Side:アインス


ラッセル宅に泊まり、今は夢の中なのだが……



「アインス、その姿って……」

「あぁ、闇の書の意思として暴走していた時のモノだね……私にとっては呪いの姿であったが、此の世界では少しばかりバイオレンスなお洒落と思う事にしたよ。
 この姿の私も、中々にイケて居るだろう?」

「其れは、まぁ確かに。」



寧ろ、闇属性としては、此の上ない姿であると言えるかもしれないな。
時にエステル、今回の地震について、お前は如何考えている?ツァイス地方の、其れもある一部分だけで発生する地震……如何考えても自然現象で済ませられる事ではないと思うのだがな?



「其れは、アタシも思ったわ。
 そもそもにして、リベールはそんなに地震が多い国じゃないし、其れこそ年単位で地震が起きない事の方が普通だもん……なのに、ツァイス地方だけで群発するなんてオカシイわよ。
 ラッセル博士が言うように、七耀脈に何らかの異常が起きているんだと思うんだけど……だとしたら、何でそんな事になっちゃったのかしら?」

「さてな……だが、此れが只の自然現象でないとしたら、其れはとても恐ろしい真実が隠されている事になってしまうので、私としては特異な自然現象であって欲しいという希望的観測を持っているのだが――」

「ぶっちゃけ、その可能性は低い訳ね?」

「現状ではまだ何とも言えないが、恐らくはな。」

そして、何故か昨日見たサングラスの男の事が頭を過ぎる……確かに中々に強烈な見た目だったが、其れだけならば此処まで頭にこびり付くと言う事はない筈だ。
と言うか、あの男と今回の地震がマッタク全然無関係とは思えん……間違いなく、アイツとは何処かで事を構える事になる気がしてならない――此の予感は、出来れば外れて欲しいモノなのだけどね。

その後は、エステルと夢の中で組み手を行った。
夢の中での組手であっても、確りと現実のエステルにその経験がフィードバックされると言うのは、私とエステルだけに許された、一種の反則技みたいなモノだよなぁ……夢での経験が現実にも反映されるってのはチートだからな?
……まぁ、此れも一種の睡眠学習みたいなモノか。









夜天宿した太陽の娘 軌跡96
『地震事件の真犯人は……!!』









翌日、朝食を摂る間もなく、ラッセル博士から『地震が起きた』との連絡が入ったので、シュテル、ティータと共に中央工房にやって来たのだが……其処は、まるで戦場の如き慌ただしさだった。
マードック工房長や他の職員がツァイス地方の各地に設置した七耀脈測定器の数値を確認し、ラッセル博士が其れを元に、何処が揺れたのかを検索していると言った所か。
ギルドに居たアガットとオリビエは私達よりも先に来ていたみたいだが、まぁギルドの方が中央工房に近いから当然と言えば当然か。



「アガット、地震は!?」

「あぁ、結構揺れたらしいぞ。」

「どの辺りが揺れたのかは……」


「座標《12・73・378・02》。地震発生地は……レイストン要塞で確定です!!」


今回の地震発生地はレイストン要塞か!
其れを聞いたエステルは、『父さん達は大丈夫なの!?』と心配したが、ラッセル博士は『心配無用じゃ、寧ろこれで良い!全てはあやつの読み通りじゃな。』と言ってくれた……成程な、そう言う事か。



《えっと、如何言う事?》

《レイストン要塞にはカシウスが居る、つまりそう言う事だ。
 カシウスは、あの通り常人には理解出来ないレベルで何手も先を読んでいる奴だから、今回の地震が只の地震ではない事を誰よりも早く見抜いていた筈だ。
 そして、今回の地震が特異な自然現象でないと仮定した場合、この地震は別の要因で起きていると言う事になる――そこで、その要因の立場で考えれば、此れまでの地震は予行演習で、其の予行演習が終わった後のターゲットは何処が効果的か……恐らくだが、カシウスは次に地震が起きるとしたらレイストン要塞だと言う事を確信していたのではないか?
 次にレイストン要塞が狙われると分かっていればある程度の対策を講じる事は出来るから、レイストン要塞での被害は軽微なモノである筈だ。》

《成程、父さんならやっちゃいそうね……て、ちょっと待って!》
「其れってまさか、地震は自然に起きてるんじゃなくて、誰かが故意に起こしてる……って事?」

「そんな、七耀脈を操る人が居るだなんて……」



そう、この地震は自然現象ではなく、誰かが故意に起こしているモノだと言う事になる……予想通り、私の希望的観測が叶う事はなかったか。
この事実には、エステルだけでなくティータも驚いていたが、ラッセル博士は『地震の前に発生した七耀脈の流れは、自然のそれとは考えられらん。そして、カシウスの読み通り、その歪みは要塞地下に集結した。』と言った上で、この地震は人為的なモノだと断定してくれた。
人為的に地震を起こすとか、此れはもう『地震兵器』と言った所だな……此れが、実用化されたらトンデモない事になってしまうだろうね。
そしてカシウスが危惧しているのは、其れを操る人物の存在か。

「ラッセル博士、他に何か分かる事はないか?」

「そうですね、其の地震兵器がある場所などが分かるとありがたいです。その場所が分かれば、地震兵器其の物を破壊出来ますので。」

「シュテル、あんまり物騒な事を言いなさんな……其れと、もうすぐ解析も終わる。
 三箇所の観測地点にある七耀脈の流れを逆算する形で歪みの発生源を割り出すと……出た!座標……《165・88・228・35》此れは……!」



七耀脈の歪みの発生源が分かったみたいだが、その座標が何処なのかティータに尋ねてみると、その場所はエルモ村だと言う事が判明した。
まさか、あののどかな温泉村にそんな危険なモノが存在しているとはな……だが、地震兵器の在り処が分かったのならば、エルモ村に行かないと言う選択肢はあり得ないな。



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と言う訳でエルモ村に到着。
マオ婆さんは、ティータとエステルの事を歓迎してくれたが、私の事には驚いていたな……エステルのもう一つの人格である私が、こうして半実体化して存在している上に、その容姿はエステルとは全く異なるモノなのだからね。此の反応にも、もう慣れたさ。
取り敢えず、エルモ村の住人達は無事だった様だが、エルモ村の代名詞である温泉はそうでもないみたいだな?



――ゴボ!ゴボ!!



温泉の湯が、地獄谷の湯も真っ青なレベルで沸騰しているからね……此れは、相当な冷水で薄めない限りは温泉として使用する事は出来ないじゃないか?こんな煮え滾った湯では、温まるどころか入った瞬間に火傷してKOされてしまうからね。
で、お前は何をしようとしているんだシュテル?



「これだけ煮え滾った湯ならば、短時間で良い感じの半熟卵が出来るのではないかと……此れだけの熱湯ならば、白身は確り固まっていて黄身はトロトロの半熟と言う、最高の茹で卵が出来る筈です。
 そして出来上がった茹で卵を各種ラーメンスープに漬け込む事で、ラーメンのトッピングとしてこの上ない味玉が出来ると確信しています。」

「其れは確かに美味しそうだけど、今は其れを作ってる場合じゃないのよね。」

「……其れは残念です。」



其れはまたの機会にな。
マオ婆さんが言うには、エルモに来て五十年になるが初めての事であるらしい……ポンプの故障ではないらしいとの事だが――此れは、間違いなく例の地震が関係していると見て良いだろう。
差し詰め、地震兵器による七耀脈の活性化が、源泉の温度を上昇させたとか、その辺りかな?



「源泉……ねぇ、お婆ちゃん、その源泉って何処にあるの!?」



そして、エステルは『源泉の温度が上昇しているかも知れない』と言うのを聞いて、即座にマオ婆さんに源泉の場所を聞いていたか――私が言ったのはあくまでも一つの可能性に過ぎないが、その可能性を無視せずに調べようとするのはグッドだな。



そんな訳で、マオ婆さんから教えて貰った源泉のある洞窟にやって来たのだが……まさかこんな場所があったとはな。
此処ならば人目にも付かないし、隠れて何かをやるには持って来いの場所と言う訳か……ん?なんだ此れは?地面に光る紋様が現れている?此れは一体……



「此れは、導力場?……若しかして此れが七耀脈なのかな?でも、地下の七耀脈が地上に出て来てるって事は……お姉ちゃん、アレ!!」



此れが七耀脈か……だが、其れ以上に私達を驚かせたのは、ティータが指差した場所にあった装置だ――人気のない洞窟内部に設置された謎の装置か……此れが今回使われた地震兵器と見て間違いないだろうね。

早速ティータが解析を行ったのだが、その結果として地震を起こしてるのは、この装置の結晶回路だけじゃなく、他のエネルギーブースターが存在しているとの事だったのだが、そのブースターは直ぐに見つかった。
装置の天辺には『ゴスペル』があったのだからね。



「如何して此処にゴスペルが!……じゃない!此処にゴスペルがあるって事は……!」

「間違いなく、そう言う事だろうな。」




「……ククク、随分遅かったじゃねぇか。歓迎させて貰うぜ遊撃士共。」



私達の前に現れたのは、昨日見たサングラスの男……矢張り今回の地震とは無関係ではなかったか――そして、装置に組み込まれたゴスペルの存在を考えるに、貴様『身喰らう蛇』の人間だな。



「御明察。執行者№Ⅷ『痩せ狼』ヴァルター、そんな風に呼ばれているぜ。」

「お前が痩せ狼だと?マッタク持って似合っていないな……痩せ狼と名乗るのならば、先ずは骨と皮だけになって来い、なんだその分厚い胸筋は。
 全身を筋肉で武装して痩せ狼だと?本当に飢えて瘦せ細っている餓狼に謝れ。」

「どうもすみませんでした。」



まさか、乗ってくれた事に驚きだ。
だが、其れは其れとして、この装置を使って地震を起こしたのも貴様だと言う事か?……そうであるのならば、何故こんな事をした?下手をしたら多くの人が死んでいたかも知れないんだぞ?



「生憎と、俺はそう言う実験をしろって言われただけだから細かい事は知らねぇが、最後の一発ぐらいは建物がぶっ壊れる程のド派手なやつをぶちかましてやりたかったんだが、早々巧く行くモノじゃないらしい。」

「そ、そんなぁ……お家が壊れたりしたら、住んでる人が危ないじゃないですか……」

「だから良いんだよ。」



ティータの言う事も鼻で笑って、『だから良いんだよ』と来たか。
其処からは、唾棄すべき事の羅列だった……『脳ミソと腸をぶちまけて死ぬ奴も居るだろう』と言うのを聞いた時には、怒りゲージがマックスブッチギリだと思ったからね。

だが、貴様は喧嘩を売る相手を間違えたなヴァルター?エステルとアガットのタッグでもお前を倒す事は難しいだろうが、其処に私とシュテルが加わればその限りではないぞ?特に私は、相手からの干渉を一切受けない極悪チート仕様だからな。



「相手からの一切の干渉を受けねぇ……そうか銀髪、テメェが剣帝の言ってたアインスで、ブルブランが言っていやがった一切の攻撃が効かねぇって奴か。
 ククク……待ってたぜぇ、テメェと遣り合うのをよ?剣帝と互角に戦える奴なんざ早々居ねぇからな?」

「剣帝?」

「そんな人いたっけ?」

「おぉっと、テメェ等には『ロランス・ベルガー』っつった方が分かり易いか?」

「「「「!!!」」」」


剣帝とは何者かと思ったが、ロランスの事か……つまり、奴もまた結社の一員と言う事か。
しかしヴァルターよ、私と遊びたいと言うのならば付き合ってやるのもやぶさかではないが……ブルブランから私の特性は聞いて居るだろう?私にはお前の攻撃は一切通じないのだがな?



「なら、試してみるか?」

「!!」

行き成りか!
だが、何だ?此の攻撃は何か嫌な予感がする……普段ならば無視してノーガードのカウンターを叩き込む所なのだが、此処はガードしておいた方が良さそうな気がする!!



――ガキィ!!



そして、此の予感は当たりだったか……ガードした私の腕にヴァルターの拳が突き刺さっているからな……この拳、鍛えている人間であっても骨に異常が出かねない威力だな……!



「く……いったぁ……!」



更に、私がガードをしたとは言え腕にダメージを負った事で、そのダメージの痛みがエステルにフィードバックしてしまったな……カシウスが予想した通り、本来ならば触れる事が出来ない私に触れる事が出来るようになる何かを開発したと言う事か。

「やってくれるじゃないかヴァルター……触れる事の出来ない筈の私に攻撃を通すとはな。」

「ブルブランの話を聞いて、テメェは相当にヤベェと判断した教授が作らせたんだよ……テメェみたいな存在を物理的にブッ飛ばせるようになる代物をな。
 詳しいカラクリは企業秘密だが、俺が身に付けてる物にはそいつが搭載されてるって訳だ。
 しかしまぁ、テメェが攻撃を受けるとそっちの小娘が痛みを感じるのか?って事は何か、テメェは倒せずともそっちの小娘の意識を吹っ飛ばす事は出来るって事だよなぁ?」

「誰が痛い程度で意識吹っ飛ばすもんですか!自慢じゃないけど、アタシ子供の頃、虫歯になった乳歯を自分で引っこ抜いてるんだからね!」

「いやぁ、感覚を共有してるから分かるが、アレは痛かった。」

其れ以外にも、子供の頃から色んな『痛い経験』をしてるから、エステルが痛みで気絶すると言う事はないだろうが、だからと言ってこの状態でヴァルターと戦うのもまた上策とは言えないか。
ならばやる事は一つだな……エステル、代わってくれ。



《アインス?でも……》

《コイツが本気を出せば、お前とアガットが一緒になって挑んでも瞬殺されるぞ?……其れに、私と遊びたいと言っているんだ――其れに応えてやるのも一興だ。》

《……確かに、こいつはロランス少尉とは別の意味でヤバそうだからね……無理はしないで、アンタに任せるわアインス。》



――シュン!



「あん?アインスの奴が消えて、小娘がアインスになっただと?」

「ロランスから聞いてなかったか?私達は二重人格で、人格交代をする事が出来ると言う事を――尤も、ロランスと戦った時には、髪が銀色になるだけで、容姿其の物はエステルのモノだったけどね。
 だが、今は違う。人格交代をすれば、容姿も本来の私のモノになり、力も100%使う事が出来る……つまり、今の私はロランスと戦った時よりも遥かに強いぞ?」

「そうかい……ソイツは楽しみじゃねぇか!!」



ふ、お前もバトルジャンキーの類だったか。
良いだろう、トコトン付き合ってやるさ――ティータ、私達が仕掛けたらマオ婆さんの所まで逃げろ……オリビエ、ティータを頼むぞ。



「アインスお姉ちゃん……」

「此れはまた何とも重要な任務だね……任せてくれたまえアインス君、彼女は僕が責任を持ってエルモ村までエスコートしようじゃないか。」



頼んだぞ。……オリビエは、普段はちゃらけてフザケタ奴だが、いざと言う時にはちゃんと仕事をしてくれるから、其れなりに信頼は出来るんだよな。



「ガキと優男は逃げたか……だが、もう一人のガキは逃げねぇのか?」

「ガキではなくシュテルです。確かに私は貴方から見れば子供なのでしょうが、この身は王を守護する殲滅者……殲滅の力、その身で味わってみますか?命の保証は出来ませんが。」

「ククク……言うじゃねぇかガキが!
 俺はな、潤いのある人生を送る為には適度な刺激が必要だと思うのさ!いつ自分が死ぬとも分からないギリギリとスリルのサスペンス!
 考えただけでゾクゾクしてくるだろ?」

「人生は刺激がある方が楽しいと言うのには同意するが、その刺激が全く無関係な第三者に不利益を被ると言うのならば真っ平御免だ。刺激が欲しいのならば他人に迷惑が掛からない範囲で勝手にやってくれ。
 いつ自分が死ぬとも分からないギリギリとスリルのサスペンスを味わいたいのならば、口に手持ち花火を十本ほど咥えて火を点けろ。若しくは、頭からハチミツを被ってミストヴァルトに行け。危険な魔獣が速攻で集まって来て、死の体感をする事が出来るぞ。」

「その程度の刺激なんぞ生温いんだよ……俺が求めてるのは、戦いの中でのスリルとサスペンスだからよ……味見させて貰うぜアインス!テメェと言うスパイスをな!!」



ふ、そう来たか。
ならば存分に味わうが良い……最初に言っておくが、私は只のスパイスではなく、世界三大唐辛子である『キャロライナ・リーパー』、『コモドドラゴンペッパー』、『トリニダード・モルガ・スコーピオン』の粉末に、花椒の粉末と粉コショーを混ぜた『滅辛』だからな?余りの辛さに気絶するなよ?

そしてその身をもって知れ、太陽の娘に宿った夜天の祝福の力が如何程であるのかと言う事をな――!










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