No Side


其れは、本来ならば出会う筈のない者達だった。


「妙な空間の渦みてなぁモンに巻き込まれたと思ったら……此処は何処だ?杜宮……じゃあねぇな、こんな場所は見た事がねぇからな。」


場所は海鳴臨海公園。
其処に降り立ったのは、学ランを羽織った大柄な少年――『杜中』の校章バッジを付けているので、中学生なのだろうが、その体格は一般的な中学生とはかけ離れて
居る取っても過言ではないだろう。(推定で、身長180cmは有るだろうから。)


だが、略称が『杜中』になる中学校は、この海鳴には存在して居ない。
少年は知る由もないが、彼は所謂『次元震』に巻き込まれ、己が故郷から、この海鳴に転移してしまったのだ。


「一体此処は何処なんだ……?
 ヤレヤレ、如何にも面倒な事になったみたいだが、先ずは此処が何処なのかを把握するか……さっさと帰らないと、一馬やアキに心配をかけちまうからな。」


普通なら、突然の事に困惑するのだろうが、少年はそんな事は無く、いたって冷静であった。
そして、冷静で居たからこそ気付く事が出来たのだろう――公園の一角にあるブランコに、1人で腰かけている幼い女の子が居ると言う事に。


恐らく、多くの人は此の少女の事を気にもかけないだろうが、少年はそうではなかった。……その少女を放っておく事など出来ず、気が付けば声をかけていたのだ。


「おい、何かあったのか?」

「へ?」

「何だって、そんな悲しそうな、寂しそうな顔をしていやがる?
 少なくとも、お前ぐらいの年の子供がして良い表情じゃねぇ……俺で良ければ、話してみな。――事と次第によっちゃ、手助け出来る事があるかも知れねぇからな。」


大柄で金髪の漢に声をかけられたら、普通は委縮してしまいそうなものだが、少女はそうはならなかった。恐らく、少年の人柄を本能的に感じ取ったのだろう。
だからだろうか?気が付けば、少女は誰にも打ち明けた事のない胸の内を少年に語っていた。

父親が大怪我をして入院し、そのせいで母は家庭を支えるべく忙しく働き、兄は憑りつかれたように稽古に励み、唯一姉は自分の面倒を見てくれたが、其れは学校が
終わってからの事であり、結果として自分は家の中で孤独になってしまった事を…しかし、母たちの事を思うと、その寂しさを打ち明ける事が出来ない事を……


「成程な……相当に重い事態だが、それでもお前が寂しい思いを我慢するのは間違いだろう。
 俺は、物心ついた時には孤児院に居たからアレだが、親が居るお前が、そんな思いを抱くのは絶対にあっちゃいけねぇ事だ……あぁ、良い筈がねぇだろ!!
 ……よし、俺をお前の家に連れていきな……お前の家族を一喝して、その目を覚ましてやるぜ!!」

「はい?」


結構無茶苦茶ではあるが、結果として彼の行動によって、少女の寂しさは救われ、家族の絆が強くなったのだから結果オーライであろう。

そしてその後、この少年は2週間ほど此の少女の家で居候をしたのちに、海鳴で発生した大きな地震と共に発生した小規模次元震に巻き込まれ、杜宮に帰還した。



だが、この時の少年『高幡志緒』と、少女『高町なのは』の邂逅は、間違いなく杜宮と海鳴に大きな影響を与えていたのだった。













リリカルなのは×東亰ザナドゥ  不屈の心と魂の焔 BLAZE1
『From杜宮、To海鳴』











――西暦2015年8月某日:東亰都、杜宮市郊外、神山温泉旅館



Side:志緒


「……んぱい……先輩………志緒先輩!」



ん?……時坂か……如何やら、眠っちまってたみたいだな――悪いな、起こして貰って。



時は8月の半ば。夏休みも残り二週間て所だな。


北都の提案で、X.R.Cのメンバー(教師抜き)で、二泊三日の旅行に来てて、今日はその初日なんだが……どうやら、ラウンジで転寝しちまってたみてぇだ。
時坂達は北都が手配した車で来たんだが、俺は野暮用が有って、杜宮からバイクで飛ばして来たのが多少影響してるのかも知れねぇな。



「いや、別に大した事じゃないんすけど、志緒先輩が居眠りなんて、珍しいっすよね?
 志緒先輩の事を考えると、蕎麦屋での仕事で疲れちまったなんて事は無いと思うんすけど――実は、疲れてたりするんすか?想像出来ないっすけど。」

「はは、まぁ俺だって疲れる時もあるだろうが、今はそうじゃねえよ。
 真夏にしては、中々に心地い陽気だったんでんな、それにつられてついウトウトしちまっただけだ――まぁ、ちょいとばかし懐かしい夢を見ちまったみたいだがな。」

「懐かしい夢って、BLAZEの頃の思い出っすか?」


いや、其れとは違う不思議な思い出だ。
普通なら眉唾モンの話だが、X.R.Cとして異界に関わってきた身としちゃ、アレを只の夢とする事は出来ねぇからな。



「なになに、何の話!」

「私も知りたいです!!」

「ちょ、璃音さん?」

「はしゃぎ過ぎだよ郁島!!」

「あらあら、高幡君の話には、皆興味津々みたいですね♪」



……時坂にだけ聞こえるよう言った心算だったんだが、どんだけの地獄耳だコイツ等は?
だがまぁ、聞かれて困る事でもねぇし、仲間に隠し事ってのも良い気分じゃねぇからな……折角だから、お前達にも聞かせてやるよ、俺の不思議体験てやつをな。



「ラッキー!高幡先輩の不思議体験なんて、早々聞けるもんじゃないからね♪」

「ったく、そんな面白いもんじゃねえぞ玖我山?
 簡単に言うなら、4年前――中坊の時に、次元の渦みてぇなやつに巻き込まれて平行世界を訪れた事があるんだよ俺は。
 時代は2001年で、最初は時を超えて東亰震災の前に戻っちまったのかと思ったが、日時を確認する為に、公園のゴミ箱から拾い上げた新聞が、見た事もない名前
 の新聞だった。更には、当時見た事も聞いた事もない様な事件や、芸能関係の記事が載ってて、オカシイと思ってな。」

「確かに、過去の世界に時間遡行したと言うのならば、聞いた事もない事件やニュースが、新聞に載っているのはオカシイ事ですね?
 14年だと、3~4歳ですけど、それでも大きな事件や事故、新聞で一面を飾るようなニュースと言うモノは、うっすらとではあっても覚えている事が多いモノですから。
 ……つまり、其れらの事から独自に色々調べて見て、その結果其処が此処とは違う、平行世界の日本だと言う答えに辿り着いた訳ですね?」



流石だな柊、正解だ。
場所は海鳴って所でな、中々良い場所だったぜ。
そんで、2週間ほど海鳴で過ごした辺りで地震が有ってな?そん時に、再び次元の渦が発生して飲み込まれて、無事に杜宮に戻って来たって訳だ。



「ってちょっと待ってください!と言う事は、志緒先輩は2週間も杜宮から姿を消していたんですよね!?
 中学生が2週間も行方不明になってたら、幾ら何でもニュースとかになっちゃうんじゃないですか!?」

「あ~~~、そうじゃねえんだ郁島。
 俺は、確かに海鳴で2週間ほど暮らしてたんだが、杜宮に戻って来た時の日時は、次元の渦に巻き込まれた数秒後――つまり、殆ど時間は経ってなかった訳だ。」

「何その都合の良い時差……流石に出来過ぎでしょ。
 って言うか、其の2週間の間、先輩はどうやって暮らしてた訳?まさかとは思うけど、リアルホームレス中学生やってた訳じゃないでしょ?」



当たり前だ四宮。大体にして手持ち金が1万ちょい程度で、雨風凌げる家も無しに2週間生き延びるのは相当に至難の業だからな。
まぁ、ちょっとした縁で『高町』って家の世話になってたぜ。



「平行世界で縁ですか?……もし良ければ、その辺も聞かせてくれますか高幡君?」

「拒否権はねぇんだろ北都?ま、コイツも隠す事じゃねぇから構わねぇが――海鳴に飛ばされて、さて如何するかを考えてた時に、公園で1人でブランコに腰掛けてる
 女の子を見かけてな……妙に気になったんで、声をかけてみたんだよ。幾ら何でも、日が暮れかかった時間帯に、5歳位の子供が1人ってのはオカシイからな。」

「それで、その子は何だったんすか?」



結果だけ言うと、その女の子が世話になった高町家の子でな、そん時は親父さんが大怪我をして入院し、家族がちょっとバラバラになりかけてたって事だったぜ。
母親は開店したばかりの喫茶店で遅くまで働き、兄は自分が父親の代わりを務められるように己を鍛え、姉は昼間は学校で家には居ない……要するに、父親不在の
せいで、家がバタバタし、其の子の事を相手に出来る奴が居なくなっちまってた訳だ。

まぁ、姉は学校から帰ってくると相手をしてくれたらしいが、食事は殆ど1人で摂ってたらしくてな……だが、我儘は言っちゃダメだと、家族は大変なんだからって、寂し
い思いは、家族にひた隠しにしてたらしい。

その考え自体は悪いとは思わねぇが、小学校にも上がってない子供が考えて良い事じゃねぇと思ってな。
仮に、親父さんが戻ってくるまでそうやって過ごして何とかなったとしても、ソイツは如何しようもない歪みをその子の中に生み出しちまうんじゃねえかと思って………



「あ、大体予想できた。
 そんで、志緒先輩が其の子の家に乗り込んで、家族を一喝して、其の子がドンだけ寂しい思いをしてたのかって言う事を伝えて、そんでお母さん達が、其の子がどれ
 程寂しい思いをしてたかを理解して、其の子に謝って家族の絆が強くなって、そんで気付かせてくれたお礼に、行く場所のなかった志緒先輩を居候させてくれた!
 多分、大体そんなとこなんでしょ?」

「色々と端折られちゃ居るが、ソイツで正解だぜ玖我山。」

詳しく言うなら、其の子――高町なのはの母親の高町桃子さんに、来てた制服から、海鳴の人間じゃない事を見破られてな?
『何処から来たの?』って聞かれた時に、うっかり『杜宮』って答えちまっったんだ。

向こうの日本には、杜宮って場所は存在してなくてな……結果として、俺が別の世界の日本から来たって言う事を話した訳だ。

大凡信じて貰えねぇと思ったんだが、有ろう事か桃子さんはアッサリと受け入れてな……『じゃあ、そっちに帰る手段が見つかるまでは家に居ると良いわ。』って言って
あれよあれよと言う間に、俺は高町家の世話になる事が決定だったぜ。



「その人順応性あり過ぎでしょ!?普通はもっと疑うでしょ!?てか、疑おうよ!!」

「祐騎、ソイツに関しちゃ、俺もマッタク持って同じ意見だぜ……」



桃子さんは只者じゃねぇ人だったからな。
だが、そのせいで、俺がなのはの相手をしてやる事が出来たし、喫茶店の方の手伝いなんかも出来たから、まぁ其れなりに役には立てたんだろうな。

尤も、其の2週間の間に、なのはには随分と懐かれちまったんだがな。



もしも叶うなら、もう一度海鳴を訪れてみてぇが、ソイツは流石に無理ってモン―――



――ピィン




「「「「「「「!?」」」」」」」


な、コイツは停止結界?まさか……アイツが現れたってのか!?



「此れは……明日香!」

「えぇ、既にホロスで探ってるわ………よし、異界化の反応を――って、此れは!?」

「如何した柊?」

「反応がゼロになったり大きくなったり……」

「何だと?其れはあの時の!」

「えぇ、廃工場に『迷宮ではない異界』が出現した時と同じ反応よ。
 もしも、あの時と同じ異界が発生したのならば危険性は皆無だけれど、異界の子――レムが使う停止結界が発生したと言うのは、少し奇妙な感じがするわね……」



如何やら妙な事が起きたらしいが、異界が発生したってんなら、先ずは其処に行くのが筋だろう?後は、現場に到着してから考えりゃいいだけのこった。



「確かに、志緒先輩の言う通りだぜ。
 大体にして、異界が発生したってのを、X.R.Cとして見過ごす事は出来ないからな――行こうぜ、皆!!」

「「「「「「おぉっ!!」」」」」」



時坂の奴も、すっかり部長が板についてきやがったな?ったく、随分と男として成長したみてぇじゃねぇか。
マッタク持って頼もしい限りだが、さて、現場では何が待っていやがるってんだ?――鬼が出ようが、大蛇が出ようが、そんなモンは払うだけだがな!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



そんで、辿り着いた現場は、俺のバイクも留めてある旅館の駐車場か……頼むぜ、柊。



「はい。異界ゲート……顕現!」



――ヒィィィィィィィィン………



「此れは……桜色のゲートだって!?」

「白いゲートは前に此処で、虹色のゲートは倉敷の家の前に現れたが、桜色のゲートってのは一体………」




僕も、こんなゲートを見たのは初めてかな。




「この声は……レムか!?」



――キィィィィン……



やぁ、久しぶりだねお兄さん達。
 妙な気配がしたから来てみたんだけど、まさか桜色のゲートなんて言うモノが現れるとは、僕も予想して居なかったよ。



お前か……その口ぶりだと、この停止結界はお前がやったもんじゃねぇんだな?



この停止状態は、このゲートの特性みたいだね。
 まぁ、ゲートからはグリードの気配は感じないし、恐らくは迷宮ではない異界が広がってると思うけど、此れは文字通りのゲートかも知れないよ?
 このゲートの奥からは、強い縁を感じるんだ……その金髪のお兄さんと繋がっている、強い縁をね。



何だと?



まぁ、君達の事だからこのゲートの先には進むのだろう。
 ならば僕は、観測者として見させて貰うよ――縁に導かれた君達が、ゲートの先に待つ世界で、一体何を成すのかをね。

「ったく、相変わらず知った風な口をききやがる。
 だが、観測者だって言うなら、精々正確な観測をしときな――相手が何であろうとも、俺達は退かねぇからな。」

そうだったね……君達進む道が、光の道である事を願ってるよ。



――シュゥゥゥン……



消えやがったか。
まぁ、何れにしてもゲートに突入するしかねえだろ?グリードは居ないって事だが、一応の警戒だけはしてな……と、グリードが居ないなら、コイツも持って行くか。



「あの、志緒先輩?若しかして、そのバイク持ってく心算っすか?」

「何となく持って行った方が良いような気がしてな。
 異界内にグリードが出て来た時でも、コイツに乗ってヴォーパルウェポン振り回しながら進めば、大体何とかなるだろうからな。」

「其れ出来るのって、志緒先輩だけだと思う。」



気にすんな玖我山。――だがまぁ、取り敢えず行くぜ!!



しかし、この『迷宮じゃない異界』を進んだ先が『あの場所』に通じていたなんて事は、マッタク持って予想すらしていなかったぜ………




そして、懐かしい再会が待って居るって言う事もな――








――――――








――西暦2005年、4月後半某日、海鳴市



Side:なのは


ほにゃ?なんだろう、今の感じ?……何とも言えない感覚を感じたんだけど、気のせいかな?



「如何したんのなのは?何か悩み事?――もしも、そうなら遠慮しないで言いなさいよ?相談位なら幾らでも乗ってあげるからね。」



にゃはは、ありがとうアリサちゃん。
だけど、悩みとかそう言う事じゃな無くて、何て言うか不思議な感覚を感じたんだよ――4年前に、志緒さんが居なくなっちゃう前に感じたのに似た感覚をね。



「志緒さんて、アンタが5歳の時に会ったて言う、平行世界から来たって言う人よね?」

「その人が居なくなっちゃったときと同じ感覚がしたの?」



うん、間違いないよ。



アリサちゃんとすずかちゃんは、私の過去を知る、数少ないクラスメイト。
友達になった後で、何かの流れで、志緒さんが居た時の事を話して、アリサちゃんとすずかちゃんも、少なからず志緒さんには興味を覚えてたみたいだね。



「って言う事は、若しかしたら、その志緒さんがまた海鳴に来たとか?」

「その可能性があるかも知れないね♪」



まぁ、確かにね……でも、私の気のせいって言う事もあるかも知れないから、何とも言えないって言うところじゃないかな?そうだったら嬉しいけど――




――ガバッ!!




「「「!!?」」」


「へっへっへ……マッタク持ってチョロいもんだな?
 少しばかり警戒したが、所詮はガキだ……捕まえちまえばこっちのモンだぜ!!おら、大人しくしろ!!」



こ、此れは……此の黒服面の人達は一体――ま、まさか私達を誘拐する心算なの!?
じょ、冗談じゃないの!!だ、誰か―――――



「おぉっと、大声を出すのははしたないぜお嬢ちゃん?」



――グ



「!?」

此れはガーゼ?……しかも此れは、催眠効果のあるクロロホルムを染み込ませたガーゼ……なの?
此れで即刻眠りに落ちるなんて言うのは、漫画やアニメの世界の事だと思ってたけど、実際に喰らうと……此れは……相当にきついものがあるよ……そろそろ限界。



「!?」

「!!!」



アリサちゃんとすずかちゃんも……同じ……みたいだね……そんな、何でこんな事に。――ダメ……もう、これ以上は抗えないの……



「よーし、眠ったぞ!さっさと車に積み込め!!!海鳴埠頭に向かうぞ!!」

「「「「押忍!!」」」」




何も出来ずに誘拐されちゃうなんて、流石に最悪極まりなかったけど――だけど、此の誘拐事件の果てに、あの人と再会するなんて事は、夢にも思ってなかったよ。







私の寂しさを救ってくれた、私の初恋の人――『高幡志緒』さんと、再会するなんて言う事はね。














 To Be Continued…