Side:アインス


ツァイス地方で起きた地震事件の黒幕は、ウロボロスの執行者だったか……自らを『痩せ狼』と名乗ったヴァルターは可成り危険な相手だと言えるだろう――コイツは真正のバトルジャンキーと言った所だな。
しかも、只のバトルジャンキーではなく、人の壊し方を知っているみたいだから、普通ならば警戒すべき所なのだが……生憎と、私はそう簡単に壊れる様な柔な身体ではない!

「セリャァァ!!」

「コイツは……中々良い蹴りを繰り出すじゃねぇか、アインスさんよ!!」

「お前も中々に頑丈じゃないか痩せ狼?私の蹴りは、鉄パイプ位ならば軽く圧し折るのだけれどね……お前の身体は、鉄よりも堅いみたいだな!」

「鉄だと?俺の身体は、鉄よりも更に堅い鋼鉄だぜ!」



鋼鉄か……確かに其れ位に頑丈である事は間違いないだろうが、身体が頑丈なだけでなく攻撃力の方も凄まじいな?地面を殴って砕いただけでなく、砕けた岩が飛んでくると言うのは、相当な力が加えられた証拠だからね。
そして、私と戦いながらもアガットとシュテルの方も確りと動きを見ているとは……豪胆な様に見えて、冷静さも併せ持っているか――如何やら中々に厄介な奴みたいだ。
豪胆なだけのバトルジャンキーならば幾らでも倒し様はあったのだが、冷静さも併せ持っているとなるとそう簡単に倒す事は出来んからな……此処は矢張り、此方は三人だと言う事を生かして行く方が良いか。

「アガット!」

「なんでぇアインス!って、なんか身体の底から力が沸き上がって来るぜ!?」

「お前に身体強化の魔法を使った。フォルテやクロックアップよりも効果は高い……今のお前のパワーでその重剣を振るえば、少なくともルーアンの跳ね橋位は破壊出来るかも知れん。」

「なんつー強化だよ……って突っ込んでられる相手じゃねぇか。
 お前と互角に戦えるなんざ、結社と言えど同じ人間……なんて甘い事は言ってられねぇからな――全力で行くしかねぇか!!」

「全力全壊ですよ、アガット・クロスナー。全力で全てを壊しましょう。」



だから、言ってる事が物騒だぞシュテル。
だが、確かにコイツは全てを壊す心算で掛からねばならないかも知れないな?……ロランスよりは実力的に劣るとは言え、其れでもアガットよりも遥かに上なのは確実だからな。
正遊撃士の中でもトップクラスの実力を持つアガットを遥かに上回ると言う時点で相当なモノだが……結社の執行者とやらは、全員が其れだけの力を持っていると言うのか?だとしたら、相当にヤバい事だ。
そして、そんな結社に所属していたヨシュアもまた、同レベルの戦闘力を秘めていた可能性がある訳か――其れを考えると、この先の結社との戦いにはヨシュアの力は必要不可欠になるのかも知れん。
其れも踏まえて、早急にヨシュアを見付けねばだが……今は、目の前の痩せ狼だな。









夜天宿した太陽の娘 軌跡97
『Gesegneter Wind vs. Skinny Wolf』









戦いは、私と痩せ狼が近距離での格闘戦を行うのがメインになっているな――互いに攻撃と防御を同時に行って、決定打を与えない展開となっている訳だ……まるでドラゴンボールの高速近距離戦だな。
打撃では略互角か……ならば!!



――ガッ!!



「ウオ!」

「殴ってダメなら、投げてみる!!」

痩せ狼の拳を躱すと同時に、カウンターの大外刈りを叩き込んで地面に叩き付ける!如何に頑丈とは言っても、背中から硬い岩の地面に力任せに叩きつけられたら流石に効くだろう?
だが、此れで終わりではないぞ!



「ウオォォォリャァァァ!!」

「ディザスターヒート!」



ダウンした痩せ狼に、アガットが大きくジャンプしてからの落下速度と全体重が乗った斬り下ろしを、シュテルが三連続の直射砲を叩き込む!シュテルの三連直射砲は見事に着弾し、アガットの一撃も決まったように見えるが。



「ククク、やるじゃねぇか?尤も、こうでなきゃ面白くねぇがな!」

「まさかの無傷とはな……貴様、本当に人間か?」

痩せ狼は無傷だった。
シュテルの三連直射砲で服は少し破けたみたいだが、痩せ狼そのものはそれ程ダメージを受けたようには見えん……それどころか、アガットの重剣を片手で止めているからな。
だが、此れは止められるか?



――ギュン!



「喰らえ!」

魔力で作った、回転カッター。『気円斬』ならぬ『魔円斬』と言った所かな此れは。『そんな下らない技で』とは言ってくれるなよ?この技は、相手を確実に戦闘不能に出来る技なのだからね。
当たれば、身体が両断されるぞ!



「馬鹿かテメェ?自分でどんな技かをばらして如何する?そんなもん、避けるに決まってんだろが。」

「あぁ、避けるよな?だが、其れが私の狙いだ!」

お前の『実験』とやらで、活性化した七耀脈を利用させて貰う!
この活性化した七耀脈にピンポイントで力を加えてやれば……Barbed wire!Go Barn!!(コイツは効くぞ!燃え尽きろ!!)



――バッシャーン!!



煮え滾った超高温の間欠泉攻撃の出来上がり!リアルパワーゲイザーって奴だ。
そして、ピンポイントで力を加えてやる場所は、アナライズで解析済みだからな……だから、其処に一気に力を加えてやれば、間欠泉の連続攻撃が完成だ。
如何にお前が頑丈であろうとも、人の皮膚の耐熱性を強化する事は出来ん――故に、この超高温の間欠泉攻撃を喰らったら、如何に執行者と言えども致命傷になり兼ねんと言う訳だ。



「やってくれるじゃねぇか……だが、こんな小細工で俺を倒せると思ってんのか?」

「思ってはいないよ。お前ならばこの攻撃も捌いてしまうだろうからね……だが、間欠泉攻撃も見せ技に過ぎん!本命は此方だ!!」

間欠泉攻撃を躱した痩せ狼に、カウンター気味のネックブリーカードロップを叩き込んでダウンを奪い、更にキーロックを極める!キーロックは単純なサブミッションだが、其れだけにガッチリ極まれば外す事は出来ん!その腕、使い物にならなくしてやる!



「本命はこいつか……コイツは効いたぜ?俺じゃなかったら、腕が折れてるだろうな。」

「!!!」

コイツ、私にキーロックを極められた状態で立ち上がっただけでなく、キーロックを極めさせたままの腕を持ち上げた、だと?一体、ドレだけの怪力なんだ痩せ狼は……!
そして、其れだけでなく腕を振って私を投げ飛ばすとはな……だが、私とてそう簡単にはやられん!!空中で姿勢を立て直して、急降下の飛び蹴りを繰り出し、着地と同時に連続のジャンピングアッパーカット、『昇龍裂破』を炸裂させる。
だが、痩せ狼は其れを的確にガードし、カウンターの拳打を放って来たが、私もそのカウンターに踵落としを合わせて相殺!……矢張り、強いな。
だからこそ、勿体ないな。
それ程の力を持ちながら、何故お前は武の道を、武道の正道を極めずに邪道に走った?貴様の拳からは死の臭いしかしない。――『相手を倒す事』に拘った果てに待っているのは戦争であり、その先にあるのは人類其の物を滅ぼしかねない最終兵器の開発だ。
『相手を殺す』……武道家の拳と言うのは、命を奪う事しか出来ない安っぽいモノなのか?そうではないと思うのだがな、私は。



「テメェの言う事が分からない訳じゃねぇが……戦いの究極ってのは、結局のところ命の遣り取りだろうが!生きるか死ぬか、その瀬戸際のスリルがあればこそ、人生ってのは面白いってもんだ。」

「……如何やら、私とお前は絶対に相容れない存在であるみたいだな。」

まぁ、分かっていた事ではあるけれどね。
しかしまぁ如何したモノかな?打撃も、投げも、関節技も決定打にはならないと来ているからな……そもそも私と互角に遣り合えてる時点で相当にオカシイ事ではあるんだが。



「相容れねぇか……良いじゃねえか、相容れねぇからこそ本気で殺り合えるって事もあるからよぉ。
 てか、テメェはその棒術具は使わねぇ心算か?使わねぇならその辺に捨てとけや。棒術具持ってる腕は攻撃に使えねぇんだからよ。」

「あ。」

「……気付いてなかったのか?」

「戦いに夢中でマッタク。」

「まるで眼鏡を掛けた状態で眼鏡を探しているかの如き所業ですね。」

「確りしてくれよアインス……」

「……返す言葉も無いな。」

まさか、棒術具を握ったままだったと言う事を忘れて戦いに没頭していたとは……其れだけ痩せ狼が手強かったと言う証でもあるが、そうだな棒術も交えれば更に私の戦闘スタイルは広まるか――気付かせてくれた事に礼を言うよ痩せ狼。
だが、此処からの私は今までよりも少し強いぞ?

「疾!!」

「ほう?体術よりもキレがいいじゃねぇか!」

「エステルは、棒術の使い手なのでな!」

人格交代をすれば私の姿になるとは言え、この身体はエステルのモノである事は変わらない――そして、エステルの身体が得意とするのは無手の格闘ではなく棒術だからな?宿主の身体に染み付いた棒術の方が、私も力を発揮出来るんだよ!
喰らえ、滅殺剛旋風輪!!



――ドガァァァァァァァン!!



「ちぃ……!」



エステルの旋風輪を、更に強化した旋風輪だが、痩せ狼はギリギリで避けたか……だが、此れを避けるのは想定内!本命は、こっちだ!!

「此れは如何だ!!」

全力でジャンプし、洞窟の天井を蹴って加速度を付けた、力任せの兜割りを痩せ狼の脳天に炸裂させる!……タイマンだったら避けられたかもしれないが、シュテルとアガットが巧く牽制してくれたお陰で当てる事が出来たな。
並の人間だった頭蓋骨陥没で即死、アガットクラスの遊撃士でも脳震盪確実なのだが……コイツは倒れないか。



「コイツは……コイツは効いたぜオラァ!!」

「ガハッ!?」

倒れない所か、首相撲から膝蹴りを叩き込んで、更に背中に肘を落としてくるとは!……く、今のは相当に効いたな?並の人間だったら、膝蹴りで内臓破裂、背中へのエルボーで脊髄損傷だろうな。私が頑丈で良かったが、痩せ狼との戦いの最中に、嫌な予感がしたのでエステルを深層心理に引っ込めておいて正解だったな。
深層心理に引っ込んでしまえば、五感の共有すらなくなるから、エステルがこの痛みを感じる事はないからね。



「中々に楽しめたが、此れで終いって事はねぇよなぁ?」

「其れは当然……だ!」

ダウン状態から、カポエラキックで痩せ狼の態勢を崩し、片足を蹴り上げて浮かせてから其れを取ってのドラゴンスクリュー!からの、アトミックボムズアウェイ(ジャンピングスタンピング)をぶちかましたが、痩せ狼は其れをギリギリで躱して、逆にカウンターの蹴りで私を蹴り飛ばす……何とも重い蹴りだな。
だが、私には魔法があると言う事を忘れるなよ?

「此れなら如何だ?」

「!!」



活性化した七耀脈を風属性の魔法で刺激してやれば、熱湯の渦潮の出来上がりだからね――尤も、其れすらも殴って壊してしまうと言うのには驚くほか無いのだがな?……如何やら、結社の執行者は私達が思っている以上の化け物なのかも知れん。



「この野郎、アインスと戦いながら、俺達の攻撃にも対処しやがるからな……クソッタレが。」

「まぁ、私達の攻撃など精々アインスの補助にしかならない程度でしかありませんが……其れでも数の差が絶対的な有利にならないと言うのには驚き桃の木山椒の木です。」

「おいガキ、驚いてんなら驚いた顔で言いやがれ。」

「はぁ……そう言われても、生来無表情なモノで、無理に表情を作ると顔の筋肉が攣ってしまって中々元に戻らなくなってしまうのです。如何しましょうか此れ?」

「難儀な奴が居たもんだぜ。」

「其れには同意するよ痩せ狼。」

「だがまぁ、予想以上に楽しめたぜアインスさんよぉ?レーヴェの奴が『剣聖』以外にも手応えのありそうな獲物が居るって言ってたのは、誇張じゃなかったって訳だ。
 テメェとは、トコトンまで殺り合いたくなったぜ!」



そうか……だが、残念ながらタイムオーバーだ。



――ブオォォォォン!!



「!!!」



私と痩せ狼の間に放たれた、一発の気功波……ティータをエルモ村まで送り届けるだけじゃなく、援軍まで連れて来るとは予想以上の働きをしてくれたみたいだなオリビエ?



「彼がエルモ村に来ていたのは、僕にとっては嬉しい誤算だったよ。」

「よう、久しぶりだなアインス!」



そして、その援軍は途轍もなく頼りになる奴だったか。
あぁ、本当に久しぶりだな。カルバートのA級遊撃士……

















ジン!!










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