

 そうなると、この結界を展開しているシャマルも何処かにいるな…


 「ヴィータの事を知っているようだが…」

 「その子だけじゃない。烈火の将シグナム、蒼き狼ザフィーラ、風の癒し手シャマル…お前達の事は知っている。
  『闇の書』の戦闘・防衛機能――守護騎士プログラム『ヴォルケンリッター』。」

 本来ならば私もその一部だったのだが…今の私はなのはの騎士だ。


 「我等の名まで…!」

 「一体お前は何者なのだ…?」

 「答える義理は無いな。…尤もそちらが行き成り襲撃してきた理由を言うのならば話は別だが?
  まぁ、言わずとも分る。お前達の目的は私の魔力の蒐集…そうだろう?」

 確認するまでも無いが一応……蒐集させてやる気は無いがな。


 「其処まで知っているか。ならば話は早い、お前の魔力を頂こうか?」

 「だが断る。不躾に襲ってきた輩に魔力をくれてやるほど、私はお人好しではない。」

 お前達が魔力蒐集の目的を話したならば協力もしようが…そうでなければ蒐集させる義理も義務も無い。
 余り時間を掛ける事もできないからな…悪いが少々本気を出させてもらう!

 覇ぁぁぁぁ…!


 ――轟!!


 「なっ!!」
 「馬鹿な…姿が変わっただと!?」
 「姿が変わっただけではない…魔力が恐ろしいほど増大している…!」


 融合騎と守護騎士の力の完全解放『祝福の月光』。
 なのはのネーミングセンスは素晴らしいな。

 ともあれ、鍛錬の末私の意志でこの力を発動できるようになった。
 顔と腕の紋様がなくなったのがその証だ…


 「お前は一体…」

 「『白夜の魔導書』の管制融合騎…白夜を守護する月の騎士さ。」

 本音を言うならばゆっくり話をしたいところだがお前達にその意志は無いだろう?
 私ものんびりしていられないのでな…


 少し手荒いが力ずくで通らせてもらうぞ、騎士達よ!!















  To Be Continued…