Side:シェラザード


アネラスと共に情報部の残党達を追っていたのだけれど、其処では予想外の収穫があったわね――まさか、結社の執行者と出会う事になるとは思っても居なかったけれど。
残党を倒した私とアネラスの前に現れたのは、『執行者№0』で、自らを『道化師』と称するカンパネルラ……見た目はエステルよりも年下と言う感じだったけれど、其の内に秘められた残酷性は結社の人間であると言う事を如実に表していたわ。

完全に意識を刈り取ったと思った情報部の残党が立ち上がったと思ったら、カンパネルラは其れを躊躇なく爆散させたのだからね……

あまりの非道さに、私も激高して鞭を振るったのだけど、カンパネルラは其れを躱して何処かに転移してしまったわ……去り際に『お茶会』が如何のと言っていたけれど、其れが何であるのかは分からない……もどかしいわね。



「酷い……こんな事って……」

「アネラス……確かにショックでしょうね――でも、此れ良く出来た機械人形よ。アインスに言わせるとロボットだったかしら?」

「へ?機械人形?」



コイツ等を倒した時に、人と戦った気がしなかった訳だわ――だって相手は人じゃなかったんですものね。
カンパネルラに爆破された際に飛び散った血に見える液体は、赤く着色された機械人形の関節の潤滑オイルって事か……だとしても、えげつない事は間違いないけれど。



「いや~~、可愛い顔してえげつない事する子やねぇ?二人とも無事やった?怪我とかしてへんか?」



其処に聞こえて来た特徴的な喋り方……声がした方に視線を向けてみると、特徴的な緑の髪と白い服。貴方はあの時の。



「そうそう、七耀協会巡回神父のケビン・グラハムです。良かったわぁ、覚えていてくれとって。
 えっと……アネラス・エルフィールドさんに、シェラザード・ハーヴェイさん、やね?実は……物は相談なんやけど――」



七耀協会の巡回神父のケビン・グラハム……そんな人が如何して此処に?そして、何故私とアネラスの名前を知っているのかしら?
あの時は名乗った記憶がないのだけれどね?……彼は、若しかして只の巡回神父ではないと言う事?……正直、怪しいけれど、此の相談とやらに乗るのは悪くないかも知れないわね。









夜天宿した太陽の娘 軌跡99
『応援要請の依頼人、其れは王国軍!?』









Side:アインス


飛空艇に乗る事三十分弱で、ツァイスからグランセルへと到着した。――その間で、ジンから痩せ狼の事を聞かせて貰ったのだが、今の痩せ狼の拳は、あらゆる命を刈り取る『殺人拳』と来たか。何とも物騒なモノだ。
それに対し、ジンが目指しているのは『活人拳』……活かす拳と殺す拳、その道が交わる事はないと言っても過言ではないだろうね。

それにしても、此の街で一体何が起きると言うのだ?悪人が居るような感じには見えないし、分かり易い悪意も感じない――寧ろ、クーデター事件があった時よりもずっと穏やかな空気すら感じるな……或は、嵐の前の静けさと言うモノなのかも知れないが。



「アインスお姉ちゃん、そんなに気負わなくても大丈夫じゃないかなぁ……」

「そうだぜアインス?まぁ、ヴァルターと遣り合ったんだ、お前さんが慎重になるのも分からなくはないが、気負い過ぎると身が持たんぞ。」

「貴女と互角に戦える相手が居ると言うのは、確かに脅威ではありますが……」

「だが……」

「そうとも!ジンさん達の言う通りだよアインス君!
 思い出してもくれたまえ。武術大会で優勝したにも関わらず、ご褒美の晩餐会に一人だけ出席させて貰えない……そんな悲劇が当然のようにまかり通っていたあの頃に比ぶれば、今のこの王都の様子はなんと平和な事か!!」

「あぁ……そう言えばそんな事もあったな、半年くらい前に。」

「二か月前だろう!?半年前って何で!?」



何故だろうな?何となくそれ位の時が経っている気がしてしまっただけだ。
そして、其処から流れでオリビエがジンを『あの夜の分まで、グイーッと一杯行こうじゃないか!』と言って、ジンも『王都の居酒屋は酒も肴も中々』と乗り気だったので、そうはさせまいと阻止した……と言うか真昼間から居酒屋に行こうとするな!未成年が二人も居ると言う事を忘れるなよ二人とも。
ランチタイムで腹ごなしをするのならば、リベール通信社の近くに有るカフェの方が良い。あそこのカレーは絶品だからね。



「そのカレーとは、もしやレヴィが『おー様のカレーとおなじくらいおいしかった~!』と言っていたカレーでしょうか?」

「そのカレーだ。」

「ふふ、何だか良いなぁこう言うの。」

「ティータ、如何した?」

「その……昔、エレボニア帝国はリベール王国と戦争をした事もあったし、カルバート共和国ともあんまり仲良しな訳じゃないって聞いてたんだけど、帝国のオリビエさん、共和国のジンさんと、王国のお姉ちゃんを見てたらね……そー言うの、嘘みたいだって。」


……ティータ、お前は本当に良い子だな。まぁ、私は厳密に言うと私はリベールの人間ではないのだけれどね。



《何言ってんのよアインス?アタシと同一存在なんだから、アインスもリベールの人間でしょ?》

《出身ではなく、今住んでいる土地の人間と言う事か……確かに、お前と一緒になって十年も経っているからな?私もリベールの人間と言っても良いのかも知れないな。》

十年か……もう其れ程の月日が経っていたのだな。
でだ、ティータの言った事を聞いたジンは『まぁ、勝手知ったる相手と喧嘩したいとは思わんよなぁ……逆に言えば、国家と言う間柄では、相手を知る事すら困難極まりないと言う事か……』と言っていたが、正にその通りだな。
古代ベルカで起きた戦争も、国家間では相手の事を知る事が出来ない事が原因だったからな……国家間で相手を知る事が出来てたら、クラウスとオリヴィエの悲劇もまた回避出来たのかも知れないな。



「あら、アインスさん?」

「この声は……クローゼ!」

「やっぱり!王都にいらして……って、どうしたんですそのお顔?」



顔?……そう言えば、絆創膏を張ったままだったな――こんな物は大した事ではない!傷自体は、魔力で自然治癒力を強化しておいたからとっくに治っているからな。
其れよりもクローゼこそどうしたんだ?キリカから連絡を受けて、私達を迎えに来てくれた、とかか?だとしたら私としては嬉しい事この上ないのだけどね。



「え……えぇ……と言いたい所なのですが、本当は空港に個人的な目的があって……ほら、丁度良いタイミングで。」



私達を迎えに来てくれた訳ではなかったのか……其れは少しばかり残念だが、空港から現れたのは中央工房の整備長のグスタフと、整備スタッフと、大型荷物を運ぶためのカートに積まれた大きな部品――何かしらのエンジンだと思うのだが此れは?



「コイツは『XG-02』!アルセイユ用新型エンジンのサンプルだ!」



アルセイユの新型エンジンのサンプルだったか!
其れを聞いたティータは興奮気味に、『かねてから研究していた新型エンジンが完成したんです』と言う事を教えてくれた……ティータは、新型エンジンの虜になっていたがな。

グスタフは、このエンジンをアルセイユに取り付けに来たのだろうが……発着場には、アルセイユの姿は見えなかったが?



「アルセイユは、今レイストン要塞に行ってるんです。新型エンジンの換装工事は、あちらで行うとの事でしたので。」

「ツァイスでの積み込み作業が無事に終わったんでな。その足で、こっちへ調印式用の贈答分を届けに来たって訳だ。」

「そうでしたか……本当にお疲れ様です。いつもありがとうございます。」



成程、そう言う事か。
で、クローゼがグスタフに礼を言って、グスタフも『そんな風に言われたら疲れも吹っ飛んじまうぜ』言ってたんだが、『お嬢さん何処の子だい?アルセイユについて随分と詳しいようだが……』と言われて、クローゼは自らの身分を明かし『陛下に代わってお礼を言わせて頂こうと思って……』と言ったが、クローゼの正体にはグスタフも驚いていたな。
まぁ、学生服来た普通の女の子が、行き成りお姫様に変身したら驚くのもやむなしだろう?――其れよりも、良かったらクローゼも一緒にギルドに行かないか?結社の調査班に、何か依頼があったみたいだからね。



「其れが賢明でしょう……時に、アレは如何しましょう?」

「オイコラ、其処の三人もさっさとギルドに行くぞーー!」

新型エンジンを見たティータは、すっかりその虜になっているみたいなので、服の襟を掴んで宙吊りにして強制的にギルドに移動だ……何となく、母ネコの気持ちが分かった気がするよ。
……三人と言ったが、ジンはアルセイユについてあれこれ考えているオリビエと、新型エンジンに魅入っていたティータをどうしたモノかと迷っていただけだったみたいだな?だって、行くと言ったらオリビエを片腕で持ち上げて連れて来たからね。



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さて、王都のギルドにやって来た訳だが、久しぶりだなエルナン?元気そうで安心したよ。



「えぇ、おかげさまで……其れよりも、よく来てくれました。ルーアンとツァイスでは、本当にお疲れ様でしたね。」

「そう言って貰えるのは有り難いが、ルーアンでもツァイスでも、結局結社の人間は取り逃がしてしまった……正直、あまり成果が出ているとは言い難いと思うのだが……」

「いいえ、そんな事はありませんよ。《結社》が現実に動いている事が分かっただけでも儲けモノなんです。
 推測が確信に変化した事で、私達は新たな協力関係を結ぶ事が出来そうなんですから。」

「新たな協力関係……?誰とだ?」

「実はね、あなた方にお願いする応援要請なのですが、依頼をして来たのは、あの王国軍なんです。」

「なんだと!?」

「おやおや、遊撃士を敵視しているあの将軍殿の居る王国軍がギルドに依頼とは、一体どんな風の吹き回しなんだい?」



……そう言えば、ハーケン門での一件の時、オリビエはその場に居たんだったっけか――リシャールは遊撃士との協力関係を結ぶ事に前向きだったみたいだが、モルガンの影響か王国軍の内部には『遊撃士アレルギー』とも言うべきモノがあったのだがな……一体如何言う心境の変化だ?



《……父さんが王国軍に復帰した事で、将軍が遊撃士を敵視する理由がなくなった、とか?》

《多分違うだろうが、マッタク有り得ないと言い切れない所が悲しいな。》

だとしたら、モルガンはドレだけ個人的な理由で遊撃士との協力を拒んでいたのかと言う話になるのだがな。
エルナンが言うには、具体的な内容は軍の担当者が説明に来てくれるらしいが、約束の時間まではまだあるらしい……が、あの軍が私達に依頼をしてくると言うのは余程の事態と言う事だろう?
向こうの到着を待ってるなんて悠長な事をしていて良いのか?



「でしたら……此方から伺いに行ってみますか?」

「そんな事をしても良いのか?」

「待つ暇があるのならば打って出ろ、そう言う事でしょうか。」



シュテル、其れはなんか違う気がする。
エルナンによれば、『今の王国軍は、持ち場を離れる余裕などないだろうから、寧ろそうするべきかも知れない』との事……ならば、行かないと言う手はないだろう?
実際に現場で見聞きする事で、今の状況をより把握し易いと思うしな。――エルナン、スマナイが先方に連絡を入れておいてくれるか?



「了解しましたアインスさん……連絡は入れておきますので、早速向かってみてください。依頼人の待つ、エルベ離宮へ!!」



エルベ離宮……クーデター事件の際に人質になっていたクローゼ達が監禁されて居た場所か――そんな場所が、依頼人である王国軍の人間と会う場所になるとは、奇妙な巡り合わせもあったモノだな。

しかし、軍がギルドに依頼をするとは、一体何があったのか……蛇の調査で、今度は一体どんな毒蛇や大蛇が出るのやら――気を引き締めて行かないとだな……!!










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