Side:アインス


測定装置は無事に設置出来たので、後はラッセル博士に報告するだけなのだが……だ~いぶグロッキーになっているみたいだなオリビエ?少しではなく体力が足りないんじゃないか?



「僕はもう体力が……構わず先に行ってくれたまえ。」

「なさけない事言わないのよ!
 其れに……オリビエには何だかんだで助けて貰ってるから、少しは感謝してるのよ?……見捨てて行くなんて出来る訳ないじゃない。」

「エステル君……」

「だから、ちゃっちゃと立ってすたすた歩く!中央工房はもうすぐよ!頑張って、さぁ行くわよ!!」

「君はまた、別の意味でキッツイ人だな……」

「貴方の体力が無いだけでしょう、オリビエ。子供の姿である私よりも体力がないと言うのは問題ではないでしょうか?」

「お前は姿は子供だが、その本質は嘗ての私と同じだろうに……」

だが、本当にのんびりはしていられないな?七耀脈の歪みを見つけるために、次の地震が起こる前に準備を終わらせねばならん……その為にご老体のラッセル博士や、まだ幼いティータまでもが一生懸命頑張っているのだからね。



「アインスの言う通りよオリビエ。大の大人がこんな所でへばってて如何するの?」

「お姉……ちゃん?」



と、背後から聞き覚えのある声が聞こえて来たので振り向くと、其処にはティータとアガットの姿が。……そう言えば、アガットも今回の件に協力しているんだったな。
ティータはエステルに抱き付き、『心配したんだよ』と言ってしがみつき、エステルも『ゴメンね、もう大丈夫だからね。』と言ってティータの事を抱きしめてやっていた……感動の再会シーンなんだけど、此処街中の道路のど真ん中なのだが……?
そう思っていたら、アガットが『道のど真ん中で何をグズグズしてやがる。』と言って諫めてくれた……まぁ、其れだけでなく『さっさとやる事を終わらせて、感動の再会はその後でゆっくりやりゃいいだろ』とも言ってくれたがな。
相変わらずぶっきら棒だが、こう言う不器用な優しさと言うのも、コイツの良い所なのだよね。



「……何見てんだアインス?」

「いや、相変わらず頼りになる兄貴分だなと。」

「何言ってんだお前?つか、そっちのガキは何モンだ?」

「申し遅れました。王に仕えるマテリアルが一体、知を司るマテリアルのシュテル・ザ・デストラクターと申します。
 レヴィから話は聞いていますよ、アガット・クロスナー。同じ炎属性同士、仲良くしましょう。」

「レヴィって、あの青ガキの仲間かお前?……アイツとは違って、随分と冷静な奴だが……アイツの仲間なら、どうせ只のガキじゃねぇんだろうな。」



あぁ、只の子供ではないな。
しかもシュテルのベースとなっているのは、あの高町なのはだからなぁ……恐らくだが、直射砲の威力だけに限って言えば、私を遥かに上回るだろうね。
それはさて置き、何時また次の地震が来るか分からないから、早急に準備を終わらせてしまうとするか。









夜天宿した太陽の娘 軌跡95
『ツァイスでの再会。決意新たに!』









その後、ティータ達と一緒にラッセル博士への報告を行い、今はラッセル宅で夕飯の真最中……なのだが、勿論私は半実体化していても食事は出来ないので、食卓に居るだけだ。まぁ、五感はエステルと共有しているから料理の味は分かるのだけどね。
と言うか、オリビエが普通にワインを飲んでいるのだが良いのだろうか?……尤も、オリビエの場合制止した所で、多分止まらずに飲むのだろうけどな……ボースで逮捕されたのがまるで堪えてないな。

さて、ラッセル博士によると、中央工房のカペルに、七耀脈の乱れが生じたら解析を始めるようにプログラムしたとの事で、カペルには中央工房の職員が二十四時間体制でついているから、動きがあれば直ぐに連絡が来るとの事だった……後は、何処で地震が起きるかだな。



「そう言えば、エステル、アインス。ツァイスの方を手伝ってくれんのは助かるけどよ……ルーアン支部は放っといて大丈夫なのか?」

「あ、そっか。一応ギルドには詳しく報告してあるんだけど……実はね、ルーアンに結社の執行者が現れたのよ。」

「なんと!?」

「マジか……!」

「あぁ、大マジだ。其れでな、ラッセル博士にも伝えておきたい事があるんだ。」

と言う訳で、ルーアンでの一件を、ザックリと要点だけを纏めてサクッと伝えた。
ラッセル博士は、ゴスペルの新型の登場に驚いていたが、立体映像を遠くの座標に飛ばして、更に動かすと言うのにどんなカラクリがあるのかまでは流石に分からないらしい……稀代の天才でも分からないとは、そんなモノを使ってる結社とは一体何者なのかだな。



「なぁ、ちぃとおかしくねぇか?」

「……確かに、レヴィから聞いた話を考えるとオカシイですね?」

「あぁ、言われてみれば確かにオカシイな。」

「オカシイって……何が?」


忘れたのかエステル?ゴスペルにはオーブメントを停止させる動きがあり、嘗て解析しようとしたらツァイス全体のオーブメントが停止して大変な事になっただろう?
だが、ならば如何して投影装置の導力は停止しなかったんだ?もっと言うのであれば、クローゼの戦術オーブメント、オリビエの魔導銃、旧校舎の地下から現れた人馬兵が動いたのもオカシイだろう?



「言われてみれば確かに!ゴスペルが近くに有ったんだから、導力停止現象が起こる筈よね!?
 ……新型ゴスペルは、旧型とは別物なのかしら?」

「……いいや、寧ろ旧型の定義の方が間違ってるのかも知れん。」



旧式の定義の方が間違ってるとな?
ラッセル博士は現在進行形で旧型のゴスペルを解析しているとの事だが、解析を進めた結果『ゴスペル其の物には、導力停止現象を起こす機能が有るとは思えなくなってきた』らしい。
あの日、結果的にツァイス市の全てのオーブメントが停止する結果になったのだが、幾ら内部の結晶回路を解析しても、そんな事を起こせる仕組みにはなっていないらしい……何かしらの『導力場の歪み』を発生させるのは間違いないようだが。


「「導力場の歪みって何?」」

「右に同じく。説明を求めます。」

「導力場って言うのはね、導力エネルギーの周囲に形成される干渉フィールドの事だよ。
 大抵のオーブメントは、一定の法則で綺麗な力線が描けるんだけど、此のゴスペルが生み出す導力場は、既存の法則から外れた歪んだモノらしくて……」

「じゃが、導力場はあくまでも一定の空間における導力エネルギーの在り方に過ぎん。
 其処に方向性が与えられない限り、導力停止の様な具体的な作用が起きる筈もない……だとしたら、ゴスペルは一体どうやってあの現象を起こす事が出来たのか……」



《ねぇ、アインス……話の内容、理解出来る?》

《正直な所サッパリ分からないな。私達だけでなく、知のマテリアルである所のシュテルですら頭の上に『?』が大量発生しているからね。》

導力の彼是の素人である私達は置いてけぼりだな。
その後、ラッセル博士は、ティータに『ルーアンでの事件でのケースを応用してみれば』と言われたのを切っ掛けに、何かを思い付いたらしく中央工房へと行ってしまった……あの老体の何処に其れだけのバイタリティがあるのかは謎だが、集中できる何かがあるからこそ、老いても尚元気で居られるのかも知れないな。
まぁ、『連絡があるまで、お前達は此処でのんびりしておって良いぞ』との事だったので、お言葉に甘えるとしようかエステル?



「そうね、そうしましょうか?ねぇ、ティータ♡」

「うん!今日は家に泊まって言ってね、お姉ちゃん!」



と言う事で、本日はティータと一緒にお泊り決定だ――エルモ村だったら、一緒に温泉に入れたのだが、今回は一緒のシャワーとお風呂で我慢だがな。
で、オリビエもお泊りする心算だったらしく、ティータも歓迎ムードだったのだが……不穏な発言を連発した事で、アガットからのアイアンクローを喰らってギルドに強制送還となった。
人一人を、アイアンクローで引き摺って行く様をリアルに見る事になるとは思わなかったが、この場合其れが出来るアガットの握力に驚くべきか、其れともその握力で頭を掴まれて意識を保っているオリビエに驚くべきか、正直迷う所ではあるな。



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その後、ティータとシュテルと一緒に風呂に入り、そして今はパジャマに着替えてベッドルームになのだが、シュテルが魔力でパジャマを構成したのは良いとして、パジャマの柄がネコだったのは突っ込み不要だな。ネコに懐かれるだけでなく、お前自身もネコが好きだったんだな。



「ネコは良いです。見ていて飽きません。
 そして、マッタク血縁関係がなくとも面倒を見ると言うのが素晴らしいかと……エルトリアで、稼働中ではありませんが、水を張った洗濯機に落っこちて酷い目に遭った黒ネコが、同じ状態の洗濯機に近付こうとしていた子ネコを『其れは危険だ!危ないよ!』とばかりに止めていたのは実に微笑ましい光景でした。」

「……ネットに上げたらバズリそうだな。」

「其れと雄ネコが雌ネコに言い寄っていたのですが、雌ネコの方は全く雄ネコの方に興味がなく、『悪いけど私貴方には興味がないの』と言うかの如く無視を決め込んでいたのには、雄ネコには失礼ですが少しおかしかったです。」

「ネコの場合、嫌よ嫌よは大嫌いか。」

「ですが矢張り極めつけは、面倒見のいい雌ネコが、子ネコを虐めた大人ネコに怒った事でしょうか?アレは宛ら『良い大人が子供相手になに本気になってんの!』と言った感じでしたね。出産経験もないのに肝っ玉母さんになっているのには驚き増した。因みにそのネコには『桃子』と名付けました。」

「名前の時点で最強感が拭えないな。」

私とシュテルは、ネコ談義に花が咲いたが、エステルの方はティータと此れまで会った事を話してるみたいだ……が、話を聞いてるとレイストン要塞から逃げてる期間中、アガットに色々と世話になって、すっかりアガットに懐いてしまったみたいだな?
いや、ともすればその感情は恋愛感情に発展している可能性もある……本当の意味での恋心が芽生えるのは、丁度ティータ位の歳の頃だからな。
ティータ十一歳、アガット二十四歳……その差は十三歳、まぁ有りだな。芸能人とかなら普通にある年の差だし、我が主の世界に於いて、世界的なクラシックの指揮者であるトスカニーニなんぞ、七十超えてから十八の娘と結婚してるし。
其処に真の愛があれば、年齢と性別はあまり問題ではないのかも知れん。



「良かったわねティータ。
 って言いたい所だけど、この娘ってば何時の間に、アガットさん♡アガットさん♡……な娘になっちゃったんだ?」

「ふぇ?」

「……もうエステルお姉ちゃんはお役御免なのかしら?」

「言うなエステル……私なんて、お前と違って抱き付いてすら貰えなかったんだぞ?いや、此の状態の私に抱き付く事は出来ないけどな?」

「では、巻き付いてみましょうか?」

「……シュテルよ、巻き付いて何をする心算だお前は?」

「最大で5ターンの間、ダメージを与え続けようかなと。」

「ポケモンのバインド技じゃないからな?」

「ゲームではそれほど強くないのに、カードではめっちゃ強いほのおのうずに納得出来ません。」



ポケカの技はゲームとは違うからな……個人的には、ポケカのピカチュウの技だったスパークが、本家ピカチュウが覚えられないのが納得出来ん。
それはさて置き、少しばかり拗ねて見せた私とエステルにティータは少し焦った様子で『アガットさんも勿論だけど、私はエステルお姉ちゃんとアインスお姉ちゃんの事がほんっとーに大好きなんだよ?』と言って来た……うん、分かっているよ。
だが、其処から『ヨシュアお兄ちゃんも、お爺ちゃんやマオお婆ちゃんにマードック工房長……』と言うティータが可愛すぎた。何だ此の可愛い生き物は?



「分かった分かった、ごめんねティータ!」

「あぁ、もう可愛いな!」

なので、エステルと共に前と後ろからダブルハグだ……私の方から触れるのは自由と言うのは、矢張りクソチートな能力だな。
『一緒のベットで寝ちゃう?』との事だったので、二つのベッドをくっつけて、此れなら4人で一緒のベッドで寝る事が出来るな……其れでは、就寝前に戸締り確認だ。



「は~い!」



良い子だなティータは。
で、戸締りを確認しに行ったティータに呼ばれて、ツァイスの夜景を拝む事になったのだが……夜でも、此れだけの明るさが有るとは、此れが『百万ドルの夜景』と言うモノか。
だが、導力停止現象が起きたあの時は、街中真っ暗になってしまったのだったな。



「そうそう。その闇の中を、ヨシュアと一緒に走り回ったりしたっけ……あの時は、こんな事になるなんて思ってもみなかったな……」

「そうだな……まさか、こんな事になるだなんて思っていなかった。」

五年前にヨシュアがブライト家に来て、ミストヴァルトの一件を経てお前に心を開いて、本当の意味で家族になってからは、この関係が何方かの命が尽きるその時まで続くモノだと思っていたからね。
エステルの思いとは違うが、私もヨシュアの事は心配だ……可愛い弟分だからなアイツは。

だが、エステルの不安を感じ取ったのか、ティータはエステルの手に、自身の小さな手を重ねて来た……そして、『昨日までは自分も不安だった』と言う事を告白してくれた。
ヨシュアが居なくなったと聞いて、更にエステルと私まで外国の何処かに行ったと聞いて、相当に不安になってしまったらしい。――挙げ句の果てには『此のまま会えなかったから如何しよう』とまで思っていたのか。



「ティータ……」

「私達が思っていた以上に、お前を不安にさせてしまったみたいだな……すまなかった。」

「でもね!今日、アガットさんがお姉ちゃん達は外国から戻って来て、ルーアンで頑張ってるって教えてくれたの!
 だからね、私初めてもうすぐお姉ちゃん達に会えるって思ったんだ……そしたら、本当にお姉ちゃん達に会えた!!
 会えなかったらどうしようなんて思ってた時は、ドレだけ待っても会えなかったのに、絶対会えるって、そう思えたら本当に会えたの!!」

「!!!」



……ククク……あはははは!……其れは反則だぞティータ?
純真無垢なお前のその発言は説得力があり過ぎる……あぁ、そうだ。信じると言う事は何よりも大きな力になるからな。



「……だからねお姉ちゃん、不安になってちゃダメなんだよ!私は、ヨシュアお兄ちゃんにも絶対会えるって思ってる!
 大丈夫だよお姉ちゃん!効果は、実証済みなんだから!」

「論より証拠。科学的データが存在しない思いの力であっても、実証例が一例でもあれば、その説得力はハンパないモノですからね。」



理のマテリアルとしては如何かと思う発言だが、しかし間違ってはいないな。科学的データがなくとも、実証例が一件でもあれば仮説でも説得力が物凄い事になるからね。



「そっか……そうだよね。
 アタシもそう思う。きっと……絶対……アタシはヨシュアに会える!ううん、会ってみせるわ絶対に!!」

「ふ、その意気だエステル。」

そして、この日は四人で一緒に繋げたベッドでお休みなさいだ――で、例によってエステルとは夢でも一緒だったのだが、何だって今回は暴走状態の姿だったのか分からん。
……若しかして、この先に起こる何かを示唆していたのだろうか?……いや、まさかな……








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Side:???


ったく、教授の言ってた実験も次で最後か……最後位は、家がぶっ壊れる位の派手な地震を起こしてぇモンだが……実験程度で其れを期待するってのは無理ってもんか。
だが、此れだけの事をしてやったんだから、確実に遊撃士の連中は動いてやがる筈だ……となれば、剣帝が言ってた奴も動くかも知れねぇって訳だぜ……剣帝の野郎と互角に渡り合ったってのは聞き捨てならねぇ事だ。
テメェと遣り合う事を、心底楽しみにしてるぜ?なぁ、アインスさんよぉ!!










 To Be Continuity 





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